特許第5721205号(P5721205)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5721205プラズマアーク多層盛溶接方法およびプラズマアーク多層盛溶接に用いる磁性体励磁装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5721205
(24)【登録日】2015年4月3日
(45)【発行日】2015年5月20日
(54)【発明の名称】プラズマアーク多層盛溶接方法およびプラズマアーク多層盛溶接に用いる磁性体励磁装置
(51)【国際特許分類】
   B23K 10/02 20060101AFI20150430BHJP
   B23K 10/00 20060101ALI20150430BHJP
   B23K 9/08 20060101ALN20150430BHJP
【FI】
   B23K10/02 A
   B23K10/00 502B
   !B23K9/08 C
【請求項の数】9
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2010-30384(P2010-30384)
(22)【出願日】2010年2月15日
(65)【公開番号】特開2011-161509(P2011-161509A)
(43)【公開日】2011年8月25日
【審査請求日】2012年6月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】302040135
【氏名又は名称】日鐵住金溶接工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100076967
【弁理士】
【氏名又は名称】杉信 興
(72)【発明者】
【氏名】菅 原 ひろき
(72)【発明者】
【氏名】星 野 忠
【審査官】 青木 正博
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭53−142347(JP,A)
【文献】 特開平04−288973(JP,A)
【文献】 特開平07−040053(JP,A)
【文献】 特開平03−005081(JP,A)
【文献】 特開昭62−118975(JP,A)
【文献】 特開昭62−038768(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 9/00−10/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
開先内の底部では、プラズマトーチと被加工材との間のプラズマアークを左壁面に偏向させる磁界をプラズマトーチのノズル近傍に配置した磁性体を介してプラズマアークに連続して印加する左偏向の溶接パスと、右壁面にプラズマアークを偏向させる磁界をプラズマアークに連続して印加する右偏向の溶接パスとを、交互に行い、
開先内の上部では、プラズマトーチと被加工材との間のプラズマアークを左壁面に偏向させる磁界をプラズマトーチのノズル近傍に配置した磁性体を介してプラズマアークに間断して印加する左偏向のオシレート溶接パスと、右壁面は右壁面にプラズマアークを偏向させる磁界をプラズマアークに間断して印加する右偏向のオシレート溶接パスとを、交互に行う、
プラズマアーク多層盛溶接方法。
【請求項2】
開先内の底部の前記左偏向の溶接パスと前記右偏向の溶接パスにおいて、溶接ワイヤの狙い位置はプラズマアークが当たる壁面位置とする、請求項1に記載のプラズマアーク多層盛溶接方法。
【請求項3】
開先部の上部の前記左偏向のオシレート溶接パスと前記右偏向のオシレート溶接パスにおいて、溶接ワイヤの狙い位置は、前記磁界の間断によるオシレートの交互折り返し位置のうち、プラズマアークの滞留時間が長くなる方とする、請求項1又は2に記載のプラズマアーク多層盛溶接方法。
【請求項4】
初層の溶接はプラズマキーホール溶接で片面裏波溶接を行う、請求項1乃至3のいずれか1つに記載のプラズマアーク多層盛溶接方法。
