(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5721083
(24)【登録日】2015年4月3日
(45)【発行日】2015年5月20日
(54)【発明の名称】トルク容量及びトルク密度を高めた差動装置
(51)【国際特許分類】
F16H 48/14 20060101AFI20150430BHJP
F16H 48/22 20060101ALI20150430BHJP
【FI】
F16H48/14
F16H48/22
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-522266(P2012-522266)
(86)(22)【出願日】2010年7月27日
(65)【公表番号】特表2013-500448(P2013-500448A)
(43)【公表日】2013年1月7日
(86)【国際出願番号】IB2010001830
(87)【国際公開番号】WO2011012972
(87)【国際公開日】20110203
【審査請求日】2013年6月28日
(31)【優先権主張番号】12/509,624
(32)【優先日】2009年7月27日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】390033020
【氏名又は名称】イートン コーポレーション
【氏名又は名称原語表記】EATON CORPORATION
(74)【代理人】
【識別番号】100068618
【弁理士】
【氏名又は名称】萼 経夫
(74)【代理人】
【識別番号】100104145
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 嘉夫
(74)【代理人】
【識別番号】100109690
【弁理士】
【氏名又は名称】小野塚 薫
(74)【代理人】
【識別番号】100135035
【弁理士】
【氏名又は名称】田上 明夫
(74)【代理人】
【識別番号】100131266
【弁理士】
【氏名又は名称】▲高▼ 昌宏
(72)【発明者】
【氏名】ラドゼヴィッヒ、ステファン、ピー.
【審査官】
中村 大輔
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許第03264900(US,A)
【文献】
特開2007−032835(JP,A)
【文献】
特開昭58−184322(JP,A)
【文献】
実開昭48−078528(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 48/14
F16H 48/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジング(12)と、該ハウジング(12)に支持される差動機構(38)とを備えた自動車用のロッキングデファレンシャル(10)であって、
前記差動機構(38)は、互いに軸方向に離れた関係に配置され、かつ、前記ハウジング(12)に回転可能に支持される一対のクラッチ部材(40)と、対応する一対のアクスルハーフシャフト(30,32)と共に回転する一対のサイドギヤ(42,44)と、それぞれ対応する一対のクラッチ部材(40)と前記サイドギヤ(42,44)との間に作動可能に配置される一対のクラッチ機構(48,50)とを含んでおり、
前記一対のクラッチ部材(40)は、前記ハウジング(12)内で軸方向に移動可能であり、前記アクスルハーフシャフト(30,32)間の差動運動が所定量の場合に、それぞれのクラッチ機構(48,50)を係合して、前記アクスルハーフシャフトと一体に結合し、
前記一対のクラッチ部材(40)の各々は、それぞれ互いに対面関係に配置された溝(64)を有する内側に向いた面(62)を有し、横ピン(66)が前記溝(64)内に受け入れられ、かつ、前記ハウジング(12)に作動連結されて該ハウジング(12)と共に回転し、
前記溝(64)の各々は、所定の第1曲率半径(RG)を形成し、前記横ピン(66)は、第2曲率半径(RP)を形成し、前記溝(64)の所定の第1曲率半径(RG)は、前記横ピン(66)の所定の第2曲率半径(RP)より大きく、前記横ピン(66)と前記溝(64)との間の接触が前記横ピン(66)の軸に沿って延びる直線を形成し、
前記溝(64)の各々は、互いに対して横方向に延びる一対の平面状の作動面(74)を含み、前記溝(64)の所定の前記第1曲率半径(RG)は、前記作動面(74)に接合することを特徴とするロッキングデファレンシャル。
【請求項2】
前記作動面(74)は、互いに対して鈍角で延びていることを特徴とする請求項1に記載のロッキングデファレンシャル。
【請求項3】
