特許第5721697号(P5721697)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5721697長い移動範囲を有するMEMSアクチュエータ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5721697
(24)【登録日】2015年4月3日
(45)【発行日】2015年5月20日
(54)【発明の名称】長い移動範囲を有するMEMSアクチュエータ
(51)【国際特許分類】
   H02N 1/00 20060101AFI20150430BHJP
   B81B 3/00 20060101ALI20150430BHJP
【FI】
   H02N1/00
   B81B3/00
【請求項の数】24
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2012-505955(P2012-505955)
(86)(22)【出願日】2010年4月16日
(65)【公表番号】特表2012-524515(P2012-524515A)
(43)【公表日】2012年10月11日
(86)【国際出願番号】US2010031380
(87)【国際公開番号】WO2010121121
(87)【国際公開日】20101021
【審査請求日】2013年4月9日
(31)【優先権主張番号】61/170,542
(32)【優先日】2009年4月17日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】511248294
【氏名又は名称】シーウェア システムズ
【氏名又は名称原語表記】SI−WARE SYSTEMS
(74)【代理人】
【識別番号】110000246
【氏名又は名称】特許業務法人OFH特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】メダット、モスタファ
(72)【発明者】
【氏名】ナダ、ヤシーン
(72)【発明者】
【氏名】モルタダ、バセム
(72)【発明者】
【氏名】サダニイ、バサム・エー
【審査官】 宮地 将斗
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許第06175170(US,B1)
【文献】 特開平05−050383(JP,A)
【文献】 特開2004−048955(JP,A)
【文献】 特開2005−227591(JP,A)
【文献】 特開2004−093680(JP,A)
【文献】 特開2005−278385(JP,A)
【文献】 特開2005−238346(JP,A)
【文献】 特開2000−111813(JP,A)
【文献】 実開昭63−165866(JP,U)
【文献】 特開2009−066750(JP,A)
【文献】 特開平11−126111(JP,A)
【文献】 特開2005−074561(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02N 1/00
B81B 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
微小電気機械システム(MEMS)デバイス用の静電櫛形駆動アクチュエータであって、
曲げスプリングアセンブリと、
前記曲げスプリングアセンブリの相対向する側部にそれぞれ連結された第1の櫛形駆動アセンブリ及び第2の櫛形駆動アセンブリと、
を含み、
前記第1及び第2の各櫛形アセンブリは、
その一方の側部から延びた櫛形駆動フィンガを有する細長メンバを備えた固定櫛形駆動メンバと、
前記曲げスプリングアセンブリに連結された中心ビームと当該中心ビームの一方側から前記固定櫛形駆動メンバの前記櫛形駆動フィンガに向けて延びる櫛形駆動フィンガとを備えた可動櫛形駆動メンバと、
を含み、
前記可動櫛形駆動メンバは、
前記可動櫛形駆動メンバ及び前記固定櫛形駆動メンバの前記櫛形駆動フィンガが部分的に重なる第1の位置と、前記可動櫛形駆動メンバ及び前記固定櫛形駆動メンバの前記櫛形駆動フィンガが互いに噛み合って前記曲げスプリングアセンブリの変位を発生させる第2の位置との間で移動可能であり、
前記櫛形駆動フィンガは、
前記第1の櫛形駆動アセンブリと前記第2の櫛形駆動アセンブリとの間で均等に分割されて、前記可動櫛形駆動メンバの運動方向に対し垂直な、前記曲げスプリングアセンブリの対称軸の周りに、対称的に配置され、
前記第1の櫛形駆動アセンブリ及び前記第2の櫛形駆動アセンブリは、
電気的に励起されたときに、同一の運動方向に静電気力を発生させ、前記第1及び第2の櫛形駆動アセンブリがそれぞれ有する前記可動櫛形駆動メンバの前記櫛形駆動フィンガを、前記第1及び第2の櫛形駆動アセンブリがそれぞれ有する前記固定櫛形駆動メンバの前記櫛形駆動フィンガに向けて同時に移動させる、
静電櫛形駆動アクチュエータ。
【請求項2】
前記第1及び第2の各櫛形駆動アセンブリは、それぞれ、その一方の側部から延びる櫛形駆動フィンガを有する細長メンバをそれぞれ備えた第1及び第2の固定櫛形駆動メンバを、さらに含み、
前記可動櫛形駆動メンバは、前記中心ビームから、前記第1の固定櫛形駆動メンバ及び前記第2の固定櫛形駆動メンバの前記櫛形駆動フィンガに向けて相反する方向に延びる、2組の櫛形駆動フィンガを備え、
前記可動櫛形駆動メンバは、前記可動櫛形駆動メンバの前記櫛形駆動フィンガと、前記第1及び第2の固定櫛形駆動メンバの前記櫛形駆動フィンガとが部分的に重なる第1の位置と、前記第1の固定櫛形駆動メンバの前記櫛形駆動フィンガと前記可動櫛形駆動メンバの2組の前記櫛形駆動フィンガのうちの一方の前記櫛形駆動フィンガとが互いに噛み合う第2の位置と、前記第2の固定櫛形駆動メンバの前記櫛形駆動フィンガと前記可動櫛形駆動メンバの2組の前記櫛形駆動フィンガのうちのもう一方の組の前記櫛形駆動フィンガとが互いに噛み合う第3の位置との間で移動可能である、
請求項1に記載の静電櫛形駆動アクチュエータ。
【請求項3】
前記第2の位置において、前記第2の固定櫛形駆動メンバの前記櫛形駆動フィンガと前記可動櫛形駆動メンバの前記櫛形駆動フィンガとの間に重なりがない、請求項2に記載の静電櫛形駆動アクチュエータ。
【請求項4】
前記第3の位置において、前記第1の固定櫛形駆動メンバの前記櫛形駆動フィンガと前記可動櫛形駆動メンバの前記櫛形駆動フィンガとの間に重なりがない、請求項2に記載の静電櫛形駆動アクチュエータ。
【請求項5】
前記曲げスプリングアセンブリの中心周りのモーメントは、前記第1及び第2の各櫛形駆動アセンブリの前記可動櫛形駆動メンバの運動方向に対し垂直な方向の静電気力が同じ方向に働くときに打ち消される、請求項1に記載の静電櫛形駆動アクチュエータ。
【請求項6】
前記可動櫛形駆動メンバの運動方向に対し垂直な方向における前記可動櫛形駆動メンバの前記櫛形駆動フィンガの変位は、前記第1及び前記第2の各櫛形駆動アセンブリにかかる静電気力が反対向きであるときに打ち消される、請求項5に記載の静電櫛形駆動アクチュエータ。
【請求項7】
