【実施例】
【0039】
以下実施例により本発明を具体的に説明する。なお本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0040】
<測定方法>
1.原綿の吸湿発熱テストの測定方法
(1)開繊した原綿、及び水を温度20℃、45%RHの室内環境に2時間以上放置した。これにより、測定環境下で原綿の吸湿を終了させた。水は試験中に温度が変動しないように室温に合わせておいた。
(2)直径75mmのシャーレに水16gを入れた。
(3)原綿を1g取り出した。
(4)ピンセットで原綿をつかみ、シャーレの水に載せた。
(5)サーモグラフィ(例えばNEC Avio赤外線テクノロジー社製、商品名“H2630”)で熱履歴を計測した。
(6)5秒間隔で発熱終了まで観察し、発熱をカメラで撮影しデータをパソコンに記憶させた。発熱終了はサンプルの最高温度が21℃未満とした。
(7)以上の条件下(サーモグラフィ測定結果を解析)し、温度20℃、湿度45%RHの室内環境下で発熱持続時間を計測した。
【0041】
2.質量増加率(吸水率)の測定方法
水との接触時間及び質量を一定にした試料の質量増加率(吸水率)を測定した。測定方法は次のとおりである。
(1)開繊した原綿を1g秤量した(A)。
(2)温度20℃、湿度45%RHの室内環境下で、300ccビーカーに水200gを入れ、原綿を水面に浮かべた。判定は次のとおりとした。
浮き:発熱持続時間中、浮いていたもの。
半沈み:発熱持続時間中、繊維が部分的に水中に沈むが、全体としては浮いていたもの。
沈み:発熱持続時間内に繊維全体が沈んだもの。沈むまでの時間を測定した。
(3)1分経過後、ネットに全量移し替え余剰水を除去した。
(4)1分経過後、質量測定し(B)、下記式より質量増加率(吸水率)を算出した。
質量増加率(吸水率)=(B−A)×100/A
【0042】
3.繊維の浮沈測定
前記の発熱測定(サーモグラフィ測定結果を解析)した後、サンプルの浮沈状況を観察した。
【0043】
4.紡績糸の吸湿発熱テストの測定方法
(1)
図1に示す方法で測定した。紡績糸1を160本束ねて幅約100mmとし、質量を測定した(A)。両端をクリップ2,3で挟み、一方の端は棒4とともに挟み、他方の端はクリップ3を錘にして下に吊り下げた。下には水6を入れたビーカー5を置き、水6の中に紡績糸1のクリップ3側の端が1cm漬かるまで下ろした。
(2)環境条件、サーモグラフィ測定条件は、前記原綿の場合と同様である。試験終了後の試験体質量(B)を測定した。下記式より質量増加率(吸水率)を算出した。
質量増加率(吸水率)=(B−A)×100/A
更に紡績糸の場合は、気化冷却時の温度を表3に示した。この気化冷却温度は、環境温度20℃を基準にした温度である。
【0044】
5.吸湿率の測定方法
試料約5.0gを熱風乾燥器で105℃、16時間乾燥して質量を測定した(a)。次に該試料を温度20℃、45%RH,65%RHあるいは95%RHに調節した恒温恒湿器に24時間入れた。このようにして吸湿した試料の質量を測定した(b)。以上の測定結果から、次式によって算出した。
吸湿率[%]={(b−a)/a}×100
【0045】
6.平均温度の測定方法
2分30秒経過時の水面から、上部クリップ2までの試料全面の平均温度をサーモグラフィで計測した。
【0046】
7.繊維に対する疎水化剤結合量の定量試験
本実施例で使用するカチオン系疎水剤(例:カチオン系フッ素含有シリコーン化合物)は、高架橋ポリアクリレート系繊維表面の塩型カルボキシル基に選択的にイオン吸着結合するため、次式により存在量の差を算出して結合量とした。
(繊維浸漬前のエマルジョン液中の疎水剤の存在量)−(繊維浸漬後エマルジョン液中の存在量)=(繊維吸着量)
