(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5721080
(24)【登録日】2015年4月3日
(45)【発行日】2015年5月20日
(54)【発明の名称】ダムの放流ゲート
(51)【国際特許分類】
E02B 8/04 20060101AFI20150430BHJP
E02B 7/54 20060101ALI20150430BHJP
【FI】
E02B8/04
E02B7/54 Z
【請求項の数】5
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-267198(P2012-267198)
(22)【出願日】2012年12月6日
(65)【公開番号】特開2014-114550(P2014-114550A)
(43)【公開日】2014年6月26日
【審査請求日】2013年1月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000241290
【氏名又は名称】豊国工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100068618
【弁理士】
【氏名又は名称】萼 経夫
(74)【代理人】
【識別番号】100104145
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 嘉夫
(74)【代理人】
【識別番号】100109690
【弁理士】
【氏名又は名称】小野塚 薫
(74)【代理人】
【識別番号】100135035
【弁理士】
【氏名又は名称】田上 明夫
(74)【代理人】
【識別番号】100131266
【弁理士】
【氏名又は名称】▲高▼ 昌宏
(74)【代理人】
【識別番号】100104385
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 勉
(72)【発明者】
【氏名】恩幣 秀明
(72)【発明者】
【氏名】小方 直樹
【審査官】
▲高▼橋 祐介
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭61−087010(JP,A)
【文献】
特開平04−258407(JP,A)
【文献】
実開平02−097422(JP,U)
【文献】
実開昭59−121028(JP,U)
【文献】
特開2005−171691(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02B 7/54
E02B 8/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
昇降移動することにより放流管の下流側開口を開閉する扉体を備えたダムの放流ゲートであって、
前記扉体を全閉したときにその下端のリップ部が衝合されるよう放流管の底部を下流側に向かって延長させた延長底部と、
前記放流管の下流側開口の側部と扉体との間に配設され、前記放流管の底部に対して下端面が当接される側部水密部材とを備えており、
該側部水密部材は、その下端部の前記扉体と接する側が前記下端面に向かって下流側へ漸次拡大するよう前記扉体の開閉移動方向に対して傾斜する傾斜部を有しており、
前記リップ部は、前記扉体を全閉するときに前記傾斜部と係合して前記下端面を前記放流管の底部に対して押し付ける押し付け部を有していることを特徴とするダムの放流ゲート。
【請求項2】
前記扉体のリップ部と前記延長底部の衝合部分とのいずれかに下部水密部材を設けたことを特徴とする請求項1に記載のダムの放流ゲート。
【請求項3】
前記下部水密部材は、前記扉体を全閉したときに前記側部水密部材と当接されて下部水密部材と側部水密部材との間の水密性を保持する当接部を有することを特徴とする請求項2に記載のダムの放流ゲート。
【請求項4】
前記下部水密部材が前記リップ部に設けられており、該下部水密部材が衝合される被衝合部材を前記延長底部の衝合部分に着脱可能に設けたことを特徴とする請求項2または3のいずれか1項に記載のダムの放流ゲート。
【請求項5】
