(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5721730
(24)【登録日】2015年4月3日
(45)【発行日】2015年5月20日
(54)【発明の名称】アノード回路に液体分離器を備える燃料電池システム
(51)【国際特許分類】
H01M 8/04 20060101AFI20150430BHJP
H01M 8/00 20060101ALI20150430BHJP
H01M 8/10 20060101ALN20150430BHJP
【FI】
H01M8/04 J
H01M8/04 N
H01M8/00 Z
!H01M8/10
【請求項の数】9
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-538220(P2012-538220)
(86)(22)【出願日】2010年10月30日
(65)【公表番号】特表2013-511115(P2013-511115A)
(43)【公表日】2013年3月28日
(86)【国際出願番号】EP2010006638
(87)【国際公開番号】WO2011057722
(87)【国際公開日】20110519
【審査請求日】2012年7月11日
(31)【優先権主張番号】102009053499.7
(32)【優先日】2009年11月16日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】598051819
【氏名又は名称】ダイムラー・アクチェンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】Daimler AG
(74)【代理人】
【識別番号】100090583
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 清
(74)【代理人】
【識別番号】100111143
【弁理士】
【氏名又は名称】安達 枝里
(72)【発明者】
【氏名】トーマス・バウアー
(72)【発明者】
【氏名】ホルガー・リヒター
【審査官】
前原 義明
(56)【参考文献】
【文献】
特表2008−522352(JP,A)
【文献】
特開2004−022198(JP,A)
【文献】
特開2002−117881(JP,A)
【文献】
特開2009−117132(JP,A)
【文献】
特開2007−200814(JP,A)
【文献】
特開2010−282904(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2010/0239956(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/00 − 8/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アノード回路を備える燃料電池システムであり、燃料電池のアノード領域からの未使用のガスを、再循環フィード装置を介してアノード領域に戻し、前記アノード回路に少なくとも1つの液体分離器が配置され、該液体分離器は、構造的に前記再循環フィード装置と一緒に1つのコンポーネントユニットに一体化されて実施されている燃料電池システムであって、
新鮮な水素の前記アノード領域(3)への供給が、前記液体分離器(8)への前記水素の供給によって行われること、および
前記新鮮な水素の供給が、前記液体分離器の規定に従った使用では、前記アノード領域(3)への前記未使用のガスと前記新鮮な水素との混合ガス流の供給よりも第1の液体分離器(8)内の低い測地高さに配置されていることを特徴とする、燃料電池システム。
【請求項2】
前記再循環フィード装置(11)と一体化されて実施されている前記液体分離器(8)が、再循環ガス流の流れの方向にそって前記再循環フィード装置(11)の後に配置されていることを特徴とする、請求項1に記載の燃料電池システム。
【請求項3】
前記アノード回路(9)内に第2の液体分離器(10)が設けられ、該分離器は前記第1の液体分離器(8)と接続(15)されており、前記第2の液体分離器は、再循環ガス流の流れの方向にそって前記再循環フィード装置(11)の前に配置されていることを特徴とする、請求項1又は2に記載の燃料電池システム。
【請求項4】
前記接続(15)により、前記第1の液体分離器(8)から前記第2の液体分離器(10)に液体の排出が行われることを特徴とする、請求項3に記載の燃料電池システム。
【請求項5】
両方の前記液体分離器(8、10)が、前記再循環フィード装置(11)の中に一体型のコンポーネントユニット(16)として形成されていることを特徴とする、請求項3又は4に記載の燃料電池システム。
【請求項6】
再循環ガス流の前記第1の液体分離器(8)への供給が、規定に従った使用では、前記新鮮な水素の供給と前記混合ガス流の供給との間にある測地高さに配置されていることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項に記載の燃料電池システム。
