(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5722179
(24)【登録日】2015年4月3日
(45)【発行日】2015年5月20日
(54)【発明の名称】車いす用車輪のリム構造
(51)【国際特許分類】
A61G 5/02 20060101AFI20150430BHJP
【FI】
A61G5/02 512
【請求項の数】2
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2011-208615(P2011-208615)
(22)【出願日】2011年9月26日
(65)【公開番号】特開2013-66637(P2013-66637A)
(43)【公開日】2013年4月18日
【審査請求日】2014年5月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】502327953
【氏名又は名称】株式会社三貴工業所
(74)【代理人】
【識別番号】100135460
【弁理士】
【氏名又は名称】岩田 康利
(74)【代理人】
【識別番号】100084043
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 喜多男
(74)【代理人】
【識別番号】100142240
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 優
(72)【発明者】
【氏名】杉村 哲夫
【審査官】
貞光 大樹
(56)【参考文献】
【文献】
登録実用新案第3045741(JP,U)
【文献】
実開昭49−25149(JP,U)
【文献】
米国特許出願公開第2004/0103745(US,A1)
【文献】
米国特許第6120047(US,A)
【文献】
実開昭63−8412(JP,U)
【文献】
実開平3−4917(JP,U)
【文献】
特開平9−296816(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61G 5/02
F16B 37/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハンドリムを脱着自在に取り付けるための車いす用車輪のリム構造であって、
金属製のリムの外周面に該リムの周方向に沿って形成されたリム溝部の底部に設けられた貫通孔には、ナット部材が該リムの外周面側から取り付けられており、
該ナット部材は、
前記リム溝部の底部に配置される平板部と、
該平板部から該平板部の面方向に対して直交する方向に突出し、前記リムの貫通孔に挿通される嵌合突起部と、
で構成され、さらに、該平板部と該嵌合突起部とを貫くように雌ねじ部が形成されることで、前記ハンドリムのステーに設けられている取付孔に挿通された雄ねじ部材が螺合自在とされており、
前記貫通孔から差し出された前記嵌合突起部の先端が拡径されることで、あるいは、前記平板部が前記リム溝部内に圧入されることで、該ナット部材が該貫通孔周縁に固定されていることを特徴とする車いす用車輪のリム構造。
【請求項2】
前記ナット部材の雌ねじ部に、前記雄ねじ部材が螺合されて車いす用車輪にハンドリムが取り付けられた状態で、該雄ねじ部材の先端は、該ナット部材の該平板部から突出していないことを特徴とする
請求項1に記載の車いす用車輪のリム構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車いすの車輪にハンドリムを脱着自在に取り付けるための車いす用車輪のリム構造に関する。
【背景技術】
【0002】
車いす、特に自走式の車いすにあっては、使用者が腕を使って移動するために、車輪にハンドリムが取り付けられている。一般的にこの取り付けは、
図5に示すように、車輪3のリム5に形成された孔5fに該リム5の外周面側からボルト20を通して差し出し、差し出したボルト20にハンドリム10のステー10bに設けられた取付孔10cを通してナット21を螺合することにより行う。なお、前記ボルト20とナット21との間には、ワッシャ22、スプリングワッシャ23を介在させることが一般的である。そして、このようにしてリム5とハンドリム10とを固定した後、リムバンド9、タイヤチューブ8、及びタイヤ6を該リム5に取り付ける。
【0003】
