【実施例】
【0025】
(計測用ターゲット)
先ず、
図2、
図3を用いて、本発明の実施例に係る自己発光型ターゲットである計測用ターゲットを説明する。図示するように、計測用ターゲット2は、ケース20と、発光手段21と、蓄光面材22と、を有し、発光手段21が発する光を蓄光面材22で蓄光して
図2で示す撮像手段側に円形状に蛍光(燐光)を発する内照式の自己発光型ターゲットである。この計測用ターゲット2は、レールを支持する枕木に取り付けるなど、レールに直接取り付けられていなくても構わない。要するに、支持地盤が沈下したりズレたりした場合にレールと一緒に移動するものに直接又は間接的に取り付けられていればよい。
【0026】
ケース20は、前面側である撮像手段側に円形状に開口した円形開口20aを有する概略箱形のケースであり、このケース20の背面(撮像手段から遠い面)側内部に発光手段21が取り付けられている。
【0027】
この発光手段21は、紫外線(波長が可視光線より短くX線より長い10〜400nm程度のものを指す。但し、後述の蓄光性蛍光体を効率よく発光させる観点からは、波長が360nmをピークとする近紫外線が最適である。以下同じ)を放射する円弧状に配列された複数のLED21aと、その基盤21bと、から主に構成され、図示しない電源に電気的に接続されている。勿論、発光手段21は、発光機能を有していればLEDに限定されるものではなく、有機EL(Organic Electro−Luminescence)や蛍光灯、白熱球などの既知の発光手段を用いることができる。しかし、後述の蓄光面材に効率的に蓄光する観点からは、発光手段は、紫外線を照射するLEDが好ましい。
【0028】
また、ケース20の前面(撮像手段から近い面)側であって円形開口20aの内側には、蓄光面材22が取り付けられおり、ケース20で蓄光面材22の円形開口20a以外の部分を遮光することで蓄光面材22の発する蛍光の光路が円形状となるようになっている。この蓄光面材22は、バインダー樹脂(マトリクス樹脂)を基体として、蓄光性蛍光体と光透過性物質とを含有して板状に成型されている。
【0029】
バインダー樹脂としては、ポリメチルメタクリレート(PMMA)等のメタクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、スチレン樹脂、シリコーン樹脂、ポリエステル樹脂等の各種の光透過性の樹脂を使用することができる。
【0030】
また、蓄光性蛍光体としては、一般的な蓄光性蛍光体であれば適用可能であるが、例えば、フルオレセイン、ローダミン、エオシン、ピラミジン、ナフタルイミド、ペリレン等の有機蛍光染料に、アルミン酸ストロンチウム等に重金属やユーロピウム等の希土類酸化物等を活性化剤として添加したものを、蓄光体として加えたものを使用することができる。本実施例では、紫外線を吸収して可視光として後述の撮影計測に必要な所望の一定輝度以上の蛍光(燐光)を長時間(24時間以上が好ましい)に亘り発光可能な蓄光性蛍光体が用いられている。
【0031】
光透過性物質としては、光透過性の無機質粒子(例えば、石英系天然石の粉砕品やガラス粉、水酸化アルミニウム等の透明色の無機質粒子)が好ましく、その粒径が180μm〜9.5mmの細粒成分と180μmアンダーの微粒成分とによって構成されることが更に好ましい。勿論、この無機質粒子は、光を透過する透明色であれば、有彩色であっても構わない。
【0032】
以上のような実施例に係る自己発光型ターゲットである計測用ターゲット2によれば、人工照明であるLED21aを適宜点灯することでいつでも蓄光面材22に蓄光可能となっているので、長期に亘って天候が悪い場合であっても、蓄光面材22の発する光が一定輝度を下回ることがなく、発光量(輝度)のバラツキを少なくすることができる。また、蓄光面材22は、ケース20の前面側に取り付けられているので、太陽光線中の紫外線を吸収して蓄光することができ、晴天時にはLED21aを発光させずとも昼間に蓄光面材22で蓄光して夜間の発光が可能である。よって、曇天時や雨天時が続いた必要な時だけLED21aを点灯させればよく、必要最小限の電力で計測用ターゲット2を発光させることができ、電力の省力化を図ることができる。
【0033】
