特許第5721766号(P5721766)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5721766複合硬質クロムめっき皮膜、及びかかる皮膜を被覆した摺動部材
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5721766
(24)【登録日】2015年4月3日
(45)【発行日】2015年5月20日
(54)【発明の名称】複合硬質クロムめっき皮膜、及びかかる皮膜を被覆した摺動部材
(51)【国際特許分類】
   C25D 15/02 20060101AFI20150430BHJP
【FI】
   C25D15/02 G
【請求項の数】7
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2013-72560(P2013-72560)
(22)【出願日】2013年3月29日
(65)【公開番号】特開2014-196533(P2014-196533A)
(43)【公開日】2014年10月16日
【審査請求日】2014年7月29日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000139023
【氏名又は名称】株式会社リケン
(74)【代理人】
【識別番号】100080012
【弁理士】
【氏名又は名称】高石 橘馬
(72)【発明者】
【氏名】高階 洋輔
【審査官】 祢屋 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭61−246400(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/091047(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 9/00− 9/12
C25D13/00−21/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クロム源として3価クロムを使用するクロムめっき浴を用い、電流を印加して製造する複合硬質クロムめっき皮膜であって、平均板径が5〜50μm、アスペクト比が5〜100の板状のAl2O3及び/又は、平均繊維径が0.1〜10μm、アスペクト比が5〜300の繊維状のAl2O3が分散し、前記皮膜の表面に垂直な断面における前記Al2O3の面積率が3〜60%であることを特徴とする複合硬質クロムめっき皮膜。
【請求項2】
請求項1に記載の複合硬質クロムめっき皮膜において、前記Al2O3が前記板状のAl2O3のみからなることを特徴とする複合硬質クロムめっき皮膜。
【請求項3】
請求項1に記載の複合硬質クロムめっき皮膜において、前記Al2O3が前記繊維状のAl2O3のみからなることを特徴とする複合硬質クロムめっき皮膜。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の複合硬質クロムめっき皮膜において、前記Al2O3が単結晶であることを特徴とする複合硬質クロムめっき皮膜。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の複合硬質クロムめっき皮膜において、前記皮膜の表面に垂直な断面に観察されるクラックの幅の最大値が5μm未満であることを特徴とする複合硬質クロムめっき皮膜。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の複合硬質クロムめっき皮膜において、前記皮膜の硬度がHv 600〜1600であることを特徴とする複合硬質クロムめっき皮膜。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の複合硬質クロムめっき皮膜を被覆した摺動部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合硬質クロムめっき皮膜に関し、特に3価のクロムを使用する複合硬質クロムめっき皮膜、及びかかる皮膜を被覆した内燃機関用ピストンリング等の摺動部材に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関のピストンリングには、シリンダライナに対する耐スカッフ性及び耐摩耗性が要求される。