特許第5720774号(P5720774)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5720774硬化性組成物、成形品及び成形品の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5720774
(24)【登録日】2015年4月3日
(45)【発行日】2015年5月20日
(54)【発明の名称】硬化性組成物、成形品及び成形品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 27/12 20060101AFI20150430BHJP
   C08K 5/23 20060101ALI20150430BHJP
   C08K 5/24 20060101ALI20150430BHJP
   C08K 5/20 20060101ALI20150430BHJP
   C08K 5/16 20060101ALI20150430BHJP
【FI】
   C08L27/12
   C08K5/23
   C08K5/24
   C08K5/20
   C08K5/16
【請求項の数】7
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2013-508710(P2013-508710)
(86)(22)【出願日】2011年11月25日
(65)【公表番号】特表2013-536260(P2013-536260A)
(43)【公表日】2013年9月19日
(86)【国際出願番号】JP2011077883
(87)【国際公開番号】WO2012077583
(87)【国際公開日】20120614
【審査請求日】2013年2月20日
(31)【優先権主張番号】61/420,723
(32)【優先日】2010年12月7日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】平野 誠一
【審査官】 阪野 誠司
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2010/002013(WO,A1)
【文献】 特開平09−077897(JP,A)
【文献】 特開2004−256565(JP,A)
【文献】 国際公開第2000/009603(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L
C08K
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
主鎖および/または側鎖にシアノ基を有する含フッ素エラストマー(A)と、アミド化合物及びヒドラジド化合物からなる群より選択される少なくとも1種である化合物(B)と、からなる硬化性組成物であって、
前記化合物(B)は、アゾ構造、ヒドラジン構造、及びイミン構造からなる群より選択される少なくとも1種の構造を有し、かつ分解によりNHを発生するものであって、
前記含フッ素エラストマー(A)は、パーフルオロフッ素ゴムである
ことを特徴とする硬化性組成物。
【請求項2】
化合物(B)は、分解温度が180〜300℃である
請求項1記載の硬化性組成物。
【請求項3】
化合物(B)は、含フッ素エラストマー(A)100重量部に対して0.1〜20重量部である
請求項1又は2記載の硬化性組成物。
【請求項4】
化合物(B)は、下記式(1):
【化1】
で表される化合物、及び、下記式(2):
【化2】
で表される化合物、からなる群より選択される少なくとも1種である
請求項1、2又は3記載の硬化性組成物。
【請求項5】
請求項1、2、3又は4記載の硬化性組成物を架橋して得られる成形品。
【請求項6】
請求項1、2、3又は4記載の硬化性組成物を一次加硫する工程、及び、
一次加硫後に二次加硫する工程、からなる成形品の製造方法。
【請求項7】
一次加硫の温度が140〜230℃で、二次加硫の温度が200〜320℃である請求項6記載の成形品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願への相互参照)
本願は、本明細書において全体にわたって参照として組み込まれた2010年12月7日出願の米国仮特許出願第61/420,723号の35U.S.C.§119(e)に基づく利益を請求する。
