(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5721463
(24)【登録日】2015年4月3日
(45)【発行日】2015年5月20日
(54)【発明の名称】鋳鋼品の製造方法
(51)【国際特許分類】
C21D 6/00 20060101AFI20150430BHJP
C21D 9/00 20060101ALI20150430BHJP
【FI】
C21D6/00 E
C21D9/00 A
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2011-27766(P2011-27766)
(22)【出願日】2011年2月10日
(65)【公開番号】特開2012-167307(P2012-167307A)
(43)【公開日】2012年9月6日
【審査請求日】2013年4月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】310010564
【氏名又は名称】三菱重工コンプレッサ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112737
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 考晴
(74)【代理人】
【識別番号】100118913
【弁理士】
【氏名又は名称】上田 邦生
(72)【発明者】
【氏名】西岡 純平
(72)【発明者】
【氏名】森 知広
【審査官】
鈴木 葉子
(56)【参考文献】
【文献】
特開平08−165541(JP,A)
【文献】
特開2002−088441(JP,A)
【文献】
特開平06−285608(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21D 6/00−6/04
C21D 9/00−9/44,9/50
C21D 1/02−1/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋳型を用いた鋳込みによって成型品を形成するステップと、
前記成型品に対してボルト用に穴あけ加工して穴が設けられ、前記穴の付近は他部分より肉厚に形成された加工品を形成するステップと、
空気を吹き付けることによって前記加工品を焼入れするステップと、
焼入れ時の前記加工品の前記穴の内部の温度を測定するステップと、
焼入れによる割れや変形を防止できる程度に前記加工品の表面と前記加工品の内部との温度差が少なくなるように、測定された前記温度に基づいて焼入れ時の前記加工品の冷却速度を調整するステップと、
焼入れされた前記加工品に対して仕上げ加工するステップと、
を含む鋳鋼品の製造方法。
【請求項2】
前記温度に基づいて前記空気の送風量を調整することにより、焼入れ時の前記加工品の内部の冷却速度を調整する請求項1に記載の鋳鋼品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋳込み後、焼入れして形成される鋳鋼品の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
蒸気タービンなどのタービン用車室や、バルブ本体などに使用される鋳鋼は、非常に肉厚である。そのため、焼入れ時の冷却速度が遅い場合、フェライトが析出することによる鋳鋼品の強度低下が問題となる。
図4は、鋳鋼材のCCT曲線(Continuous Cooling Transformation diagram: 連続冷却変態曲線)を示すグラフである。
図4によれば、冷却速度が遅いと、フェライト変態域にかかり、鋳鋼材にフェライトが析出することが分かる。
【0003】
特許文献1では、クリープ破断強度を高め、靭性を改善することによって、溶接性の良好な高強度低合金鋳鋼およびその熱処理法に関する技術が開示されている。また、特許文献2では、高温において高いクリープ破断強度を有する高Cr耐熱鋳鋼の熱処理法に関する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3254102号公報
【特許文献2】特開昭58−151421号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来、肉厚部を有する成型品を焼入れする場合、冷却速度が遅くならないように、水を成型品へ噴射することによって、冷却速度を速めている。これによって、空気を成型品へ噴射する場合に比べて、冷却時間を短縮できる。しかし、水による冷却は冷却設備にコストがかかるという問題がある。また、冷却速度が急速すぎることによって、成型品表面と肉厚部中心との温度差が大きくなり、割れや変形が発生するという問題がある。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、焼入れによって簡易に適正な内部組織を得ることが可能な鋳鋼品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の鋳鋼品の製造方法は以下の手段を採用する。
すなわち、本発明に係る鋳鋼品の製造方法は、鋳型を用いた鋳込みによって成型品を形成するステップと、成型品に対してボルト用に穴あけ加工して穴が設けられた加工品を形成するステップと、加工品を焼入れするステップと、焼入れ時の加工品の穴における温度を測定するステップと、測定された温度に基づいて焼入れ時の加工品の冷却速度を調整するステップと、焼入れされた加工品に対して仕上げ加工するステップとを含む。
【0008】
この発明によれば、鋳型を用いた鋳込みによって成型品が形成され、この成型品に対してボルト用に穴あけ加工がされて、穴が設けられた加工品が形成される。そして、穴が設けられた加工品が焼入れされる。このとき、加工品の穴における温度が測定され、測定された温度に基づいて焼入れ時の加工品の冷却速度が調整される。その後、焼入れされた加工品に対して仕上げ加工がされる。したがって、鋳込み後、かつ焼入れ前に穴あけ加工がされるため、焼入れ時に加工品の穴の温度を測定できる。そのため、加工品のうち冷却されにくい内部の冷却速度を調整でき、内部におけるフェライトの析出を防止できる。また、加工品表面と内部の温度差が低減し、割れや変形の発生を防止できる。
【0009】
