(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
先端部に開口する切屑吸引孔を有する工具本体と、該工具本体の先端部の、工具軸心側に装着された中心刃と、外周側に装着された外周刃とを有し、切屑吸引装置を備えた工作機械に装着される切屑吸引用工具であって、
前記切屑吸引孔は、前記中心刃の近傍に開口する中心吸引孔と、前記外周刃の近傍に開口する外周吸引孔と、前記中心吸引孔と外周吸引孔が合流するとともに、工具軸心に沿って延びるように形成され、前記切屑吸引装置に連通する主吸引孔とを有し、
前記工具本体の前記中心吸引孔の開口部外側には、該工具本体の周方向に延び、該開口部の吸引路面積を狭める側壁が形成されている
ことを特徴とする切屑吸引用工具。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、前記従来の切屑吸引用工具では、工具先端部に切欠き部を形成することにより吸引開口を切屑吸引孔に連通させているので、前記吸引開口においては、切欠き部を設けた分、外方に大きく開放されている為、吸引路面積が過大となり、吸引速度を上昇できず、吸引効率を向上できないという問題がある。
【0006】
本発明は、前記従来の状況に鑑みてなされたもので、簡単な構造により、工具先端部の吸引路面積を狭めて吸引速度を上昇でき、もって切屑の回収効率を向上できる切屑吸引用工具を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1の発明は、先端部に開口する切屑吸引孔を有する工具本体と、該工具本体の先端部の、工具軸心側に装着された中心刃と、外周側に装着された外周刃とを有し、切屑吸引装置を備えた工作機械に装着される切屑吸引用工具であって、前記切屑吸引孔は、前記中心刃の近傍に開口する中心吸引孔と、前記外周刃の近傍に開口する外周吸引孔と、前記中心吸引孔と外周吸引孔が合流するとともに、工具軸心に沿って延びるように形成され、前記切屑吸引装置に連通する主吸引孔とを有し、前記工具本体の前記中心吸引孔の開口部外側には、該工具本体の周方向に延び、該開口部の吸引路面積を狭める側壁が形成されていることを特徴としている。
【0008】
請求項2の発明は、請求項1に記載の切屑吸引用工具において、前記外周吸引孔の開口部は、前記中心吸引孔の開口部より径方向外方に位置していることを特徴としている。
【0009】
請求項3の発明は、請求項1又は2に記載の切屑吸引用工具において、前記工具本体の外表面には、工具軸心方向に延びる溝が凹設され、前記工具本体の先端部には、前記溝部を前記開口部に連通させる切欠きが形成されていることを特徴としている。
【0010】
請求項4の発明は、請求項1ないし3の何れかに記載の切屑吸引用工具において、前記工具本体の先端部は、工具軸心部が外周部より工具先端から遠ざかる方向に凹んでいることを特徴としている。
【発明の効果】
【0011】
請求項1の発明によれば、中心刃の近傍に開口する中心吸引孔と、外周刃の近傍に開口する外周吸引孔とを主吸引孔に合流させるとともに、工具本体の前記中心吸引孔の開口部外側に、該工具本体の周方向に延びる側壁を形成したので、中心吸引孔の開口部への吸引路面積を狭めることができる。これにより吸引用空気の流速を高めることができ、切屑を確実に吸引して吸引効率を向上することができる。
【0012】
また、中心吸引孔の開口部外側に側壁を形成したので、加工ポイントから外方に向かって飛び出そうとする切屑が前記側壁に当たってその飛散が防止され、中心吸引孔に吸引され易くなり、この点からも吸引効率を向上することができる。
【0013】
ここで、切刃の加工ポイントから吸引孔の開口部までの領域は、吸引路面積が大きいため流速が低下し、従ってそれだけ吸引効率が低下する。本発明では、外周刃は径方向外側に配置されているので、外周刃の加工ポイントから外周吸引孔の開口部までの領域が、軸心側に配置された中心刃における領域に比較して大きくなる。そこで、請求項2の発明では、外周吸引孔の開口部を、中心吸引孔の開口部より径方向外方に位置させたので、外周刃の加工ポイントから外周吸引孔の開口部までの領域が大きくなるのを抑制でき、切屑を確実に吸引でき、吸引効率の低下を回避できる。
