特許第5721616号(P5721616)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5721616ゲル状飲食品組成物の製造方法およびゲル化剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5721616
(24)【登録日】2015年4月3日
(45)【発行日】2015年5月20日
(54)【発明の名称】ゲル状飲食品組成物の製造方法およびゲル化剤
(51)【国際特許分類】
   A23L 1/05 20060101AFI20150430BHJP
   A23L 1/30 20060101ALI20150430BHJP
【FI】
   A23L1/04
   A23L1/30 Z
   A23L1/30 B
【請求項の数】15
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2011-286916(P2011-286916)
(22)【出願日】2011年12月27日
(65)【公開番号】特開2013-132286(P2013-132286A)
(43)【公開日】2013年7月8日
【審査請求日】2013年11月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006127
【氏名又は名称】森永乳業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】早川 結樹
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 桂介
(72)【発明者】
【氏名】武田 安弘
【審査官】 田中 晴絵
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−077068(JP,A)
【文献】 特開2008−301775(JP,A)
【文献】 特開平10−215795(JP,A)
【文献】 特開2007−077107(JP,A)
【文献】 特開2009−278968(JP,A)
【文献】 特開平11−187827(JP,A)
【文献】 特開2008−086307(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 1/05
A23L 1/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(1)および(2)の工程を有するゲル状飲食品組成物の製造方法:
(1)イオタカラギナン、キサンタンガム、並びにグルコマンナン及び/又はローカストビーンガムを含有するゲル化剤であって、キサンタンガム、グルコマンナン及び/又はローカストビーンガムの総量100質量部に対するイオタカラギナンの割合が12質量部以上400質量部未満、及びキサンタンガム100質量部に対するグルコマンナン及び/又はローカストビーンガムの総量が10質量部以上150質量部未満であるゲル化剤を、飲食物に添加するか、または飲食物を上記ゲル化剤に添加する工程、および
(2)上記ゲル化剤が添加された飲食物を70質量%以上の水存在下、5〜70℃の温度範囲で4000rpm以上15000rpm以下の条件で撹拌し、その後、ゲル化させてゲル状飲食品組成物を得る工程
を含む方法。
【請求項2】
前記飲食物に対するゲル化剤の配合割合が、ゲル状飲食品組成物中の含有量に換算して0.5〜4質量%である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記飲食物がタンパク質を含有する飲食物であって、当該タンパク質の割合がゲル状飲食品組成物中の含有量に換算して3〜10質量%である請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記飲食物が澱粉を含有する飲食物であって、当該澱粉の割合がゲル状飲食品組成物中の含有量に換算して5〜50質量%である請求項1又は2に記載の方法。
【請求項5】
前記ゲル化剤がさらにジェランガムを含有するものである、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
上記ゲル化剤がキサンタンガム、グルコマンナン及び/又はローカストビーンガムの総量100質量部に対して5〜200質量部のジェランガムを含有するものである、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記ゲル状飲食品組成物が咀嚼・嚥下補助用の用途を含むものである、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法によって製造される、30〜60℃の温度範囲で保形性を有する経口用ゲル状飲食品組成物。
【請求項9】
イオタカラギナン、キサンタンガム、並びにグルコマンナン及び/又はローカストビーンガムを含有し、かつキサンタンガム、グルコマンナン及び/又はローカストビーンガムの総量100質量部に対するイオタカラギナンの割合が12質量部以上400質量部未満、及びキサンタンガム100質量部に対するグルコマンナン及び/又はローカストビーンガムの総量が10質量部以上150質量部未満であって、飲食物にゲル化性を付与し、30〜60℃の温度範囲で保形性を有する経口用ゲル状飲食品組成物を調製するために用いられることを特徴とする、ゲル化剤(但し、イオタカラギナン24質量%、キサンタンガム11質量%、ローカストビーンガム11質量%、及びジェランガム5.5質量%含有するゲル化剤を除く。)
【請求項10】
