【文献】
庄司正成他,音響情報に基づく複数歩行者位置推定,追跡の検討,電子情報通信学会技術研究報告,日本,社団法人電子情報通信学会,2011年 1月13日,第110巻,第378号,p.7−12
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記歩行者数算出部は、さらに、前記複数の歩行周期の中から、同一の歩行周期の2つの物音の発生時刻の差分を求め、前記差分が前記同一の歩行周期より小さい場合に前記同一の歩行周期の2つの物音は異なる歩行者の物音であると判定し、異なる歩行者の物音の前記複数の歩行周期に対して前記の度数分布を求め、前記度数分布において度数が前記所定の閾値以上の前記歩行周期のグループ数を、前記歩行者数として算出すること、
を特徴とする請求項1に記載の歩行者数推定装置。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に添付図面を参照して、この発明にかかる歩行者数推定装置及び歩行者数推定方法の実施の形態を詳細に説明する。
【0014】
(実施の形態1)
図1は、実施の形態1にかかる歩行者数推定装置100の構成を示すブロック図である。
図1に示すように、歩行者数推定装置100は、監視対象に複数配置され、監視対象を含む音源から発生される物音を集音する集音部としてのマイクロホン200と接続されている。また、
図1では省略しているが、歩行者数推定装置100は、ネットワークを介して監視センタに接続されている。監視センタは、歩行者数推定装置100から、監視領域における異常を検知した旨の警報を受信した場合に、待機中の警備員に対して異常が検知された監視領域へ向かう旨の指示を出すとともに、必要に応じて警察や消防など関係機関への通報を行うコンピュータである。
【0015】
歩行者数推定装置100は、
図1に示すように、AD変換部101と、物音検出部102と、分類部103と、歩行周期算出部104と、歩行者数算出部105と、出力部106と、記憶部110とを主に備える。なお、歩行者数推定装置100をマイクロホン200を備えた構成としてもよい。
【0016】
AD変換部101は、マイクロホン200から集音された物音の音響信号をディジタル音に変換し出力する。以下、マイクロホン200により集音された物音をアナログ音、AD変換部101による変換後のディジタル音を含め音響信号と総称し、特に明示する場合は、ディジタル音を音響データという。
【0017】
物音検出部102は、AD変換部101により変換された音響データの中から連続する物音を検出する。ここで、物音とは、AD変換部101により出力された音響データの中からあらかじめ設定された閾値以上の信号強度が検出された音響データのことであり、足音等がある。例えば、物音検出部102は、音響データの値の2乗平均平方根を求めることにより信号パワーを算出し、あらかじめ設定された閾値以上の信号パワーを物音として検出する。なお、物音の検出方法は、これに限定されず、音から物音を検出可能な手法であればよい。
【0018】
ここで、物音検出部102による同一歩行内から足音を検出する方法について説明する。物音検出部102は、例えば、分析フレーム長50m秒、フレーム間隔2.5m秒として出力信号のパワーを求め、暗騒音の平均パワーの2.5倍を閾値として信号の出力時刻を抽出する。
【0019】
図2は、音響信号と信号パワーの経時的変化一例を示す図である。
図2の上段は音響信号の経時的変化を示し、縦軸は音響信号の振幅を、横軸は音響信号の検出時間をそれぞれ示す。
図2の下段は信号パワーの経時的変化を示し、縦軸は信号パワーの強度を、横軸は信号検出時間をそれぞれ示す。
【0020】
また、横軸に示した数字は出力された音響信号の個数を示し、図中の横ラインは出力された全ての音響信号から物音を検出するための信号パワーの閾値を示す。物音検出部102は、AD変換部101により出力された1番目〜8番目の音響信号のうち、閾値以上の信号パワーが出力された音響信号を物音として検出する。ここでは、物音検出部102は、閾値に満たない5番目の音響信号以外の音響信号を物音として検出する。
【0021】
なお、雑音の特徴量を予め雑音データとして記憶部110に記憶させておき、この雑音データを用いて、物音検出部102により特定音として検出された物音から雑音を除去するように構成してもよい。
