特許第5721836号(P5721836)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ フェデラル−モーグル ヴィースバーデン ゲーエムベーハーの特許一覧

特許5721836摺動構成部品用層状複合材料、その製造方法及びその使用
<>
  • 特許5721836-摺動構成部品用層状複合材料、その製造方法及びその使用 図000002
  • 特許5721836-摺動構成部品用層状複合材料、その製造方法及びその使用 図000003
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5721836
(24)【登録日】2015年4月3日
(45)【発行日】2015年5月20日
(54)【発明の名称】摺動構成部品用層状複合材料、その製造方法及びその使用
(51)【国際特許分類】
   C22C 32/00 20060101AFI20150430BHJP
   F16C 33/12 20060101ALI20150430BHJP
   F16C 33/10 20060101ALI20150430BHJP
   F16C 33/16 20060101ALI20150430BHJP
   F16C 33/24 20060101ALI20150430BHJP
   F16C 33/14 20060101ALI20150430BHJP
   F16C 9/02 20060101ALI20150430BHJP
   F16C 9/04 20060101ALI20150430BHJP
   F16C 17/00 20060101ALI20150430BHJP
   C22C 13/00 20060101ALI20150430BHJP
   C25D 7/10 20060101ALI20150430BHJP
   C25D 15/02 20060101ALI20150430BHJP
【FI】
   C22C32/00 G
   F16C33/12 A
   F16C33/10 D
   F16C33/16
   F16C33/24 A
   F16C33/14 Z
   F16C9/02
   F16C9/04
   F16C17/00 Z
   C22C13/00
   C25D7/10
   C25D15/02 J
【請求項の数】11
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2013-527505(P2013-527505)
(86)(22)【出願日】2011年5月27日
(65)【公表番号】特表2014-500394(P2014-500394A)
(43)【公表日】2014年1月9日
(86)【国際出願番号】EP2011058762
(87)【国際公開番号】WO2012031792
(87)【国際公開日】20120315
【審査請求日】2013年11月29日
(31)【優先権主張番号】102010040469.1
(32)【優先日】2010年9月9日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】510010436
【氏名又は名称】フェデラル−モーグル ヴィースバーデン ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】FEDERAL−MOGUL WIESBADEN GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】100110423
【弁理士】
【氏名又は名称】曾我 道治
(74)【代理人】
【識別番号】100111648
【弁理士】
【氏名又は名称】梶並 順
(74)【代理人】
【識別番号】100122437
【弁理士】
【氏名又は名称】大宅 一宏
(74)【代理人】
【識別番号】100161115
【弁理士】
【氏名又は名称】飯野 智史
(72)【発明者】
【氏名】シュタシュコ、クラウス