【0002】
本発明は、硬化性組成物、成形品及び成形品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0003】
含フッ素エラストマーからなる硬化性組成物は、耐熱性、耐薬品性、耐溶剤性、耐燃料油性などに優れることから、O−リング、ホース、ステムシール、シャフトシール、ダイヤフラム等の成形品を製造するために、広く使用されている。
【0004】
しかしながら、技術の進歩に伴い、各種成形品に要求される特性はさらに厳しくなっており、従来用いられていたパーオキサイド架橋やポリオール架橋で得られる成形品よりも高い特性の成形品が要求されるようになってきている。
【0005】
このような中で、トリアジン架橋により架橋する硬化性組成物が提案されている。例えば、特許文献1には、テトラフルオロエチレン、パーフルオロ(低級アルキルビニルエーテル)またはパーフルオロ(低級アルコキシ低級アルキルビニルエーテル)およびシアノ基含有(パーフルオロビニルエーテル)の3元共重合体に、有機酸アンモニウム塩または無機酸アンモニウム塩を硬化剤として配合してなる含フッ素エラストマー組成物が記載されている。
【0006】
また、特許文献2には、テトラフルオロエチレンと特定のパーフルオロビニルエーテルとキュアサイトモノマーとからなるパーフルオロエラストマーと、有機酸又は無機酸のアンモニウム塩以外の化合物であり、40〜330℃で分解してアンモニアを生成する化合物と、からなる硬化性組成物が記載されている。
【0007】
また、特許文献3には、主鎖および/または側鎖にシアノ基を有する含フッ素エラストマーおよび無機窒化物粒子からなり、該無機窒化物粒子を含フッ素エラストマー100重量部に対して0.1〜20重量部含有することを特徴とする硬化性組成物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平9−111081号公報
【特許文献2】国際公開第00/09603号パンフレット
【特許文献3】国際公開第2007/013397号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1〜3に記載の組成物は、スコーチが生じることがあり、保存安定性の点で改善の余地があった。
【0010】
本発明は、上記現状に鑑み、耐スコーチ性及び保存安定性に優れる硬化性組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、主鎖および/または側鎖にシアノ基を有する含フッ素エラストマー(A)と、アミド化合物及びヒドラジド化合物からなる群より選択される少なくとも1種である化合物(B)と、からなる硬化性組成物であって、前記化合物(B)は、アゾ構造、ヒドラジン構造、及びイミン構造からなる群より選択される少なくとも1種の構造を有し、かつ分解によりNHを発生するものであることを特徴とする硬化性組成物である。
【0012】
化合物(B)は、分解温度が180〜300℃であることが好ましい。
【0013】
化合物(B)は、含フッ素エラストマー(A)100重量部に対して0.1〜20重量部であることが好ましい。
【0014】
化合物(B)は、下記式(1):
【0015】
【化1】
で表される化合物、及び、下記式(2):
【0016】
【化2】
で表される化合物、からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0017】
本発明はまた、上記硬化性組成物を架橋して得られる成形品でもある。
【0018】
本発明は更に、上記硬化性組成物を一次加硫する工程、及び、一次加硫後に二次加硫する工程、からなる成形品の製造方法でもある。
【0019】
上記成形品の製造方法は、一次加硫の温度が140〜230℃で、二次加硫の温度が200〜320℃であることが好ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明の硬化性組成物は、上述の構成よりなることから、保存安定性及び耐スコーチ性に優れる。また、本発明の硬化性組成物を架橋して得られる成形品は、トリアジン架橋により架橋したものであるため、優れた圧縮永久歪みおよび耐熱性を有する。また、耐酸素ラジカル性及び耐オゾン性にも優れる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の硬化性組成物は、主鎖および/または側鎖にシアノ基を有する含フッ素エラストマー(A)と、アミド化合物及びヒドラジド化合物からなる群より選択される少なくとも1種である化合物(B)と、からなるものである。
