(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記ゲート電極を挟む領域で且つ前記第1の窒化物半導体層、前記第2の窒化物半導体層、前記第3の窒化物半導体層及び前記第4の窒化物半導体層のうちの少なくとも2層の窒化物半導体層と接するように形成されたソース電極及びドレイン電極をさらに備えている請求項1〜4のいずれか1項に記載の半導体装置。
【背景技術】
【0002】
窒化ガリウム(GaN)に代表されるIII族窒化物半導体は、例えば窒化ガリウム(GaN)及び窒化アルミニウム(AlN)の禁止帯幅が室温でそれぞれ3.4eV及び6.2eVと大きいワイドギャップ半導体であり、絶縁破壊電界が大きく且つ電子飽和速度が砒化ガリウム(GaAs)等の化合物半導体やシリコン(Si)等と比べて大きいという特徴を有している。そこで、高周波用電子デバイス又は高出力電子デバイスとして、GaN系の化合物半導体材料を用いた電界効果トランジスタ(Field Effect Transistor:FET)の研究開発が活発に行われている。
【0003】
GaN等の窒化物半導体材料は、AlN又は窒化インジウム(InN)と種々の混晶を得られるため、従来のGaAs等の砒素系半導体材料と同様にヘテロ接合を形成することが可能である。窒化物半導体によるヘテロ接合、例えばAlGaN/GaNヘテロ構造においては、その界面に自発分極及びピエゾ分極によって生じる高濃度のキャリアが不純物をドーピングしない状態でも発生するという特徴を有する。このため、窒化物半導体によりFETを作製すると、デプレッション型(ノーマリオン型)になり易く、エンハンスメント型(ノーマリオフ型)にはなりにくい。しかしながら、現在のパワーエレクトロニクス分野で使用されているデバイスのほとんどがノーマリオフ型であり、GaN系の窒化物半導体デバイスにおいてもノーマリオフ型が強く求められている。
【0004】
ノーマリオフ型のトランジスタには、AlGaN/GaN構造におけるAlGaN層をゲート電極の下側部分でのみ薄膜化する、いわゆるリセス構造を形成し、2次元電子ガス(2DEG)濃度を減少させて、閾値電圧を正の値にシフトさせる構造や、主面の面方位が{10−12}面であるサファイア基板の主面上に、面方位が{11−20}面であるGaN層を成長し、サファイア基板の主面に対して垂直な方向には分極電界が生じないようにすることにより、ノーマリオフ型を実現する等の方法が報告されている。ここで、面方位のミラー指数に付した負符号は、該負符号に続く一の指数の反転を便宜的に表している。
【0005】
ノーマリオフ型のFETを実現する有望な構造として、ゲート電極形成部にp型AlGaN層を形成した接合型電界効果トランジスタ(Junction Field Effect Transistor:JFET)が提案されている。JFET構造において、p型AlGaN層をAlGaNからなるバリア層と接続することにより、AlGaN層のポテンシャルエネルギーが引き上げられる。これにより、p型AlGaN層が形成されたゲート電極形成部の直下に形成される2次元電子ガスの濃度を減少させることができるため、JFETはノーマリオフ動作が可能となる。また、ゲート電極形成部に、金属と半導体との接合であるショットキ接合と比べてビルトインポテンシャルが大きいpn接合を用いるため、ゲートの立ち上がり電圧を大きくすることができる。このため、正のゲート電圧を印加しても、ゲートリーク電流を小さく抑えることが可能となる。
【0006】
なお、ここで、AlGaNはAl
xGa
1−xN(但し、xは、0<x<1である。)を表し、InGaNはIn
yGa
1−yN(yは、0<y<1である。)を表し、InAlGaNはIn
yAl
xGa
1−x−yN(x、yは、0<x<1、0<y<1、0<x+y<1である。)を表す。この表記は以下についても同様である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、前記従来の窒化物半導体からなるJFETは、ゲート電極形成部を除く領域の半導体層の最表面と2次元電子ガス層との距離が、アンドープのAlGaN層(バリア層)の膜厚に相当する約25nmと小さく、2次元電子ガス層は表面準位にトラップした電子が形成する空乏層の影響を受けやすい。このため、高いドレイン電圧でFETを動作した場合にドレイン電流が減少する、いわゆる電流コラプスという現象が発生しやすいという問題がある。
