【実施例】
【0063】
以下に本実施形態を実施例により図面を参照して詳細に説明するが、本実施形態はこの実施例に限定されるものではない。
【0064】
図1は本実施形態の実施例1のリチウムイオン二次電池の正極の構成を説明する図である。
図2は本実施形態の実施例1のリチウムイオン二次電池の負極の構成を説明する図である。
図3は本実施形態の実施例1のリチウムイオン二次電池の巻回後の電池要素の構成を説明する断面図である。
【0065】
(実施例1)
先ず、
図1により正極1の作製について説明する。LiMn
2O
4を85質量%と、導電補助材としてのアセチレンブラックを7質量%と、バインダーとしてポリフッ化ビニリデンを8質量%、混合したものに、N−メチルピロリドンを加えてさらに混合して正極スラリーを作製した。これをドクターブレード法により集電体となる厚さ20μmのAl箔2の両面にロールプレス処理後の厚さが160μmになるように塗布し、120℃で5分間乾燥した後にロールプレス処理工程を経て正極活物質塗布部3を形成した。なお、両端部にはいずれの面にも正極活物質が塗布されていない正極活物質非塗布部4を設けた。そのうち一方には正極導電タブ6を設けた。正極導電タブ6が設けられた正極活物質非塗布部4の隣に、片面のみ正極活物質を塗布した正極活物質片面塗布部5を設け、正極1とした。
【0066】
図2により負極7の作製について説明する。黒鉛を90質量%と、導電補助剤としてのアセチレンブラックを1質量%と、バインダーとしてのポリフッ化ビニリデンを9質量%、混合したものに、N−メチルピロリドンを加えてさらに混合して負極スラリーを作製した。これをドクターブレード法により集電体となる厚さ10μmのCu箔8の両面に、ロールプレス処理後の厚さが120μmとなるように塗布し、120℃で5分間乾燥した後にロールプレス処理工程を経て負極活物質塗布部9を形成した。なお、両端部の一方の端面には負極活物質を片面のみ塗布した負極活物質片面塗布部10と負極活物質が塗布されていない負極活物質非塗布部11を設け、負極活物質非塗布部11に負極導電タブ12を取り付け負極7とした。
【0067】
図3により電池要素の作製について説明する。膜厚25μm、気孔率55%の親水処理を施したポリプロピレン微多孔膜からなるセパレータ13を二枚溶着して切断した部分を巻回装置の巻き芯に固定し巻きとり、正極1(
図1)、および負極7(
図2)の先端を導入した。正極1は正極導電タブ6の接続部の反対側を、負極7は負極導電タブ12の接続部側を先端側として、負極7は二枚のセパレータの間に、正極1はセパレータの上面にそれぞれ配置して巻き芯を回転させ巻回し、電池要素(以下ジェリーロール(J/R)と表記)を形成した。
【0068】
前記J/Rをエンボス加工したラミネート外装体に収容し、正極導電タブ6と負極導電タブ12を引き出しラミネート外装体の1辺を折り返し、注液用の部分を残して熱融着を行った。
【0069】
ゲル電解質用ポリマーのモノマーとして、エチルアクリレートを74質量%、および(3−エチル−3−オキセタニル)メチルメタクリレートを26質量%の割合で仕込んだ。さらに、反応溶剤としてエチレンカーボネート(EC):ジエチルカーボネート(DEC)=30/70(体積比)の溶剤、重合開始剤としてN,N’−アゾビスイソブチロニトリルをモノマー質量に対して2500ppm加え、ドライ窒素ガスを導入しながら65〜70℃で加熱反応後、室温まで冷却した。その後、希釈溶剤としてEC/DEC=30/70(体積比)の溶剤を加え、全体が均一になるまで撹拌溶解して、分子量20万、4.0質量%、EC:DEC=30/70(体積比)ポリマー溶液が得られた。なお、得られたポリマー溶液には重合開始剤が残渣として存在しないことを確認した。
【0070】
プレゲル溶液は、前記分子量20万、4.0質量%、EC:DEC=30/70(体積比)ポリマー溶液と、1.2mol/L LiPF
6 エチレンカーボネート(EC)/ジエチルカーボネート(DEC)=30/70(体積比)の非プロトン性溶媒と、プレゲル溶液に対し10質量%のモノエトキシペンタフルオロシクロトリホスファゼンと、プレゲル溶液に対し2質量%の表1の化合物No.2とを混合することで作製した。
【0071】
次に、前記ラミネート注液部分から前記プレゲル溶液を注液し真空含浸を行い、注液部分を熱融着し、60℃にて24時間加熱重合してゲル化させて電池を得た。
【0072】
