特許第5721141号(P5721141)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5721141ポリ乳酸ステレオコンプレックス結晶の製造方法、ポリ乳酸、その成形体、合成繊維、多孔体およびイオン伝導体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5721141
(24)【登録日】2015年4月3日
(45)【発行日】2015年5月20日
(54)【発明の名称】ポリ乳酸ステレオコンプレックス結晶の製造方法、ポリ乳酸、その成形体、合成繊維、多孔体およびイオン伝導体
(51)【国際特許分類】
   C08L 67/04 20060101AFI20150430BHJP
   C08J 3/00 20060101ALI20150430BHJP
   C08J 9/26 20060101ALI20150430BHJP
   C08L 101/16 20060101ALN20150430BHJP
【FI】
   C08L67/04ZBP
   C08J3/00CFD
   C08J9/26
   !C08L101/16
【請求項の数】14
【全頁数】46
(21)【出願番号】特願2011-530842(P2011-530842)
(86)(22)【出願日】2010年9月7日
(86)【国際出願番号】JP2010065348
(87)【国際公開番号】WO2011030766
(87)【国際公開日】20110317
【審査請求日】2013年8月7日
(31)【優先権主張番号】特願2009-209413(P2009-209413)
(32)【優先日】2009年9月10日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504145364
【氏名又は名称】国立大学法人群馬大学
(74)【代理人】
【識別番号】100079049
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 和詳
(74)【代理人】
【識別番号】100099025
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 浩志
(72)【発明者】
【氏名】上原 宏樹
(72)【発明者】
【氏名】山延 健
(72)【発明者】
【氏名】唐木 由佑
【審査官】 米村 耕一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−248029(JP,A)
【文献】 特開2009−001614(JP,A)
【文献】 特開2005−042084(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/081617(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08K 3/00−13/08
C08L 1/00−101/14
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
L−乳酸単位を含むポリ乳酸又はD−乳酸単位を含むポリ乳酸と、ポリ乳酸とは構造の異なる有機高分子の少なくとも1種とを含むブロック共重合体、及び、該ブロック共重合体に含まれない光学異性体であるD−乳酸単位を含むポリ乳酸単独重合体又はL−乳酸単位を含むポリ乳酸単独重合体を溶媒に溶解し、高分子混合溶液を調製する工程と、該高分子混合溶液中の溶媒を除去して高分子混合物を得る工程と、を有するポリ乳酸ステレオコンプレックス結晶の製造方法。
【請求項2】
前記高分子混合溶液中の溶媒を除去する工程の後に、さらに、熱処理工程を有する請求項1に記載のポリ乳酸ステレオコンプレックス結晶の製造方法。
【請求項3】
前記得られた高分子混合物を熱処理する工程が、熱処理温度が100℃以上300℃以下、且つ、熱処理時間が1分間以上72時間以下で熱処理する工程である請求項2に記載のポリ乳酸ステレオコンプレックス結晶の製造方法。
【請求項4】
前記高分子混合溶液中の、ブロック共重合体中に含まれるL−乳酸単位を含むポリ乳酸又はD−乳酸単位を含むポリ乳酸の含有量と、D−乳酸単位を含むポリ乳酸単独重合体又はL−乳酸単位を含むポリ乳酸単独重合体の含有量との比率が、10:90〜90:10の範囲である請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のポリ乳酸ステレオコンプレックス結晶の製造方法。
【請求項5】
前記高分子混合溶液中の、ブロック共重合体中に含まれるL−乳酸単位を含むポリ乳酸又はD−乳酸単位を含むポリ乳酸の分子量がそれぞれ10,000以上1,000,000以下である請求項1から請求項のいずれか1項に記載のポリ乳酸ステレオコンプレックス結晶の製造方法。
【請求項6】
前記高分子混合溶液中の、D−乳酸単位を含むポリ乳酸単独重合体又はL−乳酸単位を含むポリ乳酸単独重合体の分子量がそれぞれ10,000以上1,000,000以下である請求項1から請求項のいずれか1項に記載のポリ乳酸ステレオコンプレックス結晶の製造方法。
【請求項7】
前記ポリ乳酸とは構造の異なる有機高分子が、ポリスチレン、ポリビニルナフタレン、ポリメチルメタクリレート、ポリε−カプロラクトン、ポリブタジエン、ポリジメチルシロキサン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ1−ブテン、ポリ4−メチル−1−ペンテン、ポリノルボルネニルエチルスチレン、ポリノルボルネニルエチルスチレン-s-スチレン、ポリヘキサメチルカーボネート、ポリヘキシルノルボルネン、ポリブチルサクシネート、ポリジシクロペンタジエン、ポリシクロヘキシルエチレン、ポリ−1,5−ジオキセパン−2−オン、ポリメンチド、ポリ4−ビニルピリジン、ポリイソプレン、ポリ3−ヒドロキシブチレート、ポリ−2−ヒドロキシメタクリレート、ポリ−N−ビニル−2−ピロリドン、ポリ−4−アクロイルモルフォリンおよびそれらの誘導体から選択される1種以上である請求項1から請求項6のいずれか1項に記載のポリ乳酸ステレオコンプレックス結晶の製造方法。
【請求項8】
前記ポリ乳酸とは構造の異なる有機高分子が、ポリスチレンスルホン酸、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキシド、ポリ−n−プロピル−p−スチレンスルホン酸、ポリアクリルアミド、ポリジメチルアクリルアミド、ポリN−イソプロピルアクリルアミド、ポリN,N−ジメチルアミノ−2−エチルメタルリレート、ポリ−N−2−ヒドロキシプロピル−メタクリルアミドおよびそれらの誘導体から選択される1種以上である請求項1から請求項6のいずれか1項に記載のポリ乳酸ステレオコンプレックス結晶の製造方法。
【請求項9】
L−乳酸単位を含むポリ乳酸又はD−乳酸単位を含むポリ乳酸と、ポリ乳酸とは構造の異なる有機高分子の少なくとも1種とを含むジブロック共重合体中の、L−乳酸単位を含むポリ乳酸又はD−乳酸単位を含むポリ乳酸と、ポリ乳酸とは構造の異なる有機高分子との含有比率が、10:90〜90:10の範囲である請求項1から請求項8のいずれか1項に記載のポリ乳酸ステレオコンプレックス結晶の製造方法。
【請求項10】
請求項1から請求項9のいずれか1項に記載のポリ乳酸ステレオコンプレックス結晶の製造方法により得られる、全ポリ乳酸量に対するステレオコンプレックス結晶の含有率が10質量%以上であり、ポリ乳酸とは構造の異なる有機高分子の含有率が1質量%以上99質量%以下であり、融点が220℃以上260℃以下であるポリ乳酸。
【請求項11】
請求項10記載のポリ乳酸を含んで構成される成形体。
【請求項12】
請求項10記載のポリ乳酸を含んで構成される合成繊維。
【請求項13】
請求項10に記載のポリ乳酸、請求項11に記載の成形体及び請求項12に記載の合成繊維の少なくともいずれかからポリ乳酸以外の成分を分解除去してなる多孔体。
【請求項14】
請求項10に記載のポリ乳酸、請求項11に記載の成形体及び請求項12に記載の合成繊維の少なくともいずれかに含まれるポリ乳酸以外の成分にイオン源を付与してなるイオン伝導体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリ乳酸ステレオコンプレックス結晶の製造方法、該製造方法により得られたポリ乳酸、及び、ポリ乳酸を含んで構成される成形体、及び、合成繊維、多孔体並びにイオン伝導体に関し、特に、従来にないステレオコンプレックス結晶高含有率のポリ乳酸を効率よく製造しうるポリ乳酸ステレオコンプレックス結晶の製造方法、該製造方法により得られた融解温度が高く、成形体や合成繊維、多孔体及びイオン伝導体の形成に有用なポリ乳酸及び該ポリ乳酸を含む成形体、合成繊維、多孔体及びイオン伝導体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、石油から合成される従来の合成樹脂に対して、植物成分を原料としたバイオマス樹脂が注目され、種々の検討が行われている。このような植物由来樹脂は廃棄時に焼却しても、発生する二酸化炭素を再び植物が光合成し、原料となる点でカーボン・ニュートラルであり、これを従来の合成樹脂に置き換えていくことは地球温暖化の防止に繋がると期待される材料である。生物由来樹脂としては、ポリヒドロキシブチレートやポリ乳酸等が知られており、なかでも、ポリ乳酸は、トウモロコシ等の植物原料から得られる乳酸あるいはラクチドなどを原料にできる点、熱可塑性であるので溶融成形が可能である点などの利点があり、注目されている。しかしながら、一般的なポリ乳酸の融点は約170℃であり、樹脂成形体や合成繊維として応用するために耐熱性の向上が求められている。
【0003】
ポリ乳酸として、光学異性体であるL−乳酸単位のみからなるポリ−L−乳酸(以下、適宜、PLLAと称する)と、D−乳酸単位のみからなるポリ−D−乳酸(以下、適宜、PDLAと称する)が存在し、それらが対になって結晶格子に充填されたステレオコンプレックス結晶が生成すると融点の上昇がみられることが知られており、注目されている。
例えば、PLLAとPDLAとを、溶液あるいは溶融状態で混合することにより、ステレオコンプレックス結晶が形成されることが知られている(特許文献1、非特許文献1および2参照)。このステレオコンプレックス結晶はPLLAやPDLAの単独重合体で得られるα晶(融点170℃)に比べて、高融点、耐加水分解性を示すものの、原料となるPLLAおよびPDLAの分子量が高い場合、ステレオコンプレックス結晶を効率よく得難い。また、原料の分子量や混合温度などの調製条件により、ステレオコンプレックス結晶の生成率が異なる、或いは、成長に時間を要する等の問題があり、実用上安定的に製造するに至っていない。
【0004】
また、PLLAとPDLAの単独重合体同士を1:1の比率で混合することでα晶より融点の高いステレオコンプレックス結晶を生成させる試みがなされているが(例えば、非特許文献1および2参照。)、得られるステレオコンプレックス結晶の融点は最高でも230℃であり、成形体や合成繊維に適用するには、なお耐熱性に改良の余地がある。
さらに、互いに組成比の異なる、L−乳酸ブロックとD−乳酸ブロックとの共重合体同士を溶融混合、或いは溶液混合してステレオコンプレックス結晶の含有率が多いポリ乳酸を作製する方法が提案されている(例えば、特許文献2参照。)。しかしながら、この製造方法はまず、複数のL−乳酸ブロックとD−乳酸ブロックとの共重合体を調製するなど工程は煩雑であり、得られたポリ乳酸の融点は147℃から211℃であり、成形体などの耐熱性を要する材料には適用しがたいものである。
このために、ステレオコンプレックス結晶を高率で含有し、耐熱性に優れたポリ乳酸を安定して効率よく製造する技術が求められている。
【特許文献1】特開昭63−241024号公報
【特許文献2】特開2007−191625公報
【非特許文献1】Macromolecules, 第24巻,P5651−5656 (1991年)
【非特許文献2】Polymer 第49巻、P5670−5675 (2008年)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、耐熱性に優れ、ステレオコンプレックス結晶を高率で含有するポリ乳酸を効率よく製造しうるポリ乳酸ステレオコンプレックス結晶の製造方法を提供することを目的とする。
また、本発明のさらなる目的は、前記本発明の製造方法により得られた、ステレオコンプレックス結晶を高含有率で含む、耐熱性に優れたポリ乳酸、及び、該ポリ乳酸を用いてあるいは該ポリ乳酸を含んで得られる耐熱性や生体適合性、透明性、化学的安定性に優れた成形体及び合成繊維を提供することにある。
また、さらに、これらの成形体及び合成繊維から、ポリ乳酸以外の成分を分解除去することより多孔体を提供することにある。あるいは、これらポリ乳酸以外の成分にイオン源を付与することによりイオン伝導体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記目的を達成するために、検討した結果、PLLA又はPDLAとポリ乳酸以外の高分子化合物が共有結合したブロック共重合体を用いることで、ステレオコンプレックス結晶を高い含有率で含むポリ乳酸を製造する方法により、上記課題を解決しうることを見いだし、本発明を完成した。
【0007】
即ち、本発明の構成は以下に示すとおりである。
請求項1に係る発明は、
L−乳酸単位を含むポリ乳酸又はD−乳酸単位を含むポリ乳酸と、ポリ乳酸とは構造の異なる有機高分子の少なくとも1種が共有結合したブロック共重合体、及び、該ブロック共重合体に含まれないポリ乳酸の光学異性体であるD−乳酸単位を含むポリ乳酸単独重合体又はL−乳酸単位を含むポリ乳酸単独重合体を溶媒に溶解し、高分子混合溶液を調製する工程と、該高分子混合溶液中の溶媒を除去する工程と、該高分子混合溶液中の溶媒を除去して高分子混合物を得る工程と、を有するポリ乳酸ステレオコンプレックス結晶の製造方法である。
この製造方法においては、請求項2に記載の発明のように、前記高分子混合溶液中の溶媒を除去する工程の後に、さらに、熱処理工程を実施することができる。
このとき、用いるブロック共重合体の化学構造は、ジブロック(ポリ乳酸を含む2種の成分)、トリブロック(ポリ乳酸を含む3種の成分)、テトラブロック(ポリ乳酸を含む4種の成分)、ペンタブロック(ポリ乳酸を含む5種の成分)等、ポリ乳酸を含む複数ブロック成分からなる共重合体であればよい。また、ポリ乳酸を含む複数ブロックが放射状に伸びた星形ブロック共重合体であってもよい。
【0008】
請求項3に係る発明は、
前記得られた高分子混合物を熱処理する工程が、熱処理温度が100℃以上300℃以下、且つ、熱処理時間が1分間以上72時間以下で熱処理する工程である請求項2に記載のポリ乳酸ステレオコンプレックス結晶の製造方法である。
請求項4に係る発明は、
前記高分子混合溶液中の、ブロック共重合体中に含まれるL−乳酸単位を含むポリ乳酸又はD−乳酸単位を含むポリ乳酸の含有量と、D−乳酸単位を含むポリ乳酸単独重合体又はL−乳酸単位を含むポリ乳酸単独重合体の含有量との比率が、10:90〜90:10の範囲である請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のポリ乳酸ステレオコンプレックス結晶の製造方法である。
【0009】
請求項に係る発明は、
前記高分子混合溶液中の、ブロック共重合体中に含まれるL−乳酸単位を含むポリ乳酸又はD−乳酸単位を含むポリ乳酸の分子量がそれぞれ10,000以上1,000,000以下である請求項1から請求項のいずれか1項に記載のポリ乳酸ステレオコンプレックス結晶の製造方法である。
【0010】
請求項に係る発明は、
前記高分子混合溶液中の、D−乳酸単位を含むポリ乳酸単独重合体又はL−乳酸単位を含むポリ乳酸単独重合体の分子量がそれぞれ10,000以上1,000,000以下である請求項1から請求項のいずれか1項に記載のポリ乳酸ステレオコンプレックス結晶の製造方法である。
【0012】
請求項7に係る発明は、
前記ポリ乳酸とは構造の異なる有機高分子が、ポリスチレン、ポリビニルナフタレン、ポリメチルメタクリレート、ポリε−カプロラクトン(ポリカプロラクタム)、ポリブタジエン、ポリジメチルシロキサン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ1−ブテン、ポリ4−メチル−1−ペンテン、ポリノルボルネニルエチルスチレン、ポリノルボルネニルエチルスチレン-s-スチレン、ポリヘキサメチルカーボネート、ポリヘキシルノルボルネン、ポリブチルサクシネート、ポリジシクロペンタジエン、ポリシクロヘキシルエチレン、ポリ−1,5−ジオキセパン−2−オン、ポリメンチド、ポリ4−ビニルピリジン、ポリイソプレン、ポリ3−ヒドロキシブチレート、ポリ−2−ヒドロキシメタクリレート、ポリ−N−ビニル−2−ピロリドン、ポリ−4−アクロイルモルフォリンおよびそれらの誘導体から選択される1種以上である請求項1から請求項6のいずれか1項に記載のポリ乳酸ステレオコンプレックス結晶の製造方法である。
【0013】
請求項8に係る発明は、
