特許第5721429号(P5721429)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5721429
(24)【登録日】2015年4月3日
(45)【発行日】2015年5月20日
(54)【発明の名称】熱機関潤滑油中の燃料含有量の決定方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 30/88 20060101AFI20150430BHJP
   G01N 30/54 20060101ALI20150430BHJP
   G01N 30/26 20060101ALI20150430BHJP
   G01N 30/32 20060101ALI20150430BHJP
   G01N 30/86 20060101ALI20150430BHJP
【FI】
   G01N30/88 M
   G01N30/54 F
   G01N30/26 A
   G01N30/32 A
   G01N30/86 G
【請求項の数】9
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2010-515570(P2010-515570)
(86)(22)【出願日】2008年7月7日
(65)【公表番号】特表2011-503523(P2011-503523A)
(43)【公表日】2011年1月27日
(86)【国際出願番号】FR2008051258
(87)【国際公開番号】WO2009010678
(87)【国際公開日】20090122
【審査請求日】2011年6月28日
(31)【優先権主張番号】0704967
(32)【優先日】2007年7月9日
(33)【優先権主張国】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】507308902
【氏名又は名称】ルノー エス.ア.エス.
(74)【代理人】
【識別番号】100109726
【弁理士】
【氏名又は名称】園田 吉隆
(74)【代理人】
【識別番号】100101199
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 義教
(72)【発明者】
【氏名】ティケ, ローラン
(72)【発明者】
【氏名】ルイユ, ピエリク
【審査官】 赤坂 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2007/051941(WO,A1)
【文献】 国際公開第2005/093405(WO,A1)
【文献】 国際公開第2006/060130(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 30/00−30/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱機関潤滑オイル中の燃料の割合を決定するための装置(1)であって、前記潤滑オイルが内部標準を含み、前記潤滑オイルおよび前記内部標準が溶媒で希釈されて分析対象混合物を形成し、
分析対象物質(110)の注入器(11)と
内径φ、長さLで固定相を有し、キャリアガスの供給を受ける分離カラム(12)と
加熱モジュール(120)と
前記物質(110)の検出器(13)と
を含む気相クロマトグラフ(10)を備える装置(1)において、
前記分離カラム(12)が少なくとも22000の理論段数を有し、
前記分離カラム(12)内で厚さ0.40μm以上のフィルムの形をなす前記固定相が、前記内部標準、前記溶媒、前記燃料および前記潤滑オイルを分離することができ、
前記加熱モジュール(120)が少なくとも350℃/分の速度で少なくとも310℃までの前記カラム(12)の温度上昇を生み出すことができることを特徴とする、
装置を使用して、熱機関潤滑オイル中の燃料の割合を決定する方法であって、前記カラム(12)が、
A1)t=0秒の分析開始から時間tまでの、20℃から40℃の範囲の初期温度Tiの待機水平域のステップと、
A2)tから、燃料のC20炭化水素化合物の分離を最適化するために必要な時間であるtまでの間の、少なくとも350℃/分での温度上昇のステップと、
A3)tから、オイルおよび燃料のC25炭化水素化合物の分離を最適化するために必要な時間であるtまでの間の、ステップA2で到達した温度の水平域のステップと、
