特許第5722220号(P5722220)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許5722220-有機電界発光素子 図000102
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5722220
(24)【登録日】2015年4月3日
(45)【発行日】2015年5月20日
(54)【発明の名称】有機電界発光素子
(51)【国際特許分類】
   H01L 51/50 20060101AFI20150430BHJP
   C07F 15/00 20060101ALI20150430BHJP
   C09K 11/06 20060101ALI20150430BHJP
   C07F 9/53 20060101ALN20150430BHJP
【FI】
   H05B33/14 B
   H05B33/22 D
   C07F15/00 E
   C09K11/06 660
   !C07F9/53
【請求項の数】5
【全頁数】70
(21)【出願番号】特願2011-527582(P2011-527582)
(86)(22)【出願日】2010年8月17日
(86)【国際出願番号】JP2010005087
(87)【国際公開番号】WO2011021385
(87)【国際公開日】20110224
【審査請求日】2013年3月1日
(31)【優先権主張番号】特願2009-188846(P2009-188846)
(32)【優先日】2009年8月18日
(33)【優先権主張国】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000207089
【氏名又は名称】大電株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000164438
【氏名又は名称】九州電力株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099508
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 久
(74)【代理人】
【識別番号】100093285
【弁理士】
【氏名又は名称】久保山 隆
(72)【発明者】
【氏名】納戸 光治
(72)【発明者】
【氏名】坂井 由美
(72)【発明者】
【氏名】柿木 泉
(72)【発明者】
【氏名】後藤 康之
【審査官】 濱野 隆
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2007/027440(WO,A1)
【文献】 特開2008−244012(JP,A)
【文献】 国際公開第2007/137725(WO,A1)
【文献】 国際公開第2005/104628(WO,A1)
【文献】 特開2009−1546(JP,A)
【文献】 特開2009−158756(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 51/50
C07F 15/00
C09K 11/06
C07F 9/53
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極と陰極との間に挟まれるように積層された複数の有機化合物層を有する有機電界発光素子において、前記複数の有機化合物層が、
アルコール系溶媒に不溶な有機化合物からなる正孔輸送層と、
前記正孔輸送層が前記陰極と対向している側の面で該正孔輸送層に接するようにアルコール系溶媒を用いた湿式法で形成された発光層とを有し、
前記発光層が、アルコール系溶媒に可溶な下記の式AからQのいずれかで表されるホスフィンオキシド誘導体からなる群より選択される1又は複数のホスフィンオキシド誘導体からなるホスト材料と、アルコール系溶媒に可溶な1又は複数の有機化合物及び/又は有機金属化合物からなり、注入した電子と正孔との再結合により電気的に励起され発光することができるゲスト材料とを含むことを特徴とする有機電界発光素子。

【化1】

【化2】

【化3】
【請求項2】
前記ゲスト材料が、遷移金属元素又はイオンに配位結合していないホスフィンオキシド基を有することを特徴とする請求項1記載の有機電界発光素子。
【請求項3】
前記発光層が、電気陰性度が1.6以下である金属の1又は複数を含む金属塩及び/又は金属化合物の1又は複数を更に含むことを特徴とする請求項1及び2のいずれか1項記載の有機電界発光素子。
【請求項4】
陽極と陰極との間に挟まれるように積層された複数の有機化合物層を有する有機電界発光素子において、前記複数の有機化合物層が、
アルコール系溶媒に不溶な有機化合物からなる正孔輸送層と、
前記正孔輸送層が前記陰極と対向している側の面で該正孔輸送層に接するようにアルコール系溶媒を用いた湿式法で形成された発光層とを有し、
前記発光層が、アルコール系溶媒に可溶な1又は複数のホスフィンオキシド誘導体からなるホスト材料と、アルコール系溶媒に可溶な1又は複数の下記の式(4)〜(15)のいずれかで表されるイリジウム錯体からなり、注入した電子と正孔との再結合により電気的に励起され発光することができるゲスト材料とを含むことを特徴とする有機電界発光素子。

【化4】
【化5】
【化6】
【化7】

式(4)〜(15)において、R2及びR3のいずれか一方は下記の式(2)で表されるホスフィンオキシド基を表し、前記R2及びR3の他方、X1及びX2は、それぞれ独立して、水素原子及びフッ素原子からなる群より選択され、qは1、2及び3のいずれかの自然数を表し、R4及びR5は、それぞれ独立して炭素数1以上12以下の直鎖又は分岐鎖アルキル基、直鎖又は分岐鎖フルオロアルキル基、アリール基及びヘテロアリール基からなる群より選択される官能基であり、Zは直接結合又は炭素数1以上12以下の直鎖アルキレン基である。

【化8】
式(2)においてAr3及びAr4は、それぞれ独立して1又は複数の置換基を有していてもよいアリール基を表し、Ar3及びAr4が結合することによりリン原子を含むヘテロ環を形成していてもよい。
【請求項5】
記イリジウム錯体が、下記の式(4)’で表されるイリジウム錯体であることを特徴とする請求項記載の有機電界発光素子。

【化9】
式(4)’において、R6、R7及びR8は、水素原子及び上記の式(2)で表されるホスフィンオキシド基のいずれかを表し、かつR6、R7及びR8のうち少なくとも1つは上記の式(2)で表されるホスフィンオキシド基である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は有機電界発光素子及び新規なアルコール可溶性リン光発光材料に関し、より具体的には、多層構造を有する有機電子素子の製造において湿式法により形成が可能で、かつ電子注入特性、電子輸送特性、耐久性及び発光効率に優れた発光層を有する有機電界発光素子並びにその製造に好適に用いることができる新規なアルコール可溶性リン光発光材料に関する。
