特許第5721127号(P5721127)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5721127
(24)【登録日】2015年4月3日
(45)【発行日】2015年5月20日
(54)【発明の名称】金属ナノ材料及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 35/34 20060101AFI20150430BHJP
   H01L 35/16 20060101ALI20150430BHJP
【FI】
   H01L35/34
   H01L35/16
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2010-59516(P2010-59516)
(22)【出願日】2010年3月16日
(65)【公開番号】特開2011-192914(P2011-192914A)
(43)【公開日】2011年9月29日
【審査請求日】2013年3月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】304024430
【氏名又は名称】国立大学法人北陸先端科学技術大学院大学
(74)【代理人】
【識別番号】100114074
【弁理士】
【氏名又は名称】大谷 嘉一
(72)【発明者】
【氏名】前之園 信也
(72)【発明者】
【氏名】デリック モット
【審査官】 羽鳥 友哉
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−108876(JP,A)
【文献】 特開2005−343782(JP,A)
【文献】 特開2010−040998(JP,A)
【文献】 特開2005−325419(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 35/34
H01L 35/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Bi、Sb及びTeの塩を溶解した溶液に還元剤と保護剤とを添加し、化学合成することを特徴とする三元系の金属ナノ材料の製造方法であって、
前記、還元剤は、脂肪族の1,2−ジオールである、金属ナノ材料の製造方法。
【請求項2】
前記、保護剤は炭素数6〜24の脂肪族の、酸、アミン及びチオールのうち、いずれか1種以上であることを特徴とする請求項1に記載の金属ナノ材料の製造方法。
【請求項3】
前記、保護剤は1−アルキルカルボン酸、1−アルキルアミン及び1−アルキルチオールのうち、いずれか1種以上であることを特徴とする請求項記載の金属ナノ材料の製造方法。
【請求項4】
前記、還元剤は1,2−ヘキサデカンジオールであり、保護剤はオレイン酸、オレイルアミン及び1−オクタンチオールのうち、いずれか1種以上であることを特徴とする請求項1記載の金属ナノ材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は熱電変換素子の製造に用いるのに有効な金属ナノ材料及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱電変換素子は、熱エネルギーと電気エネルギーとを直接的に相互に変換できる固体素子であり、廃熱等の熱源から直接的に電気に変換する熱電発電素子としての利用や、温度制御等に用いる熱電冷却素子としての利用等、民生用機器から宇宙開発まで広範囲の利用が期待されている。
【0003】
熱電変換素子の熱電変換性能を表す指標として性能指数ZTの値が用いられている。
ZT=ασT/κ (1)
(α:ゼーベック係数、σ:電気伝導率、κ:熱伝導率、T:温度)
この(1)式からZTの値を高くするには、電気伝導率を向上させ、熱伝導率を低く抑えるのがよいことが判る。
しかしながら、一般的に電気伝導率の向上と熱伝導率の低下は相反する要因であり、これを同時に達成するにはキャリア散乱を抑制し、フォノン散乱を増大させる熱電材料が要求される。
その方策の1つとして、ナノ構造制御された熱電材料が期待されている。
しかし、従来のナノ熱電材料は、分子線エピタキシー法等の複雑且つ高価な気相合成によって作成されており、実用化に適していない。
非特許文献1には、p型Bi0.5Sb1.5Teの金属ナノ粒子の化学合成について報告しているが、平均粒径44nmと大きく、また粒子分布も±10nmと広い。
従って、BiTeの励起子ボーア半径(P型40nm)を考慮すると前記Bi0.5Sb1.5Te金属ナノ粒子は粒径が大きいために強い量子閉じ込め効果が充分にあるとは言い難い。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】ACS Appl.Mater. Interfaces1(2009)P1259 Y.Zhao and C.Burda "Chemical Synthesis of Bi0.5Sb1.5Te3 Nanocrystals and Their Surface Oxidation Properties"