(備考:疎水剤の存在量は濃度(質量%)×液量によって算出する。前記濃度は重量分析により求めた。)
【0047】
8.風合い
官能検査により手で触って触感で評価し、柔軟か粗硬かを調べた。
【0048】
9.紡績工程通過性
原綿をカードにより開繊してウェブとし、練条、粗紡、リング精紡工程によって紡績糸を製造する際に、各工程を円滑に通過するかを判断した。工程通過性が良好でないと実用的な物つくりは困難である。評価は下記によって行った。
A 紡績工程通過性は問題ない
B 紡績工程通過性に問題があり、実生産できない。
【0049】
(実施例1)
1.高架橋ポリアクリレート系繊維
特開平5−132858に記載されている公知の方法に従い、塩型カルボキシル基量3.1mmol/g及び4.8mmol/g及び7.7mmol/gの高架橋ポリアクリレート系繊維を製造した。
2.疎水加工
疎水化剤としては下記に示すものを使用した。疎水加工も併せて記載した。
(1)実験番号1−1〜1−4、1−8〜1−9
カチオン系フッ素シリコーン疎水剤として、日華化学社製、商品名“S−09”をエマルジョン水溶液にして使用した。前記水溶液エマルジョンに浸漬後、脱水機で脱水し、105℃、30分間乾燥後、170℃で30分間キュアセットした。
(2)実験番号1−5
カチオン系アミノ変性シリコーンとして、信越シリコーン社製、商品名“KF−8012”をエマルジョン水溶液にして使用した。繊維を浸漬後、脱水機で脱水し、105℃、30分間乾燥後、170℃で30分間キュアセットした。
(3)実験番号1−6
カチオン系高融点ワックスとして、日華化学社製、商品名“TH−44”をエマルジョン水溶液にして使用した。繊維を浸漬後、脱水機で脱水し、105℃、30分間乾燥後、170℃で30分間キュアセットした。
(4)実験番号1−7
疎水化処理をしない繊維(未処理品)とした。
【0050】
以上のようにして得られた繊維を各種測定した。測定結果を下記の表2にまとめて示す。
【0051】
【表2】
【0052】
表2から、実験番号1−1〜1−6の繊維は、液相の水分と接触しても水をはじき、吸湿発熱が持続し、液相の水分と接触しても水分増加率は低いこと、温度20℃、湿度65%RHの雰囲気での吸湿率が自重の26.1%以上61.8%以下であることも確認できた。また、水上における発熱持続時間中の繊維は浮いており、沈まなかった。実験番号1−6は「半沈み」であるが、沈まなかった。実験番号1−1,1−2,1−5〜1−7は塩型カルボキシル基の濃度が同一で、カチオン系疎水化剤の種類と結合量は異なるが、吸湿率は未処理繊維(実験番号1−7)と大きな差はなかった。次に吸湿発熱量を測定した。測定条件は、試料を80℃、6時間真空乾燥した後、25℃、95%RH環境下に放置した際の吸湿発熱量を測定した。実験番号1−2の繊維の吸湿発熱量は2037J/g、実験番号1−7(未処理繊維)は2168J/gであり、ほぼ同一の吸湿発熱量であった。前記物性は家庭洗濯を繰り返しても変らなかった。
【0053】
図2は実験番号1−1の疎水化高架橋ポリアクリレート系繊維の走査電子顕微鏡(SEM)断面写真(倍率8000倍)であり、表面から内部までの疎水化剤の分布を測定するための多点元素分析を実施した時の断面説明図である。元素分析方法はSEMに付随しているエネルギー分散型X線分光法(EDX)によるものである。家庭洗濯を繰り返した後、疎水化繊維の断面方向を10等分してそれぞれの区域の元素分析を行ったところ、F元素はNo.1区域で11.89質量%、No.10区域で2.84質量%、その他の区域ではゼロ質量%であり、Si元素はNo.1区域で1.02質量%、No.10区域で0.34質量%、その他の区域ではゼロ質量%であった。このことから、繊維表面にはカチオン系フッ素含有シリコーン化合物が固定されていることが確認できた。
