【実施例】
【0013】
図1は、本発明の実施例に係るチラー装置の基本構成を冷媒サイクル200でのワークWへの接続及び冷凍サイクル100での凝縮器103への冷却装置300を含めて示した全体的な概略図である。
【0014】
図1を参照すれば、このチラー装置は、従来通りに保温対象となる各種装置をワークWとして、使用者(ユーザ)が所定の温度範囲(例えば−20℃〜60℃)で選択的に温度設定して保温するための機能を持つ点は同じである。ここでは冷却用の冷凍サイクル100と、冷凍サイクル100に備えられる蒸発器(熱交換器)101を共用する加熱用の冷媒サイクル200と、冷媒サイクル200中に介在接続されて保温対象となる各種装置(負荷)をワークWとして、使用者向けに所定の温度範囲での選択的な温度設定に供されると共に、冷凍サイクル100に備えられる電動式圧縮機102の回転数、並びに冷媒サイクル200に備えられる冷媒に対する加熱用の加熱装置(ヒータ)202における加熱温度を、図示されない使用者向けの操作部で使用者により設定される設定温度と冷媒サイクル200のワークW側寄り箇所に設けられた第1の温度センサT1により検出されたワーク温度との温度差に応じて制御するためのCPU、ROM、RAM、IO等を備えた第1のプリント回路基板(PCB1)105、及び第2のプリント回路基板(PCB2)106による制御装置と、を備え、冷凍サイクル100及び冷媒サイクル200により冷媒を管内で循環させてワークWを保温する機能を持つ。
【0015】
因みに、ここでのワーク温度を検出するための第1の温度センサT1は、冷媒サイクル200に備えられる冷媒タンク201から冷媒を吸引するポンプ203の冷媒吐出側であって、ワークW寄りの冷媒流入側に設けられて冷媒サイクル側冷媒温度を検出して第2のプリント回路基板(PCB2)106に送出するようになっているが、その他に蒸発器101の冷媒吸入側であって、ワークW寄りの冷媒流出側に設けられた第4の温度センサT4からの冷媒検出温度を第2のプリント回路基板(PCB2)106に入力し、双方の検出結果を併用してワーク温度を検出するようにしても良い。ここでの第1の温度センサT1については、高い温度検出精度が要求されるため、抵抗値を100オームから0オームに可変できる白金抵抗帯を用いたPtセンサを用いることが好ましい。これに対し、第4の温度センサT4は、第1の温度センサT1程度には検出精度が要求されないため、製造コストを考慮して一般的な熱電対を用いた熱電対センサを用いることが好ましい。
【0016】
このうち、冷凍サイクル100は、冷媒のガスを電動式圧縮機102により圧縮して高圧ガスとして吐出側の凝縮器103へ送り、凝縮器103では高圧ガスを凝縮して減圧機構の膨張弁104を経由して減圧させてから蒸発器101へ送り、蒸発器101では減圧された低圧ガスを蒸発させて電動式圧縮機102の吸入側に吸い込ませることで再び圧縮を繰り返す回路構成の一次温調回路となっている。また、ここでは凝縮器103に対して配管を折り返すように接続し、入口側の管に設けられたバルブV5を経由して冷却水を取り込んで凝縮器103内を冷却してから出口側の管に設けられたバルブV7、V8を経由して外方へ戻す構造の冷却装置300が配備され、圧力スイッチPSWのオン状態で凝縮器103の吐出側に接続された圧力センサP2により検出された結果に応じてバルブV7の開閉が制御され、配管内を流れる冷却水の流量が制御されるようになっている。尚、バルブV7の吸入側に設けられたバルブV6は、排水用の弁である。因みにここで説明した冷却装置300による凝縮器103に対する冷却機能は、冷却ファンを用いて冷風で冷却する構成としても良い。
【0017】
冷媒サイクル200は、冷凍サイクル100の蒸発器101を共有して冷媒液を冷媒タンク201で回収して蓄えると共に、冷媒タンク201に装着された加熱装置(ヒータ)201で冷媒液を適宜加熱するか、或いは加熱させずに冷媒タンク201からポンプ203により吸引した冷媒液をワークWを介在させて蒸発器101に戻す回路構成の二次温調回路となっている。
【0018】
また、第1のプリント回路基板(PCB1)105に接続された加熱制御装置207は、設定温度と第1の温度センサT1により検出されたワーク温度との温度差に応じて第1のプリント回路基板(PCB1)105から制御を受けて加熱装置202による加熱温度を制御する。
【0019】
更に、ポンプ203における冷媒液の流出側の配管には流量検出センサ204が設けられ、この流量検出センサ204で検出された冷媒液の流量は第1のプリント回路基板(PCB1)105に入力され、第1のプリント回路基板(PCB1)105がインバータ206を駆動してポンプ203における冷媒液の吸引量を制御するようになっている。これにより、冷媒タンク201内では、冷媒液がロジック(LG)によりほほ一定量に保たれることになる。