前記下部水密部材を前記延長底部の衝合部分に着脱可能に設けたことを特徴とする請求項2または3のいずれか1項に記載のダムの放流ゲート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダムの放流ゲートに関し、特に、ダムに設置された放流管の下流側開口を、昇降移動することにより開閉する扉体を備えたダムの放流ゲートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、スライドゲートや、ローラゲート、ラジアルゲート、引張ラジアルゲートなど、ダムに設置される全管路形の放流水路(放流管)の下流端部開口を扉体により開閉するダムの放流ゲートにおいては、一般に放流管の下流側開口に沿って扉体を昇降移動させるよう構成されている。そして、扉体が放流水路の下流側開口を完全に閉鎖したとき(全閉にしたとき)の水密性を保ち水の漏出を防ぐために、例えば特許文献1や特許文献2に開示されているように、扉体と放流管の下流側開口の扉体と対応する周囲端面(戸当り)との間に水密部材が設けられている。このため、扉体は一般に、放流管の下流側開口の戸当りに設けられた水密部材を含めて覆い得る大きさに成形されている。
【0003】
すなわち、従来の技術では、一般に、放流管の下流側開口の戸当りにおける下部にも水密ゴムが設けられており、扉体の下降限が下部の水密ゴムと接するように放流管の下流側開口を超えて設定されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開昭59−19629号公報
【特許文献2】実開昭62−38933号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述したように放流管の下流側開口の戸当りにおける下部にも水密ゴムが設けられた一般的な従来の技術にあっては、特許文献2の明細書第2頁第4行〜同頁第10行にも記載されているように、例えば扉体を全閉の状態から僅かに上昇させたときまたは扉体を全閉の状態とする直前のときなど、扉体の下端縁が下流側開口の下部に位置する水密ゴムよりも僅かに上方に位置する場合には、放流管の下流側開口から放流される水が戸当りと扉体との間で絞られた状態で下向きのジェット水流となって水密ゴムに衝突し、その結果、水密ゴムが破損したり振動するなどの問題があった。
【0006】
本発明は、上述した問題に鑑みてなされたもので、簡単な構成で、扉体を全閉の状態から僅かに上昇させたときまたは扉体を全閉の状態とする直前のときであっても放流管の下流側開口から流出する水流の圧力によって水密部材が損傷することなく、且つ、扉体を全閉の状態としたときに確実に水を流出させることがないように水密性を保つことができるダムの放流ゲートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1のダムの放流ゲートに係る発明は、上記目的を達成するため、昇降移動することにより放流管の下流側開口を開閉する扉体を備えたダムの放流ゲートであって、前記扉体を全閉したときにその下端のリップ部が衝合されるよう放流管の底部を下流側に向かって延長させた延長底部と、前記放流管の下流側開口の側部と扉体との間に配設され、前記放流管の底部に対して下端面が当接される側部水密部材とを備えており、該側部水密部材は、その下端部の前記扉体と接する側が前記下端面に向かって下流側へ漸次拡大するよう前記扉体の開閉移動方向に対して傾斜する傾斜部を有しており、前記リップ部は、前記扉体を全閉するときに前記傾斜部と係合して前記下端面を前記放流管の底部に対して押し付ける押し付け部を有していることを特徴とする。
請求項2のダムの放流ゲートに係る発明は、上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明において、前記扉体のリップ部と前記延長底部の衝合部分とのいずれかに下部水密部材を設けたことを特徴とする。
請求項3のダムの放流ゲートに係る発明は、上記目的を達成するため、請求
項2に記載の発明において、前記下部水密部材は、前記扉体を全閉したときに前記側部水密部材と当接されて下部水密部材と側部水密部材との間の水密性を保持する当接部を有することを特徴とする。
請求項4ダムの放流ゲートに係る発明は、上記目的を達成するため、請求項2または3のいずれか1項に記載の発明において、前記下部水密部材が前記リップ部に設けられており、該下部水密部材が衝合される被衝合部材を前記延長底部の衝合部分に着脱可能に設けたことを特徴とする。
請求項5のダムの放流ゲートに係る発明は、上記目的を達成するため、請求項
2または3のいずれか1項に記載の発明において、 前記下部水密部材を前記延長底部の衝合部分に着脱可能に設けたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
