(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記アーム結合部は、前記第1の端子と、前記第2の端子と、前記第1の端子と前記第2の端子との間の巻線上に位置する中間タップである前記第3の端子と、を有する3端子結合リアクトル、からなる請求項1に記載の電力変換器。
前記アーム結合部は、互いに直列接続される2つのリアクトルであって、前記直列接続される2つのリアクトルの一方の端子である前記第1の端子と、前記直列接続される2つのリアクトルの他方の端子である前記第2の端子と、前記直列接続された2つのリアクトルの直列接続点である前記第3の端子と、を有する2つのリアクトル、からなる請求項1に記載の電力変換器。
前記基本波成分生成手段は、前記第1のアーム内の全ての前記チョッパセルに流入する電力の平均値および前記第2のアーム内の全ての前記チョッパセルに流入する電力の平均値がともにゼロであると仮定したときにそれぞれ算出される前記第1のアーム内の1個あたりの前記直流コンデンサの電圧値と前記第2のアーム内の1個あたりの前記直流コンデンサの電圧値との差と、前記第1のアーム内の全ての前記直流コンデンサの電圧値を平均して得られた値と前記第2のアーム内の全ての前記直流コンデンサの電圧値を平均して得られた値との差と、を用いて前記基本波成分を生成する請求項1に記載の電力変換器。
前記直流成分生成手段は、前記第1のアーム内の全ての前記チョッパセルに流入する電力の平均値および前記第2のアーム内の全ての前記チョッパセルに流入する電力の平均値がともにゼロであると仮定したときに算出される1個あたりの前記直流コンデンサの電圧値と、全ての前記直流コンデンサの電圧値を平均して得られた値と、を用いて前記直流成分を生成する請求項1に記載の電力変換器。
前記制御手段は、前記第1のアーム内の全ての前記直流コンデンサの電圧値を平均して得られた値に、前記第1のアーム内の各前記直流コンデンサの電圧値をそれぞれ追従させる制御、および、前記第2のアーム内の全ての前記直流コンデンサの電圧値を平均して得られた値に、前記第2のアーム内の各前記直流コンデンサの電圧値をそれぞれ追従させる制御、をさらに実行する請求項1〜7のいずれか一項に記載の電力変換器。
【背景技術】
【0002】
実装が容易で大容量・高圧用途に適した次世代トランスレス電力変換器として、モジュラーマルチレベルカスケード変換器(Modular Multilevel Cascade Converter:MMCC)がある(例えば、非特許文献1〜4参照。)。
【0003】
モジュラーマルチレベルカスケード変換器は、複数の双方向チョッパセルもしくはフルブリッジ変換器セルを直列接続してアームを構成する点に特長がある。絶縁等の問題を除けば、直列セル数を増やすことにより、半導体スイッチを高耐圧化することなく、交流出力電圧を増大を図るとともに電圧および電流のリプルを抑制することが可能であり、高電圧かつ大容量の電力変換器として期待されている。モジュラーマルチレベルカスケード変換器は、実装が容易で、装置の小型軽量化を実現できることから、系統連系用電力変換器や、誘導電動機ためのモータドライブ装置など用途が想定されている。
【0004】
図13は、モジュラーマルチレベルカスケード変換器の主回路構成を示す回路図であり、
図14は、モジュラーマルチレベルカスケード変換器の一構成要素であるチョッパセルを示す回路図、
図15は、モジュラーマルチレベルカスケード変換器の一構成要素である3端子結合リアクトルを示す回路図である。以降、異なる図面において同じ参照符号が付されたものは同じ機能を有する構成要素であることを意味するものとする。また、各相の回路構成、動作原理および制御方法は同様であるため、以下、主としてu相について説明する。
【0005】
図13に示すモジュラーマルチレベルカスケード変換器1は、u相、v相およびw相の電圧形フルブリッジ電力変換器である。モジュラーマルチレベルカスケード変換器1の直流側(直流リンク)には、大容量の平滑コンデンサ(図示せず)が接続され、直流電圧が印加される。直流電圧は必ずしも固定値である必要はなく、例えばダイオード整流器に起因する低次高調波成分やスイッチングリプル成分を含んでいても構わない。したがって、平滑コンデンサは省略可能である。
【0006】
ここでは一例として、各アームを構成するセルを双方向チョッパセルとする。
図13に示すモジュラーマルチレベルカスケード変換器1のu、vおよびw各相は、
図14に示すチョッパセル11−jと、
図15に示す3端子結合リアクトル12とで構成される。