前記可動櫛形駆動メンバの運動方向に対し垂直な方向における前記可動櫛形駆動メンバの前記櫛形駆動フィンガの変位は、前記第2の櫛形駆動アセンブリにかかる静電気力が前記第1の櫛形駆動アセンブリにかかる静電気力より大きいとき、前記第1の櫛形駆動アセンブリ上で最小限度に抑えられる、請求項5に記載の静電櫛形駆動アクチュエータ。
【請求項8】
微小電気機械システム(MEMS)デバイスであって、
静電櫛形駆動アクチュエータと、
変位拡大器と、
MEMS可動素子と、を備え、
前記静電櫛形駆動アクチュエータは、
曲げスプリングアセンブリと、
前記曲げスプリングアセンブリの相対向する側部にそれぞれ連結された第1の櫛形駆動アセンブリ及び第2の櫛形駆動アセンブリと、
を含み、
前記第1及び第2の各櫛形アセンブリは、
その一方の側部から延びた櫛形駆動フィンガを有する細長メンバを備えた固定櫛形駆動メンバと、
前記曲げスプリングアセンブリに連結された中心ビームと当該中心ビームの一方側から前記固定櫛形駆動メンバの前記櫛形駆動フィンガに向けて延びる櫛形駆動フィンガとを備えた可動櫛形駆動メンバと、
を含み、
前記可動櫛形駆動メンバは、
前記可動櫛形駆動メンバ及び前記固定櫛形駆動メンバの前記櫛形駆動フィンガが部分的に重なる第1の位置と、前記可動櫛形駆動メンバ及び前記固定櫛形駆動メンバの前記櫛形駆動フィンガが互いに噛み合って前記曲げスプリングメンバの変位を発生させる第2の位置との間で移動可能であり、
前記櫛形駆動フィンガは、
前記第1の櫛形駆動アセンブリと前記第2の櫛形駆動アセンブリとの間で均等に分割されて、前記可動櫛形駆動メンバの運動方向に対し垂直な、前記曲げスプリングアセンブリの対称軸の周りに、対称的に配置され、
前記第1の櫛形駆動アセンブリ及び前記第2の櫛形駆動アセンブリは、
電気的に励起されたときに、同一の運動方向に静電気力を発生させ、前記第1及び第2の櫛形駆動アセンブリがそれぞれ有する前記可動櫛形駆動メンバの前記櫛形駆動フィンガを、前記第1及び第2の櫛形駆動アセンブリがそれぞれ有する前記固定櫛形駆動メンバの前記櫛形駆動フィンガに向けて同時に移動させる、
ものであり、
前記変位拡大器は、
前記静電櫛形駆動アクチュエータの前記曲げスプリングアセンブリに連結されており、
前記静電櫛形駆動アクチュエータにより前記曲げスプリングアセンブリの変位の結果として前記変位拡大器に加えられる力の方向に平行な、前記変位拡大器の中心軸周りに、対称に配置された1対のスプリングであって、当該各スプリングは前記力の方向に剛性を持ち、前記力の方向に垂直な方向に柔性を持つ1対のスプリングと、
前記中心軸周りに対称に配置され、それぞれが前記1対のスプリングのうちの対応するスプリングに連結された第1の端部を有している1対の角度付きビームメンバと、
前記中心軸周りに対称に配置され、それぞれが前記1対のスプリングの運動に応じた前記1対の角度付きビームメンバの回転を可能にするピボット点において前記1対の角度付きビームメンバのうちの対応する角度付きビームメンバに連結されている、1対のピボットと、
前記中心軸周りに対称に配置され、それぞれが前記1対の角度付きビームメンバのうちの対応する角度付きビームメンバの第2の端部に連結されている第1の1対のヒンジと、
前記中心軸周りに対称に配置され、それぞれが前記第1の1対のヒンジのうちの対応するヒンジに連結された第1の端部を有している1対の剛体メンバと、
前記中心軸周りに対称に配置され、それぞれが前記1対の剛体メンバのうちの対応する剛体メンバの第2の端部に連結されている第2の1対のヒンジと、
を含み、
前記第1の1対のヒンジ及び前記第2の1対のヒンジは、前記1対のスプリングの運動に応じた前記1対の剛体メンバの回転を可能とするものであり、
前記MEMS可動素子は、
前記第2の1対のヒンジの間に連結されており、
前記静電櫛形駆動アクチュエータによって前記変位拡大器に加えられた力は、前記曲げスプリングアセンブリの変位に対して拡大された変位を前記MEMS可動素子に発生させ、
前記ピボットは、それぞれ所定の長さを有し一端が固定された、柔性のある片持ちビームで構成され、対応する前記角度つきメンバが前記一端を中心とし前記所定の長さを半径とする円に沿って回転するよう構成されており、
前記第1の1対のヒンジ及び前記第2の1対のヒンジは、それぞれ、前記変位拡大器に加えられる力の方向及び当該力の方向に垂直な方向に剛性を持ち、回転方向において柔性を持つ、S字形ビームで構成されている、
微小電気機械システム(MEMS)装置。
【請求項9】
前記第1及び第2の各櫛形駆動アセンブリは、それぞれ、その一方の側部から延びる櫛形駆動フィンガを有する細長メンバをそれぞれ備えた第1及び第2の固定櫛形駆動メンバを、さらに含み、
前記可動櫛形駆動メンバは、前記中心ビームから、前記第1の固定櫛形駆動メンバ及び前記第2の固定櫛形駆動メンバの前記櫛形駆動フィンガに向けて相反する方向に延びる、2組の櫛形駆動フィンガを備え、
前記可動櫛形駆動メンバは、前記可動櫛形駆動メンバの前記櫛形駆動フィンガと、前記第1及び第2の固定櫛形駆動メンバの前記櫛形駆動フィンガとが部分的に重なる第1の位置と、前記第1の固定櫛形駆動メンバの前記櫛形駆動フィンガと前記可動櫛形駆動メンバの2組の前記櫛形駆動フィンガのうちの一方の前記櫛形駆動フィンガとが互いに噛み合う第2の位置と、前記第2の固定櫛形駆動メンバの前記櫛形駆動フィンガと前記可動櫛形駆動メンバの2組の前記櫛形駆動フィンガのうちのもう一方の組の前記櫛形駆動フィンガとが互いに噛み合う第3の位置との間で移動可能である、
請求項8に記載のMEMSデバイス。
【請求項10】
前記第2の位置において、前記第2の固定櫛形駆動メンバの前記櫛形駆動フィンガと前記可動櫛形駆動メンバの前記櫛形駆動フィンガとの間に重なりがない、請求項9に記載のMEMSデバイス。
【請求項11】
前記第3の位置において、前記第1の固定櫛形駆動メンバの前記櫛形駆動フィンガと前記可動櫛形駆動メンバの前記櫛形駆動フィンガとの間に重なりがない、請求項9に記載のMEMSデバイス。
【請求項12】
前記各スプリングは、U字状ビームを形成するコンプライアンス構造体(compliant structure)である、請求項8に記載のMEMSデバイス。
【請求項13】
前記各ピボットは、片持ちビームを形成するコンプライアンス構造体である、請求項8に記載のMEMSデバイス。
【請求項14】
前記各ヒンジは、S字状ビームを形成するコンプライアンス構造体である、請求項8に記載のMEMSデバイス。
【請求項15】
前記第1の1対のヒンジ及び前記第2の1対のヒンジのうちの対応するヒンジと、これらのヒンジの間の対応する剛体メンバとが、対応する回転関節機構をそれぞれ形成し、前記静電櫛形駆動アクチュエータの運動方向に垂直な方向での運動を拡大して前記MEMS素子の運動方向に変換する、請求項8に記載のMEMSデバイス。
【請求項16】
それぞれ対応する前記1対のスプリングの一つと、前記1対のピボットの一つと、前記1対の角度付きビームメンバの一つとは、対応するてこ機構をそれぞれ形成し、当該てこ機構と前記回転関節機構とは、それぞれ前記対称軸周りに対称に配置されて、回転運動を前記MEMS素子の運動方向に対応する並進運動に変換する、請求項15に記載のMEMSデバイス。
【請求項17】
前記変位拡大器に連結された少なくとも1台の付加的な静電櫛形駆動アクチュエータをさらに備える、請求項8に記載のMEMSデバイス。
