特許第5721893号(P5721893)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許5721893-軟化食品の製造方法及び軟化食品 図000004
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5721893
(24)【登録日】2015年4月3日
(45)【発行日】2015年5月20日
(54)【発明の名称】軟化食品の製造方法及び軟化食品
(51)【国際特許分類】
   A23L 1/29 20060101AFI20150430BHJP
   A23L 1/212 20060101ALN20150430BHJP
【FI】
   A23L1/29
   !A23L1/212 A
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-185043(P2014-185043)
(22)【出願日】2014年9月11日
【審査請求日】2014年9月11日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】512032733
【氏名又は名称】トーニチ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】特許業務法人創成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 貴之
(72)【発明者】
【氏名】三輪 望
【審査官】 長谷川 茜
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−051209(JP,A)
【文献】 特開2006−223122(JP,A)
【文献】 特開2013−063094(JP,A)
【文献】 特開2013−247928(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 1/00 −1/035
A23L 1/212−1/218
A23L 1/36 −1/48
A23B 7/00 −7/16
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Thomson Innovation
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酵素を用いることのない軟化食品製造方法であって、
準備工程と、
食品をフィチン酸及び/又はクエン酸を含む処理液に浸漬し加熱する軟化工程と、
前記処理液と分離し、冷却する反応停止工程と、
調味液に浸漬する調味工程を備えることを特徴とする軟化食品製造方法。
【請求項2】
請求項1記載の軟化食品製造方法において、
前記処理液に含まれる前記酸の合計が0.45重量%以上1.5重量%以下であって、
前記軟化工程の加熱温度は75℃以上90℃以下であることを特徴とする軟化食品製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2記載の軟化食品製造方法において、
前記処理液に含まれる酸はフィチン酸及びクエン酸であって、
フィチン酸がクエン酸に比べて多く含まれることを特徴とする軟化食品製造方法。
【請求項4】
請求項1〜のいずれか1項に記載の軟化食品製造方法において、
さらに、凍結工程を備えることを特徴とする軟化食品製造方法。
【請求項5】
請求項1〜のいずれか1項記載の軟化食品製造方法を用いて製造された軟化食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、青果物、特に、果物を用いた咀嚼困難者、及び高齢者向け食品並びに離乳食用食品の製造方法、及び該製造方法により製造した食品に関する。特に、素材の形状を維持し、食材本来の味を損なわない、食材の軟化方法、及び該方法により軟化した食材を用いた食品に関する。
【背景技術】
【0002】
超高齢化社会といわれる現在、咀嚼、嚥下機能の低下が認められる者は年々増加している。在宅介護を受ける高齢者の栄養状態を調べた結果によれば、在宅介護を受ける高齢者の約6割が低栄養傾向にあるといわれており、質の高い介護食品の提供が求められている。
【0003】
咀嚼、嚥下機能が低下すると、食物が気管に入ってしまう誤嚥が生じる危険が多く、その結果、誤嚥性肺炎を起こす危険性がある。高齢者の肺炎の1/3〜1/2が誤嚥性肺炎であるとも言われており、嚥下機能の低下している者に対し、安全でおいしい食品を提供することの重要性が認識されるようになってきた。
【0004】