図13に示す例では、各相におけるチョッパセルの個数を8としており(つまりj=1〜8)、このため、モジュラーマルチレベルカスケード変換器1の出力は、相電圧が9レベル、線間電圧が17レベルのPWM波形となる。なお、
図13におけるチョッパセル11−jについては、理解を容易にするために、
図14に示すチョッパセル11−jにおける直流コンデンサCを当該チョッパセル11−jの外側に記載している。
【0007】
図14に示すように、チョッパセル11−jは、2つの半導体スイッチSW1およびSW2と、直流コンデンサCとを有する2端子回路であり、双方向チョッパの一部とみなせる。チョッパセル11−jは、2つの半導体スイッチSW1およびSW2は互いに直列接続され、これに、直流コンデンサCが並列接続されることで構成される。2つの半導体スイッチSW1およびSW2のうち、図示の例では半導体スイッチSW2の各端子が、当該チョッパセル11−jの出力端となる。本明細書では、u相の場合、直流コンデンサの電圧値をv
Cju(ただし、j=1〜8)、チョッパセル11−jの出力電圧(すなわち、半導体スイッチSW2の両端の電圧)の値を、v
ju(ただし、j=1〜8)と定義する。
【0008】
上述のように、モジュラーマルチレベルカスケード変換器1は電圧形インバータとしても機能するため、各半導体スイッチSW1およびSW2は、それぞれ、オン時に一方向に電流を通す半導体スイッチング素子Sと、この半導体スイッチング素子に逆並列に接続された帰還ダイオードDと、で構成される。半導体スイッチング素子Sは例えばIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)である。
【0009】
u相における8個のチョッパセル11−1〜11−8のうち、チョッパセル11−1〜11−4は、それぞれの出力端を介してカスケード接続される。本明細書では、これを第1のアーム(arm)2u−Pと称する。また、チョッパセル11−5〜11−8は、それぞれの出力端を介してカスケード接続される。本明細書では、これを第2のアーム2u−Nと称する。v相およびw相についても同様であり、それぞれ、第1のアーム2v−Pおよび第2のアーム2v−N、ならびに第1のアーム2w−Pおよび第2のアーム2w−Nが構成される。本明細書では、u相については、第1のアームに流れる電流をi
Pu、第2のアームに流れる電流をi
Nu、v相については、第1のアームに流れる電流をi
Pv、第2のアームに流れる電流をi
Nv、w相については、第1のアームに流れる電流をi
Pw、第2のアームに流れる電流をi
Nw、と定義し、以下、「アーム電流」と称する。
【0010】
3端子結合リアクトル12(以下、単に「結合リアクトル12」と称する。)は、第1の端子a、第2の端子b、および、第1の端子aと第2の端子bとの間の巻線上に位置する中間タップである第3の端子cを有する。u相について言えば、結合リアクトル12の第1の端子aには第1のアーム2u−Pが、結合リアクトル12の第2の端子bには第2のアーム2uーNが、それぞれ接続される。結合リアクトル12の第3の端子cは、モジュラーマルチレベルカスケード変換器1のu相の交流側入出力端子として動作する。同様に、v相について言えば、結合リアクトル12の第1の端子aには第1のアーム2v−Pが、結合リアクトル12の第2の端子bには第2のアーム2vーNが、それぞれ接続され、結合リアクトル12の第3の端子cは、モジュラーマルチレベルカスケード変換器1のv相の交流側入出力端子として動作する。また、w相について言えば、結合リアクトル12の第1の端子aには第1のアーム2w−Pが、結合リアクトル12の第2の端子bには第2のアーム2wーNが、それぞれ接続され、結合リアクトル12の第3の端子cは、モジュラーマルチレベルカスケード変換器1のw相の交流側入出力端子として動作する。つまり、u、vおよびw各相の各結合リアクトル12の第3の端子cが、モジュラーマルチレベルカスケード変換器1のu、vおよびw各相の交流側入出力端子として動作する。これら交流側入出力端子には、モジュラーマルチレベルカスケード変換器1を、例えば系統連系用電力変換器として用いる場合には連系リアクトルが接続され、またあるいはモータドライブ装置として用いる場合には誘導電動機が接続される。
【0011】
本明細書では、モジュラーマルチレベルカスケード変換器1のu相、v相およびw相の各交流側入出力端子を介して流入する電流を、それぞれ、i
u、i
vおよびi
uで表わし、以下、「交流電流」と称する。
