【文献】
MASUDA,K. et al,Suppressive effects of Anoectochilus formosanus extract on osteoclast formation in vitro and bone resorption in vivo,Journal of bone and mineral metabolism,2008年,Vol.26,No.2,p123−129
【文献】
Ito,A.et al,1993,Aliphatic and aromatic glucosides from Anoectochilus koshunesis,Phytochemistry Vol.33,No.5,p1133−1137
【文献】
Du XM et al.,1998,Butanolic acid glucoside composition of whole body and in vitro plantlets of Anoectochilus formosanus,Phytochemistry, Vol.49,No.7,p1925−1928
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記式(I)の化合物またはその医薬上許容される塩もしくはエステルの含量が、式(I)の化合物に換算して、組成物総量の約4重量%から約8重量%である、請求項4に記載の医薬組成物。
【背景技術】
【0002】
骨は主に有機成分(コラーゲン、ムコイドなど)、無機成分(カルシウム塩、リン塩など)および水などからなり、一種の動的平衡の組織であり、停止することなく骨形成作用と骨吸収作用を行い、両者を総称して骨の再造形といい、微細な傷の修復だけでなく、骨の耐圧性を高めることができる。また、骨形成作用には新骨質の形成および骨の鉱質化が含まれる。
【0003】
骨の再造形は、形成作用を行う骨芽細胞と吸収作用を行う破骨細胞の2種の異なる細胞の協力によって行われる。この2つの細胞間の協調に誤りが発生すると、骨の再造形は平衡を失う。例を挙げると、吸収作用が形成作用より大きくなると臨床上よく見られる骨粗しょう症が現れる。特に閉経後の女性に現れる。この逆の状況は稀にしか見られないが、骨質の異常増加をもたらす。
【0004】
現在、世界で約2億の女性が骨粗しょう症を患っており、2003年における骨粗しょうおよびホルモン補充療法の世界市場は83億米ドルであり、2014年には179億米ドルに達すると推定される。そのうち、骨粗しょう症を治療する薬物は、薬物の作用メカニズムによる分類では大体次の4つに分類できる。1.骨吸収抑制作用。例えば重硫酸塩類、2.骨形成促進作用、例えばパラソルモン、3.骨のカルシウム放出抑制、例えばエストロゲン、4.小腸のカルシウム吸収促進、例えばビタミンD。しかし、重硫酸塩類薬物は頭痛、吐き気、嘔吐、下痢、発熱、腎不全、食道炎や下顎骨壊死など強い副作用があり、パラソルモンを服用すると頭痛、吐き気などの不快感が生じ、エストロゲンには発癌のリスクがある。また、ビタミンDの利用によりカルシウムの吸収を増やして骨粗しょう症の改善を図る場合、その効果には限りがある。それゆえ、骨粗しょう症を効果的に治療し、かつ副作用の低い物質または医薬組成物が依然として必要とされている。
【0005】
マクロファージは、肝臓中のクッペル星細胞や脳部の小膠細胞など、異なる組織中では異なる分化形態の細胞を呈する。マクロファージは、骨組織中では破骨細胞の分化形態を呈しており、同時に骨芽細胞と動的平衡を保つ。
【0006】
血液中のマクロファージは、人体の免疫防御メカニズムにおける最初の防御線であるので、炎症反応において非常に重要な役割をもっている。具体的にいうと、マクロファージは病原体と接触すると活性化し、病原体を壊滅させる能力が働き始める。それと同時に腫瘍壊死因子−α(TNF−α)やインターロイキン−6(IL−6)など、炎症反応を促進するサイトカインを分泌する。したがって、病原体の刺激が強すぎた場合、あるいはマクロファージが短時間内にサイトカインを出しすぎた場合、患者に敗血症性ショックが引き起こされることがある。
【0007】
炎症発生過程において、マクロファージはサイトカインを放出するだけでなく、抗原を提示する働きもする。具体的にいうと、マクロファージが抗原作用を呈すると、T細胞の分化、さらにはB細胞および抗体の産生にも影響を与える。そしてB細胞および抗体も病原体を壊滅させる効果をもっている。したがって、マクロファージは第一線の免疫反応機能のみならず、免疫調節の役割ももっている。これについてはFuijwara N.Kobayashi K.Macrophage and inflammation.Curr Drug Targets 4、281−286を参照されたい。
【0008】
現時点の研究が示すところによると、癌やリウマチ様関節炎などほとんどの慢性疾患が炎症反応と関係がある。言い換えれば、マクロファージはこれらの病気の発病機序に関与している。これについてはNaito M.2008.Macrophage differentiation and function in health and disease.Pathol Int 58、143−156を参照されたい。
【0009】
リウマチ様関節炎を例にとると、その病理においてマクロファージが重要な役割を果たしている。概略的にいうと、リウマチ様関節炎によってマクロファージが活性化し、サイトカインを放出し、慢性炎症の発生を促進する。また関節の滑液内に各種炎症細胞が充満すると、それによって分泌されるサイトカインおよび成長因子がマクロファージを破骨細胞に分化させ、それによって関節の骨が損傷される。現在、リウマチ様関節炎の主な治療薬はステロイドである。しかし、ステロイドには、水腫、骨粗しょう症など多くの副作用がある。そのため、リウマチ様関節炎を有効に治療しかつ副作用の低い物質または医薬組成物を提供することが依然として強く必要とされている。
【0010】
