【実施例1】
【0022】
図1は本発明のガス及びヒュームの捕集装置の第1の実施形態のスポット溶接前の正面断面図である。第1の実施形態は、スポット溶接される鋼板Pの片側で生じるガス及びヒュームを捕集する捕集装置1である。
【0023】
ガス及びヒュームの捕集装置1の鋼板Pより上部の部分は、スポット溶接機100の一方の電極70aの電極支持部80aにカバー体固定部材50とグランドパッキン52により固定されるカバー体2とカバー体2に結合された第1のベローズ体3aから構成されている。カバー体2と第1のベローズ体3aと、カバー体2とカバー体固定部材50とは、フック体54(
図3参照)でそれぞれ結合されている。カバー体2とカバー体固定部材50を結合するとグランドパッキン52が圧縮され、電極支持部80aにカバー体2が固定され、またカバー体2の空間がシールされることになる。なおカバー体固定部材50をネジ止めで電極支持部80aに固定しても良い。
【0024】
カバー体2には、清浄な空気を導入する空気導入口22と鋼板Pから生じたガスを排出するガス排出口24とを備えている。カバー体2の材質は、難燃性のセラミックス材料が好ましく、カバー体2の内面でガスやヒュームを変性させることがないガラスが特に好ましい。第1のベローズ体3aと第2のベローズ体4aが導電性の材質の場合は、カバー体2の材質は絶縁性も必要である。導電性であると捕集装置1全体が導電性になり、電極支持部80aと80bから電流が分流して、スポット溶接ができなくなることを防ぐためである。なお、カバー体2の材質が絶縁性でない場合には、カバー体2やカバー体固定部材50が接触する電極支持部80aとの間に絶縁体を挟むと良い。
【0025】
第1のベローズ体3aは、カバー体2の下面と結合される上部フランジ32と、鋼板Pに接する下部フランジ34と、上部フランジ32と下部フランジ34とを結合するベローズ36から構成されている。第1のベローズ体3aの材質は、耐熱、耐食性に優れたポリテトラフルオロエチレン(PTFE)又はより耐熱、耐食性に優れたステンレス鋼を用いることが望ましい。
【0026】
ガス及びヒュームの捕集装置1の鋼板Pより下部の部分は、スポット溶接機100の他方の電極70bの電極支持部80bにベローズ体固定部材90で固定される第2のベローズ体4aから構成されている。
【0027】
第2のベローズ体4aは、上部フランジ42と下部フランジ44とを結合するベローズ46から構成されている。下部フランジ44は、ベローズ体固定部材90に結合され、上部フランジ42は、第1のベローズ体3aの下部フランジ34と鋼板Pを挟んでネジ止めにより固定される(
図3参照)。なお、第2のベローズ体4aの材質も、耐熱、耐食性に優れたポリテトラフルオロエチレン(PTFE)又はより耐熱、耐食性に優れたステンレス鋼を用いることが望ましい。
【0028】
このようにして、カバー体2とカバー体2に結合された第1のベローズ体3aと鋼板Pによって囲まれる閉空間と鋼板Pと第2のベローズ体4aによって囲まれる閉空間が形成されるが、後者の閉空間は、スポット溶接で生成するガスやヒュームの捕集には役立たないので、ベローズ体固定部材90に貫通孔を設け、後者の閉空間を開放してガス成分が滞留しないようにした方が好ましい。
【0029】
図2には、本発明のガス及びヒュームの捕集装置1の第1の形態のスポット溶接時の正面断面図を示す。スポット溶接の際には、電極70aの電極支持部80aが、エアシリンダー等で下降するため、電極支持部80aに固定されているカバー体2も下降する。カバー体2が下降するとベローズ体3aのベローズ36が収縮しながら、下部フランジ34を通じて、鋼板Pと第2のベローズ体4aの上部フランジ42を押圧する。上部フランジ42が押圧されるとベローズ体固定部材90で電極支持部80bに固定されている下部フランジ44は、動かないため、ベローズ46が収縮して均衡する。
【0030】
