特許第5721093号(P5721093)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5721093
(24)【登録日】2015年4月3日
(45)【発行日】2015年5月20日
(54)【発明の名称】崩壊錠
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/7034 20060101AFI20150430BHJP
   A61K 9/20 20060101ALI20150430BHJP
   A61K 47/10 20060101ALI20150430BHJP
   A61K 47/38 20060101ALI20150430BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20150430BHJP
   A61K 47/32 20060101ALN20150430BHJP
   A61K 47/36 20060101ALN20150430BHJP
   A61K 47/42 20060101ALN20150430BHJP
【FI】
   A61K31/7034
   A61K9/20
   A61K47/10
   A61K47/38
   A61P3/10
   !A61K47/32
   !A61K47/36
   !A61K47/42
【請求項の数】5
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2009-286388(P2009-286388)
(22)【出願日】2009年12月17日
(65)【公開番号】特開2010-163428(P2010-163428A)
(43)【公開日】2010年7月29日
【審査請求日】2012年11月13日
(31)【優先権主張番号】特願2008-321257(P2008-321257)
(32)【優先日】2008年12月17日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】592142670
【氏名又は名称】佐藤製薬株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】591144132
【氏名又は名称】バイエル薬品株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100082005
【弁理士】
【氏名又は名称】熊倉 禎男
(74)【代理人】
【識別番号】100084009
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 信夫
(74)【代理人】
【識別番号】100084663
【弁理士】
【氏名又は名称】箱田 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100093300
【弁理士】
【氏名又は名称】浅井 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100136249
【弁理士】
【氏名又は名称】星野 貴光
(72)【発明者】
【氏名】松井 清隆
(72)【発明者】
【氏名】林 邦弘
(72)【発明者】
【氏名】多々良 光敏
(72)【発明者】
【氏名】山之内 由佳
【審査官】 深草 亜子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−269513(JP,A)
【文献】 特開平11−035451(JP,A)
【文献】 特開2003−261440(JP,A)
【文献】 特開2001−342128(JP,A)
【文献】 特開2003−055197(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/7034
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
口腔内崩壊錠の製造方法であって、下記工程:
(1)アカルボースと、エリスリトールと、マンニトールとを混合する工程、
(2)25℃における相対湿度75%下での平衡水分含量が5〜20%であり、かつ、20質量%水溶液の37℃における粘度が100〜2000cpsであるヒドロキシプロピルセルロースの非水性溶液を用いて、(1)で得られた混合物を湿潤させ、その後乾燥する工程、及び
(3)(2)で得られた混合物を口腔内崩壊錠へと成形する工程、
を含み、
該口腔内崩壊錠が、該口腔内崩壊錠の総質量に対してアカルボースを15〜50質量%含み、かつ
該口腔内崩壊錠の空隙率が10〜40%である
