(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5721768
(24)【登録日】2015年4月3日
(45)【発行日】2015年5月20日
(54)【発明の名称】排水舗装用アスファルト組成物およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C08L 95/00 20060101AFI20150430BHJP
C08L 53/02 20060101ALI20150430BHJP
C08K 5/09 20060101ALI20150430BHJP
C08K 5/10 20060101ALI20150430BHJP
E01C 7/22 20060101ALI20150430BHJP
【FI】
C08L95/00
C08L53/02
C08K5/09
C08K5/10
E01C7/22
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-94970(P2013-94970)
(22)【出願日】2013年4月30日
(65)【公開番号】特開2014-214283(P2014-214283A)
(43)【公開日】2014年11月17日
【審査請求日】2014年7月28日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000201515
【氏名又は名称】前田道路株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000486
【氏名又は名称】とこしえ特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】守安 弘周
(72)【発明者】
【氏名】江向 俊文
(72)【発明者】
【氏名】谷口 博
【審査官】
安田 周史
(56)【参考文献】
【文献】
特開2012−233074(JP,A)
【文献】
特開平11−349816(JP,A)
【文献】
特開2001−172469(JP,A)
【文献】
特開2002−206047(JP,A)
【文献】
特開2007−145997(JP,A)
【文献】
特開2009−126878(JP,A)
【文献】
特開2002−121389(JP,A)
【文献】
国際公開第2011/086722(WO,A1)
【文献】
特開2012−116897(JP,A)
【文献】
特開2012−136661(JP,A)
【文献】
特開2012−136662(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 95/00
C08L 53/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
骨材と、
アスファルトと、樹脂と、トール油脂肪酸および/またはトール油脂肪酸エステルとが互いに分散してなり、各成分の配合割合が、「(アスファルト+樹脂):(トール油脂肪酸および/またはトール油脂肪酸エステル)」の重量比で、90:10〜80:20であるアスファルト組成物と、
アルカリ性添加剤と、を含有してなる排水舗装用アスファルト混合物を製造する方法であって、
前記アスファルトおよび樹脂の混合物と、前記トール油脂肪酸および/またはトール油脂肪酸エステルとを、微分散混合または剪断混合することで、アスファルトと、樹脂と、トール油脂肪酸および/またはトール油脂肪酸エステルとを含有してなるアスファルト組成物を得る工程と、
前記アスファルト組成物を、前記骨材および前記アルカリ性添加材と混合する工程とを、
備える排水舗装用アスファルト混合物の製造方法。
【請求項2】
前記樹脂が、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体である請求項1に記載の排水舗装用アスファルト混合物の製造方法。
【請求項3】
前記微分散混合または剪断混合を、コロイドミル、ホモジナイザー、サンドミル、またはボールミルを用いて行う請求項1または2に記載の排水舗装用アスファルト混合物の製造方法。
【請求項4】
