特許第5721624号(P5721624)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5721624内因性高インスリン血症性低血糖症の治療のためのパシレオチドの使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5721624
(24)【登録日】2015年4月3日
(45)【発行日】2015年5月20日
(54)【発明の名称】内因性高インスリン血症性低血糖症の治療のためのパシレオチドの使用
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/22 20060101AFI20150430BHJP
   A61P 3/08 20060101ALI20150430BHJP
   C07K 7/64 20060101ALN20150430BHJP
【FI】
   A61K37/24
   A61P3/08
   !C07K7/64ZNA
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2011-517141(P2011-517141)
(86)(22)【出願日】2009年7月7日
(65)【公表番号】特表2011-527309(P2011-527309A)
(43)【公表日】2011年10月27日
(86)【国際出願番号】EP2009058573
(87)【国際公開番号】WO2010003939
(87)【国際公開日】20100114
【審査請求日】2012年6月28日
(31)【優先権主張番号】08159918.5
(32)【優先日】2008年7月8日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】504389991
【氏名又は名称】ノバルティス アーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100095360
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 英二
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100104282
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】シュミド,ハーバート
【審査官】 ▲高▼岡 裕美
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2007/096055(WO,A1)
【文献】 特表2004−505095(JP,A)
【文献】 Clinical Endocrinology,2005年,63,176-184
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 38/00
CAplus/REGISTRY(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
治療有効量のパシレオチド又は医薬的に許容されるその塩を含む、治療の必要のある被験者において内因性高インスリン血症性低血糖症を治療する又は管理するための医薬組成物であって、内因性高インスリン血症性低血糖症がインスリノーマによって引き起こされたものではない、前記組成物。
【請求項2】
インスリン分泌促進薬誘発性低血糖症の治療又は管理のためである、請求項に記載の医薬組成物。
【請求項3】
低血糖症の再発を予防するためである、請求項に記載の医薬組成物。
【請求項4】
膵島細胞症、先天性高インスリン血症性低血糖症、インスリン分泌促進薬の過量、腫瘍随伴性高インスリン血症、非インスリノーマ低血糖症候群(NIPHS)、食後反応性低血糖症(高インスリン血症、例えばダンピング症候群に続発する)、ベックウィズ−ヴィーデマン症候群における低血糖症、低血糖症を引き起こす膵島過形成、熱帯熱マラリアを有する患者における低血糖症、以下の遺伝子:ABCC8、KCNJ11、HADH、GGK、GLUD1、HNF4A及びSLC16A1に対する突然変異を有する患者を含む先天性高インスリン血症性低血糖症、インスリン自己免疫性低血糖症(インスリンに対する抗体又はインスリン受容体に対する抗体)の治療のためである、請求項に記載の医薬組成物。
【請求項5】
パシレオチド又は医薬的に許容されるその塩を、1又はそれ以上の医薬的に許容される希釈剤又は担体と共に含有する、内因性高インスリン血症性低血糖症の治療のための医薬組成物であって、内因性高インスリン血症性低血糖症がインスリノーマによって引き起こされたものではない、前記医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ソマトスタチン(SRIF)ペプチドミメティック(ソマトスタチン類似体又はSRIF類似体とも称される)の新規使用に関する。