【0022】
含フッ素エラストマー(A)は、主鎖および/または側鎖にシアノ基(−CN基)を有するものであればよく、特に限定されない。
【0023】
含フッ素エラストマー(A)は、上記化合物(B)が作用して、シアノ基が環化三量化によりトリアジン環を形成して架橋することができるものであるため、本発明の硬化性組成物を架橋して得られる成形品は、すぐれた圧縮永久歪みおよび耐熱性を有する。また、耐酸素ラジカル性及び耐オゾン性にも優れる。
【0024】
含フッ素エラストマー(A)としては、たとえば、パーフルオロフッ素ゴムおよび非パーフルオロフッ素ゴムがあげられる。含フッ素エラストマー(A)は、パーフルオロフッ素ゴムが好ましい。なお、パーフルオロフッ素ゴムとは、単量体に由来する重合単位のうち、90モル%以上がパーフルオロモノマーからなるものをいう。
【0025】
パーフルオロフッ素ゴムとしては、テトラフルオロエチレン〔TFE〕/パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)〔PAVE〕/シアノ基を有する単量体、で表される重合体が好ましい。TFE/PAVEの組成は、50〜90/10〜50モル%であることが好ましく、より好ましくは、50〜80/20〜50モル%であり、さらに好ましくは、55〜75/25〜45モル%である。また、シアノ基を有する単量体に由来する重合単位は、良好な架橋特性および耐熱性の観点から、TFEに由来する重合単位とPAVEに由来する重合単位との合計に対して、0.1〜5モル%であることが好ましく、0.3〜3モル%であることがより好ましい。
【0026】
PAVEとしては、例えば、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)〔PMVE〕、パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)〔PPVE〕などがあげられる。これらのPAVEは、単独で用いてもよいし、併用してもよい。
【0027】
シアノ基を有する単量体としては、特表平4−505345号公報、特表平5−500070号公報に記載されているようなシアノ基含有単量体や、下記一般式(3)〜(19)で表される単量体などがあげられる。
【0028】
シアノ基を有する単量体としては、たとえば、
一般式(3)〜(19):
CY=CY(CF−CN (3)
(式中、Yは水素原子またはフッ素原子を表し、nは1〜8の整数を表す。)
CF=CFCFRf−CN (4)
(式中、Rfは、−(OCF−、又は、−(OCF(CF))−で表される2価の基であり、nは0〜5の整数である)
CF=CFCF(OCF(CF)CF(OCHCFCFOCHCF−CN (5)
(式中、mは0〜5の整数、nは0〜5の整数である)
CF=CFCF(OCHCFCF(OCF(CF)CFOCF(CF)−CN (6)
(式中、mは0〜5の整数、nは0〜5の整数である)
CF=CF(OCFCF(CF))O(CF−CN (7)
(式中、mは0〜5の整数、nは1〜8の整数である)
CF=CF(OCFCF(CF))−CN (8)
(式中、mは1〜5の整数)
CF=CFOCF(CF(CF)OCFCF(−CN)CF (9)
(式中、nは1〜4の整数)
CF=CFO(CFOCF(CF)−CN (10)
(式中、nは2〜5の整数)
CF=CFO(CF−(C)−CN (11)
(式中、nは1〜6の整数)
CF=CF(OCFCF(CF))OCFCF(CF)−CN (12)
(式中、nは1〜2の整数)
CH=CFCFO(CF(CF)CFO)CF(CF)−CN (13)
(式中、nは0〜5の整数)、
CF=CFO(CFCF(CF)O)(CF−CN (14)
(式中、mは0〜5の整数、nは1〜3の整数である)
CH=CFCFOCF(CF)OCF(CF)−CN (15)
CH=CFCFOCHCF−CN (16)
CF=CFO(CFCF(CF)O)CFCF(CF)−CN (17)
(式中、mは0以上の整数である)
