(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5721203
(24)【登録日】2015年4月3日
(45)【発行日】2015年5月20日
(54)【発明の名称】アンダーフィル封止剤として有用でありかつリワーク可能な低発熱性の熱硬化性樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 63/00 20060101AFI20150430BHJP
C08K 7/18 20060101ALI20150430BHJP
C08K 3/24 20060101ALI20150430BHJP
H01L 23/29 20060101ALI20150430BHJP
H01L 23/31 20060101ALI20150430BHJP
【FI】
C08L63/00 C
C08K7/18
C08K3/24
H01L23/30
【請求項の数】6
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2008-537880(P2008-537880)
(86)(22)【出願日】2006年10月24日
(65)【公表番号】特表2009-513785(P2009-513785A)
(43)【公表日】2009年4月2日
(86)【国際出願番号】US2006041484
(87)【国際公開番号】WO2007050611
(87)【国際公開日】20070503
【審査請求日】2009年10月22日
(31)【優先権主張番号】60/729,952
(32)【優先日】2005年10月25日
(33)【優先権主張国】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】514056229
【氏名又は名称】ヘンケル アイピー アンド ホールディング ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】100106297
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 克博
(74)【代理人】
【識別番号】100129610
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 暁子
(72)【発明者】
【氏名】ジィ、 チン
(72)【発明者】
【氏名】チャン、 チュウ ビー.
(72)【発明者】
【氏名】ユン、 ファン ケー.
(72)【発明者】
【氏名】チャオ、 レンチョ
(72)【発明者】
【氏名】シィ、 ウェイトン
【審査官】
柳本 航佑
(56)【参考文献】
【文献】
特開2007−031555(JP,A)
【文献】
特開2004−027185(JP,A)
【文献】
特表2003−502484(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00−101/14
C08K 3/00− 13/08
H01L 23/29
H01L 23/31
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱硬化性樹脂組成物であって、300J/g未満の発熱量を示し、半導体チップと前記半導体チップが電気的に接続された回路基板との間、またはキャリア基板上に取り付けられた半導体チップを含む半導体デバイスと前記半導体デバイスが電気的に接続された回路基板との間のアンダーフィルをそれぞれ封止することが可能であり、その反応生成物が制御可能に分解可能であり、前記組成物が、
(a)第1粘度を有する第1のビスフェノールエポキシ樹脂、第1粘度より低い第2粘度を有する第2のビスフェノールエポキシ樹脂、および脂環式エポキシ樹脂の組合せを含むエポキシ樹脂成分と、
(b)それぞれの無機充填剤の粒子寸法が1〜1000nmの範囲内である粒子寸法分布を有する無機充填剤成分と、
(c)カチオン触媒を遊離できる熱開始剤とを含み、
前記熱硬化性樹脂組成物は、80℃〜150℃の温度で5〜60分の期間加熱することによって硬化し、前記アンダーフィルを封止でき、
熱硬化された前記熱硬化性樹脂組成物は、190℃〜290℃の温度で10秒〜60秒の期間加熱することによって軟化し、前記半導体チップを前記回路基板より引き離すことができるか、または、前記半導体デバイスを前記回路基板より引き離すことができる
組成物。
【請求項2】
前記第1粘度は25℃において3000cps以上であり、前記第2粘度は25℃において250cps以下である請求項1に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項3】
前記第1粘度は25℃において3000〜4500cpsであり、前記第2粘度は25℃において30〜250cpsである請求項2に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項4】