【0014】
また請求項3の発明では、前記工具本体の外表面に、工具軸心方向に延びる溝を凹設し、さらに該溝を前記開口部に連通させる切欠きを形成したので、必要な量の吸引用空気を切屑吸引孔に導入でき、この構成によっても切屑を確実に吸引でき、吸引効率を向上できる。
【0015】
さらにまた請求項4の発明では、工具本体の先端部を、工具軸心部が外周部より工具先端から遠ざかる方向に凹ませたので、中心刃及び外周刃をワークに確実に食い込ませることができ、これにより工具の振れを防止でき、切屑の吸引効率を安定化できる。ちなみに、工具の振れが生じると、吸引流速が安定化せず、切屑吸引効率の安定性に悪影響が生じる。
【実施例1】
【0018】
図1ないし
図7は、本発明の実施例1による切屑吸引用工具を説明するための図である。
【0019】
図において、1は工作機械を示している。該工作機械1は、ベッド2と、該ベッド2の奥部分に立設されたコラム3と、該コラム3の前面に上下方向(Z軸方向)に移動自在に支持された主軸頭4と、前記ベッド2の手前部分に前後方向(Y軸方向)に移動自在に支持されたサドル5と、該サドル5上に左右方向(X軸方向)に移動自在に支持されたテーブル6とを備えている。
【0020】
前記主軸頭4内には、主軸7が回転自在に支持されており、該主軸7の下端部には工具ホルダ14を介して切屑吸引用工具としてのドリル10が着脱可能に装着されている。
【0021】
前記工作機械1は、さらに、前記主軸7に装着された前記ドリル10と次工程用工具とを自動的に交換する自動工具交換装置11を備えている。この自動工具交換装置11は、前記コラム3の側壁に配置された工具マガジン12と、該工具マガジン12と前記主軸7との間に配置された工具交換アーム13とを有する。
【0022】
そして本実施例の工作機械1は、前記主軸7に装着された前記ドリル10によりワークWに穴あけ加工を施す際に発生する切屑を吸引する切屑吸引装置15を備えている。
【0023】
前記切屑吸引装置15は、吸引力発生源を内蔵する切屑回収箱15bと前記ドリル10とを、該ドリル10,前記工具ホルダ14及び主軸7に形成された吸引路及び吸引パイプ15aにより接続した概略構造を有する。
【0024】
前記主軸7は、軸心部に、前記吸引路の一部を構成する切屑排出孔が貫通形成された筒状体からなり、前記主軸頭4に内蔵された駆動モータ(不図示)により回転駆動される。
【0025】
前記工具ホルダ14は、軸心部に、前記ドリル10が装着される支持穴及び前記吸引路の一部を構成する切屑排出孔が貫通形成され、前記主軸7の下端部に着脱可能に装着されている。
【0026】
前記ドリル10は、丸棒からなるドリル本体8と、これの先端部8aに着脱可能に装着された一対の中心刃9a,外周刃9bとを有する。前記ドリル本体8は、前記先端部8aが形成された前部8bと、該前部8bより大径で前記工具ホルダ14に保持される保持部8cとを有する。前記先端部8aの先端面8a′は、外周部8eから軸心部8f側に行くほど軸心先端から遠ざかるように凹んでいる。
【0027】
前記ドリル本体8には、切屑吸引孔16が、工具軸心aに沿って延び、後端面8dに貫通するように形成されている。前記切屑吸引孔16は、ドリル本体8の前記先端部8aに形成された後述する中心吸引孔16e及び外周吸引孔16fと、ドリル本体8に形成され、前記中心,外周吸引孔16e,16fが合流する主吸引孔16cとを有する。
【0028】
前記主吸引孔16cは、前記前部8bの軸心部分に位置する前部吸引孔16aと、前記保持部8cの軸心部分に位置し、前記前部吸引孔16aより大径の保持部吸引孔16bとで構成されており、前記切屑吸引装置15に連通している。
【0029】
前記前部吸引孔16aの先端16dは、前記先端部8aと前記前部8bとの境界より前部8b側に位置し、該前部吸引孔16aの形成加工に使用されたドリルの先端角に応じた頂角130°〜140°程度の円錐形状をなしている。
