(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5720922
(24)【登録日】2015年4月3日
(45)【発行日】2015年5月20日
(54)【発明の名称】藻類培養装置
(51)【国際特許分類】
C12M 1/00 20060101AFI20150430BHJP
【FI】
C12M1/00 E
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2010-109393(P2010-109393)
(22)【出願日】2010年5月11日
(65)【公開番号】特開2011-234677(P2011-234677A)
(43)【公開日】2011年11月24日
【審査請求日】2013年2月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】399127603
【氏名又は名称】株式会社日健総本社
(74)【代理人】
【識別番号】100072213
【弁理士】
【氏名又は名称】辻本 一義
(74)【代理人】
【識別番号】100119725
【弁理士】
【氏名又は名称】辻本 希世士
(74)【代理人】
【識別番号】100129975
【弁理士】
【氏名又は名称】上野 康成
(72)【発明者】
【氏名】森 伸夫
(72)【発明者】
【氏名】鷲見 亮
【審査官】
小石 真弓
(56)【参考文献】
【文献】
特開平04−183383(JP,A)
【文献】
特公平07−043153(JP,B2)
【文献】
実用新案登録第3063354(JP,Y2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00−1/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸(4)から放射状に突出させた撹拌羽根(5)により、培養槽(1)内の培養液を撹拌混合させながら、その培養液を循環させるようにした藻類培養装置において、前記撹拌羽根(5)を途中から屈曲させたものとしたり、全体的に湾曲させたものとし、前記撹拌羽根(5)の培養液に浸入する部分(Pa)の少なくとも1/3以上の先端側部分(Pb)のいずれもの部分の培養液の液面への浸入角度(α)を60〜90度にしたことを特徴とする藻類培養装置。
【請求項2】
前記撹拌羽根(5)を途中から屈曲させたものとしたときは、培養槽(1)内の培養液の深さ(D)を20〜30cmとした場合、前記撹拌羽根(5)の培養液への浸入点(a)から撹拌羽根(5)の屈曲点(b)までの深さ(D1 )と、前記屈曲点(b)から撹拌羽根(5)の先端(5a)まで深さ(D2 )との比を1:1〜2:1にし、前記撹拌羽根(5)の屈曲角度(β)を90〜170度にしたことを特徴とする請求項1記載の藻類培養装置。
【請求項3】
前記撹拌羽根(5)を全体的に湾曲させたものとしたときは、培養槽(1)内の培養液の深さ(D)を20〜30cmとした場合、前記撹拌羽根(5)の曲率半径(R)を60〜70cmにしたことを特徴とする請求項1記載の藻類培養装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特にドナリエラ、スピルリナなどの微細藻類の培養に適した藻類培養装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から知られている藻類の培養装置としては、
図8、9に示したように、エアドーム型の温室内に設置されたレースウェイ型の培養槽11内の培養液を撹拌水車12で撹拌混合させながら、その培養槽11内の培養液を循環させるようにしたものが存在する(特許文献1)。
【0003】
さらに、従来の藻類の培養装置としては、
図10に示したように、藻体濃度計21、液深計22、日照量計23などを設けた培養槽24内の培養液をパドル25で撹拌混合させながら、その培養槽24内の培養液を循環させるようにしたものが存在する(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5−184347号公報