前記アスファルトおよび樹脂の混合物と、前記トール油脂肪酸および/またはトール油脂肪酸エステルとを、微分散混合または剪断混合する際に、コロイドミル中に、前記アスファルトおよび樹脂の混合物に仕込み、前記トール油脂肪酸および/またはトール油脂肪酸エステルを、前記コロイドミル中に、徐々に添加することにより混合することにより行う請求項1〜3のいずれかに記載の排水舗装用アスファルト混合物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排水舗装用アスファルト組成物およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アスファルト舗装用混合物は、通常、砕石や砂などの骨材とバインダとしてのアスファルトとを高温で混合することにより製造されている。たとえば、アスファルトとして、一般的に用いられるストレートアスファルト60/80を使用する場合には、アスファルト舗装用混合物を製造する際の混合温度は、通常、150〜160℃とする必要がある。また、このようにして製造されたアスファルト舗装用混合物を用いて、舗装を行なう際の締固め温度は、通常、140〜150℃である。このように、アスファルト舗装用混合物においては、その混合および締固めは、いずれも比較的高温の条件で行なう必要がある。
【0003】
また、得られる舗装体に、高排水性などの高付加価値を付与する場合には、たとえば、SBS(スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体)などのゴムを添加したポリマー改質アスファルトを用いることが知られているが、混合温度、締固め温度ともに、上記温度よりもさらに10〜30℃高く設定せざるを得ないのが現状である。
【0004】
一方、近年、地球温暖化防止に向けた取り組みとして、アスファルト舗装用混合物においても、その混合温度および締固め温度を低下させることが求められている。具体的には、アスファルト舗装用混合物の混合温度および締固め温度を低下させることにより、アスファルト舗装用混合物の主材料である骨材の加熱乾燥工程において用いられるガスバーナの燃料を削減でき、これにより、アスファルト舗装用混合物の製造時に発生する二酸化炭素の排出量を抑制することができる。そのため、このようなアスファルト舗装用混合物において、混合温度および締固め温度を低下させることが求められている。
【0005】
これに対して、アスファルト舗装用混合物において、混合温度および締固め温度を低下させるために、アスファルト舗装用混合物に、各種添加剤を添加する試みが行なわれている。
【0006】
たとえば、特許文献1では、骨材とアスファルトを主とする混合物に、石油系または合成系ワックスからなる特殊添加剤を添加、混合して混合物の所要の性状を確保しつつ、混合温度および締固め温度を低下させたことを特徴とするアスファルト舗装用混合物が提案されている。この特許文献1によれば、石油系または合成系ワックスを用いることで、混合温度および締固め温度を、ある程度低下させることが可能となったが、アスファルトのバインダ性状(たとえば、針入度、伸度、針入度指数)が劣化してしまうという問題があった。加えて、特許文献1では、混合温度および締固め温度を低下させるための添加剤として、石油系または合成系ワックスを用いるものであり、これらは天然由来のものではないため、これら石油系または合成系ワックスの製造工程において、比較的多くの二酸化炭素が排出されてしまうこととなるという問題もあった。
【0007】
また、特許文献2には、アスファルトと、スチレン−ブタジエン−スチレン共重合体とからなるアスファルト組成物に、ロジンなどのカルボキシル基を有する炭素数20の多環式ジテルペンを添加してなるアスファルト組成物が開示されている。しかしながら、この特許文献2に記載のアスファルト組成物は、安定性および強度を向上させるために、ロジンなどのカルボキシル基を有する炭素数20の多環式ジテルペンを添加するものであり、混合温度および締固め温度を低下させることを目的とするものではない。さらに、この特許文献2は、改質アスファルトに関するものであり、上述したように、改質アスファルトは、ストレートアスファルトと比較して、混合温度および締固め温度をさらに高くする必要があり、そのため、特許文献2でも、混合温度および締固め温度を190〜210℃と高く設定することが必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002−302905号公報
【特許文献2】特許第4361958号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、このような実状に鑑みてなされ、高排水性を有する舗装体を製造するために用いられ、かつ、製造時の混合温度および施工時の締固め温度を低下させることができ、これによりいわゆる中温化舗装を可能とすることのできる排水舗装用アスファルト組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