前記熱開始剤はアンモニウムアンチモネイトである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項5】
半導体デバイスおよび前記半導体デバイスが電気的に接続された回路基板、または半導体チップおよび前記半導体チップが電気的に接続された回路基板を有する電子デバイスであって、それぞれ前記半導体デバイスと前記回路基板の間、または前記半導体チップと前記回路基板の間に、請求項1に記載の熱硬化性樹脂組成物をアンダーフィル封止剤として使用して組み立てられ、前記熱硬化性樹脂組成物は、80℃〜150℃の温度で5〜60分の期間加熱することによって硬化して、前記アンダーフィルを封止でき、熱硬化された前記熱硬化性樹脂組成物は、190℃〜290℃の温度で10秒〜60秒の期間加熱することによって軟化しかつそれらの接着性を損失することができる、電子デバイス。
【請求項6】
キャリア基板上に取り付けられた半導体チップを含む半導体デバイスと前記半導体デバイスが電気的に接続された回路基板との間、または半導体チップと前記半導体チップが電気的に接続された回路基板との間のアンダーフィルを、
(a)前記半導体デバイスと前記回路基板の間、または前記半導体チップと前記回路基板の間のアンダーフィル内に、請求項1に記載の組成物を分注するステップと、
(b)そのように分注した前記組成物を、60℃〜150℃の範囲の温度に5〜60分の期間さらして、前記組成物に反応生成物を形成させるステップとを含む方法で封止し、
(c)前記反応生成物を、190℃〜290℃の温度で10秒〜60秒の期間加熱することによって軟化し、前記半導体チップを前記回路基板より引き離すか、または、前記半導体デバイスを前記回路基板より引き離すことを可能とするステップを含む方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、それぞれキャリア基板上に大規模集積回路(「LSI」)などの半導体チップを有する、チップサイズまたはチップスケールパッケージ(「CSP」)、ボールグリッドアレイ(「BGA」)、ランドグリッドアレイ(「LGA」)などの半導体デバイスを、回路基板上へ取り付けるのに有用な熱硬化性樹脂組成物に関する。同様に、これらの組成物は、半導体チップ自体を、回路基板上へ取り付けるのにも有用である。適切な条件下にあるとき、本発明の組成物の反応生成物は、制御可能にリワークすることができる。また、多くの市販の急速硬化型アンダーフィル封止剤(「スナップ硬化(snap cure)アンダーフィル」)と異なり、本発明の組成物は、発熱量が300J/g未満であり、または7日間にわたって55℃でのパッケージ安定性を実証し、したがって、航空便で輸送するための特殊なパッケージ、またはそのような航空輸送を許可する米国運輸省などの国際輸送当局からの特別な承認を必要としないことが重要である。
【背景技術】
【0002】
小型デジタル記録装置、セルラー式(または移動体)電話機、(iPodなどの)携帯型デジタル音楽記録装置/再生装置、およびそのような機能を組み合わせた装置の人気により、LSIデバイスの小型化が望ましいものとなってきた。その結果、CSP、BGA、およびLGAを使用して、パッケージの寸法を、ベアチップの寸法にまで大幅に縮小させてきた。CSP、BGA、およびLGAは、電子デバイスの動作機能の多くを保持しながら、それらの特性を改善し、したがって、LSIなどのベア半導体チップを保護し、かつその試験を容易にする働きをする。
【0003】
通常は、CSP/BGA/LGAアセンブリは、はんだ接続を用いて、回路基板上の導電体に接続される。しかし、結果として得られるCSP/BGA/LGA/回路基板構造体が、熱サイクル、振動、歪みにさらされ、または落下させられたとき、回路基板とCSP/BGA/LGAとの間のはんだ接続の信頼性は、疑わしくなることが多い。CSP/BGA/LGAアセンブリが回路基板上に取り付けられた後、次に、熱サイクルによって生じる応力を軽減するために、CSP/BGA/LGAアセンブリと回路基板の間の空間に封止樹脂(一般にアンダーフィル封止と呼ばれる)が充填されることが多く、それによって、熱衝撃特性を改善し、かつ組立て構造体の信頼性を高める。
【0004】
しかし、硬化時に架橋結合ネットワークを形成する熱硬化性樹脂組成物が、通常、アンダーフィル封止材料として使用されるので、CSP/BGA/LGAアセンブリが回路基板上に取り付けられた後に故障が発見された場合、CSP/BGA/LGAアセンブリ−回路基板構造体を完全に破壊または解体せずにCSP/BGA/LGAアセンブリを取り替えるのは難しい。
【0005】