CF=CFOCF(CF)CFO(CF−CN (18)
(式中、nは1以上の整数)
CF=CFOCFOCFCF(CF)OCF−CN (19)
で表される単量体などがあげられ、これらをそれぞれ単独で、または任意に組み合わせて用いることができる。シアノ基を有する単量体は、上記一般式(3)〜(19)で表される単量体からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0029】
中でも、一般式(7)又は(14)で表される単量体がより好ましく、CF=CFOCFCF(CF)OCFCFCNが更に好ましい。
【0030】
一般式(3)〜(19)で表される単量体はシアノ基を有するので、そのシアノ基が環化三量化反応してトリアジン架橋が進行する。
【0031】
シアノ基の導入方法としては、国際公開第00/05959号パンフレットに記載の方法も用いることができる。
【0032】
かかるパーフルオロフッ素ゴムの具体例としては、国際公開第97/24381号パンフレット、特公昭61−57324号公報、特公平4−81608号公報、特公平5−13961号公報などに記載されているフッ素ゴムなどがあげられる。
【0033】
非パーフルオロフッ素ゴムとしては、ビニリデンフルオライド(VdF)系フッ素ゴム、テトラフルオロエチレン(TFE)/プロピレン系フッ素ゴム、テトラフルオロエチレン(TFE)/プロピレン/ビニリデンフルオライド(VdF)系フッ素ゴム、エチレン/ヘキサフルオロプロピレン(HFP)系フッ素ゴム、エチレン/ヘキサフルオロプロピレン(HFP)/ビニリデンフルオライド(VdF)系フッ素ゴム、エチレン/ヘキサフルオロプロピレン(HFP)/テトラフルオロエチレン(TFE)系フッ素ゴム、フルオロシリコーン系フッ素ゴム、またはフルオロホスファゼン系フッ素ゴムなどがあげられ、これらをそれぞれ単独で、または本発明の効果を損なわない範囲で任意に組み合わせて用いることができる。
【0034】
ビニリデンフルオライド系フッ素ゴムとは、ビニリデンフルオライドとビニリデンフルオライドと共重合可能な少なくとも1種の他の単量体との合計量に対して、ビニリデンフルオライド45〜85モル%と、ビニリデンフルオライドと共重合可能な少なくとも1種の他の単量体55〜15モル%とからなり、さらにビニリデンフルオライド及びビニリデンフルオライドと共重合可能な少なくとも1種の他の単量体の合計量に対して、シアノ基を有する単量体0.1〜5モル%を含有する含フッ素共重合体をいう。
好ましくは、ビニリデンフルオライド50〜80モル%と、ビニリデンフルオライドと共重合可能な少なくとも1種の他の単量体50〜20モル%とからなり、さらにビニリデンフルオライドとビニリデンフルオライドと共重合可能な少なくとも1種の他の単量体の合計量に対して、シアノ基を有する単量体0.1〜5モル%を含有する含フッ素共重合体である。シアノ基を有する単量体の含有量は、含フッ素エラストマー(A)の架橋性を向上させる点から、0.2モル%以上が好ましく、0.3モル%以上がより好ましい。また、シアノ基を有する単量体の含有量は、高価である該単量体の使用量を減らす点から、2.0モル%以下が好ましく、1.0モル%以下がより好ましく、0.5モル%以下が更に好ましい。
【0035】
ビニリデンフルオライドと共重合可能な少なくとも1種の他の単量体としては、たとえばテトラフルオロエチレン(TFE)、クロロトリフルオロエチレン(CTFE)、トリフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)、トリフルオロプロピレン、テトラフルオロプロピレン、ペンタフルオロプロピレン、トリフルオロブテン、テトラフルオロイソブテン、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)(PAVE)、フッ化ビニルなどの含フッ素単量体、エチレン、プロピレン、アルキルビニルエーテルなどの非フッ素単量体があげられる。これらをそれぞれ単独で、または、任意に組み合わせて用いることができる。これらのなかでも、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、及びパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)からなる群より選択される少なくとも1種の単量体が好ましい。
