特許第5721918号(P5721918)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5721918
(24)【登録日】2015年4月3日
(45)【発行日】2015年5月20日
(54)【発明の名称】ホイップドクリームおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 1/19 20060101AFI20150430BHJP
   A23D 7/00 20060101ALI20150430BHJP
【FI】
   A23L1/19
   A23D7/00 508
【請求項の数】3
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2014-559595(P2014-559595)
(86)(22)【出願日】2014年8月7日
(86)【国際出願番号】JP2014070905
【審査請求日】2014年12月10日
(31)【優先権主張番号】特願2013-169659(P2013-169659)
(32)【優先日】2013年8月19日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】加藤 健二
【審査官】 白井 美香保
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2011/089751(WO,A1)
【文献】 特開平5−38268(JP,A)
【文献】 特開昭61−31057(JP,A)
【文献】 特開平10−14494(JP,A)
【文献】 国際公開第2005/063039(WO,A1)
【文献】 特開平9−192(JP,A)
【文献】 特開平8−322494(JP,A)
【文献】 特開平10−179070(JP,A)
【文献】 特開平8−298950(JP,A)
【文献】 特開平8−173075(JP,A)
【文献】 特開平7−59532(JP,A)
【文献】 特開平10−155448(JP,A)
【文献】 特開2006−223161(JP,A)
【文献】 特開2006−204129(JP,A)
【文献】 特開2013−99289(JP,A)
【文献】 カネカ、秋向け加工油脂投入 展示会でも紹介,日本食糧新聞,2013年 7月12日
【文献】 当社食品グループ主催の展示会フードフェスタに新製品3品を出展、カスタード味のフィリング、常温用ホイップクリーム、パン練り込み用マーガリンを開発,株式会社カネカホームページ,2013年 7月 2日,URL,http://www.kaneka.co.jp/service/news/130702
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 1/164−1/19
A23D 7/00−9/06
CA/MEDLINE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
CiNii
G−Search
Food Science and Tech Abst(FSTA)(ProQuest Dialog)
Foodline Science(ProQuest Dialog)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カゼイン蛋白質0.1質量%未満、乳清蛋白質0.1質量%以上1.0質量%以下およびHLB12以上のポリグリセリン脂肪酸エステル0.05質量%以上0.5質量%以下を含む起泡性水中油型乳化油脂組成物と酸性呈味素材とを90:10〜30:70の範囲の重量比で含む混合物を起泡してなるホイップドクリームであって、
前記ホイップドクリームは油脂10質量%以上30質量%以下、糖質20質量%以上50質量%以下および水25質量%以上60質量%以下を含み、pHが2.0以上5.5以下であり、前記油脂全体中、パーム核ステアリンを70質量%以上90質量%以下並びに、ヤシ油及び/又はパーム核油と、極度硬化パーム油、極度硬化ローエルシン菜種油および極度硬化ハイエルシン菜種油からなる群より選ばれる少なくとも1種とを20/80〜80/20の範囲の質量比で混合した油脂のランダムエステル交換油を10質量%以上30質量%以下含有する、ホイップドクリーム。
【請求項2】
前記ホイップドクリームをポリカップ容器に10g入れ、25℃で3日間保持したものを1gとり、9gの生理食塩水に混合して得られる混合液1gを標準寒天培地20gに混釈し、37℃で2日間培養してコロニー数をカウントし、コロニー数を10倍した値が10以下である、請求項1に記載のホイップドクリーム。
【請求項3】
カゼイン蛋白質0.1質量%未満、乳清蛋白質0.1質量%以上1.0質量%以下およびHLB12以上のポリグリセリン脂肪酸エステル0.05質量%以上0.5質量%以下を含む起泡性水中油型乳化油脂組成物を準備する工程と、
酸性呈味素材を準備する工程と、
前記起泡性水中油型乳化油脂組成物と前記酸性呈味素材とを90:10〜30:70の範囲の重量比で混合して混合物を得る工程と、
前記混合物を起泡してホイップドクリームを得る工程とを備え、
前記ホイップドクリームは油脂10質量%以上30質量%以下、糖質20質量%以上50質量%以下および水25質量%以上60質量%以下を含み、pHが2.0以上5.5以下であり、
前記油脂全体中、パーム核ステアリンを70質量%以上90質量%以下並びに、ヤシ油及び/又はパーム核油と、極度硬化パーム油、極度硬化ローエルシン菜種油および極度硬化ハイエルシン菜種油からなる群より選ばれる少なくとも1種とを20/80〜80/20の範囲の質量比で混合した油脂のランダムエステル交換油を10質量%以上30質量%以下含有する、ホイップドクリームの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はホイップドクリームおよびその製造方法に関し、特に常温流通可能なホイップドクリームおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ホイップドクリームは、パンや洋菓子などのベーカリー製品、あるいはプリンやムースなどの洋生菓子などの食品においてフィリング材として広く用いられている。ホイップドクリームには、油中水型のクリーム(いわゆるバタークリーム)と、水中油型のクリームとがある。油中水型のクリームは、常温での安定性が良好なため、パンや洋菓子などの常温流通型食品において、広く使用されてきた。しかし、油中水型のクリームは融点の高い油脂を使用すると口溶けが悪化するという問題があった。
【0003】