【請求項5】
最終層の左壁面はプラズマトーチを開先の左淵側へ寄せて、プラズマトーチと被加工材との間のプラズマアークを左壁面に偏向させる磁界と逆方向に偏向させる磁界をプラズマトーチのノズル近傍に配置した磁性体を介してプラズマアークに交互に印加する左側オシレート溶接パスで、最終層の右壁面はプラズマトーチを開先の右淵側へ寄せて、プラズマトーチと被加工材との間のプラズマアークを右壁面に偏向させる磁界と逆方向に偏向させる磁界をプラズマトーチのノズル近傍に配置した磁性体を介してプラズマアークに交互に印加する右側オシレート溶接パスで、溶接する請求項1乃至4のいずれか1つに記載のプラズマアーク多層盛溶接方法。
【請求項6】
最終層の最後の溶接パスでは、前記磁界を開先壁面に偏向させるものから逆方向に偏向させるものに、またその逆に切替えるとき、磁界の印加を一時停止する、請求項5に記載のプラズマアーク多層盛溶接方法。
【請求項7】
最終層の溶接パスでは、溶接ワイヤの狙い位置はプラズマトーチのトーチ中心下である、請求項5又は6に記載のプラズマアーク多層盛溶接方法。
【請求項8】
請求項1に記載のプラズマアーク多層盛溶接方法に用いる前記磁性体に磁界を印加する電磁コイル;
前記電磁コイルに流す電流値を指定する励磁電流設定器,オシレート有無を指定するパターン指定手段,オシレート周波数を指定するオシレート周波数設定手段およびオシレートパルス幅を指定するオシレートパルス幅設定手段を含む励磁設定手段;および、
前記励磁電流設定器が指定する電流値に対応する電流を前記電磁コイルに通電し、前記パターン指定手段がオシレート有を指定するときは前記パターン指定手段が指定する態様で前記電磁コイルに通電する電流をオシレートし、オシレート無を指定するときは前記電磁コイルに定電流連続通電する通電制御手段;を備え、
前記通電制御手段は、前記電磁コイルの通電パターンを、前記励磁電流設定器が指定する電流値,前記パターン指定手段のオシレート有無指定,前記オシレート周波数設定手段が指定したオシレート周波数の周期、および、前記オシレートパルス幅設定手段の指定パルス幅、の組合せで決定する二次ドライバ;を含み、
前記二次ドライバは、オシレートパルス幅設定手段の指定パルス幅Gが100%であり、前記パターン指定手段がオシレート無指定でオシレートパターン切替スイッチを「N」又は「S」指定の場合は、前記電磁コイルの通電パターンを、プラズマアークを左壁面に偏向させる正方向又は右壁面に偏向させる負方向の連続通電とし、
前記二次ドライバは、オシレートパルス幅設定手段の指定パルス幅Gが1〜99%であり、前記パターン指定手段がオシレート有指定でオシレートパターン切替スイッチを「N」又は「S」指定の場合は、前記電磁コイルの通電パターンを、プラズマアークを左壁面または右壁面と開先底部間を揺動するとに偏向させる正方向又は負方向の間断通電とする、
プラズマアーク多層盛溶接に用いる磁性体励磁装置。
【請求項9】
前記二次ドライバは、前記パターン指定手段がオシレート有指定でオシレートパターン切替スイッチを「N⇔S」に指定の場合は、前記電磁コイルの通電パターンを、プラズマアークが左壁面と右壁面間を揺動する正方向と負方向の交互通電とし、オシレートパターン切替スイッチを「N⇔止⇔S」に指定の場合は、前記電磁コイルの通電パターンを、プラズマアークが左壁面と右壁面間を揺動する正方向と負方向の交互通電かつ方向の切替わりのとき一時停止とする、請求項8に記載の、プラズマアーク多層盛溶接に用いる磁性体励磁装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマアーク溶接に関し、特に、アークによる溶接範囲が広いプラズマアーク溶接に関する。本発明は、これに限定する意図ではないが、狭開先形状の多層盛溶接に好適である。
【背景技術】
【0002】
