(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5720756
(24)【登録日】2015年4月3日
(45)【発行日】2015年5月20日
(54)【発明の名称】ダブルエンド型ショートアークフラッシュランプ
(51)【国際特許分類】
H01J 61/073 20060101AFI20150430BHJP
H01J 61/54 20060101ALI20150430BHJP
【FI】
H01J61/073 H
H01J61/54 H
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2013-222899(P2013-222899)
(22)【出願日】2013年10月28日
(65)【公開番号】特開2015-88223(P2015-88223A)
(43)【公開日】2015年5月7日
【審査請求日】2014年11月11日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000102212
【氏名又は名称】ウシオ電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106862
【弁理士】
【氏名又は名称】五十畑 勉男
(72)【発明者】
【氏名】加瀬 征彦
(72)【発明者】
【氏名】平石 隆之
(72)【発明者】
【氏名】石川 博久
【審査官】
桐畑 幸▲廣▼
(56)【参考文献】
【文献】
特開2012−094362(JP,A)
【文献】
特公昭51−022751(JP,B1)
【文献】
特開昭55−146855(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 61/073
H01J 61/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス製の発光管の内部に、陽極と陰極とからなる一対の主電極と、一対の始動補助電極とが配置され、当該発光管の両端に第1封止管と第2封止管とを備え、
前記第1封止管には、前記主電極の一方の主電極の芯線が封止されて発光管外に導出され、
前記第2封止管には、その内部に挿入された封止用ガラス管が溶着され、該封止用ガラス管には、前記主電極の他方の主電極の芯線が封止されて発光管外に導出されてなるダブルエンド型ショートアークフラッシュランプにおいて、
前記陰極には、エミッタが含有されるとともに、該陰極の体積が前記陽極の体積よりも大きく、
前記陰極と前記陽極は、円柱状の本体部と、円錐状の先端部で構成されていることを特徴とするダブルエンド型ショートアークフラッシュランプ。
【請求項2】
ガラス製の発光管の内部に、陽極と陰極とからなる一対の主電極と、一対の始動補助電極とが配置され、当該発光管の両端に第1封止管と第2封止管とを備え、
前記第1封止管には、前記主電極の一方の主電極の芯線が封止されて発光管外に導出され、
前記第2封止管には、その内部に挿入された封止用ガラス管が溶着され、該封止用ガラス管には、前記主電極の他方の主電極の芯線が封止されて発光管外に導出されてなるダブルエンド型ショートアークフラッシュランプにおいて、
前記陰極には、エミッタが含有されるとともに、該陰極の体積が前記陽極の体積よりも大きく、
前記始動用補助電極は、先端が前記陽極と前記陰極の間に位置し、当該始動補助電極に接続されて前記一方の主電極側に延在する内部リードが、前記一方の主電極の周側面において、前記発光管側に膨出変位していることを特徴とするダブルエンド型ショートアークフラッシュランプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明はダブルエンド型ショートアークフラッシュランプに関するものであり、特に、一方の封止管部分が二重管構造とされたダブルエンド型ショートアークフラッシュランプに係わるものである。
【背景技術】
【0002】
フラッシュ点灯を行う放電灯は、半導体製造工程におけるフラッシュアニールをはじめとした産業用途に広く用いられていて、本発明のランプは、特に真空紫外光を用いた露光工程に使用されるものである。
上記露光工程においては、小領域に高密度な光を短時間で照射でき、光の方向性や分布にムラが比較的少ない、平行光に近い光を使用することが求められる。
これまでに、同露光工程においては、特開2012−43736号公報(特許文献1)に示されるような、真空管形状のフラッシュランプが主に使用されている。同ランプは、主電極間距離が一般的なフラッシュ点灯を行うランプと比べて小さく、点光源に近い光源として扱うことができる。
【0003】
しかしながら、真空管構造を有するために、片側の端部に両主電極およびトリガ電極(始動用補助電極)を封じる必要があり、装置、電源への接続部(口金)を円柱状の構造とする場合、特に外径寸法が大きくなってしまう。このため、リフレクタなどを有する光学系内部に同ランプを用いる場合、口金構造などに起因する遮光領域が大きくなり、結果として、光学系からの光出力が低下する問題があった。