【0054】
(実施例2)
実施例1の全実験番号の繊維を30質量%と、ポリエチレンテレフタレート繊維(PET綿,単繊維繊度:1.1dtex、繊維長:35mm)70質量%をカード装置で混紡し、通常のリング紡績装置でZ撚り(890回/m)をかけてメートル番手40番の紡績糸を製造した。実験番号1−1〜1−9の繊維に対応する実験を実験番号2−1〜2−9とする。以上のようにして得られた紡績糸の各種測定結果を下記の表3にまとめた。
【0055】
【表3】
【0056】
表3から、実験番号2−1〜2−6の紡績糸は、液相の水分と接触しても水をはじき、吸湿発熱が持続し、かつ気化冷却がないか又は−1.2℃であり、比較例品に比べて低いことが確認できた。また液相の水分と接触しても水分増加率は低いことも確認できた。これらの物性は家庭洗濯を繰り返しても変らなかった。実験番号2−8及び2−9は紡績工程において脱落物が発生し、紡績糸は得られなかった。
【0057】
(実施例3)
1.高架橋ポリアクリレート系繊維
特開平5−132858に記載されている公知の方法に従い、塩型カルボキシル基量4.8mmol/gの高架橋ポリアクリレート系繊維を製造した。
2.疎水加工
疎水化剤としては下記に示すものを使用した。疎水加工も併せて記載した。
(1)実験番号3−1
疎水化剤である側鎖両末端型エポキシ変性シリコーンとして、信越シリコーン社製、商品名“X−22−9002”をエマルジョン水溶液にして使用した。繊維を浸漬後、脱水機で脱水し、105℃、30分間乾燥後、170℃で30分間キュアセットした。
(2)実験番号3−2〜3−3
疎水化剤としてカチオン型両末端型アミノ変性シリコーンとして、信越シリコーン社製、製品名“KF−8012”を使用した以外は実験番号3−1と同様に処理した。
(3)実験番号3−4
疎水化剤として旭硝子社製、カチオン系フッ素系疎水剤のエマルジョン“アサヒガードAG−E082”(商品名)を使用した以外は実験番号3−1と同様に処理した。
(4)実験番号3−5
疎水化剤として日華化学社製、商品名“S−09”(カチオン型フッ素シリコーン疎水剤)を使用した以外は実験番号3−1と同様に処理した。
(5)実験番号3−6
疎水化処理をしない繊維(未処理品)を使用した。
【0058】
以上のようにして得られた繊維を各種測定した。測定結果を下記の表4にまとめて示す。
【0059】
【表4】
【0060】
表4から、実験番号3-1〜3-5の繊維は、液相の水分と接触しても水をはじき、吸湿発熱が持続する、液相の水分と接触しても水分増加率は低いこと、温度20℃、湿度45%RHの雰囲気での吸湿率が自重の20%以上であることも確認できた。また、水上における発熱持続時間中の繊維は浮いており、沈まなかった。実験番号3-2は「半沈み」であるが、沈まなかった。これらの物性は家庭洗濯を繰り返しても変らなかった。
【0061】
(実施例4)
実施例3の実験番号3-1〜3-6の繊維を30質量%と、ポリエチレンテレフタレート繊維(単繊維繊度:1.1dtex、繊維長:35mm)70質量%をカード装置で混紡し、通常のリング紡績装置でZ撚り(890回/m)をかけてメートル番手40番の紡績糸を製造した。実験番号3-1〜3-6の繊維に対応する実験を実験番号4-1〜4-6とする。以上のようにして得られた紡績糸の各種測定結果を下記の表5にまとめた。
【0062】
【表5】
【0063】
表5から、実験番号4-1〜4-5の紡績糸は、液相の水分と接触しても水をはじき、吸湿発熱が持続し、かつ気化冷却がないか又は−1.2℃であり、比較例品に比べて低いことが確認できた。また液相の水分と接触しても水分増加率は低いことも確認できた。これらの物性は家庭洗濯を繰り返しても変らなかった。