【背景技術】
【0002】
陽極と陰極との間に発光性有機層(有機エレクトロルミネッセンス層)が設けられた有機エレクトロルミネッセンス(EL)素子(以下、「有機EL素子」という。)は、無機EL素子に比べ、直流低電圧での駆動が可能であり、輝度及び発光効率が高いという利点を有しており、次世代の表示装置として注目を集めている。最近になってフルカラー表示パネルが市販されるに至り、表示面の大型化、耐久性の向上等に向けて盛んに研究開発が行われている。
【0003】
有機EL素子は、注入した電子とホール(正孔)との再結合により有機化合物を電気的に励起し発光させる電気発光素子である。有機EL素子の研究は、有機積層薄膜素子が高輝度で発光することを示したコダック社のTangらの報告(非特許文献1参照)以来、多くの企業及び研究機関によりなされている。コダック社による有機EL素子の代表的な構成は、透明陽極であるITO(酸化インジウムスズ)ガラス基板上にホール輸送材料であるジアミン化合物、発光材料であるトリス(8−キノリノラート)アルミニウム(III)、陰極であるMg:Alを順次積層したもので、10V程度の駆動電圧で約1000cd/cmの緑色発光が観測された。現在研究及び実用化がなされている積層型有機EL素子は、基本的にはこのコダック社の構成を踏襲している。
【0004】
有機EL素子は、その構成材料により、高分子系有機EL素子と低分子系有機EL素子に大別され、前者は湿式法により、後者は蒸着法及び湿式法のいずれかにより製造される。高分子系有機EL素子は、素子の作製に用いられる導電性高分子材料における正孔輸送特性と電子輸送特性とのバランスを取るのが困難であるため、近年では、電子輸送、正孔輸送及び発光の機能を分離した積層型低分子系有機EL素子が主流となりつつある。
【0005】
積層型低分子系有機EL素子において、発光性有機層と電極との間に設けられる電子輸送層、電子注入層及び正孔輸送層の性能はデバイス特性を大きく左右するため、それらの性能向上に向けた研究開発が盛んになされており、電子輸送層及び電子注入層に関しても、多くの改良研究が報告されている。
例えば、特許文献1では、電子輸送性の有機化合物と、仕事関数(電気陰性度)の低い金属であるアルカリ金属を含む金属化合物とを共蒸着することにより、電子注入層中に金属化合物を混入させることにより、電子注入層の特性の改善を図る構成が提案されている。
また、特許文献2では、ホスフィンオキサイド化合物を電子輸送材料として用いることが提案されている。更に、特許文献3では、電子輸送層の構成として、配位部位を有する有機化合物にアルカリ金属をドーピングする方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−63910号公報
【特許文献2】特開2002−63989号公報、
【特許文献3】特開2002−352961号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】C. W. Tang, S. A. VanSlyke著、「Organic electroluminescent diodes」、AppliedPhysics Letters(米国)、米国物理学会(The American Institute ofPhysics)、1987年9月21日、第51巻、第12号、p.913−915
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1から3に記載の電子注入層、電子輸送材料及び電子輸送層は、いずれも動作電圧の低下や発光効率の向上を図ることが目的であり、湿式法による多層構造の形成や耐久性の向上が図られているとは言い難い。また、これらの発明においては、電子輸送層及び電子注入層を真空蒸着法により成膜するため、大掛かりな設備を必要とると共に、2種以上の材料を同時に蒸着する際には蒸着速度の精密な調整が困難であり、生産性に劣るという問題もある。
【0009】
湿式法による積層型低分子系有機EL素子の製造法には大きく分けて2種類あり、1つは、下層を製膜後、熱や光により架橋や重合を行い不溶化し上層を製膜する方法、もう1つは、下層と上層で溶解性の大きく違う材料を用いる方法である。前者の方法は、材料の選択の幅が広い反面、架橋又は重合反応の終了後に反応開始剤や未反応物を取り除くことが困難であり、耐久性に問題がある。一方、後者の方法は、材料の選択が難しい反面、架橋や重合等の化学反応を伴わないため、前者の方法と比較して高純度で耐久性の高い素子の構築が可能になる。以上述べたように、湿式法による積層型低分子系有機EL素子の製造は、材料の選択が困難であるという問題があるにも関わらず、各層の構成材料の溶解性の違いを利用した後者の方法が適していると考えられる。しかし、各層の構成材料の溶解性の違いを利用した積層を難しくしている要因の1つに、導電性高分子やスピンコート可能な有機半導体の殆どが、トルエン、クロロホルム、テトラヒドロフラン等の比較的溶媒能の高い溶媒にしか溶けず、P型の導電性高分子でホール輸送層を成膜した後、同様の溶媒でN型の導電性高分子でスピンコートすると下地のホール輸送性高分子を浸食することになり、平坦で欠陥の少ないPN界面を有する積層構造を形成できないという問題がある。特にインクジェット法を用いる場合には、溶媒が自然乾燥で除去されるため溶媒の滞留時間が長くなることから、ホール輸送層や発光層の浸食が激しくなり、実用上問題のないデバイス特性を得ることが著しく困難になるおそれがある。
【0010】
電子輸送、正孔輸送及び発光の各機能に最適化された材料を用いることにより性能の向上が期待できるという点においては、各機能を分離し、陽極と陰極との間に積層される層の数を多くすることが好ましい。しかしながら、積層数の増大は、工程数や製造に要するタクトタイムの増大、及び溶媒による下層の浸食に伴う性能低下等の問題を生じるおそれがある。
【0011】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたもので、多層構造を有する有機電子素子の製造において湿式法により形成が可能で、かつ電子注入特性、電子輸送特性、耐久性及び発光効率に優れた発光層を有する有機電界発光素子並びにその製造に好適に用いることができる新規なアルコール可溶性リン光発光材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記目的に沿う本発明の第1の態様は、陽極と陰極との間に挟まれるように積層された複数の有機化合物層を有する有機電界発光素子において、前記複数の有機化合物層が、アルコール系溶媒に不溶な有機化合物からなる正孔輸送層と、前記正孔輸送層が前記陰極と対向している側の面で該正孔輸送層に接するように湿式法で形成された発光層とを有し、前記発光層が、アルコール系溶媒に可溶な1又は複数のホスフィンオキシド誘導体からなるホスト材料と、アルコール系溶媒に可溶な1又は複数の有機化合物及び/又は有機金属化合物からなり、注入した電子と正孔との再結合により電気的に励起され発光することができるゲスト材料とを含むことを特徴とする有機電界発光素子を提供することにより上記課題を解決するものである。
