【0018】
(8)上記(1)に記載のプラズマアーク多層盛溶接方法に用いる前記磁性体(3)に磁界を印加する電磁コイル(2);
前記電磁コイル(2)に流す電流値(E)を指定する励磁電流設定器(15),オシレート有無を指定するパターン指定手段(21),オシレート周波数を指定するオシレート周波数設定手段(F,22)およびオシレートパルス幅を指定するオシレートパルス幅設定手段(G,23)を含む励磁設定手段(41);および、
前記励磁電流設定器(15)が指定する電流値(E)に対応する電流を前記電磁コイル(2)に通電し、前記パターン指定手段(21)がオシレート有を指定するときは前記パターン指定手段(22,23)が指定する態様で前記電磁コイル(2)に通電する電流をオシレートし、オシレート無を指定するときは前記電磁コイル(2)に定電流連続通電する通電制御手段(42);を備え、
前記通電制御手段(42)は、前記電磁コイル(2)の通電パターンを、前記励磁電流設定器(15)が指定する電流値(E),前記パターン指定手段(21)のオシレート有無指定,前記オシレート周波数設定手段(F,22)が指定したオシレート周波数の周期(F)、および、前記オシレートパルス幅設定手段(G,23)の指定パルス幅(G)、の組合せで決定する二次ドライバ(24);を含み、
前記二次ドライバ(24)は、オシレートパルス幅設定手段(G,23)の指定パルス幅Gが100%(G=最高値)であり、前記パターン指定手段(21)がオシレート無指定で
オシレートパターン切替スイッチを「N」又は「S」
に指定の場合は、前記電磁コイル(2)の通電パターンを、プラズマアークを左壁面に偏向させる正方向又は右壁面に偏向させる負方向の連続通電とし(
図5の(a)又は(b),
図6の(a)又は(b))、
前記二次ドライバ(24)は、オシレートパルス幅設定手段(G,23)の指定パルス幅Gが1〜99%であり、前記パターン指定手段(21)がオシレート有指定で
オシレートパターン切替スイッチを「N」又は「S」
に指定の場合は、前記電磁コイル(2)の通電パターンを、プラズマアークを左壁面または右壁面と開先底部間を揺動するとに偏向させる正方向又は負方向の間断通電とする(
図5の(b)又は(d),
図6の(c)又は(d))、
プラズマアーク多層盛溶接に用いる磁性体励磁装置。
【実施例】
【0021】
図1に本発明のプラズマアーク溶接方法に用いるプラズマ溶接装置例の概要を示す。1はプラズマトーチで、その近傍に電磁コイル2、磁性体3、ワイヤガイド4を備えている。プラズマトーチ1はシールドノズル5からシールドガスを供給しながら、ノズル6から被加工材7へプラズマアーク8を発生させ、該プラズマアーク中にワイヤガイド4を介してワイヤ9を供給し、被加工材7の開先内に溶接金属10を形成する。プラズマトーチ1の側方に配置された磁性体3の先端は、プラズマトーチ1と被加工材7との間のプラズマアークに磁界26(
図4)を与えるようにプラズマトーチ1の下端部に突出している。磁性体3が該磁界26を発生するように、磁性体3に巻回された電磁コイル2が通電される。なお、磁性体3は本実施例ではフェライト鋼を用いたものであるが、その他の磁性体を用いることもできるが、電磁石コアとしての特性が良く耐熱性が高いものが好ましい。
【0022】
図2に、
図1に示すプラズマトーチ1の先端部と、該トーチ1に給電する溶接電源回路の概要を示す。プラズマトーチ1と溶接電源回路との組み合わせに係るプラズマアーク溶接装置は公知のものであり、既に説明したので、ここでの再度の記述は省略する。
【0023】
図3に、
図1に示す電磁コイル2に通電する電気回路の概要を示す。交流電源11から電源開閉器12を通して供給される電力は、一次側整流器13で直流に変換されて通電制御回路42の、IGBTによるフルブリッジ構成の一次インバータ14に供給される。なお、電源開閉器12は電源遮断器の機能もあり、過電流を検出すると給電を遮断する。
【0024】
一次インバータ14では、励磁設定回路41の励磁電流設定器15および通電制御回路42の電流検出器16から送られる電流指示値(目標電流値E)およびフィードバック値との比較機能がある一次ドライバ17からの制御信号(PWMパルス)に合わせて直流電流を高周波でチョッピングする。すなわち、一次ドライバ17が一次インバータ14を、電磁コイル2の電流値を目標電流値EとなるようにPWM制御する。
【0025】
この時の励磁電流設定器15の目標電流値Eがプラズマアーク8の偏向角度θ(