【0012】
また、u相において、第1のアーム2u−Pおよび第2のアーム2u−Nの、結合リアクトル12が接続されない側の各端子は、直流側入出力端子として動作する。同様に、v相においては、第1のアーム2v−Pおよび第2のアーム2u−Nの、結合リアクトル12が接続されない側の各端子が、w相においては、第1のアーム2w−Pおよび第2のアーム2w−Nの、結合リアクトル12が接続されない側の各端子が、それぞれ直流側入出力端子として動作することになる。
【0013】
図13に示したモジュラーマルチレベルカスケード変換器1の変形例として、3端子結合リアクトルを、通常のリアクトル(すなわち、非結合リアクトル)を用いたものもある。
図16は、モジュラーマルチレベルカスケード変換器の別の例の主回路構成を示す回路図であり、
図17は、
図16に示すモジュラーマルチレベルカスケード変換器内のリアクトルの配置例を示す回路図である。この例では、第1のアーム2u−P内にチョッパセル11−j(ただし、j=1〜4)とリアクトル12−1とを備え、第2のアーム2u−N内にチョッパセル11−j(ただし、j=5〜8)とリアクトル12−1とを備える。第1のアーム2u−Pにおいては、4個のチョッパセル11−j(ただし、j=1〜4)が、当該チョッパセルが有する出力端を介してカスケード接続されるとともに、リアクトル12−1が、互いにカスケード接続されたチョッパセル間の任意の位置に接続される。また、第2のアーム2u−Nにおいては、4個のチョッパセル11−j(ただし、j=5〜8)が、当該チョッパセルが有する出力端を介してカスケード接続されるとともに、リアクトル12−2が、互いにカスケード接続されたチョッパセル間の任意の位置に接続される。
図16に示すモジュラーマルチレベルカスケード変換器1においては、リアクトル12−1については、一方の端子にチョッパセル11−4が接続され、他方の端子にはリアクトル12−2が接続される。また、リアクトル12−2については、一方の端子にリアクトル12−1が接続され、他方の端子にはチョッパセル11−5が接続される。第1のアーム2u−Pおよび第2のアーム2u−Nの、互いが接続されない側の各端子は、直流側入出力端子として動作する。また、第1のアーム2u−Pと第2のアーム2u−Nとの接続端子が、モジュラーマルチレベルカスケード変換器1のu相の交流側入出力端子として動作する。なお、これ以外の回路構成要素については
図13に示す回路構成要素と同様であるので、同一の回路構成要素には同一符号を付して当該回路構成要素についての詳細な説明は省略する。
【0014】
図16に示すような非結合リアクトルを用いたモジュラーマルチレベルカスケード変換器1においては、リアクトル12−1および12−2は、互いにカスケード接続されたチョッパセル11−j間の任意の位置に接続される。
図17(a)は、
図16に示す第1のアームを示したものであるが、リアクトルの配置位置の他の例として、例えば
図17(b)に示すように、チョッパセル11−1の、直流側入出力端子として動作する側の端子に接続してもよい。また例えば、
図17(c)に示すように、チョッパセル11−3とチョッパセル11−4との間に接続してもよい。第2のアームについても同様である。
【0015】
一般に、系統連系用電力変換器は、当該電力変換器の交流側の電圧と当該電力変換器に流出入する交流電流との位相差に応じて、順変換器動作もしくは逆変換器動作、あるいはコンデンサ動作もしくはインダクタ動作といった種々の動作モードが存在する。
【0016】
例えば
図13において、モジュラーマルチレベルカスケード変換器1は、有効電力が流入する場合は順変換器として動作し、有効電力が流出する場合は逆変換器として動作する。また、モジュラーマルチレベルカスケード変換器1は、無効電力が流入する場合はインダクタとして動作し、無効電力が流出する場合はコンデンサとして動作する。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明では、モジュラーマルチレベルカスケード変換器外には流出しないでモジュラーマルチレベルカスケード変換器内で循環する電流(以下、「循環電流」と称する。)に着目して、モジュラーマルチレベルカスケード変換器の各セルにおける直流コンデンサの電圧を制御する。このように本発明において直流コンデンサを制御するためのパラメータとして循環電流を用いるのは、「直流コンデンサの電圧の時間平均値は循環電流を制御すれば一定に保つことができるものであること」、および、「過渡現象や高調波などの外乱により生じる直流コンデンサの電圧の時間平均値の偏差すなわち電圧リプルは、モジュラーマルチレベルカスケード変換器の構造上、原理的に発生してしまうものであって、循環電流に起因するものであるということ」が以下に説明する本発明者による解析により明らかとなったからである。