【請求項18】
微小電気機械システム(MEMS)デバイスの内部に用いられる変位拡大器であって、
前記変位拡大器に加えられる力の方向に平行な、前記変位拡大器の中心軸周りに、対称に配置された1対のスプリングであって、当該各スプリングは前記力の方向に剛性を持ち、前記力の方向に垂直な方向に柔性を持つ1対のスプリングと、
前記中心軸周りに対称に配置され、それぞれが前記1対のスプリングのうちの対応するスプリングに連結された第1の端部を有している1対の角度付きビームメンバと、
前記中心軸周りに対称に配置され、それぞれが前記1対のスプリングの運動に応じた前記1対の角度付きビームメンバの回転を可能にするピボット点において前記1対の角度付きビームメンバのうちの対応する角度付きビームメンバに連結されている、1対のピボットと、
前記中心軸周りに対称に配置され、それぞれが前記1対の角度付きビームメンバのうちの対応する角度付きビームメンバの第2の端部に連結されている第1の1対のヒンジと、
前記中心軸周りに対称に配置され、それぞれが前記第1の1対のヒンジのうちの対応するヒンジに連結された第1の端部を有している1対の剛体メンバと、
前記中心軸周りに対称に配置され、それぞれが前記1対の剛体メンバのうちの対応する剛体メンバの第2の端部に連結されている第2の1対のヒンジと、
を含み、
前記第1の1対のヒンジ及び前記第2の1対のヒンジは、前記1対のスプリングの運動に応じた前記1対の剛体メンバの回転を可能とするよう構成されており
前記ピボットは、それぞれ所定の長さを有し一端が固定された、柔性のある片持ちビームで構成され、対応する前記角度つきメンバが前記一端を中心とし前記所定の長さを半径とする円に沿って回転するよう構成されており、
前記第1の1対のヒンジ及び前記第2の1対のヒンジは、それぞれ、前記変位拡大器に加えられる力の方向及び当該力の方向に垂直な方向に剛性を持ち、回転方向において柔性を持つ、S字形ビームで構成されている、
変位拡大器。
【請求項19】
前記各スプリングは、U字状ビームを形成するコンプライアンス構造体である、請求項18に記載の変位拡大器。
【請求項20】
前記各ピボットは、片持ちビームを形成するコンプライアンス構造体である、請求項18に記載の変位拡大器。
【請求項21】
前記各ヒンジは、S字状ビームを形成するコンプライアンス構造体である、請求項18に記載の変位拡大器。
【請求項22】
それぞれ対応する前記1対のスプリングの一つと、前記1対の角度付きビームメンバの一つと、前記1対のピボットの一つとが、変位拡大器に加えられた力に関連付けられた入力変位を拡大するための、対応するてこ機構をそれぞれ形成する、請求項18に記載の変位拡大器。
【請求項23】
それぞれ対応する前記第1の1対のヒンジの一つと、前記第2の1対のヒンジの一つと、これらのヒンジの間の対応する剛体メンバとは、前記静電櫛形駆動アクチュエータの運動方向に垂直な方向の運動を拡大して前記第2の1対のヒンジの間に連結されたMEMS素子の運動方向に変換するための、対応する回転関節機構をそれぞれ形成する、請求項18に記載の変位拡大器。
【請求項24】
それぞれ対応する前記1対のスプリングの一つと、前記1対のピボットの一つと、前記1対の角度付きビームメンバの一つとは、対応するてこ機構をそれぞれ形成し、当該てこ機構と前記回転関節機構とは、それぞれ前記対称軸周りに対称に配置されて、回転運動を前記MEMS素子の運動方向に対応する並進運動に変換する、請求項23に記載の変位拡大器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に、微小電気機械システム(Micro Electro-Mechanical Systems、MEMS)デバイスに関し、特に、MEMSアクチュエータに関する。
【背景技術】
【0002】
微小電気機械システム(MEMS)とは、微細加工テクノロジーにより共通のシリコン基板上に、機械要素と、センサと、アクチュエータと、エレクトロニクス(電子機器)とを集積化したものを意味する。例えば、マイクロエレクトロニクスは、通常、集積回路(IC)プロセスを使用して作製されるが、マイクロメカニカル部品は、当該プロセスと同様のマイクロ機械加工プロセスを用いて、シリコンウェハの一部を選択的にエッチング除去したり新しい構造層を付加することにより機械部品及び電気機械部品を形成して作製される。MEMSデバイスは、低コストで、バッチ生産が可能であり、標準的なマイクロエレクトロニクスと互換性を持つことから、分光測定、形状測定、環境センシング、屈折率測定(又は材料認識)、その他のセンサ用途に適した魅力的な候補である。さらに、MEMSデバイスはサイズが小さいので、モバイルデバイスやハンドヘルドデバイスにMEMSデバイスを一体的に組み込むことができる。
【0003】
信頼性のあるアクチュエータは、MEMSデバイスにとって不可欠の部品である。MEMSアクチュエータの最も一般的な2つのタイプは、熱アクチュエータと静電アクチュエータ(electrostatic actuator)である。静電アクチュエータの一例は、櫛形駆動アクチュエータ(comb-drive actuator)である。櫛形駆動デバイスは、リニアモーターであり、金属又はシリコンの2つの櫛形部(comb)の間に作用する静電気力を利用して、マイクロミラーのようなMEMS部品の運動を発生させる。静電気力は、櫛形部の間に電圧が印加されたときに発生して櫛形部を引き寄せる。通常は、一方の櫛形部は固定されており、もう一方の櫛形部が移動可能となっている。各櫛形部は、複数の櫛形フィンガを有しており、可動の櫛形フィンガと固定の櫛形フィンガとが、互いに入り込む(噛み合う、interdigitate)ように配置されている。可動櫛形部は、櫛形部の間に電圧がなくなると、復元スプリングにより元の位置に復帰する。各フィンガから得られる力は比較的小さいので、櫛形駆動アクチュエータは、MEMSデバイスに十分な力を発生させるため、通常、10乃至200本のフィンガを有している。
【0004】
しかし、櫛形駆動アクチュエータが安定に移動できる範囲(安定移動範囲)は、電気機械的な横方向の不安定性(横不安定性)によって制限される。横不安定性が発生すると、可動櫛形フィンガは、運動方向に対し垂直な方向に変位を受け、固定櫛形フィンガと接触してしまう。可動櫛形部が固定櫛形部の方向へ移動するにつれて、フィンガ間の入り込み領域が増大して交差軸方向の力が大きくなり、フィンガは、突然、側面(sideway)に沿って互いに接触してしまうようになる。これは、2つの効果、すなわち、運動方向に垂直な方向への変位と、復元スプリングの中心周りに誘起されるモーメントとによるものと考えられる。
【0005】
静電櫛形駆動アクチュエータの安定移動範囲は、主に、フィンガ間のギャップ間隔と、フィンガ入り込み量(重なり量)の初期値と、支持スプリング(suspended spring)のばね剛性(stiffness)とに依存する。静電櫛形駆動アクチュエータの安定移動範囲を増大させる最も簡単な方法は、フィンガのギャップ間隔を増大させることである。しかし、この方法では、高い駆動電圧を必要とすることとなり、多くの用途において望ましくない。