【0022】
分類部103は、物音検出部102により検出された物音を、音響データの周波数構造の類似度が所定の範囲内にある物音をまとめたグループに分類する。例えば、分類部103は、検出された物音の音響信号に対して周波数構造の類似性を比較し、記憶部110に記憶された周波数類似度データにより類似度の高い物音を同一の音源から発生された音として1つのグループに分類する。
【0023】
分類部103は、音響信号の周波数構造をフーリエ変換やLPCケプストラムによって求め、類似性を比較してもよい。
図3は、音響信号の周波数構造の一例を示す図である。
図3の上段は、縦軸に振幅を、横軸に時間を示す音響信号の一例である。また、
図3の下段は、縦軸に信号パワーを、横軸に周波数を示す周波数構造の一例である。例えば、分類部103は、
図3の上段に示す音響信号中のある一定区間を抽出し、フーリエ変換により周波数構造を算出する。なお、分類部103による周波数構造の算出には、フーリエ変換のほか線形予測分析等他の手法を用いても良い。
【0024】
図4は、周波数構造の特徴量の一例としてLPCケプストラム係数によって求められた包絡線の図である。分類部103は、算出した周波数構造を多項式で表し、包絡線を算出する。算出した包絡線の係数を音響信号の特徴量とする。
【0025】
また、分類部103は、音響信号の周波数構造から抽出した複数の特徴量を比較する。例えば、分類部103は、特徴量の2乗の差を求めることにより距離を算出し、記憶部110に記憶された周波数類似度データから距離に応じて同じ物音と判断できる確率を算出する。ここで、周波数類似度データは、所定の周波数構造の特徴を示すデータであり、集音された物音の分類基準となる。同じ物音と判別できる確率は、どの程度の類似度までを同じ物音と判断するかを示す基準である。なお、周波数類似度データは、人の交通量等、歩行者数推定装置100の設置環境に応じて任意の範囲で設定可能である。
【0026】
ここで、記憶部110に記憶された周波数類似度データを求める方法について説明する。一般に、同一歩行内の足音の周波数構造は類似しているので、類似した周波数構造をもつ物音を抽出することにより同一歩行内の足音を分類できる。そこで、あらかじめ用意した足音のサンプルデータから周波数構造の特徴量として、例えば、LPCケプストラム係数を求め、同一歩行内の足音の距離の分布と、異なる歩行間の足音の距離の分布から、同一歩行内の足音と判別できる確率を算出する。
【0027】
図5は、LPCケプストラム係数により同一歩行内の足音と判別可能な確率を示す図である。
図5で、横軸は足音のLPCケプストラム係数間の距離を示し、縦軸は同一歩行内の足音である確率を示す。一例として、分類部103は、検出された各物音の周波数構造の距離から、この判別確率曲線により、同一歩行内の足音である確率を求める。
【0028】
記憶部110は、物音データ、周波数類似度データ、周期算出参照データ、足音判断参照データ、歩行周期データ、歩行者数データ等を記憶する。ここで、物音データとは、分類部103により分類された音響データである。
【0029】
また、周期算出参照データとは、周期を算出する際に参照されるデータのことであり、例えば、周期を算出する際に変動させる周期Pの所定の範囲がある。また、足音判断参照データとは、検出された物音を足音と判断する際の基準となるデータであり、例えば、算出された周期の平均値の最大値の所定の範囲が該当する。また、歩行周期データは、後述する歩行周期算出部104で算出された歩行周期のデータである。歩行者数データは、後述する歩行者数算出部105で算出された歩行者数のデータである。
【0030】
図6は、音響信号の周波数構造による分類の一例を示す図である。
図6に示す信号パワーは、
図2下段に示した信号パワーであり、グループ1およびグループ2はそれぞれ分類部103により分類された物音のグループである。
【0031】
分類部103は、検出された物音の信号パワーそれぞれの周波数構造の類似度により物音をグループ1とグループ2に分類する。ここで、分類部103は、類似度の比較により1番目から8番目の音響信号のうち、1番目の音響信号と、3番目の音響信号と、7番目の音響信号とをグループ1に分類している。また、分類部103は、同様に2番目の音響信号と、4番目の音響信号と、6番目の音響信号と、8番目の音響信号とをグループ2に分類している。
