特許第5722208号(P5722208)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許5722208-無灰炭の製造方法 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5722208
(24)【登録日】2015年4月3日
(45)【発行日】2015年5月20日
(54)【発明の名称】無灰炭の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C10L 5/00 20060101AFI20150430BHJP
【FI】
   C10L5/00
【請求項の数】1
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2011-288714(P2011-288714)
(22)【出願日】2011年12月28日
(65)【公開番号】特開2013-136695(P2013-136695A)
(43)【公開日】2013年7月11日
【審査請求日】2013年9月2日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】110001841
【氏名又は名称】特許業務法人梶・須原特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】堺 康爾
(72)【発明者】
【氏名】奥山 憲幸
(72)【発明者】
【氏名】木下 繁
(72)【発明者】
【氏名】吉田 拓也
【審査官】 森 健一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−120185(JP,A)
【文献】 特開2007−023190(JP,A)
【文献】 特開昭56−145974(JP,A)
【文献】 特開昭53−024301(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10L 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
石炭と溶剤とを混合して得られるスラリーを加熱して溶剤に可溶な石炭成分を抽出する抽出工程と、
前記抽出工程にて前記石炭成分が抽出されたスラリーから前記石炭成分を含む溶液部を分離する分離工程と、
前記分離工程にて分離された溶液部から溶剤を分離回収して無灰炭を得る無灰炭取得工程と、
を備える、無灰炭の製造方法において、
前記無灰炭取得工程は、
前記溶液部から溶剤を蒸発分離させる第1溶剤分離工程と、
前記第1溶剤分離工程にて溶剤を蒸発分離して得られた無灰炭から当該無灰炭中に残存する溶剤を蒸発分離させる第2溶剤分離工程と、
を有し、
前記第1溶剤分離工程はフラッシャーを用いたフラッシュ蒸留法により溶剤を蒸発分離させる工程であり、前記フラッシャー内の圧力を大気圧以上かつ溶剤の蒸気圧以下とするとともに、前記無灰炭中に残存する溶剤の残存率を10wt%以上50wt%以下とすることにより当該無灰炭を液状とし、当該液状の無灰炭を加熱しながら液状の状態で前記第2溶剤分離工程に移送することを特徴とする、無灰炭の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、石炭から灰分を除去した無灰炭を得るための無灰炭の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