【0009】
図12に示すように、従来の窒化物半導体からなるJFETは、サファイアからなる基板401の上に順次形成された、AlNからなるバッファ層402、アンドープのGaNからなるチャネル層403、アンドープのAlGaNからなるバリア層404及び該バリア層404とゲート電極411との間にのみ選択的に設けられたp型のAlGaN層405及び高濃度p型GaN層406を有している。
【0010】
バリア層404の上におけるゲート電極411の両側方の領域には、ゲート電極411とそれぞれ間隔をおいてソース電極409及びドレイン電極410が形成されている。ここで、ゲート電極411は、例えばニッケル(Ni)からなり、高濃度p型GaN層406とはオーミック接触している。ソース電極409及びドレイン電極410は、基板側から積層されたチタン(Ti)とアルミニウム(Al)との積層膜からなる。さらに、表面は窒化シリコン(SiN)の保護膜で覆われている。
【0011】
図13は
図12に示す従来のJFETに対して、ゲート電極411とドレイン電極410とに同一周期のパルス電圧を印加した際のドレイン電流Idとドレイン電圧Vdsとの関係を表わしている。ここで、ゲート電極411及びドレイン電極410に印加されるパルス電圧のパルス幅は0.5μsとし、パルス間隔は1msとしている。
【0012】
図13において、プロットAはパルス電圧を印加する前のバイアス条件として、ゲート電圧及びドレイン電圧が共に0Vの場合であり、プロットBはゲート電圧が0Vで且つドレイン電圧が60Vの場合を表わしている。
図13に示すように、例えばゲート電圧Vgsが5VのプロットBで且つドレイン電圧Vdsが10Vの場合は、ゲート電圧Vgsが5VのプロットAで且つドレイン電圧Vdsが10Vの場合と比べて、ドレイン電流Idが90mA/mm程度減少している。これにより、バイアス電圧を印加するよりも前にドレイン電極410に高いドレイン電圧が印加されている場合には、オン抵抗が増大することが分かる。これが電流コラプスと呼ばれる現象であり、電流コラプスが生じるとオン抵抗が大幅に増大するため、高いドレイン電圧が印加されるパワートランジスタにとっては極めて重大な問題となる。
【0013】
本発明は、前記従来の問題に鑑み、窒化物半導体からなるノーマリオフ型の半導体装置であって、電流コラプスを抑制し且つ大電流密度及び高耐圧特性を得られるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前記の目的を達成するため、本発明は、半導体装置を構成する半導体積層体におけるゲート電極の形成領域を除く領域にアンドープ又はn型半導体層を設ける構成とする。
【0015】
具体的に、本発明に係る第1の半導体装置は、基板の上に形成された第1の窒化物半導体層と、第1の窒化物半導体層の上に形成され、バンドギャップエネルギーが第1の窒化物半導体層のバンドギャップエネルギーよりも大きい第2の窒化物半導体層と、第2の窒化物半導体層の上に形成され、p型不純物が添加された第3の窒化物半導体層と、第3の窒化物半導体層の上に形成され、アンドープ又はn型不純物が添加された第4の窒化物半導体層と、第3の窒化物半導体層における第4の窒化物半導体層に形成された開口部からの露出領域に接するように形成されたゲート電極とを備えていることを特徴とする。
【0016】
第1の半導体装置によると、p型不純物が添加された第3の窒化物半導体と、該第3の窒化物半導体層の上に形成され、アンドープ又はn型不純物が添加された第4の窒化物半導体層と、第3の窒化物半導体層における第4の窒化物半導体層に形成された開口部からの露出領域の上に接するように形成されたゲート電極とを備えているため、ゲートの立ち上がり電圧を窒化物半導体が持つバンドギャップエネルギーに対応した値にすることができるので、大きなドレイン電流を得ることができる。その上、ゲート電極形成部を除いて、アンドープ又はn型の第4の窒化物半導体層(電子供給層)を残すことにより、第4の窒化物半導体層の表面と2次元電子ガス層との距離を大きくすることができるため、表面準位にトラップされた電子が形成する空乏層の2次元電子ガス層への影響を小さくできるので、電流コラプスを抑制することが可能となる。