【0030】
また、前記先端部8aには、工具軸心aを挟んで一対の中心刃切欠き部8g,外周刃切欠き部8hが軸心方向に深く、かつ前記先端部8aの外周面(側面)にも開口するように形成されている。前記中心刃切欠き部8gの内壁の工具軸心a寄りに中心刃取付部8iが凹設されており、また前記外周刃切欠き部8hの内壁の前記外周寄りに外周刃取付け部8jが凹設されている。
【0031】
そして前記中心刃取付け部8iに前記中心刃9aがボルト9a′により着脱可能に装着されており、また前記外周刃取付け部8jに前記外周刃9bがボルト9b′により着脱可能に装着されている。なお、前記中心刃9a,外周刃9bの軸心方向前端は、前記先端部8aの先端面8a′より僅かに前方に突出している。
【0032】
また、前記中心刃切欠き部8gには前記中心吸引孔16eが、前記外周刃切欠き部hには外周吸引孔16fが、それぞれ前記前部吸引孔16aの先端16dに連通するように形成されている。このようにして前記中心吸引孔16eと外周吸引孔16fは前記主吸引孔16cの前部を構成する前記前部吸引孔16aに合流している。
【0033】
ここで前記中心刃切欠き部8g,外周刃切欠き部8hは、本ドリル10の回転方向Aにおける中心刃9a,外周刃9bより前側に配置されている。また前記中心刃切欠き部8gは、中心刃9aを軸心寄りに取付けるためのものであるため、外周寄りに外周刃9bを取り付けるための外周刃切欠き部8hより大きく切り欠かれている。
【0034】
また、前記外周吸引孔16fの軸心bは、工具軸心aに対して中心吸引孔16eの軸心cより外周側に大きく傾斜している。そのため前記外周吸引孔16fの外周刃切欠き部8gへの開口部16f′は、前記中心吸引孔16eの前記中心刃切欠き部8gへの開口部16e′より径方向外側に位置している。そのため前記外周刃9bが径方向外側に配置されているにも関わらず、該外周刃9bの加工ポイントから前記外周吸引孔16fの開口部16f′まで距離は、前記外周吸引孔16fの軸心bを前記中心吸引孔16eの軸心cと同程度に設定した場合よりも小さくなっている。
【0035】
さらにまた、前記外周吸引孔16fは中心吸引孔16eより小径に形成されており、そのため外周吸引孔16f内の吸引用空気の流速は中心吸引孔16e内の吸引流速より高くなる。
【0036】
そして前記工具本体8の先端部8aの、前記中心吸引孔16eの開口部16e′の外側には、側壁8kが前記先端部8aの周方向に延びるように形成されている。この側壁8kは、
図6において二点鎖線で囲まれた前記開口部16e′への吸引路面積Sを同図に斜線を施した面積(前記側壁8kの面積に相当する)S′だけ狭めるように機能する。
【0037】
なお、中心刃切欠き部8gの外部への開口のうち、前記先端面8a′側に開口する部分は、加工時には、ワークにより閉塞されるため、実質的に前記開口部16e′への吸引路とはならない。
【0038】
また前記工具本体8の外表面には、工具軸心a方向に延びる中心刃溝17a,外周刃溝17bが凹設されている。この中心刃溝17a,外周刃溝17bは、それぞれ前記中心吸引孔16e,外周吸引孔16fに吸引用空気を導入するためのものであり、前記工具本体8の前部8bから先端部8aの先端面8a′までの全長に渡る長さに設定されている。そして前記中心刃溝17a,外周刃溝17bの先端部には、該各溝17a,17bを前記中心吸引孔16e,外周吸引孔16fに連通させる切欠き17c,17dが形成されている。なお、加工中においては、前記溝17a,17b及び切欠き17c,17dは外側を塞ぐワークとで、空気導入通路を形成する。
【0039】
本実施例では、ドリル10によりワークWに穴あけ加工を施す際に発生するに切屑は、切屑吸引装置15により吸引回収される。この場合、周囲の必要な量の空気が工具本体8の中心刃溝17a,外周刃溝17bから切欠き17c,17dを介して中心吸引孔16e,外周吸引孔16fに吸引用空気として導入され、前記発生した切屑は、前記吸引用空気により前記中心吸引孔16e,外周吸引孔16fから主吸引孔16c介して前記切屑回収箱15bに回収される。