無灰炭の製造方法としては、例えば特許文献1に記載されたものがある。この無灰炭の製造方法は、石炭と溶剤とを混合してスラリーを調製し、得られたスラリーを加熱して溶剤に可溶な石炭成分(以下、溶剤可溶成分)を抽出し、溶剤可溶成分が抽出されたスラリーを、溶剤可溶成分を含む溶液部と溶剤に不溶な石炭成分(以下、溶剤不溶成分)を含む固形分濃縮液とに分離し、分離された溶液部から溶剤を分離回収して無灰炭を得るものである。溶液部から溶剤を分離回収して無灰炭を得る方法としては、例えば特許文献1に記載された噴霧乾燥法がある。この噴霧乾燥法によれば、無灰炭中の有機物と無機物とが分離して析出し、溶剤可溶成分を含む溶液中に少量混入した微細な無機物、および溶剤中に溶けた金属成分の除去が容易となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−120185号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載された噴霧乾燥法を用いて溶剤を分離回収する場合、溶液部に含まれる溶剤の重量割合が大きい場合などには、蒸発させる溶剤量が多くなってしまい、溶剤を十分に分離回収できないおそれがある。その場合、回収できない溶剤量の分、新規溶剤を加える必要があり、無灰炭の製造コストが上がってしまう。
【0005】
そこで、溶剤の回収率を向上させるために、溶剤を分離回収する工程を複数備え、溶剤を複数回に分けて回収する方法が考えられる。例えば、噴霧乾燥法により溶剤を分離回収して得られた無灰炭から当該無灰炭中に残存する溶剤を何らかの蒸留法(例えば、噴霧乾燥法)により再度分離回収する方法が考えられる。しかしながら、噴霧乾燥法にて得られる無灰炭は粉状体(固体)であるため、噴霧乾燥法にて得られた無灰炭を次の分離槽に移送する際のハンドリング性が悪いという問題がある。
【0006】
ここで、無灰炭のハンドリング性について説明する。ハンドリング性とは無灰炭の取り扱いのしやすさを言い、液体ハンドリングできれば(無灰炭を液状の状態で取り扱いできれば)無灰炭を取り扱いしやすい。
【0007】
無灰炭は通常、常温で固体であり、温度上昇に伴って流動性が高まり、液体ハンドリングできるようになる。しかし、従来技術の無灰炭の製造方法(例えば、特許文献1の噴霧乾燥法)では、無灰炭中に残存する溶剤の残存率が例えば0〜2wt%となるので、固体の無灰炭が溶融し始める軟化開始温度が高い。そのため、かなりの温度(例えば、380℃)まで昇温させなければ液体ハンドリングすることができずハンドリング性が悪い。したがって、噴霧乾燥法にて得られる無灰炭を次の分離槽に移送する際には、ハンドリング性が悪い固体の状態で無灰炭を移送せざるを得ない。
【0008】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであって、その目的は、溶剤回収率を向上させることができ、かつ、無灰炭を移送する際のハンドリング性に優れる、無灰炭の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明の無灰炭の製造方法は、石炭と溶剤とを混合して得られるスラリーを加熱して溶剤に可溶な石炭成分を抽出する抽出工程と、前記抽出工程にて前記石炭成分が抽出されたスラリーから前記石炭成分を含む溶液部を分離する分離工程と、前記分離工程にて分離された溶液部から溶剤を分離回収して無灰炭を得る無灰炭取得工程とを備えている。そして、前記無灰炭取得工程は、前記溶液部から溶剤を蒸発分離させる第1溶剤分離工程と、前記第1溶剤分離工程にて溶剤を蒸発分離して得られた無灰炭から当該無灰炭中に残存する溶剤を蒸発分離させる第2溶剤分離工程とを有している。さらに、前記第1溶剤分離工程において、前記無灰炭中に残存する溶剤の残存率を10wt%以上50wt%以下とすることにより当該無灰炭を液状とし、当該液状の無灰炭を液状の状態で前記第2溶剤分離工程に移送している。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、溶剤回収率を向上させることができ、かつ、無灰炭を移送する際のハンドリング性に優れる、無灰炭の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施形態に係る無灰炭の製造装置を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照しつつ説明する。図1は、本発明の実施形態に係る無灰炭の製造装置1を示す概略図である。