【0002】
ソマトスタチンは、構造:
【化1】
を有するテトラデカペプチドである。
【0003】
ソマトスタチンクラスは、例えばA.S. Dutta in Small Peptides, Vol.19, Elsevier (1993)によって開示されているように、天然に生じるソマトスタチン−14及びソマトスタチン関連活性を有する類似体を含む低分子ペプチドの公知のクラスである。本明細書で使用される「ソマトスタチン類似体」により、天然に生じるソマトスタチン−14のものに基づく構造を有する任意の直鎖状又は環状ポリペプチドであって、1若しくはそれ以上のアミノ酸単位が欠失している及び/又は1若しくはそれ以上の他のアミノ基によって置換されている、並びに/又は1若しくはそれ以上の官能基が1若しくはそれ以上の他の官能基によって置換されている及び/又は1若しくはそれ以上の基が1若しくは数個の他の等配電子基によって置換されているポリペプチドが意味される。一般に、この用語は、例えば5種類のソマトスタチン受容体(SSTR)の少なくとも1つに、好ましくはnモル範囲で結合するソマトスタチン関連活性を示す、天然ソマトスタチン−14のすべての修飾誘導体を包含する。
【0004】
天然ソマトスタチンは、5種類のソマトスタチン受容体(SSTR1〜5)すべてにnmol効率で結合してそれらを活性化し、従って、その多数の生理的作用を生じさせる。
【0005】
合成によって入手可能なソマトスタチン類似体は、異なるソマトスタチン受容体サブタイプに対する結合親和性が異なり、しばしば1又は少数のサブタイプに有意に高い親和性で選択的に結合する。
【0006】
本発明による特に興味深いソマトスタチン類似体は、ヒトSSTR1、2、3、5に高い結合親和性を有し、例えば、その内容が参照により本明細書に組み込まれる、国際公開第97/01579号に記載されている。前記ソマトスタチン類似体は、式I:
−(D/L)Trp−Lys−X−X− I
[式中、Xは、式(a)又は(b):
【化2】
[式中、Rは、場合により置換されたフェニルであり、置換基は、ハロゲン、メチル、エチル、メトキシ又はエトキシであってもよく、
は、−Z−CH−R[式中、ZはO又はSである]、−CH−CO−O−CH−R
【化3】
又は
【化4】
である]
の基であり、そして
は、Cα側鎖上に芳香族性基を有するα−アミノ酸、又はDab、Dpr、Dpm、His、(Bzl)HyPro、チエニル−Ala、シクロヘキシル−Ala及びt−ブチル−Alaから選択されるアミノ酸単位である]
のアミノ酸配列を含み、前記配列のLys残基は天然ソマトスタチン−14のLys残基に対応する。
【0007】
ヒトSSTR1、2、3、5に高い結合親和性を有する特に興味深いソマトスタチン類似体はまた、例えば、その内容が参照により本明細書に組み込まれる、国際公開第02/10192号にも記載されている。前記ソマトスタチン類似体は、遊離形態、塩若しくは複合体形態又は保護された形態の、シクロ[{4−(NH−C−NH−CO−O−)Pro}−Phg−DTrp−Lys−Tyr(4−Bzl)−Phe]又はパシレオチドとも呼ばれる、式:
【化5】
の化合物、並びにジアステレオ異性体及びその混合物を含む。Phgは、−HN−CH(C)−CO−を意味し、Bzlはベンジルを意味する。
【0008】
本発明に従って特に好ましいのは、パシレオチド又は医薬的に許容されるその塩の使用である。
【0009】
低血糖症についての多くの病因及び機構が存在する。低血糖症は、高インスリン血症性又は低インスリン血症性と分類され得る(Griffith MJ and Gamma R 2005 Hospital Medicine Vol 66(5))。高インスリン血症性低血糖症の原因は、多くの要因、例えば高インスリン血症の先天性障害、インスリノーマ、食後障害(例えばダンピング症候群及び非インスリノーマ低血糖症)、並びにインスリン分泌促進薬、例えばスルホニル尿素及びメグリチニドの使用によるものであり得る(Kappor RR et al., 2009. Nature Clinical Practice Endocrinology and Metabolism 5:101-112)。
【0010】
低血糖症は救急科の患者が一般的に呈する徴候である。スルホニル尿素は、糖尿病の治療のために広く処方されるクラスの経口薬である。スルホニル尿素は、カルシウム流入及び膵臓内の分泌顆粒からの貯蔵インスリンの放出を生じさせる複雑な機構を介して膵ベータ細胞からのインスリン放出を刺激すると考えられる。頻度が高く、広く報告されているスルホニル尿素投与の有害反応は、しばしば連続的なグルコース測定のために入院を必要とする、持続性低血糖症である。膵ベータ細胞に作用する他のタイプの2型糖尿病薬、例えばメグリチニドも、有害反応として低血糖症がある。