A4)tから、オイルのすべての炭化水素化合物が検出されるために必要な出力時間tまでの間の、少なくとも35℃/分での温度上昇、およびtに到達した最終温度Tfの水平域での保持のステップと、
A5)ステップA1の初期温度Tiまでの少なくとも350℃/分の速度での冷却のステップと
を順次含む熱サイクルにかけられ、
前記固定相の種類および厚さが、A1からA5のそれぞれのステップの持続時間に影響を及ぼす方法。
【請求項2】
前記カラム(12)が、
からtまでのステップA1のときに、初期圧力pの水平域であるステップと、
からtまでのステップA2のときに、圧力p2まで少なくとも40kPa/分の速度で圧力が上昇するステップと、
からtまでのステップA3のときに、圧力p2の水平域であるステップと、
からtまでのステップA4のときに、圧力p3まで少なくとも30kPaの速度で圧力が上昇するステップと、
t4以降のステップA5のときに、p3から初期圧力pまでの圧力低下が瞬間的に行われるステップと
を順次含むキャリアガスの圧力の変化サイクルにかけられ、
前記固定相の種類および厚さが、A1からA5の各ステップの持続時間およびpからp3の圧力の値に影響を及ぼすことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
分析対象の潤滑オイルサンプルと内部標準化合物とを所定の割合で含み、全体を溶媒で希釈した混合物を形成する分析ステップと、
気相クロマトグラフ(10)の前記注入器(11)に前記混合物を注入する分析ステップと、
分析対象サンプルのクロマトグラムを作成する分析ステップと、
前記内部標準化合物に関連するクロマトグラムの1つのピークの面積を表す第1のパラメータMを確定する分析ステップと、
軽油を代表するC〜C25炭化水素化合物に関連するクロマトグラムの少なくとも1つのピークの面積を表す第2のパラメータCを確定する分析ステップと、
分析対象サンプル中の軽油の割合Tを次式、


(式中、aとbは、燃料の割合に応じて第2と第1のパラメータの関係を較正する直線の方程式y=ax+bを定義する定数である)によって確定する分析ステップと
を順次含む潤滑オイル中の軽油の割合の分析段階を含むことを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記第2のパラメータCが、C20、C21、C22、C23、C24もしくはC25のいずれか、またはそれらを合わせた炭化水素化合物に関連するクロマトグラムの少なくとも1つのピークの面積を表すものであることを特徴とする、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記クロマトグラムのC20炭化水素化合物に関連するピークの面積を表す第2のパラメータCに応じて軽油含有量の近似値を計算し、次いで、(C20〜C25)炭化水素化合物のグループの中から選ばれたそれぞれの炭化水素化合物に関連する複数のピークの面積を表す第2のパラメータCに応じて補正軽油含有量を計算し、それらのピークの数が計算された近似値次第である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記第2のパラメータが、C20〜C25炭化水素化合物のグループのうちから選ばれたそれぞれの炭化水素化合物に関連する複数のピークの面積を表す、請求項4または5に記載の方法。
【請求項7】
第2のパラメータが次式、
C=α.C/C
(式中、
は、内部標準(C炭化水素化合物)に関連するピークの面積であり、
αは、基準濃度に対する補正係数であり、
は、サンプルにおける前記内部標準の濃度である)
によって確定される、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
較正直線の方程式を確定する事前のステップを含み、該ステップ中に、
潤滑オイルおよび軽油をあらかじめ定めた異なる割合で含む複数の標準混合物を作製し、それに所定の割合に従って内部標準化合物を加え、溶媒で全体を可溶化し、
それぞれの標準混合物について、
気相クロマトグラフ(10)の前記注入器(11)に前記標準混合物を注入し、次いで、
標準混合物のクロマトグラムを作成し、
前記内部標準化合物に関連する前記クロマトグラムの1つのピークの面積を表す第1のパラメータM0を確定し、