【0020】
加えて、蒸発器101の冷媒吐出側の管に設けられたバルブV1と冷媒タンク201に接続された管に設けられたバルブV2とは共通の配管に接続され、排液処理用のドレンDに繋がって排液するために使用される。その他、ワークWにおける冷媒液の流入側の配管に設けられたバルブV3と流出側の配管に設けられたバルブV4とは、主としてワークWを冷媒サイクル200の局部に配管接続するときの冷媒液漏れを防止するために使用される。
【0021】
以上に説明したチラー装置の細部構成は、従来製品に共通したもので、第1のプリント回路基板(PCB1)105及び第2のプリント回路基板(PCB2)106の制御装置によって初期的な設定温度とワーク温度との温度差に応じて異なる動作モードの制御を行い、設定温度がワーク温度よりもずっと高い温度差(例えば10℃超過)のある高温設定時には、冷凍サイクル100の冷却機能が不要であるため、電動式圧縮機102の回転数を低く抑制し、冷媒サイクル200の加熱装置202の加熱温度を高く設定して温度差を無くすように加熱機能を優先する動作モードを実施し、設定温度がワーク温度よりもずっと低い温度差(例えば10℃超過)のある低温設定時には、冷媒サイクル200の加熱装置202による加熱機能が不要であるため、加熱装置202の加熱設定を行わずに冷凍サイクル100の電動式圧縮機102の回転数を高く設定して温度差を無くすように冷却機能を優先する動作モードを実施する点は同じである。
【0022】
但し、本実施例では設定温度がワーク温度に近い温度差(例えば5℃〜10℃)の少ない保温設定時において、特に冷凍サイクル100での蒸発器101の冷媒吸入側と冷媒吐出側との冷媒温度差が殆ど無い状態にあって、冷媒を蒸発器101に流す必要がないにも拘らず電動式圧縮機102が動作し続ける構造及び機能を改善している。
【0023】
具体的に云えば、本実施例に係るチラー装置で第1番目の特徴となるのは、冷媒サイクル200における蒸発器101の冷媒吐出側
で加熱装置202に対する冷媒流入の手前側に設けられて冷媒温度を検出する第2の温度センサT2を有し、設定温度とワーク温度との温度差(例えば5℃〜10℃)の少ない保温設定時に、第2のプリント回路基板(PCB2)106が第2の温度センサT2で検出される冷媒サイクル側冷媒検出温度について比例、積分、微分を含むPID演算を行い、第1のプリント回路基板(PCB1)105が係るPID演算の結果に基づいて生成した電動式圧縮機102を駆動するためのインバータ107に対する駆動制御信号をシリアル通信し、電動式圧縮機102での圧縮機回転数を一定の範囲でワーク温度に応じて制御する点にある。因みに、ここでの第2の温度センサT2についても、高い温度検出精度が要求されるため、抵抗値を100オームから0オームに可変できる白金抵抗帯を用いたPtセンサを用いることが好ましい。
【0024】
係る機能構成によれば、設定温度とワーク温度との温度差が小さく、且つ冷凍サイクル100での蒸発器101の冷媒吸入側と冷媒吐出側との温度差が殆ど無い場合でも電動式圧縮機102に過負荷を掛けずに運転を行わせ、蒸発器101に流れる冷媒量を適正に保ち、安定して保温動作する機能が得られる。
【0025】
また、本実施例で第2番目の特徴となるのは、冷凍サイクル100における蒸発器101の冷媒吸入側に介在接続されて第1のステッピングモータSM1で駆動される第1の電子膨張弁EV1を有し、第2のプリント回路基板(PCB2)106が第1の温度センサT1で検出されたワーク温度について比例、積分、微分を含むPID演算を行い、第1のプリント回路基板(PCB2)105が係るPID演算の結果に基づいて生成したパルス信号により第1のステッピングモータSM1を駆動することで第1の電子制御弁EV1での開閉を制御して冷媒流量を制御する点にある。
【0026】
係る機能構成によれば、先の電動式圧縮機102の回転数制御に加え、冷凍サイクル100において別途に蒸発器101に吸入される冷媒量を別途適切に制御できるため、一層安定して保温動作する機能が得られる。
【0027】
更に、本実施例で第3番目の特徴となるのは、電動式圧縮機102の冷媒吸入側であって、蒸発器101の冷媒吐出側に設けられて冷
凍サイクル100における冷媒温度を検出するための第3の温度センサT3と、蒸発器101の冷媒吸入側で第1の電子膨張弁EV1よりも冷凍サイクル100に備えられる凝縮器103側に位置される箇所と