ことを特徴とする、製造方法。
【請求項2】
前記口腔内崩壊錠が水不溶性崩壊剤を含まない、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記水不溶性崩壊剤が、クロスポビドン、クロスカルメロースナトリウム、カルメロースカルシウム、カルメロース、カルボキシメチルスターチナトリウム、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、デンプン、部分α化デンプン、コーンスターチ、ヒドロキシプロピルスターチ、結晶セルロース及びゼラチンからなる群より選ばれる、請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記口腔内崩壊錠が、
エリスリトールを、該口腔内崩壊錠の総質量に対して60〜84質量%含み、
マンニトールを、該口腔内崩壊錠の総質量に対して1〜20質量%含み、
25℃における相対湿度75%下での平衡水分含量が5〜20%であり、かつ、20質量%水溶液の37℃における粘度が100〜2000cpsであるヒドロキシプロピルセルロースを、該口腔内崩壊錠の総質量に対して0.8〜2質量%含み、
更に、該口腔内崩壊錠の口腔内崩壊時間が30秒以内である、
請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
工程(1)〜(3)を、水を用いることなしに行う、請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は崩壊錠及びその製造方法に関する。より詳しくは、吸湿性薬物を含みつつ、崩壊性、強度及び安定性に優れた崩壊錠及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、製剤には種々の薬物が使用されているが、これら薬物のうち、吸湿性を有する吸湿性薬物は、夏期高温時にしばしば潮解を起こすことが知られており、その取扱いが問題となっている。
【0003】
また、従来、服用後に体内(例えば、口腔内)で容易に崩壊する崩壊錠が知られている。現在のところ崩壊錠に関する統一された定義はないものの、一般的には服用後に体内で速やかに崩壊する機能を有する錠剤のことをいうものとされている。経口服用される口腔内崩壊錠の場合、期待される崩壊時間は一般的に、口腔内で咀嚼することなしに5〜60秒以内であるとされている。崩壊錠(特に口腔内崩壊錠)は、水なしでの服用が可能であるので、服用者(特に、嚥下能力の低い幼児や高齢者等)にとって非常に有用な錠剤である。
【0004】
崩壊錠としては、例えば、錠剤の空隙率を大きくするか、又は、錠剤へ崩壊剤を配合することにより、服用時に体液(例えば、嚥下時の唾液)と接触した際に体液中の水分を急速に吸収させて崩壊性を発揮させるもの等が考案されている(例えば、特許文献1〜4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−2326号公報
【特許文献2】国際公開第WO95/20380号パンフレット
【特許文献3】特許第2919771号公報
【特許文献4】特公平第7−39340号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、錠剤の空隙率を大きくした場合、錠剤自体の強度が低下するため、搬送中や保存容器から取り出す際に錠剤が欠ける等して取扱いが不便になる問題がある。
また、崩壊剤を配合した場合、崩壊剤自体の水分吸収性が大きいため、水分吸収による錠剤の強度低下を防ぐために服用時まで水分との接触をできるだけ避けなければならないという取扱い上の制約がある。
【0007】
これらの問題は、大気中の水分を吸収して軟化及び変質し易い吸湿性薬物を配合した錠剤ではより深刻な問題である。
【0008】
かかる状況下、本発明が解決しようとする課題は、吸湿性薬物を配合しつつも、崩壊性と強度と薬物安定性とを兼ね備えた崩壊錠を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を達成するため、本発明者らは、吸湿性薬物を含有する崩壊錠について鋭意検討した結果、吸湿性薬物にエリスリトールとマンニトールと所定のヒドロキシプロピルセルロースとを配合すると、崩壊性と強度と薬物安定性とを兼ね備えた崩壊錠が得られることを見いだした。本発明はこの知見に基づいてなされたものである。
すなわち、本発明は