【0027】
なお、以下の第1および第2の実施例については、主としてu相に関して説明するが、v相およびw相についても同様に適用できる。また、各実施例では、ここでは一例として、各アームを構成するセルを双方向チョッパセルとするが、フルブリッジ変換器セルであってもよい。各実施例では、チョッパセルの個数は8個としたが、本発明はこれに限定されるものではなく、チョッパセルの個数はこれ以外であってもよい。
【0028】
図1は、本発明の第1の実施例によるモジュラーマルチレベルカスケード変換器を示す回路図である。
図1に示すモジュラーマルチレベルカスケード変換器1の、制御部以外の回路構成は、
図14に示した回路構成と同様であり、チョッパセル11−jは
図15に示されたものであり、アーム結合部として3端子結合リアクトル12は
図16に示されたものである。チョッパセル11−j(ただし、j=1〜8)内の各半導体スイッチSW1およびSW2が、オン時に一方向に電流を通す半導体スイッチング素子Sと、半導体スイッチング素子Sに逆並列に接続された帰還ダイオードDと、を有する点も同様である。
【0029】
図1に示すように、モジュラーマルチレベルカスケード変換器1の各チョッパセル11−j内の半導体スイッチSW1およびSW2のスイッチング動作の指示に用いられるスイッチング信号は、参照符号10で示されるDSPによる演算処理によって生成される。公知の検出器によって検出された、モジュラーマルチレベルカスケード変換器1の第1のアーム2u−P、2v−Pおよび2w−Pを流れるアーム電流i
Pu、i
Pv、およびi
Pw、第2のアーム2u−N、2v−Nおよび2w−Nを流れるアーム電流i
Nu、i
Nv、およびi
Nw、各チョッパセル11−jにおける直流コンデンサの電圧v
Cju、v
Cjv、v
Cjw、モジュラーマルチレベルカスケード変換器1の直流入出力端子E
PおよびE
N間に印加される電圧(直流リンク電圧)V
dc、ならびに、モジュラーマルチレベルカスケード変換器1の交流側入出力端子を介して流出入する各相の交流電流i
u、i
v、およびi
wが、DSP10に入力され、演算処理が実行される。
【0030】
図2は、本発明の第1の実施例によるモジュラーマルチレベルカスケード変換器のu相についての回路図である。また、
図3は、
図2に示すモジュラーマルチレベルカスケード変換器の一構成要素であるチョッパセルを示す回路図であり、(a)は第1のアーム中のチョッパセルのうちの1つを示し、(b)は第2のアーム中のチョッパセルのうちの1つを示す図である。
【0031】
このとき、u相について、リアクトル12のインダクタンスをlとしたとき、式1で表わされる回路方程式が成り立つ。
【0033】
上記式1から、モジュラーマルチレベルカスケード変換器1には、交流電源側を経由しない閉回路が存在することがわかる。この閉回路を流れる電流が「循環電流」である。u相の閉回路を循環する循環電流をi
Zuとしたとき、アーム電流i
Puおよびi
Nuと交流電流i
uとの間には式2の関係が成り立つ。
【0037】
また、
図1において、第1のアーム2u−P内のチョッパセル11−j(ただし、j=1〜4)の交流出力電圧v
iの合成電圧をv
Pu、u相の系統電圧をv
u、とし、n=8とすると、式5の関係が成り立つ。
【0039】
同様に、第2のアーム2u−P内のチョッパセル11−j(ただし、j=5〜8)の交流出力電圧v
iの合成電圧v
Puは式6で表わされる。
【0041】
図4は、モジュラーマルチレベルカスケード変換器のu相の等価回路を示す図である。第1のアーム2u−P内のチョッパセル11−j(ただし、j=1〜4)の交流出力電圧v
iの合成電圧v
Puおよび第2のアーム2u−P内のチョッパセル11−j(ただし、j=5〜8)の交流出力電圧v
iの合成電圧v
Puをそれぞれ電圧源として等価的に置き換ええると、循環電流i
Zuは
図4のように閉回路を流れる。ここで、第1のアーム2u−Pおよび第2のアーム2u−Nの電圧および電流と閉回路の電圧および電流との間には式7および式8の関係が成り立つ。
【0044】
第1のアーム2u−P内のチョッパセル11−j(ただし、j=1〜4)に流入する瞬時電力の総和は、式7および式8より、式9のように表わされる。
【0046】