(72)【発明者】
【氏名】マゴマジュー、ユリー
【審査官】 田中 永一
(56)【参考文献】
【文献】 特開平07−252693(JP,A)
【文献】 特開2000−145751(JP,A)
【文献】 特開平09−071899(JP,A)
【文献】 特表平11−510859(JP,A)
【文献】 特開2000−064085(JP,A)
【文献】 特表2002−538265(JP,A)
【文献】 特開2007−84401(JP,A)
【文献】 特表2011−522933(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 32/00
C22C 13/00
C25D 7/10
C25D 15/02
F16C 33/00 − 33/24
F16C 9/02
F16C 9/04
F16C 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
摺動構成部品の表面に設けられ、銅又はアルミニウムを含有する合金で作られる基層と、前記基層上に配置される摺動層とを備える摺動構成部品用層状複合材料であって、前記摺動層が、錫又は錫比率が60重量%より大きい錫合金90重量%〜99.6重量%と、3以下のモース硬度及び10μm以下の粒径を有する固体潤滑剤粒子0.2重量%〜6重量%とを含み、前記固体潤滑剤粒子が、硫化錫(IV)粒子とグラファイト粒子との組合せ又は硫化錫(IV)粒子と硫化モリブデン(IV)粒子との組合せであることを特徴とする摺動構成部品用層状複合材料。
【請求項2】
前記摺動層が、8以上のモース硬度及び5μm以下の粒径を有する硬質材料粒子0.2重量%〜4重量%を更に含有することを特徴とする請求項1に記載の層状複合材料。
【請求項3】
前記摺動層が、錫又は60重量%より大きい錫比率を有する錫合金90重量%〜99.6重量%と、3以下のモース硬度及び10μm以下の粒径を有する固体潤滑剤粒子0.2重量%〜6重量%とからなることを特徴とする請求項に記載の層状複合材料。
【請求項4】
前記摺動層が、錫又は60重量%より大きい錫比率を有する錫合金90重量%〜99.6重量%と、3以下のモース硬度及び10μm以下の粒径を有する固体潤滑剤粒子0.2重量%〜6重量%と、8以上のモース硬度及び5μm以下の粒径を有する硬質材料粒子0.2重量%〜4重量%とからなることを特徴とする請求項2に記載の層状複合材料。
【請求項5】
前記硬質材料粒子が、炭化タングステン、炭化クロム、酸化アルミニウム、炭化ケイ素、窒化ケイ素、立方晶窒化ホウ素、炭化ホウ素及びダイヤモンドからなる群から選択されることを特徴とする請求項2又はに記載の層状複合材料。
【請求項6】
金属製の拡散抑制層が基層と摺動層との間に存在し、及び/又は金属製の慣らし層が前記摺動層に更に設けられることを特徴とする請求項1〜のいずれか一項に記載の層状複合材料。
【請求項7】
請求項1又は3に記載の摺動構成部品用層状複合材料を製造する方法であって、
(a)前記摺動構成部品の表面に設けられ、銅又はアルミニウムを含有する合金で作られる基層備える摺動構成部品を、錫イオンと、3以下のモース硬度及び10μm以下の粒径を有する固体潤滑剤粒子とを含有し且つ3以下のpHを有する水性電解質中に投入する工程であって、前記固体潤滑剤粒子が、硫化錫(IV)粒子とグラファイト粒子との組合せ又は硫化錫(IV)粒子と硫化モリブデン(IV)粒子との組合せである工程と、
(b)20℃〜60℃の前記電解質の温度及び0.5A/dm〜20A/dmの電流密度で前記摺動層を電着させる工程と
を含む方法。
【請求項8】
請求項2、4又は5に記載の摺動構成部品用層状複合材料を製造する方法であって、
(a)前記摺動構成部品の表面に設けられ、銅又はアルミニウムを含有する合金で作られる基層を備える摺動構成部品を、錫イオンと、3以下のモース硬度及び10μm以下の粒径を有する固体潤滑剤粒子と、8以上のモース硬度及び5μm以下の粒径を有する硬質材料粒子とを含有し且つ3以下のpHを有する水性電解質中に投入する工程であって、前記固体潤滑剤粒子が、硫化錫(IV)粒子とグラファイト粒子との組合せ又は硫化錫(IV)粒子と硫化モリブデン(IV)粒子との組合せである工程と、
