特許第5721929号(P5721929)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5721929
(24)【登録日】2015年4月3日
(45)【発行日】2015年5月20日
(54)【発明の名称】太陽熱集熱器の設置構造
(51)【国際特許分類】
   F24J 2/04 20060101AFI20150430BHJP
   F24J 2/10 20060101ALI20150430BHJP
【FI】
   F24J2/04 B
   F24J2/10
【請求項の数】2
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2008-327101(P2008-327101)
(22)【出願日】2008年12月24日
(65)【公開番号】特開2010-151331(P2010-151331A)
(43)【公開日】2010年7月8日
【審査請求日】2011年11月1日
【審判番号】不服2013-21058(P2013-21058/J1)
【審判請求日】2013年10月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】501418498
【氏名又は名称】矢崎エナジーシステム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098017
【弁理士】
【氏名又は名称】吉岡 宏嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100120053
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 哲明
(72)【発明者】
【氏名】小林 達志
(72)【発明者】
【氏名】相曽 一浩
【合議体】
【審判長】 紀本 孝
【審判官】 千壽 哲郎
【審判官】 山崎 勝司
(56)【参考文献】
【文献】 実開昭57−153953(JP,U)
【文献】 実開昭59−143255(JP,U)
【文献】 特開2005−299181(JP,A)
【文献】 実開昭60−32953(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F24J
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス製の透明板を備え、この透明板を通じて太陽光を入射させる状態にして建物のベランダの手摺に設置される太陽熱集熱器と、前記透明板が損傷した場合に生じるガラスの落下破片を受け止める落下受けを備え、
前記落下受けは、前記手摺の基部に水平状態で固定された平板状の固定部と、該固定部の先端に上向きに傾けた状態で連ねられた平板状の受け面兼支持面部と、該受け面兼支持面部の先端に上向きに傾けた状態で接続された平板状の返し面部と、前記太陽熱集熱器を傾けた状態にして前記落下受けに固定する補助固定部とを有して形成され、
前記補助固定部は、前記受け面兼支持面部の後端部に直交する状態で設けられる太陽熱集熱器の設置構造
【請求項2】
前記落下受けは、太陽光に対する反射能の高い反射面を有し、この反射面で反射した太陽光を前記透明板に入射させるようにされていることを特徴とする請求項1に記載の太陽熱集熱器の設置構造
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽からの熱を集熱する太陽熱集熱器に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽熱集熱器は、一般に、平板的な函状に形成された枠体の内部に集熱板などの集熱要素を設け、その集熱要素の前面で枠体に透明板を取り付けて太陽光入射面を形成した構造とされ、その透明板を通じて太陽光を入射させて集熱要素により集熱するようになっており、自然エネルギである太陽からの熱を高い効率で集熱することができ、その熱を例えば温水の生成などとして有効利用できるようにする。こうした太陽熱集熱器を用いた太陽熱の有効利用のより広い普及は、近年とみに大きな問題となっている環境負荷の低減に有効である。
【0003】
従来、太陽熱集熱器は、建物の屋根に設置する屋根置き設置構造が一般的であった。しかし屋根置き設置構造は個々の住宅に屋根のない集合住宅については適用できず、このことが太陽熱集熱器による太陽熱の有効利用の普及について1つのネックとなっていた。こうしたことから、例えば特許文献1〜特許文献4などに見られるように、太陽熱集熱器を建物のベランダに設置するベランダ置き設置構造が提案されている。ここで、本明細書で「ベランダ」という場合、建物の側面に突出するような状態で設けられている構造物一般を意味し、狭義のベランダの他にバルコニーなども含むものとする。