前記一対のクラッチ機構(48,50)の各々は、前記サイドギヤ(42,44)に共に回転するように支持される複数の摩擦ディスク(54)と、対応する一方の前記クラッチ部材(40)に共に回転するように支持され、かつ、複数の摩擦ディスク(54)の間に介在される複数のプレート(58)とを有する摩擦クラッチ部材を含み、前記クラッチ機構(48,50)は、押圧されて、前記摩擦ディスク(54)を隣接する前記プレート(58)に係合させて、前記クラッチ部材(40)を関連した一方の前記サイドギヤ(42,44)に結合するように作動可能であることを特徴とする請求項1に記載のロッキングデファレンシャル。
【請求項4】
前記溝(64)は中心線(CL)を形成し、前記横ピン(66)は前記横ピン(66)の両側に配置された作動面(74)に係合することを特徴とする請求項1に記載のロッキングデファレンシャル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に、自動車用のロッキングデファレンシャルに関し、より具体的には、所与のサイズの差動装置に対してトルク容量及び密度の増加をも
たらすロッキングデファレンシャル機構に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明によって意図される形式のロッキングデファレンシャルは、駆動系の一部として用いられ、一般に、ハウジング内で支持されて回転する一対のクラッチ部材を含む。一対のサイドギヤは、対応するアクスルハーフシャフトにスプライン結合されて回転する。クラッチ機構は、クラッチ部材とサイドギヤとの間に介在される。横ピンは、ハウジングに作動するように取付けられて回転し、クラッチ部材の内向きに対向する面上に形成された一対の対向する溝内に受け入れられる。アクスルハーフシャフト間の差動回転が過度の場合、例えば、1つのタイヤが滑りやすい路面上で支持されるとき、横ピンが関連したクラッチ部材に作用して、クラッチ機構と係合し、これによって、一対のアクスルハーフシャフトを結合する。
【0003】
更に、この形式のロッキングデファレンシャルは、概してそれらに意図された目的のために働くが、ある欠点を有している。より具体的には、差動装置の部品の寸法は、それによって伝達可能なトルク量によって決定づけられることが多い。一般的に、高トルクの要求は、より大きく、より丈夫な、例えば、横ピン、クラッチ部材等の部品を必要とする。この設計上の制限は、あらゆる適用例において要求される所与のトルク容量及び密度に対して最終的に差動装置のコストを増加させることになる。
【0004】
従って、関連する部品の寸法を大きくする必要がなく、トルク容量及び密度を増加させ、それにより差動装置のコストを減少するように設計されるロッキングデファレンシャルの技術における必要性は依然として残っている。
【発明の概要】
【0005】
本発明は、ハウジングと、ハウジングに支持される差動機構とを含む自動車用のロッキングデファレンシャルにおける従来技術の欠点を打開する。差動機構は、互いに軸方向に離れた関係に配置され、かつ、ハウジングに支持されて回転する一対のクラッチ部材を含む。一対のサイドギヤは、対応する一対のアクスルハーフシャフトと共に回転して作動する。一対のクラッチ部材は、それぞれ対応する一対のクラッチ部材とサイドギヤとの間に作動可能に配置される。クラッチ部材は、ハウジング内で軸方向に移動可能であり、アクスルハーフシャフト間の差動運動が所定量の場合に、クラッチ機構を係合させて、アクスルハーフシャフトを一体に結合する。一対のクラッチ部材の各々は、内側に向いた面を有する。各面は、溝を含み、この溝は他の溝に対して対面する関係に配置されている。横ピンは、溝内に受け入れられ、ハウジングに連結されてハウジングと共に回転する。溝の各々は、所定の第1曲率半径を形成する。横ピンは、第2曲率半径を形成し、溝の所定の第1曲率半径は、横ピンの所定の第2曲率半径より大きい。横ピンと溝との間の相互関係により、横ピンと溝との間の接触は、横ピンの軸に沿って延びる直線を形成する。
【0006】
通常、アクスルハーフシャフト間が差動運動しない、例えば、車両が直線路を走行するとき、全部品が一体に回転するので、線接触は、横ピンとクラッチ部材との間でトルクを伝達するのに充分過ぎるほどである。しかしながら、アクスルハーフシャフトのいずれか一方とこれに関連したサイドギヤとの間の差動運動がある場合に、横ピンは、溝の対して移動して、対向する一対の作動面に係合する。溝の曲率半径を横ピンの曲率半径よりも大きくすることは、差動運動の開始時に横ピンのクラッチ部材の作動面への動作の抵抗を減らす。従って、横ピンと溝との間のこの特有の相互関係は、差動時に生じる衝撃を減らす。その結果、差動装置の作動を円滑にし、かつ、横ピンとクラッチ部材の溝との間の摩耗を減少させる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