咀嚼、嚥下機能の低下した者に対しては、食の安全性を担保し、誤嚥による肺炎を生じさせないためにも、いわゆる介護食品の利用が薦められている。介護食品は、嚥下機能の程度により、ミキサー食、刻み食、とろみ食、ソフト食等、様々な形態のものが提供されている。
【0005】
しかしながら、現在の介護食品については、見た目が悪い、おいしくない、バリエーションが少ないなど、様々な問題が挙げられている。特に、嚥下が困難な人に対して提供されるミキサー食は、もとの食品の形状がなく、ドロドロ、ベトベトした食事であり、見た目にも決しておいしそうなものではない。
【0006】
また、咀嚼力が低下した者に対して提供される刻み食も、細かく刻まれているために、食物の原形とはかけ離れたものとなっており、見た目の美しさは失われてしまう。さらに、食塊を形成しにくいことから、むせやすくかえって誤嚥を招くという問題点が生じていた。
【0007】
でんぷん等でとろみをつけたとろみ食は、汁物やお茶、刻み食、ミキサー食にとろみをつけ、誤嚥を防止することはできるが、咀嚼機能の低下した者に対しては、有効な解決策とはならない。
【0008】
これに対し、ソフト食は、形状はそのままでありながら、舌で押しつぶすことができる程度に、やわらかく処理したものである。食塊を形成する必要がないことから、誤嚥を防止することもできるので、安全性の向上を図ることができる。
【0009】
また、形状は食品本来の形状のままであることから、見た目においしそうであり、高齢者の食欲をそそる食品として、従来の刻み食に代わり、病院や施設で採用されるようになってきた。
【0010】
ソフト食を製造するために植物食材を軟化させる方法としては、圧力を調整し、酵素液に浸漬することにより、食物内部まで酵素を浸透させ、軟化する方法が知られている(特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2003−284522号公報
【特許文献2】特開2010−239935号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、圧力を調整する必要があるために減圧装置などの設備を必要とするという問題点があった。また、ペクチン分解酵素やセルラーゼ等の酵素を使用するため、製造コストがかかるというだけではなく、食材ごとに異なる酵素反応に対する時間の制御等、通常の食品加工技術とは異なるため分解酵素に対する知識、習熟が必要であるという問題点もあった。そのため施設や家庭でソフト食を簡単に取り入れることが困難であった。
【0013】
さらに、ソフト食は、食材ごとに食感を保つように処理する必要もあり、調理に手間がかかるという問題点がある。また、市販の食材を利用するにしても、ソフト食が導入され始めたばかりでもあり、そのバリエーションが少ないという問題がある。
【0014】
本発明は、酵素処理や特別な設備を必要とせず、食材の形状をそのまま保ちながら、舌で押しつぶせるほどの硬さに食材を軟化する方法、及び当該方法を用いて製造した食品を提供することを課題とする。本発明の製造方法により製造した食材を用いることにより、介護食だけではなく、離乳期の乳児、幼児にも適した食品を提供することができる。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の酵素を用いることのない軟化食品製造方法は、準備工程と、食品をフィチン酸及び/又はクエン酸を含む処理液に浸漬し加熱する軟化工程と、前記処理液と分離し、冷却する反応停止工程と、調味液に浸漬する調味工程を備えることを特徴とする。
【0016】
ここで、本発明の軟化食品とは舌で押し潰せる程度に軟らかく処理されている食品をいう。従来から酢などの酸を用いて調理する方法は知られているものの、酸によって食品を舌で潰せる程度まで軟化し、その後様々な味付けに調味する条件については検討されていなかった。酸によって軟化食品を製造することによって、従来の酵素を使用して軟化食品を製造する方法に比べて、低コストで食品を軟化することが可能となる。
【0018】
フィチン酸、及び/又はクエン酸は、ともにキレート作用もあることから、他の食品添加物として用いることのできる酸と比較して、加熱温度も比較的低く、短い時間で食品を軟化することができる。
【0019】
本発明の軟化食品製造方法は、前記処理液に含まれる前記酸の合計が0.45重量%以上1.5重量%以下であって、前記軟化工程の加熱温度は75℃以上90℃以下であることを特徴とする。
【0020】
用いる酸の合計量が0.45重量%より少ないと、舌で潰せる程度に軟化させることが困難である。また、1.5重量%より多く酸を用いると、酸味等を食品から抜くのが困難であり、様々な味付けに調味することができない。さらに、加熱温度が75℃より低い場合には、食品がなかなか軟化しない。また、90℃を超えて加熱するのでは、コストの面で問題となる。