図2に、本発明の一実施例で用いた、従来公知のプラズマ溶接装置の概要を示す。1はプラズマトーチで、電極27,ノズル6を備え、電極27とノズル6との間からプラズマガスを、またノズル6とシールドノズル5との間からシールドガスを噴出する。28はメインアーク用の直流電源、29はパイロットアーク用の直流電源である。30は高周波電源でカップリングトランスTを介して高周波電圧を電極27に印加する。メインアーク用の直流電源28は被加工材7と電極27の間に、またパイロットアーク用の直流電源29はノズル6と電極27の間に電圧を印加してメインアーク電流Im,パイロットアーク電流Ipを供給する。プラズマトーチ1にプラズマガスを供給しそして高周波電源30とパイロットアーク用の直流電源29により電極27とノズル6との間にパイロットアークを発生させ、プラズマトーチ1を被加工材7に接近させ、メインアーク用直流電源28により電極27と被加工材7との間にプラズマアークを発生させる。なお、図中Cは高周波電流のバイパスコンデンサである。図2に示すプラズマトーチ1を用いて、溶接する場合例えば特許文献1,特許文献2および特許文献3に開示されているように、プラズマアーク溶接の特徴である深い溶け込みが得られることを利用したプラズマキーホール溶接で1パス裏波溶接することが、一般に行われている。
【0003】
一方、プラズマアークにワイヤを供給しながら行う多層盛溶接は、特許文献4や特許文献5に開示があり、これらには、Y型開先として初層をプラズマキーホール溶接で裏波溶接した後に開先角度が60〜90°の広い開先内を数パス多層盛する技術の開示がある。
【0004】
しかし、厚板のU型開先部をプラズマアーク溶接で多層盛溶接する場合は、プラズマトーチのノズル孔から噴出したプラズマアークが収束硬直したアークのため指向方向が高く、且つ、プラズマトーチのノズル6は水冷を行っているため外径が大きく、図8の(a)に示すようにプラズマトーチを傾けての溶接が行い難く、溶接金属10が開先内の中央に寄って凸ビードの形状になる。図8の(b)に示すように機械的にプラズマトーチをオシレートしても、U型の狭い開先ではプラズマトーチの移動自由度が低いので、プラズマアークが被加工材7に対して垂直に近い角度でしか溶接できず、その結果、溶接金属10が凸状のビード形状となる。また、厚板のU型開先の中でプラズマトーチをオシレートするとプラズマトーチ1先端のノズル6が被加工材7の開先に接触し、シリーズアークが発生するという問題もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8−25046号公報
【特許文献2】特開2002−59266号号公報
【特許文献3】特開2005−111539号公報
【特許文献4】特開平7−16753号公報
【特許文献5】特開2002−224836号公報。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、アークによる溶接範囲が広いプラズマアーク溶接を行うことを第1の目的とし、融合不良等の溶接欠陥を生じない厚板狭開先多層盛溶接を行うことを第2の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)開先内の底部では、プラズマトーチと被加工材との間のプラズマアークを左壁面に偏向させる磁界をプラズマトーチのノズル近傍に配置した磁性体を介してプラズマアークに連続して印加する左偏向の溶接パス(図5の(a),図6の(a),図7の(a),(c))と、右壁面にプラズマアークを偏向させる磁界をプラズマアークに連続して印加する右偏向の溶接パス(図5の(b),図6の(b),図7の(b),(d))とを、交互に行い、
開先内の上部では、プラズマトーチと被加工材との間のプラズマアークを左壁面に偏向させる磁界をプラズマトーチのノズル近傍に配置した磁性体を介してプラズマアークに間断して印加する左偏向のオシレート溶接パス(図5の(c),図6の(c),図7の(e))と、右壁面にプラズマアークを偏向させる磁界をプラズマアークに間断して印加する右偏向のオシレート溶接パス(図5の(d),図6の(d),図7の(f))とを、交互に行う、