さらに、カバー体2が下降すると、鋼板Pが下降し、他方の電極70bに接するようになり、最終的には電極70aが鋼板Pに接触して鋼板Pを電極70aと電極70bの両電極で挟み込み、加圧が行われる。加圧中にスポット溶接機100のトランスから交流電流が、電極支持部80aを通じて電極70aと電極支持部80bを通じて電極70bに供給され、鋼板Pのスポット溶接が行われる。
【0031】
図3は、
図1のA−A部分の断面からみた平面図である。カバー体2と第1のベローズ体3aはフック体54により結合され、また鋼板Pは、第1のベローズ体3aの下部フランジ34と第2のベローズ体4aの上部フランジ42の間に挟まれて、下部フランジ34と上部フランジ42がねじ穴56によりネジ止めされて、気密を保つようになっている。また下部フランジ34と上部フランジ42の材質がステンレス鋼の場合には鋼板Pと接触する面を研削してポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を埋め込み、鋼板Pの滑りを良くして、スポット溶接毎に鋼板Pを移動できるようにしても良い。
【0032】
スポット溶接時に鋼板Pから生ずるガス及びヒュームの捕集は以下のような手順で行う。まず第1のベローズ体3aの下部フランジ34と第2のベローズ体4aの上部フランジ42の間に鋼板Pを挟み込んで、ねじ穴56によりネジ止めを行う。カバー体2の空気導入口22にホースを接続してボンベから揮発性有機化合物が低減された清浄な空気を導入する。カバー体2とカバー体2に結合された第1のベローズ体3aと鋼板Pによって囲まれる閉空間の空気が置換されたら、ガス排出口24に固体捕集剤(活性炭、Tenax(登録商標)、モレキュラーシーブ、シリカゲル、2,4-Dinitrophenyl-hydrazine(DNPH)、O-(4-cyano-2-ethoxybenzyl)hydroxylamine(CNET)等)を中途に設けたホースを接続する。
【0033】
スポット溶接機100の電源を入れて、スポット溶接を行う。スポット溶接で鋼板Pから発生したガスは、導入された清浄な空気により、ガス排出口24から排出されて固体捕集剤に吸収される。またスポット溶接で鋼板Pから発生したヒュームは、カバー体2の内面に付着される。
【0034】
固体吸着されたガス成分(揮発性有機化合物(VOC)及び準揮発性有機化合物(SVOC)等)のガス分析は、加熱脱着によりガスクロマトグラフ(GC)あるいはガスクロマトグラフ質量分析計(GC/MS)に導入し、定性・定量分析を行う。DNPHやCNET等の化学誘導体化固相吸着されたガス成分(アルデヒド類やケトン類等)は、溶媒抽出後、高速液体クロマトグラフ(HPLC)で定性・定量分析を行う。
【0035】
カバー体2の内面に付着したヒュームの分析は、スパーテルなどを用いてそのまま回収、あるいは水・溶媒などを用いて回収し、回収したものをEDX分析、XRD分析、化学分析等に供する。
【実施例2】
【0036】
図4は本発明のガス及びヒュームの捕集装置1の第2の実施形態のスポット溶接前の正面断面図である。第2の実施形態は、スポット溶接される鋼板Pの電極と接する両面及びナゲットが形成される合わせ面で生じるガス及びヒュームを捕集する捕集装置1である。
【0037】
ガス及びヒュームの捕集装置1は、スポット溶接機100の第1電極70cの電極支持部80cに固定され、第1の空間を形成する第1の部材と第2電極70dの電極支持部80dに固定され、第2の空間を形成する第2の部材から構成されている。
【0038】
第1の部材は、第1電極70cの電極支持部80cにカバー体固定部材50とグランドパッキン52により固定されるカバー体2とカバー体2に結合されたベローズ体3bから構成されている。カバー体2とベローズ体3bと、カバー体2とカバー体固定部材50とは、
図3で説明したフック体54でそれぞれ結合されている。カバー体2とカバー体固定部材50を結合するとグランドパッキン52が圧縮され、電極支持部80cにカバー体2が固定され、またカバー体2と結合されたベローズ体3bとで形成される第1の空間がシールされることになる。なお、カバー体固定部材50をネジ止めで電極支持部80cに固定しても良い。