【0036】
具体的なゴムとしては、VdF−HFP系ゴム、VdF−HFP−TFE系ゴム、VdF−CTFE系ゴム、VdF−CTFE−TFE系ゴムなどがあげられる。
【0037】
テトラフルオロエチレン/プロピレン系フッ素ゴムとは、テトラフルオロエチレンとプロピレンとの合計量に対して、テトラフルオロエチレン45〜70モル%、プロピレン55〜30モル%からなり、さらにテトラフルオロエチレンとプロピレンの合計量に対して、シアノ基を有する単量体0.1〜5モル%含有する含フッ素共重合体をいう。シアノ基を有する単量体の含有量は、含フッ素エラストマー(A)の架橋性を向上させる点から、0.2モル%以上が好ましく、0.3モル%以上がより好ましい。また、シアノ基を有する単量体の含有量は、高価である該単量体の使用量を減らす点から、2.0モル%以下が好ましく、1.0モル%以下がより好ましく、0.5モル%以下が更に好ましい。
【0038】
また、含フッ素エラストマー(A)として、エラストマー性含フッ素ポリマー鎖セグメントと非エラストマー性含フッ素ポリマー鎖セグメントからなる熱可塑性フッ素ゴムを用いてもよく、前記フッ素ゴムと熱可塑性フッ素ゴムからなるゴム組成物を用いてもよい。
【0039】
上記パーフルオロフッ素ゴム及び非パーフルオロフッ素ゴムは、常法により製造することができる。
【0040】
得られた重合反応混合物から重合生成物を単離する方法としては、酸処理により凝析する方法が、工程の簡略化の点から好ましい。または、重合混合物を酸処理し、その後凍結乾燥などの手段で重合生成物を単離してもよい。さらに超音波などによる凝析や機械力による凝析などの方法も採用できる。
【0041】
本発明の硬化性組成物は、アミド化合物及びヒドラジド化合物からなる群より選択される少なくとも1種である化合物(B)からなる硬化性組成物であって、前記化合物(B)は、アゾ構造、ヒドラジン構造、及びイミン構造からなる群より選択される少なくとも1種の構造を有し、かつ分解によりNHを発生するものである。化合物(B)としては、2種以上の化合物を併用してもよい。
【0042】
化合物(B)は、アゾ構造(−N=N−)、ヒドラジン構造(−NH−NH−)、及びイミン構造(−N=C−)からなる群より選択される少なくとも1種の構造を有する。化合物(B)が上記構造を有し、かつ分解によりNHを発生するものであることによって、本発明の硬化性組成物から得られる成形品が、すぐれた圧縮永久歪みおよび耐熱性を有する。また、耐酸素ラジカル性及び耐オゾン性にも優れる。
【0043】
化合物(B)が存在することにより、含フッ素エラストマー中のシアノ基が環化三量化反応して、トリアジン架橋反応が進行する。
【0044】
化合物(B)は、分解温度が180〜300℃であることが好ましい。化合物(B)は、分解温度が180〜250℃であることがより好ましく、180〜210℃であることが更に好ましい。分解温度が上記範囲であることによって、より保存安定性及び耐スコーチ性に優れるものとなる。
【0045】
化合物(B)の分解温度は、熱重量分析(TG)にて、空気中、5℃/minで昇温した時の分解開始温度(1wt%重量減少温度)である。
【0046】
化合物(B)は、含フッ素エラストマー(A)100重量部に対して、0.1〜20重量部であることが好ましく、0.2〜5重量部であることがより好ましく、0.2〜1重量部であることが更に好ましい。化合物(B)が、少なすぎると加硫密度が低くなり、充分な耐熱性、耐薬品性を発現しないおそれがあり、多すぎると常態物性(伸び、強度)を低下させるおそれがある。
【0047】
化合物(B)は、分解によりNHを発生するものである。化合物(B)は、分解によりNH以外のガスを発生するものであってよい。例えば、一酸化炭素を発生するものであってよいし、二酸化炭素を発生するものであってよいし、窒素を発生するものであってもよい。化合物(B)は、アンモニアガス並びにNH以外のガス発生量の合計が5〜500ml/gであることが好ましい。より好ましくは、5〜300ml/gである。また、化合物(B)は、アンモニアガスの発生量が5〜200ml/gであることが好ましい。より好ましくは、5〜100ml/gである。
ガス発生量は、化合物の分解温度にて、30分間加熱して測定した値である。
【0048】