軽油の炭化水素化合物に関連する前記クロマトグラムの1つのピークの面積を表す第2のパラメータC0を確定し、
それぞれの標準混合物について得られた対をなす第1と第2のパラメータから、較正直線のパラメータaおよびbを確定することを特徴とする、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
クロマトグラムがそれぞれ炎イオン化検出器(13)によって作成され、計算機が前記クロマトグラムの積分を行って前記クロマトグラムのそれぞれのピークの面積を計算する、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に潤滑油の分析に関し、詳細には内燃機関のオイル中の燃料含有量の決定に関する。
【0002】
本発明において、燃料とは、例えば、ガソリン、軽油、バイオ燃料など、爆発機関の動作に使用されるあらゆる種類の燃料をいう。
【背景技術】
【0003】
潤滑油中の燃料(とりわけ軽油)含有量の分析については様々な方法が知られているが、いずれも信頼性のある適正で正確な結果を迅速に得ることができるものではなく、そのため、完全な満足を与えるものとはなっていない。
【0004】
この分野では、従来から、分析対象物質の注入器11、化合物の溶出を容易にするキャリアガスを通す分析対象物質分離カラム12、および該物質の検出器13を含む、図1に10で示すようなクロマトグラフが用いられている。使用時には、分析対象物質の様々な化合物が分離カラム12内を様々な速さで通過する。検出器13は、例えば当業者に周知の炎イオン化検出器であり、装置14からくるガスが炎に供給される。検出器13はさらに、分離カラム内で物質を輸送するガス、例えば水素、ヘリウムまたは窒素も受ける。検出器13は、カラム12から出てくる化合物の燃焼時に発生する電流強度を測定する。発生する電流強度は、チャンバ内における化合物の有無によって変わる。例えば電流と時間の関係を表すためにクロマトグラムが作成される。
【0005】
当業者に周知のこうしたクロマトグラフを、潤滑オイル中の燃料(とりわけ軽油)の割合の決定に利用することで、分析結果に高い精度を得ることができる。しかし、こうしたクロマトグラフを利用する方法には次のような欠点がある。すなわち、カラムの温度上昇が極端に遅い一方、その同じカラムの冷却時間が極端に長く、そのためサンプルのクロマトグラフ滞留時間が長くなる。
【発明の概要】
【0006】
本出願人は、熱機関の潤滑オイル中の燃料の割合の決定装置であって、クロマトグラフィーカラムを特別な加熱モジュール中に備えるクロマトグラフを使用することによって、これらの欠点を改善する装置を開発した。本出願人は、さらに、そうした装置を利用する方法であって、カラムが所定のサイクルによるカラム内のキャリアガスの温度変化および圧力変化にさらされるようにすることで、信頼性があり、かつ適正で正確な結果が得られるようにする方法を開発した。
【0007】
より具体的には、本発明は、熱機関潤滑オイル中の燃料の割合を決定するための装置であって、潤滑オイルが内部標準を含み、潤滑オイルおよび内部標準が溶媒で希釈されて分析対象混合物を形成し、
・ 分析対象物質の注入器と、
・ 内径φ、長さLで固定相を有し、キャリアガスの供給を受ける分離カラムと、
・ 加熱モジュールと、
・ 前記物質の検出器と
を備える気相クロマトグラフを有する装置を目的とする。
【0008】
本発明によれば、分離カラムは少なくとも22000の理論段数を有し、固定相は分離カラム内で厚さ0.40ミクロン以上のフィルムの形をなし、この固定相が内部標準、溶媒、燃料および潤滑オイルを分離することができる。さらに、本発明によれば、加熱モジュールが少なくとも350℃/分の速度によるカラムの温度上昇をもたらすことができる。
【0009】
有利には、固定相はメチルポリシロクサンのうちから選ばれる。
【0010】
一般にクロマトグラフィーカラムがその中に組み込まれる恒温槽は、本発明による装置では、一般に恒温槽の外に配置され、有利には、カラムに沿って、または、例えば内部にカラムを挿入したスリーブの形でカラムの周囲に配設することができる、直線状の加熱モジュールで置き換えられる。
【0011】
このような加熱モジュールにおいては、とりわけ容積が大きく、加熱および冷却に大きな慣性を生じる、従来型の恒温槽中に分離カラムを有するクロマトグラフなどで通常行われているものと比べて、素早い温度の上昇および下降が可能となり、そのため分析時間の大幅な短縮がもたらされる。
