【実施例】
【0037】
〔リンゴのコンポート〕
リンゴのコンポートを例に、上記で示した軟化食品製造方法を詳細に説明する。
【0038】
[実施例1]
リンゴは水で洗い、皮をむき、芯を除き、12等分する。1人分およそ13gとなる。下ごしらえをしたリンゴは、酸化による変色を防ぐため、0.3重量%のアスコルビン酸溶液に浸漬する。
【0039】
その後、1.0重量%クエン酸と糖類、香料を含む水溶液に浸漬する。クエン酸等の酸により軟化するとともに、糖類、香料で味も調える。処理液がリンゴの内部に浸透し、軟化工程で軟化反応が短時間に終了するように、一定時間(30分以上)放置し、減圧・常圧を繰り返し、リンゴの内部まで処理液を浸透させる。ここでは、処理液を浸透させるために減圧・常圧を繰り返しているが、浸漬時間を長めにして、処理液を浸透させてもよい。
【0040】
その後、処理液中80℃で、90分間処理する。軟化処理終了後、処理液を廃棄し、水道水で水洗する。処理液が洗い流されるとともに、水道水で冷却されることにより、反応が停止する。
【0041】
次に包装容器にりんごと調味液を充填し浸漬・調味する。りんごのコンポートの場合、糖類、増粘剤、酸味料、甘味料、香料等を含む調味液で味を調え、その後、凍結し流通用に包装し製品化する。
【0042】
調味後、硬さ、味の評価を行った。硬さに関しては、舌で完全に押し潰せることができ、介護食、離乳食として十分な軟らかさであった。味についてはクエン酸による酸味が抜けきらず、やや酸味が強かった。結果を表1に示す。
【0043】
なお、硬さの評価は、完全に舌で潰せるものを◎、ほぼ、舌で潰せるものを○、歯を使う必要があるものを×としている。味は、酸味、加熱臭ともにないものを◎、酸味、又は加熱臭が残るものを○、酸味、加熱臭ともにあるものを×として評価している。
【0044】
[実施例2]
1.0重量%クエン酸に代えて、0.5重量%クエン酸を含む処理液中で80℃、120分間処理した他は実施例1と同様にしてりんごのコンポートを製造し評価を行った。結果を表1に示す。
【0045】
[実施例3]
1.0重量%クエン酸に代えて、1.0重量%フィチン酸を含む処理液中で75℃、45分間処理した他は実施例1と同様にしてりんごのコンポートを製造し評価を行った。結果を表1に示す。
【0046】
[実施例4]
1.0重量%クエン酸に代えて、0.45重量%フィチン酸を含む処理液中で75℃、75分間処理した他は実施例1と同様にしてりんごのコンポートを製造し評価を行った。結果を表1に示す。
【0047】
[実施例5]
1.0重量%クエン酸に代えて、0.4重量%フィチン酸、0.4重量%クエン酸を含む処理液中で75℃、90分間処理した他は実施例1と同様にしてりんごのコンポートを製造し評価を行った。結果を表1に示す。
【0048】
[実施例6]
1.0重量%クエン酸に代えて、0.4重量%フィチン酸、0.2重量%クエン酸を含む処理液中で80℃、75分間処理した他は実施例1と同様にしてりんごのコンポートを製造し評価を行った。結果を表1に示す。
【0049】
[実施例7]
1.0重量%クエン酸に代えて、0.4重量%フィチン酸、0.2重量%クエン酸を含む処理液中で75℃、105分間処理した他は実施例1と同様にしてりんごのコンポートを製造し評価を行った。結果を表1に示す。
【0050】
[実施例8]
1.0重量%クエン酸に代えて、0.3重量%フィチン酸、0.8重量%クエン酸を含む処理液中で75℃、90分間処理した他は実施例1と同様にしてりんごのコンポートを製造し評価を行った。結果を表1に示す。
【0051】
[参考例1]
1.0重量%クエン酸に代えて、2.0重量%クエン酸ナトリウムを含む処理液中で70℃、70間処理した他は実施例1と同様にしてりんごのコンポートを製造し評価を行った。結果を表1に示す。
【0052】
[参考例2]
1.0重量%クエン酸に代えて、0.4重量%フィチン酸を含む処理液中で75℃、90分間処理した他は実施例1と同様にしてりんごのコンポートを製造し評価を行った。結果を表1に示す。
【0053】
[参考例3]
1.0重量%クエン酸に代えて、0.4重量%フィチン酸、0.2重量%クエン酸を含む処理液中で70℃、105分間処理した他は実施例1と同様にしてりんごのコンポートを製造し評価を行った。結果を表1に示す。
【0054】
【表1】
【0055】
