特許第5720718号(P5720718)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社大林組の特許一覧

<>
  • 特許5720718-制振建物 図000002
  • 特許5720718-制振建物 図000003
  • 特許5720718-制振建物 図000004
  • 特許5720718-制振建物 図000005
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5720718
(24)【登録日】2015年4月3日
(45)【発行日】2015年5月20日
(54)【発明の名称】制振建物
(51)【国際特許分類】
   E04H 9/02 20060101AFI20150430BHJP
   F16F 15/02 20060101ALI20150430BHJP
【FI】
   E04H9/02 301
   E04H9/02 331B
   F16F15/02 A
   F16F15/02 C
【請求項の数】1
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-87599(P2013-87599)
(22)【出願日】2013年4月18日
(62)【分割の表示】特願2008-283371(P2008-283371)の分割
【原出願日】2008年11月4日
(65)【公開番号】特開2013-147930(P2013-147930A)
(43)【公開日】2013年8月1日
【審査請求日】2013年4月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】一色国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】田岡 登
(72)【発明者】
【氏名】西村 勝尚
(72)【発明者】
【氏名】蔭山 満
【審査官】 湊 和也
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−155838(JP,A)
【文献】 特開平06−173498(JP,A)
【文献】 特開平11−190144(JP,A)
【文献】 特開2006−161341(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04H 9/02
F16F 15/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高剛性建物と、前記高剛性建物に比べて剛性が低い低剛性建物と、これら高剛性建物及び低剛性建物を結ぶように設けられた複数の油圧ダンパーである制振ダンパーと、を備えた制振建物であって、
前記高剛性建物と前記低剛性建物との間に鉛直方向に延びる空間が形成され、
前記複数の制振ダンパーは、前記空間に前記高剛性建物の外周面より水平方向に延びるように設けられ、前記高剛性建物及び低剛性建物の間に生じた水平方向の何れの方向の相対変位に対しても、当該相対変位に応じて水平方向に変形することにより振動エネルギーを吸収し、
前記低剛性建物の下のみに免震層を備え、前記高剛性建物の下に免震層を備えず、
前記免震層は、積層ゴムを備えることを特徴とする制振建物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、剛性の異なる建物の間を制振ダンパーにより連結してなる制振建物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、剛性の高い内部建物を取り囲むように剛性の低い外部建物を構築し、これら建物の間を複数層において制振ダンパーにより連結してなる制振構造(以下、連棟制振という)が用いられている。連棟制振によれば、地震時に内部建物及び外部建物が異なる変形モードで振動するため、制振ダンパーにより、効率よく振動エネルギーを吸収することができる。
【0003】
また、例えば、特許文献1には、連棟制振を用いた建物において、内部建物及び外部建物の下部に免震層を設けることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006―45933号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、連棟制振を用いた制振建物における制振ダンパーを設計する方法として、定点理論が広く用いられている。図4(A)は、免震層を備えていない場合の各建物における周波数伝達関数を示すグラフであり、(B)は、各建物に免震層を設けた場合の周波数伝達関数を示すグラフである。定点理論とは、制振ダンパーの減衰係数にかかわらず、各建物の周波数伝達関数はグラフ上の定点(図4(A)における点P、点Q)を必ず通過するという理論である。この定点は、これら建物を連結する制振ダンパーの減衰力を0とした(すなわち、互いに独立に振動可能とした)場合、及び無限大とした(すなわち、2つの構造物を一体とした)場合における各建物の周波数伝達関数の交点にあたる。定点理論を用いて制振ダンパーを設計する場合には、周波数伝達関数のピークとこの定点とが一致するように制振ダンパーの減衰定数を調整する。