【0013】
発光層に含まれるホスト材料及びゲスト材料の双方がアルコール系溶媒に可溶であるため、アルコール系溶媒を用いた湿式法により発光層を形成できる。また、正孔輸送層がアルコール系溶媒に不溶であるため、正孔輸送層の形成後に発光層を形成する場合であっても、アルコール系溶媒による正孔輸送層の浸食及び膨潤が起こらず、欠陥や性能低下を起こすことなく有機電界発光素子を製造できる。更に、ホスト材料として用いられるホスフィンオキシド誘導体は、電子求引性のホスフィンオキシド基(P=O)を有しているため、発光層自体が高い電子輸送特性及び電子注入特性を併せ持つことができる。したがって、電子輸送層を別途形成しなくても十分な素子特性を実現可能であるため、製造工程における工数を低減できると共に、製造に要するタクトタイムの短縮が可能となる。
【0014】
本発明の第1の態様において、前記ゲスト材料が、遷移金属元素又はイオンに配位結合していないホスフィンオキシド基を有していることが好ましい。ゲスト材料として用いられるホスフィンオキシド誘導体にも電子求引性のホスフィンオキシド基(P=O)を導入することにより、発光層の電子輸送特性及び電子注入特性を更に向上できる。
【0015】
本発明の第1の態様において、前記発光層が、電気陰性度が1.6以下である金属の1又は複数を含む金属塩及び/又は金属化合物の1又は複数を更に含むことが好ましい。
電気陰性度の低い(1.6以下)金属(元素又はイオン)が電子求引性のホスフィンオキシド基に配位することにより、ホスト化合物を構成するホスフィンオキシド誘導体の電子輸送特性及び電子注入特性が更に向上すると共に耐久性が大幅に向上する。
【0016】
本発明の第1の態様において、前記ホスト材料を構成する前記ホスフィンオキシド誘導体が、下記の一般式(1)で表されるものであってもよい。
【0017】
【化1】
【0018】
式(1)において、
は1又は複数のアリール基及びヘテロアリール基の一方又は双方を有し、任意の1又は複数の炭素原子上に下記の式(2)で表されるホスフィンオキシド基を有していてもよい原子団を表し、
Ar及びArは、それぞれ独立して1又は複数の置換基を有していてもよいアリール基を表し、Ar及びArが結合することによりリン原子を含むヘテロ環を形成していてもよく、
【0019】
【化2】
【0020】
式(2)においてAr及びArは、それぞれ独立して1又は複数の置換基を有していてもよいアリール基を表し、Ar及びArが結合することによりリン原子を含むヘテロ環を形成していてもよい。
【0021】
この場合において、上記の式(1)で表される前記ホスフィンオキシド誘導体が、下記の式AからQのいずれかで表されるホスフィンオキシド誘導体からなる群より選択される1又は複数のホスフィンオキシド誘導体であることが好ましい。
【0022】
【化3】
【0023】
【化4】
【0024】
【化5】
【0025】
本発明の第1の態様において、前記ゲスト材料を構成する前記有機化合物及び/又は有機金属化合物が、下記の一般式(3)で表されるものであってもよい。
【0026】
【化6】
【0027】
式(3)においてAr、Ar及びArは、それぞれ独立して1又は複数の置換基を有していてもよいアリール基又はヘテロアリール基を表し、かつAr、Ar及びArのうち1又は複数は、注入した電子と正孔との再結合により電気的に励起され発光することができる発光性芳香族残基を含んでいる。
【0028】
この場合において、上記の式(3)で表される前記有機化合物及び/又は有機金属化合物が、下記の式(3)’で表されるイリジウム錯体であることが好ましく、下記の式(4)〜(15)のいずれかで表されるイリジウム錯体であることがより好ましく、下記の式(4)’で表されるイリジウム錯体であることが特に好ましい。
【0029】
【化7】
【0030】
【化8】
【0031】
【化9】
【0032】
【化10】
【0033】
【化11】
【0034】
【化12】
【0035】
式(3)’において、L、L及びLは二座配位子であり、X、Y、X、Y、X及びYは、それぞれ、二座配位子L、L及びLの構成原子であり、それぞれ独立して炭素原子、酸素原子及び窒素原子からなる群より選択される配位原子であり、かつ、L、L及びLのうち1又は複数は上記の式(2)で表されるホスフィンオキシド基を有している。
式(4)〜(15)において、R及びRのいずれか一方は下記の式(2)で表されるホスフィンオキシド基を表し、前記R及びRの他方、X及びXは、それぞれ独立して、水素原子及びフッ素原子からなる群より選択され、qは1、2及び3のいずれかの自然数を表し、R及びRは、それぞれ独立して、それぞれ独立して炭素数1以上12以下の直鎖又は分岐鎖アルキル基、直鎖又は分岐鎖フルオロアルキル基、アリール基及びヘテロアリール基からなる群より選択される官能基であり、Zは直接結合又は炭素数1以上12以下の直鎖アルキレン基である。
また、式(4)’において、R、R及びRは、水素原子及び上記の式(2)で表されるホスフィンオキシド基のいずれかを表し、かつR、R及びRのうち少なくとも1つは上記の式(2)で表されるホスフィンオキシド基である。
【0036】
また、本発明の第2の態様は、上記の式(3)’で表されるアルコール可溶性リン光発光材料を提供することにより上記課題を解決するものである。
【0037】
本発明の第2の態様において、前記アルコール可溶性リン光発光材料が上記の式(4)〜(15)のいずれかで表されることが好ましく、前記アルコール可溶性リン光発光材料が上記の式(4)’で表される構造を有することがより好ましい。
【0038】
式(3)’、好ましくは(4)〜(15)のいずれか、より好ましくは式(4)’で表されるイリジウム錯体は、電気的に励起することにより、三重項状態を経て高い量子収率でリン光発光することができる。また、上記の構造式のいずれかで表されるイリジウム錯体は、アルコール系溶媒に可溶であると共に嵩高いホスフィンオキシド基を有しているため、アルコール系溶媒中及び発光層中で会合体を形成しにくい。そのため、濃度消光による発光効率の低下が起こりにくく、高い発光効率を有する。
【発明の効果】
【0039】
本発明によると、多層構造を有する有機電子素子の製造において湿式法により形成が可能で、かつ電子注入特性、電子輸送特性、耐久性及び発光効率に優れた発光層を有する有機電界発光素子有機電界発光素子及びその製造に好適に用いることができる新規なアルコール可溶性リン光発光材料が提供される。また、本発明に係るアルコール可溶性リン光発光材料を用いると、電子輸送層や積層型低分子EL素子の製造に高価な蒸着装置が不要になると共に、金属と有機電子輸送材料との共蒸着のための複雑な条件設定が不要になる。そのため、電子輸送層や積層型低分子EL素子の製造コストを低減できると共に生産性を向上させることが可能になる。本発明を適用することにより、高い生産性かつ低コストで製造でき、発光効率に優れ、高い耐久性を有する有機電界発光素子が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0040】