軟化食品は、介護食、あるいは離乳食に用いる食品であることから、舌で潰せる程度の硬さであることが条件となる。実施例1〜8で挙げたような酸濃度、加熱温度等の処理条件で処理することにより、食材を軟化することができる。
【0056】
実施例で示した、フィチン酸、クエン酸を混合した処理液以外にも、食品添加物として使用可能な酸である、クエン酸ナトリウム、グルコン酸、グルコン酸ナトリウムを用いて軟化に対する効果の検討を行ったが、軟化には長時間、あるいは高温での処理を必要とした。したがって、フィチン酸、クエン酸以外の酸では、長時間、あるいは高温の処理液で処理する必要があるため工業化する場合にはコストがかかるという問題がある。
【0057】
工業的に生産することを考えると、処理温度は低く、処理時間は短い方が好ましい。具体的には、処理温度としては90℃以下、処理時間としては120分以下であることが望ましい。より好ましくは、処理温度は80℃以下、処理時間は105分以下であることが望ましい。
【0058】
実施例1、2、あるいは実施例3、4に示すように、同じ温度で処理を行う場合には、酸濃度が高いほど、処理時間は短くてよい。
【0059】
また、クエン酸単独処理の場合、添加量は、0.5重量%以上、2.0重量%未満であることが好ましく、また、80℃以上で加熱するのが良い。クエン酸の添加量が0.5重量%以下では軟化が起こらず、また、2.0重量%以上だと、調味液で調味後も酸味が抜け切らない。クエン酸処理の場合には、食材の軟化については、非常に良い評価であるが、味の面では、クエン酸の酸味が強いために、調味液に浸漬後も酸味が強く評価が○となっている。最終的にどのような食品として提供するかによって、味の面で問題が生じる場合がある。
【0060】
フィチン酸単独処理の場合には、添加量は、0.45重量%以上、75℃以上で加熱するのが良い。フィチン酸は食品を軟化する能力が高く、クエン酸に比べ、低温、短時間で食品が軟化する。しかしながら、フィチン酸単独処理の場合には、調味処理後も食品中にフィチン酸の味が残る傾向がある。
【0061】
クエン酸、フィチン酸を併用すると、夫々単独で使用するよりも各酸の濃度を低濃度に抑えることが可能である。特に、クエン酸濃度をフィチン酸濃度よりも低い条件で処理することにより、硬さも味も良好な軟化食品を得ることができる(実施例6、7)。
【0062】
[他の食材への応用]
りんごのコンポートだけではなく、本発明の軟化食品の製造方法は他の食材についても適用することができる。
【0063】
実施例7の条件、すなわち、0.4重量%フィチン酸、0.2重量%クエン酸を含む処理液中で75℃、105分間、様々な食材を処理し、硬さについて評価を行った。味については各食材によって異なる調味液を使用する必要があるが、フィチン酸、クエン酸の混合処理液で処理する場合には、クエン酸の酸味や、フィチン酸の味が調味上問題とならないことは上述のように確認している。表2に結果を示す。
【0064】
【表2】
【0065】
ナシ(和梨)は硬さ、味ともに良好であった。もも、パイン、メロンは果肉が軟らかくなっても繊維が軟化しなかった。さらに、メロンは上記処理条件では果肉部分が軟らかくなりすぎ、形が崩れてしまうことから、硬さの評価は○となっている。また、キウイは種が、きゅうりは外皮の部分が軟化することはなかった。しかしながら、キウイの種や桃の繊維等は舌に残るとしても、種や繊維が嚥下に問題が生じない程度であれば、そのまま提供することができる。また、キュウリの外皮等は薄く剥くなどして、軟化しにくい部分を準備工程で取り除くことによって、提供可能な軟らかさとすることができる。
【0066】
さらに、にんじん、れんこん、いんげん等についても試験を行った。本発明の方法によっても軟化するが、通常の加熱調理でも十分に軟らかくなることから、本発明の方法の優位性は認められなかった。
【0067】
本発明の軟化食品の製造方法は上述のように、りんごだけではなく、幅広く青果物に適用することができる。
【0068】
本発明の製造方法により製造した食品は、介護食である以上、舌で押しつぶすことができるほどの軟らかさであることは勿論であるが、味が良く、見た目も向上することから、味覚、視覚のうえから満足の得られるものとなっている。
【0069】
また、酵素を用いることなく、食材を軟化することができることから、幅広い食材へ適用可能であり、また、一定の条件で食品を軟化することができるという利点がある。