これらの要求に対応するため、ピストンリングの外周摺動面には硬質クロムめっき等の表面処理が施されてきた。しかし、近年の環境負荷物質の制限により、クロムめっきのクロム源として使用されてきた6価クロムの使用制限が欧州を中心に広がってきている。代替皮膜としてクロムめっき皮膜以外のNi-W合金めっきやWC系溶射皮膜の開発も行われているが、性能面及びコスト面の課題により製品化されていない。
【0003】
一方、クロムめっき皮膜においては、めっき液に添加するクロム源として有害性の低い3価クロムを使用する研究も行われている。3価のクロムめっき皮膜は、これまで5μm以下の比較的薄めっきに限定した装飾用又は耐食用に使用されてきたが、膜厚10μm以上のめっき皮膜がなかなか工業的に製造できなかったという背景もあり、厚膜化の研究が精力的に行われてきた。特許文献1では、3価クロムを用いるクロムめっき法に関し、錯化剤としてグリシンを用いることにより緻密で数10μmの膜厚のめっきを得ることができることを教示し、特許文献2では、3価クロム浴にダイヤモンド粒子やSiC粒子などの耐摩耗性硬質粒子と、グラファイトやMoS2などの自己潤滑性粒子を加えることにより、耐摩耗性を増強すると共に、従来2μm程度の皮膜の膜厚を9μmまで厚くできることを教示している。さらに、特許文献3では、工業的に実用可能な3価クロムめっき浴として、3価クロムめっき浴に、ホウ酸及びグリシンと組み合わせてアンモニウム塩を添加することを教示し、約50μmのめっき厚の形成に成功している。また、電析時Hv 700程度の硬度が400℃前後の熱処理によりHv 1500程度まで硬度を増加させることができることも教示している。
【0004】
さらに、厚膜化だけでなく、特許文献4では、3価クロムめっき皮膜の耐食性能を向上させるために、水溶性3価クロム化合物、伝導性塩、pH緩衝剤、硫黄含有化合物及びアミノカルボン酸類を含有する水溶液からなる3価クロムめっき浴を使用することを教示し、特許文献5では、液中成分の分解によるハロゲンガス等の有害ガスの発生を抑えて、長期保存性と作業環境の改善を図るため、3価クロム化合物、pH緩衝剤、アミノカルボン酸化合物、スルファミン酸塩化合物、及びアミノカルボニル化合物を含有する水溶液からなる3価クロムめっき浴を教示している。
【0005】
しかしながら、これらの3価クロムめっき浴を使用して、硬質クロムめっき皮膜を膜厚5μm以上に形成すると、皮膜表面から基材界面近傍まで達するような大きなクラックが生じる場合がある。さらに約200〜400℃で熱処理してHv 1000〜1500程度の硬度にした場合、図2に示すように、それらのクラックの開口幅が増加して、めっき皮膜が部分的に剥離してしまうという問題が生じ、実用化にはまだまだ課題が山積しているのが実情である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭56−112493号公報
【特許文献2】特開平6−316789号公報
【特許文献3】特開平9−95793号公報
【特許文献4】特開2010−189673号公報
【特許文献5】国際公開第2012/133613号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記問題に鑑み、導入されたクラックのクラック幅の拡大と、クラックの進展を抑制した3価クロムめっき皮膜、及び前記3価クロムめっき皮膜を被覆した摺動部材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、3価クロムめっきについて鋭意研究の結果、クロム源として3価クロムを使用するクロムめっき浴に、板状及び/又は繊維状の第二相を分散してめっき処理を行うことにより、前記板状及び/又は繊維状第二相を分散した3価クロムめっき皮膜を得ることができ、前記板状及び/又は繊維状第二相によりクラックの伝播を止め、若しくは偏向させ、又はクラック幅の拡大を抑えて、硬質クロムめっき皮膜中のクラックの進展を抑制することができることに想到した。