図1】本発明の第1の実施の形態に係る有機電界発光素子の縦断面を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0041】
続いて、本発明を具体化した実施の形態につき説明し、本発明の理解に供する。
(1)有機電界発光素子
図1に示すように、本発明の第1の実施の形態に係る有機電界発光素子1は、陽極3と陰極7との間に挟まれるように積層された複数の有機化合物層(陽極3側から順に、正孔注入層4、正孔輸送層5、発光層6)を有する有機電界発光素子である。陽極3は透明な基板2上に設けられており、全体が封止部材8で封止されている。正孔輸送層5はアルコール系溶媒に不溶な有機化合物からなっている。正孔輸送層5が陰極7と対向している側の面で正孔輸送層5に接するように湿式法で形成された発光層6は、アルコール系溶媒に可溶な1又は複数のホスフィンオキシド誘導体からなるホスト材料(媒体)と、好ましくは遷移金属元素又はイオンに配位結合していないホスフィンオキシド基を有し、アルコール系溶媒に可溶な1又は複数の有機化合物及び/又は有機金属化合物からなり、注入した電子と正孔との再結合により電気的に励起され発光することができるゲスト材料(発光中心)とを含んでいる。
【0042】
基板2は、有機電界発光素子1の支持体となるものである。本実施の形態に係る有機電界発光素子1は、基板2側から光を取り出す構成(ボトムエミッション型)であるため、基板2及び陽極3は、それぞれ、実質的に透明(無色透明、着色透明又は半透明)な材料より構成されている。基板2の構成材料としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリプロピレン、シクロオレフィンポリマー、ポリアミド、ポリエーテルサルフォン、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート、ポリアリレートのような樹脂材料や、石英ガラス、ソーダガラスのようなガラス材料等が挙げられ、これらのうちの1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0043】
基板2の平均厚さは、特に限定されないが、0.1〜30mm程度であるのが好ましく、0.1〜10mm程度であるのがより好ましい。なお、有機電界発光素子1が基板2と反対側から光を取り出す構成(トップエミッション型)の場合、基板2には、透明基板及び不透明基板のいずれも用いることができる。不透明基板の例としては、アルミナ等のセラミックス材料で構成された基板、ステンレス鋼等の金属基板の表面に酸化膜(絶縁膜)を形成したもの、樹脂材料で構成された基板等が挙げられる。
【0044】
陽極3は、後述する正孔注入層4に正孔を注入する電極である。この陽極3の構成材料としては、仕事関数が大きく、導電性に優れる材料を用いるのが好ましい。陽極3の構成材料としては、例えば、ITO(酸化インジウムスズ)、IZO(酸化インジウムジルコニウム)、In、SnO、Sb含有SnO、Al含有ZnO等の酸化物、Au、Pt、Ag、Cu又はこれらを含む合金等が挙げられ、これらのうちの1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。陽極3の平均厚さは、特に限定されないが、10〜200nm程度であるのが好ましく、50〜150nm程度であるのがより好ましい。
【0045】
一方、陰極7は、後述する電子輸送層6に電子を注入する電極であり、電子輸送層6の有機発光層5と反対側に設けられている。この陰極7の構成材料としては、仕事関数の小さい材料を用いるのが好ましい。陰極7の構成材料としては、例えば、Li、Mg、Ca、Sr、La、Ce、Er、Eu、Sc、Y、Yb、Ag、Cu、Al、Cs、Rb又はこれらを含む合金等が挙げられ、これらのうちの1種又は任意の2種以上を組み合わせて(例えば、複数層の積層体等)用いることができる。
【0046】
特に、陰極7の構成材料として合金を用いる場合には、Ag、Al、Cu等の安定な金属元素を含む合金、具体的には、MgAg、AlLi、CuLi等の合金を用いるのが好ましい。このような合金を陰極7の構成材料として用いることにより、陰極7の電子注入効率及び安定性の向上を図ることができる。陰極7の平均厚さは、特に限定されないが、50〜10000nm程度であるのが好ましく、80〜500nm程度であるのがより好ましい。
【0047】
トップエミッション型の場合、仕事関数の小さい材料、又はこれらを含む合金を5〜20nm程度とし、透過性を持たせ、さらにその上面にITO等の透過性の高い導電材料を100〜500nm程度の厚さで形成する。なお、本実施の形態に係る有機電界発光素子1は、ボトムエミッション型であるため、陰極7の光透過性は特に要求されない。
【0048】
陽極3上には、正孔注入層4及び正孔輸送層5が設けられている。正孔注入層4は、陽極3から注入された正孔を受け入れ、正孔輸送層5まで輸送する機能を有し、正孔輸送層5は、正孔注入層4から注入された正孔を発光層6まで輸送する機能を有するものである。正孔注入層4及び正孔輸送層5の構成材料としては、例えば、フタロシアニン、銅フタロシアニン(CuPc)、鉄フタロシアニンのような金属又は無金属のフタロシアニン系化合物、ポリアリールアミン、フルオレン−アリールアミン共重合体、フルオレン−ビチオフェン共重合体、ポリ(N−ビニルカルバゾール)、ポリビニルピレン、ポリビニルアントラセン、ポリチオフェン、ポリアルキルチオフェン、ポリヘキシルチオフェン、ポリ(p−フェニレンビニレン)、ポリチニレンビニレン、ピレンホルムアルデヒド樹脂、エチルカルバゾールホルムアルデヒド樹脂又はその誘導体等が挙げられ、これらのうちの1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。ただし、正孔輸送層5の構成材料は、アルコール系溶媒に不溶である必要がある。
【0049】
また、前記化合物は、他の化合物との混合物として用いることもできる。一例として、ポリチオフェンを含有する混合物としては、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン/スチレンスルホン酸)(PEDOT/PSS)等が挙げられる。正孔注入層4及び正孔輸送層5には、陽極3及び発光層6に用いられる材料の種類に応じて、正孔の注入効率及び輸送効率の最適化、発光層6からの放射光の再吸収の防止、耐熱性等の観点から適当な1又は複数の材料を適宜選択し、又は組み合わせて用いられる。