【0032】
歩行周期算出部104は、分類部103により分類されたグループごとに記憶部110に記憶された周期算出参照データを用いて物音の周期を算出する。ここでは、物音の周期として足音の周期を算出する。ここで、足音の周期を算出する上で、歩行周期について説明する。一般に歩行周期とは、一足目を最初に踏み出してから再び一足目と同じ足が接地するまでの動作のことである。
図7は、一般的な歩行周期の説明図である。
図7に示すように、例えば、最初に踏み出した右足の接地を接地(1)とし、次に踏み出した左足の接地を接地(2)とし、再度最初に踏み出した右足の接地を接地(3)とした場合、一般的に歩行周期は接地(1)〜接地(3)を一周期とされている。
【0033】
次に、本実施の形態における歩行周期について説明する。本実施の形態における歩行周期とは、一足目を踏み出してから次に踏み出した足が接地するまでの動作のことである。
図8は、本実施の形態における歩行周期の説明図である。
図7と同様に、例えば、最初に踏み出した右足の接地を接地(1)とし、次に踏み出した左足の接地を接地(2)とし、再度最初に踏み出した右足の接地を接地(3)とした場合、本実施の形態における歩行周期は接地(1)〜接地(2)を一周期とする。
【0034】
歩行周期算出部104は、余弦関数の周期の値を所定の範囲で変動させて、同一のグループに分類された物音の信号パワーのピークに余弦関数が描く波形
の当てはめを行い、あてはまった余弦関数の周期の値を物音の周期と決定する。
【0035】
例えば、歩行周期算出部104は、まず、以下の(1)式の周期Pを所定の範囲で変化させて、余弦関数の値を求める。
【0036】
【数1】
ここで、y
p、nは、周期Pのとき、n番目の物音がとる余弦関数の値とし、Pが示す周期として周期算出参照データが示す所定の範囲、例えば(0.1<P<2.0)が定められている。また、t
nは最初に出力された物音を周期算出のための基準(時間t
0=0)とした場合における、n番目に出力された物音の基準からの経過時刻(秒)とする。
【0037】
次に、歩行周期算出部104は、以下の(2)式により算出された各周期における物音に対する余弦関数の値の平均値S
pを求める。
【0039】
次に、歩行周期算出部104は、周期ごとに算出した余弦関数の値の平均値S
pの最大値S
maxを求める。歩行周期算出部104は、最大値S
maxがあらかじめ定めた閾値より大きければ、S
maxをとるときの周期をP
rとし、小さければ周期性はないと判断する。ここでは、一歩の歩行に要する時間を0.3秒から0.9秒の範囲であるとし、0.3<
Pr<0.9を満たす場合に、
Prの値を歩行周期とする。
【0040】
図9を用いて物音の周期の算出方法を具体的に説明する。
図9は、歩行周期算出部104による物音の周期算出手順を示す説明図である。
図9の上部に示すのは、分類された信号パワーである。まず、歩行周期算出部104は、信号パワーのピークが出力された時間tを上記(1)式に周期Pを変化させながら当てはめていく。
【0041】
例えば、同一グループに分類された3つの物音のtはそれぞれ、t
0=0(秒)(基準)、t
1=0.65(秒)、t
2=1.9(秒)とする。歩行周期算出部104は、まず、周期P=0.2を代入した(1)式に3点のtをそれぞれ当てはめ、各点が取る余弦関数の値を求めると、
y
0.2、t0=cos(2π×0/0.2)=1、
y
0.2、t1=cos(2π×0.65/0.2)=0、
y
0.2、t2=cos(2π×1.9/0.2)=−1となる。
歩行周期算出部104は、これらの値から平均値を求める。ここでは、
S
0.2=(y
0.2、t0+y
0.2、t1+y
0.2、t2)/3=0となる。
【0042】
次に、歩行周期算出部104は、周期P=0.6を代入した(1)式に3点のtをそれぞれ当てはめ、各点が取る余弦関数の値を求めると、
y
0.6、t0=cos(2π×0/0.6)=1、
y
0.6、t1=cos(2π×0.65/0.6)=0.87、
y
0.6、t2=cos(2π×1.9/0.6)=0.5となる。
歩行周期算出部104は、これらの値から平均値を求める。ここでは、
S
0.6=(y
0.6、t0+y
