(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
透明な樹脂材料からなる基材層と、該基材層の第一面上に設けられた背面層と、を有する透明フィルムと、前記透明フィルムの、前記背面層とは反対側の表面に設けられた粘着剤層と、を備える表面保護フィルムであって、
前記背面層は、帯電防止成分および滑剤を含む樹脂材料からなり、
前記背面層の厚みが0.02〜0.2μmであり、
スクラッチ試験における前記背面層の破壊開始荷重が50mN以上であり、かつ
前記背面層の摩擦係数が0.4以下である、表面保護フィルム。
前記背面層に粘着テープを貼り付け、該粘着テープを前記背面層から剥離速度0.3m/分、剥離角度180度の条件で剥離して測定される剥離力が2N/19mm以上である、請求項1から3のいずれか一項に記載の表面保護フィルム。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
また、図面に記載の実施形態は、本発明を明瞭に説明するために模式化されており、製品として実際に提供される本発明の透明フィルムまたは表面保護フィルムのサイズや縮尺を正確に表したものではない。
【0017】
ここに開示される透明フィルムは、耐スクラッチ性に優れることから、粘着シートの支持体その他の用途に好ましく利用され得る。かかる粘着シートは、一般に、粘着テープ、粘着ラベル、粘着フィルム等と称される形態のものであり得る。なかでも表面保護フィルムの支持体として適しており、該フィルム越しに製品の外観検査を精度よく行い得ることから、特に光学部品(例えば、偏光板、波長板等の液晶ディスプレイパネル構成要素として用いられる光学部品)の加工時や搬送時に該光学部品の表面を保護する表面保護フィルム用の支持体として好適である。ここに開示される表面保護フィルムは、上記透明フィルムの片面に粘着剤層を有することによって特徴付けられる。上記粘着剤層は、典型的には連続的に形成されるが、かかる形態に限定されるものではなく、例えば点状、ストライプ状等の規則的あるいはランダムなパターンに形成された粘着剤層であってもよい。また、ここに開示される表面保護フィルムは、ロール状であってもよく、枚葉状であってもよい。
【0018】
ここに開示される透明フィルムを支持体として有する表面保護フィルムの典型的な構成例を
図1に模式的に示す。この表面保護フィルム1は、透明フィルム(支持体)10と粘着剤層20とを備える。透明フィルム10は、透明な樹脂フィルムからなる基材層12と、その第一面12A上に直接設けられた厚さ1μm以下の背面層14とからなる。粘着剤層20は、反対側の透明フィルム10のうち背面層14とは反対側の表面に設けられている。表面保護フィルム1は、この粘着剤層20を被着体(保護対象、例えば偏光板等の光学部品の表面)に貼り付けて使用される。使用前(すなわち、被着体への貼付前)の保護フィルム1は、典型的には
図2に示すように、粘着剤層20の表面(被着体への貼付面)が、少なくとも粘着剤層20側が剥離面となっている剥離ライナー30によって保護された形態であり得る。あるいは、表面保護フィルム1がロール状に巻回されることにより透明フィルム10の背面(背面層14の表面)に粘着剤層20が当接してその表面が保護された形態であってもよい。
【0019】
ここに開示される透明フィルムの基材層は、各種の樹脂材料を透明なフィルム状に成形してなる樹脂フィルム(基材フィルム)であり得る。上記樹脂材料としては、透明性、機械的強度、熱安定性、水分遮蔽性、等方性、などのうち一または二以上の特性に優れた基材フィルムを構成し得るものが好ましい。例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート等の、ポリエステル系ポリマー;ジアセチルセルロース、トリアセチルセルロース等の、セルロース系ポリマー;ポリカーボネート系ポリマー;ポリメチルメタクリレート等の、アクリル系ポリマー;等をベース樹脂(樹脂成分のなかの主成分、すなわち50質量%以上を占める成分)とする樹脂材料から構成された樹脂フィルムを、上記基材層として好ましく用いることができる。上記樹脂材料の他の例としては、ポリスチレン、アクリロニトリル−スチレン共重合体等の、スチレン系ポリマー;ポリエチレン、ポリプロピレン、環状ないしノルボルネン構造を有するポリオレフィン、エチレン−プロピレン共重合体等の、オレフィン系ポリマー;塩化ビニル系ポリマー;ナイロン6、ナイロン6,6、芳香族ポリアミド等の、アミド系ポリマー;等をベース樹脂とするものが挙げられる。ベース樹脂の他の例として、イミド系ポリマー、スルホン系ポリマー、ポリエーテルスルホン系ポリマー、ポリエーテルエーテルケトン系ポリマー、ポリフェニレンスルフィド系ポリマー、ビニルアルコール系ポリマー、塩化ビニリデン系ポリマー、ビニルブチラール系ポリマー、アリレート系ポリマー、ポリオキシメチレン系ポリマー、エポキシ系ポリマー等が挙げられる。上述したポリマーの二種以上のブレンド物からなる基材層であってもよい。上記基材層は、光学特性(位相差等)の異方性が少ないほど好ましい。特に、光学部品用表面保護フィルムの支持体として用いられる透明フィルムでは、基材層の光学的異法性を少なくすることが有益である。基材層は、単層構造であってもよく、組成の異なる複数の層が積層された構造であってもよい。典型的には単層構造である。
【0020】
基材層の厚さは目的に応じて適宜選択できるが、強度や取扱性等の作業性と、コストや外観検査性等との兼ね合いから、通常は10μm〜200μm程度とすることが適当であり、15μm〜100μm程度とすることが好ましく、20μm〜70μmとすることがより好ましい。
基材層の屈折率は、通常は1.43〜1.6程度とすることが適当であり、1.45〜1.5程度とすることが好ましい。また、基材の透明性の観点から、基材層は70%〜99%の光線透過率を有することが好ましく、該透過率が80%〜97%(例えば85%〜95%)であることがより好ましい。
【0021】
上記基材層を構成する樹脂材料には、必要に応じて、酸化防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止成分、可塑剤、着色剤(顔料、染料等)等の各種添加剤が配合されていてもよい。基材層の第一面(背面層が設けられる側の表面)には、例えば、コロナ放電処理、プラズマ処理、紫外線照射処理、酸処理、アルカリ処理、下塗り剤の塗布等の、公知または慣用の表面処理が施されていてもよい。このような表面処理は、例えば、基材層と背面層との密着性を高めるための処理であり得る。基材層の表面にヒドロキシル基(−OH基)等の極性基が導入されるような表面処理を好ましく採用し得る。また、ここに開示される表面保護フィルムにおいて、該表面保護フィルムを構成する透明フィルムは、その基材層の第二面(粘着剤層が形成される側の表面)に上記と同様の表面処理が施されていてもよい。かかる表面処理は、透明フィルム(支持体)と粘着剤層との密着性(粘着剤層の投錨性)を高めるための処理であり得る。