【0017】
本発明に係る第2の半導体装置は、基板の上に形成された第1の窒化物半導体層と、第1の窒化物半導体層の上に形成され、バンドギャップエネルギーが第1の窒化物半導体層のバンドギャップエネルギーよりも大きい第2の窒化物半導体層と、第2の窒化物半導体層の上に形成され、バンドギャップエネルギーが第2の窒化物半導体層より小さい第3の窒化物半導体層と、第3の窒化物半導体層の上に形成され、バンドギャップエネルギーが第3の窒化物半導体層より大きい第4の窒化物半導体層と、第3の窒化物半導体層における第4の窒化物半導体層に形成された開口部からの露出領域に接するように形成されたゲート電極とを備えていることを特徴とする。
【0018】
第2の半導体装置によると、バンドギャップエネルギーが第2の窒化物半導体層より小さい第3の窒化物半導体と、該第3の窒化物半導体層の上に形成され、バンドギャップエネルギーが第3の窒化物半導体層より大きい第4の窒化物半導体層と、第3の窒化物半導体層における第4の窒化物半導体層に形成された開口部からの露出領域に接するように形成されたゲート電極とを備えているため、ゲートの立ち上がり電圧を窒化物半導体が持つバンドギャップエネルギーに対応した値にすることができるので、大きなドレイン電流を得ることができる。その上、ゲート電極形成部を除いて、第4の窒化物半導体層(電子供給層)を残すことにより、第4の窒化物半導体層の表面と2次元電子ガス層との距離を大きくすることができるため、表面準位にトラップされた電子が形成する空乏層の2次元電子ガス層への影響を小さくできるので、電流コラプスを抑制することが可能となる。
【0019】
本発明に係る第3の半導体装置は、基板の上に形成された第1の窒化物半導体層と、第1の窒化物半導体層の上に形成され、バンドギャップエネルギーが第1の窒化物半導体層のバンドギャップエネルギーよりも大きい第2の窒化物半導体層と、第2の窒化物半導体層の上に形成され、バンドギャップエネルギーが第2の窒化物半導体層より小さい第3の窒化物半導体層と、第3の窒化物半導体層の上に形成され、n型不純物が添加された第4の窒化物半導体層と、第3の窒化物半導体層における第4の窒化物半導体層に形成された開口部からの露出領域に接する形で形成されたゲート電極とを備えていることを特徴とする。
【0020】
第3の半導体装置によると、バンドギャップエネルギーが第2の窒化物半導体層より小さい第3の窒化物半導体と、該第3の窒化物半導体層の上に形成され、n型不純物が添加された第4の窒化物半導体層と、第3の窒化物半導体層における第4の窒化物半導体層に形成された開口部からの露出領域に接するように形成されたゲート電極とを備えているため、ゲートの立ち上がり電圧を窒化物半導体が持つバンドギャップエネルギーに対応した値にすることができるので、大きなドレイン電流を得ることができる。その上、ゲート電極形成部を除いて、第4の窒化物半導体層(電子供給層)を残すことにより、第4の窒化物半導体層の表面と2次元電子ガス層との距離を大きくすることができるため、表面準位にトラップされた電子が形成する空乏層の2次元電子ガス層への影響を小さくできるので、電流コラプスを抑制することが可能となる。
【0021】
第1の半導体装置において、第1の窒化物半導体層は、Al
xGa
1−xN(但し、xは、0≦x<1である。)からなり、第2の窒化物半導体層は、Al
yGa
1−yN(但し、yは、0<y≦1,x<yである。)からなり、第3の窒化物半導体層は、Al
zGa
1−zN(但し、zは、0≦z≦1である。)からなり、第4の窒化物半導体層は、Al
wGa
1−wN(但し、wは、0≦w≦1である。)からなることが好ましい。
【0022】
この好ましい構成によれば、第1の窒化物半導体層と第2の窒化物半導体層との界面に1.0×10
13cm
−2以上のシートキャリア濃度を有する2次元電子ガス層を形成することが可能となる。
【0023】
第2又は第3の半導体装置において、第1の窒化物半導体層は、Al
xGa
1−xN(但し、xは、0≦x<1である。)からなり、第2の窒化物半導体層は、Al