(1)25℃における相対湿度75%下での平衡水分含量が10〜20%の薬物と、エリスリトールと、マンニトールと、25℃における相対湿度75%下での平衡水分含量が5〜20%であり、かつ、20質量%水溶液の37℃における粘度が100〜2000cpsであるヒドロキシプロピルセルロースとを含む崩壊錠であって、該崩壊錠の総質量に対して該薬物を15〜50質量%含み、かつ、該崩壊錠の空隙率が10〜40%であることを特徴とする、崩壊錠;
(2)前記薬物が、相対湿度75%下での平衡水分含量が10〜18%の薬物である、前記(1)記載の崩壊錠;
(3)前記薬物がアカルボースである、前記(1)又は(2)記載の崩壊錠;
(4)口腔内崩壊錠である、前記(1)〜(3)のいずれかに記載の崩壊錠;
(5)水不溶性崩壊剤を含まない、前記(1)〜(4)のいずれかに記載の崩壊錠;
(6)前記水不溶性崩壊剤が、クロスポビドン、クロスカルメロースナトリウム、カルメロースカルシウム、カルメロース、カルボキシメチルスターチナトリウム、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、デンプン、部分α化デンプン、コーンスターチ、ヒドロキシプロピルスターチ、結晶セルロース及びゼラチンからなる群より選ばれる、前記(5)に記載の崩壊錠;
(7)崩壊錠の製造方法であって、下記工程:
(i)25℃における相対湿度75%下での平衡水分含量が10〜20%の薬物と、エリスリトールと、マンニトールとを混合する工程、
(ii)25℃における相対湿度75%下での平衡水分含量が5〜20%であり、かつ、20質量%水溶液の37℃における粘度が100〜2000cpsであるヒドロキシプロピルセルロースの非水性溶液を用いて、(i)で得られた混合物を湿潤させ、その後乾燥する工程、及び
(iii)(ii)で得られた混合物を崩壊錠へと成形する工程を含み、該崩壊錠が、該崩壊錠の総質量に対して該薬物を15〜50質量%含み、かつ該崩壊錠の空隙率が10〜40%であることを特徴とする、製造方法。
(8)前記(7)記載の製造方法に従い得られる、崩壊錠
に関するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の崩壊錠は、後述する実施例で示されるように、吸湿性薬物を配合した場合であっても崩壊性と強度及び薬物安定性とを兼ね備えている。したがって、本発明は従来の崩壊錠にあった取扱い上の不便性を解消し、崩壊錠の一層の利用拡大を図ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に本発明を詳細に説明する。
本発明の崩壊錠に用いる薬物は、25℃における相対湿度75%下での平衡水分含量が10〜20%の薬物である。
薬物の平衡水分含量は、25℃における相対湿度75%下で10〜20%、好ましくは10〜18%である。25℃における相対湿度75%下での平衡水分含量が10〜20%の薬物は一般的に吸湿性薬物であると理解されており、本発明はかかる吸湿性薬物を配合した場合でも、崩壊性と強度及び薬物安定性とを兼ね備えた崩壊錠を提供することができる。
本明細書において、25℃における相対湿度75%下での平衡水分含量とは以下の手順に従い決定される値をいう。
測定対象薬物を105℃で2時間乾燥した後、約5gを取り、その質量(W1)を測定する。質量測定後の測定対象薬物を、飽和食塩水を用いて25℃における相対湿度を75%に調整したデシケーター中で72時間放置した後、その質量(W2)を測定する。W1及びW2に基づき以下の計算式より平衡水分含量(%)を算出する。
平衡水分含量(%)=(W2−W1)/W1×100
【0012】
本発明に用いる薬物は前述の相対湿度の条件を満たし、かつ、錠剤による投与が可能なものであれば特に制限はない。薬物は全身作用性であってもよく、局所作用性であってもよい。
【0013】
本発明で用いられる薬物としては、固形状、結晶状、油状、溶液状など何れのものでもよく、例えば滋養強壮保健薬、解熱鎮痛消炎薬、向精神薬、抗不安薬、抗うつ薬、催眠鎮静薬、鎮痙薬、中枢神経作用薬、脳代謝改善剤、脳循環改善剤、抗てんかん剤、交感神経興奮剤、胃腸薬、制酸剤、抗潰瘍剤、鎮咳去痰剤、鎮吐剤、呼吸促進剤、気管支拡張剤、アレルギー用薬、歯科口腔用薬、抗ヒスタミン剤、強心剤、不整脈用剤、利尿薬、血圧降下剤、血管収縮薬、冠血管拡張薬、末梢血管拡張薬、高脂血症用剤、利胆剤、抗生物質、化学療法剤、糖尿病用薬、骨粗しょう症用剤、抗リウマチ薬、骨格筋弛緩薬、鎮けい剤、ホルモン剤、アルカロイド系麻薬、サルファ剤、痛風治療薬、血液凝固阻止剤、抗悪性腫瘍剤などから選ばれた成分が用いられる。
これらのなかでは糖尿病用薬が好ましい。糖尿病用薬としてはアルファグルコシダーゼ阻害薬があげられる。アルファグルコシダーゼ阻害薬の具体例としては、アカルボース及びボグリボース等があげられる。アカルボースが特に好ましい。
【0014】