【0022】
ここに開示される透明フィルムは、上記基材層の片面(第一面)に、厚さ1μm以下(典型的には0.02μm〜1μm)の背面層を有する。該透明フィルムは、後述するスクラッチ試験により測定される上記背面層の破壊開始荷重が50mN以上である。かかる破壊開始荷重を満たす透明フィルムは耐スクラッチ性に優れる。例えば、後述する耐スクラッチ性評価において、目視で背面層の脱落屑が認められない。したがって、表面保護フィルム(特に、偏光板その他の光学部品の製造や搬送の際に用いられる表面保護フィルム)の支持体として好適である。破壊開始荷重の上限は特に限定されないが、他の特性(印字性、背面剥離力、光線透過率等)とのバランスを考慮して、通常は破壊開始荷重を300mN以下(例えば150mN以下)とすることが適当である。ここに開示される透明フィルムの好ましい一態様では、上記破壊開始荷重が50mN〜300mN(例えば50mN〜150mN)である。
上記破壊開始荷重は、例えば、23℃、50%RHの測定環境下において、先端曲率半径10μmの円錐型ダイヤモンド製圧子を用いて0〜300mNまで荷重を増加させつつ透明フィルムの背面(すなわち背面層の表面)を一方向に擦過(スクラッチ)し、そのスクラッチ痕上の破壊開始点の長さが2μmより大きくなった箇所に対応する荷重として求められる(より具体的な測定方法については、後述する実験例参照)。上記条件で得られたスクラッチ痕の一例を
図3に示す。
【0023】
上記透明フィルムを構成する背面層の摩擦係数は0.4以下である。このことによって、背面層に荷重(スクラッチ傷を生じさせるような荷重)が加わった場合に、その荷重を背面層の表面に沿って受け流し、該荷重による摩擦力を軽減することができる。したがって、上記摩擦力によって背面層が凝集破壊したり、背面層が基材層から剥がれたり(界面破壊)してスクラッチ傷を生じる事象を防止することができる。摩擦係数の下限は特に限定されないが、他の特性(印字性、背面剥離力、光線透過率等)とのバランスを考慮して、通常は摩擦係数を0.1以上(典型的には0.1以上0.4以下)とすることが適当であり、0.15以上(典型的には0.15以上0.4以下)とすることが好ましい。
上記摩擦係数としては、例えば、23℃、50%RHの測定環境下において、透明フィルムの背面(すなわち背面層の表面)を垂直荷重40mNで擦過して求められる値を採用することができる(より具体的な測定方法については、後述する実験例参照)。上記摩擦係数が実現されるように摩擦係数を低下させる(調整する)手法としては、背面層に各種滑剤(レベリング剤等)を含有させる方法、架橋剤の添加や成膜条件の調整により背面層の架橋密度を高める方法、等を適宜採用することができる。
【0024】
ここに開示される技術の好ましい一態様では、透明フィルムを構成する背面層の厚さが1μm以下であるという構造上の特徴から、このように薄い背面層を備える透明フィルムにおいて特に効果的な耐スクラッチ性向上手法を採用する。すなわち、背面層がある程度(例えば5μm以上)の厚さを有する場合には、該背面層の硬度を高くすることにより上記破壊開始荷重を向上させ(換言すれば、荷重に耐えうる強度の層を形成し)、耐スクラッチ性を高めることができる。ところが本発明者は、背面層の厚さが1μm以下の透明フィルムでは、上記技術思想をそのまま適用したのでは耐スクラッチ性の向上が的確に達成されないことを見出した。これは、背面層が薄い構造の透明フィルムでは、該背面層に加わった荷重が基材層に及んで該基材層を変形させやすいためと考えられる。
【0025】
本発明者は、薄い背面層を備える透明フィルムについて、該背面層の破壊挙動を詳細に検討した結果、かかる構造において基材層を変えずに薄い背面層の硬度だけを高くすると、上記荷重に対する基材層の変形に背面層の変形が追従できず、このため基材層と背面層との間で密着不良が生じて破壊開始荷重が低下することを見出した。そして、かかる事象を防止して耐スクラッチ性を向上させるためには、背面層の塑性指数Psと基材層の塑性指数Pbとの比として定義される塑性指数比(Ps/Pb)を1.5以上とすることが有効であることを見出したのである。ここで、上記塑性指数Ps,Pbは、例えば、23℃、50%RHの測定環境下において、先端曲率半径0.1μmのバーコピッチ(三角錐)型ダイヤモンド製圧子を垂直に押し込んで深さ10nm付近の押込み弾性率および硬度を測定し、上記弾性率の測定値を硬度の測定値で除すことにより算出することができる(より具体的な測定例については、後述する実験例参照)。この塑性指数が高いほど、荷重に対して変形しやすいといえる。すなわち、Ps/Pbが1.5以上であるということは、背面層が基材層の変形に十分追従し得る変形性を備えていることを意味する。Ps/Pbを2以上とすることにより、より良好な耐スクラッチ性が実現され得る。Ps/Pbの上限は特に限定されないが、他の特性(摩擦係数等)とのバランスを考慮して、通常は50以下とすることが適当である。好ましい一態様では、Ps/Pbが1.5以上3以下である。他の好ましい一態様として、Ps/Pbが1.5以上50以下(例えば10以上50以下、より好ましくは20以上50以下)であってもよい。これら好ましいPs/Pbの値は、例えば、基材層がポリエステル系樹脂材料(典型的には、PET系樹脂材料)からなる透明フィルムに好ましく適用され得る。なお、一般的なPETフィルムの塑性指数は概ね10〜20程度である。
【0026】
ここに開示される好ましい塑性指数比(Ps/Pb)および摩擦係数をいずれも満たすように構成された透明フィルムによると、上述した好ましい破壊開始荷重が容易に達成され得る。このような透明フィルムは、その背面に受けた摩擦力に対し、上記摩擦係数を有することにより該摩擦力を効率よく軽減し得ることと、上記塑性指数比を有することにより上記摩擦力による基材層の変形に背面層が十分追従し得ることとが相俟って、特に高い耐スクラッチ性を示すものとなり得る。したがって、かかる透明フィルムは、表面保護フィルムの支持体として好適である。
【0027】