すなわち、本発明によれば、
骨材と、アスファルトと、樹脂と、トール油脂肪酸および/またはトール油脂肪酸エステルとが互いに分散してな
り、各成分の配合割合が、「(アスファルト+樹脂):(トール油脂肪酸および/またはトール油脂肪酸エステル)」の重量比で、90:10〜80:20であるアスファルト組成物
と、アルカリ性添加剤と、を含有してなる排水舗装用アスファルト混合物を製造する方法であって、前記アスファルトおよび樹脂の混合物と、前記トール油脂肪酸および/またはトール油脂肪酸エステルとを、微分散混合または剪断混合することで、アスファルトと、樹脂と、トール油脂肪酸および/またはトール油脂肪酸エステルとを含有してなるアスファルト組成物を得る工程と、前記アスファルト組成物を、前記骨材および前記アルカリ性添加材と混合する工程とを、備える排水舗装用アスファルト混合物の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、高排水性を有する舗装体を製造するために用いられ、かつ、製造時の混合温度および施工時の締固め温度を低下させることができ、これによりいわゆる中温化舗装を可能とすることのできる排水舗装用アスファルト組成物を提供することができる。
また、本発明によれば、このような排水舗装用アスファルト組成物を用いて得られ、かつ、高排水性を有する舗装体を、いわゆる中温化舗装により得ることのできる排水舗装用アスファルト混合物を提供することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、実施例および比較例における、各種試験・評価の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
<排水舗装用アスファルト組成物>
本発明の排水舗装用アスファルト組成物は、高排水性を有する舗装体を製造するために用いられるアスファルトの組成物であり、アスファルトと、樹脂と、トール油脂肪酸および/またはトール油脂肪酸エステルとを含有し、これらが互いに分散してなる組成物である。
【0016】
本発明に用いるアスファルトとしては、ストレートアスファルト40/60、60/80、80/100、100/120等を挙げることができる。これらはそれぞれ単独で、または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0017】
樹脂としては、アスファルトに対してゴム弾性を付与し、これによりアスファルトを改質できるような樹脂であればよく特に限定されないが、たとえば、ゴム、熱可塑性エラストマー、熱可塑性樹脂などが挙げられる。ゴムとしては、スチレン−ブタジエン系ゴム(SBR)、クロロプレンゴム(CR)、天然ゴム(NR)などが挙げられる。熱可塑性エラストマーとしては、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体(SBS)、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体(SIS)、スチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロック共重合体(SEBS)などが挙げられる。また、熱可塑性樹脂としては、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン−エチルアクリレート共重合体(EEA)、ポリエチレン(PE)などが挙げられる。これらのなかでも、アスファルトの改質効果、特に、高排水性の舗装体とした際における、得られる舗装体の強度等の向上効果が高いという点より、熱可塑性エラストマーが好ましく、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体(SBS)が特に好ましい。
【0018】
本発明の排水舗装用アスファルト組成物中における、樹脂の配合量は、アスファルト100重量部に対して、好ましくは1〜30重量部、より好ましくは5〜15重量部である。樹脂の配合量をこの範囲とすることで、アスファルトの改質効果をより適切なものとすることができる。
【0019】