請求項1の発明によれば、扉体を全閉の状態から僅かに上昇させたときまたは扉体を全閉の状態とする直前のとき(微小開度のとき)に、流出する水は、放流管から延長底部と扉体のリップ部との間を通って放流管の下流側に向かって延長された延長底部に沿って流れるため、従来の技術のように放流管の下流側開口の底部の周囲に設けられた水密部材に放流管の下流側開口から流出する水流が衝突することがなく、かかる水流の圧力によって水密部材が損傷するのを防止することができる。そして、扉体を全閉の状態とするとき、扉体のリップ部が放流管の底部を下流側に向かって延長させた延長底部に衝合するため、確実に水を流出させることがないように水密性を保つことができる。そして、全閉のときに扉体のリップ部の押し付け部が前記放流管の下流側開口の側部と扉体との間に配設された側部水密部材の傾斜部と係合してその下端面が放流管の底部に対して押し付けられるため、側部水密部材の下端面と放流管の底部との間から水が漏出するのを確実に防止することができる。
請求項2の発明によれば、請求項1に記載の発明において、前記扉体のリップ部と前記延長底部の衝合部分とのいずれかに下部水密部材を設けたことにより、微小開度のときに放流管の下流側開口から流出する水流が衝突することがなく、かかる水流の圧力によって下部水密部材が損傷するのを防止することができ、また、扉体のリップ部と延長底部との衝合により確実に水密性を保つことができる。
請求項3の発明によれば、請求
項2に記載の発明において、前記下部水密部材は、前記扉体を全閉したときに前記側部水密部材と当接されて下部水密部材と側部水密部材との間の水密性を保持する当接部を有することにより、前記扉体を全閉したときに下部水密部材の当接部が側部水密部材に当接して、下部水密部材と側部水密部材との間から水が漏出するのを確実に防止することができる。
請求項4の発明によれば、請求項2または3のいずれか1項に記載の発明において、前記下部水密部材が前記リップ部に設けられており、該下部水密部材が衝合される被衝合部材を前記延長底部の衝合部分に着脱可能に設けたことにより、放流される水に土砂が混入するなどしてリップ部が衝合される延長底部の衝合部分が摩耗したり損傷した場合であっても、かかる延長底部の衝合部分に設けた被衝合部材を交換することにより容易に修復し、水密性を保ち、水の漏出を確実に防止することができる。
請求項5の発明によれば、請求項
2または3のいずれか1項に記載の発明において、前記下部水密部材を前記延長底部の衝合部分に着脱可能に設けたことにより、放流される水に土砂が混入するなどして下部水密部材が摩耗したり損傷した場合であっても、かかる下部水密部材を交換することにより容易に修復し、水密性を保ち、水の漏出を確実に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明のダムの放流ゲートの実施の一形態を説明するために、扉体が全閉状態(a)と、全閉の状態から僅かに上昇させたときまたは扉体を全閉とする直前の状態(b)を説明するために示した要部断面図である。
【
図2】扉体を全閉した状態を説明するために示した部分拡大縦断側面図である。
【
図3】扉体を全閉して下部水密部材の当接部が側部水密部材に当接した状態を説明するために示した部分拡大横断平面図である。
【
図4】扉体を全閉とする前の状態(a)と、扉体が全閉となり側部水密部材の傾斜部に扉体のリップ部の押し付け部が係合して、側部水密部材の下端面が放流管の底部に対して押し付けられている状態(b)を説明するために示した部分拡大縦断側面図である。
【
図5】下部水密部材をリップ部に設けて、被衝合部材を延長底部の衝合部分に着脱可能に設けた実施の形態を説明するために示した部分拡大縦断側面図である。
【
図6】下部水密部材を延長底部の衝合部分に着脱可能に設けた実施の形態を説明するために示した部分拡大縦断側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の水門の実施の一形態を、主に
図1〜
図4に基づいて説明する。なお、以下の説明において、上流側は図の左方となり、下流側は図の右方となる。
本発明のダムの放流ゲートは、概略、昇降移動することにより放流管1の下流側開口1aを開閉する扉体2と、下流側開口1aと扉体2との間の水密性を保持する水密部材3とを備えており、扉体2を全閉したときにその下端のリップ部20が衝合されるよう放流管1の底部10を下流側に向かって延長させた延長底部15を有している。
なお、この実施の形態では、水密部材3が、扉体2のリップ部20と延長底部15の衝合部分との間に配設された下部水密部材30と、放流管1の下流側開口1aの側部に配設された側部水密部材31と、放流管1の下流側開口1aの上部に配設された上部水密部材32とにより構成されている。
【0011】
この実施の形態における放流管1は、底部10と両側部11と天井部12とを有する断面矩形に成形されており、したがって、放流管1の下流側端部1aの形状も矩形となっている。放流管1の表面は、例えば、ダムを形成するコンクリート14などによって直接構成することができ、また、必要に応じて