【0011】
オクトレオチドは、報告によれば、スルホニル尿素投与の有害反応における解毒薬として使用された(Lai MW, Klein-Schwartz W, Rodgers GC, et al., 2005 Annual report of the American Association of Poison Control Centers' national poisoning and exposure database. Clin Toxicol. 2006;44:803-932)。
【0012】
小規模の無作為化二重盲検試験は、オクトレオチドが低血糖症の管理を改善し得ることを示唆した(Fasano et al., Annals of Emergency Medicine, Vol 51 (4), page 400-406)。オクトレオチドを摂取している患者では、血清グルコースレベルが対照におけるよりも高かったが、8時間以内に減弱した。オクトレオチドを使用して正常グルコースレベルを確立することはできなかった。従って、著者らは、低血糖症を管理するための臨床診療を変えるには、オクトレオチドによる作用期間を延長するためにおそらく多回投与又は持続注入が必要であると結論している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】国際公開第97/01579号
【特許文献2】国際公開第02/10192号
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】A.S. Dutta in Small Peptides, Vol.19, Elsevier (1993)
【非特許文献2】Griffith MJ and Gamma R 2005 Hospital Medicine Vol 66(5)
【非特許文献3】Kappor RR et al., 2009. Nature Clinical Practice Endocrinology and Metabolism 5:101-112
【非特許文献4】Lai MW, Klein-Schwartz W, Rodgers GC, et al., 2005 Annual report of the American Association of Poison Control Centers' national poisoning and exposure database. Clin Toxicol. 2006;44:803-932
【非特許文献5】Fasano et al., Annals of Emergency Medicine, Vol 51 (4), page 400-406
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
低血糖症の管理のためのオクトレオチドの限界、並びに代替的な治療選択肢の欠如に鑑みて、低血糖症を管理するための新しい薬理学的アプローチを開発することが切実に求められている。
【課題を解決するための手段】
【0016】
驚くべきことに、いくつかのSSTR、特にSSTR1、2、3、5に高い結合親和性を有する、本発明による化合物、例えばパシレオチドは、低血糖症、特に内因性高インスリン血症性低血糖症の治療においてオクトレオチドよりもはるかに有効であり、低血糖症患者において正常グルコースレベルを確立するために使用できることが認められた。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】絶食ラットにおけるグルコース濃度へのパシレオチド、オクトレオチド及びグリブリドの作用。
図2】給餌ラットにおけるグルコース濃度へのパシレオチド、オクトレオチド及びグリブリドの作用。
【発明を実施するための形態】
【0018】
1つの態様では、本発明は、低血糖症、特に内因性高インスリン血症性低血糖症、例えば先天性高インスリン血症性低血糖症、ダンピング症候群及び薬剤誘発性内因性高インスリン血症性低血糖症(例えばスルホニル尿素誘発性低血糖症、メグリチニド誘発性低血糖症)、又は高い血漿グルコースレベルに付随する若しくはそれによって引き起こされるインスリン分泌の上昇を導く他の化合物及び状態の治療又は管理のための医薬組成物を調製するための、ヒトSSTR1、2、3、5に高い結合親和性を有するソマトスタチン(SRIF)類似体、例えばパシレオチド、又は医薬的に許容されるその塩の使用に関する。もう1つの態様では、本発明は、高い血漿グルコースレベルに付随しない、例えばスルホニル尿素が誘発する暴露後の、インスリン分泌の上昇によって引き起こされる低血糖症の再発の予防のための医薬組成物を調製するための、ヒトSSTR1、2、3、5に高い結合親和性を有するソマトスタチン(SRIF)類似体、例えばパシレオチド、又は医薬的に許容されるその塩の使用に関する。