ここで例えば、好みの仕様のハンドリムを選択して取り換える場合、あるいは異なる体形の使用者が使用する場合、その他なんらかの理由で該ハンドリムが摩耗したり、破損したりした場合には、該ハンドリムを他の仕様のものに交換する必要がある。しかし、上記従来の方法で固定されたハンドリムを交換する際には、リム5の外周面側からボルト20が差し込まれているため、まずタイヤ6、タイヤチューブ8、リムバンド9を該リム5から取り外し、それから該ボルト20を抜き、そしてハンドリムを交換して組み付けた後に、再度リムバンド9、タイヤチューブ8、タイヤ6を取り付ける必要がある。このように従来は、非常に手間のかかる方法が採用されてきた。
【0004】
また、このような煩雑な交換作業を回避すべく、店舗等においては、ハンドリムをそれぞれ車輪にあらかじめ取り付けた状態で保管し、ハンドリムの交換依頼があった場合は、車輪ごと交換するようにしていることもよく知られている。しかし、このような手法は、各ハンドリムの仕様ごとにハンドリムが取り付けられた状態で車輪を保管管理しておく必要があるため、膨大な在庫量となって大変無駄が多かった。
【0005】
また、その他、該ハンドリムの取付構造としては、ハンドリムの一側面に止着した複数の軸部材と、車輪の車輪ホイール側に該軸部材が係脱可能となるよう係止部材を備えた空孔部と、を設けることで車輪ホイールからハンドリムを着脱可能とした構成が開示されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−191643号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1の構造は、工具等を用いることなく車輪からハンドリムを取り外すことが可能な反面、該ハンドリムを取り外す方向が座面に座った使用者から見て左右外向き方向であるため、なんらかの理由で該ハンドリムを左右外向きに一定以上の力を持って押した場合、該ハンドリムが簡単に脱落してしまう可能性がある、という問題がある。
【0008】
そこで、本発明は、リムからタイヤやタイヤチューブ、リムバンド等を着脱する操作を行なうことなく容易にハンドリムの交換が可能で、しかも簡単に脱落しない安全な車いす用車輪のリム構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、ハンドリムを脱着自在に取り付けるための車いす用車輪のリム構造であって、金属製のリムの外周面に該リムの周方向に沿って形成されたリム溝部の底部に設けられた貫通孔には、ナット部材が該リムの外周面側から取り付けられており、該ナット部材は、前記リム溝部の底部に配置される平板部と、該平板部から該平板部の面方向に対して直交する方向に突出し、前記リムの貫通孔に挿通される嵌合突起部と、で構成され、さらに、該平板部と該嵌合突起部とを貫くように雌ねじ部が形成されることで、前記ハンドリムのステーに設けられている取付孔に挿通された雄ねじ部材が螺合自在とされており、前記貫通孔から差し出された前記嵌合突起部の先端が拡径されることで、あるいは、前記平板部が前記リム溝部内に圧入されることで、該ナット部材が該貫通孔周縁に固定されていることを特徴とする車いす用車輪のリム構造である。
【0010】
上記構成は、車輪のリムに雌ねじ部を備えたナット部材が固定され、ハンドリムの内周面側から該ハンドリムの取付孔を通して雄ねじ部材が該雌ねじ部に螺合される。このため、ハンドリムの取り外し作業においては、リムからタイヤやタイヤチューブを取り外す必要はなく、該タイヤ等が該リムに装着された状態のまま、ハンドリムの取付孔の内周面側から雄ねじ部材を取り外すのみでハンドリムを取り外すことができる。そして、別のハンドリムの取付孔とリムの貫通孔の位置とを対応させた上で雄ねじ部材を雌ねじ部に再度螺合することで新しいハンドリムを取り付けることができる。このため、ハンドリムの交換作業が極めて簡便となる。なお、交換作業する際、該ナット部材は該リムに上記構成に従って固定されているため、ハンドリムの脱着操作において該ナット部材が該リムの貫通孔から脱落することがない。また、上記構成は、該リムに貫通孔を設け、該ナット部材を該リムに固定するだけであるため、従来の車いすの車輪にも容易に適用できる。
【0011】
さらに、前記ナット部材の雌ねじ部に、前記雄ねじ部材が螺合されて車いす用車輪にハンドリムが取り付けられた状態で、該雄ねじ部材の先端は、該ナット部材の該平板部から突出していないことが望ましい。
【0012】