上記背面層は、該背面層に粘着テープを貼り付けて剥離速度0.3m/分、剥離角度180度の条件で剥離して測定される剥離力(背面剥離力)が2N/19mm以上であることが好ましく、3N/19mm以上であることがより好ましい。ここに開示される技術を表面保護フィルムに適用する場合には、上記剥離力を有することが特に有意義である。剥離力が低すぎると、上記剥離層に粘着テープを貼り付けて被着体から表面保護フィルムを除去する際の作業性が低下しがちとなる場合がある。剥離力の上限は特に限定されないが、他の特性(摩擦係数等)とのバランスを考慮し、またロール状に巻き取った後に巻き戻す場合に自背面に粘着剤が付着する(糊残り)事象を防止するために、通常は10N/19mm以下とすることが好ましく、例えば6N/19mm以下とするとよい。ここに開示される技術の好ましい一態様では、上記背面剥離力が2〜10N/19mm(より好ましくは3〜6N/19mm)である。なお、上記剥離力は、例えば日東電工社製の片面粘着テープ、商品名「No.31B」を用いて、23℃、50%RHの環境下において測定することにより得られる(より具体的な測定方法については、後述する実験例参照)。
【0028】
ここに開示される技術における印字性とは、油性インキにより(例えば、油性マーキングペンを用いて)容易に印字できる性質を指す。表面保護フィルムを利用した被着体(例えば光学部品)の加工や搬送等の過程においては、保護対象たる被着体の識別番号等を表面保護フィルムに記載して表示したいとの要請がある。したがって、耐スクラッチ性に加えて印字性にも優れた透明フィルムおよび該透明フィルムを備えた表面保護フィルムが好ましい。例えば、溶剤がアルコール系であって顔料を含むタイプの油性インキに対して高い印字性を有することが好ましい。また、印字されたインキが擦れや転着により取れにくい(すなわち、印字密着性に優れる)ことが好ましい。上記印字性の程度は、例えば、後述する印字性評価により把握することができる。
【0029】
背面層を構成する樹脂の材質は、ここに開示される好ましい破壊開始荷重および摩擦係数(より好ましくは、さらに塑性指数比)を実現し得るように適宜選択することができる。耐スクラッチ性に優れ、十分な強度を有する層を形成可能であり、且つ光線透過性に優れた樹脂を選択することが好ましい。かかる樹脂は、熱硬化型樹脂、紫外線硬化型樹脂、電子線硬化型樹脂、二液混合型樹脂等の、各種のタイプの樹脂であり得る。
【0030】
熱硬化型樹脂の具体例としては、ポリシロキサン系、ポリシラザン系、ポリウレタン系、アクリル−ウレタン系、アクリル−スチレン系、フッ素樹脂系、アクリルシリコン系、アクリル系、ポリエステル系、ポリオレフィン系等をベース樹脂とするものが挙げられる。これらのうち、ポリウレタン系、アクリル−ウレタン系、アクリル−スチレン系等の熱硬化型樹脂は、高い弾性を有し、ここに開示される好ましい塑性指数比を有する層を形成しやすいという点で好ましい。また、ポリシロキサン系、ポリシラザン系等の熱硬化型樹脂は、高硬度の層を形成しやすいという点で好ましい。また、フッ素樹脂系の熱硬化型樹脂は、分子構造中に滑り成分を含有し、ここに開示される好ましい摩擦係数を有する層を形成しやすいという点で好ましい。ソフトセグメントとハードセグメントとを有する樹脂が好ましい。ここで、ソフトセグメントとは柔軟な主鎖構造ないし特性を有する樹脂成分をいい、ハードセグメントとは剛直な(少なくとも上記ソフトセグメントよりも剛直な)主鎖構造ないし特性を有する樹脂成分をいう。後述するサンプルA−4〜A−10において背面層の形成に使用した熱硬化型樹脂は、いずれも、ソフトセグメントとハードセグメントとを有する樹脂に該当する。また、樹脂成分が水系溶媒に分散したエマルション形態の樹脂を好ましく使用し得る。上記エマルション形態によれば、分子量が大きく主鎖が長い樹脂成分であっても、エマルション粒子として水系媒体に分散させることにより、容易に粘度や濃度を調節することができる。かかる樹脂成分は、塑性変形性に優れた塗膜を形成するのに適している。したがって、エマルション形態の樹脂(例えば熱硬化型樹脂)によると、上述した好ましい塑性指数比を示す(塑性指数比の高い)背面層が好適に実現され得る。
【0031】
紫外線硬化型樹脂の具体例としては、ポリエステル系、アクリル系、ウレタン系、アミド系、シリコーン系、エポキシ系等の各種の樹脂の、モノマー、オリゴマー、ポリマーおよびこれらの混合物が挙げられる。紫外線硬化性がよく高硬度の層を形成しやすいことから、紫外線重合性の官能基を一分子中に2個以上(より好ましくは3個以上、例えば3〜6個程度)有する多官能モノマーおよび/またはそのオリゴマーを含む紫外線硬化型樹脂を好ましく採用し得る。上記多官能モノマーとしては、多官能アクリレート、多官能メタアクリレート等のアクリル系モノマーを好ましく用いることができる。なお、基材層との密着性の観点からは、紫外線硬化型樹脂よりも熱硬化型樹脂を用いることが有利である。
【0032】
背面層の厚さは、例えば凡そ0.02μm〜1μmとすることができ、好ましくは凡そ0.05〜0.5μm(例えば0.05〜0.2μm)である。背面層の厚さが大きすぎると、該背面層に起因して着色やカール等の外観品位が低下しやすくなる場合がある。背面層の厚さが小さすぎると、所望の耐スクラッチ性を実現することが困難となる。なお、ここに開示される透明フィルムまたは表面フィルムを構成する層(例えば背面層)の厚さは、あらかじめ背面層に重金属染色を施した後に、その透明フィルムを断面方向に切削して面出しをしたサンプルを透過型電子顕微鏡(TEM)等により高分解能観察する手法で把握することができる。この手法は、厚さが凡そ0.01μm以上の層に対して好ましく適用され得る。さらに薄い層に対しては、各種の厚み検出装置(たとえば、表面粗さ計、干渉厚み計、赤外分光測定機、各種X線回折装置等)と、電子顕微鏡観察により把握される厚みとの相関につき、検量線を作成して計算を行うことにより、その凡その厚みを算出することができる。また、TEMを用いることにより、断面方向の層構成(積層構造における層数および各層の厚み)を観察できる場合もある。また、各層がいずれも凡そ0.1μm以上の厚みを有する場合には、干渉厚み計により層構成を調べることもできる。
【0033】