近年、市場の高級化志向と流通網の発達を背景に、常温流通型食品にあっても口溶けが良好で水々しさがあり、フルーツソース、果汁、ヨーグルト等の各種の酸性呈味素材を混合してもホイップできるバラエティー豊かな風味の水中油型のクリームが求められてきた。
【0004】
特許文献1には、油脂成分中ラウリン系油脂を50重量%以上含み、且つ特定のSFC値を持つ油脂、蛋白質成分、糖類を含む水相、および重合度が4〜10であるポリグリセリン脂肪酸エステルを乳化剤として混合し、予備乳化、均質化、殺菌して、水分活性値が0.96以下の起泡性を有する水中油型乳化油脂の製造方法が開示されている。
【0005】
特許文献2には、油脂中の全トリグリセライドを構成する全脂肪酸残基のうちラウリン酸残基の占める割合が30〜60質量%であり、且つ該油脂中の個々のトリグリセライドを構成する脂肪酸残基の炭素原子数の合計が42〜49であるトリグリセライドの占める割合が油脂中の全トリグリセライドの20〜45質量%であり、且つ該油脂中の個々のトリグリセライドを構成する脂肪酸残基の炭素原子数の合計が50〜62であるトリグリセライドの占める割合が油脂中の全トリグリセライドの4〜15質量%である起泡性水中油型乳化脂用油脂組成物が開示されている。
【0006】
しかし、特許文献1および2のすべての実施例では、蛋白質成分としてカゼイン蛋白質を含有する脱脂粉乳や脱脂濃縮乳を使用しているため、水中油型乳化油脂に酸性呈味素材を混合してpHを2〜5にすると増粘、固化し、ホイップしても所望のオーバーランのホイップドクリームを得ることはできない。
【0007】
特許文献3には、酸性呈味素材と混合してホイップできる水中油型乳化物として、40〜80重量%の水相と、20〜60重量%の油相からなり、0.05〜10重量%の乳清蛋白質、0.2〜5重量%の脱脂乳固形を含み、リン酸塩およびクエン酸塩の総重量が0.01重量%未満である耐酸性の水中油型乳化物が開示されている。しかし、該水中油型乳化物は糖質の含有量が少ないため、常温流通できる品質を有していない。また、仮に該水中油型乳化物中の水や油脂を減らして、糖質を添加することで常温流通の品質を目指しても、製造時の加熱殺菌で焦げが生じ安定して生産することができないという問題がある。
【0008】
特許文献4には、水、油脂、乳清蛋白、乳化剤を含む水中油型乳化物において、乳清蛋白質を0.03〜0.4重量%含むとともに、乳化剤としてレシチンを添加しないで、主要な構成脂肪酸がオレイン酸であるポリグリセリン脂肪酸エステル及びHLB値が4〜15の範囲にあるショ糖脂肪酸エステルを含む耐酸性及び起泡性を有する水中油型乳化物が開示されている。また、特許文献5には、油脂、カゼインタンパク質/ホエータンパク質が特定の質量比であるタンパク質、レシチン、特定の平均グリセリン重合度と特定のHLBであるポリグリセリン飽和脂肪酸エステル、食物繊維および/または化工澱粉を含有する、通常のホイップクリームとしての風味と性能とを有し、更に耐酸性と凍結耐性を有するホイップクリーム組成物が開示されている。しかし、特許文献4および5のすべての実施例では、硬化パーム核油(34℃)やパーム核油とパーム核硬化油脂の混合油(8:2)しか用いていないため、酸性物質とブレンドしてホイップしたホイップドクリームは経時的に硬くなって締まり易く、離水が多いという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平10−155448号公報
【特許文献2】特開2007−282535号公報
【特許文献3】特開2000−262236号公報
【特許文献4】国際公開第06/035543号
【特許文献5】特開平08−154612号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、フルーツソース、果汁、ヨーグルト等の各種の酸性呈味素材を混合してもホイップでき、かつ口溶けおよび水々しさが良好で、保型性に優れ、離水の少ない常温流通可能なホイップドクリームおよびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、カゼイン蛋白質0.1質量%未満、乳清蛋白質0.1質量%以上1.0質量%以下およびHLB12以上のポリグリセリン脂肪酸エステル0.05質量%以上0.5質量%以下を含む起泡性水中油型乳化油脂組成物と酸性呈味素材とを90:10〜30:70の範囲の重量比で含む混合物を起泡してなるホイップドクリームであって、該ホイップドクリームは油脂10質量%以上30質量%以下、糖質20質量%以上50質量%以下および水25質量%以上60質量%以下を含み、pHが2.0以上5.5以下であり、該油脂全体中、パーム核ステアリンを70質量%以上90質量%以下並びに、ヤシ油及び/又はパーム核油と、極度硬化パーム油、極度硬化ローエルシン菜種油および極度硬化ハイエルシン菜種油からなる群より選ばれる少なくとも1種とを20/80〜80/20の範囲の質量比で混合した油脂のランダムエステル交換油を10質量%以上30質量%以下含有する。
【0012】
好ましい態様では、前記ホイップドクリームをポリカップ容器に10g入れ、25℃で3日間保持したものを1gとり、9gの生理食塩水に混合して得られる混合液1gを標準寒天培地20gに混釈し、37℃で2日間培養してコロニー数をカウントし、コロニー数を10倍した値が10以下である。
【0013】
また本発明は、カゼイン蛋白質0.1質量%未満、乳清蛋白質0.1質量%以上1.0質量%以下およびHLB12以上のポリグリセリン脂肪酸エステル0.05質量%以上0.5質量%以下を含む起泡性水中油型乳化油脂組成物を準備する工程と、酸性呈味素材を準備する工程と、該起泡性水中油型乳化油脂組成物と該酸性呈味素材とを90:10〜30:70の範囲の重量比で混合して混合物を得る工程と、該混合物を起泡してホイップドクリームを得る工程とを備え、前記ホイップドクリームは油脂10質量%以上30質量%以下、糖質20質量%以上50質量%以下および水25質量%以上60質量%以下を含み、pHが2.0以上5.5以下であり、該油脂全体中、パーム核ステアリンを70質量%以上90質量%以下並びに、ヤシ油及び/又はパーム核油と、極度硬化パーム油、極度硬化ローエルシン菜種油および極度硬化ハイエルシン菜種油からなる群より選ばれる少なくとも1種とを20/80〜80/20の範囲の質量比で混合した油脂のランダムエステル交換油を10質量%以上30質量%以下含有する、ホイップドクリームの製造方法である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、フルーツソース、果汁、ヨーグルト等の各種の酸性呈味素材を混合してもホイップでき、かつ口溶けおよび水々しさが良好で、保型性に優れ、離水の少ない常温流通可能なホイップドクリームおよびその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