米国特許第6316528号(Iida)は、キャリア基板上に取り付けられた半導体チップを含む半導体デバイスと、前記半導体デバイスが電気的に接続された回路基板との間のアンダーフィルを封止することが可能な熱硬化性樹脂組成物について言及している。この組成物は、エポキシ樹脂約100重量部、硬化剤約3〜約60重量部、および可塑剤約1〜約90重量部を含む。ここでは、硬化した熱硬化性樹脂の周囲の領域が、軟化およびその接着性の大部分の損失を実現するために、約190〜約260℃の温度で約10秒〜約1分の範囲の期間加熱される。
【0006】
さらに、いくつかのアンダーフィル封止剤が、低温で急速に硬化するように設計されてきた。そのような製品を設計する技術的な難題の1つは、所望の低温および急速硬化と、保存安定性および低発熱性とのバランスをとることである。保存安定性は、低温保存および輸送によって改善されるが、製品の発熱性は、製品の配合に固有である。
【0007】
国際輸送規制当局により、反応性配合物は、発熱量が特定の値(300J/g)未満であり、設定された期間にわたって少し高温での安定性を実証すること、もしくは航空便で輸送するために特別設計されたパッケージングでパッケージすること、または一部の管轄区域ではその両方が必要とされる。特別設計されたパッケージングの一例として、米国特許第6070427号を参照されたい。
【0008】
明らかに、最終使用者が望む物性プロファイルを提供しながら、発熱量がその設定値を下回る反応性配合物を提供し、その結果、特別設計されたパッケージングを必要としないことが望ましいはずである。
【0009】
Henkel社は、製品番号3593でスナップ硬化アンダーフィルを導入した。これは、特にCSP向けの、毛管流動アンダーフィルとして使用するように設計された、急速硬化型、高速流動性の液体である。製品番号3593は、商業的に好評を博してきた。しかし、耐亀裂性および吸湿性などの、製品番号3593の特定の物性は、改良に耐える可能性がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
したがって、発熱量が300J/g未満であり、または7日間にわたって55℃でのパッケージ安定性を実証する、アンダーフィル封止剤として有用な熱硬化性樹脂組成物を提供することが望ましい。
【0011】
現況技術に関わらず、アンダーフィル封止材料は、国際輸送当局に従うように特別設計されたパッケージングを必要とせずに輸送することができ、たとえばCSP、BGA、またはLGAと回路基板の間のアンダーフィル空間内を毛管作用によって急速に流動し、低温条件下で急速に硬化し、封止材料が使用されるべき基板を、基板上に残っている半導体デバイスまたは基板自体の完全性を損なう恐れのある厳しすぎる条件なしで、容易に加工しかつ半導体デバイスから簡単に分離できるようにしながら、良好な生産性および耐熱衝撃性を提供し、かつ回路基板上に組み立てられた後にCSP、BGA、またはLGA内で半導体の故障が発見された場合にリワークできることが望ましいはずである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、アンダーフィル封止剤樹脂として有用な熱硬化性樹脂組成物を提供する。この組成物により、キャリア基板上に取り付けられた半導体チップを含むCSP/BGA/LGAアセンブリなどの半導体デバイスを、回路基板に、短時間熱硬化によって良好な生産性でしっかりと接続することができ、それにより、優れた熱衝撃特性(または熱サイクル特性)を実証し、かつ半導体デバイスまたは接続の故障が発見された場合に、CSP/BGA/LGAアセンブリを回路基板から容易に取り外せるようにする。同様に、半導体チップも、本発明の組成物を使用して、回路基板にしっかりと接続することができ、また必要な場合にはそこから取り外すことができる。
【0013】
本発明の組成物はまた、国際輸送当局に従うように特別設計されたパッケージングを必要とせずに輸送することができ、たとえばCSP、BGA、またはLGAと回路基板の間のアンダーフィル空間内を毛管作用によって急速に流動することができ、かつ低温条件下で急速に硬化することができる。
【0014】
この組成物は、エポキシ樹脂成分と、平均粒子寸法分布がナノスケール(すなわち約1nm〜約1000nmの範囲)である無機充填剤成分と、カチオン触媒を遊離させる熱開始剤とを含む。
【0015】
これらの組成物の反応生成物は、その組成物を硬化させるために使用した温度を上回る温度条件および/または酸性条件にさらすことなどによって、軟化させかつそれらの接着性を損失させることにより、制御可能にリワークすることができる。
【0016】
本発明の熱硬化性樹脂組成物は、短期間で比較的低温で硬化可能であるが、その硬化反応生成物は、優れた熱衝撃特性を有し、さらに、加熱条件下で力を加えることによって容易に割ることができる。すなわち、本発明の熱硬化性樹脂組成物の硬化反応生成物によって回路基板に取り付けられた半導体デバイスまたは半導体チップは、反応生成物を加熱することによって、反応生成物を溶媒で膨潤させることによって、または反応生成物を加熱条件下で溶媒で膨潤させることによって容易に取り外すことができる。
【0017】