4000rpm以上15000rpm以下の条件で撹拌して前記飲食物にゲル化性を付与する特性を有する、請求項9に記載のゲル化剤。
【請求項11】
更にジェランガムを含有するものである、請求項9又は10記載のゲル化剤。
【請求項12】
キサンタンガム、グルコマンナン及び/又はローカストビーンガムの総量100質量部に対して5〜200質量部のジェランガムを含有する請求項11に記載のゲル化剤。
【請求項13】
前記飲食物がタンパク質を含有する飲食物であって、当該タンパク質の割合がゲル状飲食品組成物中の含有量に換算して3〜10質量%である請求項9〜12のいずれか一項に記載のゲル化剤。
【請求項14】
前記飲食物が澱粉を含有する飲食物であって、当該澱粉の割合がゲル状飲食品組成物中の含有量に換算して5〜50質量%である請求項9〜12のいずれか一項に記載のゲル化剤。
【請求項15】
粉末状または顆粒状である請求項9〜14のいずれか一項に記載のゲル化剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、飲食物とゲル化剤とを混合してゲル状飲食品組成物を製造する方法に関する。また本発明は、上記ゲル状飲食品組成物の製造に使用されるゲル化剤、詳細には、飲食物にゲル化性を付与するために用いられるゲル化剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の高齢者の人口増加に伴い、食べ物を咀嚼・嚥下する能力が低下した人が増加している。このような咀嚼・嚥下機能低下者は、喫食した飲食物を飲み込みやすい形状(食塊)に形成する機能、及び食塊を口腔から咽頭、食道へと送り込む機能が低下するため、飲食物が誤って気管に入り込み、誤嚥を生じる場合がある。
【0003】
かかる誤飲の防止を目的として、各種増粘剤やゲル化剤を用いて飲食物に保形性を付与する試みがされている。しかし、飲食物をゲル化させて保形性を付与するためには、ゲル化剤に使用される多糖類の溶解温度まで飲食物を加熱し、かつ冷却する必要があり、非常に手間と時間がかかるものであった。
【0004】
特に、咀嚼・嚥下機能低下者の喫食に供する飲食物は、機能低下の度合いに応じて食感や物性(レオロジー特性や保水性など)を調整する必要があり、咀嚼・嚥下機能低下者自身やその介護者が、個人単位で飲食物をゲル化させる場面が往々にしてある。例えば、咀嚼・嚥下機能低下者に適した食感、物性のお粥を提供する際には、お粥独特の粒々感が喫食者の嚥下を妨げる恐れがあるため、飲食物の組織が均一になる様にミキサー等を用いることが一般的である。しかしながら、従来のゲル化剤では、ミキサーにかけることで、お粥から溶出した澱粉質の影響により、べたつき感が強く飲み込みにくい仕上がりになっていた。
【0005】
また、飲食物にゲル化性を付与する場合、ゲル化剤を加えた後に加熱工程をとることが一般的な手法として広く活用されている。一方、加熱によりビタミン等の栄養素が消失するといった観点から、牛乳・流動食等の高栄養組成物に対しては、加熱工程をとることなく、簡便にゲル化性を付与する方法(ゲル化剤)が強く望まれていた。
【0006】
本課題に着目し、撹拌工程により飲食物にゲル化性を付与する技術がいくつか開発されている。例えば、室温以下の条件下において、5000rpm以上の撹拌条件で飲食物にゲル化性を付与する咀嚼・嚥下補助剤に関して、キサンタンガム2〜40重量部に対し、グルコマンナン98〜60重量部を使用する技術(特許文献1)、並びに4500rpm以上の撹拌条件でミキサー処理することを特徴とするデンプン含有半固形化・嚥下補助食品に関して、キサンタンガム1〜50%(w/w)、ジェランガム90〜10%(w/w)、グァーガム50〜1%(w/w)及びアミラーゼを使用する技術(特許文献2)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−301775号公報
【特許文献1】特開2011−167142号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
例えば、特許文献1に開示された技術は、水やお茶等の飲食物にゲル化性を付与することを主目的としており、流動食等のたんぱく質を含む飲食物に対し、常温でゲル化性を付与することは出来ない。特に、濃厚流動食、牛乳やシチューといった、タンパク質を含有する飲食物にゲル化性を付与することができず、使用する食品が限定され汎用性が低いといった問題を抱えていた。また、グルコマンナン含量が総じて高いため、食感的な付着性が大きく、作業性が悪いといった問題もあった。
【0009】
特許文献2に開示された技術では、アミラーゼを含有したゲル化剤を用いることで、加熱工程をとることなくミキサー撹拌するだけで、お粥に対し、良好な仕上がりのゲルを調製可能な技術が開示されているが、アミラーゼを用いるため、澱粉が糖質へと分解され、お粥の風味が著しく損なわれるといった欠点がある。また、デンプン含有食品以外の飲食物に対してゲル化性を付与することができず、汎用性が低いといった問題があった。
【0010】
本発明は、加熱工程をとらなくても、牛乳・流動食等の高蛋白質・高栄養の食品組成物に対し、常温でゲル化性を付与することが可能なゲル化剤、および当該ゲル化剤を含有するゲル状飲食品組成物を提供することを目的とする。
【0011】