<ホイップドクリーム>
本発明の一実施の形態において、ホイップドクリームは、起泡性水中油型乳化油脂組成物と酸性呈味素材とを含む混合物を起泡してなる。
【0016】
ホイップドクリームのpHは、2.0以上5.5以下であり、好ましくは2.5以上5.0以下、より好ましくは3.0以上4.9以下である。pHが2.0未満では酸味が強すぎる場合があり、一方、5.5を超えると酸性呈味材の風味が弱い場合があり好ましくない。
【0017】
ホイップドクリームのpHの測定は、pH METER(株式会社堀場製作所製「F-52」)を用いて行う。
【0018】
ホイップドクリームのオーバーランは、100%以上が好ましく、130〜180%がより好ましい。オーバーランが100%未満であると口溶けが重く感じる場合があり好ましくない。なお、ホイップドクリームのオーバーランとは、ホイップドクリームに含まれる空気の割合を%で示したものである。
【0019】
オーバーランの測定は、はじめに、起泡性水中油型乳化油脂組成物と酸性呈味素材とを合わせて特定量になるように混合し、得られた混合液を100cmの容器に入れ、質量を測る。該混合液をトッピングするのに適度な硬さに到達するまでホイップし、得られたホイップドクリームを100cmの容器に入れ、質量を測る。そしてこれらの測定値を基に、次式でオーバーランを求めることができる。
【0020】
オーバーラン(%)=[(一定容積の起泡性水中油型乳化油脂組成物と酸性呈味素材の混合液の質量)−(一定容積のホイップドクリームの質量)]÷(一定容積のホイップドクリームの質量)×100
<起泡性水中油型乳化油脂組成物>
本発明の一実施の形態におけるホイップドクリームに用いる起泡性水中油型乳化油脂組成物は、水を主体とする水相と、油脂を主体とする油相とを含み、水相中に油相からなる油滴が分散している。
【0021】
<油相>
油相は、油脂、乳化剤、香料および着色料などを含むことができる。
【0022】
(油脂)
油脂としては、ナタネ油、コーン油、綿実油、パーム油、パーム核油、ヤシ油、大豆油、ひまわり油、サフラワー油、オリーブ油等の植物性油脂や、乳脂肪、牛脂、豚脂、魚油等の動物性油脂が例示でき、これらを硬化、分別、エステル交換等の加工処理を行ったものも用いることができる。これらの油脂は単独でも用いることができるし、2種類以上を組み合わせて用いることもできる。中でも、パーム核油、硬化パーム核油、ヤシ油、硬化ヤシ油、パーム核オレイン、パーム核ステアリン、硬化パーム核ステアリン、パーム油、パームオレイン、パームダブルオレイン、パーム中融点部やこれらの植物性油脂の部分硬化油、または極度硬化油、これらのランダムエステル交換油を用いることが好ましい。特に、パーム核ステアリンと特定のエステル交換油からなることが好ましい。前記エステル交換油は、ヤシ油及び/又はパーム核油と、極度硬化パーム油、極度硬化ローエルシン菜種油および極度硬化ハイエルシン菜種油からなる群より選ばれる少なくとも1種とのランダムエステル交換油であることがより好ましい。前記ランダムエステル交換油は、ヤシ油及び/又はパーム核油と、極度硬化パーム油、極度硬化ローエルシン菜種油および極度硬化ハイエルシン菜種油からなる群より選ばれる少なくとも1種とを20/80〜80/20の範囲の質量比で混合した油脂のランダムエステル交換油であることが好ましく、該比は40/60〜60/40がより好ましい。
【0023】
エステル交換油の製造方法は特に限定なく、一般的な方法を用いて製造することができる。たとえば、ナトリウムメチラート、ナトリウムエチラートを原料油脂に対して0.01〜1.0質量%添加することでランダムエステル交換反応を起こす化学法、リパーゼなどの酵素を用いてエステル交換を行なう酵素法などを用いることができる。
【0024】
油脂の含有量は、ホイップドクリーム全体中10質量%以上30質量%以下が好ましく、15質量%以上25質量%以下がより好ましい。油脂が10質量%未満であると、オーバーランが高くならずに保型性が悪くなる場合がある。また、30質量%を超えると口溶けが重く、油っぽく感じる場合がある。
【0025】
起泡性水中油型乳化油脂組成物の油脂成分中、パーム核ステアリン70質量%以上90質量%以下並びに、ヤシ油及び/又はパーム核油と、極度硬化パーム油、極度硬化ローエルシン菜種油および極度硬化ハイエルシン菜種油からなる群より選ばれる少なくとも1種とのランダムエステル交換油10質量%以上30質量%以下を含むことが好ましい。パーム核ステアリンの含有量が70質量%未満であると、口溶けが重く、油っぽく感じる場合があり、90質量%を超えると、ホイップ後に硬く締まりやすくなる場合がある。また、ランダムエステル交換油が10質量%未満であると、ホイップ後に硬く締まりやすくなる場合があり、30質量%を超えると、口溶けが重く油っぽく感じる場合がある。パーム核ステアリンの含有量は78質量%以上88質量%以下がさらに好ましく、ランダムエステル交換油の含有量は12質量%以上22質量%以下がさらに好ましい。
【0026】
(乳化剤)
油相は、油相に溶解可能な乳化剤を含有することができる。油相に溶解可能とは、乳化剤のHLBが8以下であることを意味する。
【0027】
油相に含まれる乳化剤としては、たとえばグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、大豆レシチン、卵黄レシチン、及びこれらの分画レシチン、酵素分解したリゾレシチンといった改質レシチンなどのレシチン類が挙げられ、これらを少なくとも1種用いることができる。中でも、レシチンとショ糖脂肪酸エステルを併用することが好ましい。
【0028】
レシチンの含有量は、起泡性水中油型乳化油脂組成物全体中、0.01質量%以上0.15質量%以下が好ましく、0.02質量%以上0.1質量%以下がより好ましい。0.01質量%未満であると、保型性が悪くなる場合があり、0.15質量%を超えると、ホイップドクリームが経時的に硬く変化しやすくなる場合がある。
【0029】
ショ糖脂肪酸エステルを使用することで、乳化安定性を向上することができる。ショ糖脂肪酸エステルの含有量は、起泡性水中油型乳化油脂組成物全体中0.01質量%以上0.2質量%以下が好ましく、0.02質量%以上0.15質量%以下がより好ましい。0.01質量%未満であると、乳化安定性が悪くなる場合があり、0.2質量%を超えると、苦みが出てきて風味を損なう場合がある。
【0030】
(各種添加剤)
油相は、油脂、乳化剤の他に、各種添加剤として着色料や香料などを含むことができる。着色料や香料は、食品用であれば特に限定はなく、必要に応じて適宜使用することができる。