【0006】
安定移動範囲を広げる方法として、いくつかの他のアプローチが提案されている。
例えば、1つのアプローチは、y方向にばね定数を変えるため、直線的なスプリングではなく、傾斜した折り畳みビーム型の支持スプリング(tilted folded-beam suspended spring)を使用する。対応するばね定数はy方向において、
【数1】
から
【数2】
まで変化する。ここで、Eはヤング率であり、Iは機械スプリングの慣性モーメントであり、dはx方向に沿った支持ビーム(suspended beam)長さの投影であり、Lは支持ビーム長さである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
安定移動範囲を広げる他のアプローチとして、個々の櫛形フィンガの長さを調整する方法や、予め曲げて形成された支持スプリング(pre-bent suspended spring)を利用する方法がある。さらに最近では、他のアプローチとして、第2の櫛形電極を用いて安定移動範囲を広げる方法がある。この方法では、シフトさせたKe(shifted Ke)(静電的な負のばね定数)により、静電櫛形駆動アクチュエータの変位を拡大している。上記の各アプローチは、安定移動範囲を広げることができる可能性はあるが、そのためには更に駆動電圧を上げる必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の実施形態は、微小電気機械システム(MEMS)デバイス用の、横不安定性が低減された静電櫛形駆動アクチュエータを提供する。本櫛形駆動アクチュエータは、曲げスプリングアセンブリ(flexure spring assembly)と、曲げスプリングアセンブリの相対向する側部にそれぞれ連結された第1及び第2の櫛形駆動アセンブリとを含む。第1及び第2の各櫛形アセンブリは、それぞれ、当該各アセンブリの一方の側部から延びた櫛形駆動フィンガを有する細長い部材(細長メンバ、elongate member)を備えた固定櫛形駆動メンバと、曲げスプリングアセンブリに連結された中心ビームと当該中心ビームの一方側から固定櫛形駆動メンバの櫛形駆動フィンガに向けて延びる櫛形駆動フィンガとを備えた可動櫛形駆動メンバと、を有している。
【0009】
可動櫛形駆動メンバは、可動櫛形駆動メンバの櫛形駆動フィンガと固定櫛形駆動メンバの櫛形駆動フィンガとが部分的に重なる第1の位置と、可動櫛形駆動メンバの櫛形駆動フィンガと固定櫛形駆動メンバの櫛形駆動フィンガとが噛み合って曲げスプリングアセンブリに変位を発生させる第2の位置との間で移動することができる。さらに、櫛形駆動フィンガは、第1の櫛形駆動アセンブリと第2の櫛形駆動アセンブリとの間で均等に分割され、可動櫛形駆動メンバの運動方向に対し垂直な、曲げスプリングアセンブリの対称軸周りに、対称に配置されている。さらに、第1及び第2の櫛形駆動アセンブリは、電気的に励起されると、同一の運動方向に静電気力を発生させ、第1及び第2の櫛形駆動アセンブリがそれぞれ有する可動櫛形駆動メンバの櫛形駆動フィンガを、第1及び第2の櫛形駆動アセンブリがそれぞれ有する固定櫛形駆動メンバの櫛形駆動フィンガに向けて同時に移動させる。
【0010】
さらなる実施形態では、横安定性を維持しつつアクチュエータの移動範囲を効果的に2倍に拡大する双方向静電櫛形駆動アクチュエータが提供される。双方向櫛形駆動アクチュエータでは、第1及び第2の各櫛形駆動アセンブリは、それぞれ、第1及び第2の固定櫛形駆動メンバと可動櫛形駆動メンバとを含み、上記第1及び第2の固定櫛形駆動メンバは、それぞれ、その一方の側部から延びる櫛形駆動フィンガを備えた細長メンバを有しており、上記可動櫛形駆動メンバは、中心ビームから第1及び第2の固定櫛形駆動メンバの各櫛形駆動フィンガに向けて相反する方向に延びる、2組の櫛形駆動フィンガを備えている。可動櫛形駆動メンバは、可動櫛形駆動メンバの櫛形駆動フィンガと第1の櫛形駆動メンバ及び第2の櫛形駆動メンバの櫛形駆動フィンガとが部分的に重なる第1の位置と、第1の固定櫛形駆動メンバの櫛形駆動フィンガと、可動櫛形駆動メンバの2組の櫛形駆動フィンガのうちの一方の組の櫛形駆動フィンガとが互いに噛み合う第2の位置と、第2の固定櫛形駆動メンバの櫛形駆動フィンガと、可動櫛形駆動メンバの2組の櫛形駆動フィンガのうちのもう一方の組の櫛形駆動フィンガとが互いに噛み合う第3の位置と、の間で移動することができる。
【0011】
本発明の実施形態は、静電櫛形駆動アクチュエータの移動範囲を1桁増大させることができる、微小電気機械システム(MEMS)デバイスの内部で用いられる、変位拡大器をさらに提供する。本変位拡大器は、当該変位拡大器に加えられた力の方向と平行な、変位拡大器の中心軸周りに、対称に配置された1対のスプリングを含み、個々のスプリングは、力の方向に剛性を有し、力の方向に垂直な方向には柔性を有する(compliantである)。本変位拡大器は、上記中心軸周りに対称に配置された1対の角度付きビームメンバであって上記1対のスプリングのうちの対応するスプリングに連結された第1の端部をそれぞれ有する角度付きビームメンバと、上記中心軸周りに対称に配置された1対のピボットであって、各ピボット点において上記1対の角度付きビームメンバのうちの対応する角度付きビームメンバにそれぞれ連結され、上記1対のスプリングの運動に応じた上記1対の角度付きビームメンバの回転を可能にする1対のピボットと、上記中心軸周りに対称に配置された1対のヒンジであって上記1対の角度付きビームメンバのうちの対応する角度付きビームメンバの第2の端部にそれぞれ連結されている第1の1対のヒンジと、上記中心軸周りに対称に配置された1対の剛体メンバであって上記第1の1対のヒンジのうちの対応するヒンジに連結された第1の端部をそれぞれ有する1対の剛体メンバと、上記中心軸の周りに対称に配置された1対のヒンジであって上記1対の剛体メンバのうちの対応する剛体メンバの第2の端部にそれぞれ連結された第2の1対のヒンジと、をさらに含む。上記第1及び第2の1対のヒンジは、上記1対のスプリングの運動に応じた上記1対の剛体メンバの回転を可能にする。
【0012】
実施形態の一例では、各スプリングは、U字状ビームを形成するコンプライアンス構造体(compliant structure)であり、各ピボットは、片持ちビームを形成するコンプライアンス構造体であり、各ヒンジは、S字状ビームを形成するコンプライアンス構造体である。
【0013】
実施形態の他の例では、第1及び第2の1対のヒンジのうちの対応するヒンジと、これらのヒンジの間の対応する剛体メンバとが、対応する回転関節機構をそれぞれ形成し、静電櫛形駆動アクチュエータの運動方向に対し垂直な方向の運動を拡大して、第2の1対のヒンジ間に連結されたMEMS素子の運動の方向に変換する。さらに、それぞれ対応する1対のスプリングの一つと、1対のピボットの一つと、1対の角度付きビームメンバの一つとは、対応するてこ機構をそれぞれ形成し、当該てこ機構と上記回転関節機構とは、それぞれ上記対称軸周りに対称に配置されて、回転運動をMEMS素子の運動方向に対応する並進運動に変換する。
【0014】