プラズマアーク多層盛溶接方法。
【0008】
なお、理解を容易にするために括弧内には、後述する実施例の対応事項を表す図面の図番を、例示として参考までに付記した。以下も同様である。
【発明の効果】
【0009】
本発明のプラズマアーク溶接方法によれば、プラズマトーチのノズル近傍に磁性体を配置して電磁コイルによって磁化し、該電磁コイルに流す電流によって、プラズマアークの指向方向を制御するので、例えば厚板狭開先多層盛溶接においても、プラズマトーチの位置や姿勢を溶接中に変更することなく、電磁コイルに流す電流の極性および又は値の変更によって、狭開先内の広範囲に亘ってプラズマアークを指向させることができ、開先壁部に発生し易い融合不良等の溶接欠陥を防止できる。また、プラズマトーチ自体を溶接中に揺動しなくても、狭開先形状内の所望位置を溶接することができ、ワイヤの使用量および溶接時間の大幅な低減が図れ、低コストで溶接作業性を大きく向上させることができる。
【0010】
具体的には、開先内の底部は、被加工材7の開先内の左右壁面の一方と他方に前記プラズマアークの指向方向を定めた溶接パスを交互に繰り返すことによって、溶接不良が無く均一で良好なビード形状が得られる。開先内の上部は、被加工材7の開先内の左右壁面の一方と他方に前記プラズマアークの指向方向を定めかつプラズマアークを開先幅方向にオシレートする溶接パスを交互に繰り返すことによって、良好なビード形状が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明のプラズマアーク溶接方法に用いるプラズマ溶接装置の例を示す概略図である。
図2】プラズマトーチの断面図である。
図3】本発明のプラズマアーク溶接方法に用いる電磁コイルの制御回路の例を示す図である。
図4】(a)、(b)、(c)プラズマアークへ磁化された磁性体を近づけてアークの指向方向をコントロールする原理を示す図である。
図5】(a)、(b)、(c)、(d)、(e)、(f)電磁コイルの電流波形を示す図である。
図6】(a)、(b)、(c)、(d)、(e)、(f)電磁コイルによって磁化された磁性体によってプラズマアークの指向方向を種々コントロールする例を示す図である。
図7】(a)、(b)、(c)、(d)、(e)、(f)、(g)、(h)本発明の実施例におけるプラズマアークの偏向、揺動、ワイヤの狙い位置および溶接の積層を示す図である。
図8】(a)、(b)プラズマトーチを傾けて溶接(a)およびプラズマトーチを揺動して溶接(b)した場合の溶接金属のビード形状を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(2)開先内の底部の前記左偏向の溶接パスと前記右偏向の溶接パスにおいて、溶接ワイヤの狙い位置はプラズマアークが当たる壁面位置とする、上記(1)に記載のプラズマアーク多層盛溶接方法。
【0013】
(3)開先部の上部の前記左偏向のオシレート溶接パスと前記右偏向のオシレート溶接パスにおいて、溶接ワイヤの狙い位置は、前記磁界の間断によるオシレートの交互折り返し位置のうち、プラズマアークの滞留時間が長くなる方とする、上記(1)又は(2)に記載のプラズマアーク多層盛溶接方法。
【0014】
(4)初層の溶接はプラズマキーホール溶接で片面裏波溶接を行う、上記(1)乃至(3)のいずれか1つに記載のプラズマアーク多層盛溶接方法。これによれば、均一で良好な裏波ビードと表ビード形状を得ることができる。
【0015】
(5)最終層の左壁面はプラズマトーチを開先の左淵側へ寄せて、プラズマトーチと被加工材との間のプラズマアークを左壁面に偏向させる磁界と逆方向に偏向させる磁界をプラズマトーチのノズル近傍に配置した磁性体を介してプラズマアークに交互に印加する左側オシレート溶接パス(図5の(e),図7の(g))で、最終層の右壁面はプラズマトーチを開先の右淵側へ寄せて、プラズマトーチと被加工材との間のプラズマアークを右壁面に偏向させる磁界と逆方向に偏向させる磁界をプラズマトーチのノズル近傍に配置した磁性体を介してプラズマアークに交互に印加する右側オシレート溶接パス(図5の(e),図7の(h))で、溶接する上記(1)乃至(4)のいずれか1つに記載のプラズマアーク多層盛溶接方法。これによれば、最終層と開先壁面との溶融が良好になりしかも最終層のビード幅が広くなる。