0.6、t1+y
0.6、t2)/3=0.79となる。
【0043】
歩行周期算出部104は、
図9に示すように、各ピークがとる三角関数の値が最大となる周期を求め、求めた周期を物音の周期と決定する。ここでは、周期P=0.2を代入した場合の平均値は0で、周期P=0.6を代入した場合の平均値は0.79であったので、平均値の最大値は0.79である。歩行周期算出部104は、平均値の最大値が0.79となった場合に代入された周期Pの値0.6を当該グループの物音の周期と決定する。
【0044】
歩行周期算出部104は、1つの物音の周期について最大となる周期を求めると、
図9に示すように、次の物音の周期を上記の一連の処理により算出する。これにより、人の歩行周期が変化した場合、例えば、徒歩から駆け足に変化したような場合にも歩行周期を算出することができる。
【0045】
図10は、余弦関数の当てはめによる歩行周期の算出結果の一例を示す図である。
図10の下段は、出力された足音の信号パワーを示し、横軸は最初の信号パワーの出力からの経過時間(秒)を示す。中段は、出力された信号パワーの中から抽出された閾値以上の信号パワーをもつ足音を示す。
図10の下段の、経過時間1.0〜3.0秒付近では、一歩で足音が2回ずつ発生しており、従来のケプストラム分析では的確に周期を算出できないデータである。また、経過時間3.0〜4.0秒付近では、閾値に満たない信号パワーの出力が図示されており、この部分は足音の集音が欠落したと考えられ、これについても従来手法では検出不可能なデータである。
【0046】
図10の上段は、中段に示す抽出された足音のデータに本実施の形態の三角関数当てはめにより算出された一定の歩行周期を示す。ここでは、歩行周期算出部104は歩行周期が0.71秒と算出したことを示している。
【0047】
歩行周期算出部104は、上述のように決定された物音の周期が、足音判断参照データが示す所定の範囲内であるか否かを判定し、所定の範囲内であると判定した場合に分類された物音を人間の足音であると判断し、算出された物音の周期を歩行周期とする。例えば、周期P
rが所定の範囲としてあらかじめ定められた0.3〜0.9秒の範囲内である場合、分類された物音を人間の足音と判断し、その物音の周期を歩行周期とし、歩行周期データとして記憶部110に保存する。ここで、所定の範囲は、状況に応じて変更可能である。
【0048】
なお、上述した歩行周期の算出は、複数の歩行者の足音に対しても適用可能である。
図11は、歩行周期が異なる2名の歩行者の足音の時系列データに対して、歩行周期の推定を行った結果を示すグラフである。
図11では、歩行者Aと歩行者Bの2人の足音データの波形を示している。
図11に示すように、1歩目を基準とすると(基準1)、歩行者Bの足音は周期的であるのに対し、歩行者Aの足音は周期的ではない。
【0049】
このことから、周期的である歩行者Bの足音に適合するように三角関数の周期を設定したときに、三角関数の値の平均値は最も高い値をとる。同様に、基準3を基準とした場合には、歩行者Aの足音が周期的であり、三角関数の平均値は最も高い値をとる。このため、複数の歩行者の足音に対しても上述した歩行周期の推定手法を適用し、1名の歩行者の歩行周期が推定可能である。
【0050】
従って、歩行周期算出部104は、検出された物音に対し順次、上述の分類部103による分類処理、歩行周期算出部104による歩行周期算出処理を繰り返し実行し、一または複数人の歩行周期を求め、その一または複数人の歩行周期の算出結果を歩行周期データとして記憶部110に保存する。
【0051】
図12は、歩行周期の算出結果(歩行周期データ)を示す図である。
図12では、基準1〜24のように24人の歩行周期の算出結果が得られた例を示している。
図13は、音響データ上での算出された歩行周期を示す図であり、
図12の歩行周期算出結果に対応したものである。
【0052】
図1に戻り、歩行者数算出部105は、歩行周期算出部104で算出された複数人の歩行周期の分布を求め、当該分布に基づいて、歩行者数を算出する。より具体的には、歩行者数算出部105は、複数人の歩行周期の度数分布を求め、度数分布において度数が所定の閾値以上の歩行周期のグループ数を、歩行者数として算出する。
【0053】
すなわち、歩行者数算出部105は、