【0006】
ここで、特許文献1に記載された連棟制振と、免震構造とを組み合わせた建物の周波数伝達関数を考えると、各建物の下部に免震層を設けることにより、各建物の1次モードに対する有効質量が増加するため、図4(B)に示すように高剛性、低剛性の建物の周波数伝達関数のピークは、夫々、免震構造を設けていない場合に比べて低周波数側へと移動することとなる。しかしながら、同図に示すように、高剛性、低剛性の建物の周波数伝達関数が夫々低周波数側へ移動しても、定点P,Qの伝達率は略一定のままである。このため、結果として、図4(B)に示すように、周波数伝達関数のピーク値を抑えることができず、従来に比べて、顕著な制振効果が得られているとはいえない。
本発明は、上記の問題に鑑みなされたものであり、その目的は、連棟制振を用いた制振建物において、より高い制振効果が得られるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の制振建物は、高剛性建物と、前記高剛性建物に比べて剛性が低い低剛性建物と、これら高剛性建物及び低剛性建物を結ぶように設けられた複数の油圧ダンパーである制振ダンパーと、を備えた制振建物であって、前記高剛性建物と前記低剛性建物との間に鉛直方向に延びる空間が形成され、前記複数の制振ダンパーは、前記空間に前記高剛性建物の外周面より水平方向に延びるように設けられ、前記高剛性建物及び低剛性建物の間に生じた水平方向の何れの方向の相対変位に対しても、当該相対変位に応じて水平方向に変形することにより振動エネルギーを吸収し、前記低剛性建物の下のみに免震層を備え、前記高剛性建物の下に免震層を備えず、前記免震層は、積層ゴムを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、低剛性建物の下部に免震層を設けることにより、低剛性建物の有効質量が増加するため、周波数伝達関数においてピークとなる周波数が低周波数側へ変化する。これにより、定点理論における定点が低周波数側へ移動するとともに、この定点における伝達率が低下することとなる。このため、定点において周波数伝達関数のピークが位置するように制振ダンパーの減衰定数を決定することで、外部建物の伝達率を低減することができ、より効率の良い制振効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】(A)は、本実施形態の制振建物の構成を示す鉛直断面図であり、(B)は、(A)における制振ダンパーが取り付けられた高さにおける水平断面図である。
図2】(A)は、外部建物に免震層が設けられていない場合の内部建物及び外部建物の周波数伝達関数の一例を示すグラフであり、(B)は、本実施形態の制振建物における内部建物及び外部建物の周波数伝達関数の一例を示すグラフである。
図3】(A)は低剛性の建物を平面視においてコの字状に構成した場合、(B)は低剛性の建物を平面視において、くの字状に構成した場合の制振建物を示す。
図4】(A)は、免震層を備えていない連棟制振建物における周波数伝達関数を示すグラフであり、(B)は、剛性の高い構造体及び剛性の低い構造体ともに免震層を設けた場合の周波数伝達関数を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の制振構造物の一実施形態を図面を参照しながら説明する。
図1(A)は、本実施形態の制振建物10の構成を示す鉛直断面図であり、(B)は、(A)における制振ダンパー40が取り付けられた高さにおける水平断面図である。同図(A)に示すように、本実施形態の制振建物10は、内部に鉛直方向に延びるボイド空間22を有する外部建物20と、外部建物20のボイド空間22内に構築された内部建物30と、複数の高さ位置において外部建物20と、内部建物30とを連結する制振ダンパー40と、を備える。
【0012】
外部建物20は、水平断面矩形に構築された超高層建物であり、その内部に上下方向に延びるボイド空間22を有する。外部建物20としては、例えば、鉄骨造、鉄筋コンクリート造、鉄骨鉄筋コンクリート造などを採用することができる。外部建物20は、最下部に、例えば、積層ゴムやすべり支承からなる免震層21を備える。これにより、外部建物20の有効質量が免震層21を設けていない場合に比べて大きくなる。
【0013】