ここに開示される技術における背面層には、必要に応じて、滑剤(レベリング剤等)、帯電防止成分、架橋剤、酸化防止剤、着色剤(顔料、染料等)、流動性調整剤(チクソトロピー剤、増粘剤等)、造膜助剤、触媒(例えば、紫外線硬化型樹脂を含む組成における紫外線重合開始剤)、等の添加剤を含有させることができる。架橋剤としては、一般的な樹脂の架橋に用いられるイソシアネート系、エポキシ系、メラミン系等の架橋剤を適宜選択して用いることができる。基材層の表面に存在し得るヒドロキシル基と結合して密着性を向上させ得ることから、例えばイソシアネート系の架橋剤を好ましく採用し得る。特に、ヒドロキシル基が導入されるような表面処理(例えばコロナ処理)が施された基材層上に背面層を形成する場合には、イソシアネート系架橋剤の使用が効果的である。
上記背面層は、上記樹脂成分および必要に応じて使用される添加剤が適当な溶媒に分散または溶解した液状組成物を上記基材層に付与することを含む手法によって好適に形成され得る。例えば、上記液状組成物(背面層形成用組成物)を基材層に塗布して乾燥させ、必要に応じて硬化処理(熱処理、紫外線処理など)を行う手法を好ましく採用し得る。上記組成物の固形分は、例えば0.1〜10質量%程度とすることができ、通常は0.5〜5%程度とすることが適当である。固形分が高すぎると、薄く均一な背面層を形成し難くなる場合がある。
【0034】
上記背面層形成用組成物を構成する溶媒は、有機溶剤、水、またはこれらの混合溶媒であり得る。上記有機溶剤としては、例えば、メチルエチルケトン、アセトン、酢酸エチル、テトラヒドロフラン(THF)、ジオキサン、シクロヘキサノン、n−ヘキサン、トルエン、キシレン、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール等から選択される一種または二種以上を用いることができる。ここに開示される技術では、環境負荷軽減等の観点から、上記背面層形成用組成物を構成する溶媒が水系溶媒であることが好ましい。ここで「水系溶媒」とは、水、または水を主成分(50体積%以上を占める成分)とする混合溶媒をいう。かかる水系混合溶媒を構成する水以外の成分としては、親水性溶媒が好ましく用いられる。例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノール、n−アミルアルコール、イソアミルアルコール、sec−アミルアルコール、tert−アミルアルコール、1−エチル1−プロパノール、2−メチル1−ブタノール、n−ヘキサノール、シクロヘキサノール等のアルコール類から選択される一種または二種以上を好ましく採用することができる。
【0035】
背面層に滑剤を含有させる場合、その滑剤としては、一般的なフッ素系またはシリコーン系の滑剤を好ましく用いることができる。シリコーン系滑剤の使用が特に好ましい。シリコーン系滑剤の具体例としては、ポリジメチルシロキサン、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン、ポリメチルアルキルシロキサン等が挙げられる。アリール基やアラルキル基を有するフッ素化合物またはシリコーン化合物を含む滑剤(印字性のよい樹脂フィルムを与え得ることから、印字性滑剤と呼ばれることもある。)を用いてもよい。また、架橋性反応基を有するフッ素化合物またはシリコーン化合物を含む滑剤(反応性滑剤)を用いてもよい。
【0036】
滑剤の添加量は、背面層を構成する樹脂成分100質量部当たり凡そ25質量部以下(典型的には0.01〜25質量部)とすることができ、通常は凡そ15質量部以下(典型的には0.02〜15質量部)とすることが好ましく、例えば凡そ0.5〜15質量部とすることができ、凡そ1〜10質量部とすることがより好ましい。滑剤の添加量が多すぎると、印字性が不足しがちとなったり、背面層の光線透過性が低下傾向となったりすることがあり得る。
【0037】
このような滑剤は、背面層の表面にブリードして該表面に滑り性を付与し、これにより摩擦係数を低下させるものと推察される。したがって、滑剤の適切な使用により、摩擦係数の低下を通じて耐スクラッチ性を向上させることができる。上記滑剤は、背面層の表面張力を均一化し、厚さむらの低減や干渉縞の軽減にも寄与し得る。このことは、光学部材用の表面保護フィルムにおいて特に有意義である。また、背面層を構成する樹脂成分が紫外線硬化型樹脂である場合、これにフッ素系またはシリコーン系の滑剤を添加すると、背面層形成用組成物を基材に塗布して乾燥させる際に該滑剤が塗膜表面(空気との界面)にブリードし、これにより紫外線照射時に酸素による硬化阻害が抑制されて、背面層の最表面においても紫外線硬化型樹脂を十分に硬化させることができる。
【0038】
上記帯電防止成分は、透明フィルムまたは該フィルムを用いてなる表面保護フィルムの帯電を防止する作用を有する成分である。背面層に帯電防止成分を含有させる場合、その帯電防止成分としては、例えば、有機または無機の導電性物質、各種の帯電防止剤、等を用いることができる。なかでも有機導電性物質の使用が好ましい。かかる帯電防止成分を含有することにより帯電防止性が付与された背面層を備える透明フィルムは、液晶セルや半導体装置等のように静電気を嫌う物品の加工または搬送過程等において使用される表面保護フィルムとして好適である。
【0039】
上記有機導電性物質としては、各種の導電性ポリマーを好ましく用いることができる。かかる導電性ポリマーの例としては、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリエチレンイミン、アリルアミン系重合体等が挙げられる。このような導電性ポリマーは、一種を単独で使用してもよく、二種以上を組み合わせて使用してもよい。また、他の帯電防止成分(無機導電性物質、帯電防止剤等)と組み合わせて用いてもよい。有機導電性物質(典型的には導電性ポリマー)の使用量は、背面層を構成する樹脂成分100質量部に対して例えば0.2〜20質量部程度とすることができ、通常は1〜10質量部程度とすることが適当である。
【0040】
かかる導電性ポリマーとしては、水溶液または水分散液の形態のものを好ましく使用し得る。例えば、親水性官能基を有する導電性ポリマー(分子内に親水性官能基を有するモノマーを共重合させる等の手法により合成され得る。)を水に溶解または分散させることにより、該導電性ポリマーの水溶液または水分散液を調製することができる。上記親水性官能基としては、スルホ基、アミノ基、アミド基、イミノ基、ヒドロキシル基、メルカプト基、ヒドラジノ基、カルボキシル基、四級アンモニウム基、硫酸エステル基(−O−SO
3H)、リン酸エステル基(例えば−O−PO(OH)
2)等が例示される。かかる親水性官能基は塩を形成していてもよい。水溶液または水分散液形態のポリアニリンスルホン酸の市販品の例としては、三菱レイヨン社製の商品名「aqua−PASS」が挙げられる。また、水溶液または水分散液形態のポリチオフェンの市販品の例としては、ナガセケムテック社製の商品名「デナトロン」シリーズが挙げられる。