【0016】
(6)最終層の最後の溶接パスでは、前記磁界を開先壁面に偏向させるものから逆方向に偏向させるものに、またその逆に切替えるとき、磁界の印加を一時停止する(図5の(f),図7の(h))、上記(5)に記載のプラズマアーク多層盛溶接方法。これによれば、最後の溶接パスに先行した溶接パスのビードの淵に生じた谷部が十分溶けると共にビード幅が広くなって、良好な表面ビード形状が得られる。
【0017】
(7)最終層の溶接パスでは、溶接ワイヤの狙い位置はプラズマトーチのトーチ中心下である、上記(5)又は(6)に記載のプラズマアーク多層盛溶接方法。
【0018】
(8)上記(1)に記載のプラズマアーク多層盛溶接方法に用いる前記磁性体(3)に磁界を印加する電磁コイル(2);
前記電磁コイル(2)に流す電流値(E)を指定する励磁電流設定器(15),オシレート有無を指定するパターン指定手段(21),オシレート周波数を指定するオシレート周波数設定手段(F,22)およびオシレートパルス幅を指定するオシレートパルス幅設定手段(G,23)を含む励磁設定手段(41);および、
前記励磁電流設定器(15)が指定する電流値(E)に対応する電流を前記電磁コイル(2)に通電し、前記パターン指定手段(21)がオシレート有を指定するときは前記パターン指定手段(22,23)が指定する態様で前記電磁コイル(2)に通電する電流をオシレートし、オシレート無を指定するときは前記電磁コイル(2)に定電流連続通電する通電制御手段(42);を備え、
前記通電制御手段(42)は、前記電磁コイル(2)の通電パターンを、前記励磁電流設定器(15)が指定する電流値(E),前記パターン指定手段(21)のオシレート有無指定,前記オシレート周波数設定手段(F,22)が指定したオシレート周波数の周期(F)、および、前記オシレートパルス幅設定手段(G,23)の指定パルス幅(G)、の組合せで決定する二次ドライバ(24);を含み、
前記二次ドライバ(24)は、オシレートパルス幅設定手段(G,23)の指定パルス幅Gが100%(G=最高値)であり、前記パターン指定手段(21)がオシレート無指定でオシレートパターン切替スイッチを「N」又は「S」指定の場合は、前記電磁コイル(2)の通電パターンを、プラズマアークを左壁面に偏向させる正方向又は右壁面に偏向させる負方向の連続通電とし(図5の(a)又は(b),図6の(a)又は(b))、
前記二次ドライバ(24)は、オシレートパルス幅設定手段(G,23)の指定パルス幅Gが1〜99%であり、前記パターン指定手段(21)がオシレート有指定でオシレートパターン切替スイッチを「N」又は「S」指定の場合は、前記電磁コイル(2)の通電パターンを、プラズマアークを左壁面または右壁面と開先底部間を揺動するとに偏向させる正方向又は負方向の間断通電とする(図5の(b)又は(d),図6の(c)又は(d))、
プラズマアーク多層盛溶接に用いる磁性体励磁装置。
【0019】
(9)前記二次ドライバ(24)は、前記パターン指定手段(21)がオシレート有指定でオシレートパターン切替スイッチを「N⇔S」指定の場合は、前記電磁コイル(2)の通電パターンを、プラズマアークが左壁面と右壁面間を揺動する正方向と負方向の交互通電とし(図5の(e),図6の(e))、オシレートパターン切替スイッチを「N⇔止⇔S」指定の場合は、前記電磁コイル(2)の通電パターンを、プラズマアークが左壁面と右壁面間を揺動する正方向と負方向の交互通電かつ方向の切替わりのとき一時停止とする(図5の(f),図6の(f))、上記(8)に記載の、プラズマアーク多層盛溶接に用いる磁性体励磁装置。
【0020】
