【実施例】
【0020】
図1に本発明の渦流探傷用内挿プローブの実施形態を示す。
図1(a)は、管軸方向の断面図、
図1(b)はA-A断面図、
図1(c)は、B-B断面図を示す。
【0021】
渦流探傷用内挿プローブ1は、中心部に設けた断面が矩形で、対辺方向に磁化された直方体状の永久磁石10と、直方体状の永久磁石10の両磁極面に断面が弓形状の継鉄20と、両磁極面と異なる面に断面が弓形状のコイル保持体50を結合している。磁力線は永久磁石10の内部ではN極から出てS極に向かうが、永久磁石10の外部では、磁路長が短くなるようにN極から出て強磁性鋼管Tの円周方向を通りS極に戻るため、
図1(b)に示すように強磁性鋼管Tの円周方向の一部を磁化することになる。永久磁石10として、NdFeB系、又はSmCo系の希土類磁石が、飽和磁化が高く、保磁力が大きいので望ましい。
【0022】
また、永久磁石10の断面形状として、磁化方向の辺を長さ、磁化方向と垂直の辺を幅とすると長さ対幅の比率は、0.5(比で1:2)から2.0(比で2:1)程度が望ましい。長さ対幅の比率が0.5未満になると磁極面積は増えるが、反磁場係数が大きくなり動作磁場が小さくなり全体の磁束が減少し、長さ対幅の比率が2.0超になると反磁場係数は小さくなり動作磁場は大きくなるが、磁極面積が減少して、全体の磁束が減少するからである。なお、本実施例では、長さ対幅の比率が0.8のNdFeB磁石を用いている。
【0023】
更に、渦流探傷用内挿プローブ1の長さ方向中央付近の継鉄20の永久磁石10の両磁極面と接する部分に空隙30を設け、2つの検査コイル40a、40bを、空隙30では直線状、コイル保持体50では弓形状に沿って巻回し、2つの検査コイル40a、40bの差動出力を得るようにしている。なお、検査コイル40a、40bは、80μmの被覆銅線を60回巻いたものである。
【0024】
検査コイル40a部分での断面図を
図1(c)に示すが、強磁性鋼管Tが飽和磁化される部分では、検査コイル40aはコイル保持体50に沿って弓形状に張り出し、強磁性鋼管Tとの距離が近くなりこの部分から寄与する信号強度は大きくなるが、磁場が弱く、飽和磁化に不十分な部分では、検査コイル40aは継鉄20と永久磁石10の両磁極面と接する部分の空隙30を直線状に通るので、強磁性鋼管Tとの距離が遠く、継鉄20で磁気シールドされるため、この部分から寄与する信号強度は微弱となる。
【0025】
なお、本発明の渦流探傷では、コイル保持体50に沿って弓形状に張り出した部分からの検査コイル40a、40bの信号で探傷を行うので、強磁性鋼管Tの円周方向全面の探傷を行うには、渦流探傷用内挿プローブ1を所定速度で回転させるか、複数の渦流探傷用内挿プローブ1を所定角度をつけて、シリーズに接続することで対応することができる。
【0026】
また、2つの検査コイル40a、40bの差動出力を得るには、例えば、検査コイル40a、40bの信号を渦流探傷用内挿プローブ1の吊垂用索条を兼ねるケーブル60から取り出し、ブリッジ回路で差動出力を得ることができる。更には、渦流探傷用内挿プローブ1にブリッジ回路等を搭載する基板を組み込むことも可能である。
【0027】
コイル保持体50は、例えば、ベークライト、ナイロン、ポリアセタールのような非磁性且つ非導電体で作られている。これにより、コイル保持体50からの残留磁化の影響や渦電流の発生を抑制することができ、強磁性鋼管Tの信号へのノイズを減らすことができる。
【0028】
また、永久磁石10と継鉄20とコイル保持体50とを結合した渦流探傷用内挿プローブ1の断面は略円形になっている。これにより、強磁性鋼管Tに内挿した際に強磁性鋼管Tの内面と信号検出に寄与する弓形状に張り出した検査コイル40a、40bとの距離が一定の部分が多くなり、出力が向上する。