前記ポリ乳酸とは構造の異なる有機高分子が、ポリスチレンスルホン酸、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキシド、ポリ-n-プロピル-p-スチレンスルホン酸、ポリアクリルアミド、ポリジメチルアクリルアミド、ポリN−イソプロピルアクリルアミド、ポリN,N−ジメチルアミノ−2−エチルメタルリレート、ポリ−N-2-ヒドロキシプロピル−メタクリルアミドおよびそれらの誘導体から選択される1種以上である請求項1から請求項6のいずれか1項に記載のポリ乳酸ステレオコンプレックス結晶の製造方法である。
【0014】
請求項9に係る発明は、
L−乳酸単位を含むポリ乳酸又はD−乳酸単位を含むポリ乳酸と、ポリ乳酸とは構造の異なる有機高分子の少なくとも1種とを含むブロック共重合体中の、L−乳酸単位を含むポリ乳酸又はD−乳酸単位を含むポリ乳酸と、ポリ乳酸とは構造の異なる有機高分子との含有比率が、10:90〜90:10の範囲である請求項1から請求項8のいずれか1項に記載のポリ乳酸ステレオコンプレックス結晶の製造方法である。
【0015】
請求項10に係る発明は、
請求項1から請求項9のいずれか1項に記載のポリ乳酸ステレオコンプレックス結晶の製造方法により得られる、ポリ乳酸成分に対するステレオコンプレックス結晶の含有率が10質量%以上であり、ポリ乳酸とは構造の異なる有機高分子の含有率が1質量%以上99質量%以下であり、融点が220℃以上260℃以下であるポリ乳酸である。
【0016】
請求項11に係る発明は、
請求項10記載のポリ乳酸を含んで構成される成形体である。
請求項12に係る発明は、
請求項10記載のポリ乳酸を含んで構成される合成繊維である。
請求項13に係る発明は、
請求項10に記載のポリ乳酸、請求項11に記載の成形体及び請求項12に記載の合成繊維の少なくともいずれかからポリ乳酸以外の成分を分解除去してなる多孔体である。
請求項14に係る発明は、
請求項9に記載のポリ乳酸、請求項11記載の成形体及び請求項12に記載の合成繊維の少なくともいずれかに含まれるポリ乳酸以外の成分にイオン源を付与してなるイオン伝導体である。
【0017】
本発明の作用は明確ではないが、以下のように推定している。
本発明の製造方法では、まず、PLLA又はPDLAと、ポリ乳酸以外の高分子化合物とのブロック共重合体を合成する。そこに該ブロック共重合体には含まれない光学異性体であるPDLA単独重合体又はPLLA単独重合体を加え、溶媒に溶解して両者を混合する。例えば、ブロック共重合体成分としてポリスチレン(PS)とPLLAとのジブロック共重合体(PS-b-PLLA)を例にとると、該ブロック共重合体とPDLA単独重合体を溶媒に溶解後、この溶媒を除去するに従って、ジブロック共重合体中のポリスチレン成分と、該ブロック共重合体中のPLLA成分およびPDLA単独重合体が融合した成分とがナノメートル・オーダーで相分離した構造を形成し、該相分離構造中でブロック共重合体に由来するPLLA部分と添加されたPDLA単独重合体におけるPDLAとが近接して存在することで効率よくステレオコンプレックス結晶を形成するものと考えられる。 このために、従来行われていたPLLA単独重合体とPDLA単独重合体とを溶媒に混合後、該溶媒を除去する方法に比較し、相分離構造中における近接状態でのステレオコンプレックス結晶の形成に起因して、単独重合体に由来するα相の残存が抑制され、よりステレオコンプレックス結晶の含有率が高いものとなる。また、該ステレオコンプレックス結晶を含むポリ乳酸成分がポリスチレンと形成するナノメートル・サイズの相分離構造内に閉じこめられているため拘束状態にあり、PLLA単独重合体およびPDLA単独重合体から調製されたステレオコンプレックス結晶よりも耐熱性に優れるものと考えられる。
なお、本願請求項10に記載の「ポリ乳酸」は、前記本発明の製造方法により得られたポリ乳酸を指すものであり、ステレオコンプレックス結晶とともに、製造方法に起因する他の高分子を含むポリ乳酸含有高分子混合物である。本明細書において、以下、「本発明のポリ乳酸」と称する場合は、このような「ポリ乳酸含有高分子混合物」を指す。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、耐熱性に優れ、ステレオコンプレックス結晶(以下、適宜、SC晶と称する)を高率で含有するポリ乳酸を効率よく製造しうるポリ乳酸ステレオコンプレックス結晶の製造方法が提供される。
また、本発明によれば、耐熱性に優れ、ステレオコンプレックス結晶を高含有率で含む、成形体、合成繊維、多孔体及びイオン伝導体等の製造に有用なポリ乳酸、及び、本発明のポリ乳酸を用いてあるいは該ポリ乳酸を含んで得られる耐熱性に優れた成形体、合成繊維、多孔体及びイオン伝導体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】実施例1及び実施例2で得られたポリ乳酸の融点測定に用いたDSC測定結果を示すグラフである。
図2】実施例1で得られたポリ乳酸を含む高分子混合物からなる膜の多孔体構造を示す走査プローブ顕微鏡像である。
図3】実施例1Aで得られたポリ乳酸の融点測定に用いたDSC測定結果を示すグラフである。
図4】実施例1Bで得られたポリ乳酸の融点測定に用いたDSC測定結果を示すグラフである。
図5】実施例4、比較例1−1、比較例4で得られたフィルムのWAXD測定結果を示すグラフであり、縦軸は回折強度(任意単位)、横軸は散乱ベクトル(q)を示している。
図6】実施例4、実施例5および実施例6で得られたフィルムのDSC測定結果を示すグラフである。
図7】実施例7で得られたフィルムのDSC測定結果を示すグラフである。
図8】実施例8で得られたフィルムのDSC測定結果を示すグラフである。
図9】実施例8で得られたフィルムの光線透過率測定結果を示すグラフである。
図10】実施例9で得られたフィルムのDSC測定結果を示すグラフである。
図11】実施例10で得られたフィルムのDSC測定結果を示すグラフである。
図12】実施例11で得られたフィルムのDSC測定結果を示すグラフである。
図13】比較例1で得られたフィルムのDSC測定結果を示すグラフである。
図14】実施例12および実施例13で用いた成形フィルムの作製手順を表す概念図である。
図15A】実施例13で得られたフィルムの走査プローブ顕微鏡の観察像である。
図15B】実施例13で得られたフィルムの図15Aに示す点線で囲まれた領域の部分拡大図である。
図16】実施例14で得られた多孔体の走査プローブ顕微鏡の観察像である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の請求項1に係るポリ乳酸ステレオコンプレックス結晶の製造方法は、L−乳酸単位を含むポリ乳酸又はD−乳酸単位を含むポリ乳酸と、ポリ乳酸とは構造の異なる有機高分子の少なくとも1種とを含むブロック共重合体、及び、該ブロック共重合体に含まれない光学異性体であるD−乳酸単位を含むポリ乳酸単独重合体又はL−乳酸単位を含むポリ乳酸単独重合体を溶媒に溶解し、高分子混合溶液を調製する工程(以下、混合溶液調製工程と称する)と、該高分子混合溶液中の溶媒を除去する工程(以下、溶媒除去工程と称する)と、を有することを特徴とする。
なお、該溶媒除去工程の後に、所望により、得られた成形体を熱処理する工程(以下、熱処理工程と称する)を有していてもよい。
即ち、前記混合溶液調製工程は、L−乳酸単位を含むポリ乳酸と、ポリ乳酸とは構造の異なる有機高分子の少なくとも1種とを含むブロック共重合体と、D−乳酸単位を含むポリ乳酸単独重合体とを溶媒に溶解し、高分子混合溶液を調製する工程(混合溶液調製工程(1))と、D−乳酸単位を含むポリ乳酸と、ポリ乳酸とは構造の異なる有機高分子の少なくとも1種とを含むブロック共重合体と、D−乳酸単位を含むポリ乳酸単独重合体を溶媒に溶解し、高分子混合溶液を調製する工程(混合溶液調製工程(2))の2態様を含み、いずれの場合も、同様の効果を奏する。
本発明の第2の態様では、ブロック共重合体として、PDLAを含むものを用い、これに、PLLA単独重合体を添加する他は、第1の態様と同様の工程を有する。
【0021】
また、前記溶媒除去工程は、高分子混合液より溶媒を除去しうるいずれの手段により行われてもよく、例えば、溶媒を揮発により除去する工程(スピンコートや静電紡糸法における溶媒除去工程を含む)、溶媒をろ過により除去する工程、溶媒をろ紙等に吸収させて取り除く工程、あるいは、前記混合溶液を、ポリ乳酸を溶解しない貧溶媒に加えることでポリ乳酸を析出させる工程のいずれであってもよく、また、これらを単独で行う工程であってもよいし、これらを適宜組み合わせて行う工程であってもよく、また、溶媒除去工程が前記した複数の工程を含む場合、実施される各工程を繰り返すことも可能であり、その順番や回数も任意である。
【0022】
この溶媒除去工程の後、溶媒を除去された高分子混合物が、膜状、フィルム状、シート状あるいは粉末状等の成形体を形成する場合には、さらなる加熱工程や成形体の形成工程を行わなくてもよい。このように、溶媒除去工程の後に得られる膜状あるいは粉末状の固体成分もまた、本発明における成形体に包含される。溶媒除去工程の後、膜状や粉末状の成形体が形成された場合にも、さらに、所望により、加熱工程を実施してもよい。
また、得られた膜状あるいは粉末状等の成形体を原料として、さらなる成形工程を付加して、構造体や繊維などの、原料成形体とは異なる態様の成形体を形成してもよい。この際、成形工程としてはプレス成形やロール成形、延伸成形(一軸、二軸)、混練りや押し出し成形、射出成形、溶融紡糸、静電紡糸など、公知のものを利用することができる。
上述のように、前記本発明に係る高分子混合体を用いることで、耐熱性に優れたポリ乳酸を含む成形体、合成繊維、多孔体及びイオン伝導体等が得られる。
【0023】
この際、前記混合溶液調製工程、溶媒除去工程、熱処理工程、成形工程、多孔化工程、イオン源の付与工程等は繰り返してもよく、その回数も順番も任意である。例えば、前記混合溶媒調製工程、溶媒除去工程を経てステレオコンプレックス結晶化したポリ乳酸を再度、溶媒に溶解あるは膨潤して混合溶媒調製工程に付した場合、初回と同じ溶解条件であっても、一度形成したステレオコンプレックス結晶が完全に溶解せずに残存し、溶媒除去工程、熱処理工程あるいは成形工程においてこれが核となってより高率でステレオコンプレックス結晶が生成することがある。
【0024】
以下、本発明の第1の態様であるPLLA重合体と他の高分子化合物(ポリ乳酸とは構造の異なる有機高分子)とのブロック共重合体及びPDLA単独重合体を用いる場合を例に挙げて説明する。
<混合溶液調製工程(1)>
本工程では、まず、PLLAとポリ乳酸以外の高分子化合物とのブロック共重合体を準備する。
ブロック共重合体を形成するためのPLLA重合体は、L−乳酸単位を主成分とする重合体であり、L−乳酸単位を5重量%以上含むことを要し、好ましくは、不可避の不純物をのぞいてL−乳酸単位100%からなる重合体である。
PLLA重合体の重量平均分子量は、10,000以上1,000,000以下であることが好ましく、10,000以上500,000以下であることがより好ましい。また、分子量分布は、1以上10以下であることが好ましく、1以上2以下であることがより好ましく、1以上1.5以下であることがさらに好ましい。
ここで、PLLA単独重合体の分子量として高分子量の化合物、例えば、分子量が10,000以上、より好ましくは、50,000以上のものを用いることで、得られる本発明のポリ乳酸や該ポリ乳酸からなる成形体の物性、特に製膜性や形成された膜の強度を向上しうる。
PLLA重合体は、その末端が末端封止基で封止されたものであってもよい。このような末端封止基としては、アセチル基、エステル基、エーテル基、アミド基、ウレタン基、などが挙げられる。
PLLA重合体は、公知のポリ乳酸の重合方法により製造方法することができ、例えばラクチドの開環重合、乳酸の脱水縮合、あるいは、これらと固相重合とを組み合わせて行い、その後、溶融固化させる方法などを挙げることができる。より具体的には、Makromol.Chem.第191巻,P481−488(1990年)或いは、特開平1−225622号公報に記載の如き、乳酸の環状二量体であるラクチドのリビング段階重合法、特開2003−64174号公報記載の如き、特定の立体選択重合触媒を用いたラセミ体ラクチドの直接開環重合法、あるいは、乳酸からの溶融重合法やラクチドの開環重合法により合成することができる。
また、PLLA重合体には、熱安定性を損なわない範囲で、重合に関わる触媒を含有していてもよい。該触媒としては、各種のアルミ化合物、リチウム化合物、スズ化合物、チタン化合物、カルシウム化合物、有機酸類、無機酸類などを挙げることができ、さらにこれらを不活性化する安定剤を共存させていてもよい。
PLLA単独重合体は市販品としても入手可能であり、例えば、Polymer Source社製の商品名:P8939−LA(分子量17,000)、三井化学(株)製の商品名:レイシア(分子量230,000)などが挙げられる。
【0025】
ブロック共重合体を構成するポリ乳酸とは構造の異なる有機高分子(以下、適宜、他の高分子化合物と称する)としては、特に制限はないが、本発明においては、ブロック共重合体がミクロ相分離構造を形成し、該ミクロ相分離構造内にPLLAおよびPDLAが近接して存在し、かつ、閉じこめられているために高融点を示すポリ乳酸が得られるものと推定されるので、該ブロック共重合体中においてポリ乳酸(PLLAあるいはPDLA)成分と他の高分子化合物がミクロ相分離構造を形成することが重要となる。ここで、AポリマーとBポリマー構成されるジブロック共重合体の場合、AモノマーとBモノマーの大きさが等しいと仮定すると、AポリマーとBポリマーの相互作用パラメータ(χ)が下記の式を満たすとき、ミクロ相分離が起こることが知られている。
χn > 10.5
なお、上記式中、nはブロック共重合体の重合度である。したがって、本発明における他の高分子化合物はポリ乳酸に対してこの条件を満たすことが求められる。この概念については、基礎化学コース 高分子化学II―物性―(丸善(株)、松下裕秀著、平成8年刊)pp.68に詳細に記載され、この記載を参照することができる。
【0026】
さらに、ポリ乳酸単独重合体との溶媒混合を行う観点からは、他の高分子化合物としては、ポリ乳酸と共通の溶媒に溶解することのできるものが好ましい。また、ポリ乳酸に対して熱処理工程を実施する観点から、熱分解温度が200℃以上であることが望ましい。
本発明に使用しうる他の高分子化合物としては、具体的には、例えば、ポリスチレン、ポリブチルスチレン、ポリメチルスチレン、ポリビニルトルエン、ポリ塩化ビニルスチレン、ポリ4−ブチルスチレン、ポリスチレンスルホン酸、その他のポリスチレン類、ポリビニルナフタレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ1−ブテン、ポリ4−メチル−1−ペンテン、その他ポリオレフィン、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ポリイソブチレン、ポリオキシメチレン、ポリジメチルシロキサン、ポリテトラメチル−p−シルフェニレンシロキサン、ポリアリーレンシロキサン、ポリアクリロニトリル、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、その他芳香族ポリエステル類、ポリε−カプロラクトン(カプロラクタム)、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン46、ナイロン6−10、その他ナイロン類、ポリエチルメタクリレート、ポリメチルメタクリレート、ポリイソプロピルアクリレート、ポリブチルメタクリレート、ポリイソブチルアクリレート、ポリヘキシルアクリレート、ポリシクロヘキシルメタクリレート、ポリラウリルメタクリレート、ポリ2−ヒドロキシメタクリレート、その他メタクリレート樹脂、ポリエチルアクリレート、ポリメチルアクリレート、ポリイソプロピルアクリレート、ポリブチルアクリレート、ポリイソブチルアクリレート、ポリヘキシルアクリレート、ポリデシルアクリレート、ポリラウリルアクリレート、その他アクリル樹脂、ポリ−p−キシレン、ポリビニルピロリドン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリフッ化ビニル、ポリフッ化ビニリデン、ポリイミド類、ポリフェニレンスルフィド、ポリスルホン、ポリフェニレンエーテルスルフィド、ポリアセチレン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリカーボネート、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレングリコール、ポリプロピレンオキシド、ポリノルボルネニルエチルスチレン、ポリノルボルネニルエチルスチレン-s-スチレン、ポリノルボルネン、ポリヘキサメチルカーボネート、ポリヘキシルノルボルネン、ポリ-n-プロピル-p-スチレンスルホン酸、ポリブチルサクシネート、ポリジシクロペンタジエン、ポリジメチルアクリルアミド、ポリシクロヘキシルエチレン、ポリ−1,5−ジオキセパン−2−オン、ポリメンチド、ポリアクリルアミド、ポリ4−ビニルピリジン、ポリジメチルアクリルアミド、ポリN−イソプロピルアクリルアミド、ポリイソプレン、ポリ3−アルキルチオフェン、ポリジオキサノン、ポリN,N−ジメチルアミノ−2−エチルメタルリレート、ポリ3−ヒロドキシブチレート、ポリヒドロキシサクシネート、ポリ−2−ヒドロキシメタクリレート、ポリ−N-2-ヒドロキシプロピル−メタクリルアミド、ポリ−N−ビニル−2−ピロリドン、ポリ−4−アクロイルモルフォリンおよびこれらの誘導体などが挙げられる。