【請求項7】
前記アノード回路(9)からの全ての液体の排出が、前記第2の液体分離器(10)の部分から少なくとも1つのバルブ装置(14)を備える配管エレメント(13)を介して行われることを特徴とする、請求項4〜6のいずれか一項に記載の燃料電池システム。
【請求項8】
前記液体分離器(8、10)の少なくとも1つが、跳ね返り防止(19)を有していることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一項に記載の燃料電池システム。
【請求項9】
車両(12)内において、駆動及び/又は補助負荷に電気エネルギーを供給するための、請求項1〜8のいずれか一項に記載の燃料電池システムの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の前提部分に詳しく定義されている種類の、アノード回路を備える燃料電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来技術から、燃料電池システムにアノード回路を設けることが知られており、このアノード回路によって、燃料電池のアノード領域からでる未使用の排出ガスを再循環し、新鮮な水素と一緒に再び燃料電池のアノード領域に供給することができる。アノード領域において生じる圧力損失を補正するため、そのようなアノード回路部分には再循環フィード装置が必要である。この再循環フィード装置は、原則的に、ブロワ、コンプレッサなどから成り得る。しかし、ガス噴射ポンプ又はジェットポンプのような方法で、流入する新鮮な水素が再循環ガス流を吸入するように再循環フィード装置を形成することも考えられるであろう。また、これらの種類の再循環フィード装置を組み合わせることも考えられる。
【0003】
しかし、通常は、再循環フィード装置としてブロワが用いられる。このようなブロワを確実に、高い信頼性をもって作動可能にするため、また、特にシステム停止時にブロワ部分の液滴が凍結してブロワホイールがブロックされるのを防ぐため、従来技術から、特許文献1の形態で再循環フィード装置の前後に液体分離器を配置することが知られている。これらは、測地学的に高い位置にある水分離器が、例えば第2の水分離器の部分又はその配管部分の中へ分離する水を流入させるように互いに接続することができる。新鮮な水素の供給は、この構成の場合、通常は、再循環フィード装置と第1の水分離器との間で行われる。このことは、これら両方の構成部品間の配管内で液滴が凝結するという課題と、場合によってはバルブ及び/又は再循環フィード装置の部分に戻るという課題とがある。このような燃料電池システムが氷点下の温度で停止すると、凝結した水が凍結する場合があり、再始動時に機能障害又は漏れを引き起こすおそれがある。
【0004】
その他に、特許文献2から、コンポーネントユニットとしての分離器を再循環フィード装置に接続することが知られている。このことは、特に、液滴を分離するために再循環フィード装置の回転運転を利用して、全体としてできる限り簡単かつ効率的な構造にするために提案される。この場合、文献には、平行して第2の分離器が説明されており、この第2の分離器は、前述の文献に記載されている再循環フィード装置後の分離器に該当する。再循環フィード装置の流入部分において、流れる方向に向かって再循環フィード装置の前に分離器を組み込むことは、再循環フィード装置の部分に多量の水が発生するため、同様に凍結の危険が生じるという課題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2006/056276A1号パンフレット
【特許文献2】独国特許出願公開第102007033203A1号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、上述の問題を回避し、単純で、確実な、しかも高い信頼性をもって作動するアノード回路用の構造を提供する、請求項1の前提部分に基づくアノード回路を備える燃料電池システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に基づき、この課題は、請求項1の特徴部分に記載される特徴によって解決される。その他の従属請求項には、本発明の有利な実施形態及び発展形態が示されている。
【0008】
供給される新鮮な水素の液体分離器部分への配管によって、この新鮮な水素により、及び通常は非常に冷たい新鮮なガスから高い圧力が除去されることにより凝結する、ガス流内の残留液体が直接液体分離器の中で凝結するため、液体はこの分離器内に残ることが可能となる。この構造の場合、液体分離器は、構造的に再循環フィード装置と一体化されている。従って、場合によって凍結するおそれのある凝結した液体が配管エレメントに送られることが防止される。再循環フィード装置を一体型のコンポーネントユニットに統合することにより、さらにコンパクトな構造を達成することができる。
【0009】