【0012】
有利には、少なくとも350℃/分までの速度でカラムを加熱することができるばかりでなく、少なくともそれと同等の冷却速度でカラムを冷却することができる加熱モジュールを選ぶ。
【0013】
加熱モジュールが、内側にカラムを挿入した筒状の加熱抵抗器からなる有利な構成では、カラムを周囲温度から350℃まで約1000℃/分の速度で加熱することが可能である。
【0014】
本発明の有利な一実施形態によれば、カラムは送風機または冷却ユニットのような冷却装置と組み合わせることが可能であり、その場合、カラムのさらに急速な冷却、特に100秒以下の時間で350℃から30℃までの冷却を行うことができる。
【0015】
分離カラム内のキャリアガスは、ヘリウム、水素または窒素でよい。
【0016】
ただし、好ましくは、水素をキャリアガスとして使用する。これは、物質の分離という点で最もよい効率を得られるのが水素だけである。
【0017】
本発明の特に有利な実施形態によれば、クロマトグラフの分離カラムは0.18mmの内径を有し、それに対して、長さは10m、固定相厚さは0.40μmである。
【0018】
本発明は、さらに、本発明による装置を用いて、熱機関潤滑オイル中の燃料の割合を決定する方法を目的とする。本発明の方法では、カラム(12)は、
・ A1)内部標準および溶媒の溶出を最適化するための20℃から40℃の範囲の初期温度Tの待機水平域であって、固定相によって保持されない化合物によるカラム内の移動時間である不感時間tを含め、分析開始t=0秒に始まり、内部標準および溶媒の検出器外での溶出時間よりも一般に短い時間tに終わる水平域のステップと、
・ A2)tから、燃料のC20炭化水素化合物の分離を最適化するために必要な時間であるtまでの間の、少なくとも350℃/分での温度上昇のステップと、
・ A3)tから、オイルおよび燃料のC25炭化水素化合物の分離を最適化するために必要な時間であるtまでの間の、ステップA2で到達した温度の水平域のステップと、
・ A4)tから、オイルのすべての炭化水素化合物が検出されるための出力時間tまでの少なくとも35℃/分での温度上昇、およびtで到達した最終温度Tfの水平域での保持のステップと、
・ A5)ステップA1の初期温度Tiまでの少なくとも350℃/分の速度での冷却のステップと
を順次含む熱サイクルにかけられ、
固定相の種類および厚さは、A1からA5のそれぞれのステップの持続時間に影響を及ぼす。
【0019】
有利には、カラムは、これと同時に、
・ tからtまでのステップA1のときに、初期圧力pの水平域であるステップと、
・ tからtまでのステップA2)のときに、pから圧力pまで少なくとも40kPa/分の速度で圧力が上昇するステップと、
・ tからtまでのステップA3)のときに、圧力pの水平域のステップと、
・ tからtまでのステップA4)のときに、pから圧力pまで少なくとも30kPaの速度で圧力が上昇するステップと、
・ t4以降のステップA5のときに、pから初期圧力pまでの圧力低下が瞬間的に行われるステップと
を順次含むキャリアガスの圧力の変化サイクルにかけられ、
固定相の種類および厚さは、A1からA5の各ステップの持続時間およびPからPの圧力の値に影響を及ぼす。
【0020】
本発明による方法では、オイル中の軽油の割合の決定は、
・ 分析対象の潤滑オイルサンプルと内部標準化合物(例えばC炭化水素化合物などで、分析対象化合物と重ならないもの)とを所定の割合で含み、全体を溶媒(例えばCSなどで、分析の障害とならないもの)で希釈した混合物を形成する分析ステップと、
・ クロマトグラフ注入器に混合物を注入する分析ステップと、
・ 分析対象サンプルのクロマトグラムを作成する分析ステップと、
・ 内部標準化合物(C炭化水素化合物)に関連するクロマトグラムのピークの面積を混合物中に実際に投入した質量で補正したものを表す第1のパラメータMを確定する分析ステップと、
・ 軽油を代表する炭化水素化合物に関連するクロマトグラムの少なくとも1つのピークの面積を表す第2のパラメータCを確定する分析ステップと、
・ 分析対象サンプル中の軽油の割合Tを次式、
(式中、aとbは、軽油の割合に応じて第2と第1のパラメータの関係を較正する直線の方程式y=ax+bを定義する定数である)によって確定する分析ステップと