本発明の熱硬化性樹脂組成物を使用することによって、CSP、BGA、もしくはLGAアセンブリなどの半導体デバイス、または半導体チップは、短時間の熱硬化により良好な生産性でしっかりと回路基板に接続することができ、結果として得られる取付け構造体は、優れた熱衝撃特性(または熱サイクル特性)を実証する。さらに、故障が発見された場合には、半導体デバイスまたは半導体チップは、容易に取り外すことができる。これにより、回路基板を再利用することが可能になり、それによって、生産工程の収率の改善および生産コストの削減を実現する。
【0018】
本発明の利益および利点は、図面を参照して、「発明を実施するための最良の形態」を読めば、より容易に明らかになるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
熱硬化性樹脂組成物は大まかに、エポキシ樹脂成分と、平均粒子寸法分布が約1nm〜約1000nmの範囲である無機充填剤と、カチオン触媒を遊離させる熱開始剤とを含む。
【0020】
さらに、この組成物は、ゴム強化剤、接着促進剤、湿潤剤、着色剤、消泡剤、および流動性剤のうちの1つまたは複数を含むことができる。
【0021】
本発明のリワーク性の態様に関連して、本発明の範囲内で組成物のそのような軟化および接着損失を引き起こすために使用する温度は、エポキシ樹脂としてビスフェノールA型エポキシ樹脂またはビスフェノールF型エポキシ樹脂を単独でベースとするものなど、この目的で使用される通常のエポキシベース組成物を分解させるのに必要とされる、通常約300℃付近またはそれ以上の温度より、50℃ほど低くすることができる。
【0022】
たとえば、エポキシ樹脂成分は、2つ以上の異なるビスフェノールベースエポキシ樹脂の組合せを含む。これらのビスフェノールベースエポキシ樹脂は、ビスフェノールA、ビスフェノールF、もしくはビスフェノールSエポキシ樹脂、またはその組合せから選択することができる。さらに、同じ型の樹脂(そのようなA、F、またはS)のうちで2つ以上の異なるビスフェノールエポキシ樹脂を使用することもできる。
【0023】
ここでの使用に望ましいビスフェノールエポキシ樹脂の市販の例には、ビスフェノールF型エポキシ樹脂(日本化薬社(日本)製のRE−404−S、大日本インキ化学工業社製のEPICLON 830(RE1801)、830S(RE1815)、830A(RE1826)、および830W、ならびにResolution社製のRSL 1738およびYL−983Uなど)と、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(Resolution社製のYL−979および980など)とが含まれる。
【0024】
大日本インキ社から市販の、前述のビスフェノールエポキシ樹脂は、ビスフェノールAエポキシ樹脂をベースとする従来のエポキシ樹脂より粘度が大幅に低い、未希釈のエピクロロヒドリン−ビスフェノールF液状エポキシ樹脂として販売され、ビスフェノールA液状エポキシ樹脂と類似の物性を有する。ビスフェノールFエポキシ樹脂は、ビスフェノールAエポキシ樹脂より粘度が低く、他はすべて2つの型のエポキシ樹脂間で同じであり、それによって、より低粘度で、したがって高速流動性のアンダーフィル封止剤材料を提供する。これらの4つのビスフェノールFエポキシ樹脂のEEWは、165〜180である。25℃での粘度は、3000〜4500cpsである(粘度上限が4000cpsであるRE1801を除く)。加水分解性塩化物の含有量は、RE1815および830Wに対して200ppmであり、RE1826に対して100ppmであると報告されている。
【0025】
Resolution社から市販の、前述のビスフェノールエポキシ樹脂は、低塩化物含有の液状エポキシ樹脂として販売されている。ビスフェノールAエポキシ樹脂のEEW(g/eq)は180〜195であり、25℃での粘度は100〜250cpsである。塩化物の総含有量は、YL−979に対して500〜700ppmであり、YL−980に対して100〜300ppmであると報告されている。ビスフェノールFエポキシ樹脂のEEW(g/eq)は165〜180であり、25℃での粘度は30〜60である。塩化物の総含有量は、RSL−1738に対して500〜700ppmであり、YL−983Uに対して150〜350ppmであると報告されている。
【0026】
ビスフェノールエポキシ樹脂に加えて、他のエポキシ化合物も、本発明のエポキシ成分内に含まれる。たとえば、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシシクロヘキシルカーボネートなどの脂環式エポキシ樹脂が使用される。また、粘度を調整しかつ/またはTgを低下させるための、ブチルグリシジルエーテル、クレシルグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールグリシジルエーテル、またはポリプロピレングリコールグリシジルエーテルなどの、単官能、2官能、または多官能反応性希釈剤も使用される。