本発明に基づく構造の特に適切かつ有利な発展形態においては、再循環フィード装置と一体化されて実施されている液体分離器が、再循環ガス流の流れの方向に向かって再循環フィード装置の後に配置されている。これによって、供給される新鮮な水素は再循環フィード装置を通って送られる必要がなくなり、液体分離器内では主に凝結した水が分離される。
【0010】
さらに、本発明の有利な発展形態では、アノード回路内に第2の液体分離器が設けられ、この分離器は第1の液体分離器と接続されており、この第2の液体分離器は、再循環ガス流の流れの方向に向かって再循環フィード装置の前に配置されている。従って、第1の液体分離器では、新鮮な水素ガス流によって凝結された液体を分離するだけで済み、一方、アノード領域から運ばれる液体は、例えば第2の分離器で分離することができる。この構造により、再循環ガス流において分離される水の大部分となる生成水を、再循環フィード装置に達する前に分離することが可能となり、エネルギーを使用して、再循環フィード装置からこの生成水を送る必要はなくなる。再循環フィード装置の後、再循環フィード装置と一体化されて実施されている液体分離器では、新鮮な水素が供給され、それによって温度が低下することにより、まだ凝結している液体部分が分離される。従って、この構造により常に乾燥した状態で作動する再循環ブロワが達成されるため、液体が凍結する危険はない。液体分離器が互いに接続されていることにより、バルブ装置を備える唯一の配管エレメントによって、アノード回路からの水の排出が十分行われるため、この場合、特に水素の供給に関して、非常に漏れの生じやすい接続部を節約することができる。
【0011】
本発明による考え方の非常に有利かつ適切な発展形態では、さらに、両方の液体分離器と再循環フィード装置とを、一体型のコンポーネントユニットとして形成することが可能になっている。この構造は、特にコンパクトである。周辺の配管エレメントに対して、この一体型のコンポーネントユニットの容積が比較的大きいことにより、冷却はゆっくりと行われるため、コンポーネントユニット部分の液体の凝結の危険が最小化される。さらに、その他の接続部分及び配管エレメントを節約することができ、このことは、特に、配管エレメント内の水素が漏れないように密閉する必要のある接続部分に関して、経費面及び取付けの面で重要な利点となる。
【0012】
従って、本発明に基づく燃料電池システムにより、温度が氷点下の場合にも高い信頼性をもって作動し、最小の接続部数と構成部品数でできているアノード回路を実施することができる。このような簡単で、低コストの、しかも高い信頼性をもつ構造により、車両での使用が可能となる。従って、本発明に基づく燃料電池システムの好ましい使用は、駆動及び/又は補助負荷に電気エネルギーを供給するための車両内燃料電池システムの使用にある。
【0013】
本発明に基づく燃料電池システムの有利なその他の実施形態は、残りの従属請求項に示されており、以下に図を用いて詳しく説明される実施例によって明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明に基づく、コンポーネントが取り付けられたアノード回路を備える燃料電池システムの概要図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1には、中心に燃料電池2が形成されている燃料電池システム1が示され、この燃料電池はアノード領域3とカソード領域4を有し、例えばPEM燃料電池スタックとして形成することができる。カソード領域4には、空気供給装置5によって、酸素含有ガスとしての空気が供給される。カソード領域4から流出する空気は直接周辺に排出されるか、又はここに図示されていないコンポーネント(バーナー、タービンなど)によって周辺に排出することができる。
【0016】
アノード領域3には、高圧下において水素をガスの状態で貯蔵している圧縮ガスタンク6から水素が供給される。この水素はシャットオフバルブ7(この部分で水素が膨張する)を介して、アノード領域3の、後で詳しく説明する液体分離器8に流れ込む。アノード回路9内の未使用の残留ガスは、アノード領域3から、第2の液体分離器10と再循環フィード装置11とを介して排水器(液体分離器)8の部分に達し、そこで、圧縮ガスタンク6からくる新鮮な水素と混ぜ合わされ、アノード領域3へ戻る。
【0017】
この極めて簡略化して示されている燃料電池システム1の構造は、例えば、ここでは図でのみ示されている車両12の中に取り付けることができ、車両の駆動及び/又は補助負荷に電気エネルギーを供給する。
【0018】
