【実施例】
【0032】
実施例1
組成MOOH、M=Ni
0.46Mn
0.39Co
0.15を有する1kgのNi−Mn−Co系粉末をミキサー(たとえばHaensel型2Lミキサー)中に充填し、25.5gのヒュームドアルミナ(Al
2O
3)粉末を添加した。1000rpmで30分間の混合時、ヒュームドアルミナは、徐々に見えなくなり、最初の粉末と非常によく似た外観(黒色、小体積)の被覆MOOH粉末を生じた。この量比の前駆体/ヒュームドアルミナを用いて、5mol%のアルミニウムのドーピングレベルが達成された。
【0033】
次いで、さらに25.5gのヒュームドアルミナを添加し、1000rpmで30分間継続して混合すると、再度、小体積を有する黒色粉末を生じた。2回の被覆手順後、ヒュームドアルミナの肉眼で見える痕跡は、残らなかった。明らかに、ヒュームドアルミナのすべてまたはほぼすべてが、薄い透明の比較的緻密な膜で前駆体粒子を覆うために利用された。この第2の被覆手順を追加することにより、10mol%のアルミニウムのドーピングレベルが達成された。
【0034】
乾式被覆前駆体粉末をポリマー中に浸漬し、続いて、研磨することにより、FESEMによる分析に供される10mol%アルミニウム被覆MOOH粉末の断面を作製した。
【0035】
実施例2
この実施例では、実施例1の一般的概要に従って行って、組成M(OH)
2(M=Ni
0.8Co
0.15)を有するNi−Coコア化合物をヒュームドアルミナ粉末で被覆した。2組の被覆サンプルを作製した。第1の組の被覆サンプルは、1回のみの被覆手順を行った後、5mol%のアルミニウムのドーピングレベル(5mol%Al+0.95mol%M)を有する。第2の組のサンプルは、遷移金属1molあたり5mol%のヒュームドアルミナを毎回添加して、3回の連続被覆手順を行った後、15mol%のアルミニウムのドーピングレベルを有していた。X線回折パターンから、アルミニウム被覆層がアモルファスでないことは明らかである。したがって、ヒュームドアルミナの結晶構造は、被覆手順時には、維持され、M(OH)
2前駆体粒子のコアは、結晶性アルミナナノ粒子を含有
する被覆層またはシェルで取り囲まれる。
【0036】
図1および2を参照すると、それぞれ、第1のアルミニウム被覆手順前および第2のアルミニウム被覆手順後(10mol%アルミニウム)のMOOH前駆体のSEM(走査型電子顕微鏡)顕微鏡写真が、本発明の一実施形態に従っておよび実施例1の説明に従って示されている。見てわかるように、前駆体粉末粒子を覆うアルミニウム被覆層は、高密度を有し、連続であり、かつ平滑であった。その厚さは、さまざまであり、0.1乃至1.5μmの間にあった。
【0037】
次に、
図3を参照すると、第1および第3のアルミニウム被覆手順後(それぞれ、5mol%(下側)および15mol%(上側)のアルミニウム)のM(OH)
2前駆体の例
示的なX線回折パターンが、本発明の一実施形態に従っておよび実施例2の説明に従って示されている。アルミナのパターンは、下端のラインとして参考のために追加されている。見てわかるように、表面被覆はアモルファスではない。このことは、5mol%アルミニウムで被覆されたサンプルで明らかになり、15mol%アルミニウムで被覆されたサンプルで明確にわかる(アルミナパターンに対応するピークを指す2つの矢印に注目されたい)。したがって、ヒュームドアルミナの結晶構造は、第1さらには第2の被覆手順時の間は維持され、各混合遷移金属前駆体粒子のコアは、結晶性アルミナナノ粒子を含有する非アモルファス被覆層で覆われるので結晶構造を有する。
【0038】
図4には、第2のアルミニウム被覆手順後(10mol%アルミニウム)のMOOH前駆体の研磨断面のFESEM(電界放出走査型電子顕微鏡)顕微鏡写真が、本発明の一実施形態に従っておよび実施例1の説明に従って示されている。
図4の顕微鏡写真は、本発明に係る乾式被覆プロセスを用いて得られた典型的な結果を表す。目で見る目安として、被覆層が各前駆体粒子の全外表面を完全に覆うこと示すのに役立つ2つのラインを追加した。わかるように、被覆層は、比較的緻密であるので、比較的低い多孔度を有する。
【0039】