【0031】
<水相>
水相は、水、糖質、乳蛋白質、乳化剤および各種添加剤を含むことができる。
【0032】
(水)
水相は水を含む。水の含有量はホイップドクリーム全体中25質量%以上60質量%以下が好ましく、30質量%以上50質量%以下がより好ましい。25質量%未満であると水々しさが損なわれる場合があり、60質量%を超えると常温流通時に腐敗する場合がある。
【0033】
(糖質)
水相は糖質を含む。糖質とは、炭水化物から食物繊維を除いたものであり、ぶどう糖、果糖などの単糖類、砂糖、乳糖、麦芽糖などの二糖類、オリゴ糖、デキストリン、でんぷんなどの三糖類以上の多糖類、還元麦芽糖水飴、エリスリトール、キシリトール、マルチトールなどの糖アルコール、キサンタンガム、グアーガム、カラギーナン、寒天、ゼラチン、タマリンドガム、ローカストビーンガム、アルギン酸類、ペクチン、セルロースおよびその誘導体などが挙げられる。中でも、ぶどう糖、砂糖、乳糖、麦芽糖およびオリゴ糖などの糖類、キサンタンガム、グアーガムおよびカラギーナンなどの増粘剤を用いることが好ましい。
【0034】
糖質の含有量は、ホイップドクリーム全体中20質量%以上50質量%以下であり、30質量%以上40質量%以下が好ましい。20質量%未満であると、常温流通時に腐敗する場合があり、50質量%を超えると甘味が強くなりすぎる場合や、水々しさが損なわれる場合がある。
【0035】
(乳蛋白質)
水相は乳蛋白質として乳清蛋白質のみ、或いは乳清蛋白質及びカゼイン蛋白質を含む。
【0036】
カゼイン蛋白質は、乳のpHを20℃でpH4.6にした時に沈殿する蛋白質のことであり、αS1カゼイン、αS2カゼイン、βカゼイン、κカゼイン、γカゼインの4種の蛋白質を指す。たとえば、カゼイン蛋白質を含有する蛋白質として、生乳、牛乳、特別牛乳、部分脱脂乳、脱脂乳、加工乳、クリーム、バター、チーズ、アイスクリーム類、濃縮乳、脱脂濃縮乳、無糖れん乳、無糖脱脂れん乳、加糖れん乳、加糖脱脂れん乳、全粉乳、脱脂粉乳、クリームパウダーなど、乳及び乳製品の成分規格等に関する省令(乳等省令)に定義される乳及び乳製品に由来する乳蛋白質、トータルミルクプロテインのようなUF膜やイオン交換樹脂処理等により分離、分画した乳由来の蛋白質、乳のpHを酸性にして沈殿したカゼイン蛋白質に、塩類を添加して可溶化させたカゼインナトリウム、カゼインカルシウム、カゼインカリウム、カゼインマグネシウムのようなカゼイン蛋白質の塩類などが挙げられる。
【0037】
カゼイン蛋白質は耐酸性を付与するためには少ない程良く、その含有量は、起泡性水中油型乳化油脂組成物全体中0.1質量%未満が好ましく、0.05質量%未満がより好ましく、含有しないことが最も好ましい。カゼイン蛋白質の含有量が0.1質量%を超えると、酸性呈味素材を混合してpHを2〜5にすると増粘、固化し、ホイップしても所望のオーバーランのホイップドクリームを得ることはできない場合がある。
【0038】
乳清蛋白質は、乳を20℃でpH4.6にした際の乳清中に存在する蛋白画分であり、たとえば、チーズホエー、カゼインホエー等が例示できる。中でも牛乳から、クリーム、カゼインが分画された残り、またはチーズカードを絞った残りを脱塩、濃縮、乾燥して粉末化したホエー蛋白濃縮物が、ホエー蛋白質含量が高く且つ使用しやすい為に好ましい。
【0039】
乳清蛋白質の含有量は、起泡性水中油型乳化油脂組成物全体中、0.1質量%以上1.0質量%以下が好ましく、0.3質量%以上0.8質量%以下がより好ましい。0.1質量%未満であると、乳化が不安定になる場合がある。1.0質量%を超えると、起泡性水中油型乳化油脂組成物製造時の加熱殺菌で焦げが生じ安定して生産することができない場合がある。
【0040】
(乳化剤)
水相は、水相に溶解可能な乳化剤を含む。水相に溶解可能とは、乳化剤のHLBが6以上であることを意味する。
【0041】
水相は乳化剤として、HLB12以上のポリグリセリン脂肪酸エステルを必ず含む。ポリグリセリン脂肪酸エステルは、グリセリンを重合したポリグリセリンと脂肪酸とのエステル化生成物である。HLBは、HLB12以上18以下が好ましく、13以上16以下がより好ましい。HLB12未満では、起泡性水中油型乳化油脂組成物の製造時の加熱殺菌での焦げ抑制効果が不十分で、起泡性水中油型乳化油脂組成物を安定して生産することができない場合がある。HLB18を超えるポリグリセリン脂肪酸エステルは一般には販売されておらず、入手が困難である。
【0042】
ポリグリセリン脂肪酸エステルの平均グリセリン重合度は、6〜10が好ましく、10がより好ましい。重合度が6未満では、HLBが12以上であっても製造時の加熱殺菌での焦げ抑制効果が不十分となる場合がある。重合度が10を超えるものは一般には販売されておらず、入手が困難である。また、エステル化度は1〜3が好ましく、1〜2がより好ましい。ここでエステル化度とは、ポリグリセリン1分子に結合する脂肪酸の分子数を指す。エステル化度が1未満では、エステル化されていないポリグリセリンを多く含むこととなり、乳化が不安定となる場合や、起泡性水中油型乳化油脂組成物の製造時の加熱殺菌での焦げ抑制効果が不十分となる場合がある。エステル化度が3を超えると、HLBが12以上であっても起泡性水中油型乳化油脂組成物の製造時の加熱殺菌での焦げ抑制効果が不十分となる。さらに、主要構成脂肪酸は、ステアリン酸、オレイン酸が好ましく、ステアリン酸がより好ましい。
【0043】
HLB12以上のポリグリセリン脂肪酸エステルとしては、ヘキサグリセリンモノラウレート、デカグリセリンモノステアレート等が挙げられ、これらの中でも、特にヘキサグリセリンモノステアレートが、加熱殺菌時の蛋白質の焦げ抑制効果が顕著であり好ましい。
【0044】
HLB12以上のポリグリセリン脂肪酸エステルの含有量は、起泡性水中油型乳化油脂組成物中0.05質量%以上0.5質量%以下が好ましく、より好ましくは0.1質量%以上0.4質量%以下である。ポリグリセリン脂肪酸エステルの含有量が0.05質量%未満であると、加熱殺菌時の蛋白質の焦げ抑制効果が不十分となる場合ある。0.5質量%を超えるとホイップドクリームの風味が悪くなる場合がある。
【0045】
水相は、HLB12以上のポリグリセリン脂肪酸エステル以外の乳化剤をさらに含有することができる。該乳化剤としては、たとえばグリセリン脂肪酸エステル、HLB12未満のポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、大豆レシチン、卵黄レシチン、及びこれらの分画レシチン、更には酵素分解したリゾレシチンといった改質レシチンなどのレシチン類が挙げられ、これらを少なくとも1種用いることができる。中でも、ショ糖脂肪酸エステルを用いることが好ましい。