【0021】
本発明の軟化食品製造方法は、前記処理液に含まれる酸が、フィチン酸及びクエン酸であって、フィチン酸がクエン酸に比べて多く含まれることを特徴とする。
【0022】
フィチン酸はクエン酸に比べて、酸味を感じにくいので、フィチン酸とクエン酸を含み、且つフィチン酸がクエン酸よりも多く含まれる処理液で処理することにより、味の面でも酸味が強く残らず、食品本来の味を活かした食品を製造することができる。
【0023】
本発明の軟化食品製造方法は、さらに、凍結工程を備えることを特徴とする。
食品を軟化し、調味液で調味した後に凍結することによって、長期の保存が可能となることから、介護食、離乳食としての流通が容易となる。その結果、病院や施設等で提供する際に便利である。また、調味後に、凍結することによって、凍結による食味の変化もなく、おいしく食することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】軟化食品製造方法を示すフロー図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
食品、特に青果物の軟化方法はこれまで酵素処理によるものがほとんどである。酸を用いて軟化すると、味に変化が生じるために、その後調味しても食品本来の味を損ねる。そのため、今まで酸処理により食材を軟化することは試みられてはいるものの実用化にいたっていないのが現状である。
【0026】
しかし、酸処理は特別な設備や習熟を必要としないことから、青果物を軟化する方法としては非常に簡便であり、実用性の高い方法である。本発明者らは、検討の結果、軟化に適し、食材の味を損ねない条件を見出し、本発明の完成に至った。
【0027】
本発明は介護食の中でも、施設や病院において市販の食品を利用することの多いデザートとして、果物のコンポートを中心に開発を進めてきた。しかし、本発明の製造方法は、果物のコンポートに限らず、青果物一般を軟化する方法として用いることができる。特に、本発明の製造方法により軟化した食材は、軟化工程で加えた酸による酸味を活かすことのできるピクルス、漬物、として用いれば、酸を完全に除去する必要がなく、酸味をその後の調味に利用することができるために適している。また、酸味を除く必要がある調理方法の場合には、反応停止工程で処理液と分離し、水洗等により、完全に酸を除き、調味すればよい。
【0028】
本発明の軟化食品製造方法について、以下説明する。図1には本発明の軟化食品製造方法の概略を示す。
【0029】
食材である青果物は、洗浄後、必要であれば皮を剥き、適当な大きさにカットする(準備工程、S1)。介護食や離乳食を提供する対象者によって、食べやすい大きさ、一食分に必要とされる量は異なるため、カットの仕方、大きさ等は適宜調整する。また、面取り等を行って、形状を整え、食材の見た目を美しくする等の工程を加えてもよい。
【0030】
カットした食材は、酸を含む処理液に浸漬する。処理液中で加熱する前に、食材に処理液が浸透し、軟化工程が短時間で済むように、加熱前に処理液中で一定時間放置する。または、処理液中で減圧、常圧を繰り返すことによって、処理液が食材の内部に浸透するのを促すこともできる。
【0031】
その後、処理液中で一定時間加熱する。酸を含む処理液中で加熱することにより、食材は舌で押しつぶすことができる程度に軟化する(軟化工程、S2)。食材によっては均質ではないため、後述するように、種、繊維等、軟化しにくい部分が残るが、介護食、離乳食として問題を生じないようであれば、軟化しにくい部分は残したまま提供することができる。
【0032】
加熱処理後、反応を停止するために、処理液を廃棄し、冷水により冷却する(反応停止工程、S3)。水に浸すことにより、食品から処理液を除くことができるため、過剰な酸味が除かれ、調味液で味を調えやすくなる。
【0033】
冷却後、調味液に浸漬する(調味工程、S4)。軟化食品は、調味液に浸漬したまま一食分、あるいは適切な人数分まとめて容器、あるいは袋に詰める。食材と調味液に濃度差があることから、調味液は食材内部に浸透させることができる。
【0034】
さらに、調味液を充填後、すぐに出荷しない場合にはこの状態で冷凍することもできる(凍結工程、S5)。凍結方法は通常の冷凍食品と同様の方法を用いればよい。
【0035】
凍結工程は必ずしも必須の工程ではないが、冷凍することにより、流通の点でメリットがあるだけではなく、長期保存が可能となることから、介護食を提供する施設、病院等では、必要なときに必要なだけ解凍して提供することができるため、非常に便利である。
【0036】