(b)20℃〜60℃の前記電解質の温度及び0.5A/dm〜20A/dmの電流密度で前記摺動層を電着させる工程と
を含む方法。
【請求項9】
前記電解質が、アルキルスルホン酸と、アルキルアリールエーテルと、エーテルスルフェートとを少なくとも含有することを特徴とする請求項7又は8に記載の方法。
【請求項10】
摺動軸受のための請求項1〜のいずれか一項に記載の層状複合材料の使用。
【請求項11】
クランク軸受、カム軸受又はコンロッド軸受のための請求項1〜6のいずれか一項に記載の層状複合材料の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摺動構成部品の表面に設けられ、銅又はアルミニウムを含有する合金で作られる基層と、前記基層上に配置される摺動層とを備える摺動構成部品用層状複合材料であって、前記摺動層が、錫又は錫比率が60重量%より大きい錫合金90重量%〜99.6重量%と、3以下のモース硬度及び10μm以下の粒径を有する固体潤滑剤粒子0.2重量%〜6重量%とを含む摺動構成部品用層状複合材料、特に摺動軸受用層状複合材料に関する。更に、本発明は、この層状複合材料を製造する方法及びその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
摩擦という形の機械的応力に曝される摺動構成部品、例えば燃焼機関用の摺動軸受は、良好な摺動特性、十分な硬度、小さい焼付き傾向及び十分な耐摩耗性、並びに高い耐食性を有していなければならない。このため、摺動構成部品、特にそれらの摺動面に、金属又は金属合金で作られる摺動コーティングが設けられていることがある。これらのコーティングは、一方では十分な延性を有し、また特に負荷のかかった高温で小さい脆化傾向を示すものであり、他方ではその負荷に耐えるために大きい内部強度を有していなければならない。
【0003】
特許文献1には、電気めっきされた摺動層が銅含有量に関係なく比較的高い温度でも脆化を示さない層状複合材料が記載されており、この層状複合材料は、8重量%〜30重量%の銅と、60重量%〜97重量%の錫と、0.5重量%〜10重量%のコバルトとを有する摺動層を有する。
【0004】
特許文献2には、摺動層が錫と銅とを含有する鉛不含合金よりなる、摺動軸受用の層状複合材料が記載されており、銅の割合は3重量%〜20重量%であり、錫比率は70重量%〜97重量%である。この摺動層の耐摩耗性を改善させるために、酸化アルミニウム、窒化ケイ素、ダイヤモンド、二酸化チタン及び/又は炭化ケイ素で作られる硬質材料粒子を摺動層に組み込むことが提案されている。
【0005】
特許文献3には、摺動構成部品の表面に設けられ、銅合金又はアルミニウム合金で作られる基層と、基層に直接設けられる摺動層とを備え、摺動層が、銅又は銅合金85体積%〜99.5体積%と、2以下のモース硬度及び10μm以下の粒径を有する固体潤滑剤粒子0.5体積%〜15体積%とを含み、且つ9以上のモース硬度を有する硬質材料粒子を含有しないことを特徴とする摺動構成部品用層状複合材料が記載されている。
【0006】
上記の層状複合材料を用いて、高い耐荷重性及び耐摩耗性を有する摺動軸受を作製することができる。しかしながら、これらの層状複合材料の摺動特性には依然として改善が必要とされる。
【0007】
原理上、錫又は錫合金で作られる摺動層は、それらのより小さい硬度及びより大きい延性のために極めて良好な摺動特性を有するとして、銅及び銅合金で作られる摺動層を超える利点を有する。他方で、錫又は錫合金で作られる摺動層の強度は、幾つかの用途にとっては不十分なものである。更には、硬質材料粒子を組み込むという特許文献2に提案されている解決策により或る特定の摺動層の耐摩耗性は増大させることができるものの、摺動特性及び強度には依然として改善が必要とされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】独国特許出願公開第19754221号