【0019】
スルホニル尿素抗糖尿病薬は当分野において周知であり、例えばカルブタミド、クロルプロパミド、グリベンクラミド(グリブリド)、グリクラジド、グリメピリド、グリピジド、グリキドン、トラザミド、トルブタミドを含む。
【0020】
もう1つの実施形態では、本発明は、高インスリン血症状態に関連する低血糖症状態、例えばインスリノーマ及び新生児において散発性に起こる先天性高インスリン血症性低血糖症の治療のための医薬組成物を調製するための、ヒトSSTR1、2、3、5に高い結合親和性を有するソマトスタチン(SRIF)類似体、例えばパシレオチド、又は医薬的に許容されるその塩の使用に関する。
【0021】
本発明に従って、ヒトSSTR1、2、3、5に高い結合親和性を有するソマトスタチン(SRIF)類似体、例えばパシレオチドによって有効に治療される、高インスリン血症に関連するさらなる低血糖症状態は、例えば、参照により本明細書に組み込まれるE. Seaborg, Endocrine News May 2009, page 12 to 15(例えば表1及び2)に記載されており、例えば以下を含む:
1.機能的ベータ細胞傷害(膵島細胞症)
2.腫瘍随伴性高インスリン血症
3.非インスリノーマ低血糖症候群(NIPHS)
4.インスリン分泌促進薬、例えばスルホニル尿素、ナテグリニド又はレパグリニドの過量
5.インスリノーマ(インスリノーマによって引き起こされる低血糖症)
6.以下の遺伝子:ABCC8、KCNJ11、HADH、GGK、GLUD1、HNF4A及びSLC16A1に対する突然変異を有する患者を含む先天性高インスリン血症性低血糖症
7.非インスリノーマ低血糖症候群(NIPHS)
8.ダンピング症候群を含む食後反応性低血糖症(高インスリン血症に続発する)
9.ベックウィズ−ヴィーデマン症候群における低血糖症
10.低血糖症を引き起こす膵島過形成
11.熱帯熱マラリアを有する患者における低血糖症
12.インスリン自己免疫性低血糖症(インスリンに対する抗体又はインスリン受容体に対する抗体)
12.薬剤、例えば:
i)アルコール
ii)シベンゾリン、ガチフロキサシン、ペンタミジン、キニーネ、インドメタシン、グルカゴン(内視鏡検査中)
iii)クロロキノキサリンスルホンアミド、アルテスナート/アルテミシン/アルテメテール、IGF−1、リチウム(Lit-ium)、プロポキシフェン/デキストロプロポキシフェン
iv)アンギオテンシン変換酵素阻害剤、アンギオテンシン受容体アンタゴニスト、β−アドレナリン受容体アンタゴニスト、レボフロキサシン、ミフェプリストン、ジソピラミド、トリメトプリム−スルファメトキサゾール、ヘパリン、6−メルカプトプリン
によって引き起こされる低血糖症
13.重篤な疾病、例えば肝不全、腎不全又は心不全、敗血症、飢餓性衰弱
14.ホルモン欠損症、例えばコルチゾール又はグルカゴン又はエピネフリンの欠損症(インスリン依存性糖尿病において)。
【0022】
本発明により、ヒトSSTR1、2、3、5に高い結合親和性を有するソマトスタチン(SRIF)類似体、例えばパシレオチドは、インスリノーマに対して抗増殖作用を有し得ることが認められた。従って、もう1つの実施形態では、本発明は、インスリノーマの増殖作用の治療のための医薬組成物を調製するための、ヒトSSTR1、2、3、5に高い結合親和性を有するソマトスタチン(SRIF)類似体、例えばパシレオチド、又は医薬的に許容されるその塩の使用に関する。
【0023】
本出願による低血糖症は、血糖が、炭水化物の経口摂取によって容易に管理できない異常に低いレベルまで低下する状態を指す。本出願による内因性高インスリン血症性低血糖症は、血糖が炭水化物の経口摂取によって容易に管理できない異常に低いレベルまで低下し、低い血糖レベルにもかかわらずインスリンの内因性分泌上昇の徴候が存在する状態を指す。本発明によって理解されるように、「内因性高インスリン血症」という用語は、内因性インスリンによって引き起こされるのではない任意の高インスリン血症状態を包含する。ヒトにおいては、70mg/dl未満の血糖値は異常に低いとみなすことができる。健常個人では、内分泌学会の臨床ガイドライン(the Endocrine Society's Clinical Guidelines)(Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism, March 2009, 94(3): 709-728)によれば約55mg/dl(3.0mmol/リットル)の平均血漿グルコース濃度で低血糖症の症状が発現する。内分泌学会の臨床ガイドラインによれば、55mg/dl(3.0 mmol/リットル)未満の血漿グルコース濃度、少なくとも3.0μU/ml(18pmol/リットル)の血漿インスリン濃度、少なくとも0.6ng/ml(0.2nmol/リットル)の血漿C−ペプチド濃度、及び少なくとも5.0pmol/リットルの血漿プロインスリン濃度を伴う症状、徴候又はその両方の所見は、内因性高インスリン血症を実証する。