本発明の他の目的および特徴は、図面を参照した以下の実施例の説明より明らかになろう。
【実施例】
【0021】
図1に本発明のプラズマアーク溶接方法に用いるプラズマ溶接装置例の概要を示す。1はプラズマトーチで、その近傍に電磁コイル2、磁性体3、ワイヤガイド4を備えている。プラズマトーチ1はシールドノズル5からシールドガスを供給しながら、ノズル6から被加工材7へプラズマアーク8を発生させ、該プラズマアーク中にワイヤガイド4を介してワイヤ9を供給し、被加工材7の開先内に溶接金属10を形成する。プラズマトーチ1の側方に配置された磁性体3の先端は、プラズマトーチ1と被加工材7との間のプラズマアークに磁界26(図4)を与えるようにプラズマトーチ1の下端部に突出している。磁性体3が該磁界26を発生するように、磁性体3に巻回された電磁コイル2が通電される。なお、磁性体3は本実施例ではフェライト鋼を用いたものであるが、その他の磁性体を用いることもできるが、電磁石コアとしての特性が良く耐熱性が高いものが好ましい。
【0022】
図2に、図1に示すプラズマトーチ1の先端部と、該トーチ1に給電する溶接電源回路の概要を示す。プラズマトーチ1と溶接電源回路との組み合わせに係るプラズマアーク溶接装置は公知のものであり、既に説明したので、ここでの再度の記述は省略する。
【0023】
図3に、図1に示す電磁コイル2に通電する電気回路の概要を示す。交流電源11から電源開閉器12を通して供給される電力は、一次側整流器13で直流に変換されて通電制御回路42の、IGBTによるフルブリッジ構成の一次インバータ14に供給される。なお、電源開閉器12は電源遮断器の機能もあり、過電流を検出すると給電を遮断する。
【0024】
一次インバータ14では、励磁設定回路41の励磁電流設定器15および通電制御回路42の電流検出器16から送られる電流指示値(目標電流値E)およびフィードバック値との比較機能がある一次ドライバ17からの制御信号(PWMパルス)に合わせて直流電流を高周波でチョッピングする。すなわち、一次ドライバ17が一次インバータ14を、電磁コイル2の電流値を目標電流値EとなるようにPWM制御する。
【0025】
この時の励磁電流設定器15の目標電流値Eがプラズマアーク8の偏向角度θ(図6)に反映される。その後インバータトランス18で変圧が行われ、二次側整流器19で再度直流電流に整流されて電流検出器16を通って、二次インバータ20に流れる。この時、電流検出器16で検出された励磁電流が一次ドライバ17にフィードバックされる。二次ドライバ24が、パターン指定手段であるオシレートパターン切替スイッチ21,周波数設定器22およびパルス幅設定器23からのパターン指定信号,周波数の周期信号Fおよびパルス幅信号Gに基づいてオシレートパターン制御信号を生成して二次インバータ20に与える。二次インバータ20まで流れてきた直流電流は、IGBTによるハーフブリッジ構成の二次インバータ20によって、オシレートパターン制御信号に基づいて交流,脈流に逆変換される。この時、周波数設定器22の指定周波数の周期Fは電流波形の1サイクルの時間(周期)を定め、パルス幅設定器23の指定パルス幅Gは、1サイクル内のパルス通電のパルス幅を定める。このパルス幅Gは、プラズマアーク8の揺動端部での停止時間となる。このように変換された電流が、電磁コイル2へ流れて磁界26(図4)を発生する。
【0026】
図4を参照して、磁性体3からプラズマアーク8に磁界を印加してプラズマアークの指向方向をコントロールする原理を説明する。プラズマアーク8は、図2に示す被加工材7からノズル6に向かって流れる電流であり、該電流によって磁界25がノズル6方向から見て反時計回り方向にできる(図4の(a))。この磁界25に、電磁コイル2への通電により磁性体3の先端がN極となる磁界26が作用すると、磁性体3方向から見て右側の磁界25は磁性体からの磁界26によって強められ、左側の磁界25は磁性体からの磁界26によって弱められる(図4の(b))。したがって、プラズマアーク8はフレミングの左手の法則により磁性体3方向から見て左側に偏向する(図4の(c))。逆に電磁コイル2への通電極性を切換えて逆方向の磁界をプラズマアーク8に印加すると、プラズマアーク8は、磁性体3方向から見て右側に偏向する。