図1〜
図4に示したように金属など、コンクリート14とは異なる素材からなる管胴板13で被覆することもできる。さらに、管胴板13の周囲には、管胴板13の補強のためにリングガーダ13aを設けることもできる。
【0012】
図1、
図2、および
図4に示すように、放流管1は、その底部10が管胴板13も含めて下流側(図の右方)に延長されて、延長底部15が形成されている。なお、延長底部15は、必ずしも放流管1の底部10を一体に延長させたものである必要はなく、放流管1の底部10とは別体で構成し、延長底部15を放流管1の底部10と連続させるように放流管1の下流側開口1aに設けることもできる。
【0013】
扉体2は、スキンプレート21の背面に横桁22と縦桁23が設けられることにより構成されている。扉体2の下端にはリップ部20が設けられている。この実施の形態における扉体2としては、巻き上げ装置(図示は省略する)などによって昇降移動するスライドゲートの場合により説明する。
図2〜
図4に示すように、リップ部20の下流側の面に下部水密部材30が配設されている。下部水密部材30は、ほぼ帯状に成形されたもので、下流側の面における上部には係合突条30aが形成されている。下部水密部材30の下流側には板状の押え部材40が配置される。下部水密部材30と押え部材40には、ボルトなどの締結手段41の軸部が挿通されており、リップ部20に対して締結されることにより、押え部材40とリップ部20との間に下部水密部材30が保持されている。
【0014】
下部水密部材30は、例えばゴムなど、弾性を有する素材により構成することができ、
図4の(a)に示すように、延長底部15から離れた状態(扉体2が開いた状態)で、押え部材40およびリップ部20の下端から僅かに突出し、且つ、
図4の(a)に示すように扉体2を全閉から僅かに上昇させたときに延長底部15とリップ部20の上流側下端角部20aとの間から流れる水流Sが直接当らない幅(
図2および
図4における上下方向の高さ)を有する断面矩形の平板状または帯状に成形されている。そして、下部水密部材30の両端部30bは、
図3に示すようにリップ部20の上流側面から露出して、後述するように側部水密部材31の突部31aの下端近傍に接するように屈曲されている。
【0015】
図3に示すように、放流管1の下流側端開口1aの周囲における側部と上部とには、側部水密部材31と上部水密部材32とをそれぞれ取り付けるためのフレーム50が設けられている。側部水密部材31と上部水密部材32は、フレーム50に保持されるベース部31b、32bと、断面においてベース部31b、32bから扉体2と対向する側に突出するよう一体形成された突部31a、32aとを備えている。ベース部31b、32bの下流側端開口1aから見て突部31a、32aよりも外側は、板状の押え部材51が当てられている。押え部材51とベース部31b、32bにはボルトなどの締結部材52の軸部が挿通されており、この締結部材52の軸部の先端がフレーム50に対して締結されることにより、側部水密部材31と上部水密部材32がフレーム50に保持されている。なお、側部水密部材31と上部水密部材32は、連続して一体に構成することができるが、個別に分けて構成することもできる。
【0016】
ここで、側部水密部材31の下端面31cは、放流管1の底部10に対して当接される。そのため、この実施の形態においては、
図2および
図4に示すように、側部水密部材31の下端部は、扉体2と接する側が下端面31cに向かって下流側へ漸次拡大するよう扉体2の開閉移動方向(昇降移動方向)に対して傾斜する傾斜部31dが形成されている。一方、扉体2のリップ部20の、側部水密部材31と対応する側の下端部は、扉体2を全閉するときに傾斜部31dと係合してその下端面31cを放流管1の底部10に対して押し付ける押し付け部20dが、側部水密部材の傾斜部と対応して傾斜するように形成されている。
【0017】
さらに、上述したように(
図3)、リップ部20に設けられる下部水密部材30の両端部30bは、屈曲されてリップ部20の表面からわずかに突出しており、全閉としたときに側部水密部材31の傾斜部31dの突部31aと接合される。
【0018】
次に、上述したように構成されたダムの放流ゲートの作動について説明する。最初に、放流ゲートを全閉とした状態(
図1の(a)、
図2、