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は温和な条件下で化学合成が可能であり、ナノ熱電材料として有用な金属ナノ材料及びその製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、これまで化合物半導体(CdSe,ZnS,InP,PbSe等)のナノ粒子の合成とその高次構造制御、光及び電子物性に関する研究を行ってきた。
その結果、半導体ナノ粒子の配列構造において、単一ナノ粒子には無い新規な蛍光強度増大現象を見い出した。
((a) S. Maenosono, Chem. Phys. Lett. 376 (2003) 666; (b) J. Kimura, T. Uematsu, S. Maenosono and Y. Yamaguchi J. Phys. Chem. B 108 (2004) 13258; (c) S. Maenosono, Chem. Phys. Lett. 405 (2005) 182; (d) T. Uematsu, S. Maenosono and Y. Yamaguchi, J. Phys. Chem. B 109 (2005) 8613; (e) T. Uematsu, S. Maenosono and Y. Yamaguchi, Appl. Phys. Lett. 89 (2006) 31910)
この蛍光強度増大現象は、単一ナノ粒子の持つ量子閉じ込め効果と粒子配列における量子力学的相互作用によるものであることも明らかにした。
この実績から熱電材料においても例えば粒径を10nm以下レベルに制御し、超格子構造を創製できれば単一金属ナノ粒子の量子サイズ効果(電子状態密度の離散化)と超格子構造における粒子間相互作用(electronic couplingによる高キャリア移動度) により高いZT値が得られると考え本発明に至った。
【0007】
本発明に係る熱電材料として有用な金属ナノ材料の製造方法は、三元系の金属ナノ材料であってBi、Sb及びTeの塩を溶解した溶液に還元剤と保護剤とを添加し、化学合成することを特徴とする。
Bi、Sb及びTeの塩は、反応系に用いる溶媒(混合溶媒を含む。)に溶解し、ビスマスイオン、アンチモンイオン、テルルイオンを生成するものであれば、特に限定が無いが、入手の容易さからすれば、塩化物がよい。
合成したい金属ナノ材料が元系合金材料であれば、Bi、Sb及びTeのいずれの塩も溶解することになる。
【0008】
ここで還元剤は、水素化ホウ素アルカリ金属塩、ジボラン、ヒドラジン、水素又は、炭素数6〜24の脂肪族の第1級又は第2級アルコールのいずれか1種以上であるのがよい。
脂肪族には直鎖、分岐鎖を問わず、飽和脂肪族、不飽和脂肪族が含まれる。
特に直鎖の脂肪族の1,2−ジオールであるのが還元性に優れ、本実施例では1,2−ヘキサデカンジオールを用いた。
また、水素化ホウ素アルカリ金属塩の実施例としては水素化ホウ素ナトリウムを用いた。
【0009】
保護剤としては、炭素数6〜24の脂肪族の、酸、アミン及びチオールのうち、いずれか1種以上であるのがよい。
これらの保護剤はそれぞれ単独で用いても組み合わせて用いてもよいが、特に脂肪酸と脂肪アミンとを組み合わせるのがよい。
脂肪族には直鎖、分岐鎖を問わず、飽和脂肪族、不飽和脂肪族が含まれる。
特に1−アルキルカルボン酸、1−アルキルアミン及び1−アルキルチオールのうち、いずれか1種以上であるのが好ましい。
本実施例ではオレイン酸、オレイルアミン及び1−オクタンチオールを用いた。
【0010】
このようにして製造された金属ナノ材料は、BiSbTe100−x−y(x、yはトータル100に対する構成比率を示し、x、yのいずれも0ではない。)なる構造式で表され、優れた熱電変換特性を示す。
また、本発明にて得られた金属ナノ材料BiSbTe100−x−yは、インク等の塗布剤となる溶液中に分散させることでインクジェット法やスクリーン印刷法等にて熱電素子を製造することができる。
【0011】
本発明において金属ナノ材料は二元系合金にも適用でき、またp型のみならず、n型にも適用でき、例えばBiSb系合金や、Sb塩の替りにSeの塩を用いることでn型のBiSeTe100−x−y金属ナノ材料を得ることもできる。
【発明の効果】
【0012】
本発明においては、還元剤として水素化ホウ素アルカリ金属塩、第1級又は第2級アルコールを用い、保護剤としてそれぞれ脂肪族の、酸、アミン及びチオールのうちから選択することで温和な条件で湿式法による金属ナノ材料が化学合成できる。
本発明に係るナノ材料は、ナノ粒子状、ナノディスク状、ナノワイヤー状に成長する。
また、本発明に係るナノ材料は適宜、直接的に焼結又は、塗布後に焼成することで熱電特性を発現する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施例1で得られたBi36Sb40Te24ナノ粒子のTEM像を示す。
図2】実施例2で得られたナノワイヤーの顕微鏡写真を示す。
図3】実施例2で得られたナノワイヤーのTGA解析チャートを示す。
図4】実施例2の反応スキームを示す。
図5】実施例3で得られたナノディスクの顕微鏡写真を示す。
図6】実施例3で得られたナノディスクのTGA解析チャートを示す。
図7】実施例3の反応スキームを示す。