【特許文献2】独国特許出願公開第19728777号
【特許文献3】独国特許第102009019601号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって、本発明の課題は、優れた摺動特性を有すると同時に、大きい強度及び硬度、並びに良好な耐食性及び小さい焼付き傾向を有する摺動構成部品用層状複合材料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によれば、本課題は、摺動構成部品の表面に設けられ、銅又はアルミニウムを含有する合金で作られる基層と、前記基層上に配置される摺動層とを備える摺動構成部品用層状複合材料であって、前記摺動層が、錫又は錫比率が60重量%より大きい錫合金90重量%〜99.6重量%と、3以下のモース硬度及び10μm以下の粒径を有する固体潤滑剤粒子0.2重量%〜6重量%とを含む摺動構成部品用層状複合材料によって達成される。
【0011】
本課題は更に、摺動構成部品用層状複合材料を製造する方法であって、
(a)摺動構成部品の表面に設けられ、銅又はアルミニウムを含有する合金で作られる基層と、任意に、前記基層上に配置される金属製の拡散抑制層とを備える摺動構成部品を、錫イオンと、3以下のモース硬度及び10μm以下の粒径を有する固体潤滑剤粒子と、任意に、8以上のモース硬度及び5μm以下の粒径を有する硬質材料粒子とを含有する水性電解質中に投入する工程と、
(b)錫又は錫比率が60重量%より大きい錫合金90重量%〜99.6重量%と、0.3以下のモース硬度及び10μm以下の粒径を有する固体潤滑剤粒子2重量%〜6重量%と、任意に、8以上のモース硬度及び5μm以下の粒径を有する硬質材料粒子0.2重量%〜4重量%とを含む摺動層を電着させる工程と
を含む摺動構成部品用層状複合材料の製造方法によって達成される。
【0012】
錫で作られる摺動層の硬度が銅で作られる摺動層に比べより小さいため、錫で作られる摺動層は、例えば小さい硬度を有する固体潤滑剤粒子による摺動特性のための更なる助けを必要としないと考えられていた。しかしながら、驚くべきことに、本発明の枠組み内では、錫又は錫比率が60重量%より大きい錫合金で作られる摺動層に、固体潤滑剤粒子を組み込むことによって錫層の硬度及び強度を増大させることができ、加えて、摺動性能が改善されることが見出された。この強度の驚くべき増大は、錫層の良好な摺動特性を、摺動層の強度の増大が必要とされる用途に有用なものとすることを可能にする。加えて、本発明による層状複合材料は、高い耐食性、大きい硬度及び小さい焼付き傾向を有する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】最下部に銅−ニッケル−シリコン合金で作られる基層、その上にニッケル層、その上に、SnS粒子を含む、錫で作られる摺動層を見ることができる本発明による層状複合材料の光学顕微鏡像を示す図である。
図2】左側に銅−ニッケル−シリコン合金で作られる基層、その隣、右側に、基層上に配置され、グラファイトとSnS粒子とを含む錫で作られる摺動層を見ることができる本発明による層状複合材料の走査型電子顕微鏡像を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
摺動構成部品とは、本発明の意味において、対向面(Gegenflaeche)との摺動接触のための摺動面を有する部材を意味する。本発明により好まれる摺動構成部品は、摺動軸受、ブシュ、シリンダ、ピストン、ピン、シール、バルブ及び圧力シリンダである。本発明により特に好まれる摺動構成部品は、摺動軸受、特に燃焼機関用の摺動軸受、例えばクランク軸受、カム軸受又はコンロッド軸受である。