【0046】
ショ糖脂肪酸エステルを使用することで、乳化安定性を向上することができる。ショ糖脂肪酸エステルの含有量は、起泡性水中油型乳化油脂組成物全体中0.01質量%以上0.2質量%以下が好ましく、0.02質量%以上0.15質量%以下がより好ましい。0.01質量%未満であると、乳化安定性が悪くなる場合があり、0.2質量%を超えると、苦みが出てきて風味を損なう場合がある。
【0047】
(各種添加剤)
水相は、カゼイン蛋白質、乳清蛋白質、ポリグリセリン脂肪酸エステル、糖質、乳化剤の他に、塩類、日持ち向上剤、着色料や香料を含むことができる。
【0048】
塩類としては、たとえば塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリム、炭酸カリウム、リン酸ナトリウム、リン酸水素ナトリウム、リン酸カリウム、リン酸水素カリウム、ヘキサンメタリン酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、クエン酸カリウム、クエン酸カルシウム、酒石酸ナトリウム、酒石酸カリウム、酒石酸水素ナトリム、酒石酸水素カリウム、乳酸ナトリウム、乳酸カリウム、リンゴ酸ナトリム、リンゴ酸カリウム、コハク酸ナトリウム、コハク酸カリウム、ソルビン酸カリウム、ステアリン酸カルシウム等が挙げられる。塩類の含有量は、本発明の効果を損なわない範囲で適宜調整することができる。
【0049】
日持ち向上剤としては、たとえばグリシン、リゾチーム、ポリリジン、酢酸ナトリウムなどが挙げられる。たとえば、グリシンとリゾチームを質量比で2:1〜100:1の範囲で、ホイップドクリーム全体中0.1質量%以上5質量%以下の範囲で添加することが好ましい。なお、該日持ち向上剤は、起泡性水中油型乳化油脂組成物の水相、または起泡性水中油型乳化油脂組成物と酸性呈味素材とを含む混合物に添加することができる。
【0050】
着色料や香料は、食品用であれば特に限定はなく、必要に応じて適宜使用することができる。
【0051】
<酸性呈味素材>
酸性呈味素材としては、イチゴ、ブルーベリー、パイン、パッションフルーツ、オレンジ、リンゴ、白桃、黄桃、ブドウ、グァバ、パパイア、メロン、スイカ、グレープフルーツ、レモン、マンゴー、ラズベリー、ライチ、あんず、ゆず、みかん、キウイ、いちじく、カシス、アセロラ、プルーン、梨、洋ナシなどの果実、またこれらを加工した果汁、濃縮果汁、フルーツピューレ、フルーツソース、ジャム、ペーストや、アジピン酸、クエン酸、グルコン酸、リンゴ酸、酒石酸、酢酸、乳酸、炭酸、コハク酸、フマル酸、リン酸などの有機酸や、ヨーグルト、発酵乳、発酵果汁、ワインなどの発酵食品やコーヒーなどの飲料が挙げられる。
【0052】
酸性呈味素材の含有量は、ホイップドクリームのpHを好適に調整するために、ホイップドクリーム全体中10質量%以上70質量%以下であることが好ましく、20質量%以上60質量%以下であることがさらに好ましい。そして、ホイップドクリーム中の前記起泡性水中油型乳化油脂組成物と酸性呈味素材との質量比は、90:10〜30:70であることが好ましい。
【0053】
<ホイップドクリームの製造方法>
本発明の一実施の形態において、ホイップドクリームの製造方法は、カゼイン蛋白質0.1質量%未満、乳清蛋白質0.1質量%以上1.0質量%以下およびHLB12以上のポリグリセリン脂肪酸エステル0.05質量%以上0.5質量%以下を含む起泡性水中油型乳化油脂組成物を準備する工程と、酸性呈味素材を準備する工程と、該起泡性水中油型乳化油脂組成物と該酸性呈味素材とを90:10〜30:70の範囲の重量比で混合して混合物を得る工程と、該混合物を起泡してホイップドクリームを得る工程とを備え、前記ホイップドクリームは油脂10質量%以上30質量%以下、糖質20質量%以上50質量%以下および水25質量%以上60質量%以下を含み、pHが2.0以上5.5以下であり、該油脂全体中、パーム核ステアリンを70質量%以上90質量%以下並びに、ヤシ油及び/又はパーム核油と、極度硬化パーム油、極度硬化ローエルシン菜種油および極度硬化ハイエルシン菜種油からなる群より選ばれる少なくとも1種とを20/80〜80/20の範囲の質量比で混合した油脂のランダムエステル交換油を10質量%以上30質量%以下含有する。
【0054】
(起泡性水中油型乳化油脂組成物を準備する工程)
はじめに、50〜80℃に加温融解した油脂に油溶性乳化剤、香料、着色料などの油溶性原料を所定量混合して油相部を得る。一方、50〜70℃の温水にHLB12以上のポリグリセリン脂肪酸エステルや水溶性乳化剤、カゼイン蛋白質、乳清蛋白質、糖質、塩類、増粘剤、香料などの水系原料を所定量攪拌溶解して水相部を得る。該水相部に油相部を添加し、予備乳化する。
【0055】
その後、微細化、均質化、予備加熱、殺菌、1次冷却、均質化、2次冷却、3次冷却、エージングなどの起泡性水中油型乳化油脂組成物の製造において通常行われる各処理を行うことにより、起泡性水中油型乳化油脂組成物を得ることができる。
【0056】
(酸性呈味素材を準備する工程)
酸性呈味素材を準備する。酸性呈味素材としては、イチゴ、ブルーベリー、パイン、パッションフルーツ、オレンジ、リンゴ、白桃、黄桃、ブドウ、グァバ、パパイア、メロン、スイカ、グレープフルーツ、レモン、マンゴー、ラズベリー、ライチ、あんず、ゆず、みかん、キウイ、いちじく、カシス、アセロラ、プルーン、梨、洋ナシなどの果実をそのまま用いることができる。またこれらの果実を加工した果汁、濃縮果汁、フルーツピューレ、フルーツソース、ジャム、ペーストを用いることができる。さらに、アジピン酸、クエン酸、グルコン酸、リンゴ酸、酒石酸、酢酸、乳酸、炭酸、コハク酸、フマル酸、リン酸などの有機酸や、ヨーグルト、発酵乳、発酵果汁、ワインなどの発酵食品やコーヒーなどの飲料を用いることができる。
【0057】
(混合物を得る工程)
起泡性水中油型乳化油脂組成物と酸性呈味素材とを90:10〜30:70の範囲の重量比、好ましくは80:20〜40:60の範囲の重量比で、混合装置やプレッシャーミキサーなどを用いて混合して、pHが2.0以上5.5以下となるように調整された混合物を得る。
【0058】
(ホイップドクリームを得る工程)
得られた混合物をオープン式ホイッパーや密閉式連続ホイップマシンを用いて、トッピングするのに適度な硬さに到達するまでホイップして、ホイップドクリームを得る。
【実施例】
【0059】
以下に実施例を示し、本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。なお、実施例において「部」や「%」は質量基準である。
【0060】
<起泡性水中油型乳化油脂組成物の作製>