また、蓄光面材22は、安価な光透過性の無機質粒子を含有しており、LED21aが発する光を透過可能となっているので、コストを削減できると共に、何らかのアクシデントにより蓄光面材22の蓄光量が不足して発光輝度が不足する事態が生じた場合であっても、LED21aを点灯させることによりターゲットの発光輝度を上げて適正輝度とすることができる。
【0034】
(不動点ターゲット)
次に、不動点ターゲットについて
図4を用いて説明する。
本実施の形態に係る不動点ターゲット2’は、図示(a)(b)に示すように、(a)実施例1:白黒の正方形を市松模様に組み合わせたり、(b)実施例2:四角錐台を白黒に塗り分けたりした一般的な反射チェッカーからなる従来の反射型ターゲットであり、複数個設置されるが、特に、反射チェッカー面を照らす照明等は設けていない。この不動点ターゲット2’は、後述のように、設置した不動点ターゲット2’の中心点を測量し、この測量により実測した三次元座標と、不動点ターゲット2’を撮影して得られた基準画像から算出する不動点ターゲット2’の中心点の二次元座標と、に基づいて後述の撮像手段であるカメラ3の位置確認とその補正を行う目的で設置されているものであり、晴天時や曇天時の昼間に撮像(撮影)しておけばよく、夜間に撮像する必要性が乏しいからである。また、カメラ3の位置ズレを無視すれば、計測用ターゲット2の工事前(変位計測前)の中心点を測量しておき、その実測した三次元座標を利用することで不動点ターゲット2’を省略することも可能である。
【0035】
しかし、現実問題として寒暖や直射日光による部材間の熱膨張の差などを勘案すると屋外に設置されるカメラ3の位置ズレは不可避であり、測定精度を向上させるためには、後述のように、撮影・計測毎にカメラ3の位置ズレを確認してそのズレから計測した変位の補正を行うことが望ましい。
なお、不動点ターゲット2’の設置個所は、6箇所以上あれば足り、計測精度を増すためには多く設置した方が好ましく、本実施の形態では9箇所設置されている。
また、この不動点ターゲット2’は、従来の反射型ターゲットではなく、前述の計測用ターゲット2と同様に、内照式の自己発光型ターゲットとしても構わない。
【0036】
(撮像手段)
次に、撮像手段について説明する(
図1参照)。
本実施の形態に係る撮像手段(
図1参照)は、一般的なデジタルカメラであり、後述のPC4とUSBケーブルなどで接続されており、そのPCにインストールされたプログラムの指令により所定時間に撮影可能で、且つ、シャッタースピードや絞りなどの露出制御を自動で行うことができる、いわゆるオートモードの撮影が可能であれば使用することができる。また、ムービーなどの動画を撮影するカメラであっても構わない。
【0037】
(解析手段)
次に、解析手段について説明する(
図1参照)。
本実施の形態に係る解析手段であるPC4は、一般的な市販のパーソナルコンピュータであり、インストールされた変位計測プログラムにより後述のように動作する解析手段としての機能を有している。
また、このPC4は、前述のカメラ3と、後述の外部記憶手段である外付けハードディスク5とに、USBケーブルなどの有線又は無線LANで双方向通信可能に接続され、これらのカメラ3及び外付けハードディスク5の動作を制御する制御手段としての機能も有している。
【0038】
(外部記憶手段)
次に、外部記憶手段について説明する(
図1参照)。
本実施の形態に係る外部記憶手段である外付けハードディスク5は、一般的な市販の外付けハードディスクであり、前述のカメラ3で撮影した画像を逐次蓄積して記憶する機能を有している。なお、この外付けハードディスク5は、PC4内に備えられているHDD(ハードディスクドライブ)などの内部記憶手段で容量が足りる場合設けなくてもよい。
また、PC4にプリンタを接続してカメラ3で撮影した画像や計測結果を印刷可能としてもよい。
【0039】
[変位計測システムの動作]
次に、前述の変位計測システム1の動作について、
図1、
図5〜
図7を用いて説明する。
前述の変位計測システム1で変位を計測するには、事前準備として計測条件の設定と、カメラ条件の設定を行う必要がある。
【0040】
(計測条件の設定)
計測条件の設定は、
図5に示すフローチャートに沿って設定する。
(1)キャリブレーション設定
このキャリブレーション設定では、標準パターンを撮影した画像を基にカメラ3で撮影した画像の色調や輝度等を校正(キャリブレーション)する。
【0041】
(2)標定処理