例えば、正孔注入層4には、正孔伝導準位(Ev)と陽極3に用いられる材料の仕事関数との差が小さく、放射光の再吸収を防ぐために可視光領域に吸収帯のない材料が好ましく用いられる。また、正孔輸送層5には、発光層6の構成材料との間で励起錯体(エキサイプレックス)や電荷移動錯体を形成せず、発光層6において生成した励起子のエネルギーの移動や発光層6からの電子注入を防ぐために、発光層6の励起子エネルギーよりも一重項励起エネルギーが大きく、バンドギャップエネルギーが大きく、電子伝導電位(Ec)が浅い材料が好ましく用いられる。陽極3にITOが用いられる場合、正孔注入層4及び正孔輸送層5に好適に用いられる材料の例としては、それぞれ、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン/スチレンスルホン酸)(PEDOT/PSS)及びポリ(N−ビニルカルバゾール)(PVK)が挙げられる。
【0050】
なお、本実施の形態においては、陽極3と発光層6との間に正孔注入層4及び正孔輸送層5が別個の2つの層として形成されているが、必要に応じて、陽極3からの正孔の注入及び発光層6への正孔の輸送を行う単一の正孔輸送層としてもよく、同一組成又は組成が互いに異なる3つ以上の層を積層した構造としてもよい。
【0051】
正孔注入層4の平均厚さは、特に限定されないが、10〜150nm程度であるのが好ましく、50〜100nm程度であるのがより好ましい。また、正孔輸送層5の平均厚さは、特に限定されないが、10〜150nm程度であるのが好ましく、15〜50nm程度であるのがより好ましい。
【0052】
正孔輸送層5上、すなわち、陽極3と反対側の面と隣接して、発光層6が設けられている。この発光層6には、陰極7から直接、又は電子輸送層(図示しない)を介して電子が、また、正孔輸送層5から正孔がそれぞれ供給(注入)される。そして、発光層6の内部では、正孔と電子とが再結合し、この再結合に際して放出されたエネルギーにより励起子(エキシトン)が生成し、励起子が基底状態に戻る際にエネルギー(蛍光やリン光)が放出(発光)される。
【0053】
発光層6は、構成材料として、
(I)アルコール系溶媒に可溶な1又は複数のホスフィンオキシド誘導体からなるホスト材料と、
(II)遷移金属元素又はイオンに配位結合していないホスフィンオキシド基を有し、アルコール系溶媒に可溶な1又は複数の有機化合物及び/又は有機金属化合物からなり、注入した電子と正孔との再結合により電気的に励起され発光することができるゲスト材料とを含んでいる。
【0054】
(I)ホスト材料
ホスト材料を構成する前記ホスフィンオキシド誘導体としては、下記の一般式(1)で表されるものが好ましく用いられる。
【0055】
【化13】
【0056】
式(1)において、
は1又は複数のアリール基及びヘテロアリール基の一方又は双方を有し、任意の1又は複数の炭素原子上に下記の式(2)で表されるホスフィンオキシド基を有していてもよい原子団を表し、
Ar及びArは、それぞれ独立して1又は複数の置換基を有していてもよいアリール基を表し、Ar及びArが結合することによりリン原子を含むヘテロ環を形成していてもよく、
【0057】
【化14】
【0058】
式(2)においてAr及びArは、それぞれ独立して1又は複数の置換基を有していてもよいアリール基を表し、Ar及びArが結合することによりリン原子を含むヘテロ環を形成していてもよい。
【0059】
に含まれるアリール基及びヘテロアリール基の炭素数は特に限定されないが、2〜30であることが好ましく、2〜20であることがより好ましい。より具体的には、フェニル基等の単環式の芳香族炭化水素基、チオフェン環、トリアジン環、フラン環、ピラジン環、ピリジン環、チアゾール環、イミダゾール環、ピリミジン環等の単環式の複素環基、ナフタレン環、アントラセン環等の縮合多環式芳香族炭化水素基、チエノ[3,2−b]フラン環等の縮合多環式の複素環基、ビフェニル環、ターフェニル環等の環集合式の芳香族炭化水素基、ビチオフェン環、ビフラン環等の環集合式の複素環基、アクリジン環、イソキノリン環、インドール環、カルバゾール環、カルボリン環、キノリン環、ジベンゾフラン環、シンノリン環、チオナフテン環、1,10−フェナントロリン環、フェノチアジン環、プリン環、ベンゾフラン環、シロール環等の芳香族環と複素環との組み合わせからなるものが挙げられる。Ar〜Arに含まれるアリール基についても上記の原子団Rの場合と同様であるが、好ましくはフェニル基である。
【0060】
式(1)で表されるホスフィンオキシド誘導体のうち、ホスト材料として好ましく用いられるのは下記の一般式(16)、(17)及び(18)で表されるホスフィンオキシド誘導体である。
【0061】
【化15】
【0062】
式(16)、(17)及び(18)において、
X及びRは、1又は複数のアリール基及びヘテロアリール基の一方又は双方を有し、1又は複数の置換基を有していてもよい原子団を表し、
Ar〜Ar28はそれぞれ独立して1又は複数の置換基を有していてもよいアリール基を表し、
ArとAr、Ar10とAr11、Ar15とAr16、Ar17とAr18、Ar19とAr20、Ar21とAr22、Ar23とAr24、Ar25とAr26及びAr27とAr28がそれぞれ結合することによりリン原子を含むヘテロ環を形成していてもよい。
X、R、Ar〜Ar28に含まれるアリール基についても上記の原子団Rの場合と同様であるが、Ar〜Ar28は好ましくはフェニル基である。
【0063】
ホスフィンオキシド誘導体の具体例としては、下記の構造式A〜Qで表されるホスフィンオキシド誘導体が挙げられる。
【0064】
【化16】
【0065】
【化17】
【0066】
【化18】
【0067】
ホスフィンオキシド誘導体は、市販のものを用いてもよく、第三級ホスフィンの酸化、塩化ホスフィニル又は二塩化ホスホリルとGrignard試薬との反応、ハロゲン化アリールとジアリールホスフィンオキシドとのカップリング、ジハロホスホランの加水分解等の任意の公知の方法を用いて合成して用いてもよい。
ホスフィンオキシド誘導体は任意の1種類を単独で用いてもよく、任意の2種類以上を任意の割合で混合して用いてもよい。有機電界発光素子1の製造に用いられる陰極材料や発光層6に含まれるゲスト材料の種類等に応じてホスフィンオキシド誘導体又はその組み合わせを適宜選択することにより、電子注入特性、電子輸送特性及び発光特性を最適化できる。
【0068】
(II)ゲスト材料
ゲスト材料を構成する前記有機化合物及び/又は有機金属化合物としては、アルコール系溶媒に可溶であり、注入した電子と正孔との再結合により電気的に励起され発光することができる任意のものを1又は複数選択して用いることができるが、遷移金属元素又はイオンに配位結合していないホスフィンオキシド基を有するものが好ましく、下記の一般式(3)で表されるものがより好ましい。
【0069】
【化19】
【0070】
式(3)においてAr、Ar及びArは、それぞれ独立して1又は複数の置換基を有していてもよいアリール基又はヘテロアリール基を表し、かつAr、Ar及びArのうち1又は複数は、注入した電子と正孔との再結合により電気的に励起され発光することができる発光性芳香族残基を含んでいる。