本発明の他の目的、特徴及び利点は、容易に理解され、添付図に関連して次の記述を読んだ後、よりよく理解されるであろう。
【0008】
【
図1】駆動系の駆動軸、ピニオンギヤ及びリングギヤを破線で示すロッキングデファレンシャルの断面図である。
【
図2】クラッチ部材に対する横ピンの配置を示すロッキングデファレンシャルの断面図である。
【
図5】従来技術において公知の横ピンと溝との間の相互関係を示す断面図である。
【
図6】本発明の関連する横ピンの曲率半径より大きい曲率半径の溝を有するクラッチ部材を示す端面の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明によって意図される形式のロッキングデファレンシャルの一実施形態は、
図1及び2に全体として符号10で示される。ロッキングデファレンシャル10は、動力装置を有する車両のいくつかの駆動系の一部として用いるように設計され、動力装置は、車両に動力を供給するために使用する。それ故に、差動装置10は、全体として12で示されるハウジングを含む。ハウジング12は、リングギヤ14を支持でき、リングギヤ14は、駆動軸18に固定されるピニオンギヤ16に噛合い関係で駆動されるように設計される。リングギヤ14、ピニオン16及び駆動軸18は、
図1において、破線で示される。ハウジング12は、本体20とキャップ22から構成でき、キャップ22は、一対の環状の嵌合フランジ部24A,24Bにボルト26又は適切な締結機構を通して本体20に固定して取付けられる。また、リングギヤ14は、嵌合フランジ24A,24Bに締結具26を通してハウジング12に取付けることができる。ハウジングは、関連技術において公知の従来構造によって形成でき、また、本発明が本体及びキャップ部によって形成されるハウジングに限定されないことは、当業者なら次の記述から理解するであろう。同様に、ハウジング12は、関連技術において公知のあらゆる従来の駆動系によって駆動でき、また、本発明は、リングギヤ、ピニオン及び駆動軸を用いて駆動されるハウジングに限定されない。
【0010】
本体20は、一対のアクスルハーフシャフト30,32の一方のアクスルハーフシャフト30を支持するハブ28を形成する。同様に、キャップ22は、一対のアクスルハーフシャフトの他方のアクスルハーフシャフト32を支持する対向したハブ34を形成する。同時に、ハウジング12の本体20及びキャップ22は、協働してキャビティー36を形成する。全体として符号38で示される差動機構は、ハウジング12よって形成されるキャビティー36に支持される。また、差動機構38は、
図3の分解図に示され、互いに軸方向に離れた関係に配置される一対のクラッチ部材40を含む。クラッチ部材40は、ハウジング12に作動するように支持されて回転する。一対のサイドギヤ42,44は、対応する一対のアクスルハーフシャフト30,32の一方と共に回転するようになっている。この目的のため、サイドギヤ42,44は、その内周上にスプライン46を形成し、このスプライン46が対応するアクスルハーフシャフト30,32上に形成されたスプラインに係合する。一対のクラッチ機構48,50は、それぞれ対応する一対のクラッチ部材40とサイドギヤ42,44との間に作動可能に配置される。この目的のため、サイドギヤ42,44は、その外周上にスプライン52を含む。クラッチ機構48,50は、複数の摩擦ディスク54を含み、摩擦ディスク54は、サイドギヤ42,44の外周に協働するようにスプライン結合されて、それと共に回転可能である。同様に、一対のクラッチ部材40の各々は、その内周上に形成される複数のスプライン56を含む。一連のプレート58は、クラッチ部材40の内周スプライン上に作動可能に支持され、かつ、サイドギヤ42,44上に支持される複数の摩擦ディスク54間に介在される。以下に詳細に説明するように、一対のクラッチ部材40は、ハウジング12内で軸方向に移動可能であり、アクスルハーフシャフト間の差動運動が所定量の場合に、各クラッチ機構48,50を係合し、関連したアクスルハーフシャフト30,32を一体に結合する。また、本発明によって意図される形式のロッキングデファレンシャルの一実施形態は、複数の付勢部材60を用いることができ、付勢部材60は、対向するクラッチ部材40間に配置され、対向するクラッチ部材に形成されたポケット61に受け入れられて、これらのクラッチ部材40を互いに離れる方向に付勢する。
【0011】
一対のクラッチ部材40の各々は、互いに軸方向に離れた関係に配置される内側に向いた面62を有する。