本発明で使用する薬物は公知化合物であり、市場において容易に入手可能であるか、又は、合成可能である。
又、薬物は、単独で又は2種以上の組み合わせで使用することができる。
【0015】
本発明の崩壊錠における薬物の含量は、使用する薬物の種類等に依存して変化するが、崩壊錠の総質量に対して15〜50質量%、好ましくは15〜30質量%である。15〜50質量%であると、崩壊性、強度及び安定性が並立した崩壊錠を得ることができる。
【0016】
本発明の崩壊錠に用いるエリスリトールは、崩壊錠へ配合可能なものであれば特に制限はない。
エリスリトールは公知化合物であり、市場において容易に入手可能である。
本発明の崩壊錠におけるエリスリトールの含量は、薬物の成形性等に依存して変化するが、崩壊錠の総質量に対して40〜84質量%、好ましくは60〜84質量%である。40〜84質量%であると、崩壊性と強度と薬物安定性とを兼ね備えた崩壊錠を得ることができる。
【0017】
本発明の崩壊錠に用いるマンニトールは、崩壊錠へ配合可能なものであれば特に制限はない。
マンニトールは公知化合物であり、市場において容易に入手可能である。
本発明の崩壊錠におけるマンニトールの含量は、薬物の成形性等に依存して変化するが、崩壊錠の総質量に対して0.5〜44.5質量%、好ましくは1〜20質量%である。0.5〜44.5質量%であると、崩壊性と強度と薬物安定性とを兼ね備えた崩壊錠を得ることができる。
【0018】
本発明の崩壊錠に用いるヒドロキシプロピルセルロースは、25℃における相対湿度75%下での平衡水分含量が5〜20%であり、かつ、20質量%水溶液の37℃における粘度が100〜2000cpsであるヒドロキシプロピルセルロースである。
ヒドロキシプロピルセルロースの平衡水分含量は、25℃における相対湿度75%下で5〜20%、好ましくは5〜15%である。平衡水分含量が5〜20%であると、吸湿性薬物を配合した場合でも、崩壊性と強度及び薬物安定性とを兼ね備えた崩壊錠を提供することができる。
本明細書において、25℃における相対湿度75%下での平衡水分含量とは、前述の「薬物の平衡水分含量」と同じ手順で決定される値をいう。
【0019】
ヒドロキシプロピルセルロースの粘度は、20質量%水溶液の37℃における粘度で100〜2000cps、好ましくは100〜500cpsである。20質量%水溶液の37℃における粘度が100〜2000cpsであると、吸湿性薬物を配合した場合でも、崩壊性と強度と薬物安定性とを兼ね備えた崩壊錠を提供することができる。
本明細書においてヒドロキシプロピルセルロースの20質量%水溶液の37℃における粘度とは、第十五改正日本薬局方一般試験法記載の「粘度測定法 第2法 回転粘度計法」に従い測定される値をいう。
【0020】
本発明に用いるヒドロキシプロピルセルロースは前述の平衡水分含量及び粘度の条件を満たし、かつ、錠剤による投与が可能なものであれば特に制限はない。
上記性質を有するヒドロキシプロピルセルロースの具体例としては、日本曹達から商品名:HPC−SSL(25℃における相対湿度75%下での平衡水分含量が10%、20質量%水溶液の37℃における粘度:200cps)として入手可能なものなどが挙げられる。
【0021】
上記のヒドロキシプロピルセルロースは公知化合物であり、市場において容易に入手可能であるか、又は、合成可能である。
又、ヒドロキシプロピルセルロースは、単独で又は2種以上の組み合わせで使用することができる。
【0022】
本発明の崩壊錠におけるヒドロキシプロピルセルロースの含量は、薬物の成形性等に依存して変化するが、崩壊錠の総質量に対して0.5〜5質量%、好ましくは0.8〜2質量%である。0.5〜5質量%であると、崩壊性と強度と薬物安定性とを兼ね備えた崩壊錠を得ることができる。
【0023】
本発明の崩壊錠は、好ましくは水不溶性崩壊剤を含まない。
水不溶性崩壊剤における水不溶性とは、第十五改正日本薬局方通則記載の測定方法に従い、水不溶性崩壊剤1gを20℃の精製水にて30分間強く振り混ぜ溶かすのに要する精製水の量が1000mL以上であることをいう。
水不溶性崩壊剤における崩壊性とは、製した製剤について、第十五改正日本薬局方一般試験法記載の「崩壊試験法」に従い、定められた条件で試験したときに、製剤が崩壊することをいう。
【0024】
水不溶性崩壊剤の具体例としては、クロスポビドン(1−エテニル−2−ピロリジノンホモポリマー)、クロスカルメロースナトリウム、カルメロースカルシウム、カルメロース、カルボキシメチルスターチナトリウム、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース(例えば、ヒドロキシプロポキシル基含量が5〜16重量%)、デンプン、部分α化デンプン、コーンスターチ、ヒドロキシプロピルスターチ、結晶セルロース、ゼラチン等が挙げられる。