上記化合物(B)としては、下記化学式で表される化合物等が例示される。
【0049】
【化3】
【0050】
【化4】
【0051】
【化5】
【0052】
【化6】
【0053】
【化7】
【0054】
【化8】
【0055】
【化9】
【0056】
【化10】
【0057】
【化11】
【0058】
上記の化合物(B)として例示した化合物の化学式中、Meはメチル基、Etはエチル基、Acはアセチル基、Phはフェニル基を表す。
【0059】
化合物(B)としては、中でも、下記式(1):
【0060】
【化12】
で表されるアゾジカルボンアミド(ADCA)、及び、下記式(2):
【0061】
【化13】
で表されるヒドラゾジカルボンアミド(HDCA)、からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。上記化合物(B)としては、ADCAがより好ましい。化合物(B)が上記ADCAであることによって、本発明の硬化性組成物は、保存安定性及び耐スコーチ性により優れる。ADCAは、尿素等の助剤との併用等により、分解温度を調節することも可能である。
【0062】
本発明の硬化性組成物は、架橋剤がなくとも架橋が進行するため、架橋剤を必要としない。架橋剤を使用せずにトリアジン架橋を行うことができるため、硬化性組成物を架橋して製造した成形品の着色を抑制することもできる。本発明の硬化性組成物は、必要に応じて架橋剤を併用してもよい。
【0063】
本発明の硬化性組成物において、とくに高純度かつ非汚染性が要求されない分野では、必要に応じて硬化性組成物に配合される通常の添加物、たとえば充填剤、加工助剤、可塑剤、着色剤、安定剤、接着助剤などを配合することができる。
【0064】
本発明の硬化性組成物は、スコーチ時間(TS2)が2分以上であることが好ましい。より好ましくは3分以上である。更に、最適加硫時間(T90)が30分以下であることが好ましく、20分以下がより好ましい。TS2が短すぎると、成形品表面にシワが入ったり、歪みが生じる可能性がある。
スコーチ時間(TS2)は、ムービングダイレオメータ(アルファテクノロジーズ MDR2000)を用いて求めた200℃における加硫曲線において、最低粘度(ML)を2.0dNm上回るまでの時間で示している。
【0065】
本発明の硬化性組成物の各成分を混合する手段としては、通常のエラストマー用加工機械、たとえば、オープンロール、バンバリーミキサー、ニーダーなどを用いて混合することにより調製することができる。この他、密閉式混合機を用いる方法によっても調製することができる。
【0066】
本発明は、上記硬化性組成物を一次加硫する工程、及び、一次加硫後に二次加硫する工程、からなる成形品の製造方法でもある。
【0067】
本発明の成形品の製造方法は、含フッ素エラストマー(A)、および、化合物(B)を混合して上記硬化性組成物を得る工程、を有するものであってもよい。
【0068】
硬化性組成物から成形品を得る方法としては、金型にて加熱圧縮する方法、加熱された金型に圧入する方法、押出機で押出し、押出後に一次加硫、最後に二次加硫の順で成形品を得ることができる。
【0069】
一次加硫条件としては、140〜230℃で5〜120分間おこなうことが好ましく、150〜220℃で5〜120分間おこなうことがより好ましく、170〜210℃で5〜60分間おこなうことが更に好ましい。加硫手段としては、公知の加硫手段を用いればよく、例えば、プレス架橋などをあげることができる。
【0070】
二次加硫条件としては、180〜320℃で2〜24時間おこなうことが好ましく、200〜320℃で2〜24時間おこなうことがより好ましく、200〜300℃で5〜20時間おこなうことが更に好ましい。加硫手段としては、公知の加硫手段を用いればよく、例えば、オーブン架橋などをあげることができる。
【0071】
上記硬化性組成物を架橋して、成形品を得ることができる。本発明は、上記硬化性組成物を架橋して得られる成形品でもある。本発明の硬化性組成物を架橋して得られる成形品は、トリアジン架橋により架橋するものであるため、すぐれた圧縮永久歪みおよび耐熱性を有する。また、耐酸素ラジカル性及び耐オゾン性にも優れる。
また、上記硬化性組成物が耐スコーチ性に優れるものであるため、硬化性組成物の保存期間が長い場合であっても、架橋して得られる成形品は圧縮永久歪みに優れるものとなる。