金線連(Anoectochilus spp.、キバナノシュスラン)はラン科植物に属し、そのうち、台湾金線連(Anoectochilus formosanus Hayata、台湾キバナノシュスラン)には降圧、降血糖、肝臓保護、抗炎症および免疫力調節など幅広い効果があると伝えられ、そのため「薬王」、「薬虎」などの別名をもっている。また、すでに文献で確認されているところによると、台湾金線連の粗抽出物には抗骨粗しょうの薬理的効果がある(Shih ZZ、Wu YW、Lin WC.2001.Ameliorative effects of Anoectochilus formosanus extract on osteopenia in overiectomized rats.J Ethnopharmacol 77、233−228およびMasuda K、Ikeuchi M、koyama T、Yamaguchi K、Woo JT、Nishimura T、Yazawa K.2008.Suppressive effects of Anoectochilus formosanus extract on osteoclast formation in vitro and bone resorption in vivo.J Bone Miner Metab 26、123−129を参照)。
【0011】
しかし、台湾金線連のもつ抗炎症および抗骨粗しょう効果についてその有効成分は今なお明らかでなく、そのことが薬効の最適化および薬理研究の制約となっている。また、従来の株分け繁殖の方法は非常に時間がかかり、その上採集による消耗を食い止められないため、台湾金線連の天然産地のものの含量が非常に損なわれている。台湾金線連を組織培養する栄養繁殖法(Shiau YJ、Sagare AP、Chen UC、Yang SR、Tsay HS.2002.Conservation of Anoectochilus formosanus HAYATA by artificial cross−pollination and in vitro culture of seeds.Bot Bull Acad Sin 43:123−130を参照されたい)や特開10−056875に開示の苗根改良培養のように、業界は積極的に金線連の栽培方法の研究開発に取り組んでいるが、それでも金線連を提供できる数量は繁殖/培養速度の制約を受けている。そのため、金線連中の抗炎症および抗骨粗しょうに効く活性成分を知ることができれば、今後人工合成方式によって大量生産および製剤提供が可能になる。
【0012】
本発明は、上述の必要に応えて行われた研究であり、本願発明者は生体内および生体外の関連実験を行って、台湾金線連中の抗炎症および抗骨粗しょうの主要活性化合物を確認し、それが骨形成作用を促進し、骨吸収作用を抑制する機能をもつことを確認し、さらにこの化合物にはマクロファージの活性化を抑制する効果があることも発見した。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の具体的な一実施形態では、本発明のキンセノシド
またはその医薬上許容される塩もしくはエステルを含む医薬組成物は特に関節炎の炎症反応の治療に適している。具体的にいうと、関節炎の初期に関節の滑膜液内に多くのマクロファージが集まり、それによって放出されたサイトカインが炎症反応を促進し、軟骨の損傷をもたらす
。そのために骨の吸収作用が起こり、関節の骨を損傷させる。言い換えると、関節炎の治療は、マクロファージの活性化を抑制することが重要なステップである。したがって、キンセノシドを各種関節炎の症状の予防および治療に使用することができる。例えば、リウマチ様関節炎、痛風性関節炎、細菌性関節炎、退化性関節炎、硬直性関節炎や骨関節症などである。
【0027】
それゆえ、本発明は一方においてはマクロファージ活性化の抑制、破骨細胞形成の抑制、破骨細胞機能の抑制および/または骨芽細胞の活性化に用いられる、有効量のキンセノシドまたはその医薬上許容される塩もしくはエステルを含有する医薬組成物を提供する。本発明の医薬組成物中で、キンセノシドまたはその医薬上許容される塩もしくはエステルの含量は絶対的に重要な点ではなく、所望のマクロファージ活性化の抑制、破骨細胞形成の抑制、破骨細胞機能の抑制および/または骨芽細胞の活性化の効果を提供できさえすればよい。したがって、投与ターゲットの必要によって、1日1回、1日多数回、数日に1回など異なる投与頻度で本発明の医薬組成物を投与してよい。抗骨粗しょうへの使用を例にとると、本発明の組成物のキンセノシドまたはその医薬上許容される塩もしくはエステルの含量は、キンセノシドに換算して組成物総量の約4重量%から約8重量%であり、適量は約5重量%から約7重量%である。しかし、抗炎症に使用する場合、本発明の組成物のキンセノシドまたはその医薬上許容される塩もしくはエステルの含量は、キンセノシドに換算して組成物総量の約7重量%から約13重量%であり、適量は約9重量%から約11重量%である。
【0028】
実際の投与では、抗骨粗しょうを例にとると、キンセノシドまたはその医薬上許容される塩もしくはエステルの用量は、キンセノシドに換算して通常1人当たり(体重60kgの成人を例にとる)1日の平均用量は約20mgから約200mgであり、適量は約40mgから約150mgである。最適な量は1人当たり1日約60mgから約100mgである。抗炎症に用いる場合は、キンセノシドに換算して、通常1人1日の平均用量は約30mgから約300mgであり、適量は約50mgから200mgである。最適な量は1人1日当たり約70mgから150mgである。ただし、急性疾患(急性関節炎や骨質の流失がひどい場合)の場合の用量は実際の必要に応じて数倍または数十倍に増量してよい。
【0029】
本発明の医薬組成物が適切な方式で施用可能であることを例を挙げて説明したが、この限りではなく、経口、皮下または静脈内などの投与方式で施用することができる。キンセノシドまたはその医薬上許容される塩もしくはエステルは、単独使用してもよいし、医薬用補剤と一緒に使用してもよい。また実際に獣医および人対象の医薬に使用可能である。