【0071】
発光性芳香族残基の例としては、1,3,5−トリス[(3−フェニル−6−トリフルオロメチル)キノキサリン−2−イル]ベンゼン(TPQ1)、1,3,5−トリス[{3−(4−t−ブチルフェニル)−6−トリフルオロメチル}キノキサリン−2−イル]ベンゼン(TPQ2)等のアリール基又はヘテロアリール基、トリス(8−ヒドロキシキノリノレート)アルミニウム(Alq3)、ファクトリス(2−フェニルピリジン)イリジウム(Ir(ppy)3)等の芳香族化合物を配位子とする有機金属錯体等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0072】
好ましいゲスト材料の例としては、下記の式(3)’で表されるイリジウム錯体(本発明の第2の実施の形態に係る有機電界発光材料)が挙げられる。
【0073】
【化20】
【0074】
式(3)’において、L、L及びLは二座配位子であり、そのうち1又は複数が前記発光性芳香族残基を有しており、X、Y、X、Y、X及びYは、それぞれ、二座配位子L、L及びLの構成原子であり、それぞれ独立して炭素原子、酸素原子及び窒素原子からなる群より選択される配位原子であり、かつ、L、L及びLのうち1又は複数は下記の式(2)で表されるホスフィンオキシド基(1又は複数のいずれであってもよい。)を有している。
【0075】
【化21】
【0076】
式(2)においてAr及びArは、それぞれ独立して1又は複数の置換基を有していてもよいアリール基を表し、Ar及びArが結合することによりリン原子を含むヘテロ環を形成していてもよい。
【0077】
より好ましいゲスト材料は、下記の式(4)〜(15)で表されるイリジウム錯体であり、特に好ましいゲスト材料は、下記の式(4)’で表されるイリジウム錯体である。
【0078】
【化22】
【0079】
【化23】
【0080】
【化24】
【0081】
【化25】
【0082】
【化26】
【0083】
式(4)〜(15)において、R及びRのいずれか一方は上記の式(2)で表されるホスフィンオキシド基を表し、R及びRの他方、X及びXは、それぞれ独立して、水素原子及びフッ素原子からなる群より選択され、qは1、2及び3のいずれかの自然数を表し、R及びRは、それぞれ独立して、炭素数1以上12以下の直鎖又は分岐鎖アルキル基、直鎖又は分岐鎖フルオロアルキル基、アリール基及びヘテロアリール基からなる群より選択される官能基であり、Zは直接結合又は炭素数1以上12以下の直鎖アルキレン基である。また、式(4)’において、R、R及びRは、水素原子及び上記の式(2)で表されるホスフィンオキシド基のいずれかを表し、かつR、R及びRのうち少なくとも1つは上記の式(2)で表されるホスフィンオキシド基である。
【0084】
発光層6は、電気陰性度(χ)が1.6以下である任意の金属元素又はイオンのうち1又は複数を含む1又は複数の金属塩及び/又は金属化合物を含んでいてもよい。これらの金属塩及び/又は金属化合物に含まれる金属元素又はイオンが電子求引性のホスフィンオキシド基に配位することにより、ホスト化合物を構成するホスフィンオキシド誘導体の電子輸送特性及び電子注入特性が更に向上すると共に耐久性が大幅に向上する。なお、電気陰性度の最小値は、Csにおけるχ=0.79である。
【0085】
電気陰性度が1.6以下の金属の具体例としては、アルカリ金属(Li、Na、K、Rb、Cs)、アルカリ土類金属(Be、Mg、Ca、Sr、Ba)、及びランタン(La)が挙げられる。電気陰性度が1.6を超えると、陰極からの電子注入効率が低下するため、電子輸送特性が低下する。また、電気陰性度が1.6以下であっても、ランタン以外の遷移元素については、d−d遷移等により励起エネルギーがクエンチされるため、電子輸送特性が低下する。したがって、典型金属塩が好ましく、電気陰性度の小さなアルカリ金属塩及びアルカリ土類金属塩が特に好ましい。
【0086】
これらの金属を含む原料としては、金属アルコキシド、或いは1又は複数のβ−ジケトンが配位したβ−ジケトナト錯体が好ましいが、後者の場合、アルコール系溶媒に可溶な塩と遊離のβ−ジケトンを溶液中で反応(錯形成)させ、反応系内で生成させてもよい。この場合において、用いられる金属塩の種類に特に制限はなく、アルコール系溶媒に可溶であれば、塩化物等のハロゲン化物、硝酸塩、硫酸塩、炭酸塩、酢酸塩、スルホン酸塩等の任意の塩を用いることができる。
【0087】
遊離の状態又は金属β−ジケトナト錯体において中心金属に配位した状態で有機電子輸送材料形成組成物の製造に用いられるβ−ジケトンは、下記の一般式(19)で表される構造を有している。
【0088】
【化27】
【0089】
式(19)において、R10及びR11は、それぞれ独立して炭素数1以上12以下の直鎖又は分岐鎖アルキル基、直鎖又は分岐鎖フルオロアルキル基、アリール基及びヘテロアリール基からなる群より選択される官能基を表す。
【0090】
発光層6に添加するために好ましく用いることができるβ−ジケトンの具体例としては、下式に示すものが挙げられる。下式に示したβ−ジケトンは、左からアセチルアセトン(acac)、2,2,6,6−テトラメチルヘプタン−3,5−ジオン(TMHD)、1,1,1−トリフルオロアセチルアセトン(TFA)、1,1,1,5,5,5−ヘキサフルオロアセチルアセトン(HFA)である。
【0091】
【化28】
【0092】
湿式法による発光層6の形成は、ホスト材料、ゲスト材料及び金属塩又は金属化合物をアルコール系溶媒に溶解した発光層形成用材料を正孔輸送層5上に供給した後、乾燥(脱溶媒又は脱分散媒)することにより形成することができる。
発光層形成用材料に用いられるアルコール系溶媒としては、正孔注入層4及び正孔輸送層5を溶解又は膨潤させにくく、ホスト材料、ゲスト材料及び金属塩又は金属化合物の溶解性が高い任意のアルコール系溶媒を用いることができ、好ましくは炭素数1〜7、より好ましくは炭素数1〜4の単価アルコールが用いられる。このようなアルコール系溶媒の具体例としては、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、t−ブチルアルコール、1−ペンタノール、1−ヘキサノール、シクロヘキサノール等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、任意の2以上を任意の割合で混合して用いてもよい。
【0093】
発光層形成用材料中に含まれるホスト材料、ゲスト材料及び金属塩又は金属化合物の好ましい濃度範囲は、これらの材料の溶解度及び溶媒の揮発性等に依存するために必ずしも一義的に決定できないが、例えば、合計濃度で0.1〜5重量%、好ましくは0.2〜2重量%である。ホスト材料、ゲスト材料及び金属塩又は金属化合物の濃度が低すぎると、膜厚の大きな発光層6を形成するために必要な作業時間が増大するため生産性が低下する。逆にホスト材料、ゲスト材料及び金属塩又は金属化合物の濃度が高すぎると、これらの材料が沈殿したり、溶液(発光層形成用材料)の粘度が高くなりすぎて作業性が低下したりするおそれがある。