【0013】
(無灰炭の製造装置1の構成)
無灰炭の製造装置1は、図1に示すように、石炭を貯蔵および切出しする石炭ホッパ2と、溶剤を貯留する溶剤タンク3と、石炭と溶剤とを混合してスラリーを調製するスラリー調製槽4と、調製されたスラリーを移送するポンプ5と、移送されたスラリーを加熱する予熱器6と、加熱されたスラリーから溶剤可溶成分を抽出する抽出槽7と、溶剤可溶成分が抽出されたスラリーを重力沈降法により溶剤可溶成分を含む溶液部(上澄み液)と溶剤不溶成分を含む固形分濃縮液とに分離する重力沈降槽8と、分離された溶液部を濾過するフィルターユニット9と、濾過された溶液部から溶剤を分離回収して無灰炭(HPC:Hyper coal)を得るフラッシャー10及び薄膜蒸留槽11と、重力沈降槽8にて分離された固形分濃縮液から溶剤を分離回収して副生炭(RC:Residue coal)を得る溶剤分離器12とを有している。
【0014】
次に、無灰炭の製造方法について説明する。本実施形態の無灰炭の製造方法は、抽出工程、分離工程、および無灰炭取得工程を有する。以下、各工程について説明する。原料とする石炭には、特に制限はなく、抽出率(無灰炭回収率)の高い瀝青炭を用いても良いし、より安価な劣質炭(亜瀝青炭、褐炭)を用いても良い。
【0015】
(抽出工程)
抽出工程は、石炭と溶剤とを混合して得られるスラリーを加熱して溶剤可溶成分を抽出する工程である。本実施形態において、この抽出工程は、石炭と溶剤とを混合してスラリーを調製するスラリー調製工程と、スラリー調製工程にて得られたスラリーを加熱して溶剤可溶成分を抽出する溶剤可溶成分抽出工程とに分かれている。
【0016】
ここで、溶剤可溶成分とは、溶剤により石炭の抽出を行うことにより、溶剤に溶解され得る石炭成分であり、分子量が比較的小さく、架橋構造が発達していない石炭中の有機成分に由来するものである。
【0017】
石炭と溶剤とを混合して得られるスラリーを加熱して溶剤可溶成分を抽出するにあたっては、石炭に対して大きな溶解力を持つ溶媒、多くの場合、芳香族溶剤(水素供与性あるいは非水素供与性の溶剤)と石炭を混合して、それを加熱し、石炭中の有機成分を抽出することになる。
【0018】
非水素供与性溶剤は、主に石炭の乾留生成物から精製した、2環芳香族を主とする溶剤である石炭誘導体である。この非水素供与性溶剤は、加熱状態でも安定であり、石炭との親和性に優れているため、溶剤に抽出される可溶成分(ここでは石炭成分)の割合(以下、抽出率ともいう)が高く、また、蒸留等の方法で容易に回収可能な溶剤である。非水素供与性溶剤の主な成分としては、2環芳香族であるナフタレン、メチルナフタレン、ジメチルナフタレン、トリメチルナフタレン等が挙げられ、その他の非水素供与性溶剤の成分として、脂肪族側鎖を有するナフタレン類、アントラセン類、フルオレン類、また、これらにビフェニルや長鎖脂肪族側鎖を有するアルキルベンゼンが含まれる。
なお、上記の説明では非水素供与性化合物を溶剤として用いる場合について述べたが、テトラリンを代表とする水素供与性の化合物(石炭液化油を含む)を溶剤として用いても良いことは勿論である。水素供与性溶剤を用いた場合、無灰炭の収率が向上する。
【0019】
また、溶剤の沸点は特に制限されるものではないが、抽出工程および分離工程での圧力低減、抽出工程での抽出率、無灰炭取得工程等での溶剤回収率などの観点から、例えば、180〜300℃、特に240〜280℃の沸点の溶剤が好ましく使用される。