また、本発明は、澱粉質を多く含有するような食品、例えばお粥に対し、加熱工程をとらなくても、ミキサー撹拌するだけで、お粥本来の風味を損なうことなく、べたつき感を低減した、飲み込みやすい仕上がりに調製可能なゲル化剤、および当該ゲル化剤を含有するゲル状飲食品組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記課題を解決する本件第一の発明は、飲食物とゲル化剤とを混合してゲル状飲食品組成物を製造する方法であって、イオタカラギナン、キサンタンガム、並びにグルコマンナン及び/又はローカストビーンガムを含有し、かつキサンタンガム、グルコマンナン及び/又はローカストビーンガムの総量100質量部に対して、12質量部以上400質量部未満のイオタカラギナンを含有するゲル化剤を飲食物に添加するか、または当該飲食物を上記ゲル化剤に添加する工程、および当該ゲル化剤が添加された飲食物を、水存在下で4000rpm以上の条件で撹拌する工程、を含む方法である。
【0013】
そして、本件第一の発明は以下の(1)〜(7)を好ましい態様としている。
(1)前記飲食物に対するゲル化剤の配合割合が、ゲル状飲食品組成物中の含有量に換算して0.5〜4質量%であること。
(2)前記飲食物がタンパク質を含有する飲食物であって、当該タンパク質の割合がゲル状飲食品組成物中の含有量に換算して3〜10質量%であること。
(3)前記飲食物が澱粉を含有する飲食物であって、当該澱粉の割合がゲル状飲食品組成物中の含有量に換算して5〜50質量%であること。
(4)前記飲食物が温度5〜70℃の温度帯にあること。
(5)前記ゲル化剤がさらにジェランガムを含有するものであること。
(6)前記(5)記載のゲル化剤が、キサンタンガム、グルコマンナン及び/又はローカストビーンガムの総量100質量部に対して5〜200質量部のジェランガムを含有するものであること。
(7)前記ゲル状飲食品組成物が咀嚼・嚥下補助用の用途を含むこと。
【0014】
なお、上記本件第一の発明には、飲食物にイオタカラギナン、キサンタンガム、並びにグルコマンナン及び/又はローカストビーンガムを含有するゲル化剤を合剤(一組成物)を添加する態様、及び当該ゲル化剤(合剤)に飲食物を添加する態様のみならず、合剤としてではなく、最終ゲル状飲食品組成物中に上記ゲル化剤が含まれるように、ゲル化剤の各成分を飲食物に各々別個に、または2種以上組み合わせて添加する態様が含まれる。
【0015】
前記課題を解決する本件第二の発明は、第一の発明である製造方法によって製造されるゲル状飲食品組成物である。
【0016】
前記課題を解決する本件第三の発明は、イオタカラギナン、キサンタンガム、並びにグルコマンナン及び/又はローカストビーンガムを含有し、かつキサンタンガム、グルコマンナン及び/又はローカストビーンガムの総量100質量部に対して、12質量部以上400質量部未満のイオタカラギナンを含有し、飲食物にゲル化性を付与することを特徴とする、ゲル化剤である。
【0017】
そして、本件第三の発明は以下の(8)〜(14)を好ましい態様としている。
(8)水存在下で、4000rpm以上の条件で撹拌して前記飲食物にゲル化性を付与すること。
(9)更にジェランガムを含有すること。
(10)前記(8)のゲル化剤が、キサンタンガム、グルコマンナン及び/又はローカストビーンガムの総量100質量部に対して5〜200質量部のジェランガムを含有すること。
(11)前記飲食物がタンパク質を含有する飲食物であって、当該タンパク質の割合がゲル状飲食品組成物中の含有量に換算して3〜10質量%であること。
(12)前記飲食物が澱粉を含有する飲食物であって、当該澱粉の割合がゲル状飲食品組成物中の含有量に換算して5〜50質量%であること。
(13)前記飲食物が温度5〜70℃の温度帯にあること。
(14)ゲル化剤が粉末状または顆粒状であること。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、飲食物とゲル化剤とを混合してゲル状飲食品組成物を製造するにあたって、加熱や冷却工程を要せず、飲食物とゲル化剤を混合し、水存在下で家庭用ミキサー、フードプロセッサー等での高速撹拌を行うことで、簡便にゲル状飲食品組成物が製造できる。このため、本発明は、咀嚼・嚥下機能低下者やその介護者に対して、家庭やベットサイド等の身近な環境において、特段加熱調理器を使う必要なく、容易に咀嚼・嚥下機能低下者の喫食に適した食感や物性(レオロジー特性や保水性など)を有するゲル状飲食物を提供できるという効果を有する。
【0019】
また、本発明のゲル化剤は、タンパク質含有飲食物や澱粉含有飲食物等、対象飲食物の種類に限定されず、各種飲食物に対して簡便にゲル化性を付与できるため、汎用性が広く、利便性にも優れるという効果も有している。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】実施例5−2のゲル状濃厚流動食の外観を示す。
図2】比較例5−3の濃厚流動食の外観を示す。
図3】実施例6−3のゲル状おかゆの外観を示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
次に、本発明の好ましい実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の好ましい実施形態に限定されず、本発明の範囲内で自由に変更することができるものである。尚、本明細書において百分率は特に断りのない限り質量による表示である。
【0022】
本発明におけるゲル状飲食品組成物を製造する方法は、飲食物にゲル化剤を添加するか、またはゲル化剤に上記飲食物を添加する工程、及び所定条件下で撹拌する工程を有する。
【0023】
ここで、飲食物としては、好ましくは5〜70℃の温度帯、より好ましくは5〜60℃の温度帯にあるものを挙げることができる。この場合、必ずしも飲食物が当該温度範囲に保温されて製造されたものである必要はなく、一旦、70℃または60℃を超える温度で調製されたのちに70℃または60℃以下に冷まされたものも本発明における飲食物に含まれるものである。