【0015】
通例、摺動軸受は、以下の層構造、すなわち、鋼(摺動軸受の材料)で作られる支持体、基層又は軸受金属層(いわゆる基体)と、任意に、障壁層又は拡散抑制層と、金属又は金属合金で作られる摺動層とを有する。軸受金属層は、例えば、銅合金層、特に焼結銅合金層又は鋳造銅合金層とすることができる。摺動層は例えば電気めっきされていてもよい。
【0016】
極めて良好な摺動特性のために、本発明による層状複合材料は、例えば自動スタートストップシステムを備える最新の自動車において不十分な潤滑が生じるおそれがある燃焼機関内の摺動軸受に特に適したものである。かかる不十分な潤滑は、短距離にわたって燃焼機関を動作させる場合に、軸受及び潤滑剤がまだ冷えているときに燃焼機関のスイッチが切られることが多いために生じる。
【0017】
本発明による層状複合材料の基層は、銅又はアルミニウムを含有する合金からなる。好ましい合金は、銅−アルミニウム、銅−アルミニウム−鉄、銅−亜鉛−アルミニウム、銅−錫、銅−亜鉛、銅−亜鉛−シリコン、銅−ニッケル−シリコン、銅−錫−ニッケル、アルミニウム−錫、アルミニウム−亜鉛及びアルミニウム−シリコンの合金である。基層の層厚は、好ましくは300μm〜600μmである。基層は、鋳造されるか、又は化学的若しくは電気的(電気化学的)に設けられるものであってもよい。
【0018】
電気化学的に設けられる本発明による層状複合材料の摺動層は、いずれの場合にも摺動層の総質量に対して、錫又は錫比率が60重量%より大きい錫合金90.0重量%〜99.6重量%と、固体潤滑剤粒子0.2重量%〜6重量%とを含む。摺動層は、好ましくは、錫又は錫比率が60重量%より大きい錫合金91重量%〜99.3重量%と、固体潤滑剤粒子0.5重量%〜5重量%とを含み、錫又は錫比率が60重量%より大きい錫合金93重量%〜99.0重量%と、固体潤滑剤粒子0.8重量%〜3重量%とが特に好ましい。もしあれば残余部分は、中でも、以下でより詳細に説明される硬質材料粒子によって形成することができる。これらの重量割合は、本発明による層状複合材料の強度と摺動性能との良好なバランスに特に有益であることが分かった。
【0019】
特に好ましい実施形態では、摺動層が錫を含む。更には、錫合金を使用する場合、これらのうち、80重量%より大きい、特に95重量%より大きい錫の重量割合を有する錫合金が好ましい。好適な錫合金は、特に、錫−ニッケル、錫−アンチモン、錫−ビスマス、錫−鉄、錫−鉛、錫−亜鉛及び錫−銀の合金である。更に好ましくは摺動層は錫−銅合金を含まない。
【0020】
最も好ましくは、本発明による層状複合材料の摺動層は、錫又は錫比率が60重量%より大きい錫合金と、固体潤滑剤粒子及び任意の硬質材料粒子(いずれの場合にも上述の固体潤滑剤粒子及び任意の硬質材料粒子の量及びサイズを有する)とからなる。このため、一実施形態では、本発明による層状複合材料の摺動層が、錫又は錫比率が60重量%より大きい錫合金94重量%〜99.8重量%と、3以下のモース硬度及び10μm以下の粒径を有する固体潤滑剤粒子0.2重量%〜6重量%とからなっていてもよく、別の実施形態では、摺動層が、錫又は錫比率が60重量%より大きい錫合金90重量%〜99.6重量%と、3以下のモース硬度及び10μm以下の粒径を有する固体潤滑剤粒子0.2重量%〜6重量%と、8以上のモース硬度及び5μm以下の粒径を有する硬質材料粒子0.2重量%〜4重量%とからなっていてもよい。
【0021】
摺動層中に含まれる固体潤滑剤粒子は、滑動動作において滑動するパートナー間に、潤滑効果、したがって摺動特性を改善させる効果を生じさせる粒子であり、このため、中でも、小さい硬度の粒子が必要とされる。原理上、およそ3までのモース硬度値に準じる硬度を有する粒子が好適である。したがって、本発明による摺動層は、3以下のモース硬度を有する固体潤滑剤粒子、いわゆる軟質粒子を含有する。摺動層は好ましくは2以下のモース硬度を有する固体潤滑剤粒子を含有する。
【0022】