この標定処理では、前述の不動点ターゲット2’を撮影して得られた基準画像から算出する不動点ターゲット2’の中心点の二次元座標と、不動点ターゲット2’の中心点を実際に測量して得られた三次元座標と、を比較して標定を行う。
【0042】
(3)相関窓設定
この相関窓設定では、立体を撮影した画像から3次元座標を求める際に使用する、基準画像と撮影した画像の両画像から取り出した小領域(相関窓)において画像相関法により一致を調べる範囲(サイズ)を設定する。相関窓サイズが15×15の場合、PC4のキーボードから15と入力して設定する。
【0043】
(4)計測範囲設定
この計測範囲設定では、計測用ターゲット2及び不動点ターゲット2’の変位計測を行う範囲を設定する。この計測範囲はカメラ3の画素単位であり、縦横20画素の範囲を計測する場合はPC4のキーボードから20と入力して設定する。
【0044】
(カメラ条件の設定)
カメラ条件の設定は、
図6に示すフローチャートに沿って設定する。
(1)カメラの初期化
このカメラの初期化では、PC4を通じてカメラ3が撮影可能な状態となるように初期化される。
【0045】
(2)撮影条件設定
この撮影条件設定では、オート撮影かマニュアル撮影かを選択する。オート撮影とは、カメラ3のシャッタースピード及び絞りをカメラ自身の自動制御で撮影するモードであり、マニュアル撮影とは、シャッタースピード及び絞りの数値を指定して撮影するモードである。ここでマニュアル撮影を選択した場合、更にシャッタースピード及び絞りの数値を入力して設定する必要がある。
【0046】
(3)感度設定
この感度設定では、カメラ3の撮像素子のISO感度を200〜1000の間で設定する。
【0047】
(4)撮影間隔設定
この撮影間隔設定では、変位計測の計測開始時刻、計測終了時刻を設定し、その計測開始から計測終了までの間は、所定のインターバル(時間)を置いて繰り返し撮影するので、そのインターバル時間を(秒)単位で設定する。
【0048】
(変位計測)
以上の計測条件の設定及びカメラ条件の設定に従ってターゲットの変位計測を行う。この変位計測は、
図7のフローチャートに従って行われる。
(1)撮影
ステップ1では、PC4の撮影指示に従ってカメラ3で全ての計測用ターゲット2及び不動点ターゲット2’を含む画像を撮影する。
【0049】
(2)画像送信
ステップ2では、撮影した画像がカメラ3からPC4へ送信される。
【0050】
(3)カメラの位置確認
ステップ3では、PC4へ送信された画像を解析手段であるPC4で解析し、PC4において、撮影した画像から得られる9つの(少なくとも6つの)不動点ターゲット2’の中心位置が求められ、求められた二次元座標と、前述の測量により実測した不動点ターゲット2’及びカメラ3の三次元座標と、に基づいて、カメラ3の設置位置が当初とズレているか否かが判定されると共に、ズレている場合はその位置ズレ量が算出される。
【0051】
(4)変位算出
ステップ4では、PC4へ送信された画像から計測用ターゲット2の中心位置が求められ、そこから三次元座標が算出されて、基準画像又は前回の撮影画像から求めた計測用ターゲットの座標との差から計測用ターゲット2の変位が算出される。
【0052】
具体的には、前述の計測範囲設定で定めた計測範囲をテンプレートマッチングにより1画素ずつ基準画像と撮影画像との相関係数を求めていき、両画像の相関が最も高い領域を求めて、その図心(中心)を算出することで計測用ターゲット2の三次元座標を算出している。
【0053】
ここで、相関係数とは、基準画像と撮影画像との二次元的な輝度分布の類似性を示す統計学的指標であり、相関係数が1となった場合は、両画像の輝度分布が完全に一致したことを示すものである。また、ステップ3でカメラ3の位置ズレ量が算出された場合には、その位置ズレ量に基づいて算出された計測用ターゲット2の変位を補正する。
【0054】
(5)計測結果の検証
ステップ5では、ステップ4で算出した相関係数が全ての計測個所で0.8以上となった場合、「計測成功」と判断し、相関係数が1つの計測個所でも0.8未満となった場合には、「計測失敗」と判断する。「計測成功」の場合は、次のステップ6に進み、「計測失敗」の場合は、ステップ8、9を経由して計測結果の表示・保存を行ったうえ、前述の撮影間隔設定で設定したインターバル時間を無視して1分後にステップ1に戻って再撮影・再計測を行う。
【0055】
(6)計測結果の表示