本発明の実施形態は、横安定性が改善された静電櫛形駆動アクチュエータと、変位拡大器と、変位拡大器に連結されたMEMS可動素子とを含むMEMSデバイスをさらに提供する。静電櫛形駆動アクチュエータによって変位拡大器に印加される力は、櫛形駆動アクチュエータの曲げスプリングアセンブリの変位に対し拡大された変位を、MEMS可動素子に発生させる。実施形態の他の例では、変位拡大器に少なくとも1つの付加的な静電櫛形駆動アクチュエータが連結されて改善されたアクチュエータ安定性を提供し、これにより、駆動電圧を減少させた状態で全移動範囲を増大する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
本発明のより完全な理解は、添付図面と併せて利用されるときに以下の詳細な説明を参照して達成されることがある。
図1】従来技術による静電櫛形駆動MEMSアクチュエータを示す平面図である。
図2】本発明の実施形態に係る静電櫛形駆動MEMSアクチュエータの一例を示す平面図である。
図3】本発明の実施形態に係る静電櫛形駆動MEMSアクチュエータの他の一例を示す平面図である。
図4図3に示す静電櫛形駆動MEMSアクチュエータの動作を示す図である。
図5図3に示す静電櫛形駆動MEMSアクチュエータの動作を示す図である。
図6図3に示す静電櫛形駆動MEMSアクチュエータにおける横力(side force)の影響を示す図である。
図7図3に示す静電櫛形駆動MEMSアクチュエータにおける横力の影響を示す図である。
図8A図3に示す静電櫛形駆動MEMSアクチュエータにおける横力の影響を示す図である。
図8B図3に示す静電櫛形駆動MEMSアクチュエータにおける横力の影響を示す図である。
図9】本発明の実施形態に係る静電櫛形駆動MEMSアクチュエータについて測定された安定移動範囲を示すグラフである。
図10】本発明の実施形態に係るMEMSアクチュエータと共に用いられる、変位拡大器の一例を示す図である。
図11】本発明の実施形態に係る、MEMS素子の変位を発生させる変位拡大器の運動を示す図である。
図12】本発明の実施形態に係る変位拡大器の一例を示す平面図である。
図13】本発明の実施形態に係る、静電櫛形駆動アクチュエータの一例及び変位拡大器の一例を含むMEMSデバイスの一例を示す平面図である。
図14】本発明の実施形態に係るMEMSデバイスの運動の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の実施形態として、張り付き(スティッキング、sticking)を起こすことなく安定範囲を増大させることのできる、平衡型フィンガを用いた静電櫛形駆動アクチュエータの構成について説明する。また、MEMSアクチュエータと共に用いて当該MEMSアクチュエータの変位を1桁増大させることのできる変位拡大器の構成についても説明する。
【0017】
図1は、MEMS用の、従来型の静電櫛形駆動アクチュエータ10を示す。アクチュエータ10は、櫛形駆動アセンブリ20と、曲げスプリングアセンブリ30とを有している。櫛形駆動アセンブリ20は、固定櫛形駆動メンバ21と、可動櫛形駆動メンバ23とを有している。固定櫛形駆動メンバ21及び可動櫛形駆動メンバ23は、それぞれ、細長ビームメンバ22及び26を含み、各細長ビームメンバは、一方側から延びる櫛形駆動フィンガ24及び28をそれぞれ有している。櫛形駆動フィンガ24及び28は、電極25を介して固定櫛形駆動メンバ21及び可動櫛形駆動メンバ23の両端に印加される電圧に応答して噛み合うように、互いの傍を通って移動するよう配置されている。例えば、可動櫛形駆動フィンガ28と固定櫛形駆動フィンガ24との間に駆動電圧を印加することにより、静電気力による引力が働き、固定櫛形駆動フィンガ24に向かう可動櫛形駆動フィンガ28の変位が発生する。
【0018】
曲げスプリングアセンブリ30は、スプリング32と、アンカー34と、ローター36とを含む。ローター36は、可動櫛形駆動メンバ23の細長メンバ26に繋がっている。スプリング32はローター36に連結されており、これにより、櫛形駆動アセンブリ20によって生成された静電気力の結果として、ローター36に直線運動をさせることができる。例えば、櫛形駆動アセンブリ20に電圧が印加されると、可動櫛形駆動メンバ23は、可動櫛形駆動フィンガ28と固定櫛形駆動フィンガ24とが部分的に重なる第1の位置から、可動櫛形駆動フィンガ28と固定櫛形駆動フィンガ24とが互いに噛み合う第2の位置へ移動して、当該運動の方向に向かってローター36の直線変位を発生させる。アンカー34はスプリング32を基板(図示せず)に固定しており、これにより、櫛形駆動部材21と23との間に電圧がなくなると、ローター36は初期位置へ復帰することができる。
【0019】
しかし、ローター36により移動できる最大距離は、横不安定性、すなわち、運動方向に対し垂直な方向にスプリングの機械的復元力より大きい静電気力が発生することにより生じる力の不均衡に起因して、櫛形駆動フィンガ24と28とが互いに接触(スナップ(snap))してしまうことにより、制限される。原理的には、2つの櫛形駆動メンバ21及び23の静電気力は等しく、したがって、各可動櫛形駆動フィンガ28は、スナップすることなく、2本の固定櫛形駆動フィンガ24の間のそれぞれの中心軸に沿って移動することができる。しかしながら、実際には、リソグラフィプロセス、エッチングプロセス、あるいは、何らかの環境外乱により発生する何らかのミスアライメントにより、可動櫛形駆動フィンガ28は、固定櫛形駆動フィンガ24間の中心位置から逸れてしまう場合がある。このように、2つの櫛形駆動メンバで発生する静電気力は、一致しないことがある。したがって、上記垂直な方向のばね定数が可動櫛形駆動フィンガ28を2つの固定櫛形駆動フィンガ24の間の定常位置に維持することができない場合、可動櫛形駆動フィンガは、固定櫛形駆動フィンガ24の一方側に接触(スナップ(snap))することとなり、ローターは、これより長い距離をカバーすることができなくなる。
【0020】
例えば、図1に示すように、運動の方向をx方向とすると、不安定性から生じる力はFとなる。力Fが十分に大きい場合、ローター36は、Fの符号に依存して、固定フィンガ24のうちの1つに向けてy方向に運動することになる。これにより、次に、曲げスプリングアセンブリ30の中心周りのモーメントMθが発生することになる。このように、不安定現象の開始時点では、一体となって発生する2つの効果、すなわち、運動方向に垂直な方向における並進と、Z軸回りのモーメントMθとが存在する。
【0021】
本発明の実施形態では、図2に示すように、横不安定性を低減する静電櫛形駆動アクチュエータ100が用いられている。静電櫛形駆動アクチュエータ100は、曲げスプリングアセンブリ120の回りに対称に配置された2つの櫛形駆動アセンブリ110a及び110bを含む。
【0022】
各櫛形駆動アセンブリ110a及び110bは、それぞれ、その下にある基板(図示せず)に連結された固定櫛形駆動メンバ111と、対応する可動櫛形駆動メンバ113とを含む。各固定櫛形駆動メンバ111及び各可動櫛形駆動メンバ113は、それぞれ、一方側から延びる櫛形駆動フィンガ114と118とをそれぞれ備えた細長ビームメンバ112と116とを含む。櫛形駆動フィンガ114及び118は、電極115を介して固定櫛形駆動メンバ111及び可動櫛形駆動メンバ113の両端に印加される電圧に応答して互いに噛み合うように、互いの傍を移動するよう配置されている。