を順次含む。
【0021】
有利には、第2のパラメータCは、C20、C21、C22、C23、C24もしくはC25のいずれか、またはそれらを合わせた炭化水素化合物に関連するクロマトグラムの少なくとも1つのピークの面積を表すものとすることができる。
【0022】
また、C20炭化水素化合物のピークのみの関数である第2のパラメータを考慮に入れて、事前に軽油含有量の近似値を計算することを考えることもできる。そして、その近似値に応じて、軽油含有量を計算するためにパラメータCでどの炭化水素化合物のピークを考慮に入れるかを判断することができる。したがって、考慮に入れるピークの数は計算された近似値次第であり得る。
【0023】
有利には、第2のパラメータは、C20〜C25炭化水素化合物のグループに属するそれぞれの炭化水素化合物に関連する複数のピークの面積を表すものとすることができる。
【0024】
様々なクロマトグラフィー条件について様々な化合物の相対面積を考慮に入れるために、有利には、係数Cの補正を行って、内部標準化合物(C)の濃度を所望の値に合わせる。とりわけ、Cは次式によって確定することができる。
C=α.C/C
− Cは、内部標準(C炭化水素化合物)に関連するピークの面積であり、
− αは、基準濃度に対する補正係数であり、
− Cは、サンプル中の内部標準(C炭化水素化合物)の濃度である。
【0025】
生成される混合物は、そのほか、所定の割合の二硫化炭素CSを含むことができる。二硫化炭素の役割は、オイルとC炭化水素化合物の混合物全体を希釈することによって、両者を均一に混合し、分離が容易な液体および流体の媒質を用意することにある。また、有利には、二硫化炭素CSは、たとえ大量にあっても検出器には不可視である。そのため、二硫化炭素は軽油およびオイルの検出の障害となることはない。しかし、他の溶媒についても、最終的な利用でその信号を十分に考慮に入れることを条件に、選択することは可能である。
【0026】
最終的な精度の最大限の洗練を図るために、較正直線は、分析対象サンプルと同じタイプの軽油および同じタイプのオイルを用いて事前に作成することが好ましい。
【0027】
較正直線の方程式を事前に決定するには、以下のステップを行うことができる。
− 潤滑オイルおよび軽油をあらかじめ定めた異なる割合で含む複数の標準混合物を作製し、それに所定の割合に従って内部標準(例えばC炭化水素化合物)を加え、全体を溶媒CSによって可溶化する。
【0028】
以下では、標準サンプルの軽油含有量をT0で表す。それぞれの標準混合物について、
− 気相クロマトグラフの注入器に標準混合物を注入する。
− 標準混合物のクロマトグラムを作成する。
− 内部標準(C炭化水素化合物)に関連するクロマトグラムの1つのピークの面積を表す第1のパラメータM0を確定する。
− 軽油を代表する炭化水素化合物に関連するクロマトグラムの1つのピークの面積を表す第2のパラメータC0を確定する。
【0029】
得られたそれぞれの混合物について得られる対のパラメータ(横座標T0および縦座標C0/M0の点によって表すことができる)から、較正直線の定数aおよびbを確定する。定数aおよびbは、例えば、作り出された様々な対(T0、C0/M0)に最もよく当てはまる直線を較正直線とすることによって得られる。
【0030】
クロマトグラムは、炎イオン化検出器によって作成することができ、計算機によってクロマトグラムの積分を行って各ピークの面積を計算することが可能である。
【0031】
本発明のその他の特徴および利点は、添付の図面を参照して、あくまでも参考であって何ら限定的でないものとして、以下に行う説明から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】既存の技術によるクロマトグラフの例を概略的に示した図である。
図2】本発明による方法を利用するために使用される筒状加熱モジュールの中に組み込まれた分離カラムを概略的に示した図である。
図3図2に示した分離カラムを備えたクロマトグラフを含む本発明による装置を概略的に示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
既存の技術によるクロマトグラフおよびその動作原理は、従来技術について参照した中ですでに説明した。
【0034】