【0041】
ここに開示される技術において好ましく採用し得る導電性ポリマーとして、ポリアニリンおよびポリチオフェンが例示される。ポリアニリンとしては、ポリスチレン換算の重量平均分子量(以下、「Mw」と表記する。)が50×10
4以下であるものが好ましく、30×10
4以下がより好ましい。ポリチオフェンとしては、Mwが40×10
4以下であるものが好ましく、30×10
4以下がより好ましい。また、これら導電性ポリマーのMwは、通常は0.1×10
4以上であることが好ましく、より好ましくは0.5×10
4以上である。かかるMwを有する導電性ポリマーは、水溶液または水分散液の形態に調製しやすいという点からも好ましい。
【0042】
上記無機導電性物質としては、例えば、酸化錫、酸化アンチモン、酸化インジウム、酸化カドミウム、酸化チタン、酸化亜鉛、インジウム、錫、アンチモン、金、銀、銅、アルミニウム、ニッケル、クロム、チタン、鉄、コバルト、ヨウ化銅、およびそれらの合金または混合物からなる微粒子を用いることができる。ITO(酸化インジウム/酸化スズ)、ATO(酸化アンチモン/酸化スズ)等の微粒子を用いてもよい。該微粒子の平均粒子径は、通常、概ね0.1μm以下(典型的には0.01μm〜0.1μm)であることが好ましい。このような無機導電性物質(無機導電材)は、一種を単独で使用してもよく、二種以上を組み合わせて使用してもよい。また、他の帯電防止成分と組み合わせて用いてもよい。無機導電性物質の使用量は、背面層を構成する樹脂成分100質量部に対して例えば5〜500質量部程度とすることができ、通常は10〜500質量部(例えば100〜500質量部)程度とすることが適当である。
【0043】
上記帯電防止剤の例としては、カチオン型帯電防止剤、アニオン型帯電防止剤、両性イオン型帯電防止剤、ノニオン型帯電防止剤、上記カチオン型、アニオン型、両性イオン型のイオン導電性基を有する単量体を重合もしくは共重合して得られたイオン導電性重合体、等が挙げられる。このような帯電防止剤は、一種を単独で使用してもよく、二種以上を組み合わせて使用してもよい。また、他の帯電防止成分と組み合わせて用いてもよい。帯電防止剤の使用量は、背面層を構成する樹脂成分100質量部に対して例えば凡そ0.5〜50質量部とすることができ、通常は1〜30質量部とすることが適当である。
【0044】
カチオン型帯電防止剤の例としては、第4級アンモニウム塩、ピリジニウム塩、第1、第2または第3級アミノ基等のカチオン性官能基を有するものが挙げられる。より具体的には:アルキルトリメチルアンモニウム塩、アシロイルアミドプロピルトリメチルアンモニウムメトサルフェート、アルキルベンジルメチルアンモニウム塩、アシル塩化コリン、ポリジメチルアミノエチルメタクリレート等の4級アンモニウム基を有するアクリル系共重合体;ポリビニルベンジルトリメチルアンモニウムクロライド等の、4級アンモニウム基を有するスチレン共重合体;ポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド等の、4級アンモニウム基を有するジアリルアミン共重合体;等が例示される。
【0045】
アニオン型帯電防止剤の例としては、スルホン酸塩、硫酸エステル塩、ホスホン酸塩、リン酸エステル塩等のアニオン性官能基を有するものが挙げられる。より具体的には、アルキルスルホン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキル硫酸エステル塩、アルキルエトキシ硫酸エステル塩、アルキルリン酸エステル塩、スルホン酸基含有スチレン共重合体、等が例示される。
【0046】
両性イオン型帯電防止剤の例としては、アルキルベタインおよびその誘導体、イミダゾリンおよびその誘導体、アラニンおよびその誘導体が挙げられる。より具体的には、アルキルベタイン、アルキルイミダゾリウムベタイン、カルボベタイングラフト共重合体、等が例示される。
【0047】
ノニオン型帯電防止剤の例としては、アミノアルコールおよびその誘導体、グリセリンおよびその誘導体、ポリエチレングリコールおよびその誘導体が挙げられる。より具体的には、脂肪酸アルキロールアミド、ジ(2−ヒドロキシエチル)アルキルアミン、ポリオキシエチレンアルキルアミン、脂肪酸グリセリンエステル、ポリオキシエチレングリコール脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリエチレングリコール、ポリオキシエチレンジアミン、ポリエーテルとポリエステルとポリアミドからなる共重合体、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート等が例示される。
【0048】
なお、透明フィルムに帯電防止性を付与する方法としては、上述のように背面層に帯電防止成分を含有させる方法に代えて、あるいは該方法に加えて、基材層に帯電防止成分を含有させる方法、基材層の第一面および/または第二面に帯電防止層を設ける方法、等を採用することができる。
【0049】
基材層に帯電防止成分を含有させる方法は、例えば、帯電防止成分が配合された(練り込まれた)樹脂材料をフィルム状に成形して基材層を構成することにより好ましく行われ得る。かかる方法に使用する帯電防止成分としては、背面層に含有させる帯電防止成分として上記で例示した材料と同様のもの等を採用することができる。かかる帯電防止成分の配合量は、例えば、基材層の総質量に対して凡そ20質量%以下(典型的には0.05〜20質量%)とすることができ、通常は、0.05〜10質量%の範囲とすることが適当である。帯電防止成分の練り込み方法としては、基材層形成用の樹脂材料に該帯電防止剤を均一に混合できる方法であれば特に限定されず、例えば、加熱ロール、バンバリーミキサー、加圧ニーダー、二軸混練機等を用いて混練する方法が挙げられる。
【0050】