【0024】
なお、前記飲食物は、飲食物の最終製品の形態、具体的には商業的に入手できる既製の飲食品そのものであっても良いし、また当該最終製品を製造するために使用される原料の混合物の状態であっても良く、いずれも本発明の飲食物の範囲に含まれる。また、本発明が対象とする飲食品は、上記の既製製品またはその原料に加えて、別途、各種素材を配合したものであってもよく、かかる素材としてタンパク質、脂質、糖質、塩類、ミネラル類、ビタミン類、乳化剤、色素、フレーバー、食物繊維、甘味料等の調味料などを例示することができる。
【0025】
さらに本発明が対象とする飲食物は、タンパク質及び/又は澱粉を含有する飲食物であることが好ましい。これらの飲食物の詳細については、後述する。
【0026】
本発明のゲル状飲食品組成物を製造する際に使用されるゲル化剤は、第一に、イオタカラギナン、キサンタンガム、並びにグルコマンナン及び/又はローカストビーンガムを必須成分とする。具体的には、本発明の形態として、(1)イオタカラギナン、キサンタンガム、及びグルコマンナンを用いる形態、(2)イオタカラギナン、キサンタンガム、及びローカストビーンガムを用いる形態、並びに(3)イオタカラギナン、キサンタンガム、グルコマンナン及びローカストビーンガムを用いる形態が挙げられる。
【0027】
これらの原料は、いずれも商業的に入手可能なものであり、通常、入手可能なものであれば特に制限なく利用することができる。
【0028】
第二に、本発明に係るゲル化剤は、キサンタンガム、グルコマンナン及び/又はローカストビーンガムの総量100質量部に対して、12質量部以上400質量部未満、好ましくは12〜350質量部、更に好ましくは12〜300質量部のイオタカラギナンを用いることを特徴とする。
【0029】
キサンタンガム、グルコマンナン及び/又はローカストビーンガムの総量とは、上記(1)〜(3)の各形態に用いたキサンタンガム、グルコマンナン及びローカストビーンガムの総量をいい、例えば(1)の形態においてキサンタンガム及びグルコマンナンの2種を用いた場合は、かかる2種の総量を指し、(2)の形態においてキサンタンガム及びローカストビーンガムの2種を用いた場合は、かかる2種の総量を指し、また(3)の形態においてキサンタンガム、グルコマンナン及びローカストビーンガムの3種を用いた場合は、これらの3種の総量を指す。
【0030】
キサンタンガム、グルコマンナン及び/又はローカストビーンガムの総量100質量部に対して、イオタカラギナンの添加量を12質量部以上にすることで、水存在下で4000rpm以上の条件で撹拌することにより所望のゲル化性を付与することができる。
【0031】
また、前記総量100質量部に対するイオタカラギナンの添加量を400質量部未満にすることで、飲食物に所望のゲル化性を付与する一方で、食感的な付着性が増大して、例えば咽頭にへばり付くような食感になることがないため、飲食物に咀嚼・嚥下機能低下者に適した所望の食感や物性(レオロジー特性や保水性など)を付与することができる。
【0032】
なお、キサンタンガム100質量部に対する、グルコマンナン及び/又はローカストビーンガムの好ましい配合割合(両方を使用する場合は、両方の総量を意味する。以下、同じ。)は10質量部以上150質量部未満、更に好ましくは20〜140質量部、特に好ましくは25〜140質量部である。キサンタンガムに対する、グルコマンナン及び/又はローカストビーンガムの配合割合を上記範囲に調整することで、咀嚼・嚥下機能低下者に適した食感や物性(レオロジー特性や保水性など)、具体的には咽頭への付着が小さく、飲み込みやすい食感を付与することができる。
【0033】
本発明のゲル状飲食品組成物を製造する上で、飲食物と混合するゲル化剤の割合は、求められる食感や物性、並びにゲル化性付与の対象となる飲食物に応じて適宜調整することが可能であるが、具体的には、調製されるゲル状飲食品組成物100質量%中に、ゲル化剤が0.5〜4質量%、好ましくは0.8〜3.5質量%、より好ましくは1〜3質量%の割合で含まれるように調整することが好ましい。
【0034】
なお、ゲル状飲食品組成物の製造に使用される飲食物は特に制限されず、固形状、半固形状(半流動状)、及び流動状など、形状の別も特に制限されない。但し、ゲル状飲食品組成物を製造するためには、飲食物の水分含量を所定量以上に調整することが望ましい。かかる水分含量としては、制限されないが、好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは75質量%以上、特に好ましくは80質量%以上を例示することができる。例えば、飲食物が半固形状(半流動状)または流動状の形状を有し、水分含量が所定量以上である場合は、そのままゲル状飲食品組成物の製造に使用できるが、飲食物が固形状または半固形状(半流動状)の形状を有し、水分含量が所定量よりも低い場合、例えば水分含量として60質量%以下、50質量%以下または40質量%以下の場合は、撹拌前、好ましくはゲル化剤を添加する前に、別途水分を添加して水分含量が所定量以上になるように調整することが好ましい。
【0035】
前記特許文献1に開示された咀嚼・嚥下補助剤は、濃厚流動食、牛乳、シチュー等のタンパク質を含有した飲食品に対してゲル化性を付与できないといった問題を抱えているが、本発明のゲル化剤は、これらのタンパク質含有飲食物に対しても、簡便にゲル化性を付与できるため、汎用性が高い。
【0036】