【0072】
本発明の成形品は、以下に示すような様々な分野の各種成形品として有用である。
【0073】
半導体製造装置、液晶パネル製造装置、プラズマパネル製造装置、プラズマアドレス液晶パネル、フィールドエミッションディスプレイパネル、太陽電池基板等の半導体関連分野では、O(角)リング、パッキン、シール材、チューブ、ロール、コーティング、ライニング、ガスケット、ダイアフラム、ホース等があげられ、これらはCVD装置、ドライエッチング装置、ウェットエッチング装置、酸化拡散装置、スパッタリング装置、アッシング装置、洗浄装置、イオン注入装置、排気装置、薬液配管、ガス配管に用いることができる。具体的には、ゲートバルブのOリング、シール材として、クォーツウィンドウのOリング、シール材として、チャンバーのOリング、シール材として、ゲートのOリング、シール材として、ベルジャーのOリング、シール材として、カップリングのOリング、シール材として、ポンプのOリング、シール材、ダイアフラムとして、半導体用ガス制御装置のOリング、シール材として、レジスト現像液、剥離液用のOリング、シール材として、ウェハー洗浄液用のホース、チューブとして、ウェハー搬送用のロールとして、レジスト現像液槽、剥離液槽のライニング、コーティングとして、ウェハー洗浄液槽のライニング、コーティングとしてまたはウェットエッチング槽のライニング、コーティングとして用いることができる。さらに、封止材・シーリング剤、光ファイバーの石英の被覆材、絶縁、防振、防水、防湿を目的とした電子部品、回路基盤のポッティング、コーティング、接着シール、磁気記憶装置用ガスケット、エポキシ等の封止材料の変性材、クリーンルーム・クリーン設備用シーラント等として用いられる。
【0074】
また、自動車分野、航空機分野、ロケット分野、船舶分野、プラント等の化学品分野、医薬品等の薬品分野、現像機等の写真分野、印刷機械等の印刷分野、塗装設備等の塗装分野、分析・理化学機分野、食品プラント機器分野、原子力プラント機器分野、鉄板加工設備等の鉄鋼分野、一般工業分野、電気分野、燃料電池分野、電子部品分野、現場施工型の成形などの分野で広く用いることができる。
【実施例】
【0075】
つぎに本発明を実施例及び比較例をあげて説明するが、本発明はかかる実施例のみに限定されるものではない。
【0076】
評価法
<標準加硫条件>
混練方法 :ロール練り
プレス加硫 :200℃で30分(実施例1)、又は、180℃で30分(比較例1)
オーブン加硫:290℃で18時間(200℃から昇温)
【0077】
<加硫特性>
1次プレス加硫時にムービングダイレオメータ(アルファテクノロジーズ MDR2000)機器を用い、加硫曲線を求め、最低粘度(ML)、最大トルクレベル(MH)、スコーチ時間(TS2)および最適加硫時間(T90)を求めた。また、成形品の歪み(スコーチ)の有無についても調べた。
なお、実施例1では、200℃における加硫曲線を求めて評価し、比較例1では、180℃における加硫曲線を求めて評価した。スコーチ時間は、加硫曲線において、MLを2.0dNm上回るまでの時間をスコーチ時間(TS2)とした。
【0078】
<スコーチの有無及び保存安定性の確認>
スコーチの有無は、気温23℃、湿度45〜55%の環境下で10日間保存し、硬化特性を測定した。保存前よりTS2が20%以上早くなり、MLの上昇が確認された場合をスコーチ有りとした。
【0079】
<分解温度>
熱重量分析(TG)にて、空気中5℃/minで昇温した時の分解開始温度(1wt%重量減少温度)を分解温度とした。
【0080】
製造例1
着火源をもたない内容積6リットルのステンレススチール製オートクレーブに、純水2.3リットルおよび乳化剤として、下記式:
【0081】
【化14】
で表される化合物23g、pH調整剤として炭酸アンモニウム0.2gを仕込み、系内を窒素ガスで充分に置換し脱気したのち、600rpmで撹拌しながら、50℃に昇温し、内圧が0.8MPaになるようにテトラフルオロエチレン(TFE)とパーフルオロ(メチルビニルエーテル)(PMVE)をTFE/PMVE=24/76(モル比)で仕込んだ。ついで、CF=CFOCFCF(CF)OCFCFCN(CNVE) 0.8gを窒素圧にて圧入した。過硫酸アンモニウム(APS)の1.2g/mLの濃度の水溶液10mLを窒素圧で圧入して反応を開始した。