yGa
1−yN(但し、yは、0<y≦1,x<yである。)からなり、第3の窒化物半導体層は、In
zGa
1−zN(但し、zは、0<z≦1である。)からなり、第4の窒化物半導体層は、Al
wGa
1−wN(但し、wは、0≦w≦1である。)からなることが好ましい。
【0024】
この好ましい構成によれば、第1の窒化物半導体層と第2の窒化物半導体層との界面に1.0×10
13cm
−2以上のシートキャリア濃度を有する2次元電子ガス層を形成することが可能となる。
【0025】
本発明の半導体装置は、第3の窒化物半導体層とゲート電極との間に形成された絶縁膜をさらに備えていることが好ましい。
【0026】
この好ましい構成によれば、正のゲート電圧を印加してもゲートリーク電流をより一層小さく抑えることが可能となる。
【0027】
本発明の半導体装置は、ゲート電極を挟む領域で且つ第1の半導体層、第2の半導体層、第3の半導体層及び第4の半導体層のうちの少なくとも2層の半導体層と接するように形成されたソース電極及びドレイン電極をさらに備えていることが好ましい。
【0028】
この好ましい構成によれば、オーミック電極であるソース電極及びドレイン電極との接触抵抗をより低減することができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明に係る半導体装置によると、ゲート電極形成部を除く領域に、アンドープ又はn型不純物が添加された電子供給層(第4の半導体層)を残すことにより、窒化物半導体の表面と2次元電子ガス層との距離を大きくすることが可能となるため、表面準位にトラップされた電子が形成する空乏層の影響を小さくできるので、ノーマリオフ型で且つ電流コラプスが抑制された窒化物半導体からなる半導体装置を実現できる。
【発明を実施するための形態】
【0031】
(第1の実施形態)
本発明の第1の実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0032】
図1は本発明の第1の実施形態に係る半導体装置であって、電界効果トランジスタの断面構成を示している。
図1に示すように、第1の実施形態に係る電界効果トランジスタは、主面の面方位が(0001)面のサファイアからなる基板101の主面上に、膜厚が100nmの窒化アルミニウム(AlN)からなるバッファ層102と、膜厚が2μmのアンドープの窒化ガリウム(GaN)層103と、膜厚が25nmのアンドープの窒化アルミニウムガリウム(AlGaN)層104と、膜厚が50nmのp型AlGaN層105と、膜厚が5nmの高濃度p型GaN層106と、膜厚が20nmのn型AlGaN層107とが、順次エピタキシャル成長により形成されている。ここでは、各AlGaN層104、105及び107におけるAl組成は、いずれも25%としている。但し、アンドープGaN層103にはAl
xGa
1−xN(但し、xは、0≦x≦1である。)を、アンドープAlGaN層104にはAl
yGa
1−yN(但し、yは、0<y≦1,x<yである。)を、p型AlGaN層105及びp型高濃度GaN層106にはAl
zGa
1−zN(但し、zは、0≦z≦1である。)を、n型AlGaN層107にはAl
wGa
1−wN(但し、wは、0≦w≦1である。)を用いることができる。
【0033】
n型AlGaN層107には、選択的にエッチングされ、高濃度p型GaN層106を露出するゲート電極形成部である開口部107aが形成されている。該開口部107aには、ニッケル(Ni)からなるゲート電極112が高濃度p型GaN層106とオーミック接触して形成されている。
【0034】
また、開口部107aの両側には、該開口部107aと間隔をおき且つn型AlGaN層107、高濃度p型GaN層106及びp型AlGaN層105を上から掘り込んでアンドープAlGaN層104が露出され、その露出された領域の上には、アンドープAlGaN層104と接触するように、それぞれチタン(Ti)/アルミニウム(Al)からなるソース電極110及びドレイン電極111が形成されている。
【0035】
ソース電極110、ドレイン電極111及びゲート電極112を除くn型AlGaN層107の上面及び開口部107aの底面及び壁面には、窒化シリコン(SiN)からなる保護膜109が形成されている。