【0027】
ここでの使用に適したエポキシ樹脂には、Resolution社製のEPON 828、EPON 1001、EPON 1009、およびEPON 1031などの商品名EPONで市販のもの、Dow Chemical社製のDER 331、DER 332、DER 334、およびDER 542、ならびに日本化薬社製のBREN−Sなどの、フェノール化合物のポリグリシジル誘導体も含まれる。他の適切なエポキシ樹脂には、ポリオール類などから調製したポリエポキシド、およびフェノール−ホルムアルデヒドノボラック類のポリグリシジル誘導体が含まれる。後者には、Dow Chemical社製のDEN 431、DEN 438、およびDEN 439などがある。クレゾール類似体もまた、Ciba Specialty Chemicals社製のARALDITE ECN 1235、ARALDITE ECN 1273、およびARALDITE ECN 1299などの商品名ARALDITEで市販されている。SU−8は、Resolution社から入手可能なビスフェノールA型エポキシノボラックである。アミン類、アミノアルコール類、およびポリカルボン酸類のポリグリシジル付加物もまた、本発明で有用であり、それらの市販の樹脂には、F.I.C.社製のGLYAMINE 135、GLYAMINE 125、およびGLYAMINE 115、Ciba Specialty Chemicals社製のARALDITE MY−720、ARALDITE 0500、およびARALDITE 0510、ならびにSherwin−Williams社製のPGA−XおよびPGA−Cが含まれる。
【0028】
ここでの使用に適切な単官能エポキシ共反応性希釈剤には、エポキシ樹脂成分より粘度が低く、通常約250cps未満のものが含まれる。
【0029】
単官能エポキシ共反応性希釈剤は、炭素原子数約6〜約28のアルキル基とともに、エポキシ基を有するべきである。この例には、C
6−28アルキルグリシジルエーテル類、C
6−28脂肪酸グリシジルエステル類、およびC
6−28アルキルフェノールグリシジルエーテル類が含まれる。
【0030】
そのような単官能エポキシ共反応性希釈剤が含まれる場合、そのような共反応性希釈剤は、組成物の総重量に基づき、約8重量パーセント〜約12重量パーセントなど、最高約5重量パーセント〜約15重量パーセントの量で使用するべきである。
【0031】
エポキシ樹脂成分は、組成物中に、約10重量パーセント〜約95重量パーセント、望ましくは、約60重量パーセントなど、約20重量パーセント〜約80重量パーセントの範囲の量で存在するべきである。
【0032】
無機充填剤成分としては、多くの材料が潜在的に有用である。たとえば、無機充填剤成分は、溶融シリカなどの補強シリカを含みうることが多く、未処理のままとすることができ、またはそれらの表面の化学的性質を変えるように処理することもできる。しかし無機充填剤成分は、平均粒子寸法分布が1〜1000ナノメートル(「nm」)の範囲の粒子を含む。そのような充填剤粒子の市販の一例は、Hans Chemie社(ドイツ)によって、NANOPOX XP 22などの商品名NANOPOXで販売されている。NANOPOX充填剤は、エポキシ樹脂中に最高約50重量パーセントのレベルで分散される、単分散シリカ充填剤である。NANOPOX充填剤の粒子寸法は通常、約5nm〜約80nmであると考えられる。そして、NANOPOX XP 22は、ビスフェノールFエポキシ樹脂のジグリシジルエーテル中に、粒子寸法が約15nmのシリカ粒子を40重量パーセント含むことが報告されている。
【0033】
Hans Chemie社はまた、商品名NANOPOX Eの材料も生産する。たとえば、報告によると、Hans Chemie NANOPOX Eブランド製品により、普通なら封止するのが難しい電子部品を完全に含浸させることができ、かつ収縮および熱膨張の軽減、破壊靭性および係数など、広範囲の機械および熱特性を提供する。下の表1では、Hans Chemie社は、4つの記載のNANOPOX E製品に関する情報を提供する。
【0034】
【表1】
【0035】
Hans Chemie社は、NANOPOX Eブランド製品を使用することによって、エポキシ配合物において重要な特性を著しく改善できることを報告している。たとえば、以下が挙げられる。
【0036】
・従来の補強充填剤と比較して配合物の粘度の低下
・非沈殿性
・破壊靭性、耐衝撃性、および係数の向上
・耐擦傷性および耐磨耗性の改善
・収縮および熱膨張の軽減
・熱安定性、耐薬品性、ガラス転移温度、耐候性、誘電特性など、多数の所望の特性の改善、または少なくとも悪影響を与えないこと
【0037】
NANOPOX Eを、石英などの従来の充填剤と組み合わせることで、配合物の樹脂含有量を低減させることができ、すなわち、充填剤の総含有量を、これまで達成されていないレベルにまで高めることができる。