得られた電池を、電池電圧4.2VまでCC−CV充電(充電条件:CC電流0.02C、CV時間5時間、温度20℃)した後、0.02Cで電池電圧3.0Vまで放電したときの放電容量を初期容量とし、設計容量に対して得られた初期容量の割合を表3に示した。
【0073】
得られた電池のレート特性として、20℃での0.2C容量に対する2C容量の割合を表3に示した。
【0074】
得られた電池のサイクル試験は、CC−CV充電(上限電圧4.2V、電流1C、CV時間1.5時間)、CC放電(下限電圧3.0V、電流1C)とし、いずれも45℃で実施した。容量維持率は、1サイクル目の放電容量に対する1000サイクル目の放電容量の割合を表3に示した。
【0075】
燃焼試験は、前記サイクル試験後の電池を、ガスバーナーの炎の先端から10cm上部に設置し、電解液溶媒が揮発して燃焼する様子から以下のように判断した。電解液に着火しない:◎、着火しても2〜3秒後に消火:○、着火しても10秒以内に消火:△、消火しないで燃焼し続ける:×とした。
【0076】
(実施例2)
実施例2は、添加剤として、表2の化合物No.101を2質量%混合した以外は、実施例1と同様に行った。
【0077】
(実施例3)
実施例3は、添加剤として、表2の化合物No.101を4質量%混合した以外は、実施例1と同様に行った。
【0078】
(実施例4)
実施例4は、添加剤として、表1の化合物No.2を2質量%、表2の化合物101を2質量%混合した以外は、実施例1と同様に行った。
【0079】
(実施例5)
実施例5は、添加剤として、表1の化合物No.2を2質量%、1,3−プロパンスルトンを3質量%混合した以外は、実施例1と同様に行った。
【0080】
(実施例6)
実施例6は、添加剤として、表1の化合物No.2を4質量%、1,3−プロパンスルトンを6質量%混合した以外は、実施例1と同様に行った。
【0081】
(実施例7)
実施例7は、モノエトキシペンタフルオロシクロトリホスファゼンを20質量%添加した以外は、実施例6と同様に行った。
【0082】
(実施例8)
実施例8は、モノエトキシペンタフルオロシクロトリホスファゼンを25質量%添加した以外は、実施例7と同様に行った。
【0083】
(実施例9)
実施例9は、添加剤として、表1の化合物No.2を5質量%、1,3−プロパンスルトンを7質量%混合した以外は、実施例1と同様に行った。
【0084】
(実施例10)
実施例10は、添加剤として、1,3−プロパンスルトンを2質量%混合した以外は、実施例1と同様に行った。
【0085】
(比較例1)
比較例1は、モノエトキシペンタフルオロシクロトリホスファゼンを添加しない以外は、実施例7と同様に行った。
【0086】
(比較例2)
比較例2は、添加剤を添加しない以外は実施例1と同様に行った。
【0087】
(比較例3)
比較例3は、添加剤として、前記式(6)、(7)、および(8)のいずれにも該当しないビニレンカーボネート(VC)を5質量%添加した以外は、実施例1と同様に行った。
【0088】
(比較例4)
比較例4は、ゲル電解質用ポリマーのモノマーとして、エチルアクリレート、(3−エチル−3−オキセタニル)メチルメタクリレートを用いる代わりに、トリエチレングリコールジアクリレートとトリメチロールプロパントリアクリレートを溶剤に対しそれぞれ3.8質量%、1質量%用いてポリマー溶液を調製した。また、プレゲル溶液に対し重合開始剤としてt−ブチルパーオキシピバレートを0.5質量%混合し、加熱重合によりゲル化を行った。それ以外は実施例1と同様に行った。
【0089】
(比較例5)
比較例5は、添加剤として、1,3−プロパンスルトンを2質量%混合した以外は、比較例4と同様に行った。
【0090】
実施例1〜10よび比較例1〜5の結果を表3に示す。
【0091】
【表3】
表3の添加剤の欄に記載のNo.2は表1の化合物No.2、No.101は表2の化合物No.101、PSは1,3−プロパンスルトン、VCは前記式(2)、(3)および(4)のいずれにも該当しないビニレンカーボネートを示す。
【0092】