【0020】
(スラリー調製工程)
スラリー調製工程は、石炭と溶剤とを混合してスラリーを調製する工程であり、図1中、スラリー調製槽4で行われる。石炭ホッパ2から石炭がスラリー調製槽4に投入されると共に、溶剤タンク3から溶剤がスラリー調製槽4に投入される。スラリー調製槽4に投入された石炭および溶剤は、攪拌機(不図示)で混合され、スラリーとなる。
【0021】
溶剤に対する石炭の混合比率は、特に限定されないが、例えば、乾燥炭基準で10〜50重量%の範囲が好ましく、15〜35重量%の範囲がより好ましい。
【0022】
(溶剤可溶成分抽出工程)
溶剤可溶成分抽出工程は、図1中、予熱器6および抽出槽7で行われる。スラリー調製槽4にて調製されたスラリーは、ポンプ5によって、一旦、予熱器6に供給されて所定温度まで加熱された後、抽出槽7に供給され、攪拌機7aで攪拌されながら所定温度で保持されて抽出が行われる。なお、予熱器6は設置されていなくてもよい。
【0023】
溶剤可溶成分抽出工程でのスラリーの温度は、溶剤可溶成分が溶解され得る限り特に制限されないが、溶剤可溶成分の十分な抽出の観点から、例えば300〜420℃の範囲、より好ましくは350〜400℃の範囲としている。
【0024】
また、加熱時間(抽出時間)もまた特に制限されるものではないが、十分な溶解と抽出率の観点から5〜60分間の範囲が好ましく、20〜40分間の範囲がより好ましい。なお、予熱器6で一旦加熱した場合の加熱時間は、予熱器6での加熱時間および抽出槽7での加熱時間を合計したものである。
【0025】
なお、溶剤可溶成分抽出工程は、窒素などの不活性ガスの存在下で行うことが好ましい。抽出工程での圧力は、抽出の際の温度や用いる溶剤の蒸気圧にもよるが、1.0〜2.0MPaの範囲が好ましい。抽出槽7内の圧力が溶剤の蒸気圧より低い場合には、溶剤が揮発して液相に閉じ込められず、抽出できない。溶剤を液相に閉じ込めるには、溶剤の蒸気圧より高い圧力が必要となる。一方、圧力が高すぎると、機器のコスト、運転コストが高くなり、経済的ではない。
【0026】
なお、本実施形態のように、石炭と溶剤とを混合した後に、得られたスラリーを加熱して溶剤に可溶な石炭成分を抽出するのではなく、溶剤のみを先に加熱し、加熱された高温(例えば380℃)の溶剤中に石炭を供給(乾燥状態のまま供給)して、石炭を混合・加熱し、石炭中の溶剤可溶成分を溶剤で抽出するようにしてもよい。
【0027】
溶剤のみを先に加熱し、加熱された高温(例えば380℃)の溶剤中に石炭を供給する(乾燥状態のまま供給する)方法としては、例えば次のような方法がある。ポンプ5の上流側には石炭ホッパ2を配置せず、予熱器6と抽出槽7とを接続する管13の中に、または抽出槽7内に、石炭を直接供給できるように石炭ホッパ2(例えば、ロックホッパ)を配置する。このとき、例えば、管13または抽出槽7と、石炭ホッパ2との接続部を窒素などの不活性ガスで加圧して、溶剤などが石炭ホッパ2内へ逆流してこないようにする。なお、この方法によると、溶剤などが石炭ホッパ2内へ逆流してこないように、管13または抽出槽7と、石炭ホッパ2との接続部を窒素などの不活性ガスで加圧する必要があるが、スラリー調製槽4を省略できる。
【0028】
さらに、抽出槽7を配置しない方法もある。例えば、予熱器6と重力沈降槽8とを直接接続する管を設け、当該管の中に石炭を直接供給できるように石炭ホッパ2(例えば、ロックホッパ)を配置する。このとき、例えば、当該管と石炭ホッパ2との接続部を窒素などの不活性ガスで加圧して、溶剤などが石炭ホッパ2内へ逆流してこないようにする。この方法によると、溶剤などが石炭ホッパ2内へ逆流してこないように、当該管と石炭ホッパ2との接続部を窒素などの不活性ガスで加圧する必要があるが、スラリー調製槽4に加えて抽出槽7をも省略できる。