モース硬度は、別の材料に対する在る1つの材料の耐引っ掻き性により硬度を求める、従来技術で既知のモース硬度値に準じる硬度試験に従って求められる。滑石が硬度1を有し、石膏が硬度2を有し、方解石が硬度3を有し、蛍石が硬度4を有し、燐灰石が硬度5を有し、長石が硬度6を有し、石英が硬度7を有し、トパーズが硬度8を有し、コランダムが硬度9を有し、ダイヤモンドが硬度10を有するモース硬度基準が、この耐引っ掻き性又は引っ掻き硬度により確立されている。試験材料をモース硬度基準材料によって引っ掻くことができなければ、その硬度は基準材料の硬度よりも大きいか又はそれに等しい。試験材料を基準材料によって引っ掻くことができれば、それはより小さい硬度を有する。試験材料がモース硬度基準の列挙した材料の1つを引っ掻かくことなく、またそれによって試験材料を引っ掻くことができなければ、同じ硬度がある。試験材料が基準材料を引っ掻き、当該基準材料によってそれ自体は引っ掻かれないものの、次に高い基準材料によって引っ掻かれる場合、試験材料の硬度は、これら2つの基準材料の硬度の間にあり、これは少数部分5により示される。
【0023】
グラファイト、金属硫化物、六方晶窒化ホウ素、ポリマー及びそれらの混合物が固体潤滑剤粒子として好ましい。これらの材料は、層状複合材料の摺動特性と同時の大きい硬度及び耐荷重性に関して、本発明による摺動層に特に適していることが分かった。
【0024】
好ましい金属硫化物は、硫化鉄、硫化コバルト、硫化銅、銅鉄硫化物、硫化マンガン、硫化モリブデン、硫化銀、硫化ビスマス、硫化タングステン、硫化錫及び/又は硫化亜鉛である。指定の金属硫化物は、一硫化物及び二硫化物、規定される酸化状態の金属及び個別の酸化状態の金属の混合物の硫化物、例えば、硫化鉄(FeS(硫化鉄(II))及び/又はFeS(二硫化鉄(II)))、硫化コバルト(CoS及び/又はCoS(二硫化コバルト))、硫化銅(CuS(硫化銅(II))及び/又はCuS(硫化銅(I)))、銅鉄硫化物(CuFeS)、硫化マンガン(MnS)、硫化モリブデン(硫化モリブデン(II)(MoS)及び/又は硫化モリブデン(IV)(MoS))、硫化銀(AgS)、硫化ビスマス(Bi)、硫化タングステン(硫化タングステン(IV)(WS))、硫化錫(SnS(硫化錫(II))、SnS(二硫化錫(II))及び/又はSn(SnSとSnSとで作られる混合硫化錫))、並びに硫化亜鉛(ZnS)を意味する。特に、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリ塩化ビニル、ポリプロピレン、ポリエチレン及び類似のポリマーで作られる粒子がポリマー粒子として好適である。
【0025】
特に好ましい実施形態では、本発明による層状複合材料の摺動層が、固体潤滑剤粒子として、硫化錫(IV)(SnS)粒子、グラファイト粒子及び/又は硫化モリブデン(IV)(MoS)粒子、特に、硫化錫(IV)粒子とグラファイト粒子との組合せ、硫化錫(IV)粒子と硫化モリブデン(IV)粒子との組合せ、又はグラファイト粒子と硫化モリブデン(IV)粒子との組合せを含有する。
【0026】
優れた摺動特性を得ることができるとともに、摺動層の強度が大きいままであるため、固体潤滑剤粒子の粒径は、最大10μm、好ましくは最大8μm、特に0.1μm〜6μmである。
【0027】
摺動層は、好ましくは、2μm〜18μm、特に3μm〜13μmの層厚を有する。これらの厚みであれば、粒子を含有する摺動層の極めて良好な構造強度を実現することができる。
【0028】
更に好ましい実施形態では、摺動層の耐摩耗性を更に改善することができるため、本発明による層状複合材料の摺動層が、8以上、特に9以上のモース硬度を有し、5μm以下の粒径を有する硬質材料粒子を更に含有する。好ましくは、硬質材料粒子の割合は、0.2重量%〜4重量%、好ましくは0.3重量%〜3.5重量%、特に0.4重量%〜3重量%である。摺動層の強度の改善を維持する、固体潤滑剤粒子及び指定の粒径と併せて、これらの量で耐摩耗性と摺動性能との最適なバランスを実現することができる。好ましくは、炭化タングステン、炭化クロム、酸化アルミニウム、炭化ケイ素、窒化ケイ素、立方晶窒化ホウ素、炭化ホウ素及び/又はダイヤモンドを硬質材料粒子として使用する。