図6)に反映される。その後インバータトランス18で変圧が行われ、二次側整流器19で再度直流電流に整流されて電流検出器16を通って、二次インバータ20に流れる。この時、電流検出器16で検出された励磁電流が一次ドライバ17にフィードバックされる。二次ドライバ24が、パターン指定手段であるオシレートパターン切替スイッチ21,周波数設定器22およびパルス幅設定器23からのパターン指定信号,周波数の周期信号Fおよびパルス幅信号Gに基づいてオシレートパターン制御信号を生成して二次インバータ20に与える。二次インバータ20まで流れてきた直流電流は、IGBTによるハーフブリッジ構成の二次インバータ20によって、オシレートパターン制御信号に基づいて交流,脈流に逆変換される。この時、周波数設定器22の指定周波数の周期Fは電流波形の1サイクルの時間(周期)を定め、パルス幅設定器23の指定パルス幅Gは、1サイクル内のパルス通電のパルス幅を定める。このパルス幅Gは、プラズマアーク8の揺動端部での停止時間となる。このように変換された電流が、電磁コイル2へ流れて磁界26(
図4)を発生する。
【0026】
図4を参照して、磁性体3からプラズマアーク8に磁界を印加してプラズマアークの指向方向をコントロールする原理を説明する。プラズマアーク8は、
図2に示す被加工材7からノズル6に向かって流れる電流であり、該電流によって磁界25がノズル6方向から見て反時計回り方向にできる(
図4の(a))。この磁界25に、電磁コイル2への通電により磁性体3の先端がN極となる磁界26が作用すると、磁性体3方向から見て右側の磁界25は磁性体からの磁界26によって強められ、左側の磁界25は磁性体からの磁界26によって弱められる(
図4の(b))。したがって、プラズマアーク8はフレミングの左手の法則により磁性体3方向から見て左側に偏向する(
図4の(c))。逆に電磁コイル2への通電極性を切換えて逆方向の磁界をプラズマアーク8に印加すると、プラズマアーク8は、磁性体3方向から見て右側に偏向する。
【0027】
電磁コイル2への電流の流し方すなわち通電パターンは、二次ドライバ24が、
図3の励磁電流設定器15の目標電流値E,オシレートパターン切替スイッチ21の選択位置,周波数設定器22の指定周波数の周期F、および、パルス幅設定器23の指定パルス幅G、以上の4要素の組合せで決定する。実際のプラズマアーク8の偏向および揺動パターンは、オシレートパターン切替スイッチ21の選択位置とパルス幅設定器23の指定パルス幅Gの2要素で設定する。
【0028】
パルス幅設定器23に指定パルス幅Gが入力されていない状態(G=0;デューティ0%)か、オシレートパターン切替スイッチ
21が「止」に設定されている場合は、二次ドライバ24が二次インバータ20に与える制御信号は通電停止を指示するものとなって、プラズマアーク8は、被加工材7に直行したアークになる。すなわちプラズマアーク8は偏向しない。
【0029】
パルス幅設定器23の指定パルス幅Gが100%(G=最高値)であり、オシレートパターン切替スイッチ21が「N」位置の場合の電磁コイル2の電流波形は、
図5の(a)のようになり、プラズマアーク8は磁性体3方向から見て(以下同じ)
図6(a)のように左側の開先壁面方向に偏向する。
【0030】
パルス幅設定器23の指定パルス幅Gが100%であり、オシレートパターン切替スイッチ21が「S」位置の場合の電磁コイルの電流波形は
図5の(b)のようになり、プラズマアーク8は
図6の(b)のように右側の開先壁面方向に偏向する。
【0031】
パルス幅設定器23の指定パルス幅Gが1〜99%であり、オシレートパターン切替スイッチ21が「N」位置の場合の電磁コイルの電流波形は
図5の(c)のようになり、プラズマアーク8は
図6の(c)のように左側の開先壁面と開先底部間を揺動する。
【0032】
パルス幅設定器23の指定パルス幅Gが1〜99%であり、オシレートパターン切替スイッチ21が「S」の場合の電磁コイルの電流波形は
図5の(d)のようになり、プラズマアーク8は
図6の(d)のように右側の開先壁面と開先底部間を揺動する。
【0033】
オシレートパターン切替スイッチ21が「N⇔S」位置の場合、パルス幅設定器23の指定パルス幅Gは強制的に50%になる。電流の波形は
図5の(e)のようになり、プラズマアーク8は
図6の(e)のように左側の開先壁面と右側の開先壁面間を揺動する。
【0034】