上述の水不溶性崩壊剤は水分を吸収して崩壊作用を発揮するので、崩壊錠に配合しないことにより、吸湿性薬物の変性をより低減し、かつ、錠剤強度をより高くすることができる。
【0025】
本発明の崩壊錠は10〜40%の空隙率を有する。空隙率は好ましくは20〜40%、である。崩壊錠の空隙率が10〜40%であると、服用時に体液(例えば、嚥下時の唾液)と接触した際に体液中の水分を急速に吸収して優れた崩壊性を発揮することができる。
空隙率は下記式に従い求められる値である。
空隙率(%)=(V−W/M)/V×100
V:崩壊錠の体積(cm3
W:崩壊錠の質量(g)
M:崩壊錠の密度(g/cm3

崩壊錠の密度(M)は以下の手順に従い決定される値をいう。崩壊錠を乳鉢に移し粉末にしたものを試料とする。粉末試料約5gを取り、その質量(W2)を測定する。ピクノメーター(島津製作所製 商品名:ヘリウム比重計1302)を用いて質量測定後の粉末試料の体積(V2)を測定する。測定したW2及V2の値に基づき、以下の計算式より密度(M)を算出する。
崩壊錠の密度(g/cm3)=W2/V2
【0026】
本発明の崩壊錠には、必要に応じて滑沢剤や着色剤等を添加することができる。
添加剤としては、以下の物質が挙げられる。
滑沢剤
フマル酸ステアリルナトリウム、ステアリン酸マグネシウム、ショ糖脂肪酸エステル
滑沢剤の含量は、薬物の成形性等に依存して変化するが、崩壊錠の総質量に対して0.001〜10質量%である。
着色剤
黄色三二酸化鉄、三二酸化鉄、食用色素、食用レーキ色素
【0027】
本発明の崩壊錠は、以下の工程(1)〜(3):
(1)25℃における相対湿度75%下での平衡水分含量が10〜20%の薬物と、エリスリトールと、マンニトールとを混合する工程、
(2)25℃における相対湿度75%下での平衡水分含量が5〜20%であり、かつ、20質量%水溶液の37℃における粘度が100〜2000cpsであるヒドロキシプロピルセルロースの非水性溶液を用いて、(1)で得られた混合物を湿潤させ、その後乾燥する工程、及び
(3)(2)で得られた混合物を崩壊錠へと成形する工程、
を含む方法により製造することができる。
【0028】
工程(1)〜(2)は、製剤分野で慣用の造粒機、例えば流動層造粒・コーティング装置や撹拌混合造粒機等を用いて行うことができる。
工程(2)で用いるヒドロキシプロピルセルロースの非水性溶液は、ヒドロキシプロピルセルロースを非水性溶媒に溶解させて得られる溶液である。非水性溶媒としては、例えば、エタノールやメタノール等があげられる。ヒドロキシプロピルセルロースは水性溶媒にも溶解するが、水性溶媒に含まれる水分を吸湿性薬物が吸収することによる変性や崩壊錠の強度低下を防ぐため本発明では非水性溶媒を使用する。非水性溶液におけるヒドロキシプロピルセルロース濃度は好ましくは5〜20%である。非水性溶媒の乾燥は、30〜90℃、好ましくは60℃で行うことができる。
工程(2)では、ヒドロキシプロピルセルロースの非水性溶液を用いて工程(1)で得られた混合物中の各成分(薬物、エリスリトール及びマンニトール)の表面を湿潤させ、乾燥させることにより、ヒドロキシプロピルセルロースで被覆された各成分(薬物、エリスリトール及びマンニトール)の混合物が得られる。
得られた混合物は、工程(3)に付する前に整粒装置を用いて、例えば、0.5〜5mm、好ましくは0.8〜2mmに粒径を調節してもよい。また、工程(3)に付する前に滑沢剤を添加してもよい。
工程(3)は製剤分野で慣用の打錠機、例えば単発錠剤機やロータリー式打錠機等を用いて行うことができる。工程(2)で得られた混合物から錠剤への成形は前述の崩壊錠の空隙率(10〜40%)を達成できるように、最低限の圧力、例えば、0.1〜10kN/cm2、好ましくは0.3〜5kN/cm2で実施する。また、通常の打錠法を用いることができるが、外部滑沢打錠法を使用することもできる。外部滑沢打錠を行う装置としては菊水製作所製のELSP1などがある。
任意に、工程(3)で得られた錠剤を加湿及び乾燥工程に付することにより、各成分(薬物、エリスリトール及びマンニトール)を被覆するヒドロキシプロピルセルロースの溶融及び固化を引き起こし、崩壊錠の強度を更に高めてもよい。但し加湿工程は、水分による吸湿性薬物の変性や崩壊錠の強度低下が起こらない条件(例えば、温度50℃、相対湿度90%の加湿槽内に錠剤を2分間)で行わなければならない。乾燥は製剤分野で慣用の乾燥方法、例えば、真空乾燥や流動層乾燥等を用いて行うことができる。
【0029】