表3より、実施例1〜6、9〜10に示すように、モノエトキシペンタフルオロシクロトリホスファゼンの添加量を一定量とし、添加剤の量を増加させた場合、容量維持率は非常に良好であった。また、サイクル後の電池の燃焼試験においても電解液に着火しないかまたは着火しても2〜3秒後に消化した。それに対し、比較例1では、サイクル後の電池の燃焼試験において電解液が燃焼し続けた。比較例2では、容量維持率が低く、さらに、サイクル後の電池の燃焼試験においてゲル電解質が燃焼し続けた。即ち、添加剤がないためにホスファゼン構造を有する化合物が還元分解し、燃焼抑制に有効な量が存在しなくなっていることが分かった。また、比較例3および比較例4においても、実施例と比較してやや難燃性が低下しており、ホスファゼン構造を有する化合物の還元分解を抑制するには不十分であることが示された。実施例6〜9より、添加剤の添加量が多いとSEIが厚くなり、抵抗が増加する可能性はあるが、特に燃焼抑制効果についてはサイクル後も十分持続していることが分かった。また、実施例7と8の比較より、モノエトキシペンタフルオロシクロトリホスファゼンの添加量が20質量%を超えると、電解液のイオン伝導度が低下するためにややレート特性が低下し、長期サイクルにおいてはSEIに対する過剰量のホスファゼン化合物が徐々に還元分解がされたため、長期サイクル後の電池の燃焼抑制効果がわずかに低下する結果となった。また、実施例1と10の比較より、1,3−プロパンスルトンにおいても本実施形態であるゲル電解質は加熱重合による開始剤を使用していないため一定の機能を有することが明らかになった。
【0093】
さらに、各比較例と比較すると、実施例では初回充電時にガスが低減する傾向があった。実施例では、ホスファゼン構造を有する化合物とジスルホン酸エステルとが非水電解液中に共存することにより、ジスルホン酸エステルのみを含有する非水電解液によるSEI形成とは異なる反応機構で、一部のホスファゼン構造を有する化合物を取り込んだSEIが形成できるためと考えられる。しかしながら、こうして形成されたSEI上においては、電解液中に存在するホスファゼン化合物のさらなる還元を抑制できていることから、ホスファゼン化合物を取り込んだジスルホン酸エステルによるSEIは、ホスファゼン化合物を含んだ何かしらの電解液成分の還元分解抑制効果がより大きくなっている可能性があると推測される。その効果により、寿命特性も良好であると推測される。
【0094】
さらに実施例1および比較例4、5より、本実施形態に係るモノマーを用いず、かつ、加熱重合時に開始剤を用いてゲル電解質を作製した場合、特性が低下することが明らかになった。このことは、前述したように開始剤により重合が開始されゲル電解質が得られるが、その際添加剤および難燃剤が分解されるため所望の効果が得られていないと推察される。
【0095】
以上より、特定のジスルホン酸エステルおよびスルトン化合物によるSEIは、長期にわたりホスファゼン構造を有する化合物の還元分解を抑制することができ、良好な寿命特性を得ることができ、その結果、高い安全性を得ることができた。
【0096】
さらに、ホスファゼン構造を有する化合物の添加量と、添加剤の量とのバランスを最適にすることで、レート特性の維持および、良好な寿命特性を得ることができた。
【0097】
(実施例11)
実施例11は、開環重合性官能基を有さないモノマーとしてエチルアクリレート、開環重合性官能基を有するモノマーとしてグリシジルメタクリレートを用いた以外は実施例5と同様に行った。
【0098】
(実施例12)
実施例12は、開環重合性官能基を有さないモノマーとしてエチルアクリレート、開環重合性官能基を有するモノマーとして3,4−エポキシシクロヘキシルメチルメタクリレートを用いた以外は実施例5と同様に行った。
【0099】
(実施例13)
実施例13は、開環重合性官能基を有さないモノマーとしてメチルメタクリレート、開環重合性官能基を有するモノマーとして(3−エチル−3−オキセタニル)メチルメタクリレートを用いた以外は実施例5と同様に行った。
【0100】
(実施例14)
実施例14は、開環重合性官能基を有さないモノマーとしてメチルメタクリレート、開環重合性官能基を有するモノマーとしてグリシジルメタクリレートを用いた以外は実施例5と同様に行った。
【0101】
(実施例15)
実施例15は、開環重合性官能基を有さないモノマーとしてメチルメタクリレート、開環重合性官能基を有するモノマーとして3,4−エポキシシクロヘキシルメチルメタクリレートを用いた以外は実施例5と同様に行った。
【0102】
(実施例16)
実施例16は、開環重合性官能基を有さないモノマーとしてプロピルメタクリレート、開環重合性官能基を有するモノマーとして(3−エチル−3−オキセタニル)メチルメタクリレートを用いた以外は実施例5と同様に行った。