【0004】
これらの問題に対し、特開2012−94362号公報(特許文献2)では、ランプバルブの両側に封止部を配置する、いわゆるダブルシール型構造を用いることで、前述した遮光領域を小さくする技術が示されている。
図3に示すように、ダブルエンド型ショートアークフラッシュランプにおいて、発光管1の両端に第1封止管2と第2封止管3が連設されている。そして、前記第2封止管3には封止用ガラス管4が挿入されていて、両者は溶着されている。
発光管1内には一対の第1の主電極(陽極)5と第2の主電極(陰極)6とが対向配置されている。前記陽極5は、その芯線7が第1封止管2に段継ガラスなどの手段により支持・封止されてその外方に導出されており、一方、前記陰極6は、その芯線8が前記封止用ガラス管4に段継ガラスなどの手段により支持・封止されてその外方に導出されている。
発光管1内の陽極5と陰極6の間には、一対の始動補助電極10、11が配設されていて、それぞれの内部リード12、15と外部リード13、16とが、前記第2封止管3と封止用ガラス管4との間の溶着領域において、金属箔14、17を介して電気的に接続されている。
【0005】
このようなダブルエンド型ショートアークフラッシュランプによると、ランプバルブの両端部に封止部を配置することで、前述した遮光領域を小さくすることができるものとされている。
【0006】
ところで、陰極から陽極に向かって電子が放出される、直流型の連続点灯されるショートアーク型のランプでは、一般的には、電子を受ける陽極の温度の方が、陰極の温度よりも上昇することが常である。そのため、陰極よりも陽極の方が大型に形成されている。
【0007】
しかしながら、
図3に示されるようなダブルエンド型ショートアークフラッシュランプでは、極めて短い時間でパルス点灯を行うものであるので、点灯試験を行うと陰極の温度の方が陽極の温度よりも上昇するという、今までとは逆の結果が得られた。その理由は、以下のように推測される。
ダブルエンド型ショートアークフラッシュランプでは、電子は陰極の先端のきわめて狭い領域から放出されるため、先端部分の電流密度が極端に高くなり、先端部分が著しく温度が上昇する。
陰極には電子放射機能をつかさどるエミッタが含有されているが、上記のように、陰極先端部分の温度が高くなりすぎるとエミッタが短時間で枯渇してしまい、ランプが点灯しなくなるという問題があった。
【0008】
一方、陽極は電子を受ける面積が先端に限定されずに全体に受けることになり、その分だけ先端部分の電流密度が低くなるし、通常の連続点灯するランプと違って、間欠点灯するフラッシュランプでは、陽極が放出電子を受け続けるわけではないから、温度上昇もそれほどではない。
つまり、フラッシュランプでは陽極の方が熱的影響を受けることが小さく、陰極の方の熱的影響を考慮する必要があることになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2012−43736号公報
【特許文献2】特開2012−94362号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
この発明が解決しようとする課題は、上記従来技術の問題点に鑑みて、ガラス製の発光管の内部に、陽極と陰極とからなる一対の主電極と、一対の始動補助電極とが配置され、当該発光管の両端に第1封止管と第2封止管とを備え、前記第1封止管には、前記主電極の一方の主電極の芯線が封止されて発光管外に導出され、前記第2封止管には、その内部に挿入された封止用ガラス管が溶着され、該封止用ガラス管には、前記主電極の他方の主電極の芯線が封止されて発光管外に導出されてなるダブルエンド型ショートアークフラッシュランプにおいて、陰極の極度の温度上昇を抑制して、該陰極に含有されたエミッタの早期の枯渇を防止して、陰極が長時間に渡って適正に機能して、発光回数が多く続く構造を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、この発明に係るダブルエンド型ショートアークフラッシュランプは、前記封止管内に配置された前記陰極には、エミッタが含有されるとともに、該陰極の体積が前記陽極の体積よりも大きいことを特徴とする。
また、前記陰極の最大外径が、前記陽極の最大外径よりも大きいことを特徴とする。
また、前記陰極と前記陽極は、円柱状の本体部と、円錐状の先端部で構成されていることを特徴とする。
また、前記始動用補助電極は、先端が前記陽極と前記陰極の間に位置し、当該始動補助電極に接続されて前記陰極側に延在する内部リードが、前記陰極の周側面において、前記発光管側に膨出変位していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
この発明のダブルエンド型ショートアークフラッシュランプによれば、陰極の体積を陽極の体積よりも大きくしたことにより、当該陰極の温度、特に、その先端部分の温度が高くなりすぎることがなく、含有されたエミッタが早期に枯渇することがなく、長期に安定的な点灯がもたらされるという効果を奏する。