【0027】
電磁コイル2への電流の流し方すなわち通電パターンは、二次ドライバ24が、図3の励磁電流設定器15の目標電流値E,オシレートパターン切替スイッチ21の選択位置,周波数設定器22の指定周波数の周期F、および、パルス幅設定器23の指定パルス幅G、以上の4要素の組合せで決定する。実際のプラズマアーク8の偏向および揺動パターンは、オシレートパターン切替スイッチ21の選択位置とパルス幅設定器23の指定パルス幅Gの2要素で設定する。
【0028】
パルス幅設定器23に指定パルス幅Gが入力されていない状態(G=0;デューティ0%)か、オシレートパターン切替スイッチ21が「止」に設定されている場合は、二次ドライバ24が二次インバータ20に与える制御信号は通電停止を指示するものとなって、プラズマアーク8は、被加工材7に直行したアークになる。すなわちプラズマアーク8は偏向しない。
【0029】
パルス幅設定器23の指定パルス幅Gが100%(G=最高値)であり、オシレートパターン切替スイッチ21が「N」位置の場合の電磁コイル2の電流波形は、図5の(a)のようになり、プラズマアーク8は磁性体3方向から見て(以下同じ)図6(a)のように左側の開先壁面方向に偏向する。
【0030】
パルス幅設定器23の指定パルス幅Gが100%であり、オシレートパターン切替スイッチ21が「S」位置の場合の電磁コイルの電流波形は図5の(b)のようになり、プラズマアーク8は図6の(b)のように右側の開先壁面方向に偏向する。
【0031】
パルス幅設定器23の指定パルス幅Gが1〜99%であり、オシレートパターン切替スイッチ21が「N」位置の場合の電磁コイルの電流波形は図5の(c)のようになり、プラズマアーク8は図6の(c)のように左側の開先壁面と開先底部間を揺動する。
【0032】
パルス幅設定器23の指定パルス幅Gが1〜99%であり、オシレートパターン切替スイッチ21が「S」の場合の電磁コイルの電流波形は図5の(d)のようになり、プラズマアーク8は図6の(d)のように右側の開先壁面と開先底部間を揺動する。
【0033】
オシレートパターン切替スイッチ21が「N⇔S」位置の場合、パルス幅設定器23の指定パルス幅Gは強制的に50%になる。電流の波形は図5(e)のようになり、プラズマアーク8は図6の(e)のように左側の開先壁面と右側の開先壁面間を揺動する。
【0034】
パルス幅設定器23の指定パルス幅Gが1〜99%であり、オシレートパターン切替スイッチ21が「N⇔止⇔S」位置の場合の電磁コイルの電流波形は図5の(f)のようになり、プラズマアーク8は図6の(f)のように開先底部で停止しながら左側の開先壁面と右側の開先壁面間を揺動する。
【0035】
なお、これらの場合の溶接ワイヤ9の狙い位置は、プラズマアークが開先壁面へ偏向する場合、図6の(a),(b)に示すようにプラズマアークの中心を狙うように設定し、左側または右側の開先壁面と開先底部間を揺動する場合は、図6の(c),(d)に示すように端部停止時間の長いほうのアークの中心を狙い、左側の開先壁面と右側の開先壁面間および開先底部で停止しながら左側の開先壁面と右側の開先壁面間を揺動する場合は、図6の(e),(f)に示すようにトーチ中心下を狙うように設定する。
【0036】
図1に示すプラズマ溶接装置を用いて、被加工材7としてSUS304鋼板の板厚15mmを、U型開先、ルート3mm、ルート半径5mm、および、開先角度15°、に機械加工した開先を、ルートギャップ0mmに組み立てて溶接をした。その主な溶接条件を表1に示す。なお、溶接方向は図1に矢印で示す方向(y)で行い、磁性体3の板厚Aは7mm、ノズル6のノズル孔から磁性体3までの距離Bを12mm、ノズル6先端と磁性体3の高低差Dを0.2mmで行った。