【0004】
【特許文献1】特開昭58−224260号公報
【特許文献2】実公平1−134023号公報
【特許文献3】特開2001−330327号公報
【特許文献4】特開2002−106974号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ベランダ置き設置構造は、個々の住宅に屋根がない集合住宅における各住宅にも太陽熱集熱器を容易に設置することを可能とし、それにより太陽熱集熱器による太陽熱の有効利用のより広い普及に役立つことが期待できる。しかし、ベランダ置き設置構造には1つの問題がある。それは、ガラスを用いるのが一般的である太陽光入射面の透明板が何らかの原因で損傷して破片を生じた場合に、その破片が落下してしまうという問題で、特に集合住宅の高層階に設置された太陽熱集熱器については、透明板破片の落下エネルギが大きくなることから、それにより大きな人的、物的被害がもたらされる可能性があり、大きな問題となる。
【0006】
本発明は以上のような事情を背景になされたものであり、その課題は、ベランダに設置される太陽熱集熱器について、その透明板が損傷した場合に生じる破片が落下することで人的、物的被害が生じるような事態を効果的に防止できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明では上記課題を解決するために、ガラス製の透明板を備え、この透明板を通じて太陽光を入射させる状態にして建物のベランダの手摺に設置される太陽熱集熱器と、前記透明板が損傷した場合に生じるガラスの落下破片を受け止める落下受けを備え、前記落下受けは、前記手摺の基部に水平状態で固定された平板状の固定部と、該固定部の先端に上向きに傾けた状態で連ねられた平板状の受け面兼支持面部と、該受け面兼支持面部の先端に上向きに傾けた状態で接続された平板状の返し面部と、前記太陽熱集熱器を傾けた状態にして落下受けに固定する補助固定部とを有して形成され、前記補助固定部は、前記受け面兼支持面部の後端部に直交する状態で設けられることを特徴としている。
【0008】
このように落下受けを設け、この落下受けで損傷透明板からの破片を受け止めるようにしたことにより、透明板破片の落下により人的、物的被害を生じるような事態を効果的に防止することができる。
【0010】
また本発明では、上記のような太陽熱集熱器について、前記落下受けは、太陽光に対する反射能の高い反射面を有し、この反射面で反射した太陽光を前記透明板に入射させるようにするものとしている。このようにすることにより、落下受けを太陽熱集熱器に対する集光要素としても働かせることができ、落下受けの機能性を高めることができる。
【発明の効果】
【0012】
以上のような本発明によれば、ベランダに設置される太陽熱集熱器について、その透明板が損傷した場合に生じる破片が落下することで人的、物的被害が生じるような事態を効果的に防止できるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。図1図2に、第1の実施形態による太陽熱集熱器の構成と設置構造を模式化して示す。本実施形態の太陽熱集熱器1は、集合住宅構造の建物2のベランダ3に設置の手摺4に垂直状態で組み付けるようにして設置されるタイプであり、一般に知られている平板型や真空管型などとして構成される。具体的には、平板的な横長の函状に形成された枠体5を有し、この枠体5の内部に集熱要素として集熱板6を設けるとともに、集熱板6の前面で枠体5に透明板7を取り付け、さらに枠体5の下端部に落下受け8を取り付けた構造とされている。
【0014】
集熱板6は、透明板7を通して入射する太陽光から太陽熱を集熱する。集熱板6が集熱した太陽熱は、図示を省略の熱媒循環系などで循環される熱媒に熱交換により受け渡される。そして太陽熱を受け取った熱媒は、太陽熱集熱器1が例えば太陽熱温水器の要素である場合であれば、図示を省略の貯湯槽に循環させられ、そこに貯留の水ないし湯の加熱に用いられる。
【0015】