【0027】
なかでも、共存するPLLA重合体或いはPDLA重合体とのブロック共重合体を合成しやすく、また、ポリ乳酸に対する相互作用パラメータ―(χ)が大きく、相分離構造を形成し易いという観点からは、比較的疎水性の高い有機高分子であるポリスチレン、ポリビニルナフタレン、ポリメチルメタクリレート、ポリε−カプロラクトン(カプロラクタム)、ポリブタジエン、ポリジメチルシロキサン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ1−ブテン、ポリ4−メチル−1−ペンテン、ポリノルボルネニルエチルスチレン、ポリノルボルネニルエチルスチレン−s−スチレン、ポリヘキサメチルカーボネート、ポリヘキシルノルボルネン、ポリブチルサクシネート、ポリジシクロペンタジエン、ポリシクロヘキシルエチレン、ポリ−1,5−ジオキセパン−2−オン、ポリメンチド、ポリ4−ビニルピリジン、ポリイソプレン、ポリ3−ヒロドキシブチレート、ポリ−2−ヒドロキシメタクリレート、ポリ−N−ビニル−2−ピロリドン、ポリ−4−アクロイルモルフォリンおよびそれらの誘導体、或いは、比較的親水性の高い有機高分子であるポリスチレンスルホン酸、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキシド、ポリ−n−プロピル−p−スチレンスルホン酸、ポリアクリルアミド、ポリジメチルアクリルアミド、ポリN−イソプロピルアクリルアミド、ポリN,N−ジメチルアミノ−2−エチルメタルリレート、ポリ−N−2−ヒドロキシプロピル−メタクリルアミドおよびそれらの誘導体などが好ましい。
【0028】
これら他の高分子化合物は、上記物性を満たすことで本発明の製造方法に好適に使用されるが、本発明の製造方法で得られるポリ乳酸及びポリ乳酸からなる成形体中に残存することから、ポリ乳酸や成形体の使用目的に応じて、これら他の高分子化合物のなかから、使用目的に適するものを適宜選択して用いればよい。
例えば、本発明の製造方法により得られるポリ乳酸を、生体適合性を有し、ドラックデリバリーや人工皮膚、人工血管、手術縫合糸、血液浄化フィルター・人工腎臓(多孔体の場合)等に用いる場合には、生体適合性を有する高分子化合物が選択され、そのような観点からは、より具体的には、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレングリコール、ポリプロピレンオキシド、ポリε−カプロラクトン(カプロラクタム)、ポリブチルサクシネート、ポリジメチルアクリルアミド、ポリN,N−ジメチルアミノ−2−エチルメタルリレート、ポリ3−ヒロドキシブチレート、ポリ−2−ヒドロキシメタクリレート、ポリ−N-2-ヒドロキシプロピル−メタクリルアミドなどが挙げられる。
また、熱可塑性で成形体(フィルム・繊維等)を成形するのに好適なものとしては、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ1−ブテン、ポリ4−メチル−1−ペンテン、その他ポリオレフィン、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ポリイソブチレン、ポリオキシメチレン、ポリアクリロニトリル、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、その他芳香族ポリエステル類、ポリε−カプロラクトン(カプロラクタム)、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン46、ナイロン6−10、その他ナイロン類、ポリエチルメタクリレート、ポリメチルメタクリレート、ポリイソプロピルアクリレート、ポリブチルメタクリレート、ポリイソブチルアクリレート、ポリヘキシルアクリレート、ポリシクロヘキシルメタクリレート、ポリラウリルメタクリレート、ポリ2−ヒドロキシメタクリレート、その他メタクリレート樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリフッ化ビニル、ポリフッ化ビニリデン、ポリ3−ヒロドキシブチレート、ポリヒドロキシサクシネート、ポリシクロヘキシルエチレン、ポリカーボネート、などが挙げられる。
さらに、誘電率が低く、電子回路基材等に好適に用いられるものとしては、ポリジメチルシロキサン、などが挙げられる。
加えて、ゴム状の弾性体を成形するのに好適なものとしては、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ポリイソブチレン、などが挙げられる。
その他の材料との接着性が高いという観点からは、ポリエチルアクリレート、ポリメチルアクリレート、ポリイソプロピルアクリレート、ポリブチルアクリレート、ポリイソブチルアクリレート、ポリヘキシルアクリレート、ポリデシルアクリレート、ポリラウリルアクリレート、その他アクリル樹脂、などが挙げられる。
【0029】
また、特に成形体、フィルムやシートなどを形成する場合には、架橋を起こしやすく、機械強度や伸びに優れるものとして、ポリブタジエン、ポリジメチルシロキサン、ポリノルボルネニルエチルスチレン、ポリノルボルネニルエチルスチレン−s−スチレン、ポリノルボルネン、ポリヘキサメチルカーボネート、ポリヘキシルノルボルネン、ポリイソプレン等を選択することができる。
また、本発明の成形体を以下に詳述するイオン伝導体などに用いる場合には、分子修飾しやすい、あるいは、イオン源をすでに含んでいる、という観点から、ポリスチレン、ポリスチレンスルホン酸、ポリブチルスチレン、ポリメチルスチレン、ポリビニルトルエン、ポリ塩化ビニルスチレン、ポリ4−ブチルスチレン、その他のポリスチレン類、ポリビニルナフタレン、ポリスルホン、ポリフェニレンエーテルスルフィド、ポリ−n−プロピル−p−スチレンスルホン酸、ポリジシクロペンタジエン、ポリ3−アルキルチオフェン等を選択すればよい。
また、ポリ−1,5−ジオキセパン−2−オン、ポリメンチドなども用いることができる。
さらに、均一な物性の高分子化合物を入手し易いといった観点からは、Polymer Source社等より市販品としてPLLAあるいはPDLAとのブロック共重合体が入手可能な、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリジメチルシロキサン、ポリ4−ビニルピリジン、ポリジメチルアクリルアミドなどが好ましく挙げられる。
【0030】
また、これらのポリ乳酸とブロック共重合体を形成するポリ乳酸とは異なる構造を有する高分子化合物としては、前記高分子化合物を少なくとも1種含んでいればよく、前記以外の高分子化合物とこれら前記高分子化合物の共重合体であってもよい。また、前記高分子化合物を複数含む共重合体であってもよい。その場合、共重合の形式はブロック共重合体であってもよいし、ランダム共重合体であってもよい。
【0031】
これらのポリ乳酸とブロック共重合体を形成するポリ乳酸とは異なる構造を有する高分子成分を、ステレオコンプレックス結晶およびそれを含む成形体を製造する前に化学処理等によって変性させておいてもよい。例えば、ポリ乳酸とポリスチレンとのブロック共重合体を合成し、これをするスルホン化してポリ乳酸とポリスチレンスルホン酸のブロック共重合体とした後、これを前記ステレオコンプレックス結晶およびそれを含む成形体を製造する原料としてもよい。これにより、溶媒除去工程あるいは熱処理工程後にイオン源や生体適合性を付与する、あるいは、多孔化するための化学処理を行わなくてよい、あるいは、より効率的に行えるなどの利点を有する。
【0032】
上記PLLAあるいはPDLAとポリ乳酸以外の高分子化合物のブロック共重合体において、PLLAあるいはPDLAとポリ乳酸以外の高分子化合物との接合点、あるいは、異なる化学構造を有するポリ乳酸以外の高分子化合物同士の接合点の化学構造に制限はなく、例えば、−O−、−COO−、−NH−、−CO−、−CH−、−OCHCHCH−、−OCHCHCHCHCH−、−OCHCH−O−CH−、−CO−CH−、−CHCHNH−、−SiCHCH−、−SiCHCH−,−SiCHCHCH−、−CHCHO−、−COCCH=CH−、−CHCHS−、−CHCH=CH−、−ph−CH=CH−などが挙げられ、なかでも、−O−、−COO−、−NH−、−CO−、−CH−、−CHCHO−、−COCCH=CH−、−CHCH=CH−であることが好適である。
上記PLLAあるいはPDLAとポリ乳酸以外の高分子化合物のブロック共重合体において、PLLAあるいはPDLAとポリ乳酸以外の高分子化合物との接合点、あるいは、異なる化学構造を有するポリ乳酸以外の高分子化合物同士の接合点の化学構造がこのような接合点構造を有することで、当該ブロック共重合体が分解することなく、本発明のポリ乳酸あるいはその成形体中に含まれることが可能となる。
【0033】
本発明における他の有機高分子化合物の末端構造には特に制限はなく、例えば、−OH、−COOH、−NH、−CHO、−CH、−OCHCHCH、−OCHCHCHCHCH、−OCHCH−O−CH,−CO−CH,−CHCHNH,CHCl,−COCl,−SiCHCHCl,−SiCHCHH,−SiCHCHCH,−CHCHOH,−COCCH=CH,−CHCHSH,−CHCH=CH,−ph−CH=CH,−SOHなどが挙げられ、なかでも、−OH、−COOH、−NH、−CHO、−CH、−CHCHOH,−COCCH=CH,−CHCH=CH,−SOHであることが好適である。
他の高分子化合物がこのような末端構造を有することで、本発明の製造方法により得られるポリ乳酸に種々の化学修飾を容易に行うことが可能となる。
【0034】
ブロック共重合体を構成する他の高分子化合物の重量平均分子量は、10,000以上1,000,000以下であることが好ましく、10,000以上500,000以下であることがより好ましい。また、分子量分布は、1以上10以下であることが好ましく、1以上2以下であることがより好ましく、1以上1.5以下であることがさらに好ましい。
【0035】
前記PLLA重合体と他の高分子化合物のブロック共重合体におけるPLLA重合体と他の高分子化合物の含有比率は、重量比で、1:99から99:1までの範囲で適宜選択され、好ましくは、10:90から90:10の範囲であることがステレオコンプレックス結晶をより多く部材中に含ませることができる点で好ましい。
ブロック共重合体の合成は常法により、行うことができる。具体的には、例えば、これら重合体を、得ようとするブロック共重合体に応じた、予め定められた割合で、溶融混合または溶液混合した後、固化させ、さらに固相重合することにより製造することができる。または、PLLA重合体をあらかじめ合成し、その分子末端にポリ乳酸以外の高分子化合物のモノマーを逐次的に重合成長させることにより製造することができる。逆に、ポリ乳酸以外の高分子化合物をあらかじめ合成し、その分子末端にL−乳酸単位を逐次的に重合成長させることにより製造することができる。
【0036】
また、PLLA重合体と他の高分子化合物とを用いたブロック共重合体の合成方法に関しては、例えば、J. AM. CHEM. SOC. 2002, 124, P12761-12773に記載された方法を参照することができる。
合成の一つの方法としてリビングアニオン重合を用いた方法がある。即ち、スチレンを連続的に添加し、その後、ラクチドモノマーを添加しつつリビングアニオン重合を行う方法である。また、末端が水酸基で修飾されたポリスチレンを用いた方法もとりうる。
代表的な重合スキームは以下に示すとおりである。
【0037】
【化1】

【0038】
固相重合は、各重合体のガラス転移温度(Tg)以上、且つ、融点(Tm)以下の温度、より好ましくはTg以上であってTmより10℃低い温度、特にはTg以上であってTmより50℃低い温度以下で行うことができる。TgやTmは、示差走査熱量計(DSC)によって測定することができる。
固相重合は、減圧下で行うことが好ましく、例えば、0.01〜20hPa、好ましくは0.1〜2hPaの減圧下であることが好ましい。
L−乳酸単位、D−乳酸単位を含む高分子化合物は、エステル反応や脱水縮合反応によって化学的に結合されるため、反応の進行に伴ってHOが副生する。減圧下で重合させるとこの副生水を系外に除去することができ、反応平衡を重合側に移行させることができるため好ましい。圧力条件が20hPaを超える場合、脱水が不十分となる可能性があり、一方0.01hPa未満とした場合でもそれ以上の脱水効果が得られない。
固相重合は、窒素などの不活性ガス雰囲気下で行ってもよい。固相重合の時間は、少なくとも5時間、好ましくは5〜50時間である。重合度の上昇度に対応して固相重合温度を上げることが好ましい。
【0039】
なお、固相重合を行う際の反応装置としては特に装置に限定はなく、回分式、あるいは連続式プロセスにより、たとえば濃縮乾燥装置などを使用することができる。また、コニカルドライヤー、ドラム式加熱器、ベルト搬送式あるいは流動床式固相重合装置などを使用こともできる。
固相重合後に、生成された高分子化合物の熱安定性向上のために、末端基の封止処理を行い、さらに、再沈殿等による触媒と未反応のモノマーを取り除く処理を行なうことが好ましい。
【0040】
また、他の重合体としてポリスチレンを用いる場合には、ブロック共重合体として、PLLAとポリスチレンとのジブロック共重合体である市販品を使用してもよい。例えば、PLLAとポリスチレンとのブロック共重合体(PLLA−b−PS)としては、商品名:P2642−SLA(PLLA分子量19,500、PS分子量21,000、合計40,500)、商品名:P2643−SLA(PLLA分子量14,000、PS分子量21,000、合計35,000)、商品名:P6511−SLA(PLLA分子量17,000、PS分子量21,000、合計38,000)などがPolymer Source社製の市販品として入手可能である。
ブロック共重合体の重量平均分子量は、前記PLLA重合体の分子量と他の高分子化合物の分子量の総和にほぼ等しく、従って、本発明に用いるブロック共重合体の重量平均分子量は、20,000以上2,000,000以下であることが好ましく、20,000以上1,000,000以下であることがより好ましい。また、分子量分布は、1以上10以下であることが好ましく、1以上2以下であることがより好ましく、1以上1.5以下であることがさらに好ましい。
なお、本発明においてポリマーの重量平均分子量及び分子量分布は、溶媒としてテラヒドロフラン(THF)を用いた排除クロマトグラフィー法により求めた値を採用している。
【0041】
次に、PDLA単独重合体を準備する。PDLA単独重合体は、前記ジブロック共重合体の原料に用いるPLLA重合体と、出発物質としてD−乳酸単位を用いた以外は同様にして行うことができる。
高分子混合溶液の調製に用いるPDLA単独重合体の重量平均分子量は、10,000以上1,000,000以下であることが好ましく、10,000以上500,000以下であることがより好ましい。また、分子量分布は、1以上10以下であることが好まし、1以上2以下であることがより好ましく、1以上1.5以下であることがさらに好ましい。
PDLA単独重合体もまた、市販品として入手可能であり、例えば、商品名:P8937−LA(分子量19,500)、商品名:P3923−LA(分子量16,500)(がPolymer Source社製として、また、PURAC社製PDLA(分子量230000)が入手可能である。
【0042】
次に、得られたPLLA重合体と他の高分子化合物とのブロック共重合体及びPDLA単独重合体とを溶媒中で溶解し、高分子混合溶液を調製する。
混合溶液の調製に用いるブロック共重合体とPDLA単独重合体との混合比率は、1:99から99:1までの範囲で適宜選択されるが、ステレオコンプレックス結晶の製造効率の観点からは、ブロック共重合体に含まれるPLLA重合体と、PDLA単独重合体との含有比率が10:90から90:10の範囲となるように調整することが好ましい
【0043】
混合溶液の調製に用いる溶媒としては、上記2種の重合体を溶解しうる限りにおいて特に制限はなく、例えば、クロロホルム、テトラヒドロフラン、キシレン、トルエン、ベンゼン、エチルベンゼン、ジクロロエタン、四塩化炭素、トリクロロエタン、ジクロロメタン、クロロベンゼン、メチルエチルケトン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼンなどが好適なものとして挙げられる。これらは1種を用いてもよく、目的に応じて2種以上混合し、混合溶媒として用いることもできる。また、混合溶媒とする場合には、上記有機溶媒に加えて、例えば、メタノールやエタノールなどの低沸点溶媒を混合してもよい。
高分子混合溶液中の高分子化合物濃度は、0.1質量%以上50質量%以下の範囲であることが好ましく、より好ましくは、0.1質量%以上20質量%以下の範囲である。
高分子混合溶液の調は、ブロック共重合体及びPDLA単独重合体をそれぞれ溶媒に溶解した後、混合してもよく、まず、一方を溶媒に混合した後、他方を加えて溶解させてもよい。溶液の調は室温(25℃)で行うことができるが、所望により25℃から用いる溶媒の沸点まで加熱してもよい。混合時間は2種の重合体が均一に混合するという観点から、1分間以上24時間以下の範囲で行うことが好ましい。
【0044】
<混合溶液調製工程(2)>