被覆層は、平均では前駆体粒子のサイズに依存しなくてもよい。被覆層の厚さが粒子サイズと共に変化しない場合(
図4に示されるとおり)、より大きい粒子ほど典型的にはよ
り低いアルミニウム化学量論比を有するので、組成依存性が予想されうる。より小さい粒子がより大きい粒子よりも高いアルミニウム含有率を有するそのような組成依存性は、とくにより小さい前駆体粒子がその比較的低い熱安定性に起因して安全性の問題をもたらすので、かつアルミニウムが有機電解液中で前駆体の熱安定性を増加させるので、アルミニウムドープ前駆体の場合には望ましい。これを確認するために、分画実験により粉末を異なるサイズ画分に分けて、レーザー回折により調べた。そのような分画実験では、水中に浸漬されたアルミニウム被覆前駆体粉末の低速層流を用いて、異なるサイズ画分に分けた。
図5からわかるように、アルミニウム被覆前駆体のサイズ依存性組成は、実施例1の説明に従った第2のアルミニウム被覆手順後(10mol%アルミニウム)のMOOH前駆体の異なるサイズ画分のICP−MS(誘導結合プラズマ質量分析)分析により、および表1に表示されたデータにより、確認された。より小さい粒子は、より大きい粒子よりもかなり高いアルミニウム濃度を有する。粒子中のアルミニウム濃度は、被覆前駆体粒子のサイズ(PSDのD50)が約5μmから約16μmに増加するにつれて、約12mol%から約6mol%に減少する(表1も参照されたい)。
【0040】
【表1】
【0041】
次に、
図6を参照すると、第1のアルミニウム被覆手順後(5mol%アルミニウム)のM(OH)
2前駆体の異なるサイズ画分のICP−MSにより得られた金属化学量論比
を示す図が、実施例2の説明に従って示されている。データは、
図5に記載のものと類似のサイズ分画サンプルのICP分析により得られた。見てわかるように、アルミニウム含有率は、被覆前駆体粒子のサイズの増大に伴って減少した。
【0042】
さらに、アルミニウム前駆体からカソード材料を調製するために、アルミニウムは、被覆層の形態で、たとえば、本発明の一実施形態に係るアルミニウム乾式被覆プロセスにより達成される被覆層の形態で、存在することが不可欠でありうる。反例として、数質量%超のアルミナが使用され、かつアルミナが被覆層として存在せずに、混合物中の個別の粒子として存在する場合、すべてのアルミナが活物質と接触するとは限らず、粉末を焼結した後、不十分に被覆された活物質と残留アルミナとの混合物が達成される。したがって、アルミニウム前駆体と遷移金属前駆体とリチウム塩とのブレンドを加熱するなどの単純な固相反応では、きわめて不活性な相であるAl
2O
3(コランダム)が比較的低い温度で生成するので、過剰の焼結を適用せずに良好にドープされた最終リチウム化生成物を得ることはできない。コランダムは、リチウム遷移金属酸化物との反応が比較的遅く、したがって、過度の高温または過度に長い焼結を適用した場合に限り、良好にドープされたカソード材料が達成されうる。しかしながら、そのようなリチウム化材料は、典型的には、過剰焼結される。このことは、典型的には劣る性能の原因となる比較的大きい結晶子サイズにより示唆される。アルミナ含有率が高いほど、この問題は顕在化する。したがって、アル
ミニウムのより高いドーピングレベルを適用するには、良好な被覆が必要である。Al
2
O
3が、被覆層の形態で、たとえば、本発明の一実施形態に係る上記で説明したアルミニ
ウム乾式被覆プロセスで取得可能な被覆層の形態で、前駆体粒子と良好に接触する場合、比較的高いAlドーピングレベルおよび高い結晶性を有するアルミニウム被覆リチウム遷移金属を比較的低い温度で取得してもよいことが、実験により示された。
【0043】
実施例3
他の実施例では、本発明は、望ましくない不純物を低減させる、アルミナ被覆された遷移金属酸化物MO
2前駆体、遷移金属水酸化物M(OH)
2前駆体、または遷移金属オキシ水酸化物MOOH前駆体の熱処理を提供する。アルミニウム乾式被覆前駆体の一用途は、LiNi
0.8Co
0.15Al
0.05O