【0037】
【表1】
【0038】
初層の溶接はプラズマキーホール溶接で片面裏波溶接を行い、均一で良好な裏波ビードと表ビード形状を得ることができた。
【0039】
多層盛溶接は、開先側面の溶け残しによる融合不良を無くすために図7の(a)〜(h)に示すように振分け多層盛溶接をした。また、アークを揺動させた時のワイヤ9の狙い位置も図7の(a)〜(h)に示す。
【0040】
まず、一層目の溶接は、励磁設定回路41のパルス幅設定器23の指定パルス幅Gを「100%」にし、オシレート切替スイッチ21を「N」位置に設定してアークを開先壁面側に偏向させて図7の(a)に示すように溶接を行った。オシレートをしていないため熱が集中してビード形状はやや凸形状になったが溶接金属10に傾斜をつけていることと、次パスの溶接でオシレート切替スイッチ21を「S」位置に切り替えて反対側へアークを偏向させて図7の(b)に示すように振分け溶接を行うことによって溶接不良が起こらないようにした。結果、溶接不良が無く均一で良好なビード形状が得られた。
【0041】
次層の溶接も図7の(c),(d)のように前層と同一条件で溶接した結果、溶接不良が無く均一で良好なビード形状が得られた。このように、開先内の下方部は、被加工材7の開先内の左右壁面の一方と他方に前記プラズマアークの指向方向を定めた溶接パスを交互に繰り返すことによって、溶接不良が無く均一で良好なビード形状が得られる。
【0042】
3層目は、開先の幅が広くなったので、周波数設定器22に溶接速度に合わせた周波数の周期Fを入力し、開先形状に合わせてパルス幅設定器23の指定パルス幅Gを入力し、オシレート切替スイッチ21を「N」位置に切り替えてアークを揺動して溶接した。結果、図7の(e)に示すように幅広の凹ビードを形成することができた。
【0043】
3層目の2パス目は、オシレート切替スイッチ21を「S」位置に切り替えてアークを揺動して溶接した。その結果、図7の(f)に示すように幅広の凹ビードを得ることができた。
【0044】
最終層の1パス目の溶接は、融合不良を防ぐために図7の(g)に示すようにプラズマトーチを開先の淵側へ若干寄せて、オシレート切替スイッチ21を「S⇔N」位置に切り替えて、アークを揺動させてビード幅が広くなるように溶接を行った。
【0045】
また、最終パスは、図7の(h)に示すように前層と最終層1パス目の谷部を中心として、オシレート切替スイッチ21を「S⇔止⇔N」位置に切り替えて、アークの揺動を中央部で停止しながら揺動させて、該谷部を十分溶かすと共にビード幅が広くなるように溶接を行った。その結果、図7の(h)に示すような良好なビード形状が得られた。このように、開先内の上方部は、被加工材7の開先内の左右壁面の一方と他方に前記プラズマアークの指向方向を定めかつプラズマアークを開先幅方向にオシレートする溶接パスを交互に繰り返すことによって、良好なビード形状が得られる。
【0046】
この実施例で溶接を行った被加工材(試験体)に対して、X線試験およびマクロ試験を行って溶接領域を観察したが、ブローホールやピット、融合不良等の溶接欠陥は皆無であった。
【符号の説明】
【0047】
1:プラズマトーチ
2:電磁コイル
3:磁性体
4:ワイヤガイド
5:シールドノズル
6:ノズル
7:被加工材
8:プラズマアーク
9:ワイヤ
10:溶接金属
11:交流電源
12:電源開閉器
13:一次側整流器
14:一次インバータ
15:励磁電流設定器
16:電流検出器
17:一次ドライバ
18:インバータトランス
19:二次側整流器
20:二次インバータ
21:オシレートパターン切替スイッチ
22:周波数設定器
23:パルス幅設定器
24:二次ドライバ
25:磁界
26:磁界
27:電極
28:メインアーク用直流電源
29:パイロットアーク用直流電源
30:高周波電源
31:ノズル孔
32:融合不良
33:キーホール初層溶接
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8