また、本発明の排水舗装用アスファルト組成物は、上述したアスファルトおよび樹脂に加えて、トール油脂肪酸および/またはトール油脂肪酸エステルを含有するものである。本発明においては、トール油脂肪酸および/またはトール油脂肪酸エステルを配合することにより、本発明の排水舗装用アスファルト組成物を、骨材およびアルカリ性添加剤と混合し、排水舗装用アスファルト混合物とした際に、製造時の混合温度および施工時の締固め温度を低下させることができ、これによりいわゆる中温化舗装を可能とすることができるものである。
【0020】
特に、本発明においては、排水舗装用アスファルト混合物とした際に、施工時に、硬化促進剤を添加し、トール油脂肪酸および/またはトール油脂肪酸エステルを、アルカリ性添加剤と鹸化反応させることにより、得られる舗装体の強度を向上させることができるものであり、これにより、施工時の締固め温度を低下させることができるものである。すなわち、本発明においては、鹸化反応によって得られる舗装体の強度を向上させることができるため、強度を向上させるために施工時に過度に加熱する必要がなく、その結果として、施工時の締固め温度を低下させることができるものである。
【0021】
なお、本発明において、鹸化反応としては、脂肪酸アルカリ塩を生成させる反応であればよく、たとえば、高級脂肪酸エステルにアルカリ水を加えることにより、脂肪酸アルカリ塩(石鹸)とグリセリンを生成する鹸化法や、高級脂肪酸をアルカリ水で中和する中和法等が挙げられる。
また、鹸化反応においては、アルカリ分を固形状態で添加した場合には、水などの溶媒が存在しない場合には、一般的には反応は開始しないが、その一方で、水などの溶媒が存在する場合には、「トール油脂肪酸および/またはトール油脂肪酸エステル+アルカリ性添加材+水=石鹸(固体)」の反応が起こり、石鹸が生成する。以下に、トール油脂肪酸エステルなどの高級脂肪酸エステルと水酸化ナトリウム(アルカリ)とを使用した場合における鹸化法による鹸化反応の例を下記式(1)に、トール油脂肪酸と水酸化ナトリウムとを使用した場合における中和法による鹸化反応の例を下記式(2)に、それぞれ示す。
【化1】
【化2】
【0022】
本発明の排水舗装用アスファルト組成物中における、トール油脂肪酸および/またはトール油脂肪酸エステルの配合量は、「(アスファルト+樹脂):(トール油脂肪酸および/またはトール油脂肪酸エステル)」の重量比で、好ましくは99: 1〜50:50、より好ましくは95:5〜80:20である。トール油脂肪酸および/またはトール油脂肪酸エステルの配合量が増加するに伴い可使温度範囲も広がるため、トール油脂肪酸および/またはトール油脂肪酸エステルの添加量は、施工条件にあわせて決定することが好ましい。トール油脂肪酸および/またはトール油脂肪酸エステルの配合量が少なすぎると、製造時の混合温度および施工時の締固め温度の低下効果が得難くなり、一方、配合量が多すぎると、得られる舗装体の耐衝撃性が低下するおそれがある。
【0023】
<排水舗装用アスファルト混合物>
次いで、本発明の排水舗装用アスファルト混合物について説明する。本発明の排水舗装用アスファルト混合物は、骨材と、上述した本発明の排水舗装用アスファルト組成物と、アルカリ性添加剤とを含有してなる。
【0024】
骨材としては、特に制限はなく、砕石、砂、石粉など、通常の舗装用アスファルトに用いられるものを適宜用いることができるが、高排水性を実現するという観点より、骨材として、目開きが2.36mmの篩目を通過する粒子の比率である、2.36mmフルイ通過質量百分率が好ましくは5〜30%、より好ましくは10〜20%であるものを用いることが好ましい。このような骨材を用いることにより、得られる舗装体を多孔性を有するものとすることができ、これにより排水性を良好なものとすることができる。なお、本発明においては、骨材として、新規の骨材に代えて、再生骨材を用いてもよい。
【0025】
アルカリ性添加材としては、硬化促進剤(たとえば、水)の作用により、アルカリ成分となる化合物であればよく特に限定されず、脂肪酸を中和するために、硬化促進剤の作用により、低い水素イオン濃度(すなわち、pHが大きい)を呈するものが望ましく、石鹸作製において、通常用いられる水酸化ナトリウムや水酸化カリウム等を用いることも可能であるが、環境的な観点より、一般的な土木材料として使用されるセメントが好ましく、なかでも、硬化促進剤の作用によって低い水素イオン濃度を呈する普通セメント(普通ポルトランドセメント)が特に好適に用いられる。普通ポルトランドセメントとしては、たとえば、ケイ酸三カルシウム(3CaO・SiO