【0030】
したがって、本発明はもう一方ではキンセノシドまたはその医薬上許容される塩もしくはエステルの薬剤製造への応用(使用方法)を含み、これは適切な方式でマクロファージ活性化の抑制、破骨細胞形成の抑制、破骨細胞機能の抑制および/または骨芽細胞の活性化、特に抗骨粗しょうと抗炎症(抗関節炎など)に用いられる薬剤の製造に使用することができる。経口投与に適した薬剤の製造についていうと、キンセノシドまたはその医薬上許容される塩もしくはエステルを、この目的に適いかつキンセノシドの活性に影響しない補剤、例えば溶剤、油性溶剤、希釈剤、安定剤、吸収遅延剤、崩壊剤、乳化剤、粘着剤、潤滑剤、吸湿剤などと混合できる。例えば、溶剤は水
や蔗糖溶液から、希釈剤は乳糖、澱粉、
マイクロクリスタルセルロースから、吸収遅延剤は多糖類
(キトサン)とグルコサミン多糖から、潤滑剤は炭酸マグネシウムから、油性溶剤はオリーブ油、ひまわり油、肝油などの植物や動物油からそれぞれ選ぶことができる。したがって、周知の方法を利用して適切な経口投与薬の形態に製造することが可能である。例えば、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、軟稠剤、液剤、シロップ剤、懸濁液剤、乳剤、チンキ剤などである。
【0031】
皮下または静脈内投与方式に適した薬剤についていうと、キンセノシドまたはその医薬上許容される塩もしくはエステルを、必要に応じてこの目的に慣用の材料、例えば可溶化剤、乳化剤やその他の補剤などと混合して静注液、乳剤静注液、注射剤、乾燥粉末注射剤、懸濁液注射剤、乾燥粉末懸濁液注射剤などに製造する。採用可能な溶剤は、水、生理食塩液、アルコール類(エチルアルコール、プロピルアルコールやグリセリンなど)、糖溶液(ブドウ糖やマンニトールなど)または上記の組合せなどである。
【0032】
上記の使用可能な医薬製剤の補剤成分の他に、必要に応じて矯味剤、調色剤、着色剤などの添加剤を加えることにより、得られる薬剤の服用時の口当たりや見た目をよくすることができる。また合理的な用量の保存剤、防腐剤、抗菌剤、抗真菌剤などを添加して、得られる薬剤の保存性を改善させることができる。
【0033】
他方、本発明の医薬組成物の効果を一層強化し、薬剤配合の柔軟な活用および調合性を高めるために、必要に応じて本発明の医薬組成物に1種類または多種類の他の活性成分を併せて含有させることができる。例を挙げると、本発明の医薬組成物と併用できる他の活性成分には、アレンドロネート、パラソルモン、エストロゲン、カルシウム化合物やビタミンDなど骨粗しょう症の治療薬、コンドロイチンやグルコサミンなどの抗関節炎症薬やその他の活性成分がある。これらの活性成分はキンセノシドの効果に悪影響さえ与えなければよい。
【0034】
本発明の医薬組成物に含まれるキンセノシドは天然でも人工合成で提供してもよい。できれば、キンセノシドは金線連由来のもの、特に台湾金線連由来のものであることが好ましい。したがって、適切な抽出手段に単離操作を組み合わせて金線連からキンセノシドを得る。これらの分離方法についてはIto A、Kasai R、Yamasaki K、Sugimoto H、1993、Aliphatic and aromatic glucosides from Anoectochilus koshunesis、Phytochemistry 33:1133−1137およびDu XM、Yoshizawa T、Shoyama Y.1998、Butanolic acid glucoside composition of whole body and in vitro plantlets of Anoectochilus formosanus、Phytochemistry 49:1925−1928に掲載のものを参照できる。この文献の全文を参考のためにここに示す。他にZhang X、Lin ZY、Huang HH、Chen QH、2004、Novel total synthesis of kinsenoside、Chinese.Journal of Synthetic Chemistry 12、317−318に掲載の全合成方式によりキンセノシドを得ることも可能である。この文献の全文を参考のためにここに示す。
【0035】
したがって、本発明のキンセノシドを含む金線連抽出液に関しても同様に、マクロファージ活性化の抑制、破骨細胞形成の抑制、破骨細胞機能の抑制および/または骨芽細胞の活性化に用いることができる。本発明の金線連抽出液中に親酢酸エチル成分が実質的に含まれていないことが好ましい。本文中の「親酢酸エチル成分」とは当該成分を水中に溶かしたとき酢酸エチルを用いて分配させ除去できる成分をさす。発見によると、金線連抽出液中の親酢酸エチル成分は肝細胞の傷害を悪化させる。金線連抽出液中の親酢酸エチル成分を実質的に除去すれば、金線連抽出液の医薬品としての用途で投薬された者に与える潜在的傷害を有効的に緩和することができる。
【0036】
本発明の金線連抽出液は水性抽出液であり、親酢酸エチル成分が含まれていないことが好ましい。これは以下の操作によって得られる。即ち、金線連を水中でつぶして漿液にする→濾過して水性抽出液を採取する→酢酸エチルをその抽出液に添加する→酢酸エチル分配液を除去する。できるだけ抽出液中の酢酸エチルに溶ける成分を低減するために、必要に応じてこの酢酸エチル分配操作を繰り返す。
【0037】
本発明の具体的な一実施形態では、次のようにして本発明のキンセノシドを含む抽出液を得る。ま
ず金線連(Anoectochilus formosanus Hayata)(10kg)を水100Lで攪拌して汁にし、濾過して汁液を取る(水で金線連の乾燥品を煎じて煎じ液を取ってもよい)。次に毎回酢酸エチル25Lで分配を行い、上層の酢酸エチル層を除去してから、さらに酢酸エチル25Lで分配を行い、これを3回続け、酢酸エチル層を合わせた酢酸エチル部分と下層の水溶性部分を得る。この水溶性部分が本発明におけるキンセノシドを含む抽出液であり、これには親酢酸エチル成分が含まれていない。また、この水溶性部分を必要に応じてアルコール類(10%のメチルアルコールなど)で溶出させて、キンセノシドの含量を増加させてもよい。