2などの高ニッケルカソード材料の調製である。そのようなカソードの調製の主な問題は、いくらかの炭酸イオンが混合金属前駆体中に通常存在するので、炭酸イオンによる汚染である。他の問題は、前駆体製造プロセスに由来することが多い硫酸イオン不純物である。さらに、硫酸イオンおよび炭酸イオンは、MOOHなどの非リチウム化前駆体中よりもリチウム化生成物(カソード材料)(LiMO
2)中のほ
うがかなり安定であることが観測された。その理由は、Li
2SO
4およびLi
2CO
3の熱力学的安定性がMSO
4およびMCO
3と比較して増大されるからである。したがって、混合金属前駆体の熱処理は、揮発性のSO
4不純物およびCO
3不純物を除去するのに効果的でありうる。組成Ni
0.85Co
0.15(OH)
2を有する前駆体コア化合物は、実施例2で
説明したのと類似のヒュームドアルミナ(Al
2O
3)で乾式被覆される。乾式被覆前駆体の組成は、Ni
0.85Co
0.15(OH)
2*0.05AlO
1.5である。アルミニウム乾式被覆前駆体は、空気中で400、600、800、または900℃に加熱され、それにより、コアは、被覆酸化物に変換される。熱処理として、5時間および10時間の持続時間が選択される。熱処理後、熱処理された前駆体の硫酸イオン含有率は、ICPにより測定され、炭素含有率は、2つの異なる装置を用いて炭素硫黄分析により測定される。結果を表2にまとめる。
【0044】
【表2】
【0045】
明らかに、T>400℃でNi(OH)
2系(または被覆)前駆体を前処理することに
より、炭酸イオン不純物が低減され、T≧600℃で比較的低い値に達して炭素含有率が200ppm未満になる。硫酸イオン含有率は、700乃至800℃超の温度で劇的に減少する。重量損失は、Ni(OH)
2が分解してNiOを形成することに一致する。X線
分析では、アルミニウム含有相に起因する比較的小さいピークを無視すれば、≧400℃で作製されたすべてのサンプルが基本的には単相のNiOであることが示される。
【0046】
したがって、前駆体を400℃以上で熱処理した場合、前駆体粒子のコアは、遷移金属酸化物である。中温(400℃)では、コアは、依然として、結晶性アルミナナノ粒子を含有する非アモルファス被覆層の残存物により覆われる。より高い温度では、Alの一部がコア中に拡散するが、被覆は残存する。800℃超では、Alはすべて、コア中に拡散した状態になるであろう。
【0047】
次に、
図7を参照すると、アルミナ被覆Ni(OH)
2系前駆体の回折パターン(カウ
ント数毎秒単位の強度が散乱角に対して与えられている)の進展を熱処理温度の関数として示す図が、本発明の一実施形態に従っておよび実施例2の説明に従って示されている。下端の回折パターンは、Al被覆を有しておらず、その次は、Al被覆を有するが温度処理されておらず、次いで、上の4つのパターンは、処理温度を400℃から900℃に上昇させたものである。すべての温度で、単相を観測可能である。600℃のサンプルでは、比較的小さい追加のピークを観測可能であり(
図7の上端から3つ目のパターン)、400℃ではまだ見られなかったアルミニウム含有相の痕跡に帰属することができる。それは、高分解能X線では見えるであろう(たとえば、走査時間を増加させた場合)。600℃でのこの出現に対する1つの可能な説明は、アルミニウム含有相の結晶性が温度の上昇に伴って増加してピークが見えるようになることである。さらに高い約800℃の温度では、おそらくNi−Co−Al固溶体が形成されるため、第2の相は消失した。主な相のX線回折パターンは、単相Ni(OH)
2(熱処理されていない)または単相NiO(熱
処理されている)として表すことができる。明らかに、より高い温度では、コバルトさらにはアルミニウムは、固溶体を形成する。
【0048】
さらに、表2からわかるように、組成Ni
0.85Co
0.15(OH)
2を有するアルミニウ
ム乾式被覆前駆体のモルフォロジーの変化が熱処理時に起こる。比較的高い温度では、モルフォロジーは、スパングル様である。BET表面積は、約400℃で顕著な最大を有する。これは、メソ多孔性マイクロ構造の形成により引き起こされうる。また、色は、緑色から黒色を経て緑色に変化する。
【0049】