2)、ケイ酸二カルシウム(2CaO・SiO
2)、カルシウムアルミネート(3CaO・Al
2O
3)、カルシウムアルミノフェライト(4CaO・Al
2O
3・Fe
2O
3)、硫酸カルシウム(CaSO
4・2H
2O)などを主成分とするものを用いることができる。なお、アルカリ性添加材としては、これ以外にも、ナトリウムイオン(Na+)、カリウムイオン(K+)、マグネシウムイオン(Mg
2+)、カルシウムイオン(Ca
2+)等の金属イオンを含む水溶液もしくは、水を添加することで上記のイオンに分解する金属塩を含む粉末、若しくは炭酸水素ナトリウム(NaHCO
3)、炭酸水素カリウム(KHCO
3)などが使用できる。本発明の排水舗装用アスファルト混合物中における、アルカリ性添加材の含有比率は、「トール油脂肪酸および/またはトール油脂肪酸エステル:アルカリ性添加材」の重量比で、100:10〜100:300の範囲内であることが好ましい。
【0026】
また、本発明の排水舗装用アスファルト混合物には、本発明の作用効果を損なわない限りにおいて、上記以外に、アスファルト舗装の分野において、通常用いられるその他の添加剤を添加することができる。このような添加剤としては、特に限定されないが、たとえば、フィラー、植物繊維、顔料、凍結防止剤などが挙げられる。
【0027】
<排水舗装用アスファルト混合物の製造方法>
次いで、本発明の排水舗装用アスファルト混合物の製造方法について、説明する。
【0028】
本発明においては、排水舗装用アスファルト混合物を製造する際には、まず、アスファルトと、樹脂と、トール油脂肪酸および/またはトール油脂肪酸エステルとを含有する本発明の排水舗装用アスファルト組成物を調製し、調製した排水舗装用アスファルト組成物を、骨材およびアルカリ性添加材と混合することで製造を行う。
【0029】
ここで、本発明の排水舗装用アスファルト混合物のようなアスファルト混合物を製造する際には、改質剤としてのトール油脂肪酸および/またはトール油脂肪酸エステルが骨材に染み込んでしまい、その添加効果が不十分となってしまうという不具合を避けるために、まず、本発明の排水舗装用アスファルト組成物を構成する、アスファルトおよび樹脂(たとえば、アスファルトに樹脂を溶解してなるポリマー改質アスファルト)を、骨材およびアルカリ性添加材と混合し、アスファルトおよび樹脂で骨材をコーティングした後に、改質剤としてのトール油脂肪酸および/またはトール油脂肪酸エステルを混合することが一般的である。しかしながら、本発明者等の知見によると、このような方法を採用した場合には、得られる混合物は混合性に極めて劣るものとなり、アスファルト、樹脂およびトール油脂肪酸および/またはトール油脂肪酸エステルが互いに分離したものとなってしまい、結果として、所望の性状を有する舗装体を得ることができないという不具合を生じてしまうこととなる。
【0030】
このような課題に対し、本発明者等が検討したところ、アスファルトおよび樹脂の混合物と、トール油脂肪酸および/またはトール油脂肪酸エステルとは混合性が低く、これらを単純に混合しただけでは、各成分が互いに分離してしまうこと、および、これらを、予め所定の方法により混合することで、上記のような不具合の発生を有効に防止することができることを見出し、上記不具合を解消するものである。すなわち、本発明によれば、まず、アスファルトと、樹脂と、トール油脂肪酸および/またはトール油脂肪酸エステルとを所定の方法で混合することで、本発明の排水舗装用アスファルト組成物を調製し、調製した排水舗装用アスファルト組成物を、骨材およびアルカリ性添加材と混合することにより、本発明の排水舗装用アスファルト混合物を製造するものであり、これにより、上記した不具合の発生を適切に防止することができるものである。
【0031】
本発明の排水舗装用アスファルト組成物の調製方法としては、特に限定されず、アスファルトと、樹脂と、トール油脂肪酸および/またはトール油脂肪酸エステルとが互いに分散してなる組成物が得られるような方法であればよいが、たとえば、まず、アスファルトおよび樹脂の混合物を得て、得られたアスファルトおよび樹脂の混合物と、トール油脂肪酸および/またはトール油脂肪酸エステルとを、微分散混合または剪断混合する方法が好適である。特に、このような工程を経ることで、アスファルトと、樹脂と、トール油脂肪酸および/またはトール油脂肪酸エステルとを良好に分散させることができ、これにより、改質剤としてのトール油脂肪酸および/またはトール油脂肪酸エステルの添加効果を十分に発揮させることができる。