図12に示すような歩行周期算出結果から、度数分布を求める。
図14は、歩行周期の度数分布の一例を示す説明図である。そして、歩行者数算出部105は、
図14に示すように、度数分布において所定の閾値以上の度数が集まっているグループの数を歩行者数として算出する。ここで、所定の閾値は、監視範囲内で採取されるであろう足音の個数等から予め設定しておく。
図14の例では、歩行者数が2名となる。
【0054】
図1に戻り、出力部106は、歩行者数算出部105により算出された歩行者数を、ディスプレイ装置などの表示装置、スピーカ等の音声出力装置、印刷装置等に出力する。また、歩行者数をネットワークを介して監視センタに送信するように構成してもよい。
【0055】
次に、以上のように構成された歩行者数推定装置100による歩行者数推定処理の手順について説明する。
図15は、歩行者数推定装置100による歩行者数推定処理の手順を示すフローチャートである。
【0056】
まず、AD変換部101は、入力された物音のアナログの音響信号をディジタルの音響信号(音響データ)にA/D変換する(ステップS1)。そして、物音検出部102は、音響データの中から連続する物音を検出する(ステップS2)。物音検出部102は、例えば、音響データの値の2乗平均平方根を求めることにより、信号パワーを算出し、検出した物音があらかじめ設定された閾値以上の信号パワーであるか否かを判定する(ステップS3)。
【0057】
分類部103は、物音検出部102により検出された物音が閾値以上の信号パワーであると判定された場合に(ステップS3:Yes)、周波数構造の類似性により物音をグループ分けする(ステップS4)。そして、分類部103は、グループごとに物音のデータを記憶部110に蓄積する(ステップS5)。
【0058】
一方、ステップS3で、検出された物音が閾値未満の信号パワーであると判定された場合には(ステップS3:No)、ステップS1に戻り、物音検出の処理を繰り返す。
【0059】
ステップS5の後、歩行周期算出部104は、周期算出に必要な数だけデータが蓄積されたか否かを判定する(ステップS6)。周期算出に必要な数だけデータがまだ蓄積されていない場合には(ステップS6:No)、ステップS1に戻り、物音検出の処理を繰り返す。
【0060】
一方、歩行周期算出部104は、周期算出に必要な数だけデータが蓄積されたと判定した場合に(ステップS6:Yes)、余弦関数の周期Pを指定された範囲で所定回数変化させる(ステップS7)。例えば、周期Pの範囲として、0.1<P<2.0が指定されている。
【0061】
次に、歩行周期算出部104は、蓄積されたデータごとに三角関数の値yを算出する(ステップS8)。そして、歩行周期算出部104は、蓄積されたデータごとに算出した三角関数の値yの平均値Sを算出する(ステップS9)。歩行周期算出部104は、ステップS7に戻り、周期Pの変化を所定回数行うまでステップS7からステップS9までの処理を繰り返す。なお、所定回数はデータ量等に応じて任意に設定してよい。
【0062】
次に、歩行周期算出部104は、算出した平均値Sの最大値とそのときの周期P
rを算出する(ステップS10)。そして、歩行周期算出部104は、P
rが閾値の範囲内であるか否かを判断する(ステップS11)。そして、P
rが閾値の範囲外である場合には(ステップS11:No)、検出された物音が足音でないと判断し、ステップS1に戻る。
【0063】
一方、P
rが閾値の範囲内である場合には(ステップS11:Yes)、歩行周期算出部104は、検出された物音が足音であると判断し、歩行周期をP
rと判定し(ステップS12)、算出された歩行周期P
rを歩行周期データとして記憶部110に蓄積する。そして、歩行周期データが歩行者数推定の必要数が蓄積されるまで(ステップS13:No)、ステップS1からS12までの処理を繰り返し、一または複数人の歩行周期を算出し、歩行周期データとして記憶部110に保存する。
【0064】
歩行者数推定の必要数が蓄積されたら(ステップS13:Yes)、歩行者数算出部105は、歩行周期データから、算出された一または複数の歩行周期の度数分布を生成する(ステップS14)。この度数分布は記憶部110に一時的に保存される。そして、歩行者数算出部105は、所定の閾値以上の度数を有する歩行周期のグループ数をカウントし、当該グループ数を歩行者数と判定して(ステップS15)、歩行者数データとして記憶部110に保存する。そして、出力部106は、この歩行者数を出力する(ステップS16)。