【0038】
本発明はまた、この金線連抽出液を薬剤への応用に使用することに関し、マクロファージ活性化の抑制、破骨細胞形成の抑制、破骨細胞機能の抑制および/または骨芽細胞の活性化、特に抗骨粗しょうおよび抗炎症(抗関節炎など)に適宜用いられる薬剤の製造に使用することができる。
【0039】
ここでは具体的な実施形態を挙げてさらに本発明について説明する。これらの実施形態は説明のために提供するものであって、本発明の範疇を制限するためのものではない。
【0040】
材料
台湾金線連(Anoectochilus formosanus Hayata)は有容農場(台湾の埔里)が育成した植物を購入した。この植物サンプルはすでに中国医薬大学薬学院に寄託し(受託番号:CMU AF 0609)、当院の鑑定を受けた。
【0041】
キンセノシドの抽出および単離
(1)まず10kgの新鮮な金線連を100Lの水で攪拌して汁にし、濾過して汁液を取る(AFEで表す)。このステップは水で金線連の乾燥品を煎じて、その煎じ液を取る方式で代替してもよい。次に毎回酢酸エチル25Lで分配を行い、上層の酢酸エチル層を除去してから、さらに酢酸エチル25Lで分配を行い、これを3回続け、酢酸エチル層を合わせた酢酸エチル部分(AFEEで表す)と下層の水溶性部分(AFEWで表す)を得る。
【0042】
(2)減圧下でAFEE部分およびAFEW部分を蒸発させて、それぞれ47.4gの緑色の油状残留物と218.4gの赤色残留物を得る。AFEW部分から得られた赤色残留物(210g)をDiaion HP−20カラム(Nippon Rensui Co.、日本より購入)に入れ、水、10%メチルアルコール(水中に溶かす)、20%メチルアルコール(水中に溶かす)、50%メチルアルコール(水中に溶かす)および100%メチルアルコールで溶出させて、5つの区画を得、それぞれをAFEW−1からAFEW−5で表す。AFEW−1からAFEW−5の乾燥重量はそれぞれ141.38g、22.06g、8.16g、9.21gおよび3.78gである。以上の操作は
図1に示すとおりである。
【0043】
(3)続いてAFEW−2(10g)の精製を行う。この場合はシリカゲルカラム(Si 60 F245、Merck、ドイツより購入)を使用し、クロロホルム/エチルアルコール(8:3から15:8の濃度勾配)を移動相として、4つの区画を得、これを区画1〜4で表す。区画4(4.5g)を取り、分取用高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を利用して精製を行う。得られた主成分(4.1g)を確認した結果、キンセノシド(即ち式(I)の化合物)であった。
【0044】
分取用HPLCの使用条件は以下のとおりである。即ち、ポンプはShimadzu LC−8A(京都、日本より購入)、移動相は水、カラムはMightysil ODS RP−18 Aquaカラム(内径20mm、長さ250mm、顆粒の大きさ5μm、Kanto Chemical Co.、東京、日本より購入)。
【0045】
区画4の主成分含量は77.6%に達し、質量分析計(Jeol GCmate、東京、日本より購入)および核磁気共鳴装置(NMR,
1H、
13C、DEPT、COSY、HMQCおよびHMBC;Jeol 400MHz、東京、日本)での分析により、該主成分がキンセノシド(3−(R)−3−β−D−グルコピラノシルオキシブタノリド、即ち式(I)の化合物)であることが確認された。表1は単離後のキンセノシドのNMRデータである。
【実施例1】
【0048】
キンセノシドによる
リポ多糖誘発のICRマウス敗血症の抑制
炎症反応は複雑なプロセスであり、フリーラジカル分子(一酸化窒素、過酸化水素など)、サイトカイン(プロスタグランジン2(PGE2)、TNF−α、インターフェロン−γ(IFN−γ)、インターロイキン−2(IL−2)およびインターロイキン−1β(IL−1β)など)などの産生が含まれる。したがって、体内の炎症反応と関係のあるフリーラジカル分子およびサイトカインを測定することによって、炎症反応の程度を知ることができる。
【0049】
実験
A:キンセノシドによるリポ多糖誘発のマウス血中炎症サイトカイン産生の抑制
腹腔注射により異なる濃度のキンセノシド(100mg/kgと300mg/kg)をICRマウスに投与した。30分後さらに腹腔注射によりリポ多糖(40mg/kg)をICRマウスに投与した。1時間後にICRマウスの眼の縁から採血し、酵素免疫測定(ELISA)試薬(eBioscience、Boston、MAより購入)でTNF−αおよびIL−1βの濃度を測定した。結果は表
2に示すとおりである。
【0050】
【表2】
データはすべて平均数±標準偏差(サンプリング数=10)。
抑制群との比較、
#P<0.05、
##P<0.01。LPS+水群との比較、
*P<0.05、
**P<0.01。
【0051】
実験
B:キンセノシドによる高用量リポ多糖誘発のマウス敗血症ショック死の抑制
腹腔注射により異なる濃度のキンセノシド(100mg/kgと300mg/kg)をICRマウスに投与した。30分後さらに腹腔注射によりリポ多糖(80mg/kg)をICRマウスに投与し、72時間内のマウスの死亡率を観察した。結果は
図4に示すように、キンセノシドはマウスの死亡率を減少させることができる。
【0052】
表2および
図2から分かるように、キンセノシドは、リポ多糖のマウス腹腔マクロファージの誘発、RAW 264.7マクロファージの一酸化窒素放出を抑制でき、さらにリポ多糖誘発のマウス血中TNF−αとIL−1βの量を減少させることができ、そのため高用量リポ多糖が引き起こすマウスの死亡率を有効抑制することができる。これらの結果は、キンセノシドがリポ多糖誘発のマウスの炎症反応を有効抑制できることを示す。