ここで、タンパク質含有飲食物としては、タンパク質を含有する飲食物であれば、特に制限されず、前述するように、固形状、半固形状(半流動状)、及び流動状など、形状の別も特に制限されない。好ましくは、濃厚流動食、牛乳、豆乳、ヨーグルト、味噌汁、シチュー、及びスープ(野菜スープ、コーンスープ、カレースープ)等の半固形状(半流動状)または流動状の形状を有するものを例示することができる。また、ハンバーグ、トンカツ、メンチカツ、豚肉の生姜焼き、鯖の味噌煮、鮭の塩焼き、鶏肉の照り焼き、エビチリ、ロールキャベツ、すき焼き、焼きそば、又は刺身等の生魚などの固形状の飲食物を磨り潰したものも含まれる。なお、濃厚流動食は、例えば0.6〜2kcal/ml、好ましくは1kcal/mlの濃度に調整され、長期間の単独摂取によっても著しい栄養素の過不足が生じないように、各栄養素の質的構成が考慮されている栄養食品である。当該濃厚流動食には、天然濃厚流動食、及び人工濃厚流動食等が含まれる。
【0037】
これらのタンパク質含有飲食物は、前述するように、ゲル状飲食品組成物の製造に際して、タンパク質含有飲食物の水分含量が所定量に満たない場合は、別途水分を添加して、水分含量が所定量以上になるように、好ましくは70質量%以上、より好ましくは75質量%以上、特に好ましくは80質量%以上になるように調整することが望ましい。
【0038】
タンパク質含有飲食物のタンパク質含量としては、ゲル状飲食品組成物を製造する直前の飲食物、つまり、タンパク質含有飲食物の水分含量が所定量に満たない場合は、水分含量を調整した後の飲食物中のタンパク質含量として3質量%以上、好ましくは4質量%以上を例示することができる。当該タンパク質含量は、調製されたゲル状飲食品組成物中のタンパク質含量に相当する。なお、タンパク質含量の上限は特に制限されないが、15質量%、好ましくは10質量%を例示することができる。好適なタンパク質含量は3〜15質量%、より好ましくは3〜10質量%である。
【0039】
タンパク質含有飲食物のうち、特に、糖質、タンパク質及び油脂を複合的に含有する濃厚流動食(総合栄養食)は、通常の製法(ゲル化剤を添加後、加熱冷却してゲル化性を付与する方法)によっても、均一にゲル化することが難しい。かかるところ、本発明のゲル化剤は、加熱及び冷却工程を経ずとも、濃厚流動食(総合栄養食)に対しても簡便にゲル化性を付与できるという高い効果を奏する。
【0040】
また本発明のゲル化剤は、加熱及び冷却工程を経る必要なく、お粥やうどん等の澱粉含有飲食物に対しても簡便にゲル化性を付与することが可能である。この場合、制限はされないが、本発明のゲル化剤は、イオタカラギナン、キサンタンガム、グルコマンナン及び/又はローカストビーンガムに、更に、ジェランガムを併用することが望ましい。
【0041】
ここで、澱粉は米澱粉、馬鈴薯澱粉、小麦澱粉、コーンスターチ、甘藷澱粉、タピオカ澱粉、サゴ澱粉、アルファ化澱粉、加工澱粉などが挙げられ、澱粉の由来により限定されるものではない。
【0042】
なお、加工澱粉としては、アセチル化アジピン酸架橋澱粉、アセチル化リン酸架橋澱粉、アセチル化酸化澱粉、オクテニルコハク酸澱粉ナトリウム、酢酸澱粉、酸化澱粉、ヒドロキシプロピル澱粉、ヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉、リン酸モノエステル化リン酸架橋澱粉、リン酸化澱粉、リン酸架橋澱粉等を例示することができる。
【0043】
代表的な澱粉含有飲食品例として、米澱粉を含む食品では、水稲めし(玄米、半つき米、七分つき米、精白米)、水稲全粥(玄米、半つき米、七分つき米、精白米)、水稲五分粥(玄米、半つき米、七分つき米、精白米)などが挙げられ、それらを素材としたおじや、雑炊も含まれる。また、米飯を使用した、カレー、五目御飯、赤飯等も含まれる。さらに小麦澱粉を含む食品では、うどん等が挙げられる。さらに調理加工品としては、おじや、雑炊、煮込みうどん、卵うどん、肉じゃが、かぼちゃの煮付け、筑前煮、おでん等も例示される。
【0044】
当該ゲル化剤のキサンタンガム、グルコマンナン及び/又はローカストビーンガムの総量に対するイオタカラギナンの割合は前述の通りであるが、加えて、キサンタンガム、グルコマンナン及び/又はローカストビーンガムの総量100質量部に対するジェランガムの割合として、好ましくは5〜200質量部、更に好ましくは10〜150質量部、特に好ましくは15〜100質量部の割合を例示することができる。
【0045】
ここで、本発明が対象とする澱粉含有飲食物としては、澱粉を含有する飲食物であれば、特に制限されず、前述するように、固形状、半固形状(半流動状)、及び流動状など、形状の別も特に制限されない。
【0046】
ジェランガムには脱アシル型ジェランガムとネイティブ型ジェランガムがあるが、本発明においてはこれらのいずれのジェランガムをも使用することができる。
【0047】
これらの澱粉含有飲食物は、前述するように、ゲル状飲食品組成物の製造に際して、澱粉含有飲食物の水分含量が所定量に満たない場合は、必要に応じて別途水分を添加して、水分含量が所定量以上になるように、好ましくは70質量%以上、より好ましくは75質量%以上、特に好ましくは80質量%以上になるように調整することが望ましい。
【0048】
澱粉含有飲食物の澱粉含量としては、ゲル状飲食品組成物を製造する直前の飲食物、つまり、澱粉含有飲食物の水分含量が所定量に満たない場合は、水分含量を調整した後の飲食物100質量%中の澱粉含量として5〜50質量%、好ましくは8〜40質量%を例示することができる。当該澱粉含量は、調製されたゲル状飲食品組成物中の澱粉含量に相当する。本発明のゲル化剤によれば、澱粉含量が上記範囲にある飲食物に対しても、簡便にゲル化性を付与することができる。