【0009】
すなわち、本発明の複合硬質クロムめっき皮膜は、クロム源として3価クロムを使用するクロムめっき浴を用い、電流を印加して製造する複合硬質クロムめっき皮膜であって、平均板径が5〜50μm、アスペクト比が5〜100の板状のAl2O3及び/又は、平均繊維系が0.1〜10μm、アスペクト比が5〜300の繊維状のAl2O3が分散し、前記皮膜の表面に垂直な断面における前記Al2O3の面積率が3〜60%であることを特徴とする。また、前記Al2O3は前記板状のAl2O3のみ、又は前記繊維状のAl2O3のみからなるのが好ましい。さらに、前記Al2O3は単結晶であるのが好ましい。
【0010】
さらに、前記複合硬質クロムめっき皮膜において、前記皮膜の表面に垂直な断面に観察されるクラック幅の最大値が5μm未満であることが好ましい。
【0011】
さらに、前記複合硬質クロムめっき皮膜において、前記皮膜の硬度がHv 600〜1600であるのが好ましい。
【0012】
さらに、前記複合硬質クロムめっき皮膜は、摺動部材に被覆されるのが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明の複合硬質クロムめっき皮膜は、ピストンリング等の摺動部材に適用する場合に必要な500μm程度までの厚膜に被覆し、さらに硬度向上のために熱処理しても、発生するクラックの伝播が皮膜中に分散する板状及び/又は繊維状の第二相により阻止若しくは偏向され、又は、クラック開口幅の拡大がブリッジングにより抑えられ、クラックのさらなる進展を抑制することが可能となる。また、本発明の複合硬質クロムめっきは、有害物質である6価クロムを使用しないので、6価クロムを使用する硬質クロムめっき工程を廃止することが可能となり、環境負荷物質の低減が図れる。作業環境が向上し、排水処理の簡易化が図れる等、実用上の効果も大きい。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の複合硬質クロムめっき皮膜の断面を模式的に示した図である。
図2】クロム源として3価クロムを使用するクロムめっき浴を用いて製造した従来の硬質クロムめっき皮膜の断面を模式的に示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の複合硬質クロムめっき皮膜は、クロム源として3価クロムを使用するクロムめっき浴を使用する。3価クロムめっき浴は硫酸クロムや塩化クロムの3価のクロム化合物を主成分とし、これに各種添加剤が加えられることが知られている。例えば、金属イオンと結合して錯イオンを形成し水酸化物の形成を抑制する錯化剤、反応界面におけるpH上昇を緩和するためのpH緩衝剤、電気伝導性を向上させる電導性塩等であり、錯化剤としてはグリシンやアラニン、アスパラギン酸等のアミノカルボン酸類があげられ、pH緩衝剤としてはホウ酸、ホウ酸ナトリウム、リン酸、炭酸ナトリウム等があげられ、電導性塩としては、硫酸カリウム、硫酸ナトリウム、塩化カリウム、塩化アルミニウム等があげられる。その他、スルファミン酸塩や、尿素等のアミノカルボニル化合物などの添加剤が触媒作用等を期待して使用されている。本発明に使用される3価クロムめっき浴は、上記にあげるような公知のものが使用でき、最も一般的な浴組成としては、塩化クロム六水和物、グリシン、ホウ酸、塩化アンモニウム、塩化アルミニウム六水和物があげられる。
【0016】
また、本発明の複合硬質クロムめっき皮膜は、皮膜中にSi、Al、Ti、Bの酸化物、炭化物及び窒化物、Mo、Wの硫化物、並びに黒鉛、雲母、樹脂からなるグループから選択された板状及び/又は繊維状の第二相が分散し、前記皮膜の表面に垂直な断面における前記第二相の面積率が3〜60%であることを特徴とする。分散する板状及び/又は繊維状の第二相は、複合強化の考え方及び皮膜に発生するクラックとの相互作用を期待して導入しているため、欠陥が少なく、弾性率、強度及び硬度の高いことが好ましい。その点、第二相は単結晶であることが好ましい。