【0029】
(分離工程)
分離工程は、抽出工程にて溶剤可溶成分が抽出されたスラリーを重力沈降法により溶剤可溶成分を含む溶液部(上澄み液)と溶剤不溶成分を含む固形分濃縮液とに分離する工程であり、図1中、重力沈降槽8で行われる。重力沈降法とは、重力を利用して固形分を沈降させて固液分離する分離方法である。スラリーを槽内に連続的に供給しながら、溶剤可溶成分を含む溶液部を上部から、溶剤不溶成分を含む固形分濃縮液を下部から排出することができるので、連続的な分離処理が可能となる。
【0030】
溶剤可溶成分を含む溶液部は、重力沈降槽8の上部に溜まり、必要に応じてフィルターユニット9にて濾過された後、フラッシャー10に排出される。一方、溶剤不溶成分を含む固形分濃縮液は、重力沈降槽8の下部に溜まり、溶剤分離器12に排出される。なお、分離方法としては、重力沈降法に限られず、例えば濾過法や遠心分離法により分離してもよい。その場合、重力沈降槽に代わる固液分離装置として濾過器や遠心分離器などが使用される。
【0031】
ここで、溶剤不溶成分とは、溶剤により石炭成分の抽出を行っても、溶剤に溶解されずに残る灰分や当該灰分を含む石炭(即ち、副生炭)などの石炭成分(固形分)であり、分子量が比較的大きく、架橋構造が発達した有機成分に由来するものである。
【0032】
重力沈降槽8内は、溶剤可溶成分の再析出を防止するため、保温や加熱または/および加圧しておくことが好ましい。加熱温度は、300〜420℃の範囲が好ましく、圧力は、1.0〜3.0MPaの範囲が好ましく、1.7〜2.3Mpaの範囲がより好ましい。また、重力沈降槽8内でスラリーを維持する時間は、特に制限されるものではないが、およそ30〜120分間で沈降分離を行うことができる。
【0033】
(無灰炭取得工程)
無灰炭取得工程は、分離工程にて分離された溶液部(上澄み液)から溶剤を分離回収して無灰炭を得る工程である。本実施形態において、この無灰炭取得工程は、溶液部から溶剤を蒸発分離させる第1溶剤分離工程と、第1溶剤分離工程にて溶剤を蒸発分離して得られた無灰炭から当該無灰炭中に残存する溶剤を再度蒸発分離させる第2溶剤分離工程とに分かれている。
【0034】
(第1溶剤分離工程)
第1溶剤分離工程は、分離工程にて分離された溶液部からフラッシュ蒸留法により溶剤を蒸発分離させる工程であり、図1中、フラッシャー10で行われる。フラッシュ蒸留法とは、蒸留対象(本発明では分離工程にて分離された溶液部)をフラッシャー内(例えば、フラッシャーの内壁面)に霧状に噴射(フラッシュ)させることで、蒸留対象から沸点の低い物質(本発明では溶剤)を蒸発分離する方法である。
【0035】
本発明においては、フラッシャー10内の圧力が溶剤の蒸気圧よりも低い圧力とされていることにより、フラッシャー10内に供給された溶液部に含まれる溶剤が蒸発分離される。分離された溶剤は回収され、スラリー調製槽4に循環され繰り返し使用される。なお、第1溶剤分離工程は、溶剤回収の観点から、窒素などの不活性ガス存在下で行われることが好ましい。
【0036】
なお、フラッシャー10内に供給される前の溶液部は、溶剤の蒸気圧よりも高い圧力に加圧されており、液状である。また、フラッシャー10内に供給される前の溶液部の温度は、例えば300℃とされている。
【0037】
フラッシュ蒸留法においては、通常、粉体(固体)の無灰炭が得られる。これは、フラッシャー内が、通常、大気圧と同程度の圧力とされていること、溶剤の蒸発により顕熱を奪われることなどによる。しかしながら、第1溶剤分離工程においては、無灰炭に溶剤を所定の割合で残存させることにより、液状の無灰炭を得ている。また、無灰炭が液状の状態を維持しやすいよう、フラッシャー10内の圧力を、例えば、0.5MPaとしている。フラッシャー10を加熱してフラッシャー10内の温度を、例えば、200〜450℃としてもよい。