【0049】
本発明のゲル化剤は、上記イオタカラギナン、キサンタンガム、並びにグルコマンナン及び/又はローカストビーンガム、必要に応じてジェランガムを粉体混合して調製することができる。また、粉体混合する際に、デキストリン等の賦形剤を配合することもできる。
【0050】
更に、本発明のゲル化剤は、飲食物への分散性を向上させるために、顆粒化されていることが望ましい。かかる顆粒化物の調製は、上記イオタカラギナン、キサンタンガム、並びにグルコマンナン及び/又はローカストビーンガム、必要に応じてジェランガム、または賦形剤としてデキストリン等を混合した粉体混合物を流動層造粒機等の造粒機械を用いて実施できる。
【0051】
かかる点、本発明でいうゲル化剤は、上記粉末原料を混合した粉体混合物、及び当該粉体混合物を造粒した顆粒物を含む。また、粉末または顆粒物を打錠して調製される錠剤の形態を有するものであってもよい。なお、ゲル化剤は、上記形状のままで飲食物に添加してもよいし、一旦水に溶解した後に飲食物に添加してもよく、飲食物の水分含量等に応じて適宜選択することができる。
【0052】
本発明のゲル化剤は、本発明の効果を損なわないことを限度として、上記原料以外に、各種素材を配合することが可能である。例えば、タンパク質、脂質、糖質、塩類、ミネラル類、ビタミン類、乳化剤、色素、フレーバー、食物繊維、甘味料等を添加できる。
【0053】
かくして得られたゲル化剤を飲食物へ添加するか、または当該飲食物を上記ゲル化剤に添加し、水の存在下4000rpm以上の条件で撹拌することにより、飲食物にゲル化性を付与して、ゲル状飲食品組成物を製造することができる。
【0054】
ここで「水存在下・・・撹拌する」とは、飲食物に最初から含まれている水分、またはゲル状飲食品組成物を調製するために飲食物に別途添加した水分の存在下で、飲食物を撹拌することを意味する。水分含有量は制限されないが、好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは75質量%以上、特に好ましくは80質量%以上を例示することができる。
【0055】
また、本発明において「ゲル化」または「ゲル化性」とは、静置状態において、自重で流動しない状態または性質をいう。この意味で、本発明において「ゲル化性を付与する」とは、「保形性を付与する」と言い換えることもできる。
【0056】
撹拌条件としては、水の存在下で4000rpm以上の回転速度での撹拌を挙げることができ、かかる条件で撹拌することで、簡便に飲食物にゲル化性を付与して本発明のゲル状飲食品組成物を製造することができる。好ましく5000rpm以上、更に好ましくは6000rpm以上の回転速度での撹拌である。
【0057】
4000rpmを下回る撹拌条件では、ゲル化剤が十分に水和、膨潤せず、本発明のゲル化剤であっても、飲食物に所望のゲル化性を付与することができない場合がある。
【0058】
上記撹拌条件で飲食物にゲル化性を付与する方法としては、家庭用ミキサー、フードプロセッサー、ハンドミキサー、ブレンダー、クッキングカッター、プロペラ撹拌機などを用いた手法が例示できる。例えば、4000rpmの回転速度で1分間程度以上、またはそれに相当する条件で撹拌を行うことで、飲食物にゲル化性を付与できる。4000rpmの回転速度で1分間程度以上の条件に相当する撹拌条件としては、制限されないが、10000rpmの回転速度で10秒間程度以上、好ましくは30秒間程度以上の撹拌を例示することができる。なお、撹拌時間の上限は、飲食品にゲル化性を付与するという本発明の目的が達成できる限り、特に制限されないが、手軽にゲル化できるという本発明の目的から、10分程度以内、好ましくは5分程度以内、より好ましくは3分程度以内を例示することができる。
【0059】
撹拌する際の飲食物の温度条件は、特に制限されないが、5〜70℃、好ましくは5〜60℃の範囲を挙げることができる。このように、本方法は、イオタカラギナンを含む本発明のゲル化剤を添加した後の調理において、加熱工程が不要であるという特徴を有する。かかる点、本発明は、簡便な方法で飲食物へゲル化性を付与する方法に関する発明でもある。
【0060】
また、本発明の方法によれば、本発明のゲル化剤を用いることで、5〜40℃、特に5〜25℃と通常ゲル化性を付与できない温度帯であっても、水存在下で4000rpm以上の条件で撹拌するのみで、飲食物へ簡便にゲル化性を付与できるという利点を有する。
【0061】
従って、鍋等の調理器具を用いて飲食物を加熱する必要がなく、調理が簡単かつ安全であり、利便性が極めて高い。
【0062】
上記温度帯は、対象飲食物によって適宜調整することが可能である。例えば、常温で流通している濃厚流動食であれば、濃厚流動食に本発明のゲル化剤を添加し、ミキサー等を用いて水存在下で4000rpm以上の条件で撹拌するのみで、ゲル化性が付与された(固形化された)濃厚流動食を得ることができる。この際、撹拌することでゲル化性が付与されるため、冷却工程は必ずしも必要でない。
【0063】
一方、おかゆ等の通常、温かい状態で喫食される飲食物は、喫食に適した温度帯(例えば30〜60℃)に調整した飲食物に、本発明のゲル化剤を添加し、ミキサー等を用いて4000rpm以上の条件で撹拌してゲル化性を付与することができ、固形化(ゲル化)されたおかゆを得ることができる。また、冷温〜室温に保持された飲食物に本発明のゲル化剤を添加し、ミキサー等を用いて4000rpm以上の条件で撹拌してゲル化性を付与することもできる。
【0064】