図1による燃料電池システム1のアノード回路9の構造の特殊性は、両方の液体分離器8、10の使用にある。この場合、液体分離器8は排水器とも呼ぶことができ、一方、第2の液体分離器10は主要分離器を形成している。アノード回路9内を流れる再循環ガス流の方向により、この再循環ガス流は、まず、主要分離器10に達する。燃料電池2において、生成水は主にカソード領域4で発生し、排出空気によって排出される。しかし、生成水の一部は、アノード領域3でも発生し、再循環ガス流を介して排出される。この水は主要分離器10において分離され、通常は再循環ブロワとして形成されている再循環フィード装置11の部分に液滴が達するのを防止している。次に、バルブ14を備える配管エレメント13は、主要分離器10から周辺又はカソード領域4の供給エアへも通じているため、主要分離器10で集められる水は徐々に排出することができる。さらに、主要分離器10には、一般的な周知の跳ね返り防止が備えられているため、一旦ここに集められた水は、アノード回路9の配管部分に戻ることはできない。
【0019】
主要分離器10の部分において液滴から離れた水は、再循環フィード装置11に達し、そこから排水器8に達する。排水器8の部分において、水は圧縮ガスタンク6から供給される新鮮な水素と混ぜ合わされる。この水素は、膨張の際の冷却により比較的冷えているため、再循環フィード装置11後の比較的温かい湿ったガス流から水がさらに凝結する。次に、この水は排水器8の部分に集まり、この排水器は、同様に、該当する跳ね返り防止19などによって、水が再循環ブロワ11の方向へ戻るのを防止し、アノード領域3の方向へ進むのも防止するように形成することができる。さらに、
図1で分かるように、排水器8と主要分離器10との間に接続15を設けることができる。この接続15は、圧縮されたガスが主要分離器の部分に戻るのを防止又は最小化するため、特に断面積縮小部分を有することができる。しかし、接続15を介して排水器8に集まった水は主要分離器の中に排出することができるため、アノード回路9の中で集められた全ての水を排出するために必要なのは、配管エレメント13とバルブ14だけである。これにより、構成部品の数と、特に水素を供給する配管において常に経費をかけて密閉しなければならない接続部の数とが明らかに削減される。
【0020】
両方の水分離器8、10の少なくとも一方、いずれにせよ排水器8は、再循環フィード装置11と一緒に、一体型のコンポーネントユニット16として形成されている。この一体化されたコンポーネントユニット16が
図2に示されている。ここでは、極めて簡略化された構造が示されている。この構造は、主に、ホイール17とこのホイール17用の一般的な電気駆動18とを有する再循環ブロワ11からなる。さらに、一体型のコンポーネントユニット16は排水器8を有し、ここでは、この排水器が基本的な断面図で示されている。矢印によって示されているように、ガス流は主要分離器10の部分からホイール17の部分に流入し、ガス流はこのホイールによって排水器8の中に送り込まれる。ここで、ガス流は、圧縮ガスタンク6又はシャットオフバルブ7の部分から低い測地高さで流入する新鮮な水素と混ざり合う。そのように混ぜ合わされたガス流は、例えばここでは基本的に示されているバッフルプレート及び/又は織物からなり得る跳ね返り防止の適切な取付け装置19を介して、ガス流の中で凝結している液滴を残して排水器8の上部に達し、そこからアノード領域3の方向に流出する。排水器8が規定に従って使用される場合、非常に低い測地高さの部分における新鮮な水素の流入と、比較的高い又は多少高い測地高さにおけるホイール17部分からの再循環ガス流の流入と、明らかに高い測地高さにおけるアノード領域3の方向への混合ガス流の流出とにより、この場合、比較的確実かつ高い信頼性をもって、凝結している液滴を排水器8の部分に残して、アノード領域3の中に液滴が一緒に引き込まれないようにすることができる。アノード領域に液滴が入り込んだ場合、液滴は膜へのガス供給ダクトを詰まらせ、温度が氷点下になると凍結によってブロックするおそれがある。
【0021】
排水器8は、その他に上部に2つのコネクタ20を有し、これらは、例えば圧力センサ及び差圧センサのコネクタとして使用することができる。この一体化構造により、該当するコンポーネントユニット16は、簡単かつ効率的に作動することができ、しかも僅かな接続部で作ることが可能となる。このコンポーネントユニットは、特にホイール17の凍結及び構成部品間の随意の配管エレメントの凍結をほぼ回避することができるため、特に氷点下の温度における作動に関して比較的信頼性が高い。
【0022】
図2に示されているような実施形態の他に、主要分離器10を一緒にコンポーネントユニット16の中に統合し、この場合、例えばこれを排水器8の下部に配置し、電気駆動18をホイールの下部に移動することによって、非常にコンパクトな一体型のコンポーネントユニット16を実現することも考えられるであろう。
【符号の説明】
【0023】
1 燃料電池システム
2 燃料電池
3 アノード領域
4 カソード領域
5 空気供給装置
6 圧縮ガスタンク
7 シャットオフバルブ
8 第1の液体分離器(排水器)
9 アノード回路
10 第2の液体分離器(主要分離器)
11 再循環フィード装置(再循環ブロワ)
12 車両
13 配管エレメント
14 バルブ
15 接続
16 コンポーネントユニット
17 ホイール
18 電気駆動
19 跳ね返り防止
20 コネクタ