本発明の崩壊錠の厚さは、適用対象の種類等に依存して変化するが、口腔内に適用する場合1〜8mm、好ましくは3〜6mmである。1〜8mmであると、服用時の異物感を抑制することができる。
本発明の崩壊錠の形状は、適用対象の種類等に依存して変化するが、矩形、丸形、楕円形等である。丸形、楕円形であると、摂取時の異物感が抑制される点で好ましい。
本発明の崩壊錠は、一般的には口腔内へ適用されるが、口腔以外の部位、例えば、腸粘膜、結膜嚢、鼻、咽頭、膣等へ適用することもできる。
また、本発明の崩壊錠は、含まれる薬物の性質に依存して、全身作用及び局所作用の何れをも目的として使用することができる。
【実施例】
【0030】
以下に、実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、これらは本発明を限定するものではない。
【0031】
実施例
アカルボース(上記測定方法に従い測定(比較例も同様)した25℃における相対湿度75%下での平衡水分含量:17%)(Bayer HealthCare)75g、エリスリトール(日研化成)283.5gおよびマンニトール(東和化成工業)9gを攪拌混合造粒機(パウレック社製、VG−1)に仕込んで混合した。次いで、25℃における相対湿度75%下での平衡水分含量が10%(上記測定法に従い測定(比較例も同様))であり、かつ、20質量%水溶液の37℃における粘度が200cps(上記測定方法に従い測定(比較例も同様))であるヒドロキシプロピルセルロース(日本曹達、商品名:HPC−SSL)3.75gを含む溶液(溶媒:エタノール;ヒドロキシプロピルセルロース濃度:10%)を用いて混合物中の各成分の表面を湿潤させ、60℃にて通風乾燥した後、16メッシュスクリーンを用いて粒径1mmに調粒した。次いで、滑沢剤としてフマル酸ステアリルナトリウム(木村産業)3.75gを添加して、混合した。得られた混合末を、打錠機CP−12HUK(菊水製作所製)(杵9mmφ)を用いて、錠剤質量250mg、錠剤厚み4.2mm、形状:丸形に打錠(打錠圧:1kN/cm2)した後、温度50℃、相対湿度90%の加湿槽内に錠剤を2分間放置した。次いで、60℃にて通風乾燥した。得られた錠剤は水不溶性崩壊剤を含んでいなかった。前述の式に従い求めた錠剤の空隙率(比較例も同様)は23%であった。
【0032】
比較例1
ヒドロキシプロピルセルロースとして、25℃における相対湿度75%下での平衡水分含量が9%であり、かつ、20質量%水溶液の37℃における粘度が9000cpsであるヒドロキシプロピルセルロース(日本曹達)3.75gを用いたことを除いて、実施例と同様にして錠剤を製造した。得られた錠剤の空隙率は22%であった。
【0033】
比較例2
ヒドロキシプロピルセルロースの代わりに3.75gのマルトース(25℃における相対湿度75%下での平衡水分含量が7%、20質量%水溶液の37℃における粘度が2cps)(林原商事)を用いたことを除いて、実施例と同様にして錠剤を製造した。得られた錠剤の空隙率は21%であった。
【0034】
実施例及び比較例の錠剤について、製造直後及び開封後放置を想定した条件(25℃、相対湿度75%で3時間)における硬度(崩壊錠の強度の指標)及び口腔内崩壊時間(崩壊錠の崩壊性の指標)を測定した。試験法は下記の通りである。

硬度(N)
木屋式硬度計((株)木屋製作所製)を用いて25℃における相対湿度45〜55%下で測定した。錠剤10錠について測定を行い、その平均値を硬度(N)とした。

口腔内崩壊時間(秒)
1名のパネラーが錠剤を舌と上顎との間にはさみ、咀嚼をせずに、錠剤の形状が認識されなくなるまでの時間を測定した。錠剤3錠について測定を行い、その平均値を口腔内崩壊時間(秒)とした。
【0035】
測定結果を以下の表1に示す。
【表1】
【0036】
崩壊錠に求められる強度及び崩壊性の合格基準として、硬度20N以上及び口腔内崩壊時間30秒以内と設定した場合の結果を以下の表2に示す。
【表2】
○:合格
×:不合格
【0037】
実施例の錠剤について、製造直後、並びに、1箇月、3箇月及び6箇月間保存した後のアカルボース含量を測定して、吸湿性薬物の安定性を評価した。保存容器はPTP+アルミ袋であった。保存は相対湿度75%、40℃下で行った。アカルボース含量の測定は第十五改正日本薬局方一般試験法記載の「液体クロマトグラフィー」に従って行った。結果を以下の表3に示す。表3の値は、錠剤1錠(250mg)中のアカルボース含量(錠剤20錠を用いて、3回測定を行った平均値)である。
【表3】
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明の崩壊錠は医薬として利用可能である。