内部建物30は、水平断面矩形に構築された超高層建物であり、外部建物20と同様に、例えば、鉄骨造、鉄筋コンクリート造、鉄骨鉄筋コンクリート造などを採用することができる。また、内部建物30は、外部建物20に比べて高い剛性を有するように構築されている。このように内部建物30は剛性が高いことにより固有周期が短くなり、外部建物20は剛性が低いことにより固有周期が長くなる。このため、制振建物10に地震などによる外力が作用した場合には、内部建物30と外部建物20とは異なる振動モードで振動することとなる。
【0014】
制振ダンパー40としては、油圧ダンパー、鋼材ダンパー、摩擦ダンパーなどを用いることができ、内部建物30及び外部建物20の相対変形に合わせて、変形することにより振動エネルギーを吸収する。なお、図1(B)に示す例では、制振ダンパー40は、内部建物30の各外周面より略垂直に四方に延び、外部建物20のボイド空間22の対向する位置に接続されているが、制振ダンパー40の接続の仕方は、これに限らず、外部建物20と内部建物30の何れの方向の相対変位に対しても、何れかの制振ダンパー40が変形するようになっていればよい。
【0015】
図2(A)は、外部建物20に免震層21が設けられていない場合の内部建物30及び外部建物20の周波数伝達関数の一例を示すグラフであり、(B)は、本実施形態の制振建物10における内部建物30及び外部建物20の周波数伝達関数の一例を示すグラフである。同図に示すように、外部建物20は免震層21が設けられることにより、周波数応答関数のピークは長周期(低周波数)側へと移動する。このため、同図に示すように、定点理論における所定の点、すなわち、2つの構造物を連結する制振ダンパーの減衰力を0とした(すなわち、互いに独立に振動可能とした)場合及び無限大とした(すなわち、2つの構造物を一体とした)場合における外部建物20の周波数伝達関数の交点Pが長周期(低周波数)側へと移動するとともに、その伝達率も低減する。定点理論を用いて制振ダンパー40の設計を行う場合には、グラフ上においてこの交点に外部建物20の周波数伝達関数のピークが位置するように、制振ダンパー40の減衰定数を決定する。上記のように定点Pの伝達率が低減しているため、結果として外部建物20の周波数伝達関数全体の伝達率を低減することができる。
【0016】
以上説明したように、本実施形態によれば、外部建物20の下部に免震層21を設けることにより、外部建物20の有効質量が増加するため、周波数伝達関数のピークが低周波数側へ変化する。これにより、定点理論における定点Pが低周波数側へと移動するとともに、定点Pにおける伝達率も低下することとなる。このため、グラフ上において周波数伝達関数のピークがこの定点Pに位置するように制振ダンパー40の減衰定数を決定することにより、全周波数帯域において外部建物20の周波数伝達関数の伝達率を低減することができ、より高い制振効果が得られることとなる。
【0017】
また、一般的に免震層を備えた超高層建物では、地盤と免震層の直上の部位を結ぶようにのみ制振ダンパーが設置されており、低層階の振動はこの制振ダンパーにより吸収できるものの、高次モードの影響により上層階には大きな振動が生じてしまう。これに対して本実施形態によれば、下層から上層に亘って外部建物20と内部建物30を結ぶように制振ダンパー40が設置されているため、外部建物20の上層階の揺れを抑えることができる。
【0018】
なお、本実施形態では、高剛性の内部建物30と、内部建物30の全周を取り囲むように低剛性の外部建物20が構築された制振建物に本発明を適用した場合について説明したが、これに限らず、図3(A)に示すように、高剛性の建物130と、高剛性の建物130の周囲を取り囲むように平面視においてコの字状の構築された低剛性の建物120と、これら建物120、130とを結ぶ制振ダンパー40とを備えた制振建物110においても、低剛性の建物120の下部に免震層を設けることで本実施形態と同様の効果が得られる。
【0019】
さらに、同図(B)に示すように、高剛性の建物230と、高剛性の建物230の周囲を取り囲むように平面視において、くの字状の構築された低剛性の建物220と、これら建物220、230とを結ぶ制振ダンパー40と、からなる制振建物210にも本発明を適用できる。なお、これら制振建物110、210における制振ダンパー40は、これら建物の間に生じた水平方向何れの方向の相対変位に対しても、変形エネルギーを吸収できるように配置する必要がある。
【0020】
また、本実施形態では、外部建物20の最下部に免震層21を設けているが、これに限らず、外部建物20の下部であれば免震層21を設ける高さ位置は問わない。
【符号の説明】
【0021】
10 制振建物
20 外部建物
21 免震層
22 ボイド空間
30 内部建物
40 制振ダンパー
図2
図3
図4
図1