図4の(b)を参照)では、扉体2が下降されており、リップ部20に設けられた下部水密部材30が放流管1の延長底部15に当接されている。このとき、リップ部20の押し付け部20dが側部水密部材31の下端の傾斜部31dと係合して、側部水密部材31の下端面31cを放流管1の底部10に対して押し付けており、また、下部水密部材30の両端面30bが側部水密部材31の傾斜部31dの突部31aと接合されている。したがって、扉体2のリップ部20と延長底部15との間は下部水密部材30により、扉体2の側部と放流管1の下流側開口1aの両側部との間は側部水密部材31により、扉体2の上部と放流管1の下流側開口1aの上部との間は上部水密部材32により、そして、側部水密部材31の下端面31cと放流管1の底部10との間は側部水密部材31の傾斜面31dがリップ部20の押し付け部20dによって押し付けられていることにより、さらに、リップ部20と側部水密部材31との間は下部水密部材30の屈曲された両端部30bと側部水密部材31の突部31aとが接合していることにより、水密性を保持されている。そのため、放流管1内の水が不用意に漏出することが確実に防止される。
【0019】
一方、全閉の状態から扉体2を僅かに上昇させた状態(
図1の(b)、
図4の(a)を参照)では、リップ部20に設けられた下部水密部材30が放流管1の延長底部15から離間し、放水管1内の水が放流されることとなる。このとき、水流Sは、
図4の(a)に示したように、延長底部15とリップ部20の上流側下端角部20aとの間から流れる。そして、水流Sの下方は、延長底部15の上面と平行に流れ、水流の上方は、リップ部20の上流側下端角部20aを通過した直後に、かかる上流側下端角部20aによって規制されて縮流効果により一旦下方に流れてから放流水脈の拡散作用により斜め上方に流れるようカーブを描くこととなる。そして、下部水密部材30が弾性を有する素材により構成されており、帯状に成形されており、その下端がリップ部から僅かに突出しているだけにすぎず、リップ部20の下流側の面に取り付けられているため、従来の技術のように放流管の下流側開口の底部の周囲に設けられた水密部材に放流管の下流側開口から流出する水流が衝突することがないことから、水流Sが下部水密部材30の下端に当ることがなく下流に放流される。したがって、従来の技術のように、ジェット状に放流される水の圧力によって下部水密部材30が破損したり振動を発生させることがない。また、下部水密部材30が弾性を失った場合など寿命を迎えた場合には、締結手段41による締結を解除し、押え部材40と共に寿命を迎えた下部水密部材30を取り外して、新たな下部水密部材30を板状の押え部材40と重ねて配置して締結手段41を締結することにより、下部水密部材30を容易に交換することができる。
【0020】
次に、本発明の別の実施の形態を、
図5に基づいて説明する。なお、この実施の形態においては、上述した実施の形態と同様または相当する部分については同じ符号を付してその説明を省略し、異なる部分についてのみ説明することとする。
【0021】
この実施の形態におるダムの放流ゲートは、放流管1の延長底部15の、扉体2のリップ部20に設けられた下部水密部材が衝合される部分に、被衝合部材6が着脱可能に設けられている。
【0022】
被衝合部材6は、ほぼ板状に成形されたもので、下部水密部材30が設けられたリップ部2の幅(両側部の間の長さ)および厚み(上流側の面と下流側の面の間隔)よりも大きい表面を有しており、所定の厚みで成形されている。被衝合部材6は、例えば硬質の石材や金属或いは弾性部材など、放流管1の延長底部15を構成する素材と同じまたは異なる素材により構成することができる。放流管1の延長底部15の下部水密部材30が衝合される部分には、被衝合部材6の表面が延長底部15の表面と同一面を形成するように、被衝合部材6を収容する凹部15aが形成されている。凹部15aに収容された被衝合部材6は、延長底部15の下面から挿通されたボルトなどの締結部材61により締結されている。
【0023】
次に、
図5に基づいて説明した実施の形態におけるダムの放流ゲートの作動について説明する。
ダムの放流ゲートにより放流される水には、土砂や塵芥が混入している場合がある。そして、放流管1の延長底部15は、全閉時にリップ部20が衝合され扉体2の重量を受ける。そのため、土砂などが混入した水を放流したり、延長底部15のリップ部20と衝合されて扉体2の重量を受けることにより、かかる部分が摩耗したり変形することが考えられる。そこで、被衝合部材6が摩耗したり変形した場合には、締結部材61を取り外して延長底部15の凹部15aに収容された被衝合部材6を取り出し、適切な素材からなる新たらしい被衝合部材6を凹部15aに収容して締結部材61を締結して交換することができる。
【0024】
次に、本発明のさらに別の実施の形態を、