同様に、第2のアーム2u−P内のチョッパセル11−j(ただし、j=5〜8)に流入する瞬時電力の総和は、式7および式8より、式10のように表わされる。
【0048】
式9および式10から、式11が得られる。ここで、p
uは、u相のレグが交流系統へ向けて出力する電力、p
Zuは、直流電源V
dcから供給される電力である。
【0050】
エネルギー蓄積要素が存在しない従来一般な電力変換器では「P
Pu=P
Nu=0」かつ「p
Z=pu」である。これに対し、本発明の第1の実施例によるモジュラーマルチレベルカスケード変換器は、各チョッパセル11−jに直流コンデンサすなわちエネルギー蓄積要素を有しているので、式11に示すように、直流電源V
dcが供給する瞬時電力p
Zuと交流側入出力端子に出力する瞬時電力p
uは一致しない。
【0051】
u相の交流側入出力端子間の電圧v
u、交流側入出力端子を流出入する電流i
uを、式12および13で表わされる正弦波とする。ここで、交流側入出力端子間の線間電圧実効値をV、相電流実効値をI、電圧に対する電流の位相各あるいは負荷の力率角をφとする。
【0054】
u相の循環電流i
Zuを式14のように仮定する。ここで、I
Z0uは循環電流I
Zuの直流成分、I
ZnauおよびIZ
nabはn次の高調波電流のcosおよびsin成分である。
【0056】
このとき、第1のアーム2u−P内のチョッパセル11−j(ただし、j=1〜4)に流入する電力の平均値は、式9、式12、式13および式14より、式15のように表わされる。ここで、交流側入出力端子間の周期とT(=2π/ω)とする。
【0058】
同様に、第2のアーム2u−N内のチョッパセル11−j(ただし、j=5〜8)に流入する電力の平均値は、式9、式12、式13および式14より、式16のように表わされる。
【0060】
式15および式16において、右辺の第1項は交流側入出力端子間の電圧、第2項は直流電源V
dcからの供給電力であり、第3項は第1のアーム2u−Pと第2のアーム2u−Nとの間における電力の融通を表わしている。ここで、循環電流i
Zuは、その直流成分I
Z0uと交流側入出力端子間の電圧と同相の基本波成分I
Z1bu以外は、平均電力を生じない。
【0061】
図5は、モジュラーマルチレベルカスケード変換器のパワーフローを示す模式図である。上述の各式に基づき、モジュラーマルチレベルカスケード変換器のパワープローを示すと、
図5のように表わされる。直流電源からの供給電力V
dcI
ZOuは、第1のアーム2u−P内のチョッパセル11−j(ただし、j=1〜4)および第2のアーム2u−N内のチョッパセル11−j(ただし、j=5〜8)に1/2ずつ流入し、各チョッパセル11−j内の直流コンデンサに蓄積される。一方、第1のアーム2u−P内のチョッパセル11−j(ただし、j=1〜4)および第2のアーム2u−N内のチョッパセル11−j(ただし、j=5〜8)は、それぞれ出力電圧VIcosφ/√3の1/2ずつ供給する。また、第1のアーム2u−Pと第2のアーム2u−Nとの間では、V
IZ1b/√3の電力が授受される。
【0062】
ここで、直流コンデンサの電圧の時間平均値を一定に保つには、式15で表わされる第1のアーム2u−P内のチョッパセル11−j(ただし、j=1〜4)に流入する電力の平均値P
Pおよび16で表わされる第2のアーム2u−N内のチョッパセル11−j(ただし、j=5〜8)に流入する電力の平均値P
Nをともにゼロとすればよい。すなわち、直流コンデンサの電圧の時間平均値を一定に保つには、式15および式16より、式17および式18を満たすようにすればよいことがわかる。ここで、交流側入出力端子の出力する三相電力をP=√3VIcosφとする。
【0065】
過渡現象や高調波などの外乱により、直流コンデンサの電圧の時間平均値に偏差が生じることがあるが、式17および式18から、循環電流i
Zuの直流成分I
Z0uと交流側入出力端子間の電圧と同相の基本波成分I
Z1buを制御すれば、当該偏差を抑制することができることがわかる。
【0066】
式17および式18に示すように循環電流i
Zuを制御した場合、第1のアーム2u−P内のチョッパセル11−j(ただし、j=1〜4)に流入する瞬時電力は、式9、式12、式13、式17および式18から、式19のように表わされる。
【0068】
このとき、u相の第1のアーム2u−P内の4台のチョッパセル11−j(ただし、j=1〜4)の直流コンデンサの蓄積エネルギーの総和W
Puは、式20のように表わされる。ただし、W