(製造例1)
表1に示す配合に従って、起泡性水中油型乳化油脂組成物を作製した。即ち、パーム中融点部27.0質量部とヤシ油と極度硬化パーム油(70質量部:30質量部)のエステル交換油(1)5.0質量部に、ポリグリセリン脂肪酸エステル(HLB=4)0.2質量部、ショ糖脂肪酸エステル(HLB=1.0)0.04質量部、大豆レシチン0.04質量部を添加し、65℃で溶解して油相部を作製した。
【0061】
一方、ホエー蛋白濃縮物0.3質量部、ポリグリセリン脂肪酸エステル(HLB=13.4)0.4質量部、ショ糖脂肪酸エステル(HLB=16.0)0.03質量部、グラニュー糖11.0質量部、マルトース10.0質量部、乳糖6.0質量部、キサンタンガム0.002質量部、グアーガム0.015質量部およびクエン酸三ナトリウム0.15質量部を60℃の水39.823質量部に溶解して水相部を作製した。
【0062】
上記水相部に油相部を加えて混合した後20分間予備乳化し、その後、高圧ホモジナイザーを用いて4MPaの圧力で処理した後に、UHT殺菌機を用いて142℃で4秒間殺菌処理した。その後、再び高圧ホモジナイザーを用いて6MPaの圧力で処理し、その後、冷却機で5℃まで冷却したものを容器に充填し、起泡性水中油型乳化油脂組成物を得た。
【0063】
(製造例2)
表1に示す配合に従い、パーム中融点部をパーム核ステアリンにした以外は、製造例1と同様にして起泡性水中油型乳化油脂組成物を得た。
【0064】
(製造例3)
表1に示す配合に従い、ヤシ油と極度硬化パーム油(70質量部:30質量部)のエステル交換油(1)をヤシ油と極度硬化ハイエルシン菜種油(50質量部:50質量部)のエステル交換油(2)に変更した以外は、製造例2と同様にして起泡性水中油型乳化油脂組成物を得た。
【0065】
(製造例4)
表1に示す配合に従い、油脂の添加量を32.0質量部から22.2質量部に減少し、油脂の減少分を糖質と水で、全体量を調整した以外は、製造例2と同様にして起泡性水中油型乳化油脂組成物を得た。
【0066】
(製造例5、6)
表1に示す配合に従い、ホエー蛋白濃縮物の添加量を変更し、水で全体量を調整した以外は、製造例2と同様にして起泡性水中油型乳化油脂組成物を得た。
【0067】
(製造例7、8)
表1に示す配合に従い、ポリグリセリン脂肪酸エステル(HLB=13.4)の添加量を変更し、水で全体量を調整した以外は、製造例2と同様にして起泡性水中油型乳化油脂組成物を得た。
【0068】
(製造例9)
表1に示す配合に従い、グリシンとリゾチームを添加し、水で全体量を調整した以外は、製造例2と同様にして起泡性水中油型乳化油脂組成物を得た。
【0069】
(製造例10)
表1に示す配合に従い、脱脂粉乳を添加し、乳糖を減らして全体量を調整した以外は、製造例2と同様にして起泡性水中油型乳化油脂組成物を得た。
【0070】
(製造例11)
表1に示す配合に従い、ポリグリセリン脂肪酸エステルのHLBを13.4から11.6に変更した以外は、製造例2と同様の操作を行ったが、加熱殺菌時に蛋白質の焦げが発生し、起泡性水中油型乳化油脂組成物を作製できなかった。
【0071】
(製造例12)
表1に示す配合に従い、油脂の添加量を32.0質量部から45.0質量部に増加し、グラニュー糖とマルトースを添加せず、乳糖と水で全体量を調整した以外は、製造例2と同様にして起泡性水中油型乳化油脂組成物を得た。
【0072】
(製造例13)
表1に示す配合に従い、ヤシ油と極度硬化パーム油(70質量部:30質量部)のエステル交換油(1)をヤシ油と極度硬化ローエルシン菜種油(50質量部:50質量部)のエステル交換油(3)に変更した以外は、製造例2と同様にして起泡性水中油型乳化油脂組成物を得た。
【0073】
(製造例14)
表1に示す配合に従い、主要構成脂肪酸がステアリン酸のポリグリセリン脂肪酸エステル(HLB13.4)を主要構成脂肪酸がオレイン酸のポリグリセリン脂肪酸エステル(HLB12.9)にした以外は、製造例2と同様にして起泡性水中油型乳化油脂組成物を得た。
【0074】
(製造例15)
表1に示す配合に従い、大豆レシチンを主要構成脂肪酸がオレイン酸のポリグリセリン脂肪酸エステル(HLB8.8)にした以外は、製造例2と同様にして起泡性水中油型乳化油脂組成物を得た。
【0075】
(製造例16)
表1に示す配合に従い、パーム中油融点部とエステル交換油を、硬化パーム油(融点34℃)にした以外は、製造例1と同様にして起泡性水中油型乳化油脂組成物を得た。
【0076】
【表1】
【0077】
(1)パーム核ステアリン:カネカ社製「パームカーネルステアリン」
(2)パーム中融点部:カネカ社製「パーム中融点部」
(3)エステル交換油(1):カネカ社製「エステル交換油脂(ヤシ油と極度硬化パーム油(70質量部:30質量部)のエステル交換油脂)」
(4)エステル交換油(2):カネカ社製「エステル交換油脂(ヤシ油と極度硬化ハイエルシン菜種油(50質量部:50質量部)のエステル交換油脂)」
(5)ポリグリセリン脂肪酸エステル(HLB4):太陽化学社製「サンファットPS−66(平均グリセリン重合度:6、主要構成脂肪酸:ステアリン酸、エステル化度:6)」
(6)ショ糖脂肪酸エステル(HLB1):三菱化学フーズ社製「P−170」
(7)大豆レシチン:ADM社製「Yelkin TS」
(8)脱脂粉乳:よつ葉乳業社製「脱脂粉乳(カゼイン蛋白質28.5質量%、乳清蛋白質7.1質量%)」
(9)ホエー蛋白濃縮物:Warrnambool社製「WPC80(カゼイン蛋白質0質量%、乳清蛋白質46.5質量%)」
(10)ポリグリセリン脂肪酸エステル(HLB13.4):阪本薬品工業社製「MSW−7S(水分60%、ポリグリセリン脂肪酸エステル40%、平均グリセリン重合度:10、主要構成脂肪酸:ステアリン酸、エステル化度:1)」
(11)ポリグリセリン脂肪酸エステル(HLB11.6):阪本薬品工業社製「MS−5S(平均グリセリン重合度:6、主要構成脂肪酸:ステアリン酸、エステル化度:1)」
(12)ショ糖脂肪酸エステル(HLB16):三菱化学フーズ社製「P−1670」
(13)グラニュー糖:フジ日本精糖社製「グラニュ糖FNGMS」
(14)マルトース:林原社製「サンマルトミドリ」
(15)乳糖:HILMAR社製「ラクトースHILMAR FINE GRAIND」(16)キサンタンガム:Archer Daniels Midland社製「ノヴァザン200メッシュ」
(17)グアーガム:星和社製「グアーガムXS−5000」
(18)クエン酸三ナトリウム:扶桑化学工業社製「精製クエン酸ナトリウム」
(19)グリシン:昭和電工社製「グリシン」
(20)リゾチーム:エーザイフード・ケミカル社製「卵白リゾチーム」