本発明のポリ乳酸ステレオコンプレックス結晶の製造方法の第2の態様では、混合溶液調工程(1)において用いたPLLAとポリ乳酸以外の高分子化合物とのブロック共重合体に換えて、PDLAとポリ乳酸以外の高分子化合物とのブロック共重合体を用い、且つ、PDLA単独重合体に換えて、PLLA単独重合体を用いる他は、すでに記述した混合溶液調製工程(1)と同様に行うことができ、好ましい態様もまた同様である。
【0045】
本工程においても、他の重合体としてポリスチレンを用いる場合には、ブロック共重合体として、PDLAとポリスチレンとのブロック共重合体(PDLA−b−PS)である市販品を使用してもよい。例えば、PDLAとポリスチレンとのブロック共重合体として、商品名:P8980C−SLA(PDLA分子量17,000、PS分子量21,000、合計38,000)などがPolymer Source社製の市販品として入手可能である。
また、PLLA単独重合体としては、既述のPolymer Source社製の商品名:P8939−LA(分子量17,000)、三井化学(株)製の商品名:レイシア(分子量230,000)などを用いてもよい。
【0046】
また、本発明のステレオコンプレックス形成を阻害しない限り、後述する成形体に各種の構造や機能(多孔構造やイオン伝導性)を付与する目的で、前記混合溶液調製工程において、ポリ乳酸を含む高分子化合物や無機フィラーや結晶核剤(ポリ乳酸のステレオコンプレックス結晶化を促進するもの等)等の添加剤や溶媒、金属化合物、イオン等をさらに加えてもよい。
【0047】
前記混合溶液調製工程(1)又は混合溶液調製工程(2)を実施した後、得られた高分子混合溶液から溶媒を除去する工程を行う。
溶媒除去工程は、いずれの手段をとってもよいが、代表的には、下記の工程(1)〜(4)を挙げることができる。溶媒除去工程としては、下記工程(1)〜(4)を単独で行ってもよいし、これらを適宜組み合わせて行ってもよく、複数の工程を組み合わせる場合、その実施順も任意である。
<高分子混合溶液の溶媒を除去する工程(1)>
溶媒の除去は、例えば、混合溶液を、表面をポリテトラフルオロエチレンで処理した金属板に塗布し、室温に放置して揮発させることで行うことができる。あるいは、テフロン(登録商標)製シャーレにキャスト後、室温に放置して揮発させることで行うことができる。または、混合溶媒を前記シャーレ等の容器に入れ、これを撹拌子(スターラー)、ダイナミックスターラー、撹拌棒などで撹拌しながら溶媒を揮発させてよい。これら溶媒の揮発は大気圧下で行ってよいが、効率の観点から、減圧下で行ってもよい。この場合の減圧条件としては、ロータリーポンプなどの特別な減圧設備を必要としない真空ポンプやアスピレーター、ダイヤフロム・ポンプでも可能である点から、1×10−3Torr(1.33×10−1Pa)以上であることが好ましく、1×10−2Torr(1.33Pa)以上であることがより好ましい。
また、上記混合溶液を金属基板等の上にスピンコートし、この状態で溶媒を揮発して薄膜を得ることも可能である。この場合、スピンコートの回転数を任意に設定することにより、所望の膜厚にすることができる。例えば、ACTIVE社製ACT−300Aを用い、回転数100rpm〜5000rpmでスピンコートすることで薄膜を形成することが可能である。
いずれの場合も、溶媒の揮発あるいは乾燥は0℃以上200℃以下で行うことができ、好ましくは、20℃以上100℃以下である。乾燥時間は、1分間〜72時間とすることが好ましく、1分間〜24時間とすることがより好ましい。
【0048】
あるいは、上記混合溶液を公知の静電紡糸法によって極細繊維化し、この状態で揮発して薄膜化することも可能である。この方法は高分子溶液や高分子溶融体に直接高電圧を印加して電気的紡糸によりナノ繊維を形成する方法であり、具体的には、Biomacromolecules,2006,vol.7, p.3316−3320に記載される方法を適用しうる。
この方法では、前記高分子混合物溶液をシリンジに入れ、0.1mL/minで溶液を放出する。この際、印加電圧が−25kv、ドラム状捕集部(直径10cm)はその表面が20cm/minで常に回転するようにした。その結果、直径400〜970nmの微細繊維およびその集合体が得られる。
このようにして得られた微細繊維は、不織布のみならず細胞増殖用基材やフィルター等の種々の用途に使用される。
溶媒の揮発あるいは乾燥は0℃以上200℃以下で行うことができ、好ましくは、20℃以上100℃以下である。乾燥時間は、1分間〜72時間とすることが好ましく、1分間〜24時間とすることがより好ましい。
【0049】
<高分子混合溶液の溶媒を除去する工程(2)>
本発明のポリ乳酸ステレオコンプレックス結晶の製造方法における溶媒除去工程の第2の態様では、例えば、混合溶液を、ろ過することによって行うことができる。溶媒のろ過による除去は、ステレオコンプレックス結晶を効率的に回収する観点から、テフロン(登録商標)製メンブレンフィルターや陽極酸化アルミナ多孔膜などの孔径が10μm以下であるフィルターを用いる。この際、ろ過速度を上げるためにアスピレーターやロータリーポンプ等を用いて減圧下で行ってもよい。減圧条件としては、1×10−3Torr(1.33×10−1Pa)以上であることが好ましく、1×10−2Torr(1.33Pa)以上であることがより好ましい。
溶媒のろ過による除去は0℃以上200℃以下で行うことができ、好ましくは、20℃以上100℃以下である。ろ過時間は、1分間〜72時間とすることが好ましく、1分間〜24時間とすることがより好ましい。
【0050】
<高分子混合溶液の溶媒を除去する工程(3)>
本発明のポリ乳酸ステレオコンプレックス結晶の製造方法における溶媒除去工程の第3の態様では、例えば、混合溶液から溶媒のみをろ紙等に吸収させることによって行うことができる。溶媒の吸収による除去は、より多くの溶媒を吸収することで迅速に行える観点から、通常のろ紙を用いてよい。
溶媒のろ紙による吸着除去は、温度条件0℃以上200℃以下の環境下で行うことができ、好ましくは、20℃以上100℃以下である。吸収時間は、1分間〜72時間とすることが好ましく、1分間〜24時間とすることがより好ましい。
【0051】
<高分子混合溶液の溶媒を除去する工程(4)>
本発明のポリ乳酸ステレオコンプレックス結晶の製造方法における溶媒除去工程の第4の態様では、前記混合溶液を、ポリ乳酸を溶解しないメタノール等の貧溶媒に混合し、ポリ乳酸を析出させた後に、上記溶媒除去工程(1)〜(3)のいずれか、または、それらを組み合わせて行い、溶媒を除去する工程である。
【0052】
なお、前記溶媒除去工程を実施することで、他の有機高分子と溶媒の組み合わせによっては、多孔構造が得られる場合がある。これは、ブロック共重合体中の他の有機高分子が溶媒を保持しやすいことに起因して、溶媒除去過程の前期においてポリ乳酸成分がステレオコンプレックス結晶を形成して固化しても、ポリ乳酸以外の成分は溶媒を含む膨潤状態にあるために、溶媒除去過程の後期において前記ポリ乳酸以外の成分から選択的に溶媒が除去されて、この領域が空孔となるためである。あるいは、用いる溶媒によっては、ポリ乳酸成分の非晶領域(ステレオコンプレックス結晶以外のポリ乳酸の領域)が溶媒を含み、この溶媒が揮発して多孔構造となるためである。このような場合には、高分子混合物は多孔体となり、以下に詳述する本発明のポリ乳酸を含んで構成される多孔体として好適に利用することができる。また、この高分子混合物からなる多孔体をさらに、所望により引き続き行われる熱処理工程に付すことで、熱処理され、より高い比率でステレオコンプレックス結晶を含有する多孔体としてもよい。
【0053】
また、本発明のステレオコンプレックス形成を阻害しない限り、後述する成形体に各種の構造や機能(多孔構造やイオン伝導性)を付与する目的で、前記溶媒除去工程において、ポリ乳酸を含む高分子化合物や無機フィラーや結晶核剤(ポリ乳酸のステレオコンプレックス結晶化を促進するもの等)等の添加剤や溶媒、金属化合物、イオン等をさらに加えてもよい。
【0054】
なお、後述の成形体を成形する工程において、該溶媒で高分子混合物を膨潤状態で成形する場合には、これら溶媒除去工程では、完全に溶媒を除去する必要はなく、高分子混合物に溶媒を含んだ状態で、混練り、押し出し、射出成形、プレス成形、溶融紡糸、湿式紡糸や静電紡糸等の成形体や合成繊維の成形に用いてもよい。
【0055】
<溶媒除去工程後に得られた高分子混合物を熱処理する工程>
前記混合溶液の溶媒を除去する工程を実施した後、得られた高分子混合物は、通常、高分子混合物からなる膜あるいは粉末となり、これらは、高い比率でポリ乳酸のステレオコンプレックス結晶を含有する膜あるいは粉末である。溶媒除去工程後、この高分子混合物を熱処理する熱処理工程を行うことが、ステレオコンプレックス結晶の含有比率を上げる点で好ましい。
熱処理は、該高分子混合物を示差走査型熱量計(DSC)測定用の試料パンに入れ、DSC炉内で行うことができる。また、一定温度に設定可能なオーブン、プレス成形機、空気恒温槽、オイルバス、などを用いてもよい。
なお、本発明のポリ乳酸は、溶媒除去工程を経て得られた膜状或いは粉末状の成形体に対して熱処理工程を行ったものでもよく、また、高分子混合物やこれを溶媒除去して得られた成形体を原料として、異なる態様の成形体、合成繊維、多孔体、或いは、イオン伝導体を得る場合には、後述するように、高分子混合物等を用いて、予め、成形体、合成繊維、多孔体、或いは、イオン伝導体の形態とした後、熱処理工程を行ってもよい。
熱処理工程における温度は、ポリ乳酸のガラス転移温度(Tg)以上、融点(Tm)以下である100℃以上300℃以下で行うことができ、より好ましくは150℃以上250℃以下である。熱処理時間は、1分間〜72時間とすることが好ましく、1時間〜24時間とすることがより好ましい。
【0056】
<ポリ乳酸>
溶媒を除去した後、得られた高分子化合物は、高い比率でポリ乳酸のステレオコンプレックス結晶を含有する膜状あるいは粉末状の形態をとるポリ乳酸であり、原料として用いたブロック共重合体に由来する他の高分子化合物を含んでいる。
ポリ乳酸中のステレオコンプレックス結晶の存在は、広角X線回折測定(WAXD)あるいはDSC測定により確認することができる。本発明の製造方法により得られたポリ乳酸におけるステレオコンプレックス結晶の含有率は、ポリ乳酸の全量に対して10質量%以上であり、より好ましくは10質量%以上100質量%以下である。また、α晶は20質量%以下であることが好ましく、さらに好ましくはα晶を全く含まない態様である。
【0057】
本発明の製造方法で得たポリ乳酸には、ポリ乳酸とは構造の異なる有機高分子(他の高分子化合物)がポリ乳酸とブロック共重合体を形成し、これが含まれる。即ち、ポリ乳酸に、ポリ乳酸とは構造の異なる有機高分子がブロック共重合体として含まれることで、本発明の製造方法により得られたものであることが検知される。
該ポリ乳酸とは構造の異なる有機高分子の含有率は1質量%以上99質量%以下であり、10質量%以上90質量%以下であることが好ましい。
ここで、ポリ乳酸とポリ乳酸とは構造の異なる有機高分子がブロック共重合体を形成していることは、以下の方法で確認できる。また、シグナル強度の比率から、ポリ乳酸とポリ乳酸とは構造の異なる有機高分子の成分比を知ることができる。
1.ポリ乳酸と他の高分子化合物が溶解する溶媒で溶解し、NMR測定を行う方法
ポリ乳酸とブロック共重合体を形成している他の高分子化合物およびポリ乳酸の両方を溶解する溶媒で溶解後、この溶液のNMR測定を行う。ポリ乳酸と他の高分子化合物がブロック共重合体を形成している原料を含む場合、ポリ乳酸単独重合体およびポリ乳酸以外の高分子の化合物に起因するシグナルの他に、ポリ乳酸とポリ乳酸以外の高分子化合物の「接合点」に起因するシグナルが観測される。これにより、対象となる試料がポリ乳酸と他の高分子化合物のブロック共重合体を含有していることが確認される。また、前記のNMRシグナル強度を比較することで、ポリ乳酸と他の高分子化合物の組成比率を知ることができる。なお、ジブロック共重合体では該ブロック共重合体分子鎖1本あたりに1個しか接合点がなく、接合点の数が少ないために、接合点に対応するシグナルは非常に弱いものであるが、NMR測定時間を長くする等の方法によりデータを積算することで、測定することができる。
【0058】
2.ポリ乳酸と他の高分子化合物が溶解する溶媒に溶解し、ポリ乳酸を溶解せず他の高分子化合物を溶解する溶媒に投入してポリ乳酸を析出させ、そのNMR測定を行う方法
ポリ乳酸と他の高分子化合物の両方を溶解する溶媒で溶解後、ポリ乳酸を溶解せず、他の高分子化合物を溶解する溶媒に投入して得られる沈殿を採取し、これら、再度、前記の両成分を溶解する溶媒に溶解してNMR測定を行う。ポリ乳酸が他の高分子化合物とブロック共重合体を形成していれば、ポリ乳酸と他の高分子化合物の両方のシグナルが観測されることで、他の高分子化合物の存在が確認される。
ポリ乳酸とともに他の高分子化合物に起因するシグナルを観測することで、ポリ乳酸と他の高分子化合物を含有していることが確認される。より具体的には、例えば、ポリ乳酸とポリスチレンのブロック共重合体を含んでいる場合には、クロロホルムで溶解後、シクロヘキサン(ポリ乳酸を溶解しない)に投入し、沈殿を採取する。この沈殿からシクロヘキサンを除去した後、これをクロロホルムに溶解してNMR測定を行えばよい。また、得られるNMRシグナル強度を比較することで、ポリ乳酸と他の高分子化合物の組成比率を知ることができる。
【0059】
3.ポリ乳酸を溶解せず他の高分子化合物を溶解する溶媒を用いてソックスレー抽出を行って他の高分子化合物を除去し、残留物のNMR測定を行う方法
ポリ乳酸を溶解せず、他の高分子化合物を溶解する溶媒を用いて成形体を十分にソックスレー抽出し、残留物を両成分を溶解する溶媒に溶解し、この溶液のNMR測定を行う。ポリ乳酸が他の高分子化合物とブロック共重合体を形成していれば、ポリ乳酸と他の高分子化合物の両方のシグナルが観測されることで、他の高分子化合物の存在が確認される。
例えば、ポリ乳酸とポリスチレンとの共重合体を用いた場合には、まず、シクロヘキサン(ポリ乳酸を溶解しない)でソックスレー抽出を行い、残留物をクロロホルムに溶解し、この溶液のNMR測定を行えばよい。また、得られるNMRシグナル強度を比較することで、ポリ乳酸と他の高分子化合物の組成比率を知ることができる。
本発明においては、上記1の方法を用いて他の高分子化合物の存在と含有量とを確認している。
【0060】
また、本発明のポリ乳酸ステレオコンプレックス結晶の製造方法により得られたポリ乳酸は、DSCで測定した融点が220℃以上であり、好ましくは、240℃以上260℃以下であり、公知の製造方法で得られたポリ乳酸に比較して耐熱性に優れる。
前記本発明の製造方法により得られた本発明のポリ乳酸は、その融点が220℃以上であり、従って、融点が250℃前後である汎用のポリエチレンテレフタレート(PET)と同様に、各種の樹脂成形体や合成繊維などに有用である。また、このポリ乳酸は、その特性を活かして、例えば、多孔体やイオン伝導体などの形成にも好適に使用される。
【0061】
<成形体>
以下、本発明のポリ乳酸を含んで構成される成形体について説明する。
本発明の成形体は、前記本発明のポリ乳酸およびポリ乳酸とブロック共重合体を形成する他の高分子化合物を含有する。前記本発明のポリ乳酸およびポリ乳酸とブロック共重合体を形成する他の高分子化合物はこれらのみで成形樹脂として用いてもよく、さらにポリ乳酸を含む高分子化合物や無機フィラーや結晶核剤(ポリ乳酸のステレオコンプレックス結晶化を促進するもの等)等の添加剤や溶媒、イオンや金属化合物などをブレンドして用いてもよい。
併用可能なポリ乳酸以外の高分子化合物としては、他の熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、軟質熱可塑性樹脂などが挙げられ、これらの一種以上を添加することもできる。これらの成分の添加のタイミングは、本発明のおけるポリ乳酸のステレオコンプレックス結晶の生成を阻害しない限りは、前記高分子混合溶液を調製する工程や該高分子混合溶液中の溶媒を除去する工程であってもよい。
しかしながら、組み合わせる有機高分子化合物が多いとステレオコンプレックス結晶の総重量分率が低くなるので、成形体はポリ乳酸を主成分とすることが好ましい。即ち、成形樹脂の10質量%以上がポリ乳酸であることが好ましく、99質量%がポリ乳酸からなるものであってもよい。
また、本発明に用いうる前記無機フィラーの如き無機添加剤としては、金属化合物、イオン、耐光剤、酸化防止剤、ポリ乳酸の結晶核剤(ステレオコンプレックス結晶化を促進するもの等)が挙げられ、その添加するタイミングも前記高分子混合溶液を調製する工程や該高分子混合溶液中の溶媒を除去する工程であってもよい。
また、前記溶媒除去工程の後、膜状あるいは粉末状等の所望の形状の部材が得られる場合は、さらに成形工程を付加することなく、ポリ乳酸を含む膜状あるいは粉末状の成形体としてもよい。前述のように、このような成形体も本発明の成形体に包含されるものである。また、熱処理工程の後、膜状あるいは粉末状等の所望の形状の部材が得られる場合は、さらに成形工程を付加することなく膜状あるいは粉末状の成形体としてもよい。
本発明の成形体は、前記本発明のポリ乳酸を含むものであり、さらに、既述のように、ポリ乳酸と共重合体を形成する他の高分子化合物をも含んでいる。他の高分子化合物を含むことで、他の高分子化合物が本来有する耐熱性やイオン伝導性などの機能をも有する成形体を得ることができる。
【0062】