0は積分定数であり、ここでは直流コンデンサに蓄積したエネルギーの平均値を意味する。
【0070】
第1のアーム2u−P内の4台のチョッパセル11−j(ただし、j=1〜4)の直流コンデンサの電圧の平均値v
CPuは、式21のように表わされる。
【0072】
式21をテイラー展開して1次近似v’
CPuを求めると式22が得られる。ここで、V
C0は蓄積エネルギーがW
pu=W
0のときの直流コンデンサの電圧であり、V
C0=2√W
0/√(nC
C)である。
【0074】
同様に、u相の第2のアーム2u−N内の4台のチョッパセル11−j(ただし、j=5〜8)の直流コンデンサの電圧の1次近似v’
CNuは式23で表わされる。
【0076】
式22と式23とを比較すると、ω成分の位相が反転していることが分かる。
【0077】
直流コンデンサの電圧の時間平均値を一定に保つには、式17および式18を満たすように循環電流を制御すれば良いが、これにより時間平均値自体は一定に保つことはできても、式22および23に示されるように、直流コンデンサには原理的な電圧リプルが存在することがわかる。例えばω成分がゼロもしくは低周波である場合、直流コンデンサの電圧リプルは増大する。
【0078】
以上の解析から、モジュラーマルチレベルカスケード変換器においては、各チョッパセル内の直流コンデンサの電圧の時間平均値は循環電流を制御すれば一定に保つことができること、および、直流コンデンサの電圧リプルについては原理上発生し得るものであること、がわかる。
【0079】
上記解析結果を利用した本発明の第1の実施例によるモジュラーマルチレベルカスケード変換器の各チョッパセル内の直流コンデンサ制御について
図6および
図7を参照して以下に説明する。
図6は、本発明の第1の実施例によるモジュラーマルチレベルカスケード変換器の、第1のアーム内の直流コンデンサ制御についての制御ブロック図であり、
図7は、本発明の第1の実施例によるモジュラーマルチレベルカスケード変換器の、第2のアーム内の直流コンデンサ制御についての制御ブロック図である。
【0080】
本発明の第1の実施例によれば、直流コンデンサ制御は大きく分けて次の4つの制御に分かれる。第1に、交流側入出力端子を流出入する交流電流のフィードバック制御、第2に、第1のアームおよび第2のアーム内の全ての直流コンデンサの電圧の総和に対する制御、第3に、第1のアーム内の全ての直流コンデンサの電圧の平均値と第2のアーム内の全ての直流コンデンサの電圧の平均値とが等しくなるようにするフィードバック制御、そして第4に、各アーム内の全ての前記直流コンデンサの電圧値を平均して得られた値に各直流コンデンサの電圧値をそれぞれ追従させる制御、である。以下、各制御について説明する。
【0081】
第1の制御は、所定の交流電流指令値に、交流側入出力端子を介して流出入する交流電流i
uを追従させる制御である。すなわち、交流側入出力端子を介して流出入する交流電流に対してフィードバック制御を適用する。交流電流指令値i
*の与え方には種々の方法があるが、一例として有効電力指令値p
*および無効電力指令値q
*を用いると、交流電流指令値i
*は式24のように表わされる。
【0083】
このとき、交流側入出力端子を介して流出入する交流電流i
uが交流電流指令値に追従すると仮定すると、実効値Iおよび力率角φは式25および式26のように表わされる。
【0086】
交流側入出力端子間の電圧指令値v
*は式27で表す。ここで、u相の交流側入出力端子を介して流出入する交流電流i
uのフィードバックゲインをK
S、交流側の負荷電圧をv
suである。交流側入出力端子を介して流出入する交流電流i
uの振幅および位相の偏差を提言するために、座標変換を行ってPI制御を適用しても良い。
【0088】
式27に示すように、一般的な電流フィードバック同様、応答時定数はT
S=L/K
Sとなる。
【0089】
第1のアーム2u−P内の4台のチョッパセル11−j(ただし、j=1〜4)の直流コンデンサの電圧の平均値v
CPuは式28のように表わされる。
【0091】
同様に、第2のアーム2u−N内の4台のチョッパセル11−j(ただし、j=5〜8)の直流コンデンサの電圧の平均値v
CNuは式29のように表わされる。
【0093】
第1のアーム2u−Pおよび第2のアーム2u−N内の全てのチョッパセル11−j(ただし、j=1〜8)の直流コンデンサの電圧v
Cuの平均値は式30のように表わされる。
【0095】
循環電流指令値i
*Zuを式31で表す。
【0097】
このとき、循環電流指令値i