【0032】
本発明において、剪断混合とは、各成分に剪断力を与えながら分散混合させる方法であり、たとえば、コロイドミル、ホモジナイザー、サンドミル、ボールミルなどの各種剪断混合装置を用いて行うことができる。これらのなかでも、アスファルトと、樹脂と、トール油脂肪酸および/またはトール油脂肪酸エステルとをより高度に分散させることができるという点より、微分散混合により混合を行うことが好ましく、コロイドミルを用いて、微分散混合させる方法が特に好ましい。たとえば、コロイドミルを用いる方法を例示すると、まず、アスファルトおよび樹脂の混合物をコロイドミルに投入し、ここに、トール油脂肪酸および/またはトール油脂肪酸エステルを少量ずつ、徐々に添加する方法により、アスファルトと、樹脂と、トール油脂肪酸および/またはトール油脂肪酸エステルとが互いに分散してなる組成物を得ることができる。
【0033】
また、アスファルトおよび樹脂の混合物を得る方法としては、特に限定されず、公知の方法を制限なく用いることができる。また、アスファルトおよび樹脂の混合物としては、たとえば、公知のポリマー改質アスファルトを用いてもよい。
【0035】
さらに、樹脂と、トール油脂肪酸および/またはトール油脂肪酸エステルとの混合性を高める添加剤を配合する方法も採用してもよく、この場合には、本発明の排水舗装用アスファルト組成物を構成する各成分を混合する際の混合順序および混合方法は、上記各方法と同様としてもよいし、あるいは、任意の混合順序および混合方法を採用してもよい。また、このような添加剤としては、用いる樹脂の種類に応じて適宜選択すればよい。
【0036】
そして、本発明においては、上記した各方法により得られた本発明の排水舗装用アスファルト組成物を用い、得られた本発明の排水舗装用アスファルト組成物を、骨材およびアルカリ性添加材と混合することで、本発明の排水舗装用アスファルト混合物を得ることができる。なお、この際における混合順序および混合方法は特に限定されず、任意の混合順序および混合方法を採用することができる。
【0037】
以上、本発明によれば、高排水性を有する舗装体を製造するために用いられる排水舗装用アスファルト組成物として、アスファルトおよび樹脂に、トール油脂肪酸および/またはトール油脂肪酸エステルを配合してなるものを用いるものである。そのため、本発明によれば、これを用いて得られる排水舗装用アスファルト混合物は、トール油脂肪酸および/またはトール油脂肪酸エステルの軟化作用により、製造時の混合温度を低下させることができ、さらには、トール油脂肪酸および/またはトール油脂肪酸エステルは、硬化促進剤(たとえば、水)の作用により硬化するものであるため、施工時の締固め温度を低下させることができるものである。そして、これにより、いわゆる中温化舗装が可能となり、燃料消費量の削減および二酸化炭素排出量の削減に資するものである。
【0038】
加えて、本発明によれば、得られる舗装体は、高強度であり、そのため、流動抵抗性および骨材飛散抵抗性に優れ、重交通路線および交差点部に好適に適用することができ、しかも、早期に強度を発現できるものであるため、早期交通開放が可能であり、初期わだちの発生を有効に防止できるものである。
【実施例】
【0039】
以下、本発明を、さらに詳細な実施例に基づき説明するが、本発明は、これら実施例に限定されない。
【0040】
<実施例1>
ポリマー改質アスファルトH型(製品名「ドレーンニッジ ECO」、昭和シェル石油社製、ストレートアスファルトとスチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体(SBS)との混合物)95重量部と、トール油脂肪酸5重量部とを、コロイドミル(製品名「MT−005」、大和電機商会社製)を用いて、混合することで、排水舗装用アスファルト組成物を得た。なお、ポリマー改質アスファルトH型と、トール油脂肪酸とを混合する際には、ポリマー改質アスファルトH型をコロイドミル中に仕込み、トール油脂肪酸を少量ずつ、徐々に添加することにより混合を行った。
【0041】