【0038】
加工可能性は、それぞれのベース樹脂と比較して本質的に変化しない。
【0039】
NANOPOX Eは、粘度の過度の上昇によって加工可能性を損なうことなく、特性に前述の改善を加えることが望ましいまたは必要である用途に使用される(溶融シリカとして知られる)。用途の例は、封止材料および被覆剤である。粒子寸法が小さく、凝集体が存在しないことによる、NANOPOX Eの優れた含浸特性を強調することが重要である。これにより、普通なら封止するのが難しい電子部品を完全に含浸することも可能になる。
【0040】
製造者によれば、NANOPOX Eブランド製品は、エポキシ樹脂マトリックス内のコロイダルシリカゾルである。分散相は、直径50nm未満で、かつ粒子寸法分布が極めて狭い、表面修飾された球面形状のSiO
2ナノ粒子からなる(
図5参照)。これらの球体は、寸法がわずか数ナノメートルしかなく、樹脂マトリックス内に凝集体なしで分布する。これにより、SiO
2含有量が最高40重量パーセントである、非常に低い分散粘度が得られる。ナノ粒子は、ケイ酸ナトリウム水溶液から化学的に合成される。この独自の方法では、高いせん断エネルギーを使用して溶解機または他の装置で粉末状充填剤を分散させる方法とは対照的に、結合剤は損傷されない。
【0041】
無機充填剤成分としての使用に望ましい他の材料には、酸化アルミニウム、窒化シリコン、窒化アルミニウム、シリカ被覆窒化アルミニウム、窒化ホウ素、およびその組合せから構成され、またはそれらを含有するものが含まれる。ただし当然ながら、粒子の平均粒子寸法分布は1〜1000nmの範囲であるものとする。
【0042】
無機充填剤成分は、約12〜約60重量パーセントなど、組成物の約10〜約80重量パーセント、望ましくは約15〜約35重量パーセントの範囲の量で使用するべきである。
【0043】
カチオン触媒を遊離させる熱開始剤としては、硬化が生じるのに望ましい温度に応じて、多くの異なる材料を使用することができる。たとえば、約120℃の温度で硬化を実現するために適切な熱開始剤は、アンモニウムアンチモネイトである。約150℃〜約180℃の範囲の温度では、様々な他の材料を使用することができる。
【0044】
カチオン触媒は、全組成物の約0.05重量パーセント〜約10重量パーセント、望ましくは約1重量パーセントなど、約0.1重量パーセント〜約5重量パーセントの範囲の量で存在するべきである。
【0045】
さらに、シラン類、グリシジルトリメトキシシラン(商品名A−187でOSI社から市販)、またはγアミノプロピルトリエトキシシラン(商品名A−1100でOSI社から市販)などの接着促進剤を使用することができる。
【0046】
組成物、硬化反応生成物、またはその両方の特定の所望の物性を実現するために、従来の添加物を本発明の組成物内に使用することもできる。
【0047】
本発明による熱硬化性樹脂組成物は、回路基板と半導体デバイスの間の空間内に浸透することができる。本発明の組成物はまた、少なくとも高温条件下で粘度の低下を示し、したがって、その空間内に浸透することができる。300〜2000mPa・sなど、25℃で5000mPa・s以下の粘度に到達するように、様々な成分の種類および割合を選択することによって熱硬化性樹脂組成物を調製し、それによって、この組成物が、回路基板と半導体デバイスの間の空間(たとえば10〜500μm)内に浸透する能力を向上させることが望ましい。
【0048】
図1への参照は、本発明の熱硬化性樹脂組成物が使用される、CSPなどの半導体デバイス取付け構造体の一例を示す。
【0049】
半導体デバイス4は、LSIなどの半導体チップ(いわゆるベアチップ)2をキャリア基板1に接続し、かつその間の空間を樹脂3で適切に封止することによって形成されたものである。この半導体デバイスは、回路基板5の所定の位置に取り付けられ、電極8と9が、はんだ6などの適切な接続手段によって電気的に接続される。信頼性を向上させるために、キャリア基板1と回路基板5の間の空間は、熱硬化性樹脂組成物の硬化生成物10で封止される。熱硬化性樹脂組成物の硬化生成物10は、キャリア基板1と回路基板5の間の空間を完全に充填する必要はないが、熱サイクルが引き起こす応力を軽減するような程度にまで充填することができる。
【0050】
キャリア基板は、Al
2O
3、SiN
3、およびムライト(Al
2O
3−SiO
2)から形成されたセラミック基板、ポリイミド類などの耐熱性樹脂から形成された基板またはテープ、回路基板としても一般に使用されるガラス強化エポキシ、ABS、およびフェノール基板などから構成することができる。
【0051】
フリップチップアセンブリに関して、
図3への参照は、半導体チップが回路基板上へ取り付けられたフリップチップアセンブリ、および本発明の熱硬化性樹脂組成物で封止されたアンダーフィルを示す。
【0052】