また、陰極の最大外径を陽極の最大外径よりも大きくすることで、陰極の体積を陽極の体積よりも大きくしたので、陰極先端部分からの熱が後方側に伝達されやすく、熱拡散が活発となって、その温度上昇が抑制される。
また、始動補助電極の内部リードを陰極の周側面において、発光管側に膨出変位させる形状としたので、大型化した陰極との干渉を避けつつ、第2封止部の大径化を回避することができ、遮光領域を減少させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明のダブルエンド型ショートアークフラッシュランプの断面図
【
図3】従来のダブルエンド型ショートアークフラッシュランプの断面図
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1は本発明のダブルエンド型ショートアークフラッシュランプの全体の断面図である。
図1に示されるように、発光管1内に配置された一対の主電極を構成する陽極5と陰極6の内、陰極6の体積が陽極5の体積よりも大きく形成されている。
その具体的な一数値例を記載すると以下の通りである。
陰極6:直径φ6mm 体積100.8mm
3、
陽極5:直径φ5mm 体積 90.4mm
3
この陰極6には、エミッタとして、例えば酸化トリウムが含有されている。
なお、その他の構成は、
図3に記載した従来例のものと同様である。
【0015】
そして、この例では、始動補助電極10、11の内部リード12、15は、陰極6側に延在して、二重管構造とされた第2封止管3と封止用ガラス管4の間に導かれ、その間で封止されているものとして説明されている。
しかしながら、始動補助電極10、11の内部リード12、15は陰極6側に延在するとは限られず、反対側の陽極5側に導かれるものであってもよく、その場合は、第1封止管側で封止用ガラス管との二重管構造とされる。
【0016】
また、陽極5および陰極6は、それぞれ円柱状の本体部と円錐状の先端部から構成されている。
点灯時の陰極からの電子放出は、熱電子放出によるものである。単位面積あたりで陰極から放出可能な熱電子の放出量は、その上限値が陰極の動作温度および仕事関数の大小によって定まるが、この他に、ショットキー効果もその量を支配する要因である。
ショットキー効果とは、陰極表面に作用する電場により、陰極からの熱電子放出に必要なエネルギー量が変化する現象であり、本発明の陰極のように先端を尖らせた形状とする場合、同先端部に電界集中が起こり、陰極先端付近からの熱電子放出可能量がその他の部分よりも大きくでき、結果として、陰極先端からほとんどの熱電子放出が起こるため、点灯時の放電位置を安定させることができる。
【0017】
また、陰極から陽極に至るアーク放電は、電位勾配がもっとも高い経路の周りに発生することが一般的に知られている。電位勾配は、考えている経路の両端電位差を経路長で割ったもので表され、この量は両端電場値の差に相当する。
本発明のランプでこの現象を考えると、陰極の説明で述べたように、先端を尖らせた電極は、陰極、陽極ともに先端付近に電界集中が発生する。したがって、両電極先端間の電場の差が周囲よりも大きくなり、陽極と陰極先端の周りに放電路が形成される。本発明のランプはフラッシュ点灯により動作するので、放電形状が不安定になりやすく、放電路を通常の放電ランプよりも安定させる必要がある。したがって、陽極先端を尖らせ、放電路を安定させる工夫をしているものである。
【0018】
図2に他の実施例が示されていて、始動補助電極10、11に接続された内部リード12、15が、陰極6側に延在するものであって、その陰極6の周側面において、発光管1側に膨れるように変位した膨出変形部12a、15aが形成されている。そして、その後端は管軸中心側にすぼめられている。
この構成により、内部リード12、15は、膨出変形部12a、15aのために体積の大きくなった陰極6に干渉することなく、また、第2封止管3に導かれたところですぼめられていることで、第2封止管3の径を小さくすることができる。これにより、遮光領域を小さくして、照度を向上させることができる。
この実施例においては、始動補助電極10、11は高融点で高熱に耐えうるタングステンを用い、内部リード12、15には、室温で塑性変形しやすく加工性に優れたモリブデンを用いることによって、耐久性と加工性を両立させることができる。
【0019】
以上説明したように、本発明に係るダブルエンド型ショートアークフラッシランプでは、フラッシュ点灯する際に温度上昇しやすい陰極の体積を、陽極の体積よりも大きくしたことにより、陰極の温度上昇を抑制して、含有されたエミッタの早期の枯渇を防止することができて、長期に亘る安定した点灯が維持できる。
【符号の説明】
【0020】
1 発光管
2 第1封止管
3 第2封止管
4 封止用ガラス管
5 主電極(陽極)
6 主電極(陰極)
7 陽極の芯線
8 陰極の芯線
10、11 始動補助電極
12、15 内部リード
13、17 外部リード
14、15 金属箔
12a 膨出変形部
15a 膨出変形部