【0017】
複合分散する第二相は、Si、Al、Ti、Bの酸化物、炭化物及び窒化物、Mo、Wの硫化物、並びに黒鉛、雲母、樹脂からなるグループから選択された板状及び/又は繊維状の第二相であるが、その中でも、SiO
2、SiC、Si
3N
4、Al
2O
3、Al
2O
3-SiO
2、AlN、TiC、BNからなるグループから選択された板状及び/又は繊維状の第二相であることが好ましい。例えば、第二相にAl
2O
3を選択した場合、板状のAl
2O
3は水熱合成法により製造された板状のα-Al
2O
3が好ましく、粒径(板径)や板厚の揃った板状粒子が好ましく使用できる。前記板状Al
2O
3の平均粒子径は5〜50μmであるのが好ましく、5〜20μmであればより好ましい。アスペクト比も5〜100であるのが好ましく、5〜50であればより好ましい。繊維状のAl
2O
3は、例えば、VSL(Vapor-Liquid-Solid)法により、C軸が繊維方向に成長した単結晶Al
2O
3(Al
2O
3ウイスカーともいう)が好ましく使用できる。前記繊維状Al
2O
3の平均繊維径は0.1〜10μmであるのが好ましく、0.5〜5μmであればより好ましい。アスペクト比は5〜300であるのが好ましく、5〜100であればより好ましい。
【実施例】
【0023】
実施例1
呼び径(d1)86 mm、幅(h1)2.0 mm、厚さ(a1)3.5 mmのピストンリングを、高さ約320 mmに積み重ね、上下の締め蓋で押さえ付け、固定して軸詰めした。また、塩化クロム六水和物300 g/l、グリシン50 g/l、ホウ酸30 g/l、塩化アンモニウム130 g/l、塩化アルミニウム六水和物50 g/lの組成のめっき浴に、平均粒子径10μm、アスペクト比33の板状Al
2O
3を30 g/l添加した。軸詰めしたピストンリングを洗浄処理した後、上記のめっき浴に浸漬し、ピストンリングを陰極、対極を陽極として、めっき浴を撹拌しながら、電流密度30 A/dm
2、めっき浴温45℃、印加時間200分の複合硬質クロムめっき処理を行った。その結果、ピストンリングの外周面に厚膜の複合硬質クロムめっき皮膜が形成された。
【0024】
[1] 膜厚(t)の測定
複合硬質クロムめっき皮膜を被覆したピストンリングについて、合口から約90°の位置の2ケ所と、合口から約180°(合口の反対側)の位置で、外周面に垂直な軸方向に切断し、断面を鏡面研磨してその中央部の膜厚を測定した。3ケ所の膜厚の平均値95μmを実施例1の膜厚とした。
【0025】
[2] クラック幅の測定
膜厚の測定に用いた3ケ所のめっき皮膜断面について、観察されるクラック幅の最大値を測定した。3ケ所の最大クラック幅の平均値は0.9μmであった。
【0026】
[3] 第二相(Al
2O
3)の面積率(A)の測定
膜厚の測定に用いた3ケ所のめっき皮膜断面について、レーザー顕微鏡(500倍)にて写真撮影し、暗く見えるAl
2O
3と明るく見えるクロムめっきマトリックスを2値化処理し、画像解析によりAl
2O
3の面積率を求めた。面積率は16%であった。
【0027】
[4] 硬度(H)の測定
膜厚の測定に用いためっき皮膜断面について、マイクロビッカース硬度計を用いて荷重50 g、15秒の条件で硬度を測定した。硬度は5ケ所の測定値の平均とした。実施例1の複合硬質クロムめっき皮膜の硬度はHv 780であった。
【0028】
実施例2
実施例1と同様にして複合硬質クロムめっきを施したピストンリングについて、さらに、250℃、大気中、1時間の熱処理を行った。熱処理したピストンリングについて、複合硬質クロムめっき皮膜の膜厚、最大クラック幅、Al
2O
3の面積率、硬度について、実施例1と同様に測定した結果、膜厚は100μm、クラック幅は2.9μm、Al
2O
3の面積率は17%、硬度はHv 1180であった。
【0029】
実施例3
板状Al
2O
3の代わりに、VSL法により製造された繊維状の単結晶Al
2O
3を用いた以外は、実施例1と同様にして、ピストンリングの外周面に厚膜の硬質クロムめっき皮膜を被覆した。但し、繊維状単結晶Al
2O
3は基本的に長繊維で綿状であったため、ボールミルでエタノールを溶媒として24時間粉砕処理して使用した。粉砕処理後の繊維状単結晶Al