【0082】
重合の進行により内圧が、0.7MPaまで降下した時点でTFEを12gおよびPMVE 13gをそれぞれ自圧にて圧入した。以後、反応の進行にともない同様にTFE、PMVEを圧入し、0.7〜0.9MPaのあいだで、昇圧、降圧を繰り返すと共に、TFEとPMVEの追加量が80gごとにCNVE 1.5gを窒素圧で圧入した。
【0083】
TFEおよびPMVEの合計仕込み量が、680gになった時点で、オートクレーブを冷却し、未反応モノマーを放出して固形分濃度22重量%の水性分散体3110gを得た。
【0084】
この水性分散体3110gを水3730gで希釈し、4.8重量%硝酸水溶液3450g中に、撹拌しながらゆっくりと添加した。添加後30分間撹拌した後、凝析物をろ別し、得られたポリマーを水洗したのち、真空乾燥させ、680gの含フッ素エラストマー(A)を得た。
【0085】
19F−NMR分析の結果、この重合体のモノマー単位組成は、TFE/PMVE/CNVE=59.3/39.9/0.8(モル%)であった。赤外分光分析により測定したところ、カルボキシル基の特性吸収が1774.9cm−1、1808.6cm−1付近に、OH基の特性吸収が、3557.5cm−1および3095.2cm−1付近に認められた。
【0086】
実施例1
製造例1で得られた末端にシアノ基を含有する含フッ素エラストマー(A)と、ポリテトラフルオロエチレン(商品名:L−5F、ダイキン工業株式会社製)と、アゾジカルボンアミド〔ADCA〕(商品名:セルマイクC−2、三協化成株式会社製、分解温度:200〜210℃)とを重量比100:20:0.3で混合し、オープンロールにて混練して、硬化性組成物を調製した。
【0087】
このエラストマー組成物を200℃、T90相当時間でプレス架橋(一次架橋)し、ついで290℃、18時間オーブン架橋(二次架橋)してOリング(AS−568A−214)を作製した。また硬化性組成物についてJSR型キュラストメータII型(日合商事株式会社製)により、200℃で加硫曲線を求め、最低粘度(ML)、加硫度(MH)、スコーチ時間(TS2)、誘導時間(T10)および最適加硫時間(T90)を求めた。また、スコーチの有無についても確認した。結果を表1に示す。
【0088】
実施例2
実施例1で調整した硬化性組成物を気温25℃湿度50〜60%で30日間保管したこと以外は実施例1と同様にして、各種評価を行った。
【0089】
比較例1
ADCAの代わりに、尿素(分解温度:133℃)を用いたこと以外は、実施例1と同じ方法で硬化性組成物を調製した。プレス架橋(一次架橋)の温度を180℃で行ったこと以外は、実施例1と同じ方法で架橋して、Oリング(AS−568A−214)を作製した。また硬化性組成物について、180℃で加硫曲線を求めたこと以外は実施例1と同様にして、各種評価を行った。結果を表1に示す。
【0090】
比較例2
比較例1で調整した硬化性組成物を気温25℃、湿度50〜60%で30日間保管したこと以外は実施例1と同様にして、各種評価を行った。
【0091】
比較例3
ADCAの代わりに、Siを用いたこと以外は、実施例1と同じ方法で硬化性組成物を調製した。プレス架橋(一次架橋)の温度を180℃で行ったこと以外は、実施例1と同じ方法で架橋して、Oリング(AS−568A−214)を作製した。また硬化性組成物について、180℃で加硫曲線を求めたこと以外は実施例1と同様にして、各種評価を行った。結果を表1に示す。
【0092】
比較例4
比較例3で調整した硬化性組成物を気温25℃湿度50〜60%で30日間保管したこと以外は実施例1と同様にして、各種評価を行った。
【0093】
【表1】
【0094】
表1の結果から、実施例1に係る硬化性組成物は、MLが低く、TS2が長いので、保存安定性及び耐スコーチ性に優れていることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0095】
本発明の硬化性組成物は、保存安定性及び耐スコーチ性に優れる。また、本発明の硬化性組成物を架橋して得られる成形品は、トリアジン架橋により架橋したものであるため、優れた圧縮永久歪みおよび耐熱性を有する。また、耐酸素ラジカル性及び耐オゾン性にも優れる。そのため酸素ラジカルやオゾンに曝される用途に特に好適に利用できる。