透明板7は、集熱板6の前面で太陽光入射面(集熱面)9を形成するようにして枠体5に取り付けられている。この透明板7は、集熱板6で集熱可能な太陽光を効率的に透過させることができるガラス製とされている。このため透明板7は、何らかの外部的要因で一定以上の衝撃が加わると破損して破片を生じる可能性がある。透明板7が破損して破片を生じた場合、上述のようにベランダ3の手摺4に垂直状態で組み付け設置されていることから、発生した透明板7の破片が枠体5から離れて落下することになる。そしてその落下破片がそのまま建物2に沿ってさらに落下することになると、大きな人的、物的被害をもたらす可能性があり、したがってそうした事態を効果的に防止できるようにする必要がある。
【0016】
こうした要請に応えるのが落下受け8である。すなわち落下受け8は、枠体5の下端部に取り付けられ、透明板7が損傷して生じる落下破片を漏れなく受け止めることができるようにされ、その落下破片受け止め機能のために受け面部11、固定部12、および返し面部13を有した構造とされている。
【0017】
受け面部11は、適度な剛性を有する鋼板などにより平板状に形成され、透明板7からの落下破片を漏れなく受け止めることができるような突出長Dをもって太陽光入射面9から前方に突出するようにされ、また透明板7の幅方向の全体にわたって延在する幅Wを有するようにされている。ここで、透明板7からの落下破片を漏れなく受け止めるができる突出長Dとは、透明板7の破損をもたらした衝撃で透明板7の破片が前方に飛び散るような状態になった場合でも、その飛散破片を漏れなく受け止めることができるようなサイズのことである。
【0018】
固定部12は、受け面部11の後端部に直交する状態で接続するようにして設けられ、枠体5にその裏面側で落下受け8をボルト止めやビス止めなどで固定できるようにされている。
【0019】
返し面部13は、受け面部11が受け止めた落下破片が受け面部11から飛び出すのを防止するのに機能する要素であり、その機能のために、受け面部11の先端にあって受け面部11に対して適切な傾きを持った状態で接続する平板状に形成され、受け面部11とともに太陽光入射面9の前方で溝構造ないし樋構造を形成するようにされている。
【0020】
本実施形態の太陽熱集熱器1は、以上のような落下受け8を備え、この落下受け8で透明板損傷による破片を確実に受け止めることができる。したがって透明板破片が建物2に沿って落下して人的、物的被害を生じるような事態を効果的に防止することができる。
【0021】
図3図4に、第2の実施形態による太陽熱集熱器の構成と設置構造を模式化して示す。本実施形態の太陽熱集熱器15は、基本的には第1の実施形態の太陽熱集熱器1と同様で、図1の太陽熱集熱器1における落下受け8に対応する落下受け16が集排水機能を備えている点で相違している。
【0022】
落下受け16は、図4に示すように、落下破片受止め用の受け面部17に左右各端部から中央に向けて下がり傾斜となる集水用の勾配が与えられ、その勾配の底部に管状に形成の排水口18(図5)が設けられている。こうした落下受け16は、透明板7に生じる結露水や透明板7を伝い流れる雨水が流下してくると、これを受け面部17における集水用勾配で排水口18に集水し、その排水口18からベランダ3の床19に排水する。
【0023】
以上のように本実施形態の太陽熱集熱器15では、落下受け16が透明板破片の落下防止機能に加えて、透明板7に生じる結露水や透明板7を伝い流れる雨水を集水して排水する集排水要素としても機能するようにされている。したがって落下受け16に、より高い機能性が得られる。この他の構成などについては第1の実施形態と同様なので、共通する要素には同一の符号を付し、それらについての説明は省略する。
【0024】
図5図6に、第3の実施形態による太陽熱集熱器の構成と設置構造を模式化して示す。本実施形態の太陽熱集熱器21は、基本的には第1の実施形態の太陽熱集熱器1と同様で、図1の太陽熱集熱器1における落下受け8に対応する落下受け22が太陽光の反射集光機能を備えている点で相違している。
【0025】
落下受け22は、例えば鏡面仕上を施したり反射体を貼り付けたりするなどして、落下破片受止め用の受け面部23に反射能の高い反射面24が形成され、この反射面24で太陽光Rを反射することで太陽光入射面9に入射集光させることができるようにされている。このように、透明板破片の落下防止機能に加えて、太陽光の反射集光機能も与えるようにしたことにより、落下受け22の機能性を向上させることができる。
【0026】