【0017】
複合分散する第二相は、Si、Al、Ti、Bの酸化物、炭化物及び窒化物、Mo、Wの硫化物、並びに黒鉛、雲母、樹脂からなるグループから選択された板状及び/又は繊維状の第二相であるが、その中でも、SiO2、SiC、Si3N4、Al2O3、Al2O3-SiO2、AlN、TiC、BNからなるグループから選択された板状及び/又は繊維状の第二相であることが好ましい。例えば、第二相にAl2O3を選択した場合、板状のAl2O3は水熱合成法により製造された板状のα-Al2O3が好ましく、粒径(板径)や板厚の揃った板状粒子が好ましく使用できる。前記板状Al2O3の平均粒子径は5〜50μmであるのが好ましく、5〜20μmであればより好ましい。アスペクト比も5〜100であるのが好ましく、5〜50であればより好ましい。繊維状のAl2O3は、例えば、VSL(Vapor-Liquid-Solid)法により、C軸が繊維方向に成長した単結晶Al2O3(Al2O3ウイスカーともいう)が好ましく使用できる。前記繊維状Al2O3の平均繊維径は0.1〜10μmであるのが好ましく、0.5〜5μmであればより好ましい。アスペクト比は5〜300であるのが好ましく、5〜100であればより好ましい。
【0018】
複合分散する板状及び/又は繊維状の第二相の量は、皮膜の表面に垂直な断面における第二相の面積率(A)で評価し、3〜60%とする。3%未満では、複合した効果がなく、60%を超えて複合すれば、第二相同士が接触して十分緻密な複合皮膜ができないので好ましくない。面積率(A)は5〜40%であるのが好ましく、8〜35%であるのがより好ましい。板状及び/又は繊維状の第二相は、異方性の形状を有しているので、めっき皮膜中に取り込まれる第二相は表面に平行に配向する傾向を示す。したがって、皮膜中に取り込まれる第二相の体積率は、皮膜断面の第二相の面積率とは異なる。
【0019】
図1に本発明の複合硬質クロムめっき皮膜の断面を示す。複合硬質クロムめっき皮膜1は基材2に被覆され、板状及び/又は繊維状の第二相3がクロムめっきマトリックス4中に分散している。異方性の強い、すなわち、アスペクト比の大きな第二相3は皮膜表面に平行に配向する傾向を示し、皮膜中に発生した表面に垂直なクラックに対しては障害物として作用する位置関係をとる。例えば、図1のクラック5は、第二相3の存在により進展方向が偏向し、エネルギーが吸収され、結果的にクラック進展が抑制される。また、クラック6では、クラックブリッジング作用によりクラック6の開口が抑えられて、クラックの進展が抑制される。これらの相互作用によりクラック伝播が抑えられ、皮膜表面から基材界面近傍まで到達するような大きなクラックの発生を回避することが可能となる。逆に、第二相3が皮膜表面に垂直に配向するような場合には、クラックが第二相3の界面に沿って伝播し、皮膜表面から容易に進展してしまう場合もある。
【0020】
クラックの幅としては最大で5μm未満に抑制されるのが好ましい。クラック幅を5μm未満に抑制することによって、めっき皮膜の部分的な剥離を回避することができる。
【0021】
本発明の複合硬質クロムめっき皮膜は、熱処理を施すことにより著しく硬化する。前述したように、3価のクロムめっき浴には様々な添加剤が加えられている。例えば、錯化剤のグリシン(HN2CH2COOH)には、C、Nが含まれており、これらがめっき皮膜中で合金化炭素や合金化窒素として存在し、熱処理により微細な炭化クロムや窒化クロム又はそれらの前駆体を形成し、めっき皮膜を硬化させることが考えられる。皮膜の硬度は、用途にも依存するが、耐摩耗性が要求されるピストンリングの場合、Hv 600〜1600であることが好ましい。従来の6価の硬質クロムめっきは、硬度がHv 800〜1000程度でもピストンリングに幅広く活用されているところ、本発明の複合硬質クロムめっき皮膜はHv 1600迄の硬度とすることが可能なため、例えば、イオンプレーティングによるCrN等の窒化物皮膜に置換可能な特性を有しているということもできる。ピストンリングとしては、自動車エンジン用のトップ、セカンド、オイルリング、あるいは舶用ディーゼルエンジン用ピストンリングに、5μm程度から500μm程度の厚膜まで仕様に応じて適用できる。ピストンリングの基材としては、公知のいずれの材料も使用することができる。