【実施例2】
【0053】
キンセノシドによるコラーゲンタンパク質誘発のBALB/cマウスのリウマチ様関節炎の抑制
リウマチ様関節炎の初期は、マクロファージが活性化し、サイトカインを放出して炎症を引き起こし、末期はマクロファージが分化して破骨細胞となり、骨を損傷させる。したがって、マクロファージの活性化を抑制し、マクロファージの破骨細胞への分化を抑制することにより、リウマチ様関節炎を治療することができる。
【0054】
実験
C:
BALB/cマウスは国家実験動物センターより購入した。マウスの尾部に200
μgのII型コラーゲンタンパク質(Sigmaより購入)を皮下注射して、BALB/cマウスにリウマチ様関節炎を発生させた。II型コラーゲンタンパク質は先に補剤フロイント完全アジュバント(Sigmaより購入)で乳化させる。21日目にさらに200
μgのII型コラーゲンタンパク質をマウスに皮下注射する。このときのII型コラーゲンタンパク質は先に補剤フロイント不完全アジュバント(Sigmaより購入)で乳化させる。2回目にコラーゲンタンパク質を注射した日から、毎日キンセノシド(100または300mg/kg)を経口投与し、期間は21日間とする。投与期間の満了後、マウスを屠殺し、採血するとともに鼠蹊部リンパ節と関節付き足裏を取り出し、測定する。
【0055】
血清中TNF−αおよび抗体IgE、IgG1の濃度を酵素免疫測定法で測定した。抗体IgEおよびIgG1試薬はBethyl、Montgomery、TXより購入した。結果は表
3および表
4に示すとおりである。
【0056】
【表3】
データはすべて平均数±標準偏差(サンプリング数=7)。
抑制群との比較、
#P<0.05。コラーゲンタンパク質+水群との比較、
*P<0.05。
【0057】
【表4】
データはすべて平均数±標準偏差(サンプリング数=7)。
抑制群との比較、
###P<0.001。コラーゲンタンパク質+水群との比較、
*P<0.05、
***P<0.001。
【0058】
表
3に示すように、コラーゲンタンパク質は関節炎を誘発し、マウスの血中TNF−αの濃度上昇を引き起こすが、キンセノシドはこの作用を抑制することができる。表
4に示すように、コラーゲンタンパク質は関節炎を誘発し、マウスの血中抗体IgEとIgG1の量を上昇させるが、キンセノシドはこの作用を抑制することができる。
【0059】
マウスの両側の鼠蹊部からリンパ節を取り出し、それを篩にかけて単一浮遊細胞をつくり、フローサイトメトリーでリンパ球の数を測定した。また、抗体CD19/45とCD4/278(eBioscienceより購入)でB細胞およびTh2細胞を染色して、その占める比率を求めた。結果は表
5と表
6に示す。
【0060】
【表5】
データはすべて平均数±標準偏差(サンプリング数=7)。
抑制群との比較、
#P<0.05。コラーゲンタンパク質+水群との比較、
*P<0.05、
***P<0.001。
【0061】
【表6】
データはすべて平均数±標準偏差(サンプリング数=7)。
抑制群との比較、
##P<0.01、
###P<0.001。コラーゲンタンパク質+水群との比較、
**P<0.01、
***P<0.001。
【0062】
表
5が示すように、コラーゲンタンパク質は関節炎を誘発してマウス鼠蹊部リンパ節のリンパ球の数を増加させるが、キンセノシドはこの作用を抑制できる。表
6が示すように、コラーゲンタンパク質はマウス鼠蹊部リンパ節の中のB細胞とTh2細胞の占める比率を上昇させるが、キンセノシドはこの作用を抑制することができる。
【0063】
マウスの右足裏および関節からmRNAを抽出し、逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR)によりTNF−αのmRNAの発現を分析した。結果を図
3Aと図
3Bに示す。
【0064】
図
3Aと図
3Bから分かるように、コラーゲンタンパク質は関節炎を誘発してマウス右足裏のTNF−αのmRNAの発現を上昇させるが、キンセノシドはTNF−αのmRNAの発現を抑制することができる。
【0065】
コラーゲンタンパク質誘発のマウスのリウマチ様関節炎に対しては、キンセノシドは炎症サイトカインの放出を抑制でき、またリンパ球中のTh2細胞およびB細胞の比率を抑制でき、さらに抗体IgEおよびIgG2の産生を抑制することができる。これらの結果は、キンセノシドがコラーゲンタンパク質の引き起こす関節炎を軽減させることを示す。またその抗炎症作用はマクロファージ活性化の抑制およびマクロファージの抗原を呈する作用の軽減と関係がある。
【実施例3】
【0066】
キンセノシドによる破骨細胞形成の抑制
実験
D:キンセノシドによるラット骨髄細胞の破骨細胞形成の抑制
まず骨髄細胞を用意する。体重250gから300gのウィスター雄ラットを使用して骨髄細胞を用意する。麻酔下でラットの大腿骨を取り出し、リン酸緩衝液で骨髄細胞を洗い出す。骨髄細胞を培養皿(成分はα−最少必須培地、熱で活性を除去した10%の胎牛血清、100活性単位/mlのペニシリンおよび100μg/mlのストレプトマイシン)の中で培養し、さらに破骨細胞形成を誘発する分化剤細胞核因子κB受容体活性化リガンド(RANKL)(50ng/ml、PeproTech EC、London、UKより購入)とマクロファージコロニー刺激因子(M−CSF)(20ng/ml、PeproTech ECより購入)を加えた。9日培養して骨髄の単球を破骨細胞に分化させる。抗酒石酸酸性ホスファターゼ(TRAP)染色試薬(Sigma、Louis、MO、USAより購入)で破骨細胞を染色し、破骨細胞の数を計数する。
【0067】
実験群A:キンセノシドとエストラジオールを加える
抑制群と同様の分化剤
(RANKL、M−CSF)を培養皿中に添加するとともに、それぞれ異なる濃度のキンセノシド(0、5、25、50と100μモル濃度)または10ナノモル濃度(nM)のエストラジオール(Wako、日本より購入)を添加する。次に、ラットの骨髄細胞を9日間培養し、骨髄単球の破骨細胞への変化状況を観察し、さらに下の公式でキンセノシドとエストラジオールの破骨細胞形成抑制のパーセンテージを計算した。得られた結果は表