以下では、アルミニウム乾式被覆および熱処理が施された前駆体複合物から高品質のニッケル系カソード材料を取得可能であることを示す。高品質は、電池製造業者により課される要件に関連する。それは、単に「良好な電気化学的性能」だけを意味するものではない。電気化学的性能は、多くの性能パラメーターの1つであるにすぎない。そのほかに、製造業者は、低い炭酸イオン含有率または硫黄含有率を要求しうる。典型的には、電気化学的性能のごくわずかな劣化は、不純物レベルを低減できれば、許容されることもある。上記で説明したのと同様に、組成Ni
0.85Co
0.15(OH)
2を有する前駆体コア化合物
は、実施例2で説明したのと類似のヒュームドアルミナ(Al
2O
3)で乾式被覆される。乾式被覆前駆体の組成は、Ni
0.85Co
0.15(OH)
2*0.05AlO
1.5である。アルミニウム乾式被覆前駆体は、空気中で400、600、800、または900℃で熱処理される。熱処理として、5時間および10時間の持続時間が選択される。最終リチウム化生成物のカソード材料を得るために、アルミニウム乾式被覆および熱処理が施された前駆体は、ミル処理されたLiOH*H
2Oと混合され、酸素流動中、750℃で10時間焼
成される。焼結プロセスは、700℃乃至1200℃の温度範囲内であってもよく、空気流動中でも実施することができる。焼結プロセスに続いて、リチウム化材料の電気化学的性質を以下の手順に従って決定する。
【0050】
コイン電池の作製:
最初に、NMP中の活性カソード材料、スーパー ピー(super P)(炭素導電性添加剤)、およびPVDF(バインダー)のスラリーを調製した。活性材:炭素:PVDFの比は、90:5:5であった。スラリーをドクターブレードコーターによりアルミニウム箔シート上に被覆した。空気中120℃で乾燥後、電極をロールプレスし、続いて
、電極ディスクをパンチングした。減圧下90℃で電極をさらに乾燥させた後、グローブボックス内でLi金属アノードを有するコイン電池を組み立てた。
【0051】
コイン電池を以下のように試験した。
1)電圧プロファイルを4.3Vと3.0Vの間でC/10レートで取得する。(1Cレートは、160mA/gの電流に対応する)
2)放電速度性能(C/5 C2、1C、2C、3C)をサイクル2乃至6で測定する。充電速度はC/4である。
3)サイクル7および8では、4.5Vと3.0Vの間でそれぞれC/10およびC/1で放電容量を測定する。
4)サイクル9からサイクル30までは、電池を4.5Vと3.0Vの間でサイクル処理する。充電速度はC/4であり、放電速度はC/2である。
5)サイクル31およびサイクル32では、4.5Vと3.0Vの間でそれぞれC/10および1Cレートで残存可逆容量を再測定する。
【0052】
サイクル2乃至6の放電容量とサイクル1の放電容量との比を比較することにより、速度性能を計算する。サイクル31と6さらにはサイクル32と7の残存可逆容量を比較することにより、フェージング速度を取得する。フェージング速度は、100サイクルあたりの容量損失として表される。
【0053】
電気化学的試験の結果を表3に示し、X線データのRietveld解析の結果を表4にまとめる。
【0054】
【表3】
【0055】
見てわかるように、約400乃至600℃の中温領域で熱処理を行った場合、低減された炭素不純物、高容量、良好なサイクル安定性、または改良された速度により示される最良の結果を達成し得る。したがって、最終生成物の電気化学的性能を犠牲にせずに、前駆体の炭酸イオン不純物を低減することが可能である。温度がより高い場合、低減されたサイクル安定性およびより低い容量が得られるが、低減された硫黄不純物レベルもまた得られる。より高い熱処理温度での性能がより劣る理由の1つは、より低い結晶性であろう。X線データのリートフェルト(Rietveld)精密化処理により(表4)、T>600℃では歪みは有意に増加するが、結晶子サイズは減少することが示される。
【0056】
【表4】
【0057】
実施例4
ニッケル系カソード材料では熱処理前駆体複合物をうまく適用できることが以上で実証されたが、このことは常にあてはまるとは限らない。熱処理前駆体が結晶性共存相に分解した場合、結晶性最終Li−M−O
2カソード材料を形成する反応は、非常に遅く、最終
リチウム化カソード材料は、劣る性能を有する。たとえば、Ni
0.5Mn