なお、本発明のゲル化剤を用いてゲル化性を付与した飲食物は、その後に、加温した場合であっても十分な保形性(ゲル状態)を保持でき、食感の変化が小さい。また、離水も生じ難い。よって、本発明の方法でゲル化性を付与した飲食物、すなわち本発明のゲル状飲食品組成物は、その後、好みに応じて喫食に適した温度に温めることもできる。
【0065】
斯くして調製される本発明のゲル状飲食品組成物は、特に咀嚼・嚥下補助用の食品として好適である。
【0066】
具体的に、咀嚼・嚥下機能低下者用の飲食物に求められる食感や物性として、(1)保形性が良好であること、(2)食塊形成性が良好であること、(3)離水が少ないこと、(4)咽頭への付着が少ないこと等が挙げられる。
【0067】
すなわち、本発明によれば、飲食物に前述するゲル化剤を用いてゲル化性を付与することで、上記食感および物性を満たすゲル状飲食品組成物を提供することができる。
【実施例】
【0068】
以下に実施例を用いて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0069】
[実施例1]
以下の方法により顆粒状のゲル化剤を製造した。
すなわち、イオタカラギナン(カラギナンSP-100:マリンサイエンス製)12.2質量%、キサンタンガム(サンエース:三栄源FFI製)18.4質量%、グルコマンナン(イナゲルマンナン100A:伊那食品工業製)19.3質量%、ローカストビーンガム(ビストップD-6:三栄源FFI製)5.0質量%、デキストリン(パインデックス100:松谷化学工業製)45.1質量%を混合し、流動層造粒機(フロイント産業製、商品名フロコーターFLO-5M)を用いて、温風温度65℃、仕込み量300gに対して100mlの脱イオン水を速度毎分10ml、スプレー圧4kgf/cm2で噴霧し、噴霧終了後5分間乾燥して造粒(顆粒化)し、顆粒状のゲル化剤を製造した。
【0070】
[実施例2]
以下の方法によりゲル状飲食品組成物を製造した。
すなわち、実施例1で製造した顆粒状ゲル化剤が1.6質量%、濃厚流動食(CZ−Hi:株式会社クリニコ製、タンパク質含量5質量%、水分含量77.5質量%)が98.4質量%となるように混合して混合物100mlを調製し、これを室温下(25℃)でハンドミキサーにより8000rpmの速度で30秒間攪拌した。攪拌後、混合物全量を150ml容のカップに移し、30分間放置してゲル化させてゲル状飲濃厚流動食(ゲル状食品組成物:タンパク質含量4.92質量%、水分量76.3質量%)を製造した。
【0071】
製造したゲル状濃厚流動食はカップから容易に取り出すことができ、良好な保形性と硬さを有し、かつ付着性も小さく、咀嚼・嚥下機能低下者の喫食に適する食感と物性であった。
【0072】
[実施例3]
以下の方法により顆粒状のゲル化剤を製造した。
すなわち、イオタカラギナン(カラギナンSP-100:マリンサイエンス製)12.2質量%、キサンタンガム(サンエース:三栄源FFI製)18.4質量%、グルコマンナン(イナゲルマンナン100A:伊那食品工業製)19.3質量%、ローカストビーンガム(ビストップD-6:三栄源FFI製)5.0質量%、ジェランガム(ケルコゲルAFT:三晶製)8.3質量%、デキストリン(パインデックス100:松谷化学工業製)36.8質量%を混合し、流動層造粒機(フロイント産業製、商品名フロコーターFLO-5M)を用いて、温風温度65℃、仕込み量300gに対して100mlの脱イオン水を速度毎分10ml、スプレー圧4kgf/cm2で噴霧し、噴霧終了後5分間乾燥して造粒(顆粒化)し、顆粒状のゲル化剤を製造した。
【0073】
[実施例4]
以下の方法によりゲル状飲食品組成物を製造した。
すなわち、卵うどん(タンパク質量2.7g/100g、澱粉量9.4g/100g、水分量85.9g/100g、澱粉種別:小麦)をミキサーにて粉砕してペースト状の卵うどんを調製し、該ペースト状卵うどんが98.6質量%、実施例3で製造した顆粒状ゲル化剤1.4質量%となるように混合して混合物100mlを調製し、これを室温下(25℃)でハンドミキサーにより10000rpmの速度で30秒間攪拌した。攪拌後、混合物全量を150ml容のカップに移し、30分間放置してゲル化させてゲル状卵うどん(ゲル状食品組成物:澱粉含量9.27質量%、水分含量84.7質量%)を製造した。
【0074】
製造したゲル状卵うどんはカップから容易に取り出すことができ、良好な保形性と硬さを有し、かつ付着性も小さく、咀嚼・嚥下機能低下者の喫食に適する食感と物性であった。
【0075】
さらに、以下に記載する試験例により、飲食物へのゲル化性付与(ゲル状飲食品組成物の製造)に係る本発明の効果を確認した。
【0076】
[試験例1]
各種粉末状ゲル化剤を用いて、濃厚流動食(CZ−Hi:株式会社クリニコ製、タンパク質含量5質量%、水分含量77.5質量%)へのゲル化性付与効果を試験した。
【0077】
具体的には、20℃に調温した濃厚流動食に、表1に示す各種粉末状ゲル化剤を添加し、ミキサー(Oster Blender:Oster社製)に投入し、表記載の撹拌速度で30秒間撹拌した。
【0078】
調製した試料をカップに充填し、30分後に食感と物性(かたさ)を評価した。
【0079】
また、その結果を表2に示した。
【0080】
【表1】
【0081】
【表2】
【0082】
<評価項目>
(ゲル化の有無):ミキサーで撹拌後、固形化の状態を目視観察した。
【0083】
ゲル化したもの(静置状態において自重で流動しないもの)を○、ゲル化しなかったもの(静置状態において自重で流動するもの)を×とした。
(かたさ):試料を高さ60mmの花形容器に高さ35mmまで充填し、テクスチャーアナライザーを使用して、直径20mmステンレス製のプランジャーを用い、圧縮速度10mm/sec、クリアランス10.5mmで2回圧縮測定した。1回目の圧縮時の最大応力をかたさ(N/m)とした。