【0029】
硬質材料粒子の粒径は、好ましくは、0.1μm〜5μmの範囲内、特に0.2μm〜3μmの範囲内にある。ダイヤモンド、及びこれらのうち更に0.2μm〜0.5μmの範囲内のサイズを有するものが固体粒子として特に好適である。更に、およそ0.2μm〜5μmの範囲内の粒径を有する酸化アルミニウム粒子が好ましい。包埋されるダイヤモンド粒子は、単結晶ダイヤモンド及び/又は多結晶ダイヤモンドから形成されることができる。固体潤滑剤粒子及び硬質材料粒子はいずれの場合にも、互いに独立して、様々なタイプの材料を組み合わせた粒子の混合物であってもよい。
【0030】
本発明による層状複合材料の摺動層は、基層に直接施すことができ、その結果、基層と摺動層との間に更なる層が存在しないか、又は好ましくはコバルト、ニッケル、錫−ニッケル合金又はニッケル層と錫−ニッケル合金層との組合せで作られる少なくとも1つの金属製の拡散抑制層が、基層と摺動層との間にあってもよい。拡散抑制層は、特にこのようにコーティングされた摺動構成部品を温度上昇下で動作させる場合に、基層と摺動層との間の金属原子の拡散を制限するものであり、こうして層状複合材料の特性変化を防止するものである。
【0031】
別の金属層を、摺動構成部品の慣らしを容易なものとする慣らし層(Einlaufschicht)として、本発明による層状複合材料に更に施してもよい。好ましい慣らし層は、インジウム層、亜鉛層、錫層、インジウム合金層、亜鉛合金層、錫合金層、特に、亜鉛層、光沢錫(Glanzzinnund)層及びインジウム層である。
【0032】
慣らし層の層厚は、慣らし層の耐摩耗性及び摺動構成部品の用途に応じて、好ましくは2μm〜15μm、特に3μm〜6μmである。
【0033】
本発明の好ましい実施形態では、層状複合材料が、基層と、任意に1つ又は複数の金属製の拡散抑制層と、摺動層とからなるか、又は基層と、任意に1つ又は複数の金属製の拡散抑制層と、摺動層と、慣らし層とからなる。
【0034】
本発明による層状複合材料を製造するために、支持体と、それに設けられる基層と、更には、任意に金属製の拡散抑制層とを備える摺動構成部品を、水性電解質中に投入し、陰極として接続して、潤滑剤粒子を含有する上記摺動層を基層上に電着させる。
【0035】
電解質とは、本発明の意味において、イオンへの電解質添加物の電離によって導電性が生じる水溶液を意味する。電解質は、錫イオンと、任意に、錫合金を形成するための更なる金属イオンと、加えて、例えば酸及び塩等の当業者に既知の通常の電解質添加物と、更には、残余部分として水とを含有する。
【0036】
電解質は好ましくは、例えば錫(II)メタンスルホネートとして添加される5g/L〜100g/L、特に5g/L〜50g/Lのイオン形態の錫と、任意に、合金元素としてイオン又は塩の形態の更なる金属とを含有する。
【0037】
固体潤滑剤粒子及び任意に硬質材料粒子は、例えば攪拌することによって電着時に懸濁液状に保持することができる。好ましい実施形態では、粒子の凝集及びクラスタ形成を抑制するとともに、摺動層に粒子を組み込むことをより容易なものとするための助剤として作用する、湿潤剤及び懸濁安定化剤を電解質に更に添加する。アルキルアリールエーテル、特にアルキルナフチルエーテルが、湿潤剤として特に有利であり、陰イオン界面活性剤、特にエーテルスルフェート、すなわち、少なくとも1つのエーテル基と少なくとも1つのスルフェート基とを含有する化合物が、懸濁安定化剤として特に有利であることが分かった。湿潤剤は好ましくは、電解質の総体積に対して、8mL/L〜120mL/L、特に3mL/L〜80mL/Lの量で存在する。懸濁安定化剤は好ましくは、0.3mL/l〜50mL/L、特に1mL/L〜15mL/Lの量で存在する。