基材層の第一面(背面側、すなわち基材層と背面層との間)および/または第二面(粘着剤層側)に帯電防止層を設ける方法は、帯電防止成分と必要に応じて使用される樹脂成分とを含む帯電防止用コート剤を基材層(好ましくは、予め成形された樹脂フィルム)に塗布することにより好ましく行われ得る。帯電防止成分としては、背面層に含有させる帯電防止成分として上記で例示した材料と同様のもの等を採用することができる。導電性ポリマーまたは帯電防止剤の使用が好ましい。帯電防止用コート剤に用いられる樹脂成分としては、例えば、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ポリビニル樹脂、ウレタン樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂等の汎用樹脂を用いることができる。また、帯電防止用コート剤には、上記樹脂成分の架橋剤として、メチロール化あるいはアルキロール化したメラミン系、尿素系、グリオキザール系、アクリルアミド系等の化合物、エポキシ化合物、イソシアネート系化合物等を含有させてもよい。なお、高分子型の帯電防止成分(典型的には導電性ポリマー)の場合には、樹脂成分の使用を省略してもよい。
【0051】
帯電防止用コート剤を塗布する方法としては、公知の塗布方法を適宜用いることができる。具体例としては、ロールコート法、グラビアコート法、リバースコート法、ロールブラッシュ法、スプレーコート法、エアーナイフコート法、含浸法およびカーテンコート法が挙げられる。帯電防止層の厚みは、通常、凡そ0.01μm〜1μmとすることが適当であり、凡そ0.015μm〜0.1μm程度が好ましい。
【0052】
ここに開示される技術の好ましい一態様では、上記背面層が基材層の第一面上に直接設けられている。かかる構成の透明フィルムは、基材層と背面層との密着性に優れることから、上述した好ましい破壊開始荷重を満たすものとなりやすいので好ましい。したがって、基材層の表面に上記帯電防止層を設ける場合には、該帯電防止層を基材層の第二面のみに設けることが好ましい。
【0053】
ここに開示される表面保護フィルムを構成する粘着剤層としては、表面保護フィルムに適した性質(被着体表面に対する剥離力、非汚染性等)を備える粘着剤層を形成可能な粘着剤組成物を用いて好適に形成することができる。例えば、かかる粘着剤組成物を基材層に直接付与して乾燥または硬化させることで粘着剤層を形成する方法(直接法);剥離ライナーの表面(剥離面)に粘着剤組成物を付与して乾燥または硬化させることで該表面上に粘着剤層を形成し、この粘着剤層を基材層に貼り合わせて該粘着剤層を基材層に転写する方法(転写法);等を採用することができる。粘着剤層の投錨性の観点から、通常は上記直接法を好ましく採用し得る。粘着剤組成物の付与(典型的には塗布)に際しては、ロールコート法、グラビアコート法、リバースコート法、ロールブラッシュ法、スプレーコート法、エアーナイフコート法、ダイコーターによるコート法等の、粘着シートの分野において従来公知の各種方法を適宜採用することができる。特に限定するものではないが、粘着剤層の厚みは、例えば凡そ3μm〜100μm程度とすることができ、通常は凡そ5μm〜50μm程度が好ましい。なお、ここに開示される表面保護フィルムを得る方法としては、予め背面層が設けられた基材層(すなわち透明フィルム)に上記粘着剤層を形成する方法、および基材層上に粘着剤層を設けた後に背面層を形成する方法、のいずれも採用可能である。通常は、透明フィルムに粘着剤層を設ける方法が好ましい。
【0054】
ここに開示される表面保護フィルムは、必要に応じて、粘着面(粘着剤層のうち被着体に貼り付けられる側の面)を保護する目的で、該粘着面に剥離ライナーを貼り合わせた形態(剥離ライナー付き表面保護フィルムの形態)で提供され得る。剥離ライナーを構成する基材としては、紙、合成樹脂フィルム等を使用することができ、表面平滑性に優れる点から合成樹脂フィルムが好適に用いられる。例えば、基材層と同様の樹脂材料からなる樹脂フィルムを、剥離ライナーの基材として好ましく用いることができる。剥離ライナーの厚みは、例えば凡そ5μm〜200μmとすることができ、通常は凡そ10μm〜100μm程度が好ましい。剥離ライナーのうち粘着剤層に貼り合わされる面には、従来公知の離型剤(例えば、シリコーン系、フッ素系、長鎖アルキル系、脂肪酸アミド系等)あるいはシリカ粉等を用いて、離型または防汚処理が施されていてもよい。
【0055】
以下、本発明に関連するいくつかの実験例を説明するが、本発明をかかる具体例に示すものに限定することを意図したものではない。なお、以下の説明中の「部」および「%」は、特に断りがない限り質量基準である。また、以下の説明中の各特性は、それぞれ次のようにして測定または評価した。
【0056】
1.破壊開始荷重
破壊開始荷重の測定装置としては、CSM InstrumentsSA社製のナノスクラッチテスターを使用した。各表面保護フィルムサンプルの粘着面をスライドガラスに貼り付け、背面層を上向きにして、上記測定装置のステージに固定した。そして、23℃、50%RHの測定環境下、円錐型のダイヤモンド製圧子(先端の曲率半径 10μm)を備えたカンチレバーST−150を用いて、上記装置の連続荷重モードで、0〜300mNまで荷重(スクラッチ荷重)を増加させつつ一方向に擦過するスクラッチ試験を行った。
上記スクラッチ試験を実施したサンプルを、装置付属の光学顕微鏡(ニコン社製)を用いて、対物レンズ20倍でスクラッチ痕を表面観察した。そして、
図4に示すように、スクラッチ痕上において背面層がスクラッチ方向に2μmよりも長く剥離した最初の箇所を破壊開始点とし、その破壊開始点のスクラッチ方向に対する長さ(破壊長さ)の中心に対応するスクラッチ荷重を破壊開始荷重とした。
【0057】
2.摩擦係数
23℃、50%RHの測定環境下、上記ナノスクラッチテスターの定荷重モード(垂直荷重40mN±3mN)にて、上記同様にしてスライドガラスに貼り付けた各サンプルの表面(背面層側)を5mmの長さで擦過し、このときの摩擦係数の平均値を背面層の摩擦係数とした。なお、摩擦係数は、摩擦力と、サンプル表面に垂直な方向への荷重の比として算出される(すなわち、摩擦係数=摩擦力/荷重)。
【0058】
3.塑性指数
MTSシステムズ社製のナノインテンダー、型式「DCM SA2」を用いて塑性指数を評価した。すなわち、上記と同様にして各サンプルをスライトガラスに貼り付け、その背面層が上向きとなるようにステージ上に固定した。測定は、23℃、50%RHの測定環境下において、バーコピッチ(三角錐)型のダイヤモンド製圧子(先端の曲率半径 0.1μm)を用いて、最大深さ500nmまで垂直に押し込み、深さ10nm付近の押込み弾性率(Indentation Modulus)および硬度(Hardness)を測定した。そして、上記弾性率の測定値を硬度の測定値で除して塑性指数を算出した(すなわち、塑性指数=弾性率/硬度)。
【0059】
4.塑性指数比