【0103】
(実施例17)
実施例17は、開環重合性官能基を有さないモノマーとしてプロピルメタクリレート、開環重合性官能基を有するモノマーとしてグリシジルメタクリレートを用いた以外は実施例5と同様に行った。
【0104】
(実施例18)
実施例18は、開環重合性官能基を有さないモノマーとしてプロピルメタクリレート、開環重合性官能基を有するモノマーとして3,4−エポキシシクロヘキシルメチルメタクリレートを用いた以外は実施例5と同様に行った。
【0105】
(実施例19)
実施例19は、開環重合性官能基を有さないモノマーとしてメトキシトリエチレングリコールメタクリレート、開環重合性官能基を有するモノマーとして(3−エチル−3−オキセタニル)メチルメタクリレートを用いた以外は実施例5と同様に行った。
【0106】
(実施例20)
実施例20は、開環重合性官能基を有さないモノマーとしてメトキシトリエチレングリコールメタクリレート、開環重合性官能基を有するモノマーとしてグリシジルメタクリレートを用いた以外は実施例5と同様に行った。
【0107】
(実施例21)
実施例21は、開環重合性官能基を有さないモノマーとしてメトキシトリエチレングリコールメタクリレート、開環重合性官能基を有するモノマーとして3,4−エポキシシクロヘキシルメチルメタクリレートを用いた以外は実施例5と同様に行った。
【0108】
(実施例22)
実施例22は、開環重合性官能基を有さないモノマーとしてメトキシジプロピレングリコールアクリレート、開環重合性官能基を有するモノマーとして(3−エチル−3−オキセタニル)メチルメタクリレートを用いた以外は実施例5と同様に行った。
【0109】
(実施例23)
実施例23は、開環重合性官能基を有さないモノマーとしてメトキシジプロピレングリコールアクリレート、開環重合性官能基を有するモノマーとしてグリシジルメタクリレートを用いた以外は実施例5と同様に行った。
【0110】
(実施例24)
実施例24は、開環重合性官能基を有さないモノマーとしてメトキシジプロピレングリコールアクリレート、開環重合性官能基を有するモノマーとして3,4−エポキシシクロヘキシルメチルメタクリレートを用いた以外は実施例5と同様に行った。
【0111】
【表4】
なお、表4の開環重合性官能基を有さないモノマーの欄において、1はエチルアクリレート、2はメチルメタクリレート、3はプロピルメタクリレート、4はメトキシトリエチレングリコールメタクリレート、5はメトキシジプロピレングリコールアクリレートを示す。また、表4の開環重合性官能基を有するモノマーの欄において、1は(3−エチル−3−オキセタニル)メチルメタクリレート、2はグリシジルメタクリレート、3は3,4−エポキシシクロヘキシルメチルメタクリレートを示す。
【0112】
以上より、特定のジスルホン酸エステルおよびスルトン化合物によるSEIは、ポリマー構成によらず長期にわたりホスファゼン構造を有する化合物の還元分解を抑制することができ、良好な寿命特性を得ることができた。その結果、高い安全性を得ることができた。
【0113】
(実施例25)
実施例25は、ホスファゼン構造を有する化合物にジエトキシテトラフルオロシクロトリホスファゼンを用いた以外は実施例5と同様に行った。
【0114】
(実施例26)
実施例26は、ホスファゼン構造を有する化合物にモノフェノキシペンタフルオロトリホスファゼンを用いた以外は実施例5と同様に行った。
【0115】
【表5】
以上より、ホスファゼン構造を有する化合物を変えても特定のジスルホン酸エステルおよびスルトン化合物によるSEIは、ポリマー構成によらず長期にわたり種々のホスファゼン構造を有する化合物の還元分解を抑制することができ、良好な寿命特性を得ることができた。その結果、高い安全性を得ることができた。
【0116】
本実施形態は、リチウムイオン二次電池の他電気二重層キャパシタや、リチウムイオンキャパシタなどエネルギー貯蔵デバイスに利用できる。
【0117】
この出願は、2009年11月13日に出願された日本出願特願2009−260039を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。
【0118】
以上、実施形態(及び実施例)を参照して本願発明を説明したが、本願発明は上記実施形態(及び実施例)に限定されるものではない。本願発明の構成や詳細には、本願発明のスコープ内で当業者が理解し得る様々な変更をすることができる。