ステップ6では、PC4で解析・算出した計測結果のデータを、撮影年月日、撮影時刻、時間のズレ量(カメラ時刻−パソコン時刻、単位は秒)、データ件数、1つ目の計測用ターゲットの縦変位、その横変位、その相関係数、2つ目の計測用ターゲットの縦変位、その横変位、その相関係数、・・・の順に撮影画像と共に、PC4のモニター(表示装置)に出力、及び/又はプリンタでプリントアウトする。
【0056】
(7)撮影画像及び計測結果の保存
ステップ7では、撮影画像及び計測結果を外付けハードディスク5に記憶させて保存し、蓄積し、一旦計測を終了する。そして、前述の撮影間隔設定で設定したインターバル時間が経過すると、ステップ1から撮影・計測を再開する。
【0057】
ステップ8では、ステップ6と同様にPC4で解析・算出した計測結果を表示するが、「計測失敗」が一目でそれが分かるように数値の前に「#」などのマークを表示するようにする。ステップ9では、ステップ7と同様に撮影画像及び計測結果を外付けハードディスク5に保存する。
【0058】
なお、計測結果が2回連続して「計測失敗」と判断された場合には、登録しておいたメールアドレスに撮影画像と計測結果と共に警報を送信するようにすると好ましい。このとき、同時にPC4が設置されている場所や工事事務所等でパトランプを回したり警報音を発するようにしたりしてもよい。また、計測結果のいずれかの変位が許容値を超えた場合に警報を発するようにしてもよい。
【0059】
さらに、ステップ6やステップ8において計測結果のデータや撮影画像をPC4のモニターに表示する際に、インターネットや有線又は無線LANを介してPC4が設置されている場所から離れた工事事務所などに設置されたPCにおいて常時閲覧できるようにしてもよい。このとき、常時閲覧できる計測結果は、最新のものとし、指定すれば過去の計測結果のデータも閲覧できるようにすることが好ましい。
【0060】
以上説明した本発明の実施の形態に係る変位計測システム1よれば、蓄光面材22の発する蛍光をターゲットとして撮影しているため、夜間の撮影でもターゲットの周囲との輝度の差(コントラスト)が大きくなりすぎず、シャッタースピードや絞りなどの露出関連の設定をデジタルカメラ3による「オート撮影」モードとして撮影しても露出オーバーとならず計測精度を確保することができ、シャッタースピードや絞りを設定したり、変更したりする手間が省ける。また、昼間の撮影でも天候による太陽光の光量の変動や影の有無に拘らずターゲットを認識することができる。よって、屋外において昼夜に亘って連続的に変位計測が可能であり、画像解析する際のターゲットの位置を誤認識するおそれが少なく計測誤差を少なくすることができる。さらに、雨天などの悪天候が連続した場合であっても、発光手段であるLED21aを発光させるだけで蓄光面材22に蓄光できるため、天候に左右されずに連続的に変位を計測することができる。
【0061】
そのうえ、計測用ターゲット2の発光部分である蓄光面材22が、ケース20の円形開口20aの周りで遮光されて、その光路が円形となるため、計測用ターゲット2の個々の設置の際に生じる傾きや角度の相違に関係なく、撮影した画像における前述の基準画像との相関が最も高い領域と、ある水平線との2つの交点を結んだ線分を2等分する垂線と、前記領域とある鉛直線との2つの交点を結んだ線分を2等分する垂線と、の交点がターゲットの図心となるので、解析手段であるPC4によるターゲットの座標位置を割り出す解析や計算が簡単でプログラム実行上も短時間で実行できると共に、計測誤差をさらに少なくすることができる。
【0062】
以上のように、本発明の一実施の形態に係る変位計測システムを、計測対象物が軌道(レール)であり、この軌道の側面に実施例に係るターゲットを複数個取り付けて、軌道の変位を計測する場合で説明したが、勿論、計測対象物は軌道に限られず、他の構造物にも適用可能であることは云うまでもない。
【0063】
また、実施の形態として説明した撮像手段、解析手段、外部記憶手段等も既知の他の手段と適宜変更可能である。特に、解析手段として基準画像と撮影画像との二次元的な輝度分布の類似性示す相関係数から撮影画像におけるターゲットの中心点を割り出すプログラムを実行するPCを例に挙げて説明したが、このようなプログラムを実行するPCに限られず、撮影したターゲットの画像からターゲットの位置変動を計測できるようプログラムされたコンピュータであれば適用することができる。