【0036】
ソース電極110及びドレイン電極111におけるゲート電極112に対して外側の領域には、例えばアルゴン(Ar)イオン等がアンドープGaN層103の上部にまで達するようにイオン注入され、高抵抗化された素子分離領域108が形成されている。
【0037】
ここで、p型AlGaN層105への空乏層の広がりを抑制するには、該p型AlGaN層105のキャリア濃度は1×10
18cm
−3以上であることが望ましい。また、ゲート電極112におけるオーミックコンタクト抵抗を低減するには、高濃度p型GaN層106のキャリア濃度は2×10
18cm
−3以上であることが望ましい。また、ソース電極110とゲート電極112との間及びドレイン電極111とゲート電極112との間におけるリーク電流を低減するために、ゲート電極形成部を除くp型AlGaN層105、高濃度p型GaN層106及びn型AlGaN層107のキャリアはいずれも空乏化していることが望ましい。空乏化することにより、リーク電流を抑制でき、トランジスタの耐圧を向上させることが可能となる。なお、高濃度p型GaN層106は必ずしも設ける必要はない。また、高濃度p型GaN層106をp型AlGaN層105とAl組成比が同一の高濃度p型AlGaN層としてもよい。このように、p型AlGaN層105とAl組成比が同一の高濃度p型AlGaN層とすることにより、アンドープAlGaN層104とp型AlGaN層105との界面、又はp型AlGaN層105と高濃度p型AlGaN層との界面、又は高濃度p型AlGaN層とn型AlGaN層107との界面にバンドギャップエネルギーの不連続が生じず、電子若しくは正孔が蓄積されないため、リーク電流を抑制することができるので、トランジスタの耐圧を向上させることが可能となる。
【0038】
図2は本発明の第1の実施形態に係る電界効果トランジスタの各半導体層におけるゲート電極形成部のエネルギーバンドを表している。
図2に示すように、アンドープGaN層103とアンドープAlGaN層104のヘテロ界面においては、アンドープの半導体層同士の接合ではあるものの、自発分極とピエゾ分極とによって生じた電荷により、ヘテロ界面の伝導帯E
cに下向きのポテンシャルの溝が形成される。
【0039】
また、ゲート電極形成部においては、p型AlGaN層105及び高濃度p型GaN層106が、アンドープAlGaN層104と接続されることにより、該アンドープAlGaN層104とアンドープGaN層103とのポテンシャルエネルギーEが引き上げられる。これにより、アンドープAlGaN層104とアンドープGaN層103とのヘテロ界面に形成されたポテンシャルの溝がフェルミエネルギーE
fよりも上に位置する。その結果、ゲート電極112にバイアス電圧が印加されないときは、アンドープAlGaN層104とアンドープGaN層103とのヘテロ界面の伝導帯E
cに2次元電子ガス層は形成されず、ノーマリオフ状態となる。
【0040】
図3は本発明の第1の実施形態に係る電界効果トランジスタの各半導体層におけるゲート電極形成部を除く素子領域のエネルギーバンドを表している。
図3に示すように、ゲート電極形成部を除く素子領域においては、n型AlGaN層107が高濃度p型GaN層106と接続されているため、p型AlGaN層105及び高濃度p型GaN層106との接続により引き上げられたアンドープAlGaN層104とアンドープGaN層103とのポテンシャルエネルギーEがn型AlGaN層107との接続により引き下げられる。これにより、アンドープAlGaN層104とアンドープGaN層103とのヘテロ界面に形成された伝導帯E
cの溝は、フェルミエネルギーE
fよりも低い位置になる。このため、アンドープAlGaN層104とアンドープGaN層103とのヘテロ界面に2次元電子ガス層が形成されて、ノーマリオン状態となる。また、n型AlGaN層107との接続により素子領域の表面と2次元電子ガス層との距離が長くなるため、表面準位にトラップされた電子が形成する空乏層が2次元電子ガス層にまで到達しなくなるので、電流コラプスが抑制される。
【0041】
以上のように形成された電界効果トランジスタの電流電圧(I−V)特性を