【0065】
このように、本実施の形態によれば、歩行者数算出部105は、算出された歩行周期の度数分布を求めて、所定の閾値以上の度数を有する歩行周期のグループ数を歩行者数と判定するので、小規模な装置構成で、装置の設置環境にも柔軟に対応することができ、かつ高精度に歩行者数を求めることができる。
【0066】
すなわち、本実施の形態では、マイクロホン200を一箇所に設置するのみで集音可能な範囲における歩行者数の計測が可能となるため、小規模な装置構成で高精度に歩行者数を求めることができる。
【0067】
また、集音範囲の設定を変更するのみで、歩行者数を計測したい環境に適合させることができ、足音が集音可能である場所にマイクロホン200を設置すれば良く、カメラのように画角や周囲の環境などに配慮する必要がないので、装置の設置環境にも柔軟に対応して、高精度に歩行者数を求めることができる。
【0068】
また、歩行周期算出部104は、三角関数の当てはめにより物音の周期を算出するので、例えば検出対象音である足音に揺らぎや欠落が発生した場合であっても、検出対象音の周期を算出することができる。
【0069】
(実施の形態2)
実施の形態1では、複数人の歩行者の歩行周期が異なる場合において歩行者数の推定を行う場合には有効であるが、歩行周期が同一の歩行者が存在する場合には正確に歩行者数を算出することが困難な場合がある。本実施の形態では、歩行周期が同一の歩行者が存在する場合でも、正確に歩行者数を算出することができるものである。
【0070】
本実施の形態の歩行者数推定装置100の機能的構成は、実施の形態1と同様である。本実施の形態では、歩行者数算出部105の機能が実施の形態1と異なっている。
【0071】
本実施の形態の歩行者数算出部105は、複数人の歩行周期の中から、同一の歩行周期の2つの物音の発生時刻の差分を求め、差分が同一の歩行周期より小さい場合に同一の歩行周期の2つの物音は異なる歩行者の物音であると判定し、異なる歩行者の物音の複数の歩行周期に対しての度数分布を求め、度数分布において度数が所定の閾値以上の歩行周期のグループ数を、歩行者数として算出する。
【0072】
図16は、観測音と検出された物音の例を示す説明図である。
図16の例では、基準1で算出した歩行周期が0.5秒、基準2で算出した歩行周期は0.5秒で、互いに等しいものとする。基準1と基準2の歩行周期の算出結果が等しい場合、その間の時間幅を計測する。ここで、基準nと基準mの時間幅(差分)を、時間間隔(n,m)と記す。また、以下のように定義する。
【0073】
D
1,2:基準1と基準2の時間幅、すなわち時間間隔(1,2)
b
1:基準1の発生時刻(秒)
b
2:基準2の発生時刻(秒)
P
r1:基準1で算出された歩行周期(秒)
P
r2:基準2で算出された歩行周期(秒)
この場合、歩行者数算出部105は、D
1,2を次の(3)式で算出する。
【0075】
そして、歩行者数算出部105は、(3)式で得られた物音の時間間隔と、歩行周期の算出結果である記憶部110に蓄積された歩行周期データとを比較する。ここでは、基準1と基準2における歩行周期が等しい場合を想定しているため、次の(4)式が成立する。
【0077】
そして、歩行者数算出部105は、足音の時間間隔(1,2)と歩行周期とを比較し、(5)式が成立する場合、基準1の足音と基準2の足音は異なる歩行者のものであると判断することができることから、歩行周期P
rには2名の歩行者が存在すると判断する。
【0079】
さらに、歩行者数算出部105は、同一の歩行周期の場合、(5)式の条件を満たさなくなるまで、足音の時間間隔(n,m)と歩行周期との比較および判定を繰り返し、歩行周期の間に含まれる足音の個数をカウントする。歩行者数算出部105は、このカウント数を、その歩行周期における歩行者数と判定する。
【0080】
図17は、歩行周期が同一の複数の歩行者の足音の例を示す説明図である。
図17において、基準1、基準2、基準3、基準4のすべての歩行周期P
rが同一であるとし、それぞれの基準の間隔との比較が、(6)式を満たすものであったとする。このような例の場合、歩行者数算出部105は、歩行周期P