【0040】
本実施例によれば、中心刃9aの近傍に開口する中心吸引孔16eと、外周刃9bの近傍に開口する外周吸引孔16fとを主吸引孔16cに合流させるとともに、工具本体9の前記中心吸引孔16eの開口部16e′の外側に、該工具本体8の周方向に延びる側壁8kを形成した。
【0041】
このように構成したので、
図6に示すように、中心吸引孔16eの開口部16e′への吸引路面積(同図に二点鎖線で囲む面積)Sを前記側壁8kにより同図に斜線を施した面積S′だけ狭めることができる。これにより、中心刃切欠き部8gを外周刃切欠き部8hより大きく設定しながら、該中心刃切欠き部8g側の吸引用空気の流速を高めることができ、切屑を確実に吸引することができ、吸引効率を向上することができる。
【0042】
また、中心吸引孔16cの開口部16e′の外側に側壁8kを形成したので、加工ポイントから外方に向かって飛び出そうとする切屑が前記側壁8kに当たってその飛散が防止され、中心吸引孔16cに吸引され易くなり、この点からも吸引効率を向上することができる。
【0043】
ここで、切刃の加工ポイントから吸引孔の開口部までの領域は、吸引路面積が大きいため流速を低下させ、従ってそれだけ吸引効率が低下すると考えられる。
【0044】
本実施例では、外周刃9bは径方向外側に配置されているので、外周刃9bの加工ポイントから外周吸引孔16fの開口部16f′までの距離、ひいては領域が、工具軸心a側に配置された中心刃9aにおける領域に比較して大きくなる。
【0045】
そこで、本実施例では、
図3〜5に示すように、外周吸引孔16fの軸心bを中心吸引孔16eの軸心cより大きく外周側に傾斜させることにより、外周吸引孔16fの開口部16f′を、中心吸引孔16eの開口部16e′より径方向外方に位置させた。そのため、外周刃9bの加工ポイントから外周吸引孔16fの開口部16f′までの距離、ひいては領域が、中心刃9a側の領域より大きくなるのを抑制でき、切屑を中心刃9a側と同程度に確実に吸引でき、吸引効率の低下を回避できる。
【0046】
また外周吸引孔16fの径を中心吸引孔16eより小径に設定したので、外周刃吸引孔16f側における吸引空気の流速を高めることができ、この構成によっても径方向外側に配置された外周刃9bからの切屑を確実に回収できる。
【0047】
また、前記工具本体8の外表面に、工具軸心a方向に延びる中心刃溝17a,外周刃溝17bを凹設し、さらに該各溝17a,17bを前記各開口部16e′,16f′に連通させる切欠き17c,17dを形成したので、必要十分な量の吸引用空気を中心吸引孔16e,外周吸引孔16fに導入でき、切屑を確実に吸引できる。
【0048】
また、切屑吸引孔16を形成するにあたり、主吸引孔16cの先端16dを、工具本体8の先端部8aと前部8bとの境界より前部8b側に位置させるとともに、先端側から中心吸引孔16e,外周吸引孔16fを前記先端16dに向けて貫通させる構造を採用したので、中心刃取付け部8iと外周刃取付け部8jとの間の部分の工具軸心a方向の肉厚を確保できる。ちなみに、主吸引孔16cをこれの先端16dが中心刃切欠き部8g,外周刃切欠き部8hに直接開口するように形成した場合、必要な肉厚を確保できない。
【0049】
さらにまた、工具本体8の先端部8aの先端面8a′を、工具軸心部8fが外周部8eより工具先端から遠ざかる方向に凹ませる形状に設定したので、中心刃9a及び外周刃9bをワークWに確実に食い込ませることで工具の振れを防止でき、切屑の吸引効率を安定化できる。ちなみに、工具の振れが生じると、切屑吸引効率の安定性に悪影響が生じる。
【0050】
なお、前記実施例では、中心刃溝17a,外周刃溝17bが工具本体8の先端部8aの先端面8a′に貫通している場合を説明したが、これらの各溝を先端部8aの先端面8a′の手前までとし、その先端部近傍に中心吸引孔16e,外周吸引孔16fに連通する切欠きを形成してもよい。