【0038】
無灰炭中に残存する溶剤の残存率(割合)は、無灰炭が液状であれば特に限定されないが、無灰炭が液状の状態を維持しやすい観点から、10〜50wt%の範囲が好ましく、15〜30wt%の範囲がより好ましい。ここでいう「無灰炭中に残存する溶剤の残存率」とは、無灰炭と無灰炭中に残存する溶剤との混合物に対する無灰炭中に残存する溶剤の割合を意味する。なお、従来技術(例えば、特許文献1)のように1度で溶剤を分離させる場合においては、無灰炭中に残存する溶剤の残存率は、0〜2wt%である。
【0039】
無灰炭中に溶剤を残存させる方法としては、溶液部から溶剤を略100wt%(99wt%以上)分離させる場合の温度よりも低い温度で蒸発分離を行う方法と、溶液部から溶剤を略100wt%(99wt%以上)分離させる場合の時間よりも短い時間で蒸発分離を行う方法と、これら2つの方法を同時に行う方法とがある。これらの方法のうち、無灰炭の性状に与える影響が少ないという観点から、溶液部から溶剤を略100wt%分離させる場合よりも低い温度で第1溶剤分離工程を行う方法がより好ましい。
【0040】
このように、無灰炭中に溶剤を残存させることにより、無灰炭の軟化開始温度が低下する。また、無灰炭が溶剤に溶け出す現象も生じる。そのため、無灰炭の流動性をより低い温度で得ることができるようになる。これにより、内部に溶剤をほとんど含まない無灰炭に比べて、より低い温度において、無灰炭が液状の状態を維持できるようになる。その結果、無灰炭を移送する際のハンドリング性に優れ、無灰炭を第1溶剤分離工程から第2溶剤分離工程に容易に移送することができる。
【0041】
なお、第1溶剤分離工程にて得られた無灰炭を第2溶剤分離工程に移送する際においては、無灰炭が液状の状態を維持しやすいよう、さらには流動性の高い状態を維持しやすいよう、無灰炭を加熱しながら第2溶剤分離工程に移送することが好ましい。移送される無灰炭の温度は、例えば300℃とされている。
【0042】
本実施形態においては、第1溶剤分離工程においてフラッシュ蒸留法を用いたが、その他の方法、例えば、薄膜蒸留法(詳細は後述)や真空蒸留法等を用いてもよい。
【0043】
(第2溶剤分離工程)
第2溶剤分離工程は、第1溶剤分離工程にて得られた無灰炭(溶剤を所定の割合で残存させた無灰炭)から当該無灰炭中に含まれる溶剤を薄膜蒸留法により蒸発分離させる工程であり、図1中、薄膜蒸留槽11で行われる。薄膜蒸留法とは、スクレーパ11b(ワイパーともいう)を収容した薄膜蒸留槽11の上部から薄膜蒸留槽11内に蒸留対象(本発明では第1溶剤分離工程にて得られた無灰炭)を供給し、薄膜蒸留槽11の内壁にスクレーパ11bにて蒸留対象の薄膜を形成させ連続蒸留を行う蒸留法である。薄膜蒸留槽11の周囲には加熱器11aが取り付けられ、薄膜蒸留槽11の内壁が所望の温度となるように、薄膜蒸留槽11は加熱器11aにて外部から加熱される。
【0044】
第1溶剤分離工程にて得られた液状の無灰炭は、液状の状態で薄膜蒸留槽11内に供給され、加熱器11aにて外部から加熱されることにより、当該無灰炭中に残存する溶剤は蒸発分離される。その結果、溶剤が略100wt%分離された無灰炭が得られる。また、分離された溶剤は回収され、スラリー調製槽4に循環されて繰り返し使用される。なお、第2溶剤分離工程は、溶剤回収の観点から、窒素などの不活性ガス存在下で行われることが好ましい。
【0045】