ここで、製造される鋳鋼品は、例えばタービン用車室、バルブ本体(弁箱)などの鋳鋼製のケーシングなどである。鋳鋼品には、他部材と接続するため、ボルト結合のためのボルト穴が設けられる。ボルト穴が鋳鋼品の肉厚部に設けられる場合、従来冷却しづらかった肉厚部が穴を介して冷却できるため、加工品の冷却時間を短縮ことができる。
【0010】
上記発明において、空気を吹き付けることによって加工品を焼入れしてもよい。
【0011】
この発明によれば、穴が設けられた加工品が空気によって焼入れされる。このとき、加工品内部も空気によって穴を介して急速に冷却できるため、通常急速な焼入れのために使用される水噴射による冷却設備が不要となる。したがって、本発明では、簡易に焼入れすることができ、コストの低減を図ることもできる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、焼入れによって簡易に適正な内部組織を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の一実施形態に係る鋳鋼品の製造方法を示すフローチャートである。
【
図3】本発明の一実施形態に係る製造方法で使用される冷却装置を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明に係る一実施形態について、図面を参照して説明する。
本実施形態に係る製造方法によって製造される鋳鋼品は、例えば、蒸気タービンなどのためのタービン用車室や、バルブ本体(弁箱)などのケーシングなどである。完成品としての鋳鋼品には、他部材と接続するため、ボルト結合のためのボルト穴が設けられる。
図2は、本実施形態の製造方法によって製造される鋳鋼品の一例を示す斜視図である。
【0015】
図2に示す鋳鋼品の一例は、バルブ本体1であり、フランジ3に穴2が設けられ、上面5aおよび下面5bに穴4が設けられる。穴2,4は、ボルト(図示せず。)によるボルト結合のためのボルト穴である。鋳鋼品は一般に肉厚であるが、ボルト結合されるボルト穴付近、例えばフランジ3や上面5a、下面5bは、他の部分に比べてさらに肉厚である。
【0016】
鋳鋼は、例えば、炭素鋼にCrとMoがそれぞれ1%程度添加されたCrMo鋳鋼、0.2%程度のVが添加されたCrMoV鋳鋼や、2.25%程度Crが添加された2.25CrMo鋳鋼である。
【0017】
次に、本実施形態に係る鋳鋼品の製造方法について
図1を参照して説明する。
まず、鋳込み工程として、鋳型に溶融された金属を注入する(ステップS1)。金属が冷却されて固化すると、成型品が形成される。鋳型は、目的とする成型品の形状に対応した型形状を有する。鋳型には、完成品である鋳鋼品に設けられるボルト穴に対応する型形状がないため、鋳込みによって形成された成型品にはボルト穴はない。
【0018】
上記鋳込み後、かつ焼入れ前に、成型品に対してボルト用に穴あけ加工して穴を形成する(ステップS2)。これにより、穴が設けられた加工品が形成される。なお、焼入れ後に仕上げ加工するため、加工品の穴は、完成時の鋳鋼品の穴よりも小さくてよく、余肉が付けられている。
【0019】
次に、焼入れ時に穴内部の温度を測定できるように、穴の内周壁に熱電対を設置する(ステップS3)。
図3は、本発明の一実施形態に係る製造方法で使用される冷却装置を示す構成図である。
図3に示す熱電対11は、一端側の接合点10が加工品15の穴内部に設置され、他端が温度測定部12に接続される。これによって、温度測定部12にて、加工品15の穴内部の温度を測定できる。
【0020】
そして、加熱されて温度が上昇している加工品15を焼入れする(ステップS4)。焼入れは、加工品15へ空気を吹き付けることによって行う。これによって、穴が設けられた加工品15は空気によって焼入れされる。このとき、加工品15内部も空気によって穴を介して急速に冷却できるため、通常急速な焼入れのために使用される水噴射による冷却設備が不要となる。
【0021】
焼入れ時の加工品15の冷却速度は、温度測定部12で得られた穴内部の温度に基づいて調整される(ステップS5)。すなわち、制御部13は、温度測定部12で得られた測定温度を受け取り、測定温度、目標温度、経過時間および目標冷却時間に基づいて、冷却部14を制御する。冷却部14は、制御部13によって制御され、冷却部14は目標とする冷却速度となるように送風量が調整されつつ、加工品15へ空気を吹き付ける。これによって、冷風が送られた加工品15は、適切な速度で冷却される。
【0022】
また、冷却部14からの送風量を加工品15の部位に応じて変化させることによって、部位ごとに適切な速度で冷却できる。さらに、熱電対11を穴内部だけでなく、加工品表面にも設置して、加工品表面と内部の温度差が少なくなるように、冷却部14からの送風を制御すれば、加工品表面と内部の温度差を原因とする割れや変形の発生を防止できる。
【0023】
その後、焼入れされた加工品に対して仕上げ加工がされる(ステップS6)。仕上げ加工によって、完成品としての鋳鋼品が形成される。例えば、加工品の穴や表面等を削ることによって、製品として適切な形状、サイズに整えられる。
【0024】
以上の通り、本実施形態では、冷却速度を管理しながら、穴が設けられた加工品を焼入れする。すなわち、焼入れ前に鋳込みによって形成された成型品に対して穴あけ加工して加工品を形成することによって、加工品の表面積が増加し、加工品が冷却されやすくなる。また、部材内部へ達するボルト穴が形成されることによって、通常冷却しづらい内部の冷却速度を速めることができる。特に、ボルト穴が肉厚部に設けられている場合には、肉厚部の冷却速度を速めることができる。
【0025】
そして、穴内部の温度を測定することによって、加工品中心部の温度を確認しながら、冷却速度を管理できるため、加工品中心部、例えば肉厚中心部のフェライト析出を低減または回避できる。また、加工品表面と内部の温度差を低減でき、割れや変形の発生を防止できる。その結果、適正な内部組織を有する鋳鋼品が製造される。
【0026】
さらに、穴内部が冷却され、加工品内部が冷却されやすくなるため、本実施形態の焼入れは水ではなく空気による吹き付けでよい。したがって、通常急速な焼入れのために使用される水噴射による冷却設備が不要となり、簡易に焼入れすることができ、コストの低減を図ることもできる。
【符号の説明】
【0027】
1 バルブ本体
2,4 穴
3 フランジ
5a 上面
5b 下面
10 接合点
11 熱電対
12 温度測定部
13 制御部
14 冷却部
15 加工品