蒸発器101の冷媒吐出側とを繋ぐと共に、第2のステッピングモータSM2で駆動される第2の電子膨張弁EV2が介在接続された冷媒バイパス用の第1のバイパス流路108と、を有し、第2のプリント回路基板(PCB2)106が第3の温度センサT3で検出される冷凍サイクル側冷媒温度について比例、積分、微分を含むPID演算を行い、第1のプリント回路基板(PCB2)105が係るPID演算の結果に基づいて生成したパルス信号により第2のステッピングモータSM2を駆動することで第2の電子制御弁EV2での開閉を制御して第1のバイパス流路108における冷媒流量を制御する点にある。因みに、ここでの第3の温度センサT3の場合も、第2の温度センサT2程度に高い検出精度が要求されないため、製造コストを考慮して一般的な熱電対を用いた熱電対センサを用いることが好ましい。
【0028】
係る機能構成によれば、先の電動式圧縮機102の回転数制御や蒸発器101に吸入される冷媒量の制御に加え、冷凍サイクル100において第1のバイパス流路108を使用した冷媒のバイパス流量を別途に制御できるため、より一層蒸発器101への冷媒の流入量を細かく制御でき、保温動作の機能が格段に向上する。
【0029】
加えて、本実施例で第4番目の特徴となるのは、冷凍サイクル100における電動式圧縮機102の冷媒吸入側に設けられて冷媒圧力を検出する圧力センサP1と、第1の電子膨張弁EV1よりも蒸発器101の冷媒吸入側に位置される箇所と電動式圧縮機102の冷媒吐出側とを繋ぐと共に、第3のステッピングモータSM3で駆動される第3の電子膨張弁EV3が介在接続された冷媒バイパス用の第2のバイパス流路109と、を有し、第2のプリント回路基板(PCB2)106が圧力センサP1で検出される冷媒圧力について比例、積分、微分を含むPID演算を行い、第1のプリント回路基板(PCB2)105が係るPID演算の結果に基づいて生成したパルス信号により第3のステッピングモータSM3を駆動することで第3の電子制御弁EV3での開閉を制御して第2のバイパス流路109における冷媒流量を制御する点にある。
【0030】
係る機能構成によれば、先の電動式圧縮機102の回転数制御や蒸発器101に吸入される冷媒量の制御、第1のバイパス流路108を使用した冷媒のバイパス流量の制御に加え、冷凍サイクル100において第2のバイパス流路109を使用した冷媒のバイパス流量を更に別途制御できるため、蒸発器101への冷媒の流入量を極めて細かく制御でき、保温動作の機能が極めて良好なものとなる。
【0031】
ところで、第4番目の特徴について、第2のプリント回路基板(PCB2)106によるPID演算に際して、圧力センサP1で検出される冷媒圧力に対応する冷凍サイクル100側の冷媒飽和温度を近似曲線で置換して算出し、算出された冷凍サイクル100側の冷媒温度を使用者による設定変更で設定温度より所定の温度範囲(例えば−4℃〜−50℃)分低くして初期的な設定温度に対する自動温度設定制御を行わせ、係る自動温度設定制御として、第3の電子制御弁EV3を開閉制御しての第2のバイパス流路109における冷媒流量の制御を行うようにしても良い。因みに、ここでの冷媒圧力に対応する冷媒飽和温度の近似曲線は、予め第2のプリント回路基板(PCB2)106に備えられるROM等にテーブル形式の変換値として格納しておくことが可能であり、CPU等で読み出すことができるものである。
【0032】
係る機能構成によれば、設定温度がワーク温度に近い温度差(例えば5℃〜10℃)の少ない保温設定時において、使用者による設定変更での自動温度設定制御は、上述した第1のプリント回路基板(PCB1)105での電動式圧縮機102の圧縮機回転数のPID演算結果の制御、第2の電子制御弁EV2を開閉制御しての第1のバイパス流路108におけるPID演算結果の冷媒流量の制御、並びに第3の電子制御弁EV3を開閉制御しての第2のバイパス流路109におけるPID演算結果の冷媒流量の制御とは別個な機能であるが、これらを組み合わせて制御させることも可能である。こうした場合には、特に電動式圧縮機102の高圧吐出側から第2のバイパス流路109経由で第3の電子制御弁EV3を開閉制御して蒸発器101の冷媒吸入側へ冷媒を効率良く流すことができるため、ワークWに対する急冷が必要な事態が生じた場合に冷凍サイクル100での冷凍機能を独自で向上させることができ、結果としてワークWをユーザ向けの機能として従来に無く効率良く冷却することができる。
【0033】
以上に説明した実施例に係るチラー装置の細部構成は、冷却装置300や冷媒サイクル200、或いは制御装置の何れについても種々変更することが可能であり、例えば制御装置を成す第1のプリント回路基板(PCB1)105及び第2のプリント回路基板(PCB2)106は、単一のプリント回路基板(PCB)で構成したり、或いは3枚以上の基板に機能分けした構成とすることも可能であるため、本発明のチラー装置は、実施例で開示したものに限定されない。