【0022】
本発明の複合硬質クロムめっき皮膜は、3価クロム化合物、錯化剤、緩衝剤、電導性塩、触媒等を使用するクロムめっき浴に、板状及び/又は繊維状の第二相を加え、陽極に黒鉛を使用し、被めっき対象物である基材を陰極として、電流密度5〜80 A/dm2、浴温30〜60℃でめっきすることによって形成される。板状の第二相はそのまま添加することができるが、VSL法により製造された繊維状のAl2O3のように基本的に長繊維で綿状をしているものは、適切なアスペクトの短繊維とするため、例えば、ボールミル等によって粉砕することが好ましい。また、板状及び/又は繊維状の第二相を均一にめっき皮膜中に分散するため、例えば、低周波振動攪拌機を使用することが好ましい。板状及び/又は繊維状の第二相は、攪拌機のパワーを低くすれば皮膜表面に平行に配向する傾向を示す。
【実施例】
【0023】
実施例1
呼び径(d1)86 mm、幅(h1)2.0 mm、厚さ(a1)3.5 mmのピストンリングを、高さ約320 mmに積み重ね、上下の締め蓋で押さえ付け、固定して軸詰めした。また、塩化クロム六水和物300 g/l、グリシン50 g/l、ホウ酸30 g/l、塩化アンモニウム130 g/l、塩化アルミニウム六水和物50 g/lの組成のめっき浴に、平均粒子径10μm、アスペクト比33の板状Al2O3を30 g/l添加した。軸詰めしたピストンリングを洗浄処理した後、上記のめっき浴に浸漬し、ピストンリングを陰極、対極を陽極として、めっき浴を撹拌しながら、電流密度30 A/dm2、めっき浴温45℃、印加時間200分の複合硬質クロムめっき処理を行った。その結果、ピストンリングの外周面に厚膜の複合硬質クロムめっき皮膜が形成された。
【0024】
[1] 膜厚(t)の測定
複合硬質クロムめっき皮膜を被覆したピストンリングについて、合口から約90°の位置の2ケ所と、合口から約180°(合口の反対側)の位置で、外周面に垂直な軸方向に切断し、断面を鏡面研磨してその中央部の膜厚を測定した。3ケ所の膜厚の平均値95μmを実施例1の膜厚とした。
【0025】
[2] クラック幅の測定
膜厚の測定に用いた3ケ所のめっき皮膜断面について、観察されるクラック幅の最大値を測定した。3ケ所の最大クラック幅の平均値は0.9μmであった。
【0026】
[3] 第二相(Al2O3)の面積率(A)の測定
膜厚の測定に用いた3ケ所のめっき皮膜断面について、レーザー顕微鏡(500倍)にて写真撮影し、暗く見えるAl2O3と明るく見えるクロムめっきマトリックスを2値化処理し、画像解析によりAl2O3の面積率を求めた。面積率は16%であった。
【0027】
[4] 硬度(H)の測定
膜厚の測定に用いためっき皮膜断面について、マイクロビッカース硬度計を用いて荷重50 g、15秒の条件で硬度を測定した。硬度は5ケ所の測定値の平均とした。実施例1の複合硬質クロムめっき皮膜の硬度はHv 780であった。
【0028】
実施例2
実施例1と同様にして複合硬質クロムめっきを施したピストンリングについて、さらに、250℃、大気中、1時間の熱処理を行った。熱処理したピストンリングについて、複合硬質クロムめっき皮膜の膜厚、最大クラック幅、Al2O3の面積率、硬度について、実施例1と同様に測定した結果、膜厚は100μm、クラック幅は2.9μm、Al2O3の面積率は17%、硬度はHv 1180であった。
【0029】
実施例3
板状Al2O3の代わりに、VSL法により製造された繊維状の単結晶Al2O3を用いた以外は、実施例1と同様にして、ピストンリングの外周面に厚膜の硬質クロムめっき皮膜を被覆した。但し、繊維状単結晶Al2O3は基本的に長繊維で綿状であったため、ボールミルでエタノールを溶媒として24時間粉砕処理して使用した。粉砕処理後の繊維状単結晶Al2O3について走査電子顕微鏡で観察した結果、平均繊維系1.4μm、アスペクト比48であった。めっき処理したピストンリングについて、複合硬質クロムめっき皮膜の膜厚、最大クラック幅、単結晶Al2O3の面積率、硬度について、実施例1と同様に測定した結果、膜厚は98μm、クラック幅の最大値は0.5μm、単結晶Al2O3の面積率は13%、硬度はHv 830であった。