図2に、本発明による方法で使用する気相クロマトグラフの分離カラム12を示す。この図は、カラム12が、加熱抵抗器からなる筒状加熱モジュール120の中に組み込まれていることを示している。
【0035】
次に図3を参照すると、本発明による方法を実施するために使用する装置は、水素(例えばN55品質のもの)の供給を受け、カラム内の温度および圧力の正確なプログラミングおよび調節を行う気相クロマトグラフを備える。このクロマトグラフは以下のものを含む。
・ RESTECH社から発売されている無極キャピラリーカラム12。長さ10メートル、直径0.18mm、フィルム(固定相)厚0.4μmのこのカラムは、筒状加熱抵抗器120内に組み込まれている。
・ 圧力調節機構および少なくとも8つのポジションを有する自動注入機構を備える注入/分流器11。100ポジションのオートサンプラが推奨される。
・ 注入器11とカラム12をつなぐ相をもたないプレカラム15。このプレカラムは、長さ50センチメートルで、キャピラリーカラム12との連結部を形成するユニオンを備える。
・ 炎イオン化検出器13(FID)。
・ 検出器13とカラム12をつなぐ相をもたないプレカラム16。このプレカラムはキャピラリーカラム12との連結部を形成するユニオンを備える。
・ HPCHEMの参照記号でA.10.02のショートバージョンとして市販されているソフトウェアを実行するコンピュータである積分装置。
・ 0.1mgの精度の秤量器。
・ サンプルの攪拌および均質化のための振動台。
【0036】
以下では、様々な使用済み潤滑オイルにおける軽油含有量を測定するために本発明による方法を実施する場合の条件の例について詳述する。
【0037】
比較のため、図2に示したもののようなクロマトグラフを組み込んだ装置を用いた測定も行った。図2に示した装置は、長さLが10m、直径0.53mm、フィルム厚1μmで、したがってφ/L比が5.3・10−5である無極キャピラリーカラムを使用する点において、図3の装置とは異なっている。一例として、CHROMPACK/VARIAN社によってCP SyI 19cbの参照記号で販売されている無極カラムを使用する。このカラムを従来型の恒温槽に組み込む。
【0038】
試薬。
本発明による方法および従来技術の方法を実施するためには以下の試薬を使用する。
− Prolabo社によって分析用Normapur品質で販売されているもののような二硫化炭素CS
− 99%超の純度をもつペンタン(C)。
− 市販の軽油。
− 新品のエンジンオイル。
− 対象とする濃度範囲、例えばこの種の軽油の0〜10重量%の範囲全体をカバーする各種使用済みオイル。
【0039】
それぞれの装置のカラムの較正。
分析そのものの段階に入る前に、本発明による方法で使用する装置(図3に示すもの)と、比較用として従来技術の方法に従って使用する装置(図2に示すもの)のそれぞれの装置のカラムの較正を行う。
【0040】
この較正は、正確な軽油含有量がわかっている標準サンプル(オイルおよび軽油)を用い、内部標準(ペンタン)で補正することで、両方の装置で同じ要領で行う。
【0041】
高い較正精度が得られるようにするため、分析対象サンプルを得るために使用した軽油およびオイルにそれぞれ対応する新品の軽油およびオイルを標準として使用する。
【0042】
それぞれの標準サンプルについて、以下の調製ステップを行う。
・ サンプルからそれぞれの質量濃度に対応する質量のオイルをフラスコに取り、重さを量る。その質量をmとする。
・ それぞれの質量濃度を得るのに必要な体積の軽油を取り、フラスコに入れる。オイル/軽油混合物の質量をmとする。
・ サンプルを振動台で少なくとも10分間激しく振り混ぜて均質にする。
【0043】
次いで、標準サンプルを分析対象サンプルのための下記のプロセスにかける。
【0044】
分析対象サンプルは以下の通りである。
− 標準サンプル:それぞれ新品オイルと軽油の混合物からなるE1、E2、E3およびE4。
− サンプルの重量に対して推定含有量の重量の軽油を含む使用済みオイルサンプルであって、分析を行うことが望まれる濃度範囲に含まれるもの。
【0045】
E1からE4の分析対象オイルサンプルのそれぞれについて、以下の調製ステップを順次行う。
・ 約1.5gのサンプルを取り、取った質量をmとする。