図4(a)及び
図4(b)に示す。
図4(a)はドレイン電圧Vdsを10Vに設定した場合のゲート電圧Vgsとドレイン電流Idsとの関係を表している。
図4(a)から分かるように、第1の実施形態に係る電界効果トランジスタは、ノーマリオフ型を示していることが分かる。また、
図4(b)は
図1に示す窒化物半導体装置に対して、ゲート電極112とドレイン電極111とに同一周期のパルス電圧を印加した際のドレイン電流Idとドレイン電圧Vdsとの関係を表している。ここで、ゲート電極112及びドレイン電極111に印加されるパルス電圧のパルス幅は0.5μsとし、パルス間隔は1msとしている。
図4(b)において、プロットAはパルス電圧を印加する前のバイアス条件として、ゲート電圧及びドレイン電圧が共に0Vの場合であり、プロットBはゲート電圧が0Vで且つドレイン電圧が60Vの場合を表わしている。
図4(b)のプロットBに示すように、ゲート電圧Vgsが1Vから5Vのいずれであっても、また、ドレイン電圧Vdsが10Vから60Vのいずれであっても、高いドレイン電圧が印加されないプロットAの場合の特性とほぼ一致していることから、オン抵抗も変わらず、従って電流コラプスが抑制されていることが分かる。
【0042】
(第2の実施形態)
以下、本発明の第2の実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0043】
図5は本発明の第2の実施形態に係る半導体装置であって、電界効果トランジスタの断面構成を示している。
図5に示すように、第2の実施形態に係る電界効果トランジスタは、主面の面方位が(0001)面のサファイアからなる基板201の主面上に、膜厚が100nmの窒化アルミニウム(AlN)からなるバッファ層202と、膜厚が2μmのアンドープの窒化ガリウム(GaN)層203と、膜厚が25nmのアンドープの窒化アルミニウムガリウム(AlGaN)層204と、膜厚が50nmのp型組成傾斜AlGaN層205と、膜厚が5nmの高濃度p型GaN層206と、膜厚が20nmのn型組成傾斜AlGaN層207とが、順次エピタキシャル成長により形成されている。ここでは、アンドープAlGaN層204のAl組成は25%である。また、p型組成傾斜AlGaN層205におけるAl組成は、アンドープAlGaN層204側で25%であり、高濃度p型GaN層206側で0%であり、その間のAl組成は25%から0%にまで連続的に又は段階的に減少している。また、n型組成傾斜AlGaN層207におけるAl組成は、高濃度p型GaN層206側で0%であり、n型組成傾斜AlGaN層207の上面までの間のAl組成は0%から25%にまで連続的に又は段階的に増大している。
【0044】
n型組成傾斜AlGaN層207には、選択的にエッチングされ、高濃度p型GaN層206を露出するゲート電極形成部である開口部207aが形成されている。該開口部207aには、Niからなるゲート電極212が高濃度p型GaN層206とオーミック接触して形成されている。
【0045】
また、開口部207aの両側には、該開口部207aと間隔をおき且つn型組成傾斜AlGaN層207、高濃度p型GaN層206及びp型組成傾斜AlGaN層205を上から掘り込んでアンドープAlGaN層204が露出され、その露出された領域の上には、アンドープAlGaN層204と接触するように、それぞれTi/Alからなるソース電極210及びドレイン電極211が形成されている。
【0046】
ソース電極210、ドレイン電極211及びゲート電極212を除くn型組成傾斜層207の上面及び開口部207aの底面及び壁面には、SiNからなる保護膜209が形成されている。
【0047】
ソース電極210及びドレイン電極211におけるゲート電極212に対して外側の領域には、例えばArイオン等がアンドープGaN層203の上部にまで達するようにイオン注入され、高抵抗化された素子分離領域208が形成されている。
【0048】
図6に本発明の第2の実施形態に係る電界効果トランジスタの各半導体層におけるゲート電極形成部のエネルギーバンドを示す。
図6に示すように、高濃度p型GaN層206とp型組成傾斜Al
xGa
1−xN(0≦x≦0.25)層205との界面付近におけるp型組成傾斜Al