上記3.により求めた各サンプル(基材上に背面層が設けられている。)の塑性指数Psを、当該サンプルを構成する基材(背面層を有しない基材)の塑性指数Pbで除して塑性指数比を算出した(すなわち、塑性指数比=Ps/Pb)。
【0060】
5.剥離力測定
各表面保護フィルムサンプルを幅70mm、長さ100mmのサイズにカットしたものを被着体とした。片面粘着テープ(日東電工社製No.31B)を幅19mm、長さ100mmのサイズにカットし、該粘着テープの粘着面を上記被着体の背面層上に、0.25MPaの圧力、0.3m/分の速度で圧着した。これを23℃、50%RHの環境下に30分間放置した後、同環境下で万能引張試験機を用いて上記被着体から上記粘着テープを剥離速度0.3m/分、剥離角度180度の条件で剥離し、このときの剥離力を測定した。
【0061】
6.耐スクラッチ性評価
上記同様にして各サンプルをスライドガラスに貼り付け、23℃、50%RHの測定環境下において、コイン(新品の10円玉を使用した。)を用いて精密天秤上で各サンプルを荷重300gで擦過した。そのスクラッチ痕を光学顕微鏡にて観察し、背面層の脱落屑の存在が確認された場合を×、該脱落屑の存在が確認されなかった場合を○評価とした。
【0062】
7.基材密着性
背面層形成用の組成物に少量の青色顔料を混ぜて各サンプルを作製した。23℃、50%RHの測定環境下において、それらのサンプルの背面層形成側表面に、縦横各1mmの間隔で10マス×10マス(合計100マス)の切りキズをつけ、その上から片面粘着テープ(日東電工社製No.31B、幅19mm)を上記剥離力測定と同条件で圧着した後、該片面粘着テープを手で剥離する碁盤目剥離試験を実施した。その碁盤目試験において、50マス以上の脱落が見られた場合を1点、脱落が11マス以上49マス以下の場合を2点、脱落が10マス以下の場合を3点評価とした。
【0063】
8.印字性(印字密着性)評価
23℃、50%RHの測定環境下で、シャチハタ社製Xスタンパーを用いて背面層上に印字を施した後、その印字の上からニチバン社製のセロハン粘着テープ(品番No.405、幅19mm)を貼り付け、次いで剥離速度30m/分、剥離角度180度の条件で剥離した。目視評価により、印字面積の50%以上が剥離された場合を×、印字面積の25%を超えて50%未満が剥離された場合を△、印字面積の75%以上が剥離されずに残った場合を○評価とした。
【0064】
9.白化、ムラ評価
白化評価:ヘイズメーター(村上色彩技術研究所製、型式「HM−150」)にて各サンプルのヘイズ値を測定し、ヘイズ値5以下を合格とした。
ムラ評価:明室にてサンプルの外観を目視評価し、スジなどの外観異常が認められない場合を合格とした。
上記白化、ムラの両評価ともに合格であったサンプルは白化・ムラを○とし、いずれか一方の評価が不合格であった場合は△、両方とも不合格であった場合は×評価とした。
【0065】
10.カール評価
各サンプルを100mm四方のサイズにカットし、40℃、90%RHの環境下に1日保管した。これを水平な平面上に背面層が上面になる向きで静置し、上記平面からサンプルの端部がカールして浮いた高さを計測した。最も大きく浮いた部分の高さ(最大浮き高さ)が3mm以下の場合を○、最大浮き高さが3mmを超える場合を×評価とした。
【0066】
<実験例1>
(サンプルA−1)
ウレタンアクリレート系紫外線硬化型樹脂(日本合成化学社製、商品名「紫光UV−1700B」;以下、「樹脂R1」と表記することもある。)と、ラジカル重合開始剤(チバガイギー社製、商品名「ダロキュア1173」)とを、固形分の質量比が100:4となるように混合し、トルエンを主成分とする溶媒に溶解して、固形分濃度30%のコート液B−1を調製した。
【0067】
基材としては、片面にコロナ処理が施された厚さ38μmの透明なポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(以下、「基材F1」と表記することもある。)を使用した。この基材F1の片面(コロナ処理面)に上記コート液B−1を、乾燥後の厚みが8μm(TEM観察による。以下同じ。)となるように塗布し、紫外線を照射する硬化処理を行って背面層を形成した。上記紫外線の照射は、メタルハライドランプを用いて450mJ/cm
2の条件で行った。このようにして、基材F1の片面(コロナ処理面)に背面層が設けられた透明フィルムC−1を得た。
【0068】
PETフィルムの片面にシリコーン系剥離処理剤による剥離処理が施された離型シートを用意し、該離型シートの剥離面(剥離処理が施された面)上に厚さ25μmのアクリル系粘着剤層を形成した。その粘着剤層を透明フィルムC−1の他方の面(背面層が設けられていない面)に転写して、表面保護フィルムサンプルA−1を作製した。このサンプルA−1の塑性指数を上記方法により求めたところ、22.6であった(弾性率6.6GPa、硬度0.29GPa)。なお、ここで使用したPETフィルムの塑性指数Pbは13.6(弾性率4.8GPa、硬度0.35GPa)であった。また、上記PETフィルムの屈折率は1.63であり、光線透過率は89%であった。
【0069】
(サンプルA−2)
コート液B−1を上記溶媒でさらに希釈して、固形分濃度1%のコート液B−2を調製した。このコート液B−2を乾燥後の厚みが0.1μmとなるように塗布した点以外はサンプルA−1の作製と同様にして透明フィルムC−2を得、同様に粘着剤層を転写して表面保護フィルムサンプルA−2を作製した。このサンプルA−2の塑性指数は14.4であった(弾性率4.8GPa、硬度0.33GPa)。
【0070】
(サンプルA−3)
樹脂R1の固形分100部当たり5部(固形分換算)の滑剤を配合した点以外はコート液B−2の調製と同様にして、コート液B−3を調製した。ここで、滑剤としては、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン系レベリング剤(BYK Chemie社製、商品名「BYK−333」;以下、「滑剤L1」と標記することもある。)を使用した。このコート液B−3を乾燥後の厚みが0.1μmとなるように塗布した点以外はサンプルA−1の作製と同様にして透明フィルムC−3を得、同様に粘着剤層を転写して表面保護フィルムサンプルA−3を作製した。このサンプルA−3の塑性指数は13.2であった(弾性率4.4GPa、硬度0.34GPa)。
【0071】
以上のサンプルにつき、背面層の概略構成を表1に、上述した各種測定および評価の結果を表2に示す。
【0074】