7に示すとおりである。
抑制パーセント(%)=(抑制群の破骨細胞の数−実験群の破骨細胞の数)/抑制群の破骨細胞の数×100%
【0068】
実験群B:エストラジオール拮抗剤を添加
上記の分化剤RANKLとキンセノシドおよび/またはエストラジオールを
培養皿中に添加するとともに、エストラジオール抑制剤フルベストラント(Sigma、Louis、MO、USAより購入)(1nモル濃度)を添加した。次に、ラットの骨髄細胞を9日間培養し、骨髄単球の破骨細胞への分化状況を観察し、さらにキンセノシドの破骨細胞形成抑制のパーセンテージを計算した。得られた結果は表
7に示すとおりである。
【0069】
【表7】
データはすべて平均数±標準偏差(サンプリング数=3)。
抑制群との比較、
*P<0.05、
**P<0.01、
***P<0.001。
t−test検査によるエストラジオール群との比較、
#P<0.05。
【0070】
表
7から分かるように、キンセノシドもエストラジオールも破骨細胞の形成に対して抑制効果がある。エストロゲンが不足すると骨粗しょう症をもたらすことは周知のとおりである。そのため、骨粗しょう症の治療にすでにエストロゲンの一種であるエストラジオールが使用されている。また、乳癌はエストロゲンの分泌過多と関係があることが実証されている。それゆえ、エストロゲンの分泌過多を抑制するために、乳癌患者は通常フルベストラント薬物を服用する必要がある。したがって、乳癌と骨粗しょう症を同時に患った場合、その骨粗しょう症がエストロゲン不足によるものではなくても、フルベストラント薬物がエストラジオールに対して拮抗性があるためにエストラジオールを使って骨粗しょう症を治療することができないことになる。しかし、表9が示すように、フルベストラントはキンセノシドに対しては抑制効果がないから、キンセノシドを骨粗しょう症のある乳癌患者に活用することができ、同時にフルベストラント薬物も服用可能である。
【0071】
実験
E:RAW 264.7マクロファージの生存率試験
実験群C:キンセノシドのRAW 264.7マクロファージ生存率への影響
それぞれ異なる濃度のキンセノシド(0、10、25と50μモル濃度)をRAW 264.7マクロファージ(財団法人食品工業発展研究所より購入)含有の培養皿(成分はα−最少必須培地、熱で活性を除去した10%の胎牛血清、100活性単位/mlのペニシリンおよび100μg/mlのストレプトマイシン)の中に添加して3日間培養した後、MTS(3−(4,5−ジメチルチアゾール−2−イル)−5−(3−カルボキシメトキシフェニル)−2−(4−スルホフェニル)−2H−テトラゾリウム、Promega、Madison、WI、USAより購入)でその生存率を測定した。その結果を表
8に示す。
【0072】
実験群D:分化剤存在下のキンセノシドのRAW 264.7マクロファージ生存率への影響
上記の各種濃度のキンセノシド(0、10、25と50μモル濃度)をそれぞれ添加するとともに、分化剤RANKL(50ng/ml)を添加し、3日間培養した後、MTSによりその生存率を測定した。結果を表
8に示した。
【0073】
MTSの作用原理:生きた細胞はデヒドロゲナーゼ活性があるため、MTSを赤紫色の水溶性の生成物に還元でき、490nmの波長で最高の吸光値をもつ。そのため、吸光値の比率から細胞の生存率を判断できる。細胞の生存率は、以下の式に換算する。
生存率=実験群の吸光値/抑制群の吸光値×100%
【0074】
【表8】
データはすべて平均数±標準偏差(サンプリング数=3)。
【0075】
表
8から分かるように、キンセノシドもそれとRANKLの組合せもRAW264.7マクロファージの生存率に影響しない。
【0076】
実験
F:キンセノシドによるRAW 264.7マクロファージの破骨細胞形成の抑制
RAW 264.7マクロファージを分化剤RANKL(50ng/ml)を含む培養皿で培養した場合、RAW 264.7マクロファージは通常5日後に分化して破骨細胞になる。実験
Fでは、各種濃度のキンセノシド(0、10と50μモル濃度)またはエストラジオール(10nモル濃度)をそれぞれRAW 264.7マクロファージ含有培養皿に加え、5日間培養した後、TRAP染色試薬で破骨細胞を染色し、顕微鏡でその分化の状況を観察した。結果は図
4に示すとおりである。破骨細胞の数を計数し、下記の公式で破骨細胞形成のパーセンテージを計算した。結果は表
9に示すとおりである。
抑制%=(抑制群の破骨細胞の数−実験群の破骨細胞の数)/抑制群の破骨細胞の数×100%
【0077】
【表9】
データはすべて平均数±標準偏差(サンプリング数=3)。
抑制群との比較、
*P<0.05、
**P<0.01。
【0078】
表
9および図
4から分かるように、キンセノシド濃度が増すほどそのRAW 264.7マクロファージの破骨細胞への分化を抑制する効果が高い(例えば、図
4の赤い矢印で標示する部分)。また、表
8に示すように、キンセノシドもRANKLとの組合せもRAW 264.7マクロファージの生存率に影響しない。したがって、この抑制作用のメカニズムはRAW 264.7マクロファージの分化に対するものであって、このRAW 264.7マクロファージの死亡によるものではない。
【実施例4】
【0079】
EMSAによるキンセノシドの破骨細胞形成抑制のメカニズムの分析
実験
G:RANKL刺激時間と反応との関係
電気泳動度移動アッセイ(EMSA)を利用してキンセノシドの破骨細胞形成抑制のメカニズムを観察した。現在知られているように、分化剤RANKLはRAW264.7マクロファージを活性化させ、NF−κBを細胞核中に入らせ、RAW264.7マクロファージの破骨細胞への分化を促進させる(Wada T、Nakashima T、Hiroshi N、Penninger JM.2006.RANKL−RANK signaling in osteoclastogenesis and bone disease.Trends Mol.Med.12、17−25を参照)。