【0024】
低血糖症の管理は、血糖値が正常血糖値の方へと上昇する、又は理想的には正常血糖値が確立されるような、低血糖症の状態の予防又は治療を指す。正常血糖値は当分野において公知であり、例えばヒトでは70〜125mg/dlの血糖値である。
【0025】
本明細書で使用される「ヒトSSTR1、2、3、5に高い結合親和性を有するSRIF類似体」という用語(本発明の化合物とも称される)は、SSTR1、SSTR2、SSTR3及びSSTR5に高い結合親和性を有する、好ましくはSSTR1及びSSTR2ではIC50<10nmol/l並びにSSTR3及びSSTR5ではIC50<3nmol/lの結合親和性を有する化合物を指す(Schmid et al., Neuroendocrinol. 2004;80:47-50)。特に好ましい本発明の化合物は、パシレオチド又は医薬的に許容されるその塩である。
【0026】
本明細書で使用されるインスリン分泌促進薬という用語は、ベータ細胞を刺激してインスリンを分泌させる物質を指す。分泌促進薬は、例えばスルホニル尿素類及びグリニド類、例えばスルホニル尿素、ナテグリニド又はレパグリニドを含む。
【0027】
本発明の化合物の使用が、低血糖症、例えばスルホニル尿素誘発性低血糖症の有効な予防及び/又は治療、特に内因性高インスリン血症性低血糖症の治療を生じさせることは、確立された試験モデルによって示すことができる。
【0028】
本発明の特定の所見によれば、本発明はまた、その必要のある被験者において低血糖症、特に内因性高インスリン血症性低血糖症を治療する方法であって、前記被験者に治療有効量の本発明の化合物又は医薬的に許容されるその塩を投与することを含む方法を提供する。
【0029】
本発明はまた、治療有効量の本発明の化合物又は医薬的に許容されるその塩を、1又はそれ以上の医薬的に許容される希釈剤又は担体と共に含有する、低血糖症、例えばスルホニル尿素誘発性低血糖症の治療、特に内因性高インスリン血症性低血糖症の治療のための医薬組成物に関する。
【0030】
本発明はまた、本発明の化合物を、低血糖症、例えばスルホニル尿素誘発性低血糖症の治療、特に内因性高インスリン血症性低血糖症の治療におけるその使用のための指示書と共に含む商用パッケージに関する。
【0031】
低血糖症、例えばスルホニル尿素誘発性低血糖症の治療のための医薬組成物は、遊離塩基形態又は医薬的に許容される塩形態のソマトスタチン類似体の有効量を、1又はそれ以上の医薬的に許容される希釈剤又は担体と共に含有する。そのような組成物は従来の方法で製剤され得る。ソマトスタチン類似体はまた、徐放性形態で投与することができ、例えば、生分解性ポリマー若しくはコポリマーなどを含有するインプラント、マイクロカプセル、ミクロスフェア若しくはナノスフェアの形態、リポソーム製剤の形態、又はオートゲルの形態(例えば患者の体液との相互作用後にゲルを形成することができる固体若しくは半固体組成物の形態)で投与し得る。
【0032】
本発明の化合物は、例えば、国際公開第05/046645号において開示されているように製剤することができる(特にパシレオチド)。
【0033】
本発明の化合物又は医薬的に許容されるその塩は、任意の従来の経路によって、例えば非経口的に、例えば注射用溶液又は懸濁液の形態で(例えば上述した徐放性形態を含む)、必要に応じて従来の吸収促進剤を使用して経口的に、経鼻又は坐剤形態で、又は局所的に、例えば点眼液、ゲル、軟膏又は懸濁液製剤の形態で(例えば点滴用又は結膜下若しくは眼内若しくは眼周囲注射用の、例えばリポソーム、ミクロスフェア又はナノスフェア製剤の形態で)、投与し得る。
【0034】
本発明の医薬組成物は、それ自体公知の方法で調製され、約1%〜100%、好ましくは約1%〜40%、特に約20%〜30%の有効成分を含有する。
【0035】