図3,4及び6に最も良く示されるように、一対のクラッチ部材40の内側に向いた面62の各々は、全体として符号64で示される溝を含み、これらの溝64は、互いに対向して配置される。横ピン66は、溝64に受け入れられ、ハウジング12に作動連結されて回転する。また、この目的のため、差動装置10は、ハウジング12の本体20の内周にスプライン結合される中空の取付スリーブ68を含む(
図2)。横ピン66は、このために、スリーブ68に形成された対応する開口部70で中空のスリーブに固定される。しかしながら、横ピン66があらゆる適切な方法でハウジング12と共に回転して作動するように取付けられることは、ここに記載されたことから当業者は理解するであろう。
【0012】
図6に最も良く示されるように、溝64の各々は、第1曲率半径R
Gを有する円弧と、溝64の両側から互いに横方向に延びる
平面状の作動面74と
を形成する。溝64は、一対の作動面74の間に配置されて、一対の
作動面74を作動可能に相互連結する。更に、一実施形態では、作動面は、互いに対して鈍角θで延びる。一方、横ピン66は、第2曲率半径R
Pを形成する。その作動モードにおいて、横ピン66は、作動面74に係合して、クラッチ部材40を軸方向外側に動かし、それによって、クラッチ機構48,50を係合させ、その結果、以下により詳細に説明するように、アクスルハーフシャフト30,32を一体に結合する。
【0013】
より具体的には、上述の形式の差動装置は、それに取付けられたアクスルハーフシャフト30,32の間で、ある程度の制限された滑りを許容する。しかしながら、自動車の状況において、例えば、一のタイヤが堅固に支持され、他のタイヤが、スリップしているとき(例えば、一方のタイヤが車道上にあり、他方が、氷などのような滑りやすい路面上にある場合)、差動装置は、スリップしているタイヤから堅固に支持されたタイヤにトルクを伝達するように作動する。この差動装置のトルク伝達は、横ピン66が溝64の中心線C
Lの両側に配置された溝64の作動面74に係合して、関連したクラッチ部材40を移動させて、関連したクラッチ機構48,50に係合させ、これにより、空転しているタイヤのアクスルハーフシャフト30,32を他方の堅固に支持されたタイヤのアクスルハーフシャフトに結合したときに生じる。このようにして、トルクは、スリップしているタイヤから堅固に支持されたタイヤに伝達され、これにより、タイヤの1つがスリップしても、自動車を駆動できるようにする。この作動様態において、横ピン66に係合される対向する作動面74は、溝64を二分する中心線C
Lの両側に配置されている(
図4)。
【0014】
アクスルハーフシャフト間が差動運動していない場合、
図6に示されるように、横ピン66は、クラッチ部材40の溝64内に配置されている。これは、
図5に示されるように、従来技術において一般的に用いられる差動機構と比べられる。ここでは、溝Gの底部は、横ピンPと略同じ曲率半径を有する。この配置において、横ピンとクラッチ部材Cの溝とは、互いに面接触している。しかしながら、差動装置の全部品が一体に回転するとき、これらの部品間の差動がないので、溝Gとクラッチ部材Cとの間の面接触は、重要でない。しかし、
図5に示され、従来技術に一般的に用いられる形式の面接触は、差動運動が要求されたとき、横ピンPがクラッチ部材Cに対する移動に抵抗する。この動きに対する抵抗は、衝撃を引起し、かつ、部品間の摩耗を増大する。
【0015】
一方、上で述べたように、本発明は、所定の第1曲率半径R
Gを形成する溝64を有する一対のクラッチ部材40と、第2曲率半径R
Pを形成する横ピン66とを含む。溝64の所定の第1曲率半径R
Gは、横ピン66の所定の第2曲率半径R
Pより大きい。これにより、横ピン66と溝64との間の接触は、横ピン66の軸に沿って延びるラインを形成する。
【0016】
通常、アクスルハーフシャフト30,32間が差動運動しない、例えば、車両が直線路を走行するとき、全部品が一体に回転するので、線接触は、横ピン66とクラッチ部材40との間でトルクを伝達するのに充分過ぎるほどである。しかしながら、アクスルハーフシャフト30,32のいずれか一方とこれに関連するサイドギヤ42,44との間で差動運動がある場合、横ピン66は、溝64に対して移動して、対向する一対の作動面に係合する。横ピン66よりも大きい曲率半径R
Gを有する溝64は、差動運動の開始時に、横ピン66のクラッチ部材40の作動面74への動作の抵抗を減らす。従って、横ピン66と溝64との間のこの特有の相互関係は、差動時に生じる衝撃を減らす。その結果、差動装置の作動を円滑にし、かつ、横ピン66とクラッチ部材40の溝64との間の摩耗を減少させる。
【0017】
本発明は、上記の明細書に極めて詳細に記載され、本発明の様々な変更及び改良は、明細書を読み、理解することにより、当業者に明白になるだろうと考えられる。すべてのこのような変更及び改良は、添付の特許請求の範囲の技術的範囲内に入る限り、本発明に含まれるものとする。