【0038】
電解質中に含まれる固体潤滑剤粒子及び任意に硬質材料粒子の量は、広範囲の様々な値をとることができ、組み込まれる割合に加え、それぞれの粒子の堆積し易さにも応じて決まる。いずれの場合にも、10g/L〜100g/Lの固体潤滑剤粒子及び硬質材料粒子が電解質中に含まれることが有益であることが分かった。特に好ましくはいずれの場合にも20g/L〜50g/L、最も好ましくはいずれの場合にも30g/L〜35g/Lの固体潤滑剤粒子及び硬質材料粒子が電解質中に含まれる。
【0039】
本発明の好ましい実施形態では、特に3以下のpH、好ましくは1〜2のpHを有する酸電解質を使用する。特に1個〜4個のC原子を有する1つ又は複数のアルキルスルホン酸を含有する電解質が、特に有利であることが分かった。メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、メタンジスルホン酸及びエタンジスルホン酸が好ましいアルキルスルホン酸であり、特にメタンスルホン酸が好ましい。電解質はシアン化物を含まないことが更に好ましく、シアン化物を含まないとは、本発明の意味において、電解質が0.1g/L未満のシアン化物イオンしか含有しないことを意味する。シアン化物イオンが0.01g/L未満であることが好ましい。
【0040】
およそ20℃〜60℃の電解質の温度が電着に好適であり、この際、25℃〜35℃の温度が好ましい。通例、およそ0.5A/dm〜20A/dmの電流密度で堆積が起こり、この際、およそ2A/dm〜4A/dmの電流密度が好ましい。
【0041】
さらに、本発明は、本発明による方法を用いて得ることができる層状複合材料に関する。本発明は更に、燃焼機関用の摺動軸受、特にクランク軸受、カム軸受又はコンロッド軸受のための本発明による層状複合材料の使用に関する。
【0042】
本発明による層状複合材料について説明される好適な実施形態、好ましい実施形態及び特に好ましい実施形態は、本発明による方法及び使用についても好適であり、好ましく、また特に好ましい。
【0043】
上記の機構、そして後に更に説明されることになる機構は、本発明の範囲から逸脱することなく、与えられた組み合わせにおいてだけではなく、他の組み合わせにおいても、又は単独でも用いることができることを理解されたい。
【0044】
以下の実施例は本発明を例示するものである。
【実施例】
【0045】
以下の組成の水性電解質を調製する:
Sn2+成分(錫(II)メタンスルホネートとして添加) 35g/L
グラファイト粒子(10μm以下の粒径) 30g/L
硫化錫(IV)粒子(10μm以下の粒径) 30g/L
湿潤剤(アルキルナフチルエーテル) 90mL/L
懸濁安定化剤(エーテルスルフェート) 15mL/L
【0046】
電解質のpHはメタンスルホン酸を用いておよそ1.5に設定する。基層として銅−ニッケル−シリコン合金と、その上に設けられるニッケル層とを有する摺動軸受を、電解質に投入し、陰極として接続して、摺動軸受を3.5A/dmの電流密度において30℃で9分間コーティングして、10μmの層厚を堆積させた。得られた層状複合材料を図2に示す。解析により、摺動層が0.85重量%の硫化錫(IV)粒子と、1.3重量%のグラファイト粒子とを含有していることが判明した。
【0047】
比較のために、同様の方法を用いて固体粒子を含まない純粋な錫層を作製した。
【0048】
摺動層が固体潤滑剤粒子を含まない錫で作られる従来の摺動軸受コーティングと比較すると、硫化錫(IV)粒子とグラファイト粒子とを含む摺動軸受は、改善された摺動性能(粒子を含まない錫層の0.1〜0.2と比較して摩擦係数0.05)、及び明らかに改善された強度(粒子を含まない錫層の8HV0.01と比較してビッカーズ硬度23HV0.01(Leica製のMetallux装置を用いて測定(試験圧力0.01キロポンド)))、並びに、良好な耐摩耗性及び小さい焼付き傾向を示した。
図1
図2