2O
3について走査電子顕微鏡で観察した結果、平均繊維系1.4μm、アスペクト比48であった。めっき処理したピストンリングについて、複合硬質クロムめっき皮膜の膜厚、最大クラック幅、単結晶Al
2O
3の面積率、硬度について、実施例1と同様に測定した結果、膜厚は98μm、クラック幅の最大値は0.5μm、単結晶Al
2O
3の面積率は13%、硬度はHv 830であった。
【0030】
実施例4
実施例3と同様にして複合硬質クロムめっきを施したピストンリングについて、さらに、250℃、大気中、1時間の熱処理を行った。熱処理したピストンリングについて、複合硬質クロムめっき皮膜の膜厚、最大クラック幅、繊維状単結晶Al
2O
3の面積率、硬度について、実施例1と同様に、測定した結果、膜厚は105μm、最大クラック幅は1.4μm、単結晶Al
2O
3の面積率は13%、硬度はHv 1210であった。
【0031】
比較例1
板状Al
2O
3を添加しなかったこと以外は、実施例1と同様にして、ピストンリングの外周面に厚膜の硬質クロムめっき皮膜を被覆した。めっき処理されたピストンリングについて、硬質クロムめっき皮膜の膜厚、最大クラック幅、硬度を、実施例1と同様に測定した。膜厚は128μm、最大クラック幅は5.8μm、硬度はHv 670であった。
【0032】
比較例2
比較例1と同様にして硬質クロムめっきを施したピストンリングについて、さらに、250℃、大気中、1時間の熱処理を行った。熱処理したピストンリングの硬質クロムめっき皮膜の膜厚、最大クラック幅、硬度について、実施例1と同様に測定した。膜厚は131μm、最大クラック幅は9.9μm、硬度はHv 1060であった。これらの結果を、実施例1〜4及び比較例1の結果とともに、表1に示す。
【0033】
【表1】
【0034】
実施例5
めっき浴の組成を、塩化クロム六水和物300 g/l、グリシン50 g/l、ホウ酸40 g/l、スルファミン酸アンモニウム100 g/l、尿素60 g/l、塩化アルミニウム六水和物25 g/lとし、平均粒子径10μm、アスペクト比33の板状Al
2O
3を50 g/l添加した以外は、実施例1と同様にして、ピストンリングの外周面に厚膜の硬質クロムめっき皮膜を被覆した。めっき処理したピストンリングについて、複合硬質クロムめっき皮膜の膜厚、最大クラック幅、Al
2O
3の面積率、硬度について、実施例1と同様に測定した結果、膜厚は95μm、最大クラック幅は0.8μm、Al
2O
3の面積率は24%、硬度はHv 890であった。
【0035】
実施例6
実施例5と同様にして複合硬質クロムめっきを施したピストンリングについて、さらに、400℃、大気中、1時間の熱処理を行った。熱処理したピストンリングについて、複合硬質クロムめっき皮膜の膜厚、最大クラック幅、Al
2O
3の面積率、硬度について、実施例1と同様に測定した結果、膜厚は104μm、最大クラック幅は4.4μm、Al
2O
3の面積率は23%、硬度はHv 1460であった。
【0036】
実施例7
板状Al
2O
3の代わりに、実施例3で使用した繊維状単結晶Al
2O
3を実施例3と同様に粉砕処理して使用した以外は、実施例5と同様にして、ピストンリングの外周面に厚膜の硬質クロムめっき皮膜を被覆した。めっき処理したピストンリングについて、複合硬質クロムめっき皮膜の膜厚、最大クラック幅、Al
2O
3の面積率、硬度について、実施例1と同様に測定した結果、膜厚は109μm、最大クラック幅は0.3μm、単結晶Al
2O
3の面積率は21%、硬度はHv 920であった。
【0037】
実施例8
実施例7と同様にして複合硬質クロムめっきを施したピストンリングについて、さらに、400℃、大気中、1時間の熱処理を行った。熱処理したピストンリングについて、複合硬質クロムめっき皮膜の膜厚、最大クラック幅、Al
2O
3の面積率、硬度について、実施例1と同様に測定した結果、膜厚は105μm、最大クラック幅は2.7μm、Al
2O
3の面積率は21%、硬度はHv 1520であった。これらの結果を、実施例5〜7の結果とともに、表2に示す。
【0038】
【表2】