本発明の成形体は、前記本発明のポリ乳酸を含んで構成されるが、本発明の成形体はそれを構成する材料の少なくとも一部に本発明のポリ乳酸を含むものであれば、前記ポリ乳酸とブロック共重合体を形成するポリ乳酸以外の高分子化合物と同じあるいはそれとは異なる高分子化合物(ポリ乳酸を含む)や無機物や溶媒等の成分を構成材料として、或いは、添加剤として含むものであってもよい。
従って、本発明のポリ乳酸のみならず、ポリ乳酸を製造するために用いられた前記高分子混合物を成形したもの、前記高分子混合物を含んで成形したものを熱処理したもの、以下に詳述する本発明のポリ乳酸により得られた合成繊維、多孔体、イオン伝導体を含む成形体もまた、本発明の成形体に包含される。
【0063】
成形体を製造する際には、本発明のポリ乳酸を、通常、成形体の製造に用いる樹脂材料と同様に用いればよい。本発明の成形体に何らかの機能を持たせる場合には、必要に応じて、公知の樹脂材料をブレンドして用いたり、公知の添加剤や溶媒を用いたりしてもよい。
例えば、成形体の形成に際して、本発明のポリ乳酸およびポリ乳酸を含む成形体に補強剤としてのフィラーを添加してもよい。フィラーは無機フィラー、有機フィラーのいずれも用いることができる。
無機フィラーとしては、ガラス繊維、グラファイト繊維、炭素繊維、金属繊維、チタン酸カリウムウィスカー、ホウ酸アルミニウムウィスカー、マグネシウム系ウィスカー、珪素系ウィスカー、ワラステナイト、セピオライト、ゾノライト、エレスタダイト、石膏繊維、シリカ繊維、シリカ・アルミナ繊維、ジルコニア繊維、窒化珪素繊維、硼素繊維、ガラスフレーク、非膨潤性雲母、グラファイト、金属箔、タルク、クレイ、マイカ、セリサイト、ベントナイト、カオリン、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、硫酸マグネシウム、水酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、ハイドロタルサイト、水酸化マグネシウム、石膏およびドーソナイト等が挙げられる。
【0064】
また、有機フィラーとしては、天然繊維、パラ型アラミド繊維、ポリアゾール繊維、ポリアリレート、ポリオキシ安息香酸ウィスカー、ポリオキシナフトイルウィスカーおよびセルロースウィスカー等が挙げられる。
これらのフィラーは、繊維状、板状または針状のものを用いることができる。これらのフィラーの中で、繊維状の無機フィラーが好ましく、特にガラス繊維が好ましい。また、フィラーのアスペクト比は5以上であることが好ましく、10以上であることがより好ましい。特に好ましいのは100以上である。アスペクト比とは、繊維状フィラーの場合は、繊維長を繊維直径で除したもので、板状の場合は、長周期方向の長さを厚さで除したものを指す。
フィラーの弾性率は、50GPa以上であることが好ましい。
【0065】
フィラーとして繊維状のものを用いる場合には、単繊維としての強度が200MPa以上のものが好ましく、300MPa以上であることがより好ましい。この範囲であれば複合体として十分な力学物性を持ち、さらにフィラーとして混合する量を減らしても十分な補強効果をえることができるために必要量を添加しても成形体表面の外観を損ねることがない。
繊維状のフィラーは、繊維の直径が0.1μmから1mmの範囲、好ましくは1μmから500μmの範囲である。その繊維と直径の比からなるアスペクト比(長さ÷直径)が50以上であることが好ましい。この範囲であれば、樹脂と繊維との混合を良好に行うことができ、さらに複合化によって良好な物性の成型品を得ることができる。より好ましくは100〜500、さらに好ましくは100〜300である。
【0066】
また、成形体を形成するポリ乳酸には、前記フィラー以外にも、公知の添加剤、例えば、可塑剤、酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、熱安定剤、滑剤、離形剤、帯電防止剤、難燃剤、発泡剤、充填剤、抗菌・抗カビ剤、核形成剤(ポリ乳酸のステレオコンプレックス結晶化を促進する物質等)、染料、顔料を含む着色剤などの1種あるいは2種以上を目的に応じて含有することができる。
さらに、成形体をイオン伝導体として用いる場合には、ポリ乳酸とともに、イオン伝導性を有する物質、例えば、リチウム等の金属あるいはそのイオン、酸化物、塩化物、フッ物、錯体等のイオンや金属化合物を含んでもよい。
【0067】
また、後述する成形体や合成繊維や多孔体を得る工程において、溶媒で高分子混合物を膨潤状態とする場合には、溶媒を含有していてもよいし、新たに添加してもよい。新たに溶媒を添加する場合は、前記高分子混合溶液を調製する際に用いた溶媒と同じであってもよいし、違う溶媒であってもよい。また、これらの両方やさらに異なる溶媒を複数種含んでいてもよい。前記高分子混合溶液を調製する際に用いた溶媒と同じ溶媒を含む場合、前記溶媒除去工程では完全に溶媒を除去する必要はなく、高分子混合物に溶媒を含んだ状態で、混練り、押し出し、射出成形、プレス成形、溶融紡糸、湿式紡糸や静電紡糸等の成形体や合成繊維の成形に用いてもよい。この際に用いる溶媒としては、ポリ乳酸およびポリ乳酸とブロック共重合体を成す他の高分子化合物あるいは前記のこれ以外に添加する高分子化合物(ポリ乳酸を含む)等を膨潤させる溶媒であることが望ましい。なお、ポリ乳酸については、前記溶媒混合工程で用いた溶媒を好適に用いることができる。
【0068】
このようにして得られた本発明のポリ乳酸および該ポリ乳酸を含む高分子混合物や成形体に他の成分を加えた樹脂組成物は、十分な強度及び耐熱性を示し、成形体の形成に好適に使用できる。
また、成形体の製造に際しては、前記ポリ乳酸の製造工程において得られた混合溶液の溶媒を除去してなるポリ乳酸を含有する高分子混合物を直接、成形体の製造に用いてもよい。前記高分子混合物は、本発明のポリ乳酸を高濃度でふくむために、高分子混合物を原料としてポリ乳酸を製造し、それを成形体に加工する以外に、直接成形体を製造することで、得られた成形体は本発明のポリ乳酸を含むものとなるためである。
成形体は使用目的に応じて適宜選択された形状を有するものが製造されるが、成形体の形成方法については、一般に行われる樹脂組成物による成形体の製造技術のいずれを適用してもよい。
なお、前記溶媒除去工程に際して、ポリ乳酸以外の成分に含まれていた溶媒が除去され、除去された部分が微細孔となる場合、その成形体は多孔体として好適に使用される。このようにして得られた本発明のポリ乳酸を含有する多孔体は、さらに熱処理に供されてもよい。
一方、本発明のポリ乳酸は、前記高分子混合物あるいは成形体中においてポリ乳酸と他の有機高分子化合物とがナノメートル・オーダーで相分離構造を形成していること考えられることから、前記溶媒除去工程に際して、微細孔が形成されず、空隙のない成形体が得られる場合、透明フィルム等としても好適に使用される。
【0069】
上述のように、得られた成形体は、いずれの態様をとるものであっても、これに対して、さらに熱処理工程を行ってもよい。熱処理は、DSC測定用の試料パンに入れ、DSC炉内で行ってもよく、また、一定温度に設定可能であれば、オーブン、プレス成形機、空気恒温槽、オイルバス、などを用いて行ってもよい。熱処理温度は、ポリ乳酸のガラス転移温度(Tg)以上、融点(Tm)以下である60℃以上300℃以下で行うことができ、より好ましくは80℃以上250℃以下である。熱処理時間は、1分間〜72時間とすることが好ましく、1時間〜24時間とすることがより好ましい。
このような熱処理を行うことで、得られるステレオコンプレックス結晶の含有量がより向上する。
【0070】
このように、本発明のポリ乳酸を含有する組成物を用いることで、成形方法による態様としては、プレス成形品、射出成形品、押出成形品、真空圧空成形品、ブロー成形品等の成形体を、その形態からは、フィルム、シート、板状体、構造体、不織布、繊維、布、他の材料との複合体を、その用途からは、農業用資材、漁業用資材、土木・建築用資材、文具、医療用品、各種容器、その他の成形体を、それぞれを得ることができる。成形は常法により行うことができ、特に成形方法に制限はない。
例えば、前記混合溶液調製工程で得られた溶液を流延した後、溶媒を揮発させることによって溶媒を取り除く前記溶媒除去工程を経て、フィルム状物を調製し、さらにこれを60〜300℃で熱処理することにより耐熱性に優れたフィルムを製造することができる。
また、これら成形体に、一軸延伸や同時二軸延伸、逐次二軸延伸、ロール圧延(延伸)、押し出し延伸等の分子配向を付与する延伸加工を行ってもよい。
成形体の用途としては、強度や耐熱性を必要とする構造部材、建築材料、建具材料、建設仮設材、各種自動車部品、内装材、シート、マットなどが挙げられる。本発明の成形体は広範な用途に好適に使用され、その応用範囲は広い。
【0071】
また、これらの成形工程において、溶媒で高分子混合物を膨潤状態とする場合には、該溶媒を含有していてもよいし、新たに添加してもよい。新たに溶媒を添加する場合は、前記高分子混合溶液を調製する際に用いた溶媒と同じであってもよいし、違う溶媒であってもよい。また、これらの両方やさらに異なる溶媒を複数種含んでいてもよい。
溶媒を含有して膨湿状態で混練り、押し出し、射出成形、プレス成形、延伸(一軸、二軸)等を行うことにより、前記高分子混合物の塑性変形性や延伸性が向上し、より容易に高性能な成形体を得られる場合がある。この場合、前記溶媒除去工程では完全に溶媒を除去する必要はなく、高分子混合物に溶媒を含んだ状態で、上記のような様々な成形を行ってよい。この際に用いる溶媒としては、ポリ乳酸およびポリ乳酸とブロック共重合体を成す他の高分子化合物あるいは前記のこれ以外に添加する高分子化合物(ポリ乳酸を含む)等を膨潤させる溶媒であることが望ましい。なお、ポリ乳酸については、前記溶媒混合工程で用いた溶媒を好適に用いることができる。
【0072】
これら得られた成形体の成形後、これにさらに前記混合溶液調製工程、溶媒除去工程、熱処理工程、成形工程、多孔化工程、イオン源の付与工程等を繰り返して付してもよい。その場合、その回数も順番も任意である。例えば、得られた成形体を再度、溶媒に溶解あるは膨潤して混合溶媒調製工程に付した後、溶媒除去工程を経ることでより高率でステレオコンプレックス結晶が形成することがある。この場合、該成形体を溶媒に溶解する条件が初回と同じ条件であっても、一度形成したステレオコンプレックス結晶が完全に溶解せずに残存し、溶媒除去工程、熱処理工程あるいは成形工程や紡糸工程においてこれが核となってより高率でステレオコンプレックス結晶が生成することがある。
以下に、本発明のポリ乳酸を含んで構成される成形体において、特に好ましい態様について説明する。
【0073】
<合成繊維>
本発明のポリ乳酸は、耐熱性に優れることから、合成繊維に好適に用いることができる。本発明の合成繊維は、前記本発明のポリ乳酸を含んで構成される。
前記本発明のポリ乳酸は、加工性に優れるために、一般的な合成繊維材料と同様に、溶融紡糸や湿式紡糸などにより容易に単繊維状に成形され、汎用の装置によりそのまま繊維状に加工することができる。さらに、紡糸金型を選択することで異形断面繊維などを容易に形成することもできる。
また、これら繊維に対して、一軸延伸、ロール圧延(延伸)や押し出し延伸等の分子配向を付与する延伸加工を行ってもよい。
本発明の合成繊維の直径は、0.1μmから1mmの範囲で任意に選択され、好ましくは1μmから500μmの範囲である。
【0074】
また、本発明の合成繊維を得る別の好ましい製法として静電紡糸法が挙げられる。この方法は高分子溶液や高分子溶融体に直接高電圧を印加して電気的紡糸によりナノ繊維を形成する方法であり、具体的には、Biomacromolecules,2006,vol.7, p.3316−3320に記載される方法を適用しうる。
この方法では、本発明のポリ乳酸によりキャストフィルムを形成した後、これをクロロホルムに溶解し(4.0g/mol)、シリンジに入れ、0.1mL/minで溶液を放出する。この際、印加電圧が−25kv、ドラム状捕集部(直径10cm)はその表面が20cm/minで常に回転するようにした。その結果、直径400〜970nmの微細繊維およびその集合体が得られる。
このようにして得られた微細繊維は、不織布のみならず細胞増殖用基材やフィルター等の種々の用途に使用される。
【0075】
本発明の合成繊維は、融点は240℃以上であるために、この繊維を用いてシャツなどの被服を製造した場合、アイロンがけや加熱プレスなどの加工を施すことができる。
従って、使用時の強度と耐熱性に優れ、且つ、植物由来の繊維や繊維製品として有用である。
また、ポリ乳酸を含んで構成される合成繊維を用いて、新たな成形体を製造してもよい。この態様としては、本発明の合成繊維により得られる織布、不織布を用いた成形体などが挙げられる。
また、これらの繊維の紡糸工程において、溶媒で高分子混合物を膨潤状態あるいは溶解状態とする場合には、該溶媒を含有していてもよいし、新たに添加してもよい。新たに溶媒を添加する場合は、前記高分子混合溶液を調製する際に用いた溶媒と同じであってもよいし、違う溶媒であってもよい。また、これらの両方やさらに異なる溶媒を複数種含んでいてもよい。溶媒を含有させて膨湿状態や溶解状態として、湿式紡糸、溶融紡糸、静電紡糸等を行うことにより、前記高分子混合物の繊維がより得やすくなる場合がある。この場合、前記溶媒除去工程では完全に溶媒を除去する必要はなく、高分子混合物に溶媒を含んだ状態で、上記のような様々な成形を行ってよい。この際に用いる溶媒としては、ポリ乳酸およびポリ乳酸とブロック共重合体を成す他の高分子化合物あるいは前記のこれ以外に添加する高分子化合物(ポリ乳酸を含む)等を膨潤あるいは溶解させる溶媒であることが望ましい。なお、ポリ乳酸については、前記溶媒混合工程で用いた溶媒を好適に用いることができる。
【0076】
これら得られた合成繊維を製造後、これにさらに前記混合溶液調製工程、溶媒除去工程、熱処理工程、成形工程、多孔化工程、イオン源の付与工程等を繰り返して付してもよい。その場合、その回数も順番も任意である。例えば、得られた成形体を再度、溶媒に溶解あるは膨潤して混合溶媒調製工程に付した後、溶媒除去工程を経ることでより高率でステレオコンプレックス結晶が形成することがある。この場合、該成形体を溶媒に溶解する条件が初回と同じ条件であっても、一度形成したステレオコンプレックス結晶が完全に溶解せずに残存し、溶媒除去工程、熱処理工程あるいは成形工程や紡糸工程においてこれが核となってより高率でステレオコンプレックス結晶が生成することがある。
【0077】
<多孔体>
本発明のポリ乳酸は、前記高分子混合物あるいは成形体中で、ポリ乳酸と他の有機高分子化合物がナノメートル・オーダーで相分離構造を形成していることから、多孔体の製造にも好適に用いることができる。本発明の多孔体は、前記本発明のポリ乳酸を含む高分子混合物、成形体あるいは合成繊維からポリ乳酸とブロック共重合体を形成する他の高分子化合物やそれ以外の成分(他の高分子成分や無機フィラーなどの添加物)を分解除去することによって得られる多孔体である。
本発明の多孔体は、前記本発明のポリ乳酸を含んで構成される、高分子混合物、又は、膜状、フィルム状、シート状あるいは繊維状を含む所望の形状の成形体、を調製・製造し、その後、該高分子混合物あるいは該成形体に含まれるポリ乳酸以外の成分を、酸エッチング処理や溶媒中で超音波処理する等の手段によってその少なくとも一部を除去することで得られる。
また、前記多孔体の製造工程において、溶媒で高分子混合物を膨潤状態とする場合には、該溶媒を含有していてもよいし、新たに添加してもよい。新たに溶媒を添加する場合は、前記高分子混合溶液を調製する際に用いた溶媒と同じであってもよいし、違う溶媒であってもよい。また、これらの両方やさらに異なる溶媒を複数種含んでいてもよい。溶媒を含有して膨湿状態で混練り、押し出し、射出成形、プレス成形、延伸(一軸、二軸)等を行うことにより、前記高分子混合物と溶媒の混合物を調製し、その後、前記溶媒除去工程を参照して該溶媒を除去して多孔体を得ることができる。この際に用いる溶媒としては、ポリ乳酸およびポリ乳酸とブロック共重合体を成す他の高分子化合物あるいは前記のこれ以外に添加する高分子化合物(ポリ乳酸を含む)等を膨潤させる溶媒であることが望ましい。なお、ポリ乳酸については、前記溶媒混合工程で用いた溶媒を好適に用いることができる。
本発明の多孔体の形成にあたっては、このような溶媒除去による多孔化処理と前記のポリ乳酸以外の高分子化合物の分解除去による多孔化処理を組み合わせてもよく、また、繰り返してもよい。その場合のこれら多孔化工程の順番や回数は任意である。
【0078】
これら得られた多孔体を調製後、これにさらに前記混合溶液調製工程、溶媒除去工程、熱処理工程、成形工程、多孔化工程、イオン源の付与工程等を繰り返して付してもよい。その場合、その回数も順番も任意である。例えば、得られた成形体を再度、溶媒に溶解あるは膨潤して混合溶媒調製工程に付した後、溶媒除去工程を経ることでより高率でステレオコンプレックス結晶が形成することがある。この場合、該成形体を溶媒に溶解する条件が初回と同じ条件であっても、一度形成したステレオコンプレックス結晶が完全に溶解せずにより高率で残存し、溶媒除去工程、熱処理工程あるいは成形工程や紡糸工程においてこれが核となってより高率でステレオコンプレックス結晶が生成することがある。
【0079】