【0023】
櫛形駆動フィンガ114及び118は、第1の櫛形駆動アセンブリ110aと第2の櫛形駆動アセンブリ110bとの間で均等に分割され、X方向に沿う可動櫛形駆動メンバ113の運動方向に垂直な、Y方向に沿う曲げスプリングアセンブリ120の対称軸128周りに、対称に配置されている。このようにして、櫛形駆動フィンガ114及び118のうちの半分は、曲げスプリングアセンブリ120の左に置かれ、櫛形駆動フィンガ114及び118のうちのもう半分は、平衡した形で曲げスプリングアセンブリ120の右に配置されている。
【0024】
曲げスプリングアセンブリ120は、スプリング122及びローター124を含む。ローター124は、第1の櫛形駆動アセンブリ110a及び第2の櫛形駆動アセンブリ110bのそれぞれの可動櫛形駆動メンバ113の細長メンバ116に繋がっている。したがって、第1の櫛形駆動アセンブリ110a及び第2の櫛形駆動アセンブリ110bは、電気的に励起されると、同じ運動方向に静電気力を発生させて、第1の櫛形駆動アセンブリ110a及び第2の櫛形駆動アセンブリ110bの可動櫛形駆動フィンガ118を、第1の櫛形駆動アセンブリ110a及び第2の櫛形駆動アセンブリ110bのそれぞれの固定櫛形駆動フィンガ114に向けて同時に移動させる。例えば、各櫛形駆動アセンブリ110a及び110bの可動櫛形駆動メンバ113は、固定櫛形駆動メンバ111及び可動櫛形駆動メンバ113の櫛形駆動フィンガ114及び118が部分的に重なる第1の位置と、固定櫛形駆動メンバ111及び可動櫛形駆動メンバ113の櫛形駆動フィンガ114及び118が互いに噛み合う第2の位置との間で移動して、ローター124の変位を発生させる。
【0025】
スプリング122はローター124に連結されており、これにより、各櫛形駆動アセンブリ110a及び110bによって生成された静電気力に応答して、ローター124に直線運動をさせることができる。さらに、スプリング122により、ローター124は、櫛形駆動アセンブリ110a及び110bの両端に電圧がなくなると、初期位置に復帰することができる。図示されていないが、スプリング122は、アンカーにより基板に固定されている。
【0026】
図3は、本発明の実施形態に係る静電櫛形駆動アクチュエータ100の他の一例を示す。図3に示された静電櫛形駆動アクチュエータ100は、アクチュエータの移動範囲を効率的に2倍にすることのできる、プッシュプル構成の双方向櫛形駆動アクチュエータである。双方向静電櫛形駆動アクチュエータ100は、第1の櫛形駆動アセンブリ110a及び第2の櫛形駆動アセンブリ110bと、曲げスプリングアセンブリ120とを含む。第1の櫛形駆動アセンブリ110a及び第2の櫛形駆動アセンブリ110bは、それぞれ、その下にある基板(図示せず)に連結された第1の固定櫛形駆動メンバ111a及び第2の固定櫛形駆動メンバ111bと、可動櫛形駆動メンバ113とを含む。
【0027】
第1及び第2の各櫛形駆動メンバ111a、111bは、それぞれ、一方側から延びた櫛形駆動フィンガ114a及び114bをそれぞれ有する細長メンバ112a及び112bを、並置した形で有している。可動櫛形駆動メンバ113は、第1の固定櫛形駆動メンバ111a及び第2の固定櫛形駆動メンバ111bのそれぞれの櫛形駆動フィンガ118a及び118bに向かって中心ビーム116から反対方向に延びる、2組の櫛形駆動フィンガ118a及び118bを有している。
【0028】
櫛形駆動フィンガ114a及び118aは、電極115aを介して第1の固定櫛形駆動メンバ111a及び可動櫛形駆動メンバ113の両端に印加される電圧に応答して、互いに噛み合うように、互いの傍を通って移動するよう配置されている。さらに、櫛形駆動フィンガ114b及び118bは、電極115bを介して第2の固定櫛形駆動メンバ111b及び可動櫛形駆動メンバ113の両端に印加される電圧に応答して、互いに噛み合うように、互いの傍を通って移動するよう配置されている。例えば、可動櫛形駆動メンバ113は、可動櫛形駆動メンバ113の櫛形駆動フィンガ118a及び118bが第1の固定櫛形駆動メンバ111a及び第2の固定櫛形駆動メンバ111bのそれぞれの櫛形駆動フィンガ114a及び114bと部分的に重なる第1の位置と、第1の固定櫛形駆動メンバ111aの櫛形駆動フィンガ114aと可動櫛形駆動メンバ113の櫛形駆動フィンガ118aとが互いに噛み合う第2の位置と、第2の固定櫛形駆動メンバ111bの櫛形駆動フィンガ114bと可動櫛形駆動メンバ113の櫛形駆動フィンガ118bとが互いに噛み合う第3の位置との間で移動することができる。
【0029】
図2に示されるように、櫛形駆動フィンガ114a、114b、118a及び118bは、第1の櫛形駆動アセンブリ110aと第2の櫛形駆動アセンブリ110bとの間で均等に分割され、可動櫛形駆動メンバ113の運動方向に対し垂直な、曲げスプリングアセンブリ120の対称軸128の周りに、対称に配置されている。このようにして、櫛形駆動フィンガ114a、114b、118a及び118bの半分は、曲げスプリングアセンブリ120の左に置かれ、櫛形駆動フィンガ114a、114b、118a及び118bのもう半部は、平衡した形で曲げスプリングアセンブリ120の右に置かれている。
【0030】
曲げスプリングアセンブリ120は、スプリング122及びローター124をさらに含む。ローター124は、第1の櫛形駆動アセンブリ110a及び第2の櫛形駆動アセンブリ110bの、それぞれの可動櫛形駆動メンバ113の中心ビーム116につながっている。したがって、第1の櫛形駆動アセンブリ110a及び第2の櫛形駆動アセンブリ110bは、電気的に励起されると、同じ運動方向に静電気力を発生させ、第1の櫛形駆動アセンブリ110a及び第2の櫛形駆動アセンブリ110bの可動櫛形駆動フィンガ118a及び118bは、共に、第1の櫛形駆動アセンブリ110a及び第2の櫛形駆動アセンブリ110bのそれぞれの固定櫛形駆動フィンガ114a及び114bに向かって同時に移動する。スプリング122はローター124に連結されており、これにより、ローター124は、各櫛形駆動アセンブリ110a及び110bによって生成された静電気力に応じて、直線運動をすることができる。さらに、スプリング122により、ローター124は、櫛形駆動アセンブリ110a及び110bの両端に電圧がなくなると、初期位置に復帰することができる。図示されていないが、スプリング122はアンカーにより基板に固定されている。
【0031】
次に、図4及び5には、双方向静電櫛形駆動アクチュエータ100のプッシュプル式動作が示されている。図4に示されるように、第1の櫛形駆動アセンブリ110a及び第2の櫛形駆動アセンブリ110bの、それぞれの第1の固定櫛形駆動メンバ111aが起動されると(すなわち、V1がオン、V2がオフ)、起動された側の第1の固定櫛形駆動フィンガ114aと、これに並置された可動櫛形駆動フィンガ118aとは、互いに噛み合うが、起動されていない側では、第1の櫛形駆動アセンブリ及び第2の櫛形駆動アセンブリの、それぞれの第2の固定櫛形駆動フィンガ114bと可動櫛形駆動フィンガ118bとは、重ならない。本実施形態では、ローター124の直線運動は、第1の櫛形駆動アセンブリ110aの方に向かう。