フリップチップアセンブリ34は、半導体チップ(ベアチップ)32を回路基板31に接続し、かつその間の空間を熱硬化性樹脂組成物33で適切に封止することによって形成される。この半導体デバイスは、回路基板31上の所定の位置に取り付けられ、電極35および36が、はんだなどの適切な電気接続手段37および38によって電気的に接続される。信頼性を向上させるために、半導体チップ32と回路基板31の間の空間は、熱硬化性樹脂組成物33で封止し、次いで硬化させる。熱硬化性樹脂組成物の硬化生成物は、その空間を完全に充填するべきである。
【0053】
半導体チップをキャリア基板に電気的に接続させる手段は特に限定されるものではなく、高融点はんだ、または導電性(もしくは異方導電性)接着剤、ワイヤ接合などによる接続を使用することができる。接続を容易にするために、電極は、バンプとして形成することができる。さらに、接続の信頼性および耐久性を向上させるために、半導体チップとキャリア基板の間の空間は、適切な樹脂で封止することができる。本発明で使用できる半導体デバイスには、CSP、BGA、およびLGAが含まれる。
【0054】
本発明で使用する回路基板の種類は特に限定されるものではなく、ガラス強化エポキシ、ABS、およびフェノール基板などの様々な一般的な回路基板のいずれかを使用することができる。
【0055】
次に、取付け工程について、以下に説明する。まず、クリームはんだを回路基板の必要な位置に印刷し、かつ適切に乾燥させて溶媒を排出させる。次いで、半導体デバイスを、回路基板上のパターンに一致させて取り付ける。この回路基板を、リフロー炉内を通過させて、はんだを溶融させ、それによって、半導体デバイスをはんだ付けする。半導体デバイスと回路基板の間の電気接続は、クリームはんだの使用に限定されず、はんだボールの使用によって形成することもできる。別法として、この接続は、導電性接着剤または異方導電性接着剤によって形成することもできる。さらに、クリームはんだなどは、回路基板上または半導体デバイス上のどちらにでも塗布または形成することができる。後の修理を容易にするために、使用するはんだ、導電性または異方導電性接着剤は、その融点、接合強度などを考慮して選択するべきである。
【0056】
このように半導体デバイスを回路基板に電気的に接続させた後、結果として得られる構造体は通常、導通試験などにかけるべきである。そのような試験に合格した後、半導体デバイスは、樹脂組成物で回路基板に固定することができる。このようにして、故障が発見された場合、半導体デバイスを、樹脂組成物で固定する前に取り外すのはより容易である。
【0057】
次いで、ディスペンサなどの適切な塗布手段を使用して、熱硬化性樹脂組成物を、半導体デバイスの周辺に塗布する。この組成物を半導体デバイスに塗布するとき、組成物は、毛管作用により、回路基板と半導体デバイスのキャリア基板との間の空間内に浸透する。
【0058】
次に、熱硬化性樹脂組成物を、熱を加えることによって硬化させる。この加熱の初期段階中に、熱硬化性樹脂組成物は、粘度が著しく低下し、したがって流動性が高まり、その結果、回路基板と半導体デバイスの間の空間内により容易に浸透するようになる。さらに、回路基板に適切な通気孔を設けることによって、熱硬化性樹脂組成物は、回路基板と半導体デバイスの間の空間全体に完全に浸透することができる。
【0059】
塗布する熱硬化性樹脂組成物の量は、回路基板と半導体デバイスの間の空間をほぼ完全に充填するように、適切に調整するべきである。
【0060】
前述の熱硬化性樹脂組成物を使用するとき、この組成物は通常、約120℃で約30分の期間など、約80℃〜約150℃の温度で約5〜約60分の期間加熱することによって硬化させる。すなわち、本発明は、比較的低温および短時間の硬化条件を使用することができ、したがって、非常に良好な生産性を実現する。
図1に示す半導体デバイス取付け構造体は、このように完成させる。
【0061】
本発明の熱硬化性樹脂組成物を使用する取付け工程では、前述のように半導体デバイスを回路基板上に取り付けた後、結果として得られる構造体は、半導体デバイスの特性、半導体デバイスと回路基板の間の接続、他の電気特性、および封止の状態に関して試験される。故障が発見された場合、以下の方法で修理を施すことができる。
【0062】
故障した半導体デバイスの周囲の領域を、約285℃で30秒間など、約190℃〜約290℃の温度で約10秒〜約60秒の範囲の期間加熱する。加熱手段は特に限定されるものではないが、局部加熱が好ましい。故障場所へ熱風を当てるなどの比較的簡単な手段を使用することができる。
【0063】
はんだが溶融し、樹脂が軟化して、接合強度の低下が生じると直ちに、半導体デバイスを引き離す。
【0064】