ポリ乳酸以外の成分が除去された部分が空隙となり、内部に多数の微細な空隙を有するポリ乳酸の多孔体が形成される。他の成分の除去手段としては、前記酸エッチング処理、超音波処理が例示されるが、前記の方法には限定されず、ポリ乳酸以外の成分が実質的に除去される方法であればいずれの方法をとってもよい。また、これらを組み合わせて行ってもよし、繰り返し行ってもよい。複数の手段を組み合わせる場合、その順番や回数は任意である。また、これら複数の処理を同時に行ってもよい。
また、得られた多孔体に対し、さらに、一軸延伸や同時二軸延伸、逐次二軸延伸、ロール圧延(延伸)、押し出し延伸等の分子配向を付与する延伸加工を行ってもよい。これらの延伸加工は前記のポリ乳酸以外の成分を分解除去する前に行ってもよい。
本発明の多孔体の細孔サイズは、ポリ乳酸ステレオコンプレックスの製造に必要な前記ブロック共重合体の相分離構造に起因してナノメートル・オーダーであり、このため、本発明の多孔体は、ナノメートル・サイズの微細孔を有する多孔体となる。この多孔体もまた、前記本発明の成形体や合成繊維と同様に、ポリ乳酸の物性に起因して、強度と耐熱性に優れたものとなる。また、ポリ乳酸は生体適合性を有しているため、これらの多孔体は血液浄化フィルターや細胞増殖用の足場材、体内埋め込み型グルコースセンサー用の分離膜などの医療用品として好適に利用することができる。
例えば、本発明者らは糖尿病患者の血糖値管理に有用な医療機器である体内埋め込み型グルコースセンサーに用いる分離膜に高分子多孔膜が好適に適用できることを見出しており[ACS Nano, 2009, vol.3, p.924−932]、本発明のポリ乳酸を含む多孔体も、同様の用途に好適に利用できる。本発明のポリ乳酸で構成される多孔体の場合、生体適合性に優れるため、体内埋め込み用途により適していると言える。
ポリ乳酸の多孔体を形成する試みは他の公知文献において種々なされており、例えば、[Biomacroolecules,2009,vol.10,p.2053−2066]には、ポリL乳酸(PLLA)単独重合体とポリスチレン(PS)単独重合体を溶融混練りし、成形フィルムを得た後、シクロヘキサンによってPS成分のみを選択的に抽出することで多孔体構造を製造する方法が記載されている。しかしながら、この方法によって得られる多孔体の孔径サイズはミクロン・オーダーであり、本発明の多孔体の如きナノメートル・オーダーの微細孔径の多孔体は得られていないのが現状であった。
【0080】
一方、ブロック共重合体の形成するミクロ相分離構造のうち、PS成分のみを選択的に除去する方法としては、過剰量の発煙硝酸に室温で浸漬して分解除去する方法がある。この方法によれば、浸漬時間(1分間から1時間)によって微細孔の孔径を適宜、調節することができる。この方法については、例えば、本発明者らの報告[Macromolecules, 2006, vol.39, p.3971−3974.]に詳細に記載されており、実施に際しては、当該文献に記載の方法を参照することができる。
また、超音波によるPSの分解については、溶媒に溶かした状態で3時間程度、室温処理すれば、分子量が数分の1まで低下することが知られている。本発明では、ポリ乳酸成分を溶解せず、かつ、PS成分を溶解する溶媒に浸漬することで、ポリ乳酸成分の分解を抑制しつつ、PS成分のみを分解除去できる。超音波によるPSの分解方法については、例えば、Polymer Degradation and Stability, 2000, vol.68, p.445−449.に詳細に記載されており、実施に際しては、当該文献に記載の方法を参照することができる。
【0081】
<イオン伝導体>
また、本発明のポリ乳酸は、前記高分子混合物あるいは成形体中で他の有機高分子とナノメートル・オーダーの相分離構造を形成することから、イオン伝導体の製造にも好適に用いることができる。本発明のイオン伝導体は、前記本発明のポリ乳酸を含む高分子混合物、ポリ乳酸を含んで構成される成形体(この成形体には、膜、合成繊維などの形態をとるものを含む)におけるポリ乳酸以外の成分にイオン源を付与することによって得られるイオン伝導体である。なお、前記ポリ乳酸を含んで構成される多孔体においても、多孔体を形成する材料として、ポリ乳酸以外の成分が残存している場合には、この残存するポリ乳酸以外の成分にイオン源を付与することでイオン伝導体を得ることができる。
なお、ポリ乳酸とブロック共重合体を形成するポリ乳酸とは異なる構造を有する高分子成分がポリスチレンスルホン酸のようにイオン源をあらかじめ含む場合、前記イオン源を付与する後処理を行わなくてもよいし、この処理を行ってさらにイオン源の濃度を上げてもよい。
また、前記高分子混合溶液を調製する工程や該高分子混合溶液中の溶媒を除去する工程ですでにイオン源となる成分を添加してある場合は、得られる成形体にイオン源を付与する処理を施さないでイオン伝導体として用いてもよい。
【0082】
本発明のイオン伝導体は、前記本発明のポリ乳酸を含んで構成される高分子混合物からなる膜状或いは粉末状の成形体、又は、高分子混合物を原料の一部含んで形成された膜状、フィルム状、シート状、繊維状を含む所望の形状の成形体を、まず、調製、製造し、その後、該高分子混合物あるいは該成形体に含まれるポリ乳酸以外の成分にイオン源を付与することで得られる。ここで、ポリ乳酸以外の成分としてポリスチレンを用いた場合を例に挙げて説明すれば、ポリ乳酸とポリスチレンとを含む高分子混合物又は成形体を、適切な溶媒中でクロロスルホン酸と反応させる化学処理を行うことで、成形体等に含まれるポリスチレンがポリスチレンスルホン酸に変換されてイオン源となる。このようにして、ポリ乳酸以外の成分にイオン源が導入されることにより、イオン伝導チャネルとポリ乳酸成分とが、ナノメートル・サイズで組み合わされたイオン伝導体が形成される。
また、これらイオン伝導体を得た後、一軸延伸や同時二軸延伸、逐次二軸延伸、ロール圧延(延伸)、押し出し延伸等の分子配向を付与する延伸加工を行ってもよい。なお、これらの延伸加工は、イオン伝導体の原料となるポリ乳酸を含む成形体について、ポリ乳酸以外の成分にイオン源を付与する化学処理や添加処理の実施前に行ってもよく、まず、延伸加工を行い、その後にイオン源を導入した場合にも、イオン伝導体を形成した後、延伸加工を行うのと同様に、イオン伝導体に分子配向を付与することができる。
【0083】
本発明のイオン伝導体は、ミクロなイオン源を有する構造を示すことから、高いイオン伝導度が得られ、且つ、高融点を有するポリ乳酸を含んで構成されることから、200℃以上の高温で作動する燃料電池膜として好適に利用できる。また、ポリ乳酸は植物原料である乳酸から合成されるので、将来的に石油原料を使用しない燃料電池膜を製造できる等の利点を有する。
【実施例】
【0084】
以下、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、これらの実施例に何ら制約されるものではない。
[実施例1]
(合成例1)
<ポリL乳酸(PLLA)/ポリスチレン(PS)ジブロック共重合体の合成>
1−1.末端水酸基修飾ポリチレン(PSOH)の合成
テフロン(登録商標)コーティングした撹拌子が入った容量2Lの5つ口フラスコにて重合を行った。5つ口のうち、3つはフッ素樹脂のO−リングを介してガラス栓を取りつけ、その他4つ目に温度センサー、最後の1つには3つ口のY字管を取り付けた。この3つ口Y字管にはそれぞれアルゴン/減圧の分岐管、マノメーターとセプタム栓を取り付けた。この反応容器を約1×10−3Torr(1.33×10−1Pa)に減圧し、275℃で16時間加熱した。その後室温まで冷やしたあと、アルゴン気流下で、3つの口に純スチレン(98.7g、0.949mol)入りビュレット、純エチレンオキサイド(10.0g、0.227mol)入りビュレット、0.7L純シクロヘキサン入りビュレットを取り付けた。この際、スチレンとシクロヘキサンのビュレットは反応容器に直に取り付けたが、エチレンオキサイドのビュレットは可撓性の超真空スウェジロックを介して取り付けた。なお、エチレンオキサイドについては氷浴に浸してビュレット中を陰圧に保っておいた。
【0085】
反応装置を減圧し、アルゴンガスで置換する操作を6度繰り返した。また、反応系に漏れがないことを確かめるため、容器中の圧力を測定した。その後、反応溶媒としてシクロヘキサンを加え、さらに開始剤としてsec−ブチルリチウム溶液(3.28mLの1.29M(モル濃度)sec−ブチルリチウムと4.93×10−3molのシクロヘキサンの混合溶液)をシリンジにてセプタム栓から添加した。なお、このsec−ブチルリチウム溶液は使用前まではドライボックス内に入れておいた。この開始剤とシクロヘキサンとの混合溶液に対してスチレンを徐々に添加していった。これらの反応混合液を、水浴を用いて43℃に加熱したところ、橙赤色となった。反応開始より10分間で、加圧しながら温度を53℃まで上昇させた後、42℃まで降温し、4.3時間攪拌しながら反応させた。その後、反応停止剤であるエチレンオキサイドを添加する前に室温まで降温した。なお、エチレンオキサイドを添加すると、反応混合液は直ちに無色となった。この混合液を室温にて14時間攪拌し、その後、陽圧のアルゴン雰囲気下で反応容器から取り出した。この生成物を、室温にて2−プロパノールとメタノールの50:50(容積比)混合液中に投入し、得られた白色の沈殿物を吸引ろ過し、真空下、112℃にて15時間乾燥しPSOHを得た。生成したPSOHの重量平均分子量は19,500であり、分子量分布は1.02であった。
【0086】
1−2.ポリスチレン−ポリ乳酸共重合体(PS−b−PLLA)の合成
すべてのラクチド重合反応は、閉鎖されたドライボックス中で行われ、ラクチド初期濃度1.0Mを含む乾燥トルエンを用いた。等モル量のトリエチルアルミニウム(EtAl)及びPSOHを反応させて、アルミニウムアルコキシド開始剤を形成させた。これらを用いて合成したジブロック共重合体をメタノール中で再沈し、吸引ろ過によりろ別した。得られたブロック共重合体は、真空下、120℃で乾燥した。得られたポリL乳酸(PLLA)/ポリスチレン(PS)・ジブロック共重合体の重量平均分子量は40,500、分子量分布1.1であった。
【0087】
(合成例2)
<ポリD乳酸(PDLA)単独重合体の合成>
D−乳酸モノマーを無水酢酸エチルに溶解後、再沈殿により精製した。重合はテフロン(登録商標)コーティングした撹拌子が入ったガラス製のアンプル管中にて130℃で行った。石油エーテルにオクタノアート錫(I)を触媒として加え開環重合を行った。この際、アンプル管を高真空ポンプを用いて減圧し、繰り返し高純度窒素ガスで置換して揮発性の不純物、溶媒および溶存酸素を取り除いた。その後、このアンプル管をバーナーで封管し、反応温度まで昇温した。反応後のアンプル管から反応物を取り出し、クロロホルムに溶解後、過剰量のメタノールに投入して沈殿物を得、これをろ過、乾燥して生成物とした。得られたPDLAの重量平均分子量は19,500であり、分子量分布は、1.1であった。
【0088】
合成例1で得られた分子量19,500のPLLA重合体と分子量21,000のポリスチレンとからなるポリL乳酸(PLLA)/ポリスチレン(PS)・ジブロック共重合体(重量平均分子量:40,500、分子量分布1.1)1gと合成例2で得られたポリD乳酸(PDLA)単独重合体(重量平均分子量:19,500、分子量分布1.1)0.5gとを、クロロホルムに室温(25℃)にて、ポリマー濃度が1質量%となるように溶解し、高分子混合溶液を得た。
得られた高分子混合溶液を室温(25℃)にて、テフロン(登録商標)シャーレ(直径:7cm×5個)上にキャストし、乾燥させて溶媒を除去し、フィルム状の高分子混合物とした。さらに、24時間減圧乾燥を行なって、フィルム状の高分子混合物(実施例1の成形体)得た。(減圧条件:1Pa)
なお、前記ジブロック共重合体(PLLA−b−PS)中のPLLA成分量は約0.5gであり、添加するPDLA単独重合体とほぼ等量である。即ち、高分子混合溶液中の全重合体量1.5gに対してポリ乳酸成分の量(PLLA+PDLA)は約1gであり、PLLA:PDLAは約1:1である。正確には、ポリ乳酸成分の量は[1g×19,500/40,500+0.5g]であり、PLLA:PDLAは0.98:1である。
なお、この高分子溶液を用いて直径15cmのキャストフィルムを作製したところ、一部に亀裂が見られ、均一性にやや劣るものとなった。
【0089】
得られたフィルムのWAXD測定を行ったところ、含まれる結晶はSC晶のみであった。
なお、WAXD装置は、Rigaku 社製UltimaIII(X線発生電圧は40KV、電流は40mA、Cuターゲット、Niフィルター)であり、回折角度2θの測定範囲は5〜30°で0.02°刻みで測定した。なお、q=4πsinθ/λ(λはCuKα線の波長:1.54Å)
実施例1及び後述する実施例2において融点測定を行った際のDSCチャートを図1に示す。DSC測定を行なったところ、図1に示すように、225℃と241℃の2つの吸熱ピークが観察され、融解熱は42J/gであった。
なお、融点の測定に使用したDSC装置は、パーキンエルマー社製Pyris 1 DSCであり、昇温速度は10℃/分である。本明細書においては、この測定により記録されたDSCチャートにおける融解ピーク温度を試料の融点(Tm)とした。なお、実施例1の如く、2つの吸熱ピークが観察された場合、高い方の吸熱ピーク温度(融点Tm)以上では、試料は流動性を示し、部材として好適に利用することができないため、この融点の値が該部材の耐熱限界温度の指標となる。実施例1の如く、融解ピークが複数現れる場合、最も高い融解ピーク温度以下では試料は流動性を示さず、固体状態であったため、最も高い温度に位置する融解ピークの温度を試料の融点(Tm)とした。また、融解ピーク面積から融解熱(ΔHf)を算出し、これを用いてSC結晶分率およびα晶分率を算出した。
また、既述の方法1に記載の手段により測定したところ、実施例1のフィルムは、ブロック共重合体に由来するポリスチレンを35質量%含むものであることが確認された。
【0090】
ポリ乳酸成分量(PLLA+PDLA:ただし、ポリスチレン成分量は除く)に対するSC晶分率(XSC)は[〔42J/g×(1.5/0.98)〕/(155J/g)]×100=41(%)となる。
全高分子化合物量に対するSC晶分率は[(42J/g)/(155J/g)]×100=27(%)となる。
ここで、結晶成分の含有量の測定及び算出は、文献(J.Polym.Sci.,Polym.Phys.Ed.,Vol.45,p.2632(2007))記載の以下の値に基づき行ったものである。
・PLLA単独重合体あるいはPDLA単独重合体の100%α晶の融解熱は94J/g
・PLLAとPDLAのブレンド物(PLLA:PDLA=1:1)の100%SC晶の融解熱は155J/g
【0091】
このフィルム状成形体の構造をエスアイアイナノテクノロジー製走査プローブ顕微鏡E-sweepを用いて非接触モードで観察した。図2は、実施例1で得られたポリ乳酸を含む高分子混合物からなるフィルム状の多孔体構造を示す走査プローブ顕微鏡像である。このフィルム状成形体は、図2に示すように、ポリ乳酸以外の成分であるポリスチレン中に含まれていた溶媒が溶媒除去過程で除去されてできた孔径10〜100nmの空孔を多数有する多孔体を形成していることが確認できた。
【0092】
[実施例2]
ポリD乳酸(PDLA)の添加量を0.25gとし、直径7cmのシャーレ4個を用いた以外には実施例1と同様にフィルムを作製した。この場合、高分子混合溶液中の全重合体量1.25gに対してポリ乳酸成分の量(PLLA+PDLA)は約0.75gであり、PLLA:PDLAは約2:1である。正確には、ポリ乳酸成分の量は[1g×19,500/40,500+0.25g]であり、PLLA:PDLAは1.93:1である。
得られたフィルムのWAXD測定を行ったところ、含まれる結晶はSC晶のみであった。DSC測定を行なったところ、融点(Tm)は244℃であり、融解熱は45J/gであった。
また、DSC測定より求めたポリ乳酸成分量(PLLA+PDLA:ただし、ポリスチレン成分量は除く)に対するSC晶分率(XSC)は[45J/g×(1.25/0.73)〕/(155J/g]×100=50(%)となる。
全高分子化合物量に対するSC晶分率は[(45J/g)/(155J/g)]×100=29(%)となる。
実施例1と同様にして測定したところ、実施例2のフィルムは、ブロック共重合体に由来するポリスチレンを42質量%含むものであることが確認された。
【0093】
[実施例3]
合成例1でL乳酸の代わりにD乳酸を用いて分子量17,000のPDLAと分子量21,000のポリスチレンとからなるポリD乳酸(PDLA)/ポリスチレン(PS)・ジブロック共重合体(重量平均分子量:38,000、分子量分布1.1)を合成した。また、合成例2でD乳酸の代わりにL乳酸をモノマーとして分子量17,000、分子量分布1.1のポリL乳酸を合成した。このポリD乳酸(PDLA)/ポリスチレン(PS)・ジブロック共重合体(PDLA−b−PS)1gとポリL乳酸(PLLA)0.5gとを、クロロホルムに室温(25℃)にて、ポリマー濃度が1質量%となるように溶解し、高分子混合溶液を得た。
得られた高分子混合溶液を室温(25℃)にて、テフロン(登録商標)シャーレ(直径:7cm×5個)上にキャストし、乾燥させてフィルム状試料を得た。さらに、24時間減圧乾燥を行なった。
なお、この高分子溶液を用いて直径15cmのキャストフィルムを作製したところ、一部に亀裂が見られ、均一性にやや劣るものとなった。
