特許第5721303号(P5721303)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5721303
(24)【登録日】2015年4月3日
(45)【発行日】2015年5月20日
(54)【発明の名称】排煙脱硫装置
(51)【国際特許分類】
   B01D 53/50 20060101AFI20150430BHJP
   B01D 53/77 20060101ALI20150430BHJP
   B01D 53/18 20060101ALI20150430BHJP
【FI】
   B01D53/34 125K
   B01D53/18 CZAB
   B01D53/18 D
   B01D53/18 E
   B01D53/34 125Q
【請求項の数】1
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2007-40457(P2007-40457)
(22)【出願日】2007年2月21日
(65)【公開番号】特開2008-200619(P2008-200619A)
(43)【公開日】2008年9月4日
【審査請求日】2009年1月20日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】514030104
【氏名又は名称】三菱日立パワーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112737
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 考晴
(74)【代理人】
【識別番号】100118913
【弁理士】
【氏名又は名称】上田 邦生
(72)【発明者】
【氏名】園田 圭介
(72)【発明者】
【氏名】永尾 章造
(72)【発明者】
【氏名】道岡 正寿
(72)【発明者】
【氏名】荻原 浩太
(72)【発明者】
【氏名】高原 五男
【審査官】 岡谷 祐哉
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−190738(JP,A)
【文献】 特開平06−000328(JP,A)
【文献】 特開2004−033982(JP,A)
【文献】 特開平11−290643(JP,A)
【文献】 特開2001−129352(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/14−53/18
B01D 53/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
塔内部に所定の間隔を設けた複数段の多孔棚板が上下方向に設置されている脱硫塔の上部から流下する海水と、前記脱硫塔の下方より上昇する燃焼排気ガスとが気液接触して脱硫される海水法の排煙脱硫装置において、
上部にある前記多孔棚板まで届かないようにして前記脱硫塔内の水平断面積を所定値以下に仕切る鉛直方向の仕切板を前記多孔棚板の上に配設した排煙脱硫装置であって、
前記多孔棚板と前記仕切板とにより前記海水が滞留して、前記海水の滞留層を前記燃焼排気ガスが通過するときに湿式ベースで気液接触を行い、
前記仕切板は、前記多孔棚板上に垂直方向に設置された同心円状部材及び放射状部材を備えていることを特徴とする排煙脱硫装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、石炭焚き、原油焚き及び重油焚き等の発電プラントに適用される排煙脱硫装置に係り、特に、海水法を用いて脱硫する排煙脱硫装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、石炭や原油等を燃料とする発電プラントにおいて、ボイラから排出される燃焼排気ガス(以下、「ボイラ排ガス」と呼ぶ)は、ボイラ排ガス中に含まれている二酸化硫黄(SO
)等の硫黄酸化物(SOx)を除去してから大気に放出される。このような脱硫処理を施す排煙脱硫装置の脱硫方式としては、石灰石石膏法、スプレードライヤー法及び海水法が知られている。
【0003】
このうち、海水法を採用した排煙脱硫装置(以下、「海水脱硫装置」と呼ぶ)は、吸収剤として海水を使用する脱硫方式である。この方式では、たとえば略円筒のような筒形状を縦置きにした脱硫塔(吸収塔)の内部に海水及びボイラ排ガスを供給することにより、海水を吸収液として湿式ベースの気液接触を生じさせて硫黄酸化物を除去している。