0.3Co
0.2O
2前駆体で熱処理温度が400℃を超えた場合、2つの主要な相、すなわち、NiO相およびM
3O
4スピネル相への分解が観測可能であり、温度が600℃を超えた場合、結晶相混合物は、高性能の生成物を達成できない。
【0058】
本発明の一実施形態に係るコイン電池試験の結果を表5に示す。より高い処理温度の場合、前加熱前駆体は、
図8に示されるように、結晶性のNiOおよびM
3O
4スピネルの相混合物である。それにもかかわらず、処理温度<600℃の場合、優れた電気化学的性能を熱処理前駆体から達成することが可能である。おそらく、より高い温度では、良好な性能を達成できない程度まで、相分離が進行したのであろう。明らかに、500℃では、結晶子サイズ(ドメインサイズ)は、高結晶性カソードの形成を可能にするのに十分な程度に小さいが、700℃では、より大きいドメインサイズにより、高結晶性最終カソードが抑制された。
図8は、700℃で熱処理された前駆体のリートフェルト(Rietveld)精密化処理を示している。X線回折パターンは、NiOとM
3O
4スピネルとの混合物により良好にあてはまる。細い実線(回折パターンのすぐ下)は、NiO(精密化処理によれば17質量%)のパターンを示している。その結果、最終LiMO
2への反応は、困
難であり、最終LiMO
2は、劣る結晶性、高い歪み、および劣る電気化学的性能を示す
。表5で明確にわかるように、可逆容量さらには速度性能は、より高い処理温度で劇的に劣化する。
【0059】
【表5】
【0060】
高温での前駆体処理では、典型的には500乃至600℃が、炭酸イオン不純物を効果的に除去するのに十分な程度に高いことが示された。熱処理時、金属前駆体は、表5に見られるように相分解しうる。高すぎる温度では、相分解が進行して(より大きい個別の結晶子を形成して)、問題を引き起こす。この場合、劣る性能のカソードが達成される。しかしながら、より低い温度では、相分解は、それほど進行せず、より小さいスケールで起こり、小さい結晶子は、十分に反応性であるので、得られるカソードは、高結晶性を有し、良好な性能を示す。酸化物を形成しかつ炭酸イオンを放出するのに十分な程度に強いが、同時に、大きい結晶子への完全相分離を回避するのに十分な程度に弱い、熱処理条件を選択することにより、常に炭酸イオン不純物を効率的に除去可能であると考えられる。
【0061】
表2に示される乾式被覆および熱処理が施されたNi
0.85Co
0.15(OH)
2前駆体の
不純物含有率と、表3、4、および5にまとめられた最終リチウム化カソード材料の電気化学的性能と、を比較することにより、一般に、硫黄および炭素の含有率を有意に低減させるのに十分な程度に高い処理温度は、最終リチウム化カソード材料の良好な電気化学的性能を達成するには高すぎることが示される。その結果、Ni含有率が比較的小さいかまたは前駆体複合物がマンガンを含まない場合に限り、硫黄および炭素の不純物を有意に低減させるのに十分な程度に高く(>700℃)、かつ最終リチウム化カソード材料の良好な電気化学的性能を達成するのに高すぎない、熱処理温度を見いだしうる。しかしながら、ほとんどすべての場合、最終カソードの電気化学的性能を犠牲にせずに、熱処理により炭素不純物を低減させることが可能であろう。
【0062】
さらに、本発明の有利な実施形態に係るアルミニウム乾式被覆された粒子状の混合遷移金属酸化物MO
2前駆体、混合遷移金属水酸化物M(OH)
2前駆体、または混合遷移金属オキシ水酸化物MOOH前駆体は、基本的に結晶水を含まない公知の先行技術の前駆体とは正反対である。例として、水酸化物前駆体は、1molの結晶水を有する酸化物として説明可能である。
(M(OH)
2=MO+H
2O)
したがって、水酸化物M(OH)
2は、多量の水を発生し、酸素を必要とする。
M(OH)
2+1/2Li
2CO
3+1/4O
2→LiMO
2+1/2CO
2+H
2O
所要の大流量のガス(サンプルへの酸素、サンプルから離れるCO
2およびH
2O)の操作は、大スケールでは問題である。理想的な反応では、三価金属酸化物が使用されるであろう。
1/2M
2O
3+1/2Li
2CO
3→LiMO
2+1/2CO
2