*Zuの直流成分I
*Z0uを式32で表す。ここで、K
0は、1相分(1レグ)におけるn台のチョッパセル11−j(ただし、j=1〜8)の直流コンデンサの電圧を一斉に制御するためのフィードバックゲインである。
【0099】
また、循環電流指令値i
*Zuの基本波成分I
*Z1buを式33で表す。ここで、K
1は、第1のアーム2u−P内の4台のチョッパセル11−j(ただし、j=1〜4)の直流コンデンサの電圧の平均値v
CPuと、第2のアーム2u−N内の4台のチョッパセル11−j(ただし、j=5〜8)の直流コンデンサの電圧の平均値v
CNuとが等しくなるように制御するためのフィードバックゲインである。
【0101】
ここで、式31の右辺第2項による直流コンデンサ電圧の変化は式34のように変形できる。
【0103】
式34をラプラス変換して整理すると、式35が得られる。
【0105】
式35に示されるように、応答時定数T
0=nC
CV
C0/(K
0V
dc)の一次遅れ応答となる。
【0106】
一方、式31の右辺第3項による直流コンデンサ電圧の変化は式36のように近似できる。
【0108】
式36をラプラス変換して整理すると、式37が得られる。
【0110】
式37からわかるように、第1のアーム2u−P内の4台のチョッパセル11−j(ただし、j=1〜4)の直流コンデンサの電圧の平均値v
CPuと、第2のアーム2u−N内の4台のチョッパセル11−j(ただし、j=5〜8)の直流コンデンサの電圧の平均値v
CNuとの偏差は、時定数T
1=√3nC
CV
C0/(2K
1V)で低減できる。
【0111】
第1のアーム2u−P内の4台のチョッパセル11−j(ただし、j=1〜4)および第2のアーム2u−N内の4台のチョッパセル11−j(ただし、j=5〜8)のチョッパセルに対する各電圧指令値をそれぞれ式38および式39で表す。ここで、K
Zは循環電流フィードバックの制御ゲインである。
【0114】
式38および式39の右辺第4項は、各アーム内の全ての前記直流コンデンサの電圧値を平均して得られた値に各直流コンデンサの電圧値をそれぞれ追従させる制御の制御ゲインである。結合インダクタLに印加する電圧は式40で表される。
【0116】
式38および式39を式40に代入すると、式41が得られる。
【0118】
式41から、式38および式39の右辺第4項は循環電流i
Zの制御には干渉しないことがわかる。式41をラプラス変換すると、式42が得られる。
【0120】
式42に示されるように、応答時定数T
Z=L/K
Zの一次遅れ応答となる。
【0121】
一方、第1のアーム2u−P内のチョッパセル11−j(ただし、j=1〜4)に流入する電力は、式43のように表わされる。ここで、I
Puは、第1のアーム2u−Pに流れる電流i
Puの実効値である。
【0123】
したがって、直流コンデンサの電圧偏差の変化率は、式44で表される。
【0125】
式44から、各アーム内の直流コンデンサの電圧のアンバランスを時定数T
C=C
CV
C0/(K
CI
P2)で減衰できることがわかる。
【0126】
上述の式38および式39に示される出力電圧指令値v
ju*を用いて、モジュラーマルチレベルカスケード変換器1内の各チョッパセル11−j内の半導体スイッチSW1およびSW2のスイッチング動作が制御される。生成される出力電圧指令値v
ju*は、各直流コンデンサの電圧v
Cjuで規格化された後、キャリア周波数f
cの三角波キャリア信号(最大値:1、最小値:0)と比較され、PWMのスイッチング信号が生成される。生成されたスイッチング信号は、対応するチョッパセル11−j内の半導体スイッチSW1およびSW2のスイッチングに用いられる。本発明の第1の実施例によるモジュラーマルチレベルカスケード変換器1は、8個のチョッパセルを用いるので、相電圧が9レベル、線間電圧が17レベルのPWM波形となる。このスイッチング信号の生成は、例えばDSPやFPGAなどの演算処理装置を用いて実現される。
【0127】
次に、本発明の第1の実施例によるモジュラーマルチレベルカスケード変換器1のシミュレーション結果について説明する。各シミュレーションには、表1に示す回路パラメータおよび表2に示す制御ゲインを用いた。
【0130】
図8は、本発明の第1の実施例によるモジュラーマルチレベルカスケード変換器を、インバータ動作させたときの定常特性についてのシミュレーション波形を示す図である。
図8に示すように、モジュラーマルチレベルカスケード変換器1をインバータ動作すなわちDC−AC電力変換を行った場合、交流側入出力端子を介して流出入する交流電流iは、負荷側に設けた交流電源v