【0029】
コイル保持体50には深さ1mm、幅2mmの凹溝を2つ形成し、それぞれ2つの検査コイル40a、40bは、凹溝に巻回して、検査コイル40a、40bの切断や接触による変形がないようにしている。
【0030】
図2には、本発明の信号検出回路のブロック図を示す。発振器からの高周波信号を電力増幅器で増幅して、検査コイル40a、40bに送信し、ブリッジ回路で検査コイル40a、40bの差動出力を検出して、増幅器で増幅する。増幅された信号と発振器からの信号は同期検波器1に送信してX成分を検出する。増幅された信号と発振器の信号を移相器で90度位相シフトした信号は同期検波器2に送信してY成分を検出する。
【0031】
図3には、管内部磁束密度の管軸方向磁化と管周方向磁化の計算結果を示す。計算結果は、管外径25.4mmの場合の鋼管肉厚中央部の磁束密度を、鋼管肉厚の関数として3次元有限要素解析によって求めたものである。なお、プローブ外径は鋼管内径より1mm小さい場合について、永久磁石10はNdFeB磁石、継鉄20は純鉄の磁気特性を用いて計算した結果である。この結果から鋼管の周方向に磁化する方が、従来の鋼管の軸方向に磁化する方より鋼管を強く磁化できることが言える。
【0032】
従来法の円筒状コイルを用いた渦流探傷用内挿プローブと本発明の渦流探傷用内挿プローブとのリフトオフの影響を調査するため探傷試験を行った。探傷試験に用いた強磁性鋼管Tは、外径が19mm、肉厚2.3mmの炭素鋼鋼管で、鋼管外面に表1で示すような外径と深さの傷を人工的に作成したものである。
【0033】
【表1】
【0034】
図4(a)には、従来法の円筒状コイルを用いた渦流探傷用内挿プローブのリフトオフの影響、
図4(b)には本発明の渦流探傷用内挿プローブとのリフトオフの影響を示す。なお渦流探傷用内挿プローブの外径は双方とも12mm、永久磁石10はNdFeB磁石、継鉄20は軟鉄を用いたもので発振器の周波数は50kHzであった。従来法の継鉄20の永久磁石10と結合していない部分に円筒状の検査コイル48を配設した渦流探傷用内挿プローブ8では、円筒状の検査コイル48のリフトオフが変動すると鋼管に誘起される渦電流が大きく変動する。すなわち
図6(b)で3時位置の円筒状の検査コイル48が鋼管に接近すると9時位置の円筒状の検査コイル48が鋼管から遠ざかり、検出される信号も大きく変動する。更に隣接配置した2個の検査コイルの差動をとっても、ヨー角度揺動に伴うリフトオフ変動を抑制することができない。そのため零点レベルの変動が大きく微小な欠陥(例えば傷D、F)が検出できない。
【0035】
一方、本発明の渦流探傷用内挿プローブ1では、検査コイル40a、40bを継鉄20のある部分では鋼管から離れるように直線状に、継鉄20のない部分では鋼管に近づくように円周方向に巻回しているので、プローブの揺動に伴うリフトオフ変動の影響が小さい。すなわち
図1(c)で3時位置の弓形状部が鋼管に接近すると9時位置の弓形状部が鋼管から遠ざかり鋼管に誘導される渦電流の総和はあまり変化せず、検査コイル自身にリフトオフ変動補償機能を有する。更に2つの検査コイル40a、40bの差動出力を得るようにしているので、鋼管に接近した場合、鋼管から遠ざかった場合、ヨー角度揺動がある場合でも零点変動が少なく、微小な欠陥を良好に検出することが可能である。
【0036】
以上説明したように、本発明の渦流探傷用内挿プローブは永久磁石と継鉄で円周方向に強磁性鋼管を飽和磁化し、2つの検査コイルを継鉄のある部分では強磁性鋼管から離れるように、継鉄のない部分では強磁性鋼管に近づくように円周方向に巻回し、更に2つの検査コイルの差動をとるように構成したので、リフトオフによる信号の変動がなく、検出精度の高い渦流探傷用内挿プローブを提供できるものである。