【0080】
分化剤RANKL(50ng/ml)をRAW 264.7マクロファージ含有培養皿に添加し、0分間、15分間、30分間、60分間、120分間培養した後、それぞれ細胞核中のタンパク質を抽出し、EMSA分析を行った。結果は図
5Aに示すとおりである。EMSAの分析で使用したDNA配列は以下のとおりである。
【0081】
cy5-5'-TCGACCAACTGGGGACTCTCCCTTTGGGAACA-3'
cy5-5'-TCGATGTTCCCAAAGGGAGAGTCCCCAGTTGG-3'。
【0082】
図
5Aから分かるように、分化剤RANKLで刺激後のRAW264.7マクロファージでは、NF−κBの細胞核への進入量が60分後に最大値に達している。そこで、これを根拠に次の実験では60分間をRANKL刺激反応の測定時間とした。
【0083】
実験
H:キンセノシドによるNF−κBの細胞核への進入量の低減
分化剤RANKL(50ng/ml)をRAW 264.7マクロファージ含有培養皿に添加し、さらに異なる濃度のキンセノシド(0、10、25、50μモル濃度)をそれぞれ添加して試験を行った。RAW 264.7マクロファージを60分間培養した後、細胞核中のタンパク質をそれぞれ取り出し、EMSA分析を行った。結果は図
5Bと図
5Cに示すとおりである。ここで使用したDNA配列は上記のDNA配列と同じである。図
5Bと図
5Cから分かるように、キンセノシドはNF−κBの細胞核への進入量を低減させることができる。
【0084】
以上で分かるように、キンセノシドはRAW264.7マクロファージの細胞核へのNF−κBの進入量を低減させ、それによって破骨細胞への分化が抑制される。本発明はこのメカニズムを通じてキンセノシドを含む医薬組成物および抽出液が骨の吸収作用を抑制する効果を達成させる。
【実施例5】
【0085】
キンセノシドによる破骨細胞の活性の抑制
破骨細胞が活性化すると、金属プロテイナーゼ−9(MMP−9)を放出して骨質中のコラーゲンタンパク質を吸収する。RT−PCRによってMMP−9のmRNAの発現を分析すると、キンセノシドが破骨細胞の骨吸収活性を抑制できるか否かを知ることができる。
【0086】
実験
I:キンセノシドによる破骨細胞MMP−9のmRNAの発現の抑制
RAW 264.7マクロファージを分化剤RANKL(50ng/ml)を含む培養皿で培養するとき、同時にキンセノシド(50μモル濃度)を加えて24、48、72時間培養した後、mRNAを抽出し、RT−PCRを用いてMMP−9の発現を分析した。結果は図
6Aと図
6Bに示すとおりである。キンセノシドは破骨細胞のMMP−9のmRNAの発現を抑制することができる。したがって、キンセノシドは破骨細胞の骨吸収作用を抑制できる。
【実施例6】
【0087】
キンセノシドによる骨芽細胞の活性化
実験
J:キンセノシドのMC3T3−E1骨芽前駆細胞生存率への影響
実験群E:キンセノシドのMC3T3−E1細胞の生存率への影響
MC3T3−E1細胞(American Type Culture Collection、Manassas、VAより購入)は骨芽前駆細胞である。骨芽細胞の後段階の分化過程を観察するために、MC3T3−E1細胞を含む培養皿中に適度の分化剤を添加してもよい。各種濃度のキンセノシド(0、100、1,000nモル濃度)をそれぞれMC3T3−E1細胞を含む培養皿(成分はα−最少必須培地、熱で活性を除去した10%の胎牛血清、100活性単位/mlのペニシリンおよび100μg/mlのストレプトマイシン)の中に加え、3日間培養した後、MTSにてその生存率を測定した。結果は表
10に示した。
【0088】
実験群F:分化剤存在下のキンセノシドのMC3T3−E1細胞生存率への影響
上記各種濃度のキンセノシドをそれぞれ添加するとともに、分化剤としてビタミンC(50μg/ml、Sigmaより購入)とβ−グリセロリン酸(10μモル濃度、Sigmaより購入)をMC3T3−E1細胞を含む培養皿に加え、3日間培養した後、MTSでその生存率を測定した。結果は表
10に示すとおりである。細胞生存率は以下の公式に換算した。
生存率=実験群の吸光値/抑制群の吸光値×100%
【0089】
【表10】
データはすべて平均数±標準偏差(サンプリング数=3)。
抑制群との比較、
*P<0.05、
**P<0.01。
【0090】
表
10から分かるように、キンセノシドは単独ではMC3T3−E1細胞の生存率をやや低下させるが、ビタミンCおよびβ−グリセロリン酸と組み合わせるとMC3T3−E1細胞の生存率に影響しない。
【0091】
実験
K:キンセノシドによるMC3T3−E1細胞のアルカリ性ホスファターゼの放出
アルカリ性ホスファターゼ(ALP)は骨芽前駆細胞の早期活性化の生物指標または分子マーカーであり、その活性を観察すると骨芽前駆細胞の活性化状況を知ることができる。まずビタミンC(50μg/ml)およびβ−グリセロリン酸(10μモル濃度)を骨芽前駆細胞MC3T3−E1を含む培養皿に加え、それぞれ異なる濃度のキンセノシド(0、100、1,000nモル濃度)を加える。この骨芽前駆細胞MC3T3−E1をそれぞれ3、5、10日間培養した後、細胞内のタンパク質を抽出し、p−ニトロフェニルホスフェート液体基質系(Sigmaより購入)の試薬を使用してアルカリ性ホスファターゼの活性を測定した。結果は表
11に示すとおりである。
【0092】
【表11】
データはすべて平均数±標準偏差(サンプリング数=3)。
抑制群との比較、
*P<0.05。
【0093】
表
11から分かるように、時間の増加に伴い、キンセノシドはアルカリ性ホスファターゼの活性を約25%から50%に強化することができる。またキンセノシドは細胞内の関係酵素(例えば、アルカリ性ホスファターゼ)の活性化により、前記骨芽前駆細胞MC3T3−E1細胞の骨芽細胞へのさらなる分化を促進することができる。
