(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5721861
(24)【登録日】2015年4月3日
(45)【発行日】2015年5月20日
(54)【発明の名称】改善された熱管理機能を有する電動機
(51)【国際特許分類】
H02K 5/128 20060101AFI20150430BHJP
H02K 5/22 20060101ALI20150430BHJP
【FI】
H02K5/128
H02K5/22
【請求項の数】10
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2013-546634(P2013-546634)
(86)(22)【出願日】2011年11月18日
(65)【公表番号】特表2014-501481(P2014-501481A)
(43)【公表日】2014年1月20日
(86)【国際出願番号】EP2011070417
(87)【国際公開番号】WO2012089406
(87)【国際公開日】20120705
【審査請求日】2013年7月29日
(31)【優先権主張番号】102010064190.1
(32)【優先日】2010年12月27日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】390023711
【氏名又は名称】ローベルト ボツシユ ゲゼルシヤフト ミツト ベシユレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100099483
【弁理士】
【氏名又は名称】久野 琢也
(72)【発明者】
【氏名】ギュンター リール
(72)【発明者】
【氏名】ジェローム ティエリー
(72)【発明者】
【氏名】ヨハン ブラウン
(72)【発明者】
【氏名】イェルク シュミート
(72)【発明者】
【氏名】クリストフ ハイアー
(72)【発明者】
【氏名】トーマス ハイト
(72)【発明者】
【氏名】クラウディウス ムシェルクナウツ
(72)【発明者】
【氏名】ティロ ケーニヒ
【審査官】
安食 泰秀
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2010/108709(WO,A1)
【文献】
特表2012−521738(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 5/128
H02K 5/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動機であって、
ステータ(2)と、ロータ(3)と、湿領域(5)を乾領域(6)から分離する分離箱(4)と、制御電子回路(9)と、前記ステータ(2)と前記制御電子回路(9)との間の電気コンタクトを形成する接続部材(7,8)とを含み、
前記ロータ(3)は前記湿領域(5)に配置されており、
前記接続部材(7,8)は少なくとも部分的に絶縁部材(10)によって包囲されており、
前記絶縁部材(10)は、前記乾領域(6)を、前記ステータ(2)を配置した第1のサブ領域(60)と前記制御電子回路(9)を配置した第2のサブ領域(61)とに分割しており、
前記接続部材(8)は前記分離箱(4)の底部(40)に接しており、該底部(40)を介して前記接続部材(8)の熱が前記湿領域(5)に伝導する
ことを特徴とする電動機。
【請求項2】
前記接続部材(8)は第1の蛇行部分(80)および/または第2の蛇行部分(81)を含む、請求項1記載の電動機。
【請求項3】
前記接続部材(7,8)は第1の接続部材(7)および第2の接続部材(8)を含む2部材から形成されている、請求項1または2記載の電動機。
【請求項4】
前記第1の蛇行部分(80)および前記第2の蛇行部分(81)は第2の接続部材(8)に配置されており、前記第2の接続部材(8)は前記乾領域(6)の前記第2のサブ領域(61)に配置されている、請求項3記載の電動機。
【請求項5】
前記接続部材(7)は前記絶縁部材(10)を貫通して案内されている、請求項1から4までのいずれか1項記載の電動機。
【請求項6】
前記絶縁部材(10)はプラスティックから製造されている、請求項1から5までのいずれか1項記載の電動機。
【請求項7】
前記絶縁部材(10)は、プラスティック成型部材またはプラスティック挿入部材として構成されている、請求項6記載の電動機。
【請求項8】
前記接続部材(8)と前記制御電子回路(9)との間の電気コンタクト(90)が、前記ロータ(3)の外径(D2)と同一の径もしくは前記ロータ(3)の外径(D2)よりも小さい径(D1)にわたって存在する、請求項1から7までのいずれか1項記載の電動機。
【請求項9】
前記接続部材(7,8)は少なくとも部分的に前記分離箱(4)に接している、請求項1から8までのいずれか1項記載の電動機。
【請求項10】
前記電動機はECモータである、請求項1から9までのいずれか1項記載の電動機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