rに含まれる歩行者数は3名であると判断する。
【数6】
【0081】
次に、以上のように構成された本実施の形態の歩行者数推定処理について説明する。
図18,19は、実施の形態2の歩行者数推定処理の手順を示すフローチャートである。入力された音響信号のAD変換から歩行周期P
rの判定までの処理(ステップS1〜S12)は実施の形態1と同様に行われる。
【0082】
歩行周期P
rの判定が行われたら、歩行者数算出部105は、歩行周期算出の初回であるか否かを判断する(ステップS21)。初回である場合には(ステップS21:Yes)、以降のステップS22,S23,S24の処理を行わずに、ステップS27へ進み、歩行周期算出部104は、算出された歩行周期を歩行周期データとして記憶部110に蓄積する(ステップS27)。
【0083】
一方、ステップS21で、歩行周期算出の初回でない場合には(ステップS21:No)、今回算出された歩行周期が、記憶部110に蓄積されている歩行周期データのうち前回算出された歩行周期と同一か否かを判断する(ステップS22)。
【0084】
そして、今回算出された歩行周期が、前回算出された歩行周期と異なる場合には(ステップS22:No)、以降のステップS23,S24の処理を行わずに、ステップS27へ進み、歩行周期算出部104は、算出された歩行周期を歩行周期データとして記憶部110に蓄積する(ステップS27)。
【0085】
一方、ステップS22で、今回算出された歩行周期が、前回算出された歩行周期と同一である場合には(ステップS22:Yes)、(3)式より、基準(n−1)と基準nの時間間隔D
(n-1)nを求める(ステップS23)。ここで。基準(n−1)は前回、基準nは今回を示す。
【0086】
次に、歩行者数算出部105は、歩行周期P
rと時間間隔D
(n-1)nとを比較し、P
r>D
(n-1)nであるか否かを判断する(ステップS24)。そして、P
r>D
(n-1)nである場合には(ステップS24:Yes)、歩行者数算出部105は歩行者数Mを1だけインクリメントする(ステップS25)。ここで、変数Mは予め初期化しておく。
【0087】
そして、歩行者数算出部105は、さらに一つ前の時間間隔D
(n-2)(n-1)を算出し(ステップS26)、ステップS24に戻る。すなわち、歩行周期P
r>時間間隔D
(n-1)nである場合に歩行者数をカウントアップしていく。
【0088】
ステップS24において、歩行周期P
r>時間間隔D
(n-1)nでない場合には(ステップS24:No)、歩行者数Mのカウントアップは行わず、歩行周期算出部104は、歩行周期を記憶部110に蓄積する(ステップS27)。
【0089】
そして、歩行者数算出部105は、記憶部110に歩行周期データが歩行者数算出の必要数蓄積されたか否かを判断する(ステップS28)。そして、歩行周期データが歩行者数算出の必要数蓄積されていない場合には(ステップS28:No)、ステップS1に戻る。
【0090】
一方、歩行周期データが歩行者数算出の必要数蓄積された場合には(ステップS28:Yes)、実施の形態1と同様に、歩行周期の度数分布を作成し(ステップS29)、歩行者数を算出し(ステップS30)、算出された歩行者数を出力する(ステップS31)。
【0091】
このように本実施の形態では、複数の歩行周期の中から、同一の歩行周期の2つの物音の発生時刻の差分を求め、差分が同一の歩行周期より小さい場合に同一の歩行周期の2つの物音は異なる歩行者の物音であると判定した上で、歩行者数を算出しているので、歩行周期が同一の歩行者が存在する場合でも、小規模な装置構成で、装置の設置環境にも柔軟に対応することができ、かつ高精度に歩行者数を求めることができる。
【0092】
次に、本実施の形態の適用例について説明する。
第1に、本実施の形態の歩行者数推定装置を、施設や商店の出入口等における通過者の人数計測に適用することができる。
図20は、施設や商店の出入口等における通過者の人数計測への適用例を説明するための模式図である。
【0093】
図20に示すように、通過者数を計測したい場所周囲の足音が採取できるようにマイクロホン200を設置して集音し、本実施の形態の手法により歩行者数を推定することにより、出入口等の通過者の人数を計測することが可能となる。