海水脱硫装置1は、たとえば図6に示すように、一方の海水が脱硫塔2の上部から供給されて自然落下し、脱硫塔2の下部から供給されて上昇するボイラ排ガスとの間で気液接触を生じさせている。海水とボイラ排ガスとの気液接触は、脱硫塔2内の上下方向に所定の間隔で複数段配置された多孔板棚3を湿式ベースとし、多孔板棚3に穿設されている多数の孔4を海水及びボイラ排ガスが通過することで達成される。なお、図中の符号5は海水供給管、6は脱硫後の海水を流出させる海水排出管、7はボイラ排ガス供給口、8は脱硫後のボイラ排ガスを流出させるボイラ排ガス排気口である。(たとえば、特許文献1、2参照)
【特許文献1】特開平11−290643号公報
【特許文献2】特開2001−129352号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上述した海水脱硫装置1の脱硫塔2内においては、下方より上昇するボイラ排ガスと上方より流下する海水とが気液接触して脱硫するように構成されているので、ボイラ排ガス及び海水の流れの分布が脱硫塔2の水平断面内で不均一になると、脱硫性能の確保に支承をきたすこととなる。
具体的に説明すると、脱硫塔2の水平断面内でボイラ排ガスの流れ及び海水の流れが不均一に分布する偏流を生じると、たとえば図6に示すように、上昇する流れのボイラ排ガス(破線矢印で表示)と下方へ自然落下する流れの海水(図中に実線矢印で表示)とが分離してしまい、互いに異なる領域の孔4を通って流れるというボイラ排ガスの吹き抜け現象が発生する。このため、ボイラ排ガスと海水との接触は不十分になり、ボイラ排ガスと海水とが互いに接触して脱硫に寄与する流量割合が低下する。
【0005】
上述した偏流及び吹き抜け現象は、ボイラ排ガス中の硫黄酸化物が十分に脱硫されないまま排気されるという脱硫性能低下の原因になる。このような偏流及び吹き抜け現象は、取り扱うボイラ排ガスの量が増大したり、あるいは、ボイラ排ガスの上昇速度を比較的低速な所望の範囲に設定するなどして、脱硫塔2の断面積が大きい場合ほど顕著になる。
上述した偏流を発生する原因は、主にボイラ排ガスの流入速度(ボイラ排ガス供給口7の入口ノズルサイズ)、ボイラ排ガスの流入角度、脱硫塔2の寸法(幅・奥行き・高さ、あるいは塔径・高さ)、多孔棚板3の設置位置及び枚数等のように種々考えられる。しかし、偏流の発生を防止できる最適な寸法形状等を見いだすためには、上記原因をモデル試験またはシミュレーション試験によって解析する必要があり、多くの時間やコストを要するなど極めて困難な作業となる。
【0006】
このように、海水法を採用した排煙脱硫装置(海水脱硫装置)においては、脱硫塔の大型化等により生じやすい偏流及びボイラ排ガスの吹き抜け現象が脱硫性能を低下させるので、これを容易かつ簡単な構造で確実に防止して良好な脱硫性能を得ることができる排煙脱硫装置の開発が望まれる。
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、偏流及びボイラ排ガスの吹き抜け現象を容易かつ簡単な構造で確実に防止して良好な脱硫性能を得ることができる、海水法を採用した排煙脱硫装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記の課題を解決するため、下記の手段を採用した。
本発明に係る排煙脱硫装置は、塔内部に所定の間隔を設けた複数段の多孔棚板が上下方向に設置されている脱硫塔の上部から流下する海水と、前記脱硫塔の下方より上昇する燃焼排気ガスとが気液接触して脱硫される海水法の排煙脱硫装置において、上部にある前記多孔棚板まで届かないようにして前記脱硫塔内の水平断面積を所定値以下に仕切る鉛直方向の仕切板を前記多孔棚板の上に配設した排煙脱硫装置であって、前記多孔棚板と前記仕切板とにより前記海水が滞留して、前記海水の滞留層を前記燃焼排気ガスが通過するときに湿式ベースで気液接触を行い、前記仕切板は、前記多孔棚板上に垂直方向に設置された同心円状部材及び放射状部材を備えていることを特徴とするものである。
【0008】