薄膜蒸留槽11内の圧力は、0.1MPa(常圧)とされたり、0.1MPa(常圧)以下とされたりする。また、加熱温度(薄膜蒸留槽11内の温度)は、例えば、250〜350℃とされる。薄膜蒸留槽11内の温度が上記温度とされているため、薄膜蒸留法では、液状の無灰炭が得られる。そのため、得られた液状の無灰炭を0〜150℃程度の固化手段(例えば、水、ベルトコンベアの金属製の無端ベルト、所定の形状の中空部を有する成型用の型など)に落とすなどして接触させれば所望の形状に固化させた無灰炭を容易に得ることができる。したがって、薄膜蒸留法であれば、無灰炭を一旦液状に戻して所望の形状に固化させる工程を排除することができる。
【0046】
なお、本実施形態においては、第2溶剤分離工程において薄膜蒸留法を用いたが、その他の方法、例えば、フラッシュ蒸留法や真空蒸留法等を用いてもよい。即ち、第1溶剤分離工程および第2溶剤分離工程ともにフラッシュ蒸留法を用いることができるし、第1溶剤分離工程および第2溶剤分離工程ともに薄膜蒸留法を用いることもできる。
【0047】
上述した第1溶剤分離工程および第2溶剤分離工程により、溶液部から実質的に灰分を含まず、かつ、溶剤が略100wt%分離された無灰炭を得ることができる。ここで、無灰炭(最終的に得られる無灰炭)とは、灰分が5wt%以下、好ましくは3wt%以下であるものをいい、無灰炭の水分量は、1.0%以下であり、通常、0.5%以下となる。このように無灰炭は、灰分をほとんど含まず、水分は皆無である。また例えば原料炭よりも高い発熱量を示す。さらに、製鉄用コークスの原料として特に重要な品質である軟化溶融性が大幅に改善され、例えば原料炭よりも遥かに優れた性能(流動性)を示す。従って、無灰炭は、コークス原料の配合炭として使用することができる。
【0048】
また、上述のように、無灰炭取得工程が2段階の溶剤分離工程を有することにより、第1溶剤分離工程で回収しきれない溶剤を第2溶剤分離工程で回収できる。その結果、十分に溶剤を回収でき、溶剤回収率を向上させることができる。なお、無灰炭取得工程が3段階以上の溶剤分離工程を有するようにしてもよい。
【0049】
(副生炭取得工程)
副生炭取得工程は、分離工程にて重力沈降槽8により分離された固形分濃縮液から溶剤を蒸発分離させて副生炭を得る工程であり、図1中、溶剤分離器12で実施される。なお、副生炭取得工程はなくてもよい。
【0050】
固形分濃縮液から溶剤を分離する方法は、一般的な蒸留法や蒸発法を用いることができ、例えば、前記したフラッシュ蒸留法が用いられる。分離して回収された溶剤は、スラリー調製槽4へ循環して繰り返し使用することができる。溶剤の分離回収により、固形分濃縮液からは灰分等を含む溶剤不溶成分が濃縮された副生炭(RC、残渣炭ともいう)を得ることができる。副生炭は、灰分が含まれるものの水分が皆無であり、発熱量も十分に有している。副生炭は軟化溶融性は示さないが、含酸素官能基が脱離されているため、配合炭として用いた場合に、この配合炭に含まれる他の石炭の軟化溶融性を阻害するようなものではない。従って、この副生炭は、通常の非微粘結炭と同様に、コークス原料の配合炭の一部として使用することができ、また、コークス原料炭とせずに、各種の燃料用として利用することも可能である。なお、副生炭は、回収せずに廃棄しても良い。
【0051】
また、副生炭取得工程が、固形分濃縮液から溶剤を蒸発分離させる1段目の溶剤分離工程と、当該溶剤分離工程にて得られた副生炭から当該副生炭中に残存する溶剤を蒸発分離させる2段目の溶剤分離工程とに分かれていてもよい。即ち、副生炭取得工程が2段階の溶剤分離工程を有していてもよい。その結果、1段目の溶剤分離工程で回収しきれない溶剤を2段目の溶剤分離工程で回収できる。したがって、副生炭取得工程においても、溶剤回収率を向上させることができる。なお、副生炭取得工程が3段階以上の溶剤分離工程を有するようにしてもよい。
【0052】
(効果)
(効果1)