【0094】
第2に、本実施の形態の歩行者数推定装置を、施設等の入館における共連れ侵入者の検知を行う共連れ検知装置に適用することができる。ここで、共連れ侵入者とは、正規入館者の入館に追従することで不正な侵入を行う者である。
【0095】
図21は、共連れ検知装置への適用例を説明するための模式図である。
図21に示すように、ゲートの上にマイクロホン200を設置し、本実施の形態の手法により、ゲートを通過した入館者の歩行者数を推定する。そして、照合によって認証された正規入館者の人数に対し、推定された歩行者数が多い場合、その通過者は共連れであると判断し、ゲートを開けない等入館できないようにしたり、あるいは、監視員に連絡し対応する等の処置を行う。なお、マイクロホン200の設置位置は、ゲートの上方に設ける他、床近傍等、監視領域の足音が採取可能な位置であればいずれに設けてもよい。
【0096】
(実施の形態3)
実施の形態1、2では、歩行者の移動方向は考慮せずに歩行者数を推定していたが、この実施の形態3では、歩行者の移動方向を検知して、移動方向ごとに歩行者数の推定を行っている。
【0097】
図22は、実施の形態3の歩行者数推定装置の機能的構成を示すブロック図である。本実施の形態の歩行者数推定装置2100は、
図22に示すように、マイクロホンアレイ2120と、移動方向検出部2101、AD変換部101と、物音検出部102と、分類部103と、歩行周期算出部104と、歩行者数算出部2105と、出力部106と、記憶部110とを主に備える。ここで、AD変換部101、物音検出部102、分類部103、歩行周期算出部104、出力部106の機能については実施の形態1または実施の形態2と同様である。
【0098】
図23は、マイクロホンアレイ2120の構成図である。
図23に示すように、マイクロホンアレイ2120は、複数のマイクロホン200を空間的に配置したものである。
【0099】
移動方向検出部2101は、マイクロホンアレイ2120からの受音信号により音源である歩行者の移動方向を検出する。すなわち、複数のマイクロホン200で音響信号を受音した場合に各受音信号の間には時間差や振幅差が生じる。移動方向検出部2101は、これらの信号の差を利用して音源である歩行者の方向を推定する。
【0100】
例えば、マイクロホンアレイ2120において複数のマイクロホン200を縦一列に配置することにより、音の到来方向の上下方向を推定することができる。マイクロホンアレイ2120において複数のマイクロホン200を横一列に配置することにより、音の到来方向の左右方向を推定することができる。
【0101】
また、マイクロホンアレイ2120の信号処理により、特定方向からの音のみ集音感度を上げることができる。さらに、マイクロホンアレイ2120の信号処理により、特定方向からの音のみ集音感度を下げ、その方向からの雑音を低減することができる。
【0102】
歩行者数算出部2105は、移動方向検出部2101により検出された歩行者の移動方向ごとに、複数の歩行周期の度数分布を求め、度数分布に基づいて、移動方向ごとの歩行者数を算出する。なお、歩行者数算出処理については、実施の形態1または実施の形態2と同様の処理で行われる。
【0103】
このように本実施の形態では、歩行者の移動方向を検知して、移動方向ごとに歩行者数の推定を行っているので、小規模な装置構成で、装置の設置環境にも柔軟に対応することができ、かつ移動方向ごとに高精度に歩行者数を求めることができる。
【0104】
例えば、本実施の形態の歩行者数推定装置2100を、実施の形態2で説明した、施設や商店の出入口等における通過者の人数計測(第1の適用例)に適用すると、入店者と退店者の人数をそれぞれ計測することができる。
【0105】
なお、本発明は、上記実施の形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化することができる。また、上記実施の形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成することができる。例えば、実施の形態に示される全構成要素からいくつかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施の形態にわたる構成要素を適宜組み合わせても良い。