通常、酢等の酸を用いた調理方法では、軟化と調味が同時に行われており、酸を除く工程がないため、舌で押し潰せる程度に軟らかくすると、酸味が強くなりすぎ、味の点で問題が生じる。そのため介護食として調理品を提供することができなかった。本発明では、軟化工程に続く反応停止工程で過剰の酸を除き、その後に調味するために、軟化に用いた酸が調味に与える影響が少ない。したがって、軟らかいだけではなく、おいしい調理品を提供することが可能である。
【実施例】
【0037】
〔リンゴのコンポート〕
リンゴのコンポートを例に、上記で示した軟化食品製造方法を詳細に説明する。
【0038】
[実施例1]
リンゴは水で洗い、皮をむき、芯を除き、12等分する。1人分およそ13gとなる。下ごしらえをしたリンゴは、酸化による変色を防ぐため、0.3重量%のアスコルビン酸溶液に浸漬する。
【0039】
その後、1.0重量%クエン酸と糖類、香料を含む水溶液に浸漬する。クエン酸等の酸により軟化するとともに、糖類、香料で味も調える。処理液がリンゴの内部に浸透し、軟化工程で軟化反応が短時間に終了するように、一定時間(30分以上)放置し、減圧・常圧を繰り返し、リンゴの内部まで処理液を浸透させる。ここでは、処理液を浸透させるために減圧・常圧を繰り返しているが、浸漬時間を長めにして、処理液を浸透させてもよい。
【0040】
その後、処理液中80℃で、90分間処理する。軟化処理終了後、処理液を廃棄し、水道水で水洗する。処理液が洗い流されるとともに、水道水で冷却されることにより、反応が停止する。
【0041】
次に包装容器にりんごと調味液を充填し浸漬・調味する。りんごのコンポートの場合、糖類、増粘剤、酸味料、甘味料、香料等を含む調味液で味を調え、その後、凍結し流通用に包装し製品化する。
【0042】
調味後、硬さ、味の評価を行った。硬さに関しては、舌で完全に押し潰せることができ、介護食、離乳食として十分な軟らかさであった。味についてはクエン酸による酸味が抜けきらず、やや酸味が強かった。結果を表1に示す。
【0043】
なお、硬さの評価は、完全に舌で潰せるものを◎、ほぼ、舌で潰せるものを○、歯を使う必要があるものを×としている。味は、酸味、加熱臭ともにないものを◎、酸味、又は加熱臭が残るものを○、酸味、加熱臭ともにあるものを×として評価している。
【0044】
[実施例2]
1.0重量%クエン酸に代えて、0.5重量%クエン酸を含む処理液中で80℃、120分間処理した他は実施例1と同様にしてりんごのコンポートを製造し評価を行った。結果を表1に示す。
【0045】
[実施例3]
1.0重量%クエン酸に代えて、1.0重量%フィチン酸を含む処理液中で75℃、45分間処理した他は実施例1と同様にしてりんごのコンポートを製造し評価を行った。結果を表1に示す。
【0046】
[実施例4]
1.0重量%クエン酸に代えて、0.45重量%フィチン酸を含む処理液中で75℃、75分間処理した他は実施例1と同様にしてりんごのコンポートを製造し評価を行った。結果を表1に示す。
【0047】
[実施例5]
1.0重量%クエン酸に代えて、0.4重量%フィチン酸、0.4重量%クエン酸を含む処理液中で75℃、90分間処理した他は実施例1と同様にしてりんごのコンポートを製造し評価を行った。結果を表1に示す。
【0048】
[実施例6]
1.0重量%クエン酸に代えて、0.4重量%フィチン酸、0.2重量%クエン酸を含む処理液中で80℃、75分間処理した他は実施例1と同様にしてりんごのコンポートを製造し評価を行った。結果を表1に示す。
【0049】
[実施例7]
1.0重量%クエン酸に代えて、0.4重量%フィチン酸、0.2重量%クエン酸を含む処理液中で75℃、105分間処理した他は実施例1と同様にしてりんごのコンポートを製造し評価を行った。結果を表1に示す。
【0050】
[実施例8]
1.0重量%クエン酸に代えて、0.3重量%フィチン酸、0.8重量%クエン酸を含む処理液中で75℃、90分間処理した他は実施例1と同様にしてりんごのコンポートを製造し評価を行った。結果を表1に示す。
【0051】
[参考例1]
1.0重量%クエン酸に代えて、2.0重量%クエン酸ナトリウムを含む処理液中で70℃、70間処理した他は実施例1と同様にしてりんごのコンポートを製造し評価を行った。結果を表1に示す。
【0052】
[参考例2]
1.0重量%クエン酸に代えて、0.4重量%フィチン酸を含む処理液中で75℃、90分間処理した他は実施例1と同様にしてりんごのコンポートを製造し評価を行った。結果を表1に示す。
【0053】
[参考例3]
1.0重量%クエン酸に代えて、0.4重量%フィチン酸、0.2重量%クエン酸を含む処理液中で70℃、105分間処理した他は実施例1と同様にしてりんごのコンポートを製造し評価を行った。結果を表1に示す。
【0054】
【表1】
【0055】