xGa
1−xN(0≦x≦0.25)層205のAl組成xを0とすることにより、p型組成傾斜AlGaN層205と高濃度p型GaN層206との界面にバンドギャップエネルギーの不連続が発生しない。
【0049】
図2に示した第1の実施形態においては、高濃度p型GaN層106とp型AlGaN層105とのヘテロ界面にバンドギャップエネルギーの不連続が発生して、該ヘテロ界面に蓄積された正孔によるリーク電流が流れるため、オフ耐圧が低下する。
【0050】
これに対し、第2の実施形態においては、p型組成傾斜AlGaN層205と高濃度p型GaN層206との界面に正孔が蓄積されないため、リーク電流を抑制できるので、オフ耐圧が向上する。
【0051】
図7に本発明の第2の実施形態に係る電界効果トランジスタの各半導体層におけるゲート電極形成部を除く素子領域のエネルギーバンドを示す。
図7に示すように、高濃度p型GaN層206とn型組成傾斜Al
xGa
1−xN(0≦x≦0.25)層207との界面付近におけるn型組成傾斜Al
xGa
1−xN(0≦x≦0.25)層207のAl組成xを0とすることにより、n型組成傾斜AlGaN層207と高濃度p型GaN層206との界面にバンドギャップエネルギーの不連続が発生しない。
【0052】
図3に示した第1の実施形態においては、高濃度p型GaN層106とn型AlGaN層107とのヘテロ界面にバンドギャップエネルギーの不連続が発生して、該ヘテロ界面に蓄積された電子によるリーク電流が流れるため、オフ耐圧が低下する。
【0053】
これに対し、第2の実施形態においては、高濃度p型GaN層206とn型組成傾斜AlGaN層207との界面に電子が蓄積されないため、リーク電流を抑制できるので、オフ耐圧が向上する。
【0054】
(第3の実施形態)
以下、本発明の第3の実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0055】
図8は本発明の第3の実施形態に係る半導体装置であって、電界効果トランジスタの断面構成を示している。
図8に示すように、第3の実施形態に係る電界効果トランジスタは、主面の面方位が(0001)面のサファイアからなる基板301の主面上に、膜厚が100nmのAlNからなるバッファ層302と、膜厚が2μmのアンドープGaN層303と、膜厚が25nmのアンドープAlGaN層304と、膜厚が5nmのアンドープの窒化インジウムガリウム(InGaN)層305と、膜厚が20nmのアンドープAlGaN層306とが、順次エピタキシャル成長により形成されている。ここでは、各AlGaN層304、306におけるAl組成はいずれも25%とし、アンドープInGaN層305におけるIn組成は20%としている。
【0056】
アンドープAlGaN層306には、選択的にエッチングされ、アンドープInGaN層305を露出するゲート電極形成部である開口部306aが形成されている。該開口部306aには、Niからなるゲート電極312がアンドープInGaN層305と接触して形成されている。
【0057】
また、開口部306aの両側には、該開口部306aと間隔をおき且つアンドープAlGaN層306及びアンドープInGaN層305を上から掘り込んでアンドープAlGaN層304が露出され、その露出された領域の上には、アンドープAlGaN層304と接触するように、それぞれTi/Alからなるソース電極310及びドレイン電極311が形成されている。
【0058】
ソース電極310、ドレイン電極311及びゲート電極312を除くアンドープAlGaN層306の上面及び開口部306aの底面及び壁面には、SiNからなる保護膜309が形成されている。
【0059】
ソース電極310及びドレイン電極311におけるゲート電極312に対して外側の領域には、例えばArイオン等がアンドープGaN層303の上部にまで達するようにイオン注入され、高抵抗化された素子分離領域308が形成されている。
【0060】
図9に本発明の第3の実施形態に係る電界効果トランジスタの各半導体層におけるゲート電極形成部のエネルギーバンドを示す。