この場合、ポリ乳酸成分の量は[1g×17,000/38,000+0.5g]であり、PDLA:PLLAは0.89:1である。
得られたフィルムのWAXD測定を行ったところ、含まれる結晶はSC晶のみであった。DSC測定を行なったところ、融点(Tm)は241℃であり、融解熱は42J/gであった。
したがって、ポリ乳酸成分量(PLLA+PDLA:ただし、ポリスチレン成分量は除く)に対するSC晶分率(XSC)は[〔42J/g×(1.5/0.95)〕/(155J/g)]×100=43(%)となる。
全高分子化合物量に対するSC晶分率は[(42J/g)/(155J/g)]×100=27(%)となる。
実施例1と同様にして測定したところ、実施例3のフィルムは、ブロック共重合体に由来するポリスチレンを37質量%含むものであることが確認された。
実施例1〜実施例3で得られた結晶の融点および融解熱を下記表1に示す。
【0094】
【表1】
【0095】
[実施例1A]
実施例1と同様にフィルムを作製し、これをアルミパンに入れDSC炉内において昇温速度10℃/min.で205℃から230℃の設定温度に昇温後、その設定温度で30分間保持して熱処理を行い、その後、室温まで100℃/min.で降温した。この試料のDSC測定を昇温速度10℃/min.で行った。
実施例1と同様にして、WAXD測定を行なったところ、得られた結晶はSC晶のみであり、融点(Tm)、融解熱は以下に示すとおりであった。
なお、実施例1Aで熱処理温度を変化させたため、205℃で熱処理したものを実施例1A−1、210℃で熱処理したものを実施例1A−2、215℃で熱処理したものを実施例1A−3、220℃で熱処理したものを実施例1A−4、225℃で熱処理したものを実施例1A−5、230℃で等温結晶化させたものを実施例1A−6と表記した。熱処理時間はすべて30分間である。
【0096】
(1A−1)
205℃熱処理:Tm=244℃、融解熱43J/g(PLA成分量に対するSC晶分率(XSC)は42%)
(1A−2)
210℃熱処理:Tm=244℃、融解熱46J/g(PLA成分量に対するSC晶分率(XSC)は45%)
(1A−3)
215℃熱処理:Tm=243℃、融解熱45J/g(PLA成分量に対するSC晶分率(XSC)は44%)
(1A−4)
220℃熱処理:Tm=244℃、融解熱42J/g(PLA成分量に対するSC晶分率(XSC)は41%)
(1A−5)
225℃熱処理:Tm=245℃、融解熱49J/g(PLA成分量に対するSC晶分率(XSC)は48%)
(1A−6)
230℃熱処理:Tm=245℃、融解熱44J/g(PLA成分量に対するSC晶分率(XSC)は43%)
実施例1Aにおいて融点測定を行った際のDSCチャートを、図3に示す。また、実施例1Aで得られた結晶の融点および融解熱を下記表2に示す。
【0097】
【表2】

【0098】
[実施例1B]
実施例1と同様にフィルムを作製し、これをアルミパンに入れDSC炉内において昇温速度100℃/min.で230℃の設定温度に昇温後、その設定温度で5分間から6時間保持して熱処理を行い、その後、室温まで100℃/min.で降温した。この試料のDSC測定を昇温速度10℃/min.で行った。
実施例1Bで熱処理時間を変化させたため、5分間熱処理したものを実施例1B−1、30分間熱処理したものを実施例1B−2、6時間熱処理したものを実施例1B−3と表記した。熱処理温度はすべて230℃である。
実施例1と同様にして、WAXD測定を行なったところ、得られた結晶はSC晶のみであり、融点(Tm)、融解熱は以下に示すとおりであった。
【0099】
(1B−1)
5分間熱処理:Tm=240℃、融解熱52J/g(PLA成分量に対するSC晶分率(XSC)は51%)
(1B−2)
30分間熱処理:Tm=245℃、融解熱49J/g(PLA成分量に対するSC晶分率(XSC)は48%)
(1B−3)
6時間熱処理:Tm=245℃、融解熱33J/g(PLA成分量に対するSC晶分率(XSC)は32%)
実施例1Bにおいて融点測定を行った際のDSCチャートを図4に示す。また、実施例1Bで得られた結晶の融点および融解熱を下記表3に示す。
【0100】
【表3】

【0101】
[実施例4]
市販のPLLA−b−PS(Polymer Source社製P2642−SLA:PLLA分子量19,500、PS分子量21,000、合計40,500、分子量分布1.11)1.04gと市販のPDLA(Polymer Source社製P8937−LA:分子量19,500、分子量分布1.3)0.5gとを、クロロホルムに室温(25℃)にて、ポリマー濃度が1質量%となるように溶解し、高分子混合溶液を得た。
得られた高分子混合溶液を室温(25℃)にて、テフロン(登録商標)シャーレ(直径:7cm×5個)上にキャストし、乾燥させて溶媒を除去し、フィルム状の高分子混合物とした。さらに、24時間減圧乾燥を行なって、フィルム状の高分子混合物(実施例1の成形体)得た。(減圧条件:1Pa)
なお、ジブロック共重合体中のPLLA成分量は0.5gであり、添加するPDLA単独重合体と等量である。即ち、高分子混合溶液中の全重合体量1.54gに対してポリ乳酸成分の量(PLLA+PDLA)は1gであり、PLLA:PDLAは1:1である。
なお、この高分子溶液を用いて直径15cmのキャストフィルムを作製したところ、一部に亀裂が見られ、均一性にやや劣るものとなった。
【0102】
得られたフィルムのWAXD測定を行ったところ、含まれる結晶はSC晶のみであった。実施例1で得られたフィルムのWAXD測定結果を図5に示す。なお、縦軸は回折強度(任意単位)、横軸は散乱ベクトル(q)を示している。この図には、後述する比較例1−1および比較例4の結果を含んでいる。
なお、WAXD装置は、Rigaku 社製UltimaIII(X線発生電圧は40KV、電流は40mA、Cuターゲット、Niフィルター)であり、回折角度2θの測定範囲は5〜30°で0.02°刻みで測定した。なお、q=4πsinθ/λ(λはCuKα線の波長:1.54Å)
実施例4及び後述する実施例5および実施例6において融点測定を行った際のDSCチャートを、図6に示す。DSC測定を行なったところ、図6に示すように、225℃と244℃の2つの吸熱ピークが観察され、融解熱は43J/gであった。
ポリ乳酸成分量(PLLA+PDLA:ただし、ポリスチレン成分量は除く)に対するSC晶分率(XSC)は[〔43J/g×(1.54/1)〕/(155J/g)]×100=43(%)となる。
全高分子化合物量に対するSC晶分率は[(43J/g)/(155J/g)]×100=28(%)となる。
実施例1と同様にして測定したところ、実施例4のフィルムは、ブロック共重合体に由来するポリスチレンを35質量%含むものであることが確認された。
【0103】
[実施例5]
PLLA−b−PSの添加量を1gとし、ポリD乳酸(PDLA)の添加量を0.32gとした以外には実施例4と同様にフィルムを作製した。この場合、高分子混合溶液中の全重合体量1.32gに対してポリ乳酸成分の量(PLLA+PDLA)は[1g×19,500/40,500+0.32g]であり、PLLA:PDLAは1.50:1である。
得られたフィルムのWAXD測定を行ったところ、含まれる結晶はSC晶のみであった。DSC測定を行なったところ、融点(Tm)は245℃であり、融解熱は45J/gであった(図6)。
また、DSC測定より求めたポリ乳酸成分量(PLLA+PDLA:ただし、ポリスチレン成分量は除く)に対するSC晶分率(XSC)は[45J/g×(1.32/0.80)〕/(155J/g]×100=48(%)となる。
全高分子化合物量に対するSC晶分率は[(45J/g)/(155J/g)]×100=29(%)となる。
実施例1と同様にして測定したところ、実施例5のフィルムは、ブロック共重合体に由来するポリスチレンを39質量%含むものであることが確認された。
【0104】
[実施例6]
PLLA−b−PSの添加量を1gとし、ポリD乳酸(PDLA)の添加量を0.16gとした以外には実施例4と同様にフィルムを作製した。この場合、高分子混合溶液中の全重合体量1.16gに対してポリ乳酸成分の量(PLLA+PDLA)は[1g×19,500/40,500+0.16g]であり、PLLA:PDLAは3.00:1である。
得られたフィルムのWAXD測定を行ったところ、含まれる結晶はSC晶のみであった。DSC測定を行なったところ、融点(Tm)は244℃であり、融解熱は44J/gであった(図6)。
また、DSC測定より求めたポリ乳酸成分量(PLLA+PDLA:ただし、ポリスチレン成分量は除く)に対するSC晶分率(XSC)は[44J/g×(1.16/0.64)〕/(155J/g]×100=51(%)となる。
全高分子化合物量に対するSC晶分率は[(44J/g)/(155J/g)]×100=28(%)となる。
実施例1と同様にして測定したところ、実施例6のフィルムは、ブロック共重合体に由来するポリスチレンを45質量%含むものであることが確認された。
実施例4〜実施例6で得られた結晶の融点および融解熱を下記表4に示す。
【0105】
【表4】
【0106】
[実施例7]
実施例4と同様にフィルムを作製し、これをアルミパンに入れDSC炉内において昇温速度10℃/min.で205℃から230℃の設定温度に昇温後、その設定温度で30分間保持して熱処理を行い、その後、室温まで100℃/min.で降温した。この試料のDSC測定を昇温速度10℃/min.で行った。
実施例1と同様にして、WAXD測定を行なったところ、得られた結晶はSC晶のみであり、融点(Tm)、融解熱は以下に示すとおりであった。
なお、実施例4で熱処理温度を変化させたため、205℃で熱処理したものを実施例7−1、210℃で熱処理したものを実施例7−2、215℃で熱処理したものを実施例7−3、220℃で熱処理したものを実施例7−4、225℃で熱処理したものを実施例7−5、230℃で等温結晶化させたものを実施例7−6と表記した。熱処理時間はすべて30分間である。
【0107】
(7−1)
205℃熱処理:Tm=244℃、融解熱43J/g(PLA成分量に対するSC晶分率(XSC)は43%)
(7−2)
210℃熱処理:Tm=244℃、融解熱46J/g(PLA成分量に対するSC晶分率(XSC)は46%)
(7−3)
215℃熱処理:Tm=243℃、融解熱45J/g(PLA成分量に対するSC晶分率(XSC)は45%)
(7−4)
220℃熱処理:Tm=244℃、融解熱42J/g(PLA成分量に対するSC晶分率(XSC)は42%)
(7−5)
225℃熱処理:Tm=245℃、融解熱49J/g(PLA成分量に対するSC晶分率(XSC)は49%)
(7−6)
230℃熱処理:Tm=245℃、融解熱44J/g(PLA成分量に対するSC晶分率(XSC)は44%)
実施例7において融点測定を行った際のDSCチャートを図7に示す。また、実施例7で得られた結晶の融点および融解熱を下記表5に示す。
【0108】
【表5】

【0109】
[実施例8]
ポリL乳酸(PLLA)/ポリスチレン(PS)・ジブロック共重合体としてPLLAの分子量が14,000である市販のPLLA−b−PS(Polymer Source社製P2643−SLA:PS分子量21,000、重量平均分子量35,000、分子量分布1.1)1gを、また、ポリL乳酸(PDLA)として分子量が16,500である市販のPDLA(Polymer Source社製P3923−LA、分子量分布1.2)0.4gを用いた以外は、実施例4と同様にフィルムを作製した。
この場合、ポリ乳酸成分の量は[1g×14,000/35,000+0.4g]であり、PLLA:PDLAは1:1である。
得られたフィルムのWAXD測定を行ったところ、含まれる結晶はSC晶のみであった。DSC測定を行なったところ、融点(Tm)は245℃であり、融解熱は60J/gであった。実施例8で得られたフィルムのDSC測定結果を図8に示す。
したがって、ポリ乳酸成分量(PLLA+PDLA:ただし、ポリスチレン成分量は除く)に対するSC晶分率(XSC)は[〔60J/g×(1.4/0.8)〕/(155J/g)]×100=68(%)となる。
全高分子化合物量に対するSC晶分率は[(60J/g)/(155J/g)]×100=39(%)となる。
実施例1と同様にして測定したところ、実施例8のフィルムは、ブロック共重合体に由来するポリスチレンを43質量%含むものであることが確認された。
【0110】
実施例8のフィルムの走査プローブ顕微鏡測定を行ったところ、平滑な表面構造が観察された。そこで、厚さ80μmを有する実施例8のフィルムについて、このフィルムの光線透過性を日立社製U−3010型紫外可視吸光度計で測定したところ、波長560nmにおいて透過率71%が得られた。実施例8で得られたフィルムの紫外可視吸光度の測定結果を図9に示す。ブロック共重合体が形成するミクロ相分離構造は数十nmであり、可視光の波長(数百nm)より小さいので光を散乱せず、したがって、実用に耐えうる透明フィルムが得られたと言える。
【0111】
[実施例9]
市販のPLLA−b−PS(Polymer Source社製P2642−SLA:PLLA分子量19,500、PS分子量21,000、合計40,500、分子量分布1.11)1.04gとPURAC社製ポリD乳酸(PDLA:分子量230、000)0.5gとを、クロロホルムに室温(25℃)にて、ポリマー濃度が1質量%となるように溶解し、高分子混合溶液を得た。
得られた高分子混合溶液を室温(25℃)にて、テフロン(登録商標)シャーレ(直径:15cm×1個)上にキャストし、乾燥させて、直径15cmの比較的大面積のフィルム状試料を得た。さらに、24時間減圧乾燥を行なった。その結果、均一なフィルムが得られた。
この場合、ポリ乳酸成分の量(PLLA:PDLA比率)は1:1である。
得られたフィルムのWAXD測定を行ったところ、含まれる結晶はSC晶のみであった。このフィルムを、DSC測定を行なったところ、融点(Tm)は227℃であり、融解熱(ΔHf)は 36J/gであった。実施例9で得られたフィルムのDSC測定結果を図10に示す。
ポリ乳酸成分量(PLLA+PDLA:ただし、ポリスチレン成分量は除く)に対するSC晶分率(XSC)は[〔36J/g×(1.54/1)〕/(155J/g)]×100=36(%)となる。
全高分子化合物量に対するSC晶分率は[(36J/g)/(155J/g)]×100=23(%)となる。
実施例4と実施例9との対比により、PDLA単独重合体として、高分子量のものを用いると、得られるフィルムの均一性が向上し、より大面積の均一な成形体フィルムが得られることがわかる。
実施例1と同様にして測定したところ、実施例9のフィルムは、ブロック共重合体に由来するポリスチレンを35質量%含むものであることが確認された。
【0112】
[実施例10]
実施例9と同様にフィルムを作製し、これを真空オーブン中(減圧条件:1Pa)に室温で入れ、150℃から225℃の設定温度に昇温後、30分間保持して熱処理を行い、その後、室温まで放冷した。この試料のDSC測定を昇温速度10℃/min.で行った。
実施例1と同様にして、WAXD測定を行なったところ、得られた結晶はSC晶のみであり、融点(Tm)、融解熱は以下に示すとおりであった。
なお、実施例10で熱処理温度を変化させたため、150℃で熱処理したものを実施例10−1、175℃で熱処理したものを実施例10−2、200℃で熱処理したものを実施例10−3、205℃で熱処理したものを実施例10−4、210℃で熱処理したものを実施例10−5、215℃で熱処理したものを実施例10−6、220℃で熱処理したものを実施例10−7、225℃で熱処理したものを実施例10−8と表記した。熱処理時間はすべて30分間である。
【0113】
(10−1)
150℃熱処理:Tm=227℃、融解熱47J/g(PLA成分量に対するSC晶分率(XSC)は47%)
(10−2)
175℃熱処理:Tm=226℃、融解熱46J/g(PLA成分量に対するSC晶分率
(XSC)は46%)
(10−3)
200℃熱処理:Tm=226℃、融解熱51J/g(PLA成分量に対するSC晶分率(XSC)は51%)
(10−4)
205℃熱処理:Tm=225℃、融解熱57J/g(PLA成分量に対するSC晶分率(XSC)は57%)
(10−5)
210℃熱処理:Tm=225℃、融解熱56J/g(PLA成分量に対するSC晶分率(XSC)は56%)
(10−6)
215℃熱処理:Tm=227℃、融解熱58J/g(PLA成分量に対するSC晶分率(XSC)は58%)
(10−7)
220℃熱処理:Tm=230℃、融解熱58J/g(PLA成分量に対するSC晶分率(XSC)は58%)
(10−8)
225℃熱処理:Tm=235℃、融解熱58J/g(PLA成分量に対するSC晶分率(XSC)は58%)
実施例10において融点測定を行った際のDSCチャートを図11に示す。また、実施例10で得られた結晶の融点および融解熱を下記表6に示す。
【0114】
【表6】
【0115】
[実施例11]
熱処理時間を24時間とした以外は、実施例9と同様に真空オーブン中で熱処理を行い、室温まで放冷した。この試料のDSC測定を昇温速度10℃/min.で行った。
実施例1と同様にして、WAXD測定を行なったところ、得られた結晶はSC晶のみであり、融点(Tm)、融解熱は以下に示すとおりであった。