【0063】
この反応は、ガス(1/4molのO
2の代わりに)を必要とせず、また、かなり少な
いガス(1.5molの代わりに1/2mol)を発生する。このようにして、ガス流量操作を劇的に単純化することが可能である。したがって、本発明に係るアルミニウム乾式被覆および熱処理が施された前駆体は、大スケールの製造時にかなり少ないガス流量を必要とするという利点を有する。このことは、炉内の処理能力を増加させて製造コストを劇的に削減しうること意味する。
【0064】
実施例5
最後に、本発明の上記で説明した実施形態に係る前駆体の熱処理は、原理的には、高ニッケル系前駆体に限定されうるものではなく、さまざまな組成を有する前駆体、たとえば、ニッケルマンガンコバルト(NMC)混合水酸化物前駆体などにも適用することができる。NMC前駆体の場合、炭素不純物は、最終リチウム化生成物の調製時に容易に分解されるので、それほど関心の対象とならない。したがって、この材料では、前駆体中さらには最終リチウム化生成物中の硫黄不純物に重点が置かれうる。
【0065】
たとえば、組成MOOH〔式中、M=Ni
0.5Mn
0.3Co
0.2〕を有する混合金属水酸化物前駆体は、空気中で300、500、700、800、または900℃で10時間熱処理される。前駆体は、アルミニウム乾式被覆されない。リチウム化生成物は、Li
:M=1.027の化学量論比(Li前駆体:Li
2CO
3)を用いて調製され、空気中940℃で10時間焼結される。表6は、熱処理温度の関数として前駆体および最終リチウム化生成物の熱処理後の硫黄含有率を示している。わかるように、前駆体の熱処理は、硫黄含有率を有意に低減させる。さらに、熱処理後の前駆体中に存在する硫黄のほとんどは、最終リチウム化生成物を調製する焼結プロセス時に維持されることが観測されえた。硫黄は、通常の固溶体中に不純物として残存し、前駆体熱処理は、比較的低い硫黄含有率を有する最終リチウム化生成物の取得に不可欠であると結論付けられうる。本実施例では、最終電気化学的性能は、劣化するが、低不純物が必要とされる場合、電池製造業者は、特定の劣化を容認することもありうる。また、当然ながら、異なる組成または変更されたプロセス条件では、劣化は、かなり少ないであろう。
【0066】
炭酸イオンと比較して、硫酸イオン不純物の除去は、一般に、より高い温度を必要とする。より高い温度では、混合酸化物が熱力学的に安定でない場合、相分離は、さらに大きく進行し、大きな相分離結晶子を形成するであろう。したがって、大きな相分離結晶子は、比較的不活性であり、クッキング(混合酸化物とリチウム源との反応)の結果、劣る性能のカソードがもたらされるであろうから、硫黄の除去は、常に可能であるとは限らない。したがって、実用上、硫黄の除去は、単相酸化物を生成する組成物に限定されるであろう。クッキング時、単相酸化物とリチウム源は、高品質カソードの取得を可能にする。たとえば、単相コバルト酸化物が生成するので、硫黄をCo(OH)
2から除去することが
可能である。したがって、硫黄の効果的な除去の条件は、混合酸化物が存在するということである。詳細には触れないが、多種多様な単相混合一酸化物MOを調製することが可能である。他の選択肢では、多種多様な混合スピネル相が存在する。最後に、たとえばNiMnO3のような特別な組成物は、興味深い。
【0067】
【表6】
【0068】
結論
本発明は、乾式被覆プロセス時にアルミニウムで被覆された粒子状の混合遷移金属水酸化物M(OH)
2前駆体または混合遷移金属オキシ水酸化物MOOH前駆体を提供すると
結論付けることが可能である。得られるアルミニウム乾式被覆前駆体は、たとえば、再充電可能なリチウム電池およびリチウムイオン電池のカソード材料の調製に好適である。アルミニウム乾式被覆プロセスを提供することにより、公知の先行技術と比較してアルミニウムのより高いドーピングレベルを達成することができる。被覆手順時、ヒュームドアルミナの結晶構造を維持してもよく、結晶性アルミナナノ粒子を含有する被覆層で各混合遷移金属前駆体粒子のコアを取り囲んでもよい。したがって、本発明に係るアルミニウム乾式被覆前駆体のモルフォロジーは、公知の先行技術の前駆体と比較して改良される。
【0069】