【0084】
イオタカラギナン、キサンタンガム、並びにグルコマンナン及び/又はローカストビーンガムを含有し、かつキサンタンガム、グルコマンナン及び/又はローカストビーンガムの総量100質量部に対して、12質量部以上400質量部未満のイオタカラギナンを含有したゲル化剤(実施例5−1〜5−8)を用い、濃厚流動食に添加した場合、20℃の濃厚流動食であっても、加熱工程をとることなく、撹拌のみの極めて簡便な操作で濃厚流動食にゲル化性を付与してゲル状飲食品組成物(ゲル状濃厚流動食)を製造することができた。
【0085】
また、得られたゲル状飲食品組成物(ゲル状濃厚流動食)は良好な保形性、かたさを有し、かつ付着性も小さく、咀嚼・嚥下機能低下者の喫食に適する食感と物性であった。
【0086】
更に実施例5−1〜5−8で得られたゲル状飲食品組成物(ゲル状濃厚流動食)は、保水性にも優れていた。
【0087】
図1に実施例5−2で調製されたゲル状飲食品組成物(ゲル状濃厚流動食)の写真を示した。容器からの型離れがよく、極めて良好な保形性を有することが確認された。
【0088】
一方、キサンタンガム、グルコマンナン及び/又はローカストビーンガムの総量100質量部に対して、10質量部のイオタカラギナンを含有した比較例5−1の粉末状ゲル化剤は、濃厚流動食にゲル化性を付与できず、キサンタンガム、グルコマンナン及び/又はローカストビーンガムの総量100質量部に対して、400質量部のイオタカラギナンを含有した比較例5−2の粉末状ゲル化剤は、ゲル化が十分でなく咽頭にへばり付くような付着性の大きい食感であり、容器からの型離れも悪く、咀嚼・嚥下機能低下者の喫食に適した食感や物性を有さなかった。
【0089】
比較例5−3は、特許文献1に開示された咀嚼・嚥下補助剤を用いた例である。本咀嚼・嚥下補助剤を用いた場合であっても、表2及び図2から明らかなように、濃厚流動食にゲル化性を付与することは到底できなかった。
【0090】
比較例5−4は、実施例5−3と同じ処方の粉末状ゲル化剤を用いた例であるが、撹拌速度3000rpm、30秒間の撹拌では、濃厚流動食にゲル化性を付与できなかった。
【0091】
比較例5−5及び比較例5−6は、イオタカラギナンの代わりに、それぞれグァーガム及び寒天を併用した例である。本試験区も、比較例5−3と同様に、ゲル化性を付与することができなかった。
【0092】
一般的に濃厚流動食は固形分含量が高く、ゲル化を阻害する成分を多く含むため、従前のゲル化剤ではゲル化(固形化)すること自体が難しかった。あるいは、ゲル化剤の性能を十分に発揮させるためには加熱溶解および冷却工程が必須であった。
【0093】
本発明のゲル化剤によれば、ゲル化(固形化)しにくい濃厚流動食を撹拌することで簡便にゲル化させることができる。更に、ゲル状飲食品組成物(ゲル状濃厚流動食)は付着性が小さく、保形性(食感的なまとまり感)があり、嚥下・咀嚼機能低下者の喫食に適している。
【0094】
濃厚流動食は総合栄養食として病院、施設、家庭で広く用いられている。濃厚流動食を食べやすくするという観点で、本発明のゲル化剤は嚥下・咀嚼機能低下者だけでなく高齢者のQOL改善に貢献すると考えられる。
【0095】
[試験例2]
各種粉末状ゲル化剤を用いて、お粥へのゲル化性付与効果を試験した。
【0096】
具体的には、表3に示す各種粉末状ゲル化剤を水に添加し、スパーテルで分散させた溶液(20質量%)を用意した。本溶液20質量%と、40℃に調温したお粥80質量%(澱粉含量:12.6質量%、水分含量:86.4質量%)をミキサーに投入し、15000rpmで30秒間撹拌した。
【0097】
調製した試料をカップに充填し、30分後の食感と物性(かたさ)を評価した。
【0098】
また、その結果を表4に示した。
【0099】
【表3】
【0100】
【表4】
【0101】
イオタカラギナン、キサンタンガム、グルコマンナン及び/又はローカストビーンガムを含有し、かつキサンタンガム、グルコマンナン及び/又はローカストビーンガムの総量100質量部に対して、12質量部以上400質量部未満の範囲になるようにイオタカラギナンを含有したゲル化剤(実施例6−1〜6−6)、またイオタカラギナン、キサンタンガム、グルコマンナン及び/又はローカストビーンガム、並びにジェランガムを含有し、かつキサンタンガム、グルコマンナン及び/又はローカストビーンガムの総量100質量部に対して、5〜200質量部のジェランガムを含有したゲル化剤(実施例6−2〜6−6)を用い、お粥に添加した場合、40℃のお粥であっても、15000rpmで30秒間撹拌することで、加熱及び冷却工程をとることなく、極めて簡便にゲル化性を付与することができた。
【0102】
また、得られたゲル状飲食品組成物(ゲル状お粥)も良好な保形性、かたさを有し、かつ付着性も小さく、咀嚼・嚥下機能低下者の喫食に適していた。
【0103】
更に実施例6−1〜6−6で得られたゲル状飲食品組成物(ゲル状お粥)は、保水性も良好であった。
【0104】
図3に実施例6−3で調製されたゲル状飲食品組成物(ゲル状お粥)を示した。容器からの型離れがよく、極めて良好な保形性を有することが確認された。
【0105】
比較例6−1は、特許文献1に開示された咀嚼・嚥下補助剤を用いた例である。本咀嚼・嚥下補助剤を用いた場合でもゲル化(固形化)はするものの、表4から明らかなように、食感的な付着性が大きく咽頭にへばり付く食感であり、保形性(食感的なまとまり感)が十分でなく、咀嚼・嚥下機能低下者に適した食感、物性にならなかった。
図1
図2
図3