【0094】
有機電子輸送材料形成用組成物の製造にあたり、個別に調製したそれぞれの原料の溶液を混合してもよい。この場合において、それぞれの溶液に使用する溶媒は同一であってもよいが、均一な溶液が得られるならば互いに異なっていてもよい。これにより、ホスフィンオキシド誘導体と金属化合物の溶解性が大きく異なっており、所望の量比で混合することが困難な場合においても、溶液の調製が可能となる。さらに、前記いずれの液状材料の調製方法においても、ホスト材料、ゲスト材料及び金属塩又は金属化合物の比が所望の値となるよう混合することができる。なお、ゲスト材料の含有量は、ホスト材料に対して1〜25wt%であることが好ましく、金属塩又は金属化合物の含有量は、ホスト材料に対して1〜50wt%であることが好ましい。
【0095】
なお、発光層6が他の発光物質を更に含んでいてもよい。この場合において、添加される発光物質はアルコール系溶媒に可溶なものである必要がある。
【0096】
発光層6の平均厚さは特に限定されないが、10〜150nm程度であるのが好ましく、40〜100nm程度であるのがより好ましい。
【0097】
封止部材8は、有機電界発光素子1(陽極3、正孔注入層4、正孔輸送層5、発光層6及び陰極7)を覆うように設けられ、これらを気密的に封止し、酸素や水分を遮断する機能を有する。封止部材8を設けることにより、有機電界発光素子1の信頼性の向上や、変質及び劣化の防止(耐久性向上)等の効果が得られる。
【0098】
封止部材8の構成材料としては、例えば、Al、Au、Cr、Nb、Ta、Ti又はこれらを含む合金、酸化シリコン、各種樹脂材料等を挙げることができる。なお、封止部材8の構成材料として導電性を有する材料を用いる場合には、短絡を防止するために、封止部材8と有機電界発光素子1との間には、必要に応じて、絶縁膜を設けるのが好ましい。また、封止部材8は、平板状として、基板2と対向させ、これらの間を、例えば熱硬化性樹脂等のシール材で封止するようにしてもよい。
【0099】
発光層6と陰極7との間には、図示しない電子輸送層が設けられていてもよい。この電子輸送層は、陰極7から注入された電子を発光層6まで輸送する機能を有するものである。電子輸送層の構成材料としては、例えば、トリアゾール誘導体、オキサゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、フルオレノン誘導体、アントラキノジメタン誘導体、アントロン誘導体、ジフェニルキノン誘導体、チオピランジオキシド誘導体、カルボジイミド誘導体、フルオレニリデンメタン誘導体、ジスチリルピラジン誘導体、ナフタレン、ペリレン等の芳香環テトラカルボン酸無水物、フタロシアニン誘導体、8−キノリノール誘導体の金属錯体やメタルフタロシアニン、ベンゾオキサゾールやベンゾチアゾールを配位子とする金属錯体に代表される各種金属錯体、有機シラン誘導体等を用いることができる。
【0100】
また、電子輸送層には、電子供与性ドーパントを含有させることができる。電子輸送層に導入される電子供与性ドーパントは、電子供与性で有機化合物を還元する性質を有していればよく、Li等のアルカリ金属、Mg等のアルカリ土類金属、希土類金属を含む遷移金属や還元性有機化合物等が好適に用いられる。金属としては、Li、Na、K、Be、Mg、Ca、Sr、Ba、Y、Cs、La、Sm、Gd、及びYb等が挙げられる。また、還元性有機化合物としては、例えば、含窒素化合物、含硫黄化合物、含リン化合物(発光層6においてホスト材料として用いられるホスフィンオキシド誘導体も含まれる。)等が挙げられる。この他にも、特開平6−212153号公報、特開2000−196140号公報、特開2003−68468号公報、特開2003−229278号公報、特開2004−342614等に記載の材料を用いることができる。
【0101】
電子輸送層の平均厚さは特に限定されないが、1〜100nm程度であるのが好ましく、10〜50nm程度であるのがより好ましい。更に、陰極7と発光層6又は電子輸送層との間には、必要に応じて、LiF等からなる電荷注入層が設けられていてもよい。
【0102】
有機電界発光素子1は、例えば、次のようにして製造することができる。
まず、基板2を用意し、この基板2上に陽極3を形成する。
陽極3は、例えば、プラズマCVD、熱CVD、レーザーCVDのような化学蒸着法(CVD)、真空蒸着、スパッタリング、イオンプレーティング等の乾式メッキ法、電界メッキ、浸漬メッキ、無電界メッキ等の湿式メッキ法、溶射法、ゾル・ゲル法、MOD法、金属箔の接合等を用いて形成することができる。
【0103】
次に、陽極3上に正孔注入層4及び正孔輸送層5を順次形成する。
正孔注入層4及び正孔輸送層5は、例えば、正孔注入材料を溶媒に溶解又は分散媒に分散してなる正孔注入層形成用材料を陽極3上に供給した後、乾燥(脱溶媒又は脱分散媒)し、次いで正孔輸送材料を溶媒に溶解又は分散媒に分散してなる正孔輸送層形成用材料を正孔注入層4上に供給した後、乾燥することにより形成することができる。正孔注入層形成用材料及び正孔輸送層形成用材料の供給方法としては、例えば、スピンコート法、キャスティング法、マイクログラビアコート法、グラビアコート法、バーコート法、ロールコート法、ワイヤーバーコート法、ディップコート法、スプレーコート法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、インクジェット印刷法等の各種塗布法を用いることができる。このような塗布法を用いることにより、正孔注入層4及び正孔輸送層5を比較的容易に形成することができる。
【0104】
正孔注入層形成用材料及び正孔輸送層形成用材料の調製に用いる溶媒又は分散媒としては、例えば、硝酸、硫酸、アンモニア、過酸化水素、水、二硫化炭素、四塩化炭素、エチレンカーボネイト等の無機溶媒や、メチルエチルケトン(MEK)、アセトン、ジエチルケトン、メチルイソブチルケトン(MIBK)、メチルイソプロピルケトン(MIPK)、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒、メタノール、エタノール、イソプロパノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール(DEG)、グリセリン等のアルコール系溶媒(ただし、正孔注入材料及び正孔輸送材料が不溶な場合には、分散媒としてのみ使用できる)、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、1,2−ジメトキシエタン(DME)、1,4−ジオキサン、テトラヒドロフラン(THF)、テトラヒドロピラン(THP)、アニソール、ジエチレングリコールジメチルエーテル(ジグリム)、ジエチレングリコールエチルエーテル(カルビトール)等のエーテル系溶媒、