コード番号、一般名又は商標名によって同定される有効成分の構造は、標準大要「The Merck Index」の現行版から又はデータベース、例えばPatents International(例えばIMS World Publications)から入手し得る。その対応する内容は、参照により本明細書に組み込まれる。当業者は、有効成分を同定することが十分に可能であり、そしてこれらの参考文献に基づき、同様に有効成分を製造し、インビトロ及びインビボの両方で標準的な試験モデルにおいて医薬適応及び特性を試験することが可能である。
【0036】
本発明の方法を論じる際に、有効成分への言及は医薬的に許容される塩も包含することが意図されていることは了解される。これらの有効成分が、例えば少なくとも1つの塩基性中心を有する場合、それらは酸付加塩を形成することができる。対応する酸付加塩はまた、所望する場合は、付加的な塩基性中心が存在するように形成され得る。酸性基(例えばCOOH)を有する有効成分も、塩基との塩を形成することができる。塩は、例えば無機酸、高分子酸又は有機酸、例えば塩酸、酢酸、乳酸、アスパラギン酸、安息香酸、コハク酸又はパモ酸との酸付加塩を含む。酸付加塩は、例えば遊離塩基形態の本発明の化合物に1又は2酸当量のいずれを添加するかに依存して、一価塩又は二価塩として存在し得る。好ましい塩は、一塩及び二塩を含む乳酸塩、アスパラギン酸塩、安息香酸塩、コハク酸塩及びパモ酸塩、より好ましくは、例えばパシレオチドの、アスパラギン酸二塩及びパモ酸一塩である。
【0037】
有効成分又は医薬的に許容されるその塩はまた、水和物の形態で使用されてもよく、又は結晶化のために使用される他の溶媒を含んでもよい。
【0038】
当業者は、本明細書中前記又は下記に示す治療適応及び有益な作用を証明するために適切な試験モデルを選択することが十分に可能である。
【0039】
低血糖症、例えばスルホニル尿素誘発性低血糖症、特に高インスリン血症性低血糖症の治療における本発明の化合物の薬理学的活性はまた、例えば臨床試験においても明らかにされ得る。そのような臨床試験は、好ましくは、低血糖症、例えばスルホニル尿素誘発性低血糖症、特に高インスリン血症性低血糖症に罹患している患者における無作為化二重盲検臨床試験である。
【0040】
使用される有効成分の有効用量は、使用される特定化合物又は医薬組成物、投与方法、治療される状態の重症度に依存して異なり得る。従って、投与レジメンは、投与経路並びに患者の腎機能及び肝機能を含む様々な因子に応じて選択される。通常の技術知識を有する医師、臨床医又は獣医は、状態を予防する、改善する又は状態の進行を停止させるために必要な単一有効成分の有効量を容易に決定し、処方することができる。毒性を伴わずに効果を生じさせる範囲内の有効成分の濃度を最適の正確さで達成するには、標的部位への有効成分のアベイラビリティーの動態に基づくレジメンが必要である。これは、有効成分の分布、平衡及び排出についての配慮を含む。例えば、パシレオチドは、20mg、40mg、60mg、80mg若しくは100mgの用量で月1回のデポ剤として、又は100、200、300、400若しくは500mcgの1日2〜4回(例えば1日2回、1日3回)の筋肉内又は静脈内注射として投与し得る。
【実施例】
【0041】
グリブリド誘発性低血糖症へのオクトレオチド及びパシレオチドの作用を検討するため、成体雄性ルイスラットを24時間絶食させ、次にグリブリド(30mg/kg)を経口投与し、その直後にパシレオチド(10若しくは30μg/kg)又はオクトレオチド(10若しくは30μg/kg)の皮下注射を実施した。24時間の食餌制限により、化合物の適用の30分前にすべての処置群において血漿グルコース濃度が約8mmol/lから約6mmol/lに低下した(図1、表1)。グリブリド単独で、適用の1、3及び6時間後に血漿グルコースレベルを有意に低下させた(グリブリドの適用の6時間後に最低値3.5mmol/l)。グリブリド処置ラットにおけるパシレオチドの適用の1、3及び6時間後に、血漿グルコースは未処置絶食ラットのレベルまで又はそれ以上に上昇した。その作用は用量依存的であり、適切な用量のパシレオチドを付加することにより、グリブリドの血糖降下作用を克服する又はさらにはそれを上回ることが可能であることを示唆した。オクトレオチドは、1時間後にグリブリド誘発性低血糖症を予防するのに有効ではなく、3時間後と6時間後に最高用量で、グリブリド処置ラットにおいてグルコースレベルを上昇させる小さな傾向だけを示した。
【0042】
給餌ラットではグリブリドの血糖降下作用はあまり著明ではなく、パシレオチドは(オクトレオチドと異なり)、血漿グルコースへの有意であるが一過性の作用を生じさせた(図2、表2)。これらの実験は、給餌並びに絶食ラットにおいて、パシレオチドが血糖降下薬(例えばグリブリド)で前処置したラットにおける血漿グルコースを上昇させることができることを示唆する。
【表1】
【表2】
図1
図2