このような排煙脱硫装置によれば、塔内部に所定の間隔を設けた複数段の多孔棚板が上下方向に設置されている脱硫塔の上部から流下する海水と、脱硫塔の下方より上昇する燃焼排気ガスとが気液接触して脱硫される海水法の排煙脱硫装置において、上部(上段)にある多孔棚板まで届かない(接触しない)ようにして脱硫塔内の水平断面積を所定値以下に仕切る鉛直方向の仕切板を多孔棚板の上に配設されており、多孔棚板と仕切板とにより海水が滞留して、海水の滞留層を燃焼排気ガスが通過するときに湿式ベースで気液接触を行い、さらに、仕切板は、多孔棚板上に垂直方向に設置された同心円状部材及び放射状部材を備えているので、海水の横方向流れが仕切板により規制されて偏流を生じにくくなるとともに、圧力損失を最小限に抑えて偏流を防止することができる。
【発明の効果】
【0010】
上述した本発明によれば、脱硫塔内の水平断面積を所定値以下となるように仕切る鉛直方向の仕切板を配設して海水の横方向流れを規制したので、上向きに上昇する燃焼排気ガスの流れ及び下向きに流下する海水の流れの分布が水平断面内で不均一になる偏流を生じにくくなる。従って、海水法を採用した排煙脱硫装置においては、脱硫塔の大型化等により生じやすい偏流及びボイラ排ガスの吹き抜け現象を容易かつ簡単な構造で確実に抑制または防止できるので、良好な脱硫性能を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明に係る排煙脱硫装置の一実施形態を図面に基づいて説明する。
図1に示す海水脱硫装置1Aの脱硫塔2は、たとえば石炭や原油等を燃料とする発電プラントのボイラから排出される燃焼排気ガス(以下、「ボイラ排ガス」と呼ぶ)に含まれている二酸化硫黄(SO
)等の硫黄酸化物(SOx)を、大気へ放出する前に海水法により除去する装置である。この海水法と呼ばれる脱硫方式を用いた海水脱硫装置1Aは、吸収剤として海水を使用している。
【0012】
図示の海水脱硫装置1Aは、略円筒形状を縦置きにした脱硫塔2の内部に海水及びボイラ排ガスを供給することにより、海水を吸収液として湿式ベースの気液接触を生じさせて硫黄酸化物を除去する。脱硫塔2に供給した海水は、脱硫塔内の上部から噴出させることにより内部で自然落下する。これに対し、脱硫塔2に供給したボイラ排ガスは、脱硫塔2の下部から脱硫塔内に導入されて上昇する。
脱硫塔2の内部には、所定の間隔を設けて上下方向に複数段の多孔棚板3が配置されている。この多孔棚板3は、堰及び溢流部のない多孔板のことであり、落下する海水と上昇するボイラ排ガスとが多数の孔4を通過することにより、互いが接触する気液接触を生じさせるものである。
【0013】
すなわち、多孔棚板3は、海水供給管5で導入した海水と、ボイラ排ガス供給口7から導入したボイラ排ガスとの気液接触を生じさせる湿式ベースとして機能し、この気液接触が生じることで、吸収液の海水がボイラ排ガス中の硫黄酸化物を吸収して除去する。多孔棚板3を通過して気液接触した後には、換言すれば、ボイラ排ガス中の硫黄酸化物を吸収して除去した脱硫後においては、海水が脱硫塔2の底部に流下して海水排出管6から流出し、ボイラ排ガスが上部に開口するボイラ排ガス排気口8から流出する。
【0014】
上述した構成の海水脱硫装置1Aには、脱硫塔2内の水平断面積を所定値以下と小さくなるように仕切る鉛直方向の仕切板10が配設されている。この仕切板10は、多孔棚板3の各段毎に独立して設けられている。すなわち、仕切板10は、各段の多孔棚板3から上方へ略垂直に立ち上がる壁面を形成することにより、多孔棚板3の各段毎に水平断面積を分割している。
図2は、仕切板10による水平断面積の分割例を示す図である。この分割例では、半径方向を二分割する円形仕切板11と、円周方向を45度ピッチに8分割する放射仕切板12と、円形仕切板12の外周部をさらに円周方向に二分割する放射補助仕切板13とにより、脱硫塔2の水平断面積が24分割されている。
【0015】
上述した仕切板10の高さHは、少なくとも湿式ベース3上の海水滞留高さhより高い位置(H>h)まで設けられている。すなわち、湿式ベースとなる多孔棚板3から上方へ向けて立ち上がる壁面の高さHは、湿式ベース3上に滞留する海水が仕切板10を超えて隣接する区画へ流出しないように設定されている。多孔棚板3に滞留する海水滞留高さhは、多孔棚板3に設けた孔4の開口面積合計値と海水の供給量との関係により推測できるので、この推測値より高い仕切壁10を設置すればよい。
【0016】