パルス幅設定器23の指定パルス幅Gが1〜99%であり、オシレートパターン切替スイッチ21が「N⇔止⇔S」位置の場合の電磁コイルの電流波形は
図5の(f)のようになり、プラズマアーク8は
図6の(f)のように開先底部で停止しながら左側の開先壁面と右側の開先壁面間を揺動する。
【0035】
なお、これらの場合の溶接ワイヤ9の狙い位置は、プラズマアークが開先壁面へ偏向する場合、
図6の(a),(b)に示すようにプラズマアークの中心を狙うように設定し、左側または右側の開先壁面と開先底部間を揺動する場合は、
図6の(c),(d)に示すように端部停止時間の長いほうのアークの中心を狙い、左側の開先壁面と右側の開先壁面間および開先底部で停止しながら左側の開先壁面と右側の開先壁面間を揺動する場合は、
図6の(e),(f)に示すようにトーチ中心下を狙うように設定する。
【0036】
図1に示すプラズマ溶接装置を用いて、被加工材7としてSUS304鋼板の板厚15mmを、U型開先、ルート3mm、ルート半径5mm、および、開先角度15°、に機械加工した開先を、ルートギャップ0mmに組み立てて溶接をした。その主な溶接条件を表1に示す。なお、溶接方向は
図1に矢印で示す方向(y)で行い、磁性体3の板厚Aは7mm、ノズル6のノズル孔から磁性体3までの距離Bを12mm、ノズル6先端と磁性体3の高低差Dを0.2mmで行った。
【0037】
【表1】
【0038】
初層の溶接はプラズマキーホール溶接で片面裏波溶接を行い、均一で良好な裏波ビードと表ビード形状を得ることができた。
【0039】
多層盛溶接は、開先側面の溶け残しによる融合不良を無くすために
図7の(a)〜(h)に示すように振分け多層盛溶接をした。また、アークを揺動させた時のワイヤ9の狙い位置も
図7の(a)〜(h)に示す。
【0040】
まず、一層目の溶接は、励磁設定回路41のパルス幅設定器23の指定パルス幅Gを「100%」にし、オシレート切替スイッチ21を「N」位置に設定してアークを開先壁面側に偏向させて
図7の(a)に示すように溶接を行った。オシレートをしていないため熱が集中してビード形状はやや凸形状になったが溶接金属10に傾斜をつけていることと、次パスの溶接でオシレート切替スイッチ21を「S」位置に切り替えて反対側へアークを偏向させて
図7の(b)に示すように振分け溶接を行うことによって溶接不良が起こらないようにした。結果、溶接不良が無く均一で良好なビード形状が得られた。
【0041】
次層の溶接も
図7の(c),(d)のように前層と同一条件で溶接した結果、溶接不良が無く均一で良好なビード形状が得られた。このように、開先内の下方部は、被加工材7の開先内の左右壁面の一方と他方に前記プラズマアークの指向方向を定めた溶接パスを交互に繰り返すことによって、溶接不良が無く均一で良好なビード形状が得られる。
【0042】
3層目は、開先の幅が広くなったので、周波数設定器22に溶接速度に合わせた周波数の周期Fを入力し、開先形状に合わせてパルス幅設定器23の指定パルス幅Gを入力し、オシレート切替スイッチ21を「N」位置に切り替えてアークを揺動して溶接した。結果、
図7の(e)に示すように幅広の凹ビードを形成することができた。
【0043】
3層目の2パス目は、オシレート切替スイッチ21を「S」位置に切り替えてアークを揺動して溶接した。その結果、
図7の(f)に示すように幅広の凹ビードを得ることができた。
【0044】
最終層の1パス目の溶接は、融合不良を防ぐために
図7の(g)に示すようにプラズマトーチを開先の淵側へ若干寄せて、オシレート切替スイッチ21を「S⇔N」位置に切り替えて、アークを揺動させてビード幅が広くなるように溶接を行った。
【0045】
また、最終パスは、
図7の(h)に示すように前層と最終層1パス目の谷部を中心として、オシレート切替スイッチ
21を「S⇔止⇔N」位置に切り替えて、アークの揺動を中央部で停止しながら揺動させて、該谷部を十分溶かすと共にビード幅が広くなるように溶接を行った。その結果、
図7の(h)に示すような良好なビード形状が得られた。このように、開先内の上方部は、被加工材7の開先内の左右壁面の一方と他方に前記プラズマアークの指向方向を定めかつプラズマアークを開先幅方向にオシレートする溶接パスを交互に繰り返すことによって、良好なビード形状が得られる。
【0046】
この実施例で溶接を行った被加工材(試験体)に対して、X線試験およびマクロ試験を行って溶接領域を観察したが、ブローホールやピット、融合不良等の溶接欠陥は皆無であった。