従来技術
本発明は、改善された熱管理機能を有する電動機に関する。本発明の電動機は、湿領域を乾領域から分離する分離箱を備えたいわゆる湿式回転子型電動機である。
【0002】
EC湿式回転子型モータの形態の電動機は種々の構成のものが知られており、ふつう、媒体内に回転運動を形成してダイナミクス上の停滞を回避する分野で用いられている。適用分野は例えばポンプである。できるだけ小さい構造を達成するために、例えば回路板の形態の制御電子回路が電動機の乾領域に集積される。この場合、ロータ直径が大きいと湿領域の液はね損失が過度に大きくなるので、ロータが湿領域に配置され、ステータが乾領域に配置されて、内部ロータ型のモータのみが実現される。制御電子回路を電動機の乾領域に集積することにより、高い周囲温度に関連して、高い熱負荷が生じる。狭い構造空間への集積により、電動機のコイルおよび電子回路部品の双方に高い温度が生じる。ここで、ステータないしステータコイルに発生する熱は、良好な熱結合部、例えば良好な熱伝導性を有するように形成された、断面積の大きいことの多い、短い銅線を介して放出され、および/または、熱放射によってステータから直接に制御電子回路へ伝達される。
【0003】
発明の開示
請求項1の特徴を有する本発明の電動機は、従来技術に比べて、電動機内に集積される制御電子回路の熱負荷を大幅に低減できるという利点を有する。特に、本発明のアイデアによって、ステータから制御電子回路への熱放射、および、電気コンタクトを介してステータから制御電子回路へ伝わる熱を低減できる。このことは、本発明では、電動機の乾領域を熱放射の点から第1のサブ領域と第2のサブ領域とに分割する絶縁部材を用いることで達成される。ここで、第1のサブ領域にはステータが配置され、第2のサブ領域には制御電子回路が配置される。つまり、絶縁部材が制御電子回路とステータとを分離する遮閉部となる。この場合、電動機はきわめてコンパクトで低コストの構造を有する。
【0004】
本発明の有利な実施形態は従属項に記載されている。
【0005】
有利には、電気コンタクトを形成する接続部材が蛇行形状の第1部分および/または第2部分を含む。この場合、第1の蛇行部分は制御電子回路への接続に用いられ、第2の蛇行部分はステータへの接続に用いられる。2つの蛇行部分により、電動機の個々の部品が動作中に支配的な種々の温度レベルによって種々異なる熱膨張係数のために種々に熱膨張するのを補償することができる。特に自動車分野での適用では、振動負荷などを簡単に吸収できるというさらなる利点が得られる。これは、各蛇行部分が或る程度の弾性を有し、特に制御電子回路およびはんだ部の負荷を軽減できるからである。
【0006】
また有利には、接続部材は第1の接続部材および第2の接続部材を含む2部材から形成される。これにより、特に製造技術的な利点が得られる。この場合、有利には、第1の蛇行構造および第2の蛇行構造が第2の接続部材に接して配置される。このようにすれば、2つの蛇行構造が乾領域のうち熱的に遮閉された第2の領域に存在することになる。
【0007】
また有利には、接続部材の所定の領域は絶縁部材によって完全に包囲される。これにより、乾領域の第2の領域への放射熱が最小となり、接続部材から分離箱への放熱が最大となることが保証される。
【0008】
本発明の特に有利な実施形態によれば、絶縁部材はプラスティックから製造される。特に有利には、絶縁部材は、接続部材に接するように配設されるプラスティック成型部材もしくはプラスティック挿入部材である。
【0009】
また有利には、接続部材と制御電子回路との間の電気線路は1つまたは複数の小さな領域へ集約される。これにより、制御電子回路を接合するためのはんだ付け過程において、多数のはんだ溜りに代え、1個もしくは数個のはんだ溜りを処理するだけで良くなる。これにより、必要なはんだ溜りが少数となるので、制御電子回路上の大きな面積を節約できる。このため、いっそうコンパクトな構造を達成できる。
【0010】
有利には、ステータと制御電子回路との間の電気コンタクトを形成する接続部材は、部分的に分離箱に接するかまたは分離箱に対して良好な熱結合がなされるように配置される。これにより、接続部材から分離箱への熱伝導が生じ、接続部材を介して制御電子回路へ伝わる熱が大幅に低減される。分離箱の一方側は冷間の湿領域に接触しているので、この分離箱はヒートシンクとして作用する。なお、接続部材を分離箱の底部に配置すれば、特にコンパクトな構造が得られる。
【0011】
本発明の電動機は有利にはECモータである。本発明の有利な適用領域は車両用または家庭用のポンプや、液体制御システムのバルブなどである。
【0012】
図面
以下に、本発明の有利な実施例を、図を参照しながら詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図2】
図1のII−II線に沿って切断した断面を示す概略的断面図である。
【0014】
本発明の有利な実施例