アルミニウム乾式被覆プロセスと組み合わせうる混合金属前駆体の熱処理プロセスを提供することにより、高品質のニッケル系カソード材料を形成すべく使用可能な新規なアルミニウム含有前駆体が得られる。アルミニウム乾式被覆および熱処理が施された前駆体は、非アモルファス酸化アルミニウム被覆層により覆われた遷移金属酸化物コアを有する粒子を含み、先行技術の前駆体と比較して、炭酸イオンおよび/または硫酸イオンの比較的低い不純物レベルを有し、かつより低コストで生成可能である。
【0070】
本発明は、他の選択肢として、以下の項目により記述可能である。
【0071】
1.リチウムイオン電池中の活性正極材料として使用可能なアルミニウム被覆リチウム遷移金属(M)酸化物粉末を製造するための粒子状前駆体複合物であって、前記前駆体複合物の各粒子が、
遷移金属(M)酸化物コアと、
前記コアを覆う非アモルファス酸化アルミニウムAl
2O
3被覆層と、
を含む、粒子状前駆体複合物。
【0072】
2.前記前駆体複合物が、一般式(M酸化物)
a(Al
2O
3)
b〔式中、a+(2×b)=1〕を有すこと、かつ前記遷移金属(M)が、Ni
xMn
yCo
z〔式中、0.3≦x≦0.9、0≦y≦0.45、かつ0<z≦0.4、x+y+z=1〕であり、前記遷移金属(M)が、不可避不純物のみをさらに含むことを特徴とする、項目1に記載の前駆体複合物。
【0073】
3.b≦0.4である、項目2に記載の前駆体複合物。
【0074】
4.y=0である、項目2に記載の前駆体複合物。
【0075】
5.前記被覆層が結晶性アルミナナノ粒子を含有する、項目1に記載の前駆体複合物。
【0076】
6.前記前駆体複合物の炭素含有率が、約400℃超から約600℃以上の比較的低い値に及ぶ温度での前記前駆体複合物の熱処理により低減され、かつ前記前駆体複合物の硫酸イオン含有率が、約700℃以上の温度での前記前駆体の熱処理により低減される、項目1に記載の前駆体複合物。
【0077】
7.前記硫酸イオン含有率が約0.3質量%未満である、項目6に記載の前駆体複合物。
【0078】
8.前駆体複合物が基本的に結晶水を含まないことを特徴とする、項目1に記載の前駆体複合物。
【0079】
9.前記被覆層中の前記アルミニウム濃度が前記コアのサイズの増加に伴って減少する、項目1に記載の前駆体複合物。
【0080】
10.リチウムイオン電池中の活性正極材料として使用可能なアルミニウム被覆リチウム遷移金属(M)酸化物粉末を製造するための粒子状前駆体複合物を調製する方法であって、
体積V1を有する第1の量のアルミナ粉末を提供する工程と、
体積V2を有する第1の量の遷移金属(M)酸化物粉末、遷移金属(M)水酸化物粉末、または遷移金属(M)オキシ水酸化物粉末を前記粒子状前駆体として提供する工程と、
V1+V2=Vとして、前記第1の量のアルミナ粉末を、前記第1の量の遷移金属(M)酸化物、遷移金属(M)水酸化物、または遷移金属(M)オキシ水酸化物と、第1の乾式被覆手順で、混合する工程と、
前記体積Vが、V1とほぼ同一の値を有するV3に減少するまで混合を継続することにより、遷移金属(M)酸化物コア、遷移金属(M)水酸化物コア、または遷移金属(M)オキシ水酸化物コアを、非アモルファス酸化アルミニウムAl
2O
3被覆層で覆う工程と、
前記被覆層により覆われた前記コアを約400乃至800℃の範囲内の温度で熱処理する工程と、
を含む、方法。
【0081】
11.前記熱処理工程が約400乃至600℃の範囲内の温度で行われる、項目10に記載の方法。
【0082】
12.前記被覆層により覆われた前記コアを5時間または10時間の持続時間にわたり前記温度で熱処理する工程をさらに含む、項目10に記載の方法。
【0083】
13.前記前駆体複合物の炭素含有率および硫酸イオン含有率を低減させる工程をさらに含む、項目10に記載の方法。
【0084】
14.アルミニウム乾式被覆前駆体複合物を取得する工程をさらに含み、前記コアが遷移金属酸化物であり、かつ前記コアが前記非アモルファス被覆層により完全に覆われる、項目10に記載の方法。
【0085】
15.前記粒子状前駆体をリチウム前駆体化合物と混合し、かつその混合物を焼結する
工程をさらに含む、項目10に記載の方法。