上述した構成の海水脱硫装置1Aによれば、脱硫塔2の上方から流下させた海水は、仕切板10により所定の水平断面積以下に分割された多孔棚板3を通って落下する。このとき、多孔棚板3に滞留する海水面Wは、仕切壁10の高さHより低くなるので、仕切板10により海水の流れ方向が規制され、滞留した海水が仕切壁10を超えて横流れすることはない。このような横流れの防止は、下方から上昇してくるボイラ排ガスが多孔棚板3を通過しても略同様に機能するので、ボイラ排ガス及び海水の偏流が生じなくなる。
なお、横流れの防止をより確実にするためには、仕切板10の高さHを設定する際に、下方から上昇して流れるボイラ排ガスとの影響で波打つ海水面Wの最大高さを基準にすればよい。
【0017】
この結果、多孔棚板3の各分割区画内に滞留する海水面Wは、区画毎の差が小さくなって略一定になるため、換言すれば、多孔棚板3の各分割区画に滞留する海水の分布が略均一に維持されるため、下方から上昇するボイラ排ガスと海水とが分離して互いに接触することなく多孔棚板3を通り抜けるという吹き抜け現象を防止することができる。
こうして海水及びボイラ排ガスの偏流や吹き抜け現象が防止されると、多孔棚板3を通過する海水とボイラ排ガスとの十分な接触が可能になるので、脱硫塔2に供給した海水を有効に利用して効率よく脱硫することができる。
【0018】
ところで、上述した実施形態では、脱硫塔2内に多孔棚板3を配設した海水脱硫装置1Aについて説明したが、以下に説明する参考例のように、多孔棚板3による気液接触に代えて、スプレー方式や充填方式を採用してもよい。なお、以下の説明で使用する図において、上述した実施形態と同様の部分には同じ符号を付し、その詳細な説明は省略する。
図4に示す第1参考例は、スプレー方式による気液接触を採用した海水脱硫装置1Bである。この装置では、脱硫塔2の内部に海水を噴射するスプレーノズル20を多数配置してあり、スプレーノズル20から噴射された海水とボイラ排ガスとの気液接触により脱硫する。この場合の仕切板10は、たとえばスプレー配管21等を利用して所定位置に支持される。
【0019】
このように構成された海水脱硫装置1Bにおいても、脱硫塔2の内部空間を水平断面積が所定値以下となるように仕切板10で分割することにより、ボイラ排ガスの偏流や吹き抜け現象を防止することができる。なお、このスプレー方式は、スプレーノズル20の配置を適切に行うことで海水を略均一に分散させて噴射することができる。
【0020】
図5(a)に示す第2参考例の海水脱硫装置1Cは、充填方式による気液接触を採用したものである。この方式では、脱硫塔2の内部に海水とボイラ排ガスとの気液接触を促進する充填ユニット30が設置されている。そこで、充填ユニット30の水平断面を仕切板10で複数に分割するが、分割後の各水平断面は所定値以下に小さくしてある。
なお、図5(b)には、充填方式による従来の海水脱硫装置1C′が示されており、この場合の充填ユニット30′は、水平断面が分割されることなく脱硫塔2の断面と略一致している。
【0021】
このように構成された海水脱硫装置1Cにおいても、脱硫塔2の内部に設置された充填ユニット30の水平断面積が所定値以下となるように仕切板10で分割されているので、ボイラ排ガスの偏流や吹き抜け現象を防止することができる。
【0022】
上述したように、脱硫塔2内の水平断面積を所定値以下となるように仕切る鉛直方向の仕切板10を配設して海水の横方向流れを規制したので、上向きに上昇するボイラ排ガスの流れ及び下向きに流下する海水の流れの分布が水平断面内で不均一になる偏流を生じにくくなる。従って、海水法を採用した排煙脱硫装置1A,1B,1Cにおいては、脱硫塔2の大型化等により生じやすい偏流及びボイラ排ガスの吹き抜け現象を容易かつ簡単な構造で確実に抑制または防止して良好な脱硫性能を得ることができる
なお、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において適宜変更することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明に係る海水脱硫装置の一実施形態を示す断面図である。
図2図1のA−A断面図である。
図3】仕切板の高さHを示す説明図である。
図4】本発明に係る海水脱硫装置の第1参考例を示す断面図である。
図5】本発明に係る海水脱硫装置の第2参考例を示す断面図である。
図6】海水脱硫装置の従来構造を示す断面図である。
【符号の説明】
【0024】
1A,1B,1C 海水脱硫装置
2 脱硫塔
3 多孔棚板
4 孔
10 仕切板
20 スプレーノズル
30 充填ユニット
図1
図2
図3
図4
図5
図6