(24)硬化パーム油(融点34℃):カネカ社製「硬化パーム油(融点34℃)」
(25)エステル交換油(3):カネカ社製「エステル交換油脂(ヤシ油と極度硬化ローエルシン菜種油(50質量部:50質量部)のエステル交換油脂)」
(26)ポリグリセリン脂肪酸エステル(HLB8.8):阪本薬品工業社製「MO−3S(平均グリセリン重合度:4、主要構成脂肪酸:オレイン酸、エステル化度:1)」
(27)ポリグリセリン脂肪酸エステル(HLB12.9):阪本薬品工業社製「MO−7S(平均グリセリン重合度:10、主要構成脂肪酸:オレイン酸、エステル化度:1)」
<起泡性水中油型乳化油脂組成物の加熱殺菌時の蛋白質の焦げ発生の有無の検討>
製造例1〜12の起泡性水中油型乳化油脂組成物を100kg/Hrの流量で作製時の、UHT殺菌開始直後のUHT殺菌機入口圧力に対する起泡性水中油型乳化油脂組成物100kgをUHT殺菌処理した後のUHT殺菌機入口圧力の上昇率、およびUHT殺菌機のインジェクション部への焦げた蛋白質の付着度合いを目視で評価した。その際の評価基準は、以下の通りであった。
A:UHT殺菌による圧力の上昇率が10%未満であり、インジェクション部への蛋白質の付着がなく、生産には問題が全くない。
B:UHT殺菌による圧力の上昇率が10%以上20%未満であり、インジェクション部への蛋白質の付着が若干見られるが、生産には問題ない。
C:UHT殺菌による圧力の上昇率が20%以上40%未満であり、インジェクション部への蛋白質の付着が見られ、安定して生産するには問題がある。
D:UHT殺菌による圧力の上昇率が40%以上であり、インジェクション部への蛋白質の付着が多く見られ、安定して生産できない。
【0078】
なお、評価結果は表1に示す。
<評価結果>
製造例1〜10,12〜16は、加熱殺菌時の蛋白質の付着がないか、または若干の付着であり、生産には問題がなかった。
【0079】
製造例11は、インジェクション部への蛋白質の付着が多く、起泡性水中油型乳化油脂組成物を製造できなかった。
【0080】
<ホイップドクリームの作製>
(実施例1)
製造例13で作製した起泡性水中油型乳化油脂組成物0.7kgとフルーツソースイチゴ0.3kgとを混合し、ホバートミキサー(ホバート・ジャパン株式会社製「N−50(5コート)」)を用いて2速でトッピングするのに適度な硬さに到達するまでホイップしホイップドクリームを得た。
【0081】
(実施例2〜9、14及び15、比較例1〜4)
表2に示す配合に従い、起泡性水中油型乳化油脂組成物の種類を変更した以外は、実施例1と同様の方法でホイップし、ホイップドクリームを作製した。
【0082】
【表2】
【0083】
(21)フルーツソースイチゴ:カネカ社製「ストロベリーソース100」(pH3.6、糖質59%、水分40%)
(実施例16、17)
表3に示す配合に従い、起泡性水中油型乳化油脂組成物の種類と、起泡性水中油型乳化油脂組成物とフルーツソースイチゴのブレンド比率を変更した以外は、実施例1と同様の方法でホイップし、ホイップドクリームを作製した。
【0084】
(実施例18、19)
表3に示す配合に従い、酸性呈味素材の種類を変更した以外は、実施例1と同様の方法でホイップし、ホイップドクリームを作製した。
【0085】
(比較例5、6)
表3に示す配合に従い、起泡性水中油型乳化油脂組成物の種類と、起泡性水中油型乳化油脂組成物とフルーツソースイチゴのブレンド比率を変更した以外は、実施例1と同様の方法でホイップし、ホイップドクリームを作製した。
【0086】
(比較例7、8)
表3に示す配合に従い、起泡性水中油型乳化油脂組成物の種類と、酸性呈味素材の種類を変更した以外は、実施例1と同様の方法でホイップし、ホイップドクリームを作製した。
【0087】
【表3】
【0088】
(21)フルーツソースイチゴ:カネカ社製「ストロベリーソース100」(pH3.6、糖質59%、水分40%)
(22)濃縮果汁バレンシアオレンジ:日本果実加工社製「バレンシアオレンジ濃縮混濁果汁冷凍」(pH3.5、糖質55%、水分43%)
(23)ヨーグルト:カネカ社製「ララクールS500」(pH3.8、糖質54%、水分43%)
<pHの評価>
実施例及び比較例で得られたホイップドクリームのpHを、pH METER(株式会社堀場製作所製「F-52」)を用いて測定した。
【0089】
<ホイップ時間の評価>
ホイップ時間は、ホバートミキサー(ホバート・ジャパン株式会社製「N−50(5コート)」)で、起泡性水中油型乳化油脂組成物と酸性呈味素材とを混合し、2速でホイップし、トッピングするのに適度な硬さに到達するまでの時間を評価値とした。ここで、トッピングするのに適度な硬さとは、ホイップ直後のサンプルを容器に入れた後、クリープメーター(「RE2−33005S」、株式会社山電製)を用いて直径16mmの円柱状のプランジャーにて、速度5mm/sの速さで1cm貫入時の最大荷重が0.30〜0.40Nになる硬さのことである。
【0090】
<オーバーランの評価>
ホバートミキサー(ホバート・ジャパン株式会社製「N−50(5コート)」)で、起泡性水中油型乳化油脂組成物と酸性呈味素材とを混合し、得られた混合液を100cmの容器に入れ、質量を測った。該混合液を2速でホイップし、トッピングするのに適度な硬さに到達するまでホイップし、得られたホイップドクリームを100cmの容器に入れ、質量を測った。そしてそれら測定値を基に、次式でオーバーランを求めた。
【0091】
オーバーラン(%)=[(一定容積の起泡性水中油型乳化油脂組成物と酸性呈味素材の混合液の質量)−(一定容積のホイップドクリームの質量)]÷(一定容積のホイップドクリームの質量)×100
<ホイップドクリームの保型性の評価>
実施例及び比較例で得られたホイップドクリームを絞り袋に詰め、出口が星型の口金(切り込みの個数8個)を用いて、透明なポリカップ容器に高さ6cm程度、底辺の直径7cm程度で、できるだけ空洞ができないように渦を巻きながら三角錐状に約40g絞り、高さを測定した。その後、25℃で24時間保持した時の高さを測定し、初期の高さが何%残っているかを保型性の評価値とした。70%以上は商品性があり、70%未満は商品性がない。
A:90%以上100%以下。
B:80%以上90%未満。
C:70%以上80%未満。
D:70%未満。
【0092】
<ホイップドクリームの離水の評価>
実施例及び比較例で得られたホイップドクリームを絞り袋に詰め、出口が星型の口金(切り込みの個数8個)を用いて、透明なポリカップ容器に高さ6cm程度、底辺の直径7cm程度で、できるだけ空洞ができないように渦を巻きながら三角錐状に約40g絞った。その後、25℃で24時間保管した時のポリカップ底部に溜まった離水の質量を測定し、ホイップドクリームに対する離水率(%)を離水の評価値とした。