【特許文献2】特許第3165499号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に記載された藻類培養装置では、撹拌水車12の回転軸13から放射状に突出した撹拌羽根14の先端部14aの培養液への浸入角度を浅く(約30度)しているため、培養槽11内の培養液を撹拌混合させるときに、撹拌水車12を回転駆動させると、この撹拌水車12の撹拌羽根14で培養液面が強く叩きつけられることになり、培養する藻類の細胞膜が破壊されたり、損傷されたりして、培養効率を高めることができないという問題点を有していた。
【0006】
さらに、上記特許文献2に記載された藻類培養装置でも、パドル25の回転軸26から放射状に突出した撹拌羽根27の先端部27aの培養液への浸入角度を非常に浅く(約5〜10度)しているため、培養槽24内の培養液を撹拌混合させるときに、パドル25を回転駆動させると、このパドル25の撹拌羽根27で培養液面が非常に強く叩きつけられることになり、培養する藻類の細胞膜が破壊されたり、損傷されたりして、培養効率を高めることができないという問題点を有していた。
【0007】
そこで、本発明は、従来の藻類培養装置における問題点を解消するためになされたものであり、撹拌羽根で培養液面が強く叩きつけられることがなく、培養する藻類の細胞膜が破壊されたり、損傷されたりすることがないようにして、培養効率を高め、収穫量を増大させることのできる藻類培養装置を提供することを目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の藻類培養装置は、回転軸4から放射状に突出させた撹拌羽根5により、培養槽1内の培養液を撹拌混合させながら、その培養液を循環させるようにしたものとし、
前記撹拌羽根5を途中から屈曲させたものとしたり、全体的に湾曲させたものとし、前記撹拌羽根5の培養液に浸入する部分Paの少なくとも1/3以上の先端側部分Pbの培養液の液面への浸入角度αを60〜90度にしたものとしている。
【0011】
さらに、本発明の藻類培養装置は、
前記撹拌羽根5を途中から屈曲させたものとしたときは、培養槽1内の培養液の深さDを20〜30cmとした場合、前記撹拌羽根5の培養液への浸入点aから撹拌羽根5の屈曲点bまでの深さD1と、前記屈曲点bから撹拌羽根5の先端5aまで深さD2 との比を1:1〜2:1にし、前記撹拌羽根5の屈曲角度βを90〜170度にしたものとしている。
【0012】
また、本発明の藻類培養装置は、
前記撹拌羽根5を全体的に湾曲させたものとしたときは、培養槽1内の培養液の深さDを20〜30cmとした場合、前記撹拌羽根5の曲率半径Rを60〜70cmにしたものとしている。
【発明の効果】
【0013】
本発明の藻類培養装置は、以上に述べたように構成されており、撹拌羽根で培養液面が強く叩きつけられることがなく、培養する藻類の細胞膜が破壊されたり、損傷されたりすることがなく、培養効率を高め、収穫量を増大させることのできるものとなった。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図2】本発明の藻類培養装置の撹拌羽根の一実施形態を示す説明図である。
【
図3】
図2に示す撹拌羽根の先端が培養液の液面へ浸入した状態を示す説明図である。
【
図4】
図2に示す撹拌羽根の約1/3の先端側部分が培養液の液面へ浸入した状態を示す説明図である。
【
図5】本発明の藻類培養装置の撹拌羽根の他の実施形態を示す説明図である。
【
図6】
図5に示す撹拌羽根の先端が培養液の液面へ浸入した状態を示す説明図である。
【
図7】
図5に示す撹拌羽根の約1/3の先端側部分が培養液の液面へ浸入した状態を示す説明図である。
【
図8】従来の藻類培養装置の一例を示す正面図である。
【
図9】
図8に示す従来の藻類培養装置の平面図である。
【
図10】従来の藻類培養装置の他の例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の藻類培養装置の実施の形態を、図面に基づいて詳細に説明する。
【0016】
本発明の藻類培養装置は、
図1に示したように、培養槽1内の培養液を撹拌水車2で撹拌混合させながら、その培養槽1内の培養液を循環させるようにしている。
【0017】