これらの表に示されるように、背面層が8μmの厚さを有するサンプルA−1は良好な耐スクラッチ性を示したが、同じ組成で背面層の厚さを0.1μmとしたサンプルA−2では耐スクラッチ性が不十分であった。これは、背面層の厚みが小さい構成では、基材層に比べて背面層の硬度が高すぎる(したがって塑性指数比が小さすぎる)と、外力(摩擦力)を受けたときに基材層の変形に追従できないことにより破損しやすくなるためと考えられる。また、サンプルA−1に比べてA−2の摩擦係数が高くなっているのは、摩擦係数の測定において背面層の破損に係る荷重が検出されたためと推察される。滑剤5部を配合したサンプルA−3では、A−2に比べて摩擦係数の低下および破壊開始荷重の向上はみられたものの、所望の耐スクラッチ性を実現するには至らなかった。また、滑剤の配合量を増すと白化・ムラが著しくなるため、5部以上の配合は不適当と判断した。
【0075】
<実験例2>
(サンプルA−4)
水分散型のポリウレタン系熱硬化型樹脂(日本ポリウレタン社製、商品名「タケラック WS−4100」;以下、「樹脂R2」と表記することもある。)を蒸留水で希釈して、固形分濃度20%のコート液B−4を調製した。このコート液B−4を基材F1の片面(コロナ処理面)に、乾燥後の厚さが8μmとなるように塗布して熱硬化処理することにより、基材F1の片面に背面層が設けられた透明フィルムC−4を得た。この透明フィルムC−4の他方の面に、上記と同様に粘着剤層を転写して、表面保護フィルムサンプルA−4を作製した。このサンプルA−4の塑性指数は21.8であった(弾性率3.4GPa、硬度0.16GPa)。
【0076】
(サンプルA−5)
コート液B−4を蒸留水でさらに希釈して、固形分濃度1%のコート液B−5を調製した。このコート液B−5を乾燥後の厚みが0.1μmとなるように塗布した点以外はサンプルA−4の作製と同様にして透明フィルムC−5を得、同様に粘着剤層を転写して表面保護フィルムサンプルA−5を作製した。塑性指数は17.6であった(弾性率4.9GPa、硬度0.28GPa)。
【0077】
(サンプルA−6)
樹脂R2の固形分100部当たり5部(固形分換算)の滑剤L1を配合した点以外はコート液B−5の調製と同様にして、コート液B−6を調製した。このコート液B−6を乾燥後の厚みが0.1μmとなるように塗布した点以外はサンプルA−4の作製と同様にして透明フィルムC−6を得、同様に粘着剤層を転写して表面保護フィルムサンプルA−6を作製した。塑性指数は29.5であった(弾性率2.5GPa、硬度0.09GPa)。
【0078】
(サンプルA−7)
滑剤L1の配合量を樹脂R2の固形分100部当たり10部(固形分換算)とした点以外はサンプルA−6の作製と同様にして透明フィルムC−7を得、同様に粘着剤層を転写して表面保護フィルムサンプルA−7を作製した。塑性指数は37.7であった(弾性率2.1GPa、硬度0.05GPa)。
【0079】
(サンプルA−8)
水分散型のアクリル−スチレン系熱硬化型樹脂(DIC社製、商品名「ボンコート(VONCOAT)CG−8490」;以下、「樹脂R3」と表記することもある。)を蒸留水で希釈して、固形分濃度3%のコート液B−8を調製した。このコート液B−8を基材F1の片面(コロナ処理面)に、乾燥後の厚さが0.1μmとなるように塗布して熱硬化処理することにより、基材F1の片面に背面層が設けられた透明フィルムC−8を得た。この透明フィルムC−8の他方の面に、上記と同様に粘着剤層を転写して、表面保護フィルムサンプルA−8を作製した。このサンプルA−8の塑性指数は361.7であった(弾性率3.61GPa、硬度0.01GPa)。
【0080】
(サンプルA−9)
樹脂R3と、滑剤L1と、帯電防止成分としての導電性ポリマー(三菱レイヨン社製、重量平均分子量約15×10
4のポリアニリンスルホン酸の水分散液、商品名「aqua−PASS」;以下、「AS1」と表記することもある。)とを、固形分の質量比が100:2:6となるように混合し、蒸留水で希釈して、固形分濃度3%のコート液B−9を調製した。このコート液B−9を乾燥後の厚さが0.1μmとなるように塗布した点以外はサンプルA−8の作製と同様にして透明フィルムC−9を得、同様に粘着剤層を転写して表面保護フィルムサンプルA−9を作製した。このサンプルA−9の塑性指数は298であった(弾性率2.7GPa、硬度0.009GPa)。
【0081】
(サンプルA−10)
樹脂R3と、滑剤L1と、帯電防止成分としての導電性フィラー(多木化学社製の酸化スズゾル、商品名「セラメース S−8」;以下、「AS2」と表記することもある。)とを、固形分の質量比が100:2:300となるように混合し、蒸留水で希釈して、固形分濃度3%のコート液B−10を調製した。このコート液B−10を乾燥後の厚みが0.1μmとなるように塗布した点以外はサンプルA−8の作製と同様にして透明フィルムC−10を得、同様に粘着剤層を転写して表面保護フィルムサンプルA−10を作製した。塑性指数は15.4であった(弾性率6.1GPa、硬度0.40GPa)。
【0082】
これらのサンプルにつき、背面層の概略構成を表3に、上述した各種測定および評価の結果を表4に示す。
【0085】
これらの表に示されるように、A−5の背面層組成に滑剤を配合することで摩擦係数を0.4以下に調整し、且つ塑性指数比が2以上のサンプルA−6,A−7によると、0.1μmという薄い背面層でありながら、50mN以上という高い破壊開始荷重が達成され、優れた耐スクラッチ性が実現された。また、A−6,A−7とは背面層の樹脂組成が異なるサンプルA−9においても、同様に0.4以下の摩擦係数および2以上の塑性指数比を示すことにより、高い破壊開始荷重および優れた耐スクラッチ性が実現された。これらのサンプルA−6,7,9は、いずれも3〜6N/19mmという適度な剥離力を有し、良好な基材密着性および印字性を示した。さらに、白化・ムラは認められず、カールの程度も少なかった。塑性指数比が10〜50(より具体的には20〜50)の範囲にあるサンプルA−9は、特に良好な基材密着性を示すものであった。
【0086】
一方、サンプルA−6から滑剤を省いたサンプルA−5は、おそらく塑性指数比が小さすぎること等により、摩擦係数が高く破壊開始荷重は低く、耐スクラッチ性に欠けるものであった。このサンプルA−5に係る背面層組成では、厚みの大きいサンプルA−4においても耐スクラッチ性が不足していた。また、サンプルA−9とは帯電防止成分の種類を異ならせたサンプルA−10では、おそらく塑性指数比が小さすぎること等により、摩擦係数が高く破壊開始荷重は低く、耐スクラッチ性に欠けるものであった。