図2に示すように半導体デバイス4を取り外した後、熱硬化性樹脂組成物の硬化反応生成物の残留物12およびはんだの残留物14が、回路基板5上に残る。熱硬化性樹脂組成物の硬化生成物の残留物は、たとえば、残留物を所定の温度まで加熱して軟化させた後に剥がすことによって、残留物を溶媒で膨潤させることによって、または残留物を所定の温度まで加熱しながら溶媒で膨潤させることによって除去することができる。
【0065】
残留物は、加熱と溶媒をどちらも使用することによって、最も容易に除去することができる。たとえば、残留物は、回路基板全体を約100℃(通常約80℃〜約120℃の範囲)の温度に維持しながら、残留物樹脂を溶媒で膨潤させることによって軟化させた後に、剥がすことができる(
図4参照)。
【0066】
この目的で使用する溶媒は、熱硬化性樹脂組成物の硬化反応生成物を膨潤させるものであり、それによって結合強度を、硬化した材料を回路基板から剥がすことができる程度まで低下させる。有用な溶媒には、有機溶媒、たとえば、塩化メチレンなどの塩化アルキル類、エチルセルロースおよびブチルセルロースなどのグリコールエーテル類、コハク酸ジエチルなどの2塩基酸のジエステル類、ならびにN−メチルピロリドンが含まれる。当然ながら、適切な組合せを使用することもできる。
【0067】
回路を保護するレジストがすでに回路基板に接続されている場合、選択した溶媒は、レジストに損傷を与えるべきではない。これを考慮して、望ましい溶媒には、グリコールエーテル類およびN−メチルピロリドンが含まれる。
【0068】
はんだの残留物は、たとえば、はんだを吸収する編組線を使用することによって、除去することができる。
【0069】
最後に、前述の手順によって洗浄した回路基板上に、新規な半導体デバイスを、前述の場合と同様に、再び取り付けることができる。すなわち、故障場所の修理を完了させる。
【0070】
回路基板内に故障が発見された場合、半導体デバイスは、前述の場合と同様に、半導体デバイスの下部に残った熱硬化性樹脂組成物の硬化反応生成物の残留物12およびはんだの残留物14を除去することによって(
図2参照)、再利用することができる。
【0071】
本発明について、以下の限定的でない実施例によってさらに説明する。
【実施例】
【0072】
<実施例1>
熱硬化性樹脂組成物
本発明による熱硬化性樹脂組成物は、下の表1に示す成分から調製することができる。
【0073】
【表2】
【0074】
物性
硬化していない状態で、組成物を、約75℃の分注温度で、シリンジから8×8mmのCSP上へ分注した。組成物は、毛管作用によって、30秒未満で、パッケージとパッケージが取り付けられた回路基板との間のアンダーフィル空間内へ流れ込んだ。
【0075】
この組成物は、形成時に使用したが、いかなる測定可能な粘度の上昇もなく、約5℃の温度で最高約3〜約6カ月の期間保存できることが予想される。このことは、従来の市販のスナップ硬化アンダーフィル封止材料は通常、そのレベルの保存安定性を実現するには約−40℃の温度で保存する必要があるので重要である。
【0076】
この組成物の発熱量は、アルミニウムパンの中に組成物の一部分を入れ、示差走査熱量計(「DSC」)で反応熱(またはエンタルピー)を分析することによって求めた。エンタルピーは、約290J/gと求められた。
【0077】
組成物はまず、120℃の温度で約5分後に硬化した。
【0078】
低温での急速硬化と顕著な加工温度安定性の組合せは、室温でのポットライフが1週間を超え、現時点で市販の現在のアンダーフィル封止剤材料よりもはるかに優れるが、発熱量は300J/gを超えない。
【0079】
落下および熱サイクル試験
組成物を熱衝撃試験にさらし、その間、試験サンプルを、約−55℃の温度で約10分の期間維持し、その後約+125℃の温度まで上げて約10分の期間維持した。所定の回数の熱サイクルに達した後、試験サンプルを導通試験にかけて、CSPと回路基板の間の電気接続を確認した。少なくとも1000サイクルで導通が確認されたとき、試験サンプルは許容可能であると評価した。
【0080】
修理
熱風発生器を使用して、前述の熱硬化性樹脂組成物で回路基板に固定させたCSPの周囲の領域を、30秒間285℃の熱風を当てることによって加熱した。次いで、CSPとガラス強化エポキシ基板の間に金属片を挿入し、CSPを持ち上げることによって、CSPは容易に取り外すことができた。
【0081】
本発明の全範囲は、特許請求の範囲によって判定される。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【
図1】本発明の熱硬化性樹脂組成物が使用された半導体デバイスの一例を示す横断面図である。
【
図2】修理の目的で回路基板から取り外された半導体デバイスの横断面図である。
【
図3】本発明の熱硬化性樹脂組成物が使用された半導体フリップチップアセンブリの一例を示す横断面図である。
【
図4】半導体デバイスを、取り付けられていた回路基板から取り外すために、本発明による硬化した熱硬化性樹脂組成物をリワークするのに有用な手順の流れ図である。
【
図5】NANOPOX Eの粒子分布を示す図である。