培養槽1は、図示したものでは、レースウェイ型の培養槽としているが、他の型式の培養槽であっても実施できることはいうまでもない。培養槽1内には仕切板3で仕切られた循環路Cを設け、この仕切板3と培養槽1の壁面1aとの間に撹拌水車2を設置したものとしている。培養槽1内で培養される藻類は、この培養槽1を循環する間に、培養液中の栄養分や太陽光などを得て増殖する。
【0018】
藻類としては、ドナリエラ、スピルリナ、クロレラなどの微細藻類を挙げることができるが、微細藻類に限定されることはない。
【0019】
撹拌水車2は、回転軸4から放射状に複数の撹拌羽根5を突出させたものとしており、これら撹拌羽根5の回転駆動によって、培養槽1内の培養液を撹拌混合させるが、この場合、これら撹拌羽根5の培養液に浸入する部分Paの少なくとも1/3以上の先端側部分Pbの培養液の液面への浸入角度αを60〜90度、好ましくは80〜90度にしている。なお、撹拌羽根5は、回転軸4から放射状に4枚、突設させたものとするのが、撹拌羽根5の先端側部分Pbの浸入角度を前記したように調整するのに好ましいが、4枚に限定されることはない。
【0020】
前記撹拌羽根5の先端側部分Pbの培養液の液面への浸入角度を60〜90度にするには、撹拌羽根5を、途中から屈曲させたものとしたり、全体的に湾曲させたものとすることにより、実施することができる。
【0021】
例えば、
図2〜4に示したように、培養槽1内の培養液の深さDを20〜30cmとした場合、撹拌羽根5を途中から屈曲させたものとした場合は、撹拌羽根5が最も培養液に浸入したときの培養槽1の底面Bから撹拌羽根5の先端5aまでの距離Lを2〜5cmとし、このときの撹拌羽根5の培養液への浸入点aから撹拌羽根5の屈曲点bまでの深さD
11 と、前記屈曲点bから撹拌羽根5の先端5aまで深さD
2 との比を1:1〜2:1にし、前記撹拌羽根5の屈曲角度βを90〜170度にすることができる。
【0022】
また、
図5〜7に示したように、培養槽1内の培養液の深さDを約20〜30cmとした場合、撹拌羽根5を全体的に湾曲させたものとした場合は、撹拌羽根5が最も培養液に浸入したときの培養槽1の底面Bから撹拌羽根5の先端5aまでの距離Lを2〜5cmとし、その撹拌羽根5の曲率半径Rを60〜70cmにすることができる。
【0023】
さらに、撹拌水車3の回転数は、培養槽1内の大きさによって異なるが、
図1に示したように、培養槽1の幅Waを約10m、培養槽1の長さLaを約150m、培養槽1の深さDを約20〜30cmとした約300〜450tのレースウェイ型の培養槽1とした場合で、撹拌水車3の幅Wbを約5mにしたときは、8〜11回転/分とした。
【0024】
このように構成した本発明の藻類培養装置を用いて、ドナリエラの培養を行ったところ、以下のような結果が得られた。
【0025】
培養条件は、ドナリエラ用の一般的な培養液(天然海水に塩化ナトリウム1. 5M、硝酸カリウム2. 0mMおよびリン酸二水素カリウム0. 2mMを溶解させた培養液;pH7〜9)を用い、光源は、太陽光を利用し、屋外培養とした。レースウェイ型の培養槽1の底部からは、二酸化炭素を0.02リットル/分の割合で吹き込み、撹拌水車2の回転数は11回転/分とし、培養期間は20日間、培養液温度は28〜35℃とした。
【0026】
前記培養条件下のドナリエラの収穫量は、培養槽1の深さHを約20cmにしたときでは約33kgとなり、培養槽1の深さHを約30cmにしたときでは約47kgとなった。これは、従来の藻類の培養装置を用いて培養を行った場合のドナリエラの収穫量(培養槽1の深さHを約20cmにしたときでは約25kg、培養槽1の深さHを約30cmにしたときでは約17kg)の約30〜175%の増加となった。
【0027】
よって、本発明の藻類培養装置では、撹拌羽根で培養液面が強く叩きつけられることがないので、培養する藻類の細胞膜が破壊されたり、損傷されたりすることがなく、培養効率を高めることができ、収穫量を増大させることのできるものとなった。
【符号の説明】
【0028】
1 培養槽
4 回転軸
5 撹拌羽根
5a 先端
Pa 培養液に浸入する部分
Pb 先端側部分
a 浸入点
b 屈曲点
D
1 深さ
D
2 深さ
α 浸入角度
β 屈曲角度
R 曲率半径