【0032】
同様に、図5に示すように、第1の櫛形駆動アセンブリ110a及び第2の櫛形駆動アセンブリ11bの、それぞれの第2の固定櫛形駆動メンバ111bが起動されると(すなわち、V2がオン、V1がオフ)、起動された側の第2の固定櫛形駆動フィンガ114bと、これに並置された可動櫛形駆動フィンガ118bとは、互いに噛み合うが、起動されていない側では、第1の固定櫛形駆動フィンガ114aと可動櫛形駆動フィンガ118aとは、重ならない。本実施形態では、ローター124の直線運動は、第2の櫛形駆動アセンブリ110bの方に向かう。同図に示すように、本プッシュプル構成は、櫛形駆動アクチュエータ100の移動範囲を効率的に2倍にするが、初期位置でのフィンガの重なり量は最小限度に維持されるので、安定移動範囲には影響を与えない(すなわち、各櫛形駆動アセンブリの一方側でアクチュエータが動作している間は、当該アセンブリの他方側のフィンガは重ならない)。
【0033】
図6ないし8は、図3に示す静電櫛形駆動MEMSアクチュエータにおける、横力の影響を示している。図6ないし8では、静電気横力Fは、第1の櫛形駆動アセンブリ110aと第2の櫛形駆動アセンブリ110bとの間で分割されており、横力Fの影響がモーメントMθの影響と共に、Fの3つの場合について例示されている。図6では、横力F/2は、櫛形駆動アセンブリ110a及び110bの両方で同じ方向に作用している。この場合、一方側に発生したモーメント効果は他方側でキャンセルされ、曲げスプリングアセンブリ120の中心周りのモーメントMθは零となり、これにより、安定移動範囲は拡大される。すなわち、スプリング120により平衡が保たれる力Fだけが存在している。
【0034】
図7Aに示す第2の事例は、図6に示された事例と類似しているが、櫛形駆動アセンブリ110a及び110bのそれぞれに対し、力F/2が反対の方向に働いている。この場合、曲げスプリングアセンブリ120の中心周りのモーメントは、打ち消されない。しかし、y方向における変位は打ち消され、モーメントMθに起因する回転だけをスプリングにより平衡させればよく、この平衡を保つことにより櫛形駆動アクチュエータの安定範囲は拡大する。
【0035】
第3の事例では、図8Aに示すように、櫛形駆動アセンブリ110aのうちの一方だけに力F/2が働いている。この場合、y方向の並進及びモーメントが存在するが、櫛形駆動アセンブリ110aにおいてのみ力が印加される。他方の櫛形駆動アセンブリ110bに乱れを生じ得るが、他方の櫛形駆動アセンブリ110bのフィンガ114a、114b、118a及び118bでは力の平衡が保たれ、したがって、他方の櫛形駆動アセンブリ110bのフィンガ114a、114b、118a及び118bは、スティッキング(張り付き)を生じない。このことは、図8Bの光学顕微鏡写真に示すように実験的に検証されており、V1が櫛形駆動アセンブリ110a及び110bの両方においてオンであるとき、左側の櫛形駆動アセンブリ110aの1組のプル式フィンガにスティッキングが生じ、一方、右側の櫛形駆動アセンブリ110bの1組のプル式フィンガにはスティッキングは生じない。
【0036】
図9は、本発明の実施形態による静電櫛形駆動MEMSアクチュエータの、安定移動範囲の実験測定結果を示すグラフである。片側フィンガ式櫛形駆動アクチュエータ(すなわち、図1に示されるような、1つの櫛形駆動アセンブリだけのアクチュエータ)の変位量と両側櫛形駆動アクチュエータ(すなわち、図2及び3に示されるような、2つの対向する櫛形駆動アセンブリを持つアクチュエータ)の変位量とが、対比して示されている。これらのアクチュエータは共に、同じ寸法のスプリング及び櫛形駆動フィンガを有している。片側フィンガを有する櫛形駆動部は、約85μmの安定移動範囲を有し、両側フィンガを有する櫛形駆動部は、125μmの安定移動範囲を有している。すなわち、両側櫛形駆動アクチュエータでは、片側櫛形駆動アクチュエータと比較して、移動範囲が47%増大している。
【0037】
走行範囲をさらに増大させるため、平衡型フィンガ静電櫛形駆動アクチュエータの使用に加えて、図10に示されるように、変位拡大器200を使用することもできる。本変位拡大器200は、2つの原理、すなわち、てこの作用と古典的な回転関節(rotation joint)に基づいて動作する。よく知られているように、てこは、ピボット点と共に使用される剛性の棒であって、力を変位で置き換える。てこの動作原理は、てこの任意の点において常に等量の仕事が行われることである。したがって、てこの一方の端部での変位(D2)は、てこの他方の端部での変位(D1)に、ピボットの両側の各長さ(L2及びL1)の分数を乗じた値に等しく、以下の通りである。
【数3】
上式(3)は、てこ又は片持ち梁(cantilever)の、変位拡大の基本式を表わしている。
【0038】
古典的な関節機構の動作原理は、運動を、初期方向からその垂直方向へ、変位を拡大しつつ変換することである。古典的な回転関節のメカニズムにより生成される変位増幅(O)は、2つの回転関節の間の剛体の長さ(L)と、一方の回転関節によって初期方向に移動した距離(i)と、他方の回転関節の変位(O)の関数としての剛体の回転角度(a)と、の関数であり、次式で与えられる。
【数4】
図10に示された変位拡大器200は、てこ機構と回転関節とを組み合わせたものであり、変位拡大器200の全体的な倍率は、したがって、比率L/LのO倍となる。
【0039】
次に、変位拡大器200の詳細について見ると、変位拡大器200は、変位拡大器200に印加された力Fの方向に平行な、変位拡大器200の中心軸210周りに、対称に配置された1対のスプリング220と、中心軸210周りに対称に配置された1対のスプリングヒンジ225と、中心軸210周りに対称に配置された1対の剛性角度付きビームメンバ235と、中心軸周りに対称に配置された1対のピボット230と、中心軸210周りに対称に配置された第1の1対のヒンジ240と、中心軸210周りに対称に配置された第2の1対のヒンジ250と、中心軸210周りに対称に配置された1対の剛体メンバ245と、を含む。マイクロミラーその他の可動部品などのMEMS素子260は、第2の1対のヒンジ250の間に連結されている。
【0040】
各スプリング220は、力Fの方向には剛性があり、当該力の方向に垂直な方向には柔性があり、かつ、1対のスプリングヒンジ225のうちの対応するヒンジに連結されている。各角度付きビームメンバ235は、1対のスプリングヒンジ225のうちの対応するヒンジに連結された第1の端部と、第1の1対のヒンジ240のうちの対応するヒンジに連結された第2の端部とを有している。各ピボット230は、それぞれのピボット点において1対の角度付きビームメンバ235のうちの対応する角度付きビームメンバに連結されており、1対の角度付きビームメンバ235は、1対のスプリング220の運動に応じてスプリングヒンジ225で回転することができる。各剛体メンバは、第1の1対のヒンジ240のうちの対応するヒンジに連結された第1の端部と、第2の1対のヒンジ240のうちの対応するヒンジに連結された第2の端部とを有している。第1の1対のヒンジ240及び第2の1対のヒンジ250により、1対の剛体メンバ245は、1対のスプリング220の運動に応じて回転することができる。