A:離水率が0%。
B:離水率が0%を超えて、5%未満。
C:離水率が5%以上10%未満。
D:離水率が10%以上。
【0093】
<ホイップドクリームの衛生(25℃、製造後3日目)の評価>
実施例及び比較例で得られたホイップドクリームをポリカップ容器に約10g入れ、25℃で3日間保持したものを1gとり、9gの生理食塩水に混合した。混合液1gを標準寒天培地20gに混釈し、37℃で2日間培養してコロニー数をカウントし、コロニー数を10倍したものを評価結果とした。
【0094】
<ホイップドクリームの口溶けの評価>
口溶けの評価は、実施例及び比較例で得られたホイップドクリームを熟練したパネラー8名に食べてもらって官能評価を行い、それを平均して評価結果とした。その際の評価基準は以下の通りである。
A:口溶けがかなり軽く、好ましい。
B:口溶けが軽く、好ましい。
C:口溶けがやや重く、あまり好ましくない。
D:口溶けが重く、好ましくない。
【0095】
<ホイップドクリームの水々しさの評価>
水々しさの評価は、実施例及び比較例で得られたホイップドクリームを熟練したパネラー8名に食べてもらって官能評価を行い、それを平均して評価結果とした。その際の評価基準は以下の通りである。
A:かなり水々しく、好ましい。
B:水々しく、好ましい。
C:やや水々しくなく、あまり好ましくない。
D:水々しくなく、好ましくない。
【0096】
<総合評価>
衛生、保型性、口溶け、水々しさの各評価結果を基に、総合評価を行った。その際の評価基準は以下の通りである。
A:衛生が1000未満で、保型性、口溶け、水々しさの評価が全てAのもの。
B:衛生が1000未満で、保型性、口溶け、水々しさの評価で1つ以上がBで、残りがAのもの。
C:衛生が1000未満で、保型性、口溶け、水々しさの評価で1つ以上がCで、残りがAまたはBのもの。
D:衛生が1000以上、もしくは保型性、口溶け、水々しさの評価のうち1つ以上がDのもの。
【0097】
<評価結果>
実施例1のホイップドクリームのホイップ時間は6分41秒で、オーバーラン、25℃での保型性、衛生(25℃、製造後3日目)、口溶け及び水々しさは極めて良好であった。
【0098】
実施例2(ヤシ油と極度硬化パーム油(70質量部:30質量部)のエステル交換油脂)および3(ヤシ油と極度硬化ハイエルシン菜種油(50質量部:50質量部)のエステル交換油脂)のホイップドクリームは、何れも実施例1と同様に、全ての項目で極めて良好な評価結果であった。
【0099】
実施例4のホイップドクリームは油脂を15.5質量%に減らしたものであり、保型性が若干劣ったものの、良好な結果であった。
【0100】
実施例5(ホエー蛋白濃縮物の添加量が0.14質量%)、実施例6(ホエー蛋白濃縮物の添加量が1.2質量%)、実施例7(ポリグリセリン脂肪酸エステル(HLB=13.4)の添加量が0.13質量%)、実施例8(ポリグリセリン脂肪酸エステル(HLB=13.4)の添加量が1.25質量%)のホイップドクリームも、若干劣る項目があるものの、良好な評価結果であった。
【0101】
実施例9のホイップドクリームは日持ち向上剤を添加したものであり、ホイップドクリームとして良好であることに加え、25℃で5日間保存しても一般生菌数は10個/g以下であった。
【0102】
実施例14のホイップドクリームはHLB12以上のポリグリセリン脂肪酸エステルの主要構成脂肪酸がオレイン酸のものであり、実施例2に比べオーバーランが低く、水々しさが劣った。
【0103】
実施例15のホイップドクリームは大豆レシチンを主要構成脂肪酸がオレイン酸のポリグリセリン脂肪酸エステルに変えたものであり、実施例2に比べ保型性が劣った。
【0104】
比較例1のホイップドクリームは脱脂粉乳を添加したものであり、ホイップ時に増粘し、オーバーランが90%にしか達せず、水々しさも不足しておりホイップドクリームとしては好ましくなかった。
【0105】
比較例2のホイップドクリームは油脂の添加量が多く、糖質の添加量が少ないものであり、口溶けが劣ったことに加え、25℃で3日保存すると腐敗した。
【0106】
比較例3のホイップドクリームは油脂にパーム中融点部と、ヤシ油と極度硬化パーム油(70質量部:30質量部)のエステル交換油脂を使用したものであり、実施例2に比べて保型性と口溶けが劣り、離水が多かった。
【0107】
比較例4のホイップドクリームは油脂に硬化パーム油脂のみを使用したものであり、ホイップ後に経時的に硬くなってクリームが締まり、離水も多かった。
【0108】
実施例2、16および17のホイップドクリームは、製造例2の起泡性水中油型乳化油脂組成物を使用し、フルーツソースイチゴの配合率が20〜50質量%の範囲のものであり、良好な評価結果であった。
【0109】
比較例3、5および6のホイップドクリームは、製造例1の起泡性水中油型乳化油脂組成物を使用し、フルーツソースイチゴの配合率が20〜50質量%の範囲のものであり、何れも離水が多かった。
【0110】
実施例18(酸性呈味素材が濃縮果汁バレンシアオレンジ)および実施例19(酸性呈味素材がヨーグルト)のホイップドクリームは、酸性呈味素材の配合率やその種類に関わらず、良好な評価結果であった。
【0111】
比較例7(酸性呈味素材が濃縮果汁バレンシアオレンジ)および比較例8(酸性呈味素材がヨーグルト)のホイップドクリームは、離水が多かった。
【産業上の利用可能性】
【0112】
本発明のホイップドクリームは、そのまま食することはもちろんのこと、パンや洋菓子などの常温流通型食品のトッピングやフィリングに利用できる。
【要約】
酸性呈味素材を混合してもホイップでき、かつ口溶けおよび水々しさが良好で、保型性に優れ、離水の少ない常温流通可能なホイップドクリームおよびその製造方法を提供する。カゼイン蛋白質0.1質量%未満、乳清蛋白質0.1質量%以上1.0質量%以下およびHLB12以上のポリグリセリン脂肪酸エステル0.05質量%以上0.5質量%以下を含む起泡性水中油型乳化油脂組成物と酸性呈味素材とを90:10〜30:70の範囲の重量比で含む混合物を起泡してなるホイップドクリームであって、前記ホイップドクリームは油脂10質量%以上30質量%以下、糖質20質量%以上50質量%以下および水25質量%以上60質量%以下を含み、pHが2.0以上5.5以下であり、前記油脂全体中パーム核ステアリンを70質量%以上90質量%以下、ヤシ油及び/又はパーム核油と、極度硬化パーム油、極度硬化ローエルシン菜種油および極度硬化ハイエルシン菜種油からなる群より選ばれる少なくとも1種とを20/80〜80/20の範囲の質量比で混合した油脂のランダムエステル交換油を10質量%以上30質量%以下含有する、ホイップドクリーム。