図9に示すように、アンドープGaN層303とアンドープAlGaN層304とのヘテロ界面においては、アンドープ層同士の接合ではあるものの、自発分極とピエゾ分極とによって誘起された電荷が基板301から上方に向かう方向の電界をアンドープAlGaN層304の内部に生じさせる。このため、アンドープGaN層303とアンドープAlGaN層304とのヘテロ界面の伝導帯E
cに下向きのポテンシャルの溝が形成される。また、アンドープAlGaN層304とアンドープInGaN層305とのヘテロ界面においてはアンドープ同士の接合ではあるが、自発分極とピエゾ分極とによって誘起された電荷が基板301に向かう方向の電界をアンドープInGaN層305の内部に生じさせる。これらの電界により、アンドープGaN層303とアンドープAlGaN層304とのポテンシャルエネルギーが引き上げられ、アンドープGaN層303とアンドープAlGaN層304とのヘテロ界面の伝導帯E
cに形成されたポテンシャルの溝がフェルミエネルギーE
fよりも上に位置する。その結果、ゲート電極312にバイアス電圧が印加されないときは、アンドープGaN層303とアンドープAlGaN層304とのヘテロ界面の伝導帯E
cに2次元電子ガス層は形成されず、ノーマリオフ状態となる。
【0061】
図10に本発明の第3の実施形態に係る電界効果トランジスタの各半導体層におけるゲート電極形成部を除く素子領域のエネルギーバンドを示す。
図10に示すように、ゲート電極形成部を除く素子領域においては、アンドープAlGaN層306がアンドープInGaN層305と接続されている。このため、アンドープInGaN層305とアンドープAlGaN層306とのヘテロ界面においてはアンドープ層同士の接合ではあるが、自発分極とピエゾ分極とによって誘起された電荷が基板から上方に向かう方向の電界をアンドープAlGaN層306の内部に生じさせる。この生じた電界により、アンドープInGaN層305との接続により引き上げられたポテンシャルエネルギーEが引き下げられるので、アンドープGaN層303とアンドープAlGaN層304とのヘテロ界面の伝導帯E
cに形成されたポテンシャルの溝はフェルミエネルギーE
fよりも下に位置する。その結果、アンドープGaN層303とアンドープAlGaN層304とのヘテロ界面の伝導帯E
cに2次元電子ガス層が形成されて、ノーマリオン状態となる。
【0062】
また、第3の実施形態においては、アンドープAlGaN層306をアンドープInGaN層305の上に設けていることにより、素子領域の表面(ここではアンドープAlGaN層306の表面)と2次元電子ガス層との距離が長くなるため、素子領域の表面準位にトラップされた電子が形成する空乏層は、2次元電子ガス層にまで到達しないので、電流コラプスが抑制される。
【0063】
(第3の実施形態の一変形例)
図11に第3の実施形態の一変形例に係る電界効果トランジスタの断面構成を示す。
図11に示す本変形例に係る電界効果トランジスタは、第3の実施形態に係る電界効果トランジスタとは、ゲート電極312が、開口部306aから露出するアンドープInGaN層305の上に、SiNからなる保護膜309を介在させて形成されている点のみが異なる。このような構成とすることにより、ゲート電極312に正のゲート電圧を印加してもゲートリーク電流をより一層小さく抑えることが可能となる。
【0064】
なお、本変形例は、第3の実施形態に限られず、第1の実施形態及び第2の実施形態においても適用可能である。
【0065】
また、第1〜第3の実施形態及びその変形例においては、各ゲート電極のいずれもが、ソース電極との距離よりもドレイン電極との距離が大きくなるように形成されている。但し、ゲート電極は必ずしもドレイン電極との距離をソース電極よりも大きくする必要はないが、パワートランジスタの場合には、ドレイン耐圧を向上させる上で好ましい。
【0066】
また、第1の実施形態においては、電子走行層にアンドープGaN層103を用い、その上に形成される、アンドープGaN層103よりもバンドギャップエネルギーが大きいバリア層にアンドープAl
0.25Ga
0.75N層104を用いたが、この組成に限られない。すなわち、GaN層103のAl組成がAlGaN層104のAl組成よりも小さい限りは、GaN層103をAlGaN層とすることができる。これは、他の実施形態においても同様である。