図6に基づいて説明する。なお、この実施の形態においては、上述した実施の形態と同様または相当する部分については同じ符号を付してその説明を省略し、異なる部分についてのみ説明することとする。
【0025】
上述した実施の形態においては下部水密部材30が扉体2のリップ部20に設けられるものであったのに対し、この実施の形態においては下部水密部材35が放流管1の延長底部15に着脱可能に設けられている。
【0026】
この実施の形態における扉体2のリップ部20’は、上述した実施の形態のように下部水密部材30を設ける必要はなく、従来の放流管1の下流側開口1aの周囲に水密部材3が設けられた放流ゲートの場合と同様のものを採用することができる。また、この実施の形態における下部水密部材35は、底面の幅(
図6の左右方向)が上面の幅よりも大きくなるよう断面が台形形状の板状に成形されている。下部水密部材35は、上述した実施の形態と同様に、例えばゴムなど、弾性を有する素材により構成することができる。放流管1の延長底部15の、リップ部20’が衝合される部分には、下部水密部材35を収容するための凹部15bが形成されている。凹部15bの上流側側壁は、下部水密部材35の上流側の側面と対応して傾斜するよう成形されている。また、凹部15b内には、下部水密部材の下流側側面との間にスペーサ36が収容される。スペーサ36は、その上流側側壁が下部水密部材35の下流側側壁と対応して傾斜する断面テーパ状に成形されており、また、その下流側側壁が凹部15bの下流側側壁と対応してほぼ垂直に成形されている。下部水密部材35とスペーサ36を凹部15b内に収容して、スペーサ36にボルトなどの締結部材37の軸部を挿通し、締結部材37を延長底部15に締結することにより、下部水密部材35を凹部15b内に固定することができる。凹部15bの深さは、その内部に下部水密部材35とスペーサ36を固定した状態で、延長底部15の表面と下部水密部材35およびスペーサ37の上面とが同一平面を形成するように設定されている。
【0027】
次に、
図6に基づいて説明した実施の形態におけるダムの放流ゲートの作動について説明する。最初に、放流ゲート1を全閉とした状態では、扉体2が下降されており、リップ部20’が延長底部15に設けられた下部水密部材35に当接されていることにより、扉体2のリップ部20’と延長底部15との間の水密性が保持されている。そのため、放流管1内の水が不用意に漏出することが確実に防止される。また、延長底部15に下部水密部材35を設けるので、下部水密部材35を備えていない従来のリップ部20’を有する扉体2を採用することもできる。また、下部水密部材35とスペーサ36の上面が延長底部15の上面と同一表面を形成することにより、扉体2を上昇させるなどして放流管1内の水を放流する場合に、従来の技術のように放流管の下流側開口の底部の周囲に設けられた水密部材に放流管の下流側開口から流出する水流が衝突することがないことから、発生するジェット水流によって下部水密部材35が損傷したり振動を発生させたりするのを防止することができる。
【0028】
そして、リップ部20’が衝合されたり放流する水に土砂が含まれることに起因して下部水密部材35が摩耗したり変形した場合には、締結部材37を延長底部15から取り外してスペーサ36を凹部15bから取り出すことにより、下部水密部材35を凹部15bから取り出し、また、新たな下部水密部材35を凹部15bに収容してからスペーサ36を再度凹部15bに収容し、締結部材37をスペーサ36に挿入して延長底部15に締結することにより、下部水密部材35を交換することができる。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明は、扉体がスライドゲートである場合に限定されることはなく、ローラゲートや、ラジアルゲート、引張ラジアルゲートなど、他の形式の放流ゲートにも適用することができる。扉体がローラゲートである場合には、扉体の側部にローラが設けられ、このローラを受けるためのガイドが放流管の下流側開口の側部に設けられる。また扉体がラジアルゲートや引張ラジアルゲートである場合には、これらラジアルゲートや引張ラジアルゲートを構成する扉体の曲率に応じて放流管の下流側開口が円弧状に成形される。
【0030】
また、本発明は、放水管が断面矩形である場合に限定されることはなく、例えば断面楕円など、他の断面形状の放流管の下流側開口を開閉するための放流ゲートにも適用することができる。
【符号の説明】
【0031】
1:放流管、 1a:下流側開口、 2:扉体、 6:被衝合部材、 10:底部、 15:延長底部、 20:リップ部、 20d:押し付け部、 30:下部水密部材、 31:側部水密部材、 31c:下端面、 31d:傾斜部、 35:下部水密部材