かかる構成は、該雄ねじ部材の先端がタイヤチューブを傷付け、パンクを起こすような事態を回避できる。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、ハンドリムの交換操作において、タイヤ、タイヤチューブ、リムバンド等の脱着操作を不要とすることで作業時間を大幅に短縮でき、従来の車いすの車輪にも適用可能であり、さらにタイヤチューブを傷付け、パンクを起こすようなこともない。また、各種ハンドリムとタイヤ装着済みのリムとを別個に保管管理しておくことができるため、在庫管理が極めて簡便となる利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図2】(a)はハンドリム取付用固定部材の部分側断面図、(b)はナット部材の平面図である。
【
図3】(a)はハンドリム取付箇所の側断面図、(b)は平面図である。
【
図4】リムへナット部材を固定するかしめ加工を行なっている状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を具体化した実施例を詳細に説明する。なお、本発明は、下記に示す実施例に限定されることはなく、適宜設計変更が可能である。
【0016】
図1には車いす1の図が示される。該車いす1は、左右一対の主フレーム2,2と、該主フレーム2,2の左右外側に車軸4,4で軸支される車輪3,3と、を備える。
【0017】
さらに前記車輪3は、金属製のリム5、タイヤ6、及びスポーク7を備えている。また、前記タイヤ6内には、図示しないタイヤチューブ、リムバンドが配設されている。また、該車輪3のリム5には、使用者が操作するハンドリム10が取り付けられている。
【0018】
前記車輪3のリム5は、
図3a,bに示すように、その外周面において周方向に沿って形成されたリム溝部5a、該リム溝部5aの溝壁から上向きに延出された側壁部5b、及び、該側壁部5bの上端に形成された係部5cを備えている。さらに、前記リム溝部5aの底部には、貫通孔5eが該リム5の周方向に沿って複数設けられている。なお、該リム5は、金属、一般的には軽量なアルミニウムもしくはアルミニウム合金によって製造される。
【0019】
また、
図3a,bに示すように、前記ハンドリム10は、リング状部材のハンドリム本体10aを有している。さらに、該ハンドリム本体10aの内周面には、前記リム5の貫通孔5eと同数のステー10bが周方向に沿って外向きに複数突設されている。さらに該ステー10bの先端部において、該リム5の貫通孔5eに対応する位置には取付孔10cが設けられている。
【0020】
そして、上記車いす1にあって、前記ハンドリム10は、ハンドリム取付用固定部材11を介して前記リム5に固定されている。以下、ハンドリム取付用固定部材11について詳述する。
【0021】
図2に示すように、ハンドリム取付用固定部材11は、ナット部材12と、雄ねじ部材であるボルト13と、を備えている。該ナット部材12は平面視矩形の平板部12aと、該平板部12aから該平板部12aの面方向に対して直交する方向に突出される円柱形状の嵌合突起部12bと、で構成されている。さらに、該ナット部材12には、該平板部12aと該嵌合突起部12bとを貫くように雌ねじ部12cが形成されている。
【0022】
前記ナット部材12の材料は特に限定されないが、強度と防錆の点からステンレススチールを用いることが望ましい。また、本実施例の前記平板部12aと前記嵌合突起部12bとは、一体的に形成されており、いわゆる板ナットを好適に用いることができる。ただし、これに限定されることはなく、該平板部12aと該嵌合突起部12bが別部材で構成され、両部材が接続されてナット部材12が構成されていてもよい。
【0023】
そして、前記ハンドリム取付用固定部材11のナット部材12は、以下のようにして前記リム5に取り付けられる。
図3aに示すように、前記リム5の貫通孔5eに、該リム5の外周面側から該ナット部材12の嵌合突起部12bが差し込まれ、固定されている。そして、この固定状態では、該ナット部材12の平板部12aが、リム5のリム溝部5aの底部に面接触している。
【0024】
ここで、前記ナット部材12の固定は、次に示す方式が例示される。
まず、
図4に示すように、該ナット部材12の嵌合突起部12bを前記リム5の貫通孔5eに差し込んだ状態で、該ナット部材12の雌ねじ部12cに対応する位置に凸部を有した固定治具Xを、ナット部材12の平板部12a側(リム5の外周面側)から押し当てる。このとき、嵌合突起部12bの突出長さは、該貫通孔5eに挿通された状態で先端が該貫通孔5eから若干はみ出す長さにあらかじめ設定されている。これと共に、この状態で、先端部が円錐形状となっているかしめ治具Yの先端部分を、該リム5の内周面側から該ナット部材12の雌ねじ部12c内に挿入して押し当てる。そして該固定治具Xと該かしめ治具Yとの挟窄力によって該嵌合突起部12bの突出箇所を拡径し、該突出箇所を貫通孔5eの周縁に対するかしめ部としてかしめ加工する。そうすると、該リム5に該ナット部材12が固定される。これにより、車輪3のリム構造30が構成されることとなる。なお、かしめ加工は、ナット部材12の嵌合突起部12b周りに全周にわたって施してもよいし、該嵌合突起部12b周りに間欠的に施されていてもよい。