また落下受け22は、こうした反射集光機能に関して反射面24の角度を調整できるようにされている。反射面24の角度調整については様々な機構が可能であるが、図の例では回動方式によっている。具体的には、反射面24の後端位置で受け面部23に回動部25を設け、この回動部25で受け面部23を回動させることにより、反射面24の角度を任意に設定できるようにしている。このように反射面24の角度調整を行えるようにすることにより、季節ごとの太陽高度に応じた効率的な集光を行えるようになる。すなわち図5のように反射面24を水平にした角度状態であると、高度の高い太陽からの太陽光Rについては集光限界点Lが反射面24の途中に生じる状態になるが、一方、図6に示すように、反射面24を太陽光入射面9に近づける方向に傾斜させると、反射面24の先端まで集光限界点Lを移動させることができ、したがってより効率的に反射集光を行えるようになる。
【0027】
以上の他の構成などについては第1の実施形態と同様なので、共通する要素には同一の符号を付し、それらについての説明は省略する。
【0028】
図7に、第4の実施形態による太陽熱集熱器の構成と設置構造を模式化して示す。本実施形態の太陽熱集熱器31は、基本的には第1の実施形態における太陽熱集熱器1と同様で、図1の太陽熱集熱器1における落下受け8に対応する落下受け32に特徴がある。
【0029】
落下受け32は、太陽熱集熱器31を傾けた状態にして手摺4に設置するための支持要素としても機能するようにされ、そのために固定部33、受け面兼支持面部34、補助固定部35、および返し面部13を有する構造とされている。
【0030】
固定部33は、平板状に形成され、手摺4の基部にボルト止めやビス止めなどで水平状態にして固定できるようにされている。
【0031】
受け面兼支持面部34は、水平状態の固定部33に対して所定角度で上方に傾斜する状態でつながるようにして平板状に形成されている。この受け面兼支持面部34は、落下破片受止め用の受け面部として機能し、また太陽熱集熱器31をその下端面について支持する支持面部として機能し、さらに太陽光の反射集光に機能する。そして支持機能については、水平状態の固定部33に対する上述の傾斜状態にあって太陽熱集熱器31の枠体5の下端面を支持するようにされ、これにより太陽熱集熱器31の手摺4に対する傾斜設置構造、つまり太陽熱集熱器31への太陽光Rの入射角度を集熱に関してより効率的なものとする設置構造に対する支持要素となるようにされている。また太陽光の反射集光機能については、受け面兼支持面部34に、第3の実施形態における反射面24と同様な反射面36が形成されている。
【0032】
補助固定部35は、受け面兼支持面部34の後端部に直交する状態で接続するようにして設けられ、太陽熱集熱器31の枠体5をその裏面側でボルト止めやビス止めなどで落下受け32に固定できるようにされており、受け面兼支持面部34の補強リブとしても機能するようにされている。
【0033】
以上のように本実施形態の太陽熱集熱器31では、落下受け32が透明板破片の落下防止機能に加えて、太陽熱集熱器31のベランダ3への傾斜設置における支持要素としても機能し、さらに太陽光の反射集光にも機能するようにされている。したがって落下受け32に、より高い機能性が得られる。この他の構成などについては第1の実施形態と同様なので、共通する要素には同一の符号を付し、それらについての説明は省略する。
【0034】
以上、本発明を実施するための形態について説明したが、これは代表的な例に過ぎず、本発明は、その趣旨を逸脱することのない範囲で様々な形態で実施することができる。例えば上記各実施形態では、ベランダの手摺を利用して太陽熱集熱器を設置する場合あったが、これに限られず、例えばベランダの天井(直上階のベランダの床)を利用して太陽熱集熱器を設置する場合についても適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
図1】第1の実施形態による太陽熱集熱器の構成とその設置構造を模式化して示す図である。
図2図1中のA方向から見た図である。
図3】第2の実施形態による太陽熱集熱器の構成とその設置構造を模式化して示す図である。
図4図3中のB方向から見た図である。
図5】第3の実施形態による太陽熱集熱器の構成とその設置構造を模式化して示す図である。
図6図5の太陽熱集熱器について落下受けの反射面の角度を変えた状態を示す図である。
図7】第4の実施形態による太陽熱集熱器の構成とその設置構造を模式化して示す図である。
【符号の説明】
【0036】
1、15、21、31 太陽熱集熱器
2 建物
3 ベランダ
7 透明板
8、16、22、32 落下受け
24、36 反射面
R 太陽光
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7