Sと同位相の正弦波波形に制御されており、出力電力は10kWである。一方、u相の循環電流i
Zuについては直流成分I
Z0が8Aに一定に制御されている。このとき、直流電源の電圧V
dcは400Vであるので、直流電源からの供給電力は「V
dc×I
Z0×3=10kW」である。また、式31に基づく制御法では、循環電流i
Zの基本波成分を走査するが、
図8に示すような定常状態では、循環電流i
Zに基本波成分は現れない。直流コンデンサの電圧v
C1およびv
C5には基本波および第2調波の電圧リプルが含まれているが、直流コンデンサの電圧の時間平均値v
Cはほぼ一定の「V
CO=100V」に制御されている。直流コンデンサ電圧のフィードバック制御には推定値v’
CPおよびv’
CNを用いているため、電圧リプルは交流側入出力端子を介して流出入する交流電流iおよび循環電流i
Zの制御系には干渉しない。
【0131】
図9は、本発明の第1の実施例によるモジュラーマルチレベルカスケード変換器を、整流器動作させたときの定常特性についてのシミュレーション波形を示す図である。
図9に示すように、モジュラーマルチレベルカスケード変換器1を整流器動作すなわちAC−DC電力変換を行った場合、負荷側に設けた交流電源v
Sからモジュラーマルチレベルカスケード変換器1に10kWの電力が流入しており、u相の循環電流i
Zuの直流成分I
Z0は−8Aとなっている。このように整流器動作においても、本発明の第1の実施例の方法により直流コンデンサの電圧の時間平均値はほぼ一定に制御できていることがわかる。
【0132】
図10は、本発明の第1の実施例によるモジュラーマルチレベルカスケード変換器を、インダクタ動作させたときの定常特性についてのシミュレーション波形を示す図である。また、
図11は、本発明の第1の実施例によるモジュラーマルチレベルカスケード変換器を、キャパシタ動作させたときの定常特性についてのシミュレーション波形を示す図である。
図10および
図11に示すように、基本的に有効電力はゼロであるので、u相の循環電流i
Zuの直流成分I
Z0はほぼゼロである。
【0133】
以上、
図8〜11を参照して説明したように、本発明の第1の実施例によれば4象限全ての動作状態において直流コンデンサの電圧を時間平均値を一定に制御することができる。
【0134】
図12は、本発明の第1の実施例によるモジュラーマルチレベルカスケード変換器における直流コンデンサの初期状態の電圧をアンバランスにしたときの過渡特性についてのシミュレーション波形を示す図である。このシミュレーションでは、直流コンデンサの初期状態の電圧を「v
C1=v
C2=v
C3=v
C4=125V」および「v
C5=v
C6=v
C7=v
C8=75V」に設定したときに、本発明の第1の実施例による直流コンデンサ電圧制御を実行した。直流コンデンサ電圧制御を実行すると、循環電流i
Zに基本波電流I
Z1buが流れ、直流コンデンサの電圧偏差が減衰していく。そして、約2周期程度で第1のアーム2u−P内のチョッパセル11−1の直流コンデンサの電圧v
C1uと第2のアーム2u−N内のチョッパセル11−5の直流コンデンサの電圧v
C5uとが一致し、循環電流i
Zの基本波成分は現れていない。本シミュレーション条件下では、第1のアーム2u−Pおよび第2のアーム2u−Nのチョッパセル間の直流コンデンサの電圧のバランス制御の時定数は上述の通りT
1=16msであり、シミュレーション結果と理論解析はよく一致する。
【0135】
上述の第1の実施例はアーム結合部として3端子結合リアクトルを用いたものであるが、
図16および17を参照して説明した非結合リアクトルを用いたモジュラーマルチレベルカスケード変換器を用いても、第1の実施例によるモジュラーマルチレベルカスケード変換器の制御原理を適用することができ、本明細書ではこれを第2の実施例として扱う。すなわち、本発明の第2の実施例は、アーム結合部を、
図1における3端子結合リアクトル12から、
図16に示す非結合リアクトル12−1および12−2に置き換えたものである。モジュラーマルチレベルカスケード変換器1の交流側入出力端子は、第1の実施例の場合は3端子結合リアクトル12の第3の端子であったが、第2の実施例では、u相の場合、第1のアーム2u−Pと第2のアーム2u−Nとの接続端子である。これ以外の回路構成要素とこのモジュラーマルチレベルカスケード変換器1の制御原理については
図1〜7を参照して説明した第1の実施例と同様である。