軟化食品は、介護食、あるいは離乳食に用いる食品であることから、舌で潰せる程度の硬さであることが条件となる。実施例1〜8で挙げたような酸濃度、加熱温度等の処理条件で処理することにより、食材を軟化することができる。
【0056】
実施例で示した、フィチン酸、クエン酸を混合した処理液以外にも、食品添加物として使用可能な酸である、クエン酸ナトリウム、グルコン酸、グルコン酸ナトリウムを用いて軟化に対する効果の検討を行ったが、軟化には長時間、あるいは高温での処理を必要とした。したがって、フィチン酸、クエン酸以外の酸では、長時間、あるいは高温の処理液で処理する必要があるため工業化する場合にはコストがかかるという問題がある。
【0057】
工業的に生産することを考えると、処理温度は低く、処理時間は短い方が好ましい。具体的には、処理温度としては90℃以下、処理時間としては120分以下であることが望ましい。より好ましくは、処理温度は80℃以下、処理時間は105分以下であることが望ましい。
【0058】
実施例1、2、あるいは実施例3、4に示すように、同じ温度で処理を行う場合には、酸濃度が高いほど、処理時間は短くてよい。
【0059】
また、クエン酸単独処理の場合、添加量は、0.5重量%以上、2.0重量%未満であることが好ましく、また、80℃以上で加熱するのが良い。クエン酸の添加量が0.5重量%以下では軟化が起こらず、また、2.0重量%以上だと、調味液で調味後も酸味が抜け切らない。クエン酸処理の場合には、食材の軟化については、非常に良い評価であるが、味の面では、クエン酸の酸味が強いために、調味液に浸漬後も酸味が強く評価が○となっている。最終的にどのような食品として提供するかによって、味の面で問題が生じる場合がある。
【0060】
フィチン酸単独処理の場合には、添加量は、0.45重量%以上、75℃以上で加熱するのが良い。フィチン酸は食品を軟化する能力が高く、クエン酸に比べ、低温、短時間で食品が軟化する。しかしながら、フィチン酸単独処理の場合には、調味処理後も食品中にフィチン酸の味が残る傾向がある。
【0061】
クエン酸、フィチン酸を併用すると、夫々単独で使用するよりも各酸の濃度を低濃度に抑えることが可能である。特に、クエン酸濃度をフィチン酸濃度よりも低い条件で処理することにより、硬さも味も良好な軟化食品を得ることができる(実施例6、7)。
【0062】
[他の食材への応用]
りんごのコンポートだけではなく、本発明の軟化食品の製造方法は他の食材についても適用することができる。
【0063】
実施例7の条件、すなわち、0.4重量%フィチン酸、0.2重量%クエン酸を含む処理液中で75℃、105分間、様々な食材を処理し、硬さについて評価を行った。味については各食材によって異なる調味液を使用する必要があるが、フィチン酸、クエン酸の混合処理液で処理する場合には、クエン酸の酸味や、フィチン酸の味が調味上問題とならないことは上述のように確認している。表2に結果を示す。
【0064】
【表2】
【0065】
ナシ(和梨)は硬さ、味ともに良好であった。もも、パイン、メロンは果肉が軟らかくなっても繊維が軟化しなかった。さらに、メロンは上記処理条件では果肉部分が軟らかくなりすぎ、形が崩れてしまうことから、硬さの評価は○となっている。また、キウイは種が、きゅうりは外皮の部分が軟化することはなかった。しかしながら、キウイの種や桃の繊維等は舌に残るとしても、種や繊維が嚥下に問題が生じない程度であれば、そのまま提供することができる。また、キュウリの外皮等は薄く剥くなどして、軟化しにくい部分を準備工程で取り除くことによって、提供可能な軟らかさとすることができる。
【0066】
さらに、にんじん、れんこん、いんげん等についても試験を行った。本発明の方法によっても軟化するが、通常の加熱調理でも十分に軟らかくなることから、本発明の方法の優位性は認められなかった。
【0067】
本発明の軟化食品の製造方法は上述のように、りんごだけではなく、幅広く青果物に適用することができる。
【0068】
本発明の製造方法により製造した食品は、介護食である以上、舌で押しつぶすことができるほどの軟らかさであることは勿論であるが、味が良く、見た目も向上することから、味覚、視覚のうえから満足の得られるものとなっている。
【0069】
また、酵素を用いることなく、食材を軟化することができることから、幅広い食材へ適用可能であり、また、一定の条件で食品を軟化することができるという利点がある。
【要約】
【課題】食材の形状はそのままに維持しながら、舌で押し潰せる程度に軟らかい食品を提供する。
【解決手段】酸を含む処理液で加熱処理することにより、食品を軟化することができる。特に、フィチン酸、クエン酸を混合した処理液で処理することにより、軟化するだけではなく、味の良い軟化食品を製造することができる。
【選択図】図1
図1