以下では、
図1,
図2を参照しつつ、本発明の実施例の電動機1を詳細に説明する。
【0015】
この場合、電動機1はステータ2およびロータ3を含み、ステータ2とロータ3との間に分離箱4が配置されている。分離箱4は電動機1を湿領域5と乾領域6とに分割している。この場合、分離箱4はケーシングに固定されており、ケーシングはモータケーシング14とカバー15とポンプケーシング16とを含む。ロータ3はロータシャフト32に固定されており、永久磁石30および後端部31を含む。ロータシャフト32は中空シャフトとして構成されており、2つの軸受33,34を介して位置固定の軸35に支承されている。軸35は、ここでは、分離箱4の底部40に相応に形成された凹部に固定されている。
【0016】
ステータ2は、パケット片と、巻線と、第1の絶縁マスク20と、第2の絶縁マスク21とを含む。
【0017】
電動機1はさらに、第1の接続部材7および第2の接続部材8を含む2部材から成る接続部材を含む。第1の接続部材7は電気コンタクト12を介して巻線に接続されており、ステータ2の一部となっている。また、第1の接続部材7は電気コンタクト13を介して第2の接続部材8に接続されている。第2の接続部材8は電気コンタクト90を介してプリント回路板の形態の制御電子回路9に接続されている。
【0018】
図1に示されているように、プリント回路板9はここでは乾領域6の第2のサブ領域61に配置されている。ステータ2は乾領域6の第1のサブ領域60に配置されている。第1のサブ領域60および第2のサブ領域61は絶縁部材10によって相互に分離されている。
図1に示されているように、絶縁部材10には、第1の接続部材7を案内するための貫通部11が形成されている。この実施例での絶縁部材10は、第2の接続部材8を少なくとも部分的に包囲するプラスティック成型部材である。また、
図1に示されているように、絶縁部材10は、下部10aにおいて、第2の接続部材8を、乾領域6の第1のサブ領域60および第2のサブ領域61に対して完全に絶縁する絶縁部となっている。第2の接続部材8は、
図1に示されているように、分離箱4の底部40に少なくとも部分的に接して配置されている。この領域では、絶縁部材10は、第2の接続部材8のうち制御電子回路9に面する側にしか配置されていない。矢印Aはここでは第2の接続部材8からの熱が分離箱4の底部40を介して湿領域5へ伝導することを表している。
【0019】
第2の接続部材8は第1の蛇行部分80および第2の蛇行部分81を含む。2つの蛇行部分80,81は乾領域6の第2のサブ領域61に配置されている。各蛇行部分80,81により、各部品を損なうことなく、各部品の種々の熱膨張を補償することができる。さらに、2つの蛇行部分80,81は、特に自動車分野での使用時に、定常的もしくはダイナミックに発生する大きな力から制御電子回路9を保護する。これは、各蛇行部分が或る程度の弾性機能を有するからである。
【0020】
さらに、
図2に示されているように、第2の接続部材8と制御電子回路9との間の接続を形成する電気コンタクト90が1つまたは複数の小さな空間に配置される。この場合、第2の接続部材8と制御電子回路9との間の全ての電気コンタクト90が1個または数個のはんだ溜り91に配置されるので、制御電子回路9のプリント回路板上の大きな面積を節約できる。なぜなら、本発明によれば、従来技術で電気端子ごとに必要となる個々のはんだ溜りを設けなくて済み、各電気端子90を共通のはんだ溜り90に配置できるからである。
【0021】
本発明によれば、
図1に示されているように、制御電子回路9は乾領域6の第2のサブ領域61に配置することができる。この第2のサブ領域61は、絶縁部材10によって、電動機の主熱源であるステータ2が配置された第1のサブ領域60から熱的に遮閉されている。
図1に示されているように、絶縁部材10は分離箱4の円筒状領域からモータケーシング14へ達している。したがって、ステータ2から制御電子回路9への熱放射は低減される。ステータ2から第1の接続部材7および第2の接続部材8を介して制御電子回路9へ伝導する熱も同様に低減される。これは、第2の接続部材8が理想的には最良の熱伝導接続で分離箱4の底部40に接続されるからである。これにより、ステータ2から接続部材7,8へ伝導する熱は、分離箱4へ伝導し、そこから湿領域5へと放出される。ロータの回転により分離箱4の袋孔状領域では媒体の充分な渦が発生するため、底部40を介して湿領域5へ伝導する熱は媒体によって迅速に放出される。したがって、制御電子回路9への熱入力は著しく低減される。
【0022】
さらに、蛇行部分80,81は、制御電子回路9をステータ2に可撓接合するために用いられ、これにより、各部品の熱膨張係数が種々に異なっていても危険は生じない。また、制御電子回路9でのはんだ付け過程は唯一もしくは少数のはんだ溜りがあれば実現できる。本発明の電動機は、特に絶縁部材10が射出成形部材として設けられる場合、きわめてコンパクトな構造を有し、きわめて低コストに製造できる。