・ ペンタン(内部標準)40μlを分析対象サンプルに加える。ペンタンは周囲温度で保管され、取り出されたもので、得られた混合物(サンプルとペンタン)の質量をmとする。
・ この混合物(サンプル+ペンタン)は、溶媒の二硫化炭素CS5mlを加えることによってほぼ直ちに希釈し、得られた混合物を入れたフラスコをほぼ直ちに密閉することによって溶媒CSの蒸発を抑える。
・ 得られた混合物は振動台で約1分間攪拌し、混合物を均質化する。こうして得られる混合物はCSで75体積%に希釈されており、クロマトグラフへの注入準備がこれで整う。
・ 場合により、得られた混合物の保存期間を長引かせるために、空き容量が最小限となるように2mlの超小型フラスコを用い(超小型フラスコの口に密封栓をはめ込むことができる)、所与量の分析対象混合物をすべて入れるのに必要なだけの数の超小型フラスコを混合物で満たす。
・ 自動注入器によって1μlを注入する。
【0046】
上述の量は、当然のことながら参考として示したものに過ぎず、当業者であれば、他の値を用いることもできる。
【0047】
E1からE4までの4つのサンプルと使用済みオイルについて、以下の分析を行った。
図3に示す装置を使用して行う本発明の方法によるクロマトグラフィー分析。
図3の装置の代わりに図2のクロマトグラフを組み込んだ装置を使用する点を除き、同じ方法によるクロマトグラフィー分析。
【0048】
本発明の方法によるクロマトグラフィー分析(図3の装置を使用して行う)では、分離カラム内のキャリアガスは水素であり、分析対象サンプルをカラム内に入れた時点から、カラムは以下のような熱サイクルおよび水素の圧力変化サイクルにかけられる。
以下の要素を順次含む熱サイクル:
− 24秒間にわたる温度35℃の水平域
− 350℃/分で230℃までの温度上昇
− 45秒間にわたる230℃の水平域
− 35℃/分で310℃までの温度上昇
− 120.6秒間にわたる310℃の水平域
− 100秒以内で310℃から30℃までの冷却。
以下の要素を順次含む水素の圧力変化サイクル:
− 圧力40kPaの水平域
− 40kPa/分で70kPaまでの水素圧力の上昇
− 30秒間にわたる70kPaの水平域
− 30kPa/分で70kPaから700kPaまでの圧力の上昇
− 153秒間にわたる100kPaの水平域
− 100kPaから40kPaまでの圧力低下。
【0049】
図2のクロマトグラフを組み込んだ装置を使用して行う従来技術の方法によるクロマトグラフィー分析では、分離カラム内のキャリアガスはヘリウムであり、カラムは熱サイクルおよび以下の変化サイクルにかけられる。
以下の要素を順次含む熱サイクル:
− 5分間にわたる温度35℃の水平域
− 6℃/分で115℃までの温度上昇
− 3℃/分で177℃までの温度上昇
− 2℃/分で300℃までの温度上昇
− 20分で310℃から30℃までの冷却。
以下の要素を順次含む水素圧力の変化サイクル:
− 圧力24kPaの水平域
− 1.5kPa/分で49kPaまでの水素圧力の上昇
− 4kPa/分で100kPaまでの水素圧力の上昇
− 100kPaの水平域
− 100kPaから24kPaまでの圧力低下。
【0050】
この装置(図2に示すもの)では、恒温槽追跡(英語では「オーブントラック」型)原理に従い、注入器の温度は温度プログラムを10℃ずつ先んじてたどるように制御される。カラム内におけるキャリアガスの流量は、ヘリウム圧力プログラムで決められた流量によって条件づけられ、クロマトグラフは圧力調節モードで動作する。本発明の装置では、注入器は流量分割器型であり、注入器レベルの温度は320℃で一定に保たれる。
【0051】
両装置とも、検出器内の水素流量は30ml/分程度であり、その検出器内の空気流量は、400ml/分(±10ml/分)程度である。
【0052】
各種化合物のピークの積分に当たっては、クロマトグラフィーサイクルにおける以下の期間が用いられた。
− 内部標準部分(ペンタン)の積分はt=22秒からt=33秒までの間で行われた。
− 二硫化炭素(CS)部分および軽油部分の化合物の積分は、CからC20まで(C20は除く)の化合物が軽油に属するものとして、C20を除いてt=33秒からt=37分40秒までの間で行った。
− C20からC22まで(C22は除く)の軽油部分の化合物の積分は、t=37分40秒からt=44分15秒までの間で行った。