図8】実施例4の反応スキームを示す。
図9】実施例4、第1ステップで得られたナノワイヤーの顕微鏡写真を示す。
図10】実施例4、第2ステップで得られたナノワイヤーの顕微鏡写真を示す。
図11】実施例4における焼結体のSEM像(×10,000)を示す。
図12】実施例4における塗布後に加熱処理した状態のSEM像(×5,000)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明に係る金属ナノ材料の製造例について以下具体的に説明するが、本発明は本実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0015】
BiCl:0.0367g、SbCl:0.0189g、TeCl:0.0167g及びオレイン酸:0.5mlとオレイルアミン0.5ml及び相間移動触媒としてテトラオクチルアンモニウムブロミド:0.528gを25mlのトルエンに溶解し、10mlのピリジンに水素化ホウ素ナトリウム(NaBH)0.1055g溶解した還元剤を上記溶液に添加し、室温で5時間反応させた。
これにより、図1に示すように平均粒径2nm,Bi36Sb40Te24ナノ粒子が得られた。
【実施例2】
【0016】
BiCl:0.0597g、SbCl:0.0640g及びTeCl:0.0544gの塩と、
還元剤として1,2−ヘキサデカンジオール:0.4100g、
保護剤としてオレイン酸:0.16ml,オレイルアミン:0.17mlを25.0mlのジオクチルエーテルに溶解した。
アルゴンガス雰囲気下、大気圧にて100℃×10分間、加熱した。
溶液の色がライトグレーからブラウンに変色した後にさらにブラックグレー色になるまで200℃×1時間加熱した。
次に溶液を室温まで冷却し、生成物をエタノール中に沈澱回収し、ヘキサンに分散させた。
その結果、図2に示すようなナノワイヤーが得られ、TGA熱解析すると図3に示すようなチャートが得られた。
XRD分析の結果、このナノワイヤーはBi0.6Sb52.1Te47.3の構造式で示された。
その反応スキームを図4に示す。
【実施例3】
【0017】
BiCl:0.0590g、SbCl:0.0896g及びTeCl:0.0424gと、
還元剤として1,2−ヘキサデカンジオール:0.3927g、
保護剤として1−オクタンチオール:0.33mlを25mlのジオクチルエーテルに溶解し、実施例2と同様に反応させた。
その結果、図5に示すようなナノディスク状の金属ナノ材料が得られた。
TGA解析チャートを図6に示す。
反応スキームを図7に示す。
得られたナノディスクはXRD分析の結果、構造式でBi50.3Sb1.7Te48.0で示され、薄さ:〜25nm,大きさ:〜100nmのディスク状であった。
実施例2と3を比較すると、保護剤により生成されるナノ材料の形状が相違し、保護剤がオレイン酸とオレイルアミンの場合にBiの割合が少なく、保護剤が1−オクタンチオールの場合にはSbの割合が少なかった。
【実施例4】
【0018】
次に図8に示すように2段による反応スキームを検討した。
第1ステップとして、BiCl:0.1576g、1−デカンチオール:1.5ml、1,2−ヘキサデカンジオール:0.39gを25mlのジオクチルエーテルに溶解し、105℃で10分間保持した後に200℃まで昇温し、1時間反応させた。
その後に50℃まで冷却し、エタノールを加えナノワイヤーを分離した。
エタノールで3回洗浄し、39mgのナノワイヤーが得られた。
第1ステップの反応により、図9に示すように径50〜250nmのナノワイヤーが得られた。
第1ステップで得られたナノワイヤー13mgを、SbCl:0.038g、TeCl:0.045g、オレイン酸:0.16ml、オレイルアミン:0.17ml、1,2−ヘキサデカンジオール:0.39gのジオクチルエーテル25ml溶液に混合し、105℃で10分間保持した後に200℃まで昇温し、1時間反応させた。
その後50℃まで冷却し、エタノールを加えナノワイヤーを分離した。
第2ステップの反応により図10に示すようなワイヤーの側面に小さなロッドが形成されたナノワイヤーが得られた。
上記実施例4にて得られたナノワイヤーを用いて温度350℃、印加圧力40MPaにて焼結した焼結体のSEM像例を図11に示す。
ナノワイヤー構造が保持されているのが分かる。
この焼結体のゼーベック係数αを測定したところ、α=−62〜−72μV/Kであった。
従って、n型熱電性能を有することが明らかになった。
次にこの実施例4にて得られたナノワイヤーを溶液に超音波分散させ、これをアルミナ基板上に塗布し、アルゴンガスを流した電気炉中で加熱処理した。
その結果、加熱条件が350℃×30分ではα=127μV/K、400℃×30分ではα=211μV/K、450℃×30分ではα=27μV/Kの値が得られた。
加熱温度400℃のときのSEM像を図12に示す。
この結果、p型熱電特性を示すことが明らかになった。
また、本発明に係る金属ナノ材料は塗布後に加熱処理することで熱電特性を示すことから、スクリーン印刷やインクジェット法等の塗布剤として使用することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12