【0030】
実施例4
実施例3と同様にして複合硬質クロムめっきを施したピストンリングについて、さらに、250℃、大気中、1時間の熱処理を行った。熱処理したピストンリングについて、複合硬質クロムめっき皮膜の膜厚、最大クラック幅、繊維状単結晶Al2O3の面積率、硬度について、実施例1と同様に、測定した結果、膜厚は105μm、最大クラック幅は1.4μm、単結晶Al2O3の面積率は13%、硬度はHv 1210であった。
【0031】
比較例1
板状Al2O3を添加しなかったこと以外は、実施例1と同様にして、ピストンリングの外周面に厚膜の硬質クロムめっき皮膜を被覆した。めっき処理されたピストンリングについて、硬質クロムめっき皮膜の膜厚、最大クラック幅、硬度を、実施例1と同様に測定した。膜厚は128μm、最大クラック幅は5.8μm、硬度はHv 670であった。
【0032】
比較例2
比較例1と同様にして硬質クロムめっきを施したピストンリングについて、さらに、250℃、大気中、1時間の熱処理を行った。熱処理したピストンリングの硬質クロムめっき皮膜の膜厚、最大クラック幅、硬度について、実施例1と同様に測定した。膜厚は131μm、最大クラック幅は9.9μm、硬度はHv 1060であった。これらの結果を、実施例1〜4及び比較例1の結果とともに、表1に示す。
【0033】
【表1】
【0034】
実施例5
めっき浴の組成を、塩化クロム六水和物300 g/l、グリシン50 g/l、ホウ酸40 g/l、スルファミン酸アンモニウム100 g/l、尿素60 g/l、塩化アルミニウム六水和物25 g/lとし、平均粒子径10μm、アスペクト比33の板状Al2O3を50 g/l添加した以外は、実施例1と同様にして、ピストンリングの外周面に厚膜の硬質クロムめっき皮膜を被覆した。めっき処理したピストンリングについて、複合硬質クロムめっき皮膜の膜厚、最大クラック幅、Al2O3の面積率、硬度について、実施例1と同様に測定した結果、膜厚は95μm、最大クラック幅は0.8μm、Al2O3の面積率は24%、硬度はHv 890であった。
【0035】
実施例6
実施例5と同様にして複合硬質クロムめっきを施したピストンリングについて、さらに、400℃、大気中、1時間の熱処理を行った。熱処理したピストンリングについて、複合硬質クロムめっき皮膜の膜厚、最大クラック幅、Al2O3の面積率、硬度について、実施例1と同様に測定した結果、膜厚は104μm、最大クラック幅は4.4μm、Al2O3の面積率は23%、硬度はHv 1460であった。
【0036】
実施例7
板状Al2O3の代わりに、実施例3で使用した繊維状単結晶Al2O3を実施例3と同様に粉砕処理して使用した以外は、実施例5と同様にして、ピストンリングの外周面に厚膜の硬質クロムめっき皮膜を被覆した。めっき処理したピストンリングについて、複合硬質クロムめっき皮膜の膜厚、最大クラック幅、Al2O3の面積率、硬度について、実施例1と同様に測定した結果、膜厚は109μm、最大クラック幅は0.3μm、単結晶Al2O3の面積率は21%、硬度はHv 920であった。
【0037】
実施例8
実施例7と同様にして複合硬質クロムめっきを施したピストンリングについて、さらに、400℃、大気中、1時間の熱処理を行った。熱処理したピストンリングについて、複合硬質クロムめっき皮膜の膜厚、最大クラック幅、Al2O3の面積率、硬度について、実施例1と同様に測定した結果、膜厚は105μm、最大クラック幅は2.7μm、Al2O3の面積率は21%、硬度はHv 1520であった。これらの結果を、実施例5〜7の結果とともに、表2に示す。
【0038】
【表2】
【符号の説明】
【0039】
1 複合硬質クロムめっき皮膜
2 基材
3 板状及び/又は繊維状の第二相
4 クロムめっきマトリックス
5, 6,50 クラック
図1
図2