【0094】
実験
L:キンセノシドのMC3T3−E1細胞の鉱質化作用発生の促進
まずビタミンC(50μg/ml)とβ−グリセロリン酸(10μモル濃度)を骨芽前駆細胞MC3T3−E1を含む培養皿に加え、14日間培養すると、骨芽前駆細胞MC3T3−E1は鉱質化作用を起こし、カルシウム沈積をもたらす。このとき、アリザリンS(Sigmaより購入)染色法を利用してカルシウム含量を測定できる(Gregory CA、Gunn WG、Peister A、Prockop DJ.2004.An Alizarin red−based assay of mineralization by adherent cells in culture:comparison with cetylpyridinium chloride extract.Anal.Biochem.329、77−84参照)。
【0095】
ビタミンC(50μg/ml)およびβ−グリセロリン酸(10μモル濃度)をMC3T3−E1細胞を含む培養皿に加え、それぞれ異なる濃度のキンセノシド(0、100、1,000nモル濃度)を添加し、MC3T3−E1細胞を14日間培養した後、アリザリンS染色法を利用してカルシウム含量を測定した。結果を表
12に示す。染色後の外観は図
7に示すとおりである。
【0096】
【表12】
データはすべて平均数±標準偏差(サンプリング数=3)。
抑制群との比較、
*P<0.05。
【0097】
表
12と図
7から分かるように、キンセノシドはアリザリンSの吸光値を上昇させる。つまり、MC3T3−E1細胞内のカルシウム含量を増やすことができるため、鉱質化作用が促進される。
【実施例7】
【0098】
キンセノシドによる卵巣除去マウスの骨粗しょう症の改善
上記のように、エストロゲンの分泌不足が骨粗しょう症をもたらすことはすでに知られているので、この実験では、ICRマウスの卵巣を除去し、エストロゲンを分泌できないようにして骨粗しょう症を誘発させた。
【0099】
まずICRマウスの卵巣を除去し、3日後にそれぞれ異なる用量のキンセノシド(0、100、300mg/kg)をICRマウスに投与した。この「mg/kg」という単位は動物の体重1kg当たり必要な投与量をさす。投与の3週間後にICRマウスを屠殺し、酵素免疫測定法で血清中のオステオカルシンとI型コラーゲンのC−末端架橋テロペプチド(CTx)の含量を測定した。オステオカルシンおよびCTx試薬はIDS Nordic A/S、Herlev、Danmarkidsより購入したものである。結果は表
13に示す。前記屠殺したICRマウスの大腿骨を取り出し、図
8に示すようにマイクロコンピュータ断層走査装置(SkyScan 1076、Kontizh、Belgium)でコンピュータ断層走査図を撮影した。さらに分析ソフトで骨の体積と組織の体積の比および骨梁の数を分析し、得られた結果を表
14に記録した。次に大腿骨のカルシウムを除去した後冷凍してスライスし、TRAP染色試薬で破骨細胞を染色し、骨梁周辺の破骨細胞の数を計数した。その結果は図
9と表
15に示すとおりである。
【0100】
【表13】
データはすべて平均数±標準偏差(サンプリング数=7)。「OVX」は卵巣除去を示す。抑制群との比較、
##P<0.05、
###P<0.001。OVX+水群との比較、
*P<0.05、
**P<0.01、
***P<0.001。
【0101】
表
13に示すように、卵巣除去マウスの血中CTxの濃度が上昇し、オステオカルシン濃度にも上昇傾向が見られた。CTxは骨中のコラーゲンタンパク質の分解産物であり、その血中濃度が上昇するということは、骨吸収作用が強まったことを示す。オステオカルシンは骨芽細胞が産出する小タンパク質である。その濃度の上昇は、造骨の活性の増強または骨の更新率の増強を表す(Swaminathan R.2001.Biochemical markers of bone turnover.Clinica Chimica Acta 313、95−105を参照)。表
13から分かるように、キンセノシドはCTx濃度を低下させ、オステオカルシンの濃度を増やすことができる。これはキンセノシドが破骨細胞を抑制し、骨芽細胞の活性または骨の更新率を強化できることを示す。
【0102】
【表14】
データはすべて平均数±標準偏差(サンプリング数=7)。「OVX」は卵巣除去を示す。抑制群との比較、
##P<0.05、
###P<0.001。OVX+水群との比較、
*P<0.05。
【0103】
表
14から分かるように、キンセノシドは卵巣除去ICRマウスの骨体積と組織体積の比および骨梁の数を増やすことができ、卵巣除去ICRマウスの骨粗しょう症を有効改善させるとともに、骨梁の数を正常状態(卵巣未除去ICRマウスとの比較)に回復させる。また、図
8から分かるように、卵巣未除去ICRマウスと比較して、マイクロコンピュータ断層走査図は、キンセノシドがICRマウスの大腿骨の骨組織を正常に回復させることができることを示している。
【0104】
【表15】
データはすべて平均数±標準偏差(サンプリング数=7)。「OVX」は卵巣除去を示す。抑制群との比較、
##P<0.05。OVX+水群との比較、
*P<0.05、
**P<0.01。
【0105】
図
9と表
15は、それぞれこの実験の卵巣除去ICRマウスの破骨細胞の顕微鏡図および統計表である。これらの破骨細胞は該ICRマウスの大腿骨の骨梁周囲にあったものである。図
9の黒い矢印で示すように、キンセノシドは卵巣除去ICRマウスの破骨細胞の数および密度を有効に減少させている。
【0106】
上記に述べた実施例は本発明の原理および効果を説明するために例示したにすぎず、本発明を制限するものではない。この技術を熟知している者であれば本発明の技術原理および精神から逸脱せずに上記実施例を修正、変更することができる。したがって、本発明の権利保護範囲は後述の特許請求の範囲に示すものとする。