【0039】
カバー体2には、鋼板Pから生じたガスを排出するガス排出口24を備えている。カバー体2の材質は、難燃性のセラミックス材料が好ましく、カバー体2の内面でガスやヒュームを変性させることがないガラスが特に好ましい。ベローズ体3bとベローズ体4bが導電性の材質の場合は、カバー体2の材質は絶縁性も必要である。導電性であると捕集装置1全体が導電性になり、電極支持部80cと80dから電流が分流して、スポット溶接ができなくなることを防ぐためである。なお、カバー体2の材質が絶縁性でない場合には、カバー体2やカバー体固定部材50が接触する電極支持部80cとの間に絶縁体を挟むと良い。
【0040】
ベローズ体3bは、カバー体2の下面と結合される上部フランジ32と、鋼板Pに接するOリング58の付いた下部フランジ34と、上部フランジ32と下部フランジ34とを結合するベローズ36から構成されている。Oリング58を使用するのは、本第2の実施形態の場合は、第1の空間と第2の空間を連通させるため、鋼板Pの一部分を挟み込むようにしているため、鋼板Pの厚みをOリング58の弾性変形で緩和して、かつ外気が侵入しないようにするためである。なお、ベローズ体3bの材質は、耐熱、耐食性に優れたポリテトラフルオロエチレン(PTFE)又はより耐熱、耐食性に優れたステンレス鋼を用いることが望ましい。
【0041】
第2の部材は、一端が閉じられたベローズ体4bから構成されている。ベローズ体4bは、Oリング58の付いた上部フランジ42と下部フランジ44とを結合するベローズ46から構成されている。下部フランジ44は、ベローズ体固定部材90に結合され、一端が閉じられている。本実施の態様では、ベローズ体固定部材90に清浄な空気を導入する空気導入口22が備えられているが、上部フランジ42又は下部フランジ44に備えても良い。Oリング58の付いた上部フランジ42は、ベローズ体3bのOリング58の付いた下部フランジ34と鋼板Pの一部分を挟んでネジ止めにより固定される。なお、ベローズ体4bの材質も、耐熱、耐食性に優れたポリテトラフルオロエチレン(PTFE)又はより耐熱、耐食性に優れたステンレス鋼を用いることが望ましい。
【0042】
このようにして、カバー体2とカバー体2に結合されたベローズ体3bとで形成された第1の空間と一端が閉じられたベローズ体4bによって形成された第2の空間が連通されて閉空間を形成する。そのためスポット溶接の際に発生するガス及びヒュームを鋼板Pの電極と接する両面からとナゲットが形成される合わせ面から捕集できるので効率が良い。
【0043】
スポット溶接の際の態様は、第1の形態のスポット溶接の際の態様と同様である。スポット溶接の際には、第1電極70cの電極支持部80cが、エアシリンダー等で下降するため、電極支持部80cに固定されているカバー体2も下降する。カバー体2が下降するとベローズ体3bのベローズ36が収縮しながら、下部フランジ34のOリング58を通じて、鋼板Pとベローズ体4bの上部フランジ42のOリング58を押圧する。上部フランジ42のOリング58が押圧されるとベローズ体固定部材90で電極支持部80dに固定されている下部フランジ44は、動かないため、ベローズ46が収縮して均衡する。
【0044】
さらに、カバー体2が下降すると、鋼板Pが下降し、第2電極70dに接するようになり、最終的には第1電極70cが鋼板Pに接触して鋼板Pを第1電極70cと第2電極70dの両電極で挟み込み、加圧が行われる。加圧中にスポット溶接機100のトランスから交流電流が、電極支持部80cを通じて電極70cと電極支持部80dを通じて電極70dに供給され、鋼板Pのスポット溶接が行われる。
【0045】
図5は、
図4のB-B部分の断面からみた平面図である。カバー体2とベローズ体3bはフック体54により結合され、また鋼板Pの一部分は、ベローズ体3bのOリング58の付いた下部フランジ34とベローズ体4bのOリング58の付いた上部フランジ42の間に挟まれて、第1の空間と第2の空間とが連通され、下部フランジ34と上部フランジ42がねじ穴56によりネジ止めされて、気密を保つようになっている。