なお、実施例11で熱処理温度を変化させたため、150℃で熱処理したものを実施例11−1、175℃で熱処理したものを実施例11−2、200℃で熱処理したものを実施例11−3、205℃で熱処理したものを実施例11−4、210℃で熱処理したものを実施例11−5、215℃で熱処理したものを実施例11−6、220℃で熱処理したものを実施例11−7と表記した。熱処理時間はすべて24時間である。
【0116】
(11−1)
150℃熱処理:Tm=227℃、融解熱48J/g(PLA成分量に対するSC晶分率(XSC)は48%)
(11−2)
175℃熱処理:Tm=226℃、融解熱51J/g(PLA成分量に対するSC晶分率(XSC)は51%)
(11−3)
200℃熱処理:Tm=225℃、融解熱62J/g(PLA成分量に対するSC晶分率(XSC)は62%)
(11−4)
205℃熱処理:Tm=224℃、融解熱66J/g(PLA成分量に対するSC晶分率(XSC)は66%)
(11−5)
210℃熱処理:Tm=227℃、融解熱72J/g(PLA成分量に対するSC晶分率(XSC)は72%)
(11−6)
215℃熱処理:Tm=232℃、融解熱73J/g(PLA成分量に対するSC晶分率(XSC)は73%)
(11−7)
220℃熱処理:Tm=234℃、融解熱81J/g(PLA成分量に対するSC晶分率(XSC)は81%)
実施例11において融点測定を行った際のDSCチャートを図12に示す。また、実施例11で得られた結晶の融点および融解熱を下記表7に示す。
【0117】
【表7】
【0118】
[比較例1]
合成例1で得たポリL乳酸(PLLA)/ポリスチレン(PS)・ジブロック共重合体(PLLA分子量19,500, PS分子量21,000、分子量分布1.1)を200℃で5分間溶融熱処理した後、12時間、115℃から130℃の一定温度で等温結晶化させた(上記DSC炉内)。その後、室温に冷却し、DSC測定を行なった。
比較例1で結晶化温度を変化させたため、115℃で等温結晶化させたものを比較例1−1、120℃で等温結晶化させたものを比較例1−2、125℃で等温結晶化させたものを比較例1−3、130℃で等温結晶化させたものを比較例1−4と表記した。
実施例1と同様にして、比較例1−1のWAXD測定を行なったところ(図5)、得られた結晶はα晶のみであり、融点(Tm)、融解熱は以下に示すとおりであった。
【0119】
(比較例1−1)
115℃結晶化:Tm=172℃、融解熱9.7J/g(PLA成分量に対するα晶分率(Xα)は21%)
(比較例1−2)
120℃結晶化:Tm=169℃、融解熱7.4J/g(PLA成分量に対するα晶分率(Xα)は16%)
(比較例1−3)
125℃結晶化:Tm=169℃、融解熱4.5J/g(PLA成分量に対するα晶分率(Xα)は9.6%)
(比較例1−4)
130℃結晶化:Tm=169℃、融解熱4.9J/g(PLA成分量に対するα晶分率(Xα)は10%)
比較例1において融点測定を行った際のDSCチャートを図13に示す。また、比較例1で得られた結晶の融点および融解熱を下記表8に示す。
【0120】
【表8】

【0121】
表1から表7に記載のように、本発明の製造方法で得られた実施例1〜実施例11に係るポリ乳酸は融点が高く、原料であるジブロック共重合体を溶融熱処理した後、結晶化した比較例1に対して、優れた耐熱性を示す。また、比較例1に記載の方法では、ステレオコンプレックス結晶は得られず、得られたポリ乳酸の融点が低いことがわかる。
【0122】
[比較例2]
合成例1で得たポリL乳酸(PLLA)/ポリスチレン(PS)・ジブロック共重合体(PLLA分子量19,500,PS分子量21,000、分子量分布1.1)をp−キシレンに130℃でポリマー濃度が1wt%となるように溶解した。これを室温でテフロン(登録商標)シャーレ上にキャストし、乾燥させた。さらに、24時間減圧乾燥を行なった。
実施例1と同様にしてWAXD測定を行なったところ、得られた結晶はα晶のみであり、DSC測定からTm=165℃であった。
このことから、原料であるジブロック共重合体を溶解液にしたのち、キャストしたのみでは、ステレオコンプレックス結晶は得られず、得られたポリ乳酸の融点も低いことがわかる。
【0123】
[比較例3]
ポリL乳酸(PLLA)単独重合体(分子量230,000、三井化学製レイシア)0.5gとポリD乳酸(PDLA)単独重合体(分子量230,000、PURAC社製)0.5gを室温(25℃)にてクロロホルムに全ポリマー濃度が1質量%となるように溶解し高分子混合溶液を得た。これを実施例1と同様にしてキャストし、乾燥させた。さらに、24時間減圧乾燥を行なった。
実施例1と同様にして、WAXD測定を行なったところ、得られた結晶はα晶とSC晶の混合であり、
α晶:Tm=165℃、融解熱18J/g(α晶分率は19%)
SC晶:Tm=215℃、融解熱22J/g(SC晶分率は14%)
であった。
この結果より、高分子量のPLLA単独重合体及びPDLA単独共重合を混合して高分子混合溶液とする方法では、十分なステレオコンプレックス結晶は製造されず、得られたステレオコンプレックス結晶の融点も実施例1〜実施例11に比べ低いものであることがわかる。
【0124】
[比較例4]
次に、非特許文献2[Polymer, vol.49, p.5670 (2008)]に記載の方法に従い、ポリL乳酸(PLLA)単独重合体(分子量36,000)0.5gとポリD乳酸(PDLA)単独重合体(分子量19,000)0.5gとを、室温(25℃)にて、クロロホルムに全ポリマー濃度が1質量%となるように溶解し高分子混合溶液を得た。これを実施例1と同様にしてキャストし、乾燥させた。さらに、24時間減圧乾燥を行なってフィルムを得た。
実施例1と同様に、WAXD測定を行なったところ、得られた結晶はSC晶のみであり(図5)、DSC測定からTm=216℃、融解熱64J/g(SC晶分率は41%)であった。
このことから、原料として比較的低分子量のPLLA単独重合体とPDLA単独共重合とを用いることでステレオコンプレックス結晶を高含有率で得られ、融解熱は大きいものの、分子量が小さく、運動性が拘束されていないため、融解温度は低く、合成繊維や成形体の形成に十分な耐熱性を有するポリ乳酸は得られなかった。
【0125】
上記実施例及び比較例との結果より、用いるポリ乳酸の分子量が低い場合には、PLLA単独重合体+PDLA単独重合体の等量混合によってもある程度のSC晶は形成されるものの、その融点は低く、最も良好であっても216℃であった。
他方、本発明の製造方法に係る実施例では、ステレオコンプレックス結晶を高効率で含み、比較例に比べて融点の高いポリ乳酸が得られた。実施例1〜実施例11に記載の製造方法により得られた本発明のポリ乳酸は融解温度が高く、耐熱性に優れることから、熱加工により形成される成形体や繊維製品にも有用であることがわかる。また、これらの成形体や繊維からポリ乳酸以外の成分を分解除去することによって多孔体を得ることができる。
【0126】
[実施例12]
<成形体の製造>
図14のように、直径110mφ×厚さ2mmの円盤状ステンレス板1の上に厚さ125μmの離型用ポリイミド膜2を置き、次に直径110mmφ×厚さ0.3mmの円盤状ステンレス板に30mm×30mmの矩形窓をくり抜いたもの(矩形窓ありステンレス薄板)3を置き、その矩形窓内に実施例1で得られたフィルム4を1g置く。その上に、厚さ125μmの離型用ポリイミド膜5を置き、さらにその上に直径110mmφ×厚さ2mmの円盤状ステンレス板6を置いた。
これらの積層体全体を室温にて真空チャンバー内に設置されたプレス機(株式会社ボールドウィン製)中の上下板の間に置き、1.33×10−1Paまでロータリーポンプで減圧後、上下のプレス板の間隔を応力がかからないようになるべく近付け、250℃に加熱し、250℃のまま5分間保持し、その後、4.5MPa (シリンダー圧力60Pa)の圧力でプレスしたままヒーター電源を切って減圧状態で室温まで徐冷した。その後、真空チャンバーを開けて実施例12の成形フィルム(実施例1で得られたポリ乳酸からなる成形体)を取り出した。
得られた成形フィルムについて、引張り破断強度を測定した。この力学物性の測定はボールドウィン株式会社製万能試験機RTC−1325Aを用いて室温で行なった。上記成形フィルムから短冊状(直線部分30mm、幅5mm)に試料片を切り出して、クロスヘッド速度60mm/minで引っ張り試験を行った。その結果、得られたフィルムの引張り破断強度は30MPaであった。
また、成形体フィルムの融点を、実施例1と同様にして測定したところ、原料に起因する融点241℃であった。
実施例12の結果より、本発明の製造方法で得られた本発明ポリ乳酸からなる成形体は、250℃という成形温度を経ていても破断強度に優れるものであり、このことから、本発明のポリ乳酸は、加熱加圧成形などの各種成形体の製造に好適に使用しうることがわかる。
【0127】
[実施例13]
図14のうち、矩形窓ありステンレス薄板3の代わりに直径110mmφ×厚さ50μmの円盤状に切り出したポリイミド膜に30mm×30mmの矩形窓をくり抜いたもの(矩形窓ありポリイミド膜)3を用いた。すなわち、直径110mφ×厚さ2mmの円盤状ステンレス板1の上に厚さ125μmの離型用ポリイミド膜2を置き、次に前記矩形窓ありポリイミド膜3(厚さ50μm)を置き、その矩形窓内に実施例4で得られたフィルム一枚を置く。その上に、厚さ125μmの離型用ポリイミド膜5を置き、さらにその上に直径110mmφ×厚さ2mmの円盤状ステンレス板6を置いた。
これらの積層体全体を室温にて真空チャンバー内に設置されたプレス機(株式会社ボールドウィン製)中の上下板の間に置き、1.33×10−1Paまでロータリーポンプで減圧後、上下のプレス板の間隔を応力がかからないようになるべく近付け、225℃に加熱し、225℃のまま30分間保持し、その後、シリンダー圧力10MPaの圧力でプレスしたままヒーター電源を切って減圧状態で室温まで徐冷した。その後、真空チャンバーを開けて実施例13の成形フィルムを取り出した。
得られた成形フィルムについて、引張り破断強度を測定した。この力学物性の測定はボールドウィン株式会社製万能試験機RTC−1325Aを用いて室温で行なった。上記成形フィルムから短冊状(直線部分30mm、幅5mm)に試料片を切り出して、クロスヘッド速度60mm/minで引っ張り試験を行った。その結果、得られたフィルムの引張り破断強度は10MPaであった。この結果より、本発明の製造方法で得られた本発明ポリ乳酸からなる成形体は、融点以下でプレスしても破断強度に優れる成形体となることがわかる。
この実施例13で得られたフィルムの表面構造を走査プローブ顕微鏡で観察した。得られた観察像を図15に示す。(A)の点線で囲った部分を拡大したのが(B)である。ブロック共重合体のミクロ相分離構造に起因するネットワーク状の連結構造が見られ、これが骨格となって強度に優れる成形体が得られたと考えられる。
【0128】
[実施例14]
<多孔体の製造>
実施例1で得られたフィルムを30mm×30mmに切り出して50mLビーカーに入れ、この中にシクロヘキサン30mLを注ぎ、これを超音波ホモジナーザー(株式会社エスエムテー製UH−600S)を用いて室温において出力600Wおよび周波数20Hzで6時間処理した。これを取り出した後、過剰量のシクロヘキサンで3回洗浄して、超音波処理により分解したポリスチレン成分を取り除いて、除去されたポリスチレン部分に起因する微細な空孔を多数有する多孔体を得た。
この多孔膜の構造を、エスアイアイナノテクノロジー製走査プローブ顕微鏡E-sweepを用いて非接触モードで観察した。その結果、図16に示すように、孔径10〜100nmの微細孔構造を有する多孔体であることが確認された。
実施例14の多孔体は、空孔がより深く膜内部まで連結しており、原料である本発明のポリ乳酸に起因して融点が高いことから、耐熱性や成形性に優れ、ケミカルフィルタ、リチウムイオン電池セパレーターなどの産業用資材、あるいは、血液浄化フィルター、細胞増殖足場材、人工皮膚、体内埋め込み型グルコースセンサー隔膜などの医療用品などの各種用途に好適に使用される。
【0129】
<多孔体の評価>
本発明者らが報告している文献[ACS Nano, 2009, vol.3, p.924−932]を参考に以下のように多孔膜の分子透過性の評価を行った。膜透過装置(ビートレックス製、Permcell)を用い、左右に区切られたガラスセル(容量:50mL)の間の口径部分(膜面積:5cm)に実施例14で作製した多孔膜を挟み、Oリングを介してクリップで挟みこむ。その後、片方のセルを100mM(mol/L)濃度のD−グルコース水溶液で満たし、もう片方を純水で満たす。両方のセル内の溶液をテフロン(登録商標)コート撹拌子(直径3mm、長さ7mm)で一定時間撹拌し(室温)、始めに純水で満たしておいたセルの溶液を分取し、屈折率を測定する。この際、既知のグルコース濃度の溶液の屈折率を複数測定しておくことで、「屈折率」対「グルコース濃度」の検量線が描けるので、これを元に屈折率からグルコース濃度を算出する。
測定波長:589.3nm のナトリウムD線
装置:デジタル屈折計 RX−5000α((株)アタゴ製)
【0130】
その結果、実施例14で得られた多孔膜(厚さ約75μm)を用い、攪拌3時間後に測定したグルコース濃度は5mMとなった。これにより、グルコースが多孔膜を透過して反対側のセルに移動したことが確認され、実施例14で得られた多孔膜は連通孔を有することが確認された。
対照例として、エッチングを施していない、実施例12で得られた成形体フィルム(厚さ約60μm)で同様の評価を行ったところ、グルコース濃度は0.1mMであり、実施例12で得られた成形体フィルムは貫通孔が形成されていないことがわかる。なお、市販されているアルミナ・ポーラス膜(Whatman社製、製品名:Anodisc Membrane Filter 25、材質:アルミナ、膜厚:60μm、空隙率:25〜50%)により同様の測定を行うと、グルコース濃度は50mMとなり、グルコースを完全に透過していた。したがって、実施例14で得られた多孔膜は、微細な貫通孔を有する多孔体であることが確認された。
【0131】
[実施例15]
<イオン伝導体の製造>
実施例1で得られたフィルムをガラスシャーレに入れ、0.2mol/Lの濃度に調製したクロロスルホン酸のシクロヘキサン溶液に浸漬し、室温で1時間処理した。処理膜をシクロヘキサンで3回洗浄し、これを室温にて24時間減圧乾燥して残存溶媒を除去した後、さらにイオン交換水で3回洗浄し、その後、6時間以上、室温で減圧乾燥を行って、イオン(プロトン)伝導膜を得た。
本発明者らの先行特許である特開2008−248116に従い、このイオン伝導膜のスルホン化度、含水率およびプロトン伝導度を測定した。
1.スルホン化度
次式に従って、スルホン度を算出した。
スルホン化度(%)=(スルホン化処理によって置換したスルホン酸基モル数/ベンゼン環モル数)×100
【0132】
2.含水率
室温(25℃)で24時間イオン交換水に浸漬して飽和含水状態とした際の膜重量および50℃で8時間次いで100℃で24時間、減圧乾燥した際の膜重量を測定し、下記の式より含水率を求めた。
含水率(%)=(M − M) × 100 / M
:飽和含水状態の膜重量
:乾燥時の膜重量
3.プロトン伝導度
プロトン伝導は交流インピーダンス法により測定した。測定条件は下記のとおりである。
バイアス電圧 0V
交流振幅 300mV
測定周波数 1〜2×10 Hz
4.イオン交換容量(E
スルホン化後のブロック共重合体の数平均分子量(PLLA成分を含む)、原料に用いたブロック共重合体数中のスチレンユニット数から、下記のように算出した。
= スルホン酸基1個あたりの分子量
得られたイオン伝導膜について、これらの測定を行った結果を以下に示す。
<プロトン伝導膜の測定結果>
含水率 108.0%
プロトン伝導度(50℃、90%RH) 0.04S/cm
スルホン化度 100%
イオン交換容量(E) 280
【0133】
[対照例]
対照例として、市販のパーフルオロカーボンスルホン酸膜であるNafion NRE211CS(DuPont製)について同様の測定を行った。結果を以下に示す。
含水率 30%
プロトン伝導度(50℃、90%RH) 0.1S/cm
イオン交換容量(E) 1000
このように、対照例である市販品のプロトン伝導膜との対比においても、数値はやや低いものの、実用上問題のないプロトン伝導度とイオン交換容量を達成しており、植物原料である乳酸から合成され、生体適合性を有し、また、石油原料を使用しない導電膜として注目されることがわかる。
【0134】
[実施例16]
実施例11−7で得られたフィルムをガラスシャーレに入れ、0.2mol/Lの濃度に調製したクロロスルホン酸のシクロヘキサン溶液に浸漬し、室温で3時間処理した。処理膜をシクロヘキサンで3回洗浄し、これを室温にて24時間減圧乾燥して残存溶媒を除去した後、さらにイオン交換水で3回洗浄し、その後、6時間以上、室温で減圧乾燥を行って、イオン(プロトン)伝導膜を得た。
実施例15と同様に、このイオン伝導膜のスルホン化度、含水率およびプロトン伝導度を測定した。その結果、下記の数値が得られた。
含水率 52.4%
プロトン伝導度(50℃、90%RH) 0.04S/cm
スルホン化度 100%
イオン交換容量(E) 280
この結果から、SC晶分率が高くなることによって骨格が維持されやすくなり、含水率を低く抑えられることがわかる。
図1
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図2
図15A
図15B
図16