− C22からC24まで(C24は除く)の軽油部分の化合物の積分は、t=44分15秒からt=51分15秒までの間で行った。
− C24からC25まで(C25は除く)の軽油部分の化合物の積分は、t=51分20秒からt=54分20秒までの間で行った。
− C25以降のオイル部分の積分は、t=54分20秒からt=97分までの間で行った。
【0053】
有利には、各種化合物の積分時間については、カラムの経年変化に応じて調整を行い、対照溶液を用いて検査を行う。
【0054】
2つの分析(本発明の方法および従来技術の方法による)とも、得られたクロマトグラムの分析を行って、それぞれの化合物に関連するピーク面積を導き出す。A0を内部標準のペンタンについて導き出された面積とし、A1は二硫化炭素およびC20まで(C20は除く)の軽油の先頭部分に関連する面積、A2はC22まで(C22は除く)に関連する面積、A4はC24まで(C24は除く)に関連する面積、A5はC25まで(C25は除く)に関連する面積である。
【0055】
有利には、標準ペンタンの濃度を所定の値に合わせる。そうすることで、クロマトグラフィーの条件にかかわらず、それぞれの化合物(または化合物族)の相対面積を計算することができる。
【0056】
補正した面積A0’は以下のようにして計算される。
− ペンタンの質量はm−m/mに相当する。
− 決められた濃度(例えば0.0066)を[C]とする。
そこで、次式で計算する:A0’=A0・[C]/[C]。
【0057】
較正曲線の作成は、2つの装置(図3の装置と図2のクロマトグラフを組み込んだ装置)のいずれについても以下の要領で行う。
− 秤量した実際の軽油含有量はg=(m−m/mに相当する。
− iを1から4までとして、それぞれの面積Aiについて、最小二乗法などを用いて関数
に近似的に対応する直線を引く。
【0058】
較正直線の方程式をy=ax+bの形で表すことによって、aとbの値を確定する。こうして、同じ標準から4つの較正直線が得られる。
【0059】
分析対象サンプルについて、同様にして積分を行い、Ao’、A1、A2、A3およびA4の面積を確定する。次いで、1から4までのiについて、比
を計算する。
【0060】
得られた比および較正直線をもとに、次式によって軽油含有量を確定する。
【0061】
潤滑剤が既知でない場合は、i=1のときの軽油含有量の計算のみを考慮に入れる。
【0062】
軽油の重質成分とほとんど重ならない一部のオイル(2つの化合物族の間の共溶出がほとんどない)については、i=1について得られる軽油含有量に応じて考慮すべき結果を確定する。例えば、その値が0〜2%の範囲にあれば、i=1で得られる値を考慮に入れ、その値が2〜10%の範囲にあれば、i=2で得られる値を考慮に入れ、その値が10〜20%の範囲にあれば、i=3のときの値を考慮に入れ、その値が20%超であれば、i=4のときの値を考慮に入れる。そうして、軽油の共溶出を考慮に入れる。
【0063】
オイルによっては特殊な構造をもつ場合(例えば、混合物中にC16が存在するとき)があるため、特殊な積分が必要となり得る。そうした積分では、とりわけ、当該の化合物に対応するピークの面積が除外される場合があり、特別な較正が必要となる。
【0064】
有利には、クロマトグラフの温度および圧力のプロファイルは、C、C20〜C26およびC30の炭化水素化合物を含む溶液(例えば、5mlのCSに対してこれらの化合物それぞれ60mg)について行った較正の結果に応じて定期的に補正する。これにより、カラムの損耗および保持時間の変動を考慮に入れる。
【0065】
有利には、クロマトグラフに新しいカラムを設置するたびに新たな較正直線を作成する。
【0066】
結果。
本発明の方法(図3の装置を使用)と従来技術の方法(図2のクロマトグラフを使用)のそれぞれによってE1からE4までのサンプルの軽油含有量を分析した結果を表1に示す。
【0067】
表1
【0068】
表1は、本発明による方法「MURDIGA」によって、従来技術を用いた場合と同じように信頼性のある正確な結果を、より迅速に得ることが可能であることを示している。実際、同等の信頼性および正確性を得るための分析時間は、従来技術の方法を使用した場合が2時間であるのに対して、本発明による方法では6分30秒である。すなわち、従来技術の方法では2時間に1回の分析しかできないが、本発明による方法では18回の分析を行うことができる。
図1
図2
図3