【0046】
スポット溶接時に鋼板Pから生ずるガス及びヒュームの捕集は以下のような手順で行う。まずベローズ体3bのOリング58の付いた下部フランジ34とベローズ体4bのOリング58の付いた上部フランジ42の間に第1の空間と第2の空間とが連通するように鋼板Pの一部分を挟み込んで、ねじ穴56によりネジ止めを行う。ベローズ体固定部材90の空気導入口22にホースを接続してボンベから揮発性有機化合物が低減された清浄な空気を導入する。導入された清浄な空気は第2の空間から第1の空間に流れ、連通された閉空間の空気が置換されたら、カバー体2のガス排出口24に固体捕集剤(活性炭、Tenax(登録商標)、モレキュラーシーブ、シリカゲル、2,4-Dinitrophenyl-hydrazine(DNPH)、O-(4-cyano-2-ethoxybenzyl)hydroxylamine(CNET)等)を中途に設けたホースを接続する。
【0047】
スポット溶接機100の電源を入れて、スポット溶接を行う。スポット溶接で鋼板Pの電極と接する両面からとナゲットが形成される合わせ面から発生したガスは、ベローズ体固定部材90の空気導入口22から導入された清浄な空気により、カバー体2のガス排出口24から排出されて固体捕集剤に吸収される。またスポット溶接で鋼板Pから発生したヒュームは、カバー体2の内面に付着される。なお、ガス排出口24をカバー体2に設けたが、ベローズ体3bのフランジに設けても良い。
【0048】
これ以降の捕集したガスの分析とヒュームの分析は実施例1で説明した第1の実施形態と同じであるので省略する。
【0049】
本実施例の別の実施形態として、カバー体2に更に圧力調整弁(図示せず)を備える実施形態がある。スポット溶接の際は、閉空間の体積が縮まるので、圧力の変動が生じ、通常の圧力でのスポット溶接の際に発生するガスやヒュームと異なる可能性があり、圧力調整弁により圧力の変動を押さえることができる。
【0050】
また別の実施形態として、ガス排出口24に逆止弁を備える形態がある。スポット溶接の後は、閉空間の体積が膨張するので、圧力が低減し、ガス排出口24から外部空気が逆流する恐れがある。そのため、ガス排出口24に逆止弁を備えておけば、ガス排出口24からの逆流もなく、発生したガスを空気導入口22から導入された清浄な空気により、ガス排出口24から排出して固体捕集剤に吸収させることができる。
【0051】
更に、カバー体2に圧力調整弁、ガス排出口24に逆止弁を備える実施形態も当然考えられ、閉空間の圧力変動が少なく、またガス排出口24からの逆流もなく、発生したガスを空気導入口22から導入された清浄な空気により、ガス排出口24から排出して固体捕集剤に吸収させることができる。
【0052】
図6は、従来法によるブランクの空気の分析結果と本発明の第1の実施形態によるブランクの空気とスポット溶接のガス分析結果を示した図面である。いずれも固体捕集剤としてTenax(登録商標)を用い、ガスクロマトグラフ(GC)を使用して分析したものである。従来法ではブランクの空気に対してもキシレンや鉱物油等の揮発性有機化合物が検出されるが、本発明の装置で捕集した結果、清浄な空気を使用するブランクでは、ほとんど揮発性有機化合物は検出されなかった。そのため、スポット溶接の際に発生するガスの成分とブランクの空気に含まれている揮発性有機化合物が重複することなく極めて正しい精度で測定することが可能となった。
【0053】
上述の構成により、本発明のガス及びヒュームの捕集装置は、スポット溶接で鋼板から発生するガスやヒュームをスポット溶接機の可動する電極部と溶接される鋼板部材とを含む空間に閉じこめ、その空間に清浄な空気を導入して発生したガスやヒュームを送出するので、大気中のガス成分が混入せず、正しい値が検出でき、またガスやヒュームの変性を防止することができる。