【0025】
そして、ナット部材12がリム5に固定された上で、図示は省略するがリム5のリム溝部5a内にリムバンドが配設されると共に、タイヤチューブが配設され、側壁部5bから係部5cを超えて外周方向にタイヤが配設され、車輪3が得られる。
【0026】
そしてさらに、タイヤがリム5に装着された状態のまま、まず該リム5の所定箇所に設けられた貫通孔5eに固定された前記ナット部材12の雌ねじ部12cと前記ハンドリム10の取付孔10cとが合致するようにリム5とハンドリム10との位置を定める。次に、該取付孔10c側(ハンドリム10の内周面側)からワッシャ22、及びスプリングワッシャ23を介して前記ボルト13を取付孔10cに挿通し、該ナット部材12の雌ねじ部12cに螺合する。そうすると、該ハンドリム取付用固定部材11によって、リム5とハンドリム10のステー10bとが緊締され、該ハンドリム10が該リム5に取り付け固定される。
【0027】
前記車輪3のリム構造30は、このように、事前に該ナット部材12を該リム5に取り付けておくことで、タイヤやタイヤチューブ等が該リム5に取り付けられた状態のまま、該ハンドリム10を該リム5に固定することができる。また、該ハンドリム10を交換する際には、前記ボルト13を取り外すだけで該ハンドリム10を前記リム5から取り外すことができる。勿論、別のハンドリムをリム5に取り付ける場合は、取り外す時とは逆の操作を行なうだけでよい。すなわち、該車輪3のリム構造30は、タイヤやタイヤチューブ等を取り外すことなく、ハンドリム10の交換作業を迅速かつ簡単に行なうことができる。
【0028】
また、
図3aに示すように、前記リム5に前記ハンドリム10が固定された状態で、前記ボルト13の先端は、前記ナット部材12の平板部12aから突出しないように設定されている。このような構成とすることで、該ボルト13の先端が該リム5に配設されるタイヤチューブを傷付け、パンクを引き起こすことを防止できる。なお、前記ボルト13の先端が前記ナット部材12の平板部12aから突出しないようにするためには、前記ナット部材12の平板部12aの肉厚(板厚)を適宜変更するようにしてもよいし、ボルト13の全長を適宜変更するようにしてもよい。
【0029】
ところで、前記ナット部材12を前記リム5に固定しておくかしめ力が弱くなる等して、前記リム5に対してナット部材12ががたつきやすくなる場合がある。しかし、
図3bに示すように前記平面視矩形の平板部12aが、該リム5におけるリム溝部5aの両側一対の溝壁によってある程度回転規制されることで該ナット部材12の貫通孔5eを中心とした遊転が適切に防止され、タイヤやタイヤチューブ等を取り外すことなく、適切に前記ハンドリム10を該リム5に固定しておくことができる。
【0030】
前記固定部材11のナット部材12の平板部12aは必ずしも平面視矩形である必要はなく、リム5のリム溝部5aの寸法形状に従って、該ナット部材12の遊転を防止できる形状であれば他の形状であっても構わない。
【0031】
前記ハンドリム10のステー10bの寸法形状は特に限定されず、また該ステー10bの数も特に限定されない。ただし、安全性、走行安定性、製造の手間等から所要の個数設けられていることが望ましい。
【0032】
前記ボルト13を前記雌ねじ部12cに螺合する場合、必ずしもワッシャ22やスプリングワッシャ23を介在させる必要はない。また、前記ナット部材12をリム5の貫通孔5eの周縁に固定する構成は、様々なものが提案可能である。例えば、該ナット部材12を、貫通孔5eに嵌合突起部12bを挿入しつつリム5のリム溝部5a内に平板部12aを圧入して全体を貫通孔5e周縁に固定する構成でもよい。また、これまでに述べた固定構造に加えて、前記ナット部材12の周面にローレット加工を施して、より一層確実に固定するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0033】
1 車いす
3 車輪
5 リム
5a リム溝部
5e 貫通孔
10 ハンドリム
10b ステー
10c 取付孔
12 ナット部材
12a 平板部
12b 嵌合突起部
12c 雌ねじ部
13 ボルト(雄ねじ部材)
30 車輪のリム構造