次に、本発明に係る無灰炭の製造方法の効果について説明する。本発明の無灰炭の製造方法においては、無灰炭取得工程が、溶液部から溶剤を蒸発分離させる第1溶剤分離工程と、第1溶剤分離工程にて溶剤を蒸発分離して得られた無灰炭から当該無灰炭中に残存する溶剤を再度蒸発分離させる第2溶剤分離工程とに分かれている。さらに、第1溶剤分離工程において、無灰炭に溶剤を所定の割合で残存させることにより当該無灰炭を液状とし、当該液状の無灰炭を液状の状態で第2溶剤分離工程に移送している。したがって、第1溶剤分離工程で回収しきれない溶剤を、第2溶剤分離工程にて回収することができる。その結果、溶剤を十分に回収でき、溶剤の回収率を向上させることができる。さらに、第1溶剤分離工程にて得られた無灰炭中にあえて所定の割合溶剤を残存させることで、無灰炭の軟化温度が低下するので、無灰炭の流動性をより低い温度で得ることができる。そのため、より低い温度において、無灰炭が液状の状態を維持できるようになる。その結果、無灰炭を移送する際のハンドリング性(液体ハンドリング)に優れ、無灰炭を第1溶剤分離工程から第2溶剤分離工程へ容易に移送できる。
【0053】
なお、本発明においては、無灰炭取得工程が第1溶剤分離工程と第2溶剤分離工程とに分かれているので、従来技術(例えば、特許文献1)のように第1溶剤分離工程において溶剤を略100%分離させる必要がない。即ち、第1溶剤分離工程において、無灰炭中に溶剤を残存させたとしても、第2溶剤分離工程において、無灰炭中に残存する溶剤を回収することができる。そのため、第1溶剤分離工程において、無灰炭中に溶剤を残存させることが可能となる。
【0054】
(効果2)
また、第1溶剤分離工程にて得られた無灰炭中に残存する溶剤の残存率は10wt%以上50wt%以下である。無灰炭中に残存する溶剤の残存率が10%wt以上であれば、無灰炭の溶融性が向上し、無灰炭を液状に維持することが容易となり、液状状態での流動性もより優れる。また、無灰炭中に残存する溶剤の残存率が50%wt以下であれば、第2溶剤分離工程において、溶剤を蒸発分離させる負荷を低減でき、溶剤を略100%分離回収しやすい。
【0055】
(効果3)
また、第1溶剤分離工程における溶剤の蒸発分離にフラッシュ蒸留法を用いることによって、分離工程にて分離された液状の溶液部を、液状の状態のままフラッシャー内に投入でき、無灰炭の製造効率が良く、設備コストも抑制できる。また、溶液部をフラッシャー内(例えば、フラッシャーの内壁面)に霧状に噴射(フラッシュ)させることで、溶液部の表面積を広げることができ、溶剤の蒸発分離を効率よく行うことができる。
【0056】
(効果4)
また、第2溶剤分離工程における溶剤の蒸発分離に薄膜蒸留法を用いることによって、液状の無灰炭を液状の状態のまま薄膜蒸留槽内に供給できるので、無灰炭の製造効率がよく、設備コストも抑制できる。また、第2溶剤分離工程にて得られた無灰炭(溶剤を略100%分離させた無灰炭)が液状となるので、得られた液状の無灰炭を固化手段に接触させれば所望の形状に固化させた無灰炭を容易に得ることができる。したがって、粉体(固体)の無灰炭を一旦液状に戻して所望の形状に固化させる工程を排除することができる。さらに、薄膜蒸留槽の内壁に形成された薄膜槽をスクレーパ(ワイパー)で確実に掻き落とすことができ、例えば、流動性が低い(粘土の高い)無灰炭であっても確実に排出することができる。
【0057】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施の形態に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した限りにおいて様々な態様に変更して実施することができるものである。
【符号の説明】
【0058】
1 無灰炭の製造装置
2 石炭ホッパ
3 溶剤タンク
4 スラリー調製槽
5 ポンプ
6 予熱器
7 抽出槽
8 重力沈降槽
9 フィルターユニット
10 フラッシャー
11 薄膜蒸留槽
12 溶剤分離器
13 管
図1