次いで、上記とは別に、公知のアスファルト混合設備に、骨材(2.36mmフルイ通過質量百分率:15%)100重量部、および普通ポルトランドセメント0.8重量部を入れ、これらを混合し、次いで、上記にて調製した排水舗装用アスファルト組成物5.1重量部を配合し、混合を行うことで、排水舗装用アスファルト混合物を得た。なお、本実施例においては、トール油脂肪酸の配合量に基づいて、排水舗装用アスファルト混合物を製造する際の混合温度を153℃に設定し、153℃で混合を行ったところ、排水舗装用アスファルト混合物を良好に得ることができた。
【0042】
そして、得られた排水舗装用アスファルト混合物をモールド(型枠)内へ投入した後、水分添加し、締固め(両面50回)を行うことで供試体を得た。なお、本実施例においては、トール油脂肪酸の配合量に基づいて、締固め温度を133℃に設定し、133℃にて締固めを行った。そして、得られた供試体を用いて、マーシャル安定度試験、ホイールトラッキング試験、およびカンタブロ試験を行った。マーシャル安定度試験およびホイールトラッキング試験は、「舗装試験法便覧」((社)日本道路協会、昭和63年11月発行)の「3−7−1」、「3−7−3」に準じて行い、また、カンタブロ試験は「舗装試験法便覧別冊」((社)日本道路協会、昭和63年11月発行)の「1−1−2T」、に準じて行った。結果を
図1に示す。
【0043】
<実施例2〜4>
排水舗装用アスファルト組成物を調製する際における、ポリマー改質アスファルトH型の配合量およびトール油脂肪酸の配合量を表1に示すように、それぞれ変更した以外は、実施例1と同様にして、排水舗装用アスファルト組成物を調製し、また、実施例1と同様にして、排水舗装用アスファルト混合物および供試体を得て、同様に試験を行った。結果を
図1に示す。なお、実施例2〜4においても、実施例1と同様に、トール油脂肪酸の配合量に基づいて、排水舗装用アスファルト混合物を製造する際の混合温度および締固め温度を表1に示すように設定し、混合および締固めを行ったところ、混合および締固めを良好に行うことができた。
【0044】
<比較例1>
排水舗装用アスファルト組成物を調製する際における、ポリマー改質アスファルトH型の配合量を95重量部から100重量部に変更し、かつ、トール油脂肪酸を配合しなかった以外は、実施例1と同様にして、排水舗装用アスファルト組成物を調製し、また、実施例1と同様にして、排水舗装用アスファルト混合物および供試体を得て、同様に試験を行った。結果を
図1に示す。なお、比較例1においては、排水舗装用アスファルト混合物を製造する際の混合温度および締固め温度を表1に示すように設定し、混合および締固めを行った。
【0045】
<比較例2>
公知のアスファルト混合設備に、骨材(2.36mmフルイ通過質量百分率:15%)100重量部、および普通ポルトランドセメント0.8重量部を入れ、これらを混合し、次いで、ポリマー改質アスファルトH型4.8重量部を添加して混合を行った後、さらにトール油脂肪酸0.3重量部を添加して混合を行い、排水舗装用アスファルト混合物を得た。その結果、比較例2においては、ポリマー改質アスファルトH型を構成するストレートアスファルトおよびスチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体(SBS)と、トール油脂肪酸とが分離してしまい、良好な混合物を得ることができなかった。
【0046】
【表1】
【0047】
<評価>
表1より、排水舗装用アスファルト組成物として、トール油脂肪酸および/またはトール油脂肪酸エステルを配合したものを用いた場合には、トール油脂肪酸および/またはトール油脂肪酸エステルの配合量の増加に伴い、混合温度および締固め温度を低減することができ、しかも、
図1(A)〜
図1(C)の結果からも明らかなように、得られる舗装体は、マーシャル安定度試験、ホイールトラッキング試験、およびカンタブロ試験のいずれにも規格値を満足するものとなり、良好な結果であった(実施例1〜4)。なお、マーシャル安定度試験およびホイールトラッキング試験においては規格値以上であることが、また、カンタブロ試験においては規格値以下であることがそれぞれ求められている。本実施例では、マーシャル安定度試験の規格値としては、舗装施工便覧((社)日本道路協会)に規定されている規格値を、ホイールトラッキング試験の規格値としては、舗装施工便覧((社)日本道路協会)に規定されている重交通路線の規格値を、カンタブロ試験の規格値としては、NEXCO設計要領に規定されている規格値をそれぞれ用いた。
【0048】
一方、トール油脂肪酸および/またはトール油脂肪酸エステルを配合しなかった場合には、混合温度および締固め温度が高くなる結果となった(比較例1)。