【0041】
スプリング220への入力変位は、MEMSアクチュエータによって機械力を印加することにより生じる。実施形態の一例では、MEMSアクチュエータは、図2又は3に示す静電櫛形駆動アクチュエータである。ただし、他の実施形態では、MEMSアクチュエータは、他の電気アクチュエータ、熱アクチュエータ、又は、磁気アクチュエータとすることもできる。変位拡大器200は、中心軸(又はX軸)210周りに対称となっているため、入力変位及び出力変位は、回転やY方向の変位を生ずることなく、X方向にのみ発生する。スプリング220は、Y方向における運動を切り離し、X方向における運動を変換する。このように、スプリング220は、Y方向に柔性があり、X方向に剛性があり、かつ、スプリングヒンジ225を介して角度付きビームメンバを回転可能に連結している。ピボット230は、自由度を1にする(すなわち、角度付きビームメンバ235の回転だけを可能にする)。ヒンジ240及び250は、運動を変換し、剛体メンバ245の回転を可能にする。
【0042】
例えば、図11は、変位拡大器の2つの状態の例を示している。第1の状態では、変位拡大器200に力が印加されず、図10に示されるように、MEMS素子260の位置は変化しない。第2の状態では、力が変位拡大器200に印加され、角度付きビームメンバ235と剛体メンバ245が回転して、MEMS素子260が変位する。図11を見ると、MEMSアクチュエータによる僅かな入力変位Dinは、変位拡大器200によって拡大され、大きな出力変位Doutとなることが判る。
【0043】
図12では、変位拡大器200の各部分における摩擦の発生を回避するため、ヒンジ及びピボットが、柔性のある構造体で置き換えられている。図12に示されるように、スプリング220及び対応するスプリングヒンジ225は、Y方向に柔性を持ちX方向に剛性を持つように設計されたU字状ビームをそれぞれ有する、柔性のある構造体(compliant structure、コンプライアンス構造体)で置き換えられている。したがって、スプリングビーム220の、X軸に平行な部分は長く、Y軸に平行な部分は短い。U字状ビーム220は、ヒンジとしての役割も果たしており、この構造体のX方向の寸法を最小限に抑えることができるという利点を有している。
【0044】
ピボット230も、同様に柔性のある構造体(compliant structure、コンプライアンス構造体)で置き換えられている。例えば、図12に示すように、簡単な片持ちビーム230がピボットとしての役割を果たす。理想的なピボットは、変位を生ずることのない回転(すなわち、自由度が1)を可能にするものであるのに対し、片持ちビームは変位及び回転を許容するものであるが、片持ちビームは理想的なピボットより効率的に機能する。図12では、片持ちビームからのX方向の変位は、出力変位に加法的に変換され、この出力変位は、MEMS素子260の変位拡大を増大させる。他方で、片持ちビームのY方向の変位は、古典的な回転関節によってX方向の変位に変換され拡大され、これにより出力変位が増加して、MEMS素子260の変位拡大率が増大する。
【0045】
ヒンジ240及び250は、運動を変換するため、X方向及びY方向の両方に剛性を持つS字状ビームを備えた柔性のある構造体(compliant structure、コンプライアンス構造体)で置き換えられている。さらに、S字状ビーム240及び250は、回転方向に柔性を持ち、理想的なヒンジとして機能する。したがって、S字状ヒンジの設計には、最適な性能を達成するためのトレードオフが存在する。
【0046】
図13は、本発明の実施形態に係る静電櫛形駆動アクチュエータ100の一例及び変位拡大器200の一例を備えたMEMSデバイス300の一例を示している。静電櫛形駆動アクチュエータ100と共に変位拡大器200を使用すると、アクチュエータ100の小さな変位に比べて全移動範囲を拡大することができる。さらに、2台又はそれ以上の櫛形駆動アクチュエータを用いれば、各櫛形駆動アクチュエータを駆動するのに必要な駆動電圧は低減される。
【0047】
図13では、変位拡大器200を駆動するために2台の静電櫛形駆動アクチュエータ100を用いており、これにより横安定性をさらに向上させることができる。例えば、変位拡大器200からのX方向での剛性をKmultiplierとすると、2台の静電櫛形駆動アクチュエータが存在する場合、Kmultiplierは、2台のアクチュエータ100の間で均等に分割されることになる。すなわち、櫛形駆動アクチュエータの横安定性を考慮して、各アクチュエータに対しKmultiplierの半分の剛性を付加する。このように、静電櫛形駆動アクチュエータを1台ではなく2台使用することにより、変位拡大器200のX方向の剛性による負荷を2台のアクチュエータ100に分割している。Kmultiplierを半分に分割することにより、X方向における全剛性は、減少する。
【0048】
例えば、1台の櫛形駆動アクチュエータだけを使用する場合のX方向の全剛性は、次式で与えられるものと考えることができる。
total=K+Kmultiplier (式5)
ここで、Kは、X方向における静電櫛形駆動アクチュエータのスプリングの剛性である。したがって、2台のスプリングを備えた2台の櫛形駆動アクチュエータを使用する場合の、X方向における全剛性は、次式となる。
Kxtotal=K+Kmultiplier/2 (式6)
【0049】
このように、x方向の剛性を減少させれば、横安定性は増大し、その結果、移動範囲はより長くなる。より詳細に言えば、Y方向の全ばね定数剛性とX方向の全ばね定数剛性との間の比率(Ky/Kx)を大きくすれば、櫛形駆動アクチュエータの安定移動範囲をより長くすることができる。変位拡大器200は、Y方向に剛性が低いので、各櫛形駆動アクチュエータ200のX剛性分担を低下させることにより、長い移動範囲を確保することができる。
【0050】
図14は、本発明の実施形態に係るMEMSデバイス300の運動の一例を示している。図14から判るように、図3に示す平衡型フィンガ櫛形駆動アクチュエータ100と図12に示し変位拡大器とを組み合わせることにより、MEMS素子260のより大きな変位を実現することができる。変位拡大器200の倍率を調整すれば、変位を1桁増大させることもできる。
【0051】
当業者によって認識されるように、本願において記載された革新的な概念は、広範囲の用途に亘って変形され、変更される可能性がある。したがって、特許主題の範囲は、検討された特定の典型的な教示のいずれにも限定されるべきではなく、その代わりに、請求項に記載された事項によって定められる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8A
図8B
図9
図10
図11
図12
図13
図14