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、フェニルセロソルブ等のセロソルブ系溶媒、ヘキサン、ペンタン、ヘプタン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素系溶媒、トルエン、キシレン、ベンゼン等の芳香族炭化水素系溶媒、ピリジン、ピラジン、フラン、ピロール、チオフェン、メチルピロリドン等の芳香族複素環化合物系溶媒、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMA)等のアミド系溶媒、クロロベンゼン、ジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン等のハロゲン化合物系溶媒、酢酸エチル、酢酸メチル、ギ酸エチル等のエステル系溶媒、ジメチルスルホキシド(DMSO)、スルホラン等の硫黄化合物系溶媒、アセトニトリル、プロピオニトリル、アクリロニトリル等のニトリル系溶媒、ギ酸、酢酸、トリクロロ酢酸、トリフルオロ酢酸等の有機酸系溶媒のような各種有機溶媒、又は、これらを含む混合溶媒等が挙げられる。
なお、乾燥は、例えば、大気圧又は減圧雰囲気中での放置、加熱処理、不活性ガスの吹付け等により行うことができる。
【0105】
また、本工程に先立って、陽極3の上面には、酸素プラズマ処理を施すようにしてもよい。これにより、陽極3の上面に親液性を付与すること、陽極3の上面に付着する有機物を除去(洗浄)すること、陽極3の上面付近の仕事関数を調整すること等を行うことができる。
ここで、酸素プラズマ処理の条件としては、例えば、プラズマパワー100〜800W程度、酸素ガス流量50〜100mL/min程度、被処理部材(陽極3)の搬送速度0.5〜10mm/sec程度、基板2の温度70〜90℃程度とするのが好ましい。
【0106】
次に、正孔輸送層5上(陽極3の一方の面側)に、発光層6を形成する。
発光層6は、例えば、上述のホスト材料及びゲスト材料を溶媒に溶解又は分散媒に分散してなる発光層形成用材料を正孔輸送層5上に供給した後、乾燥(脱溶媒又は脱分散媒)することにより形成することができる。発光層形成用材料の供給方法及び乾燥の方法は、正孔注入層4及び正孔輸送層5の形成で説明したのと同様である。
【0107】
次に、必要に応じて、有機電子輸送材料形成用組成物を発光層6上に供給した後乾燥することにより、電子輸送層が得られる。有機電子輸送材料形成用組成物の供給方法および乾燥の方法は、正孔注入層4及び正孔輸送層5の形成で説明したのと同様であるため、詳しい説明を省略する。
【0108】
最後に、電子輸送層6上(有機発光層5と反対側)に、陰極7を形成する。
陰極7は、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法、金属箔の接合、金属微粒子インクの塗布および焼成等を用いて形成することができる。
最後に、得られた有機発光素子1を覆うように封止部材8を被せ、基板2に接合する。
以上のような工程を経て、有機電界発光素子1が得られる。
【0109】
以上のような製造方法によれば、有機層(正孔注入層4、正孔輸送層5、発光層6)の形成や、金属微粒子インクを使用する場合には陰極7の形成においても、真空装置等の大掛かりな設備を要しないため、有機発光素子1の製造時間および製造コストの削減を図ることができる。また、インクジェット法(液滴吐出法)を適用することで、大面積の素子の作製や多色の塗り分けが容易となる。
【0110】
なお、本実施の形態では、正孔注入層4及び正孔輸送層5を液相プロセスにより製造することとして説明したが、用いる正孔注入材料及び正孔輸送材料の種類に応じて、これらの層を真空蒸着法等の気相プロセスにより形成するようにしてもよい。
【0111】
このような有機電界発光素子1は、例えば光源等として使用することができる。また、複数の有機電界発光素子1をマトリックス状に配置することにより、ディスプレイ装置を構成することができる。
なお、ディスプレイ装置の駆動方式としては、特に限定されず、アクティブマトリックス方式、パッシブマトリックス方式のいずれであってもよい。
【0112】
有機電界発光素子1に供給される電気エネルギー源としては、主に直流電流であるが、パルス電流や交流電流を用いることも可能である。電流値及び電圧値は特に制限はないが、素子の消費電力、寿命を考慮するとできるだけ低いエネルギーで最大の輝度が得られるようにするべきである。
【0113】
ディスプレイ装置を構成する「マトリックス」とは、表示のための画素(ピクセル)が格子状に配置されたものをいい、画素の集合で文字や画像を表示する。画素の形状、サイズは用途によって決まる。例えばパーソナルコンピュータ、モニター、テレビの画像及び文字表示には、通常一辺が300μm以下の四角形の画素が用いられるし、表示パネルのような大型ディスプレイの場合は、一辺がmmオーダーの画素を用いることになる。モノクロ表示の場合は、同じ色の画素を配列すればよいが、カラー表示の場合には、赤、緑、青の画素を並べて表示させる。この場合、典型的にはデルタタイプとストライプタイプがある。そして、このマトリックスの駆動方法としては、パッシブマトリックス方式及びアクティブマトリックス方式のどちらでもよい。前者には、構造が簡単であるという利点があるが、動作特性を考慮した場合、後者のアクティブマトリックスの方が優れる場合があるので、これも用途によって使い分けることが必要である。
【0114】
有機電界発光素子1は、セグメントタイプの表示装置であってもよい。「セグメントタイプ」とは、予め決められた情報を表示するように所定形状のパターンを形成し、決められた領域を発光させることになる。例えば、デジタル時計や温度計における時刻や温度表示、オーディオ機器や電磁調理器等の動作状態表示、自動車のパネル表示などがあげられる。そして、前記マトリックス表示とセグメント表示は同じパネルの中に共存していてもよい。
【0115】
有機電界発光素子1は、自発光しない表示装置の視認性を向上させる目的に使用され、液晶表示装置、時計、オーディオ機器、自動車パネル、表示板、標識等に使用されるバックライトであってもよい。特に液晶表示装置、中でも薄型化が課題となっているパーソナルコンピュータ用途のバックライトとしては、蛍光灯や導光板からなる従来のものに比べ、薄型化、軽量化が可能になる。
【0116】
(2)有機電界発光材料
本発明の第2の実施の形態に係る有機電界発光材料は、下記の式(3)’、好ましくは下記の式(4)〜(15)のいずれかで表される構造を有するイリジウム錯体である。
【0117】
【化29】
【0118】
【化30】
【0119】
【化31】
【0120】
【化32】
【0121】
【化33】
【0122】
式(3)’において、L、L及びLは二座配位子であり、X、Y、X、Y、X及びYは、それぞれ、二座配位子L、L及びLの構成原子であり、それぞれ独立して炭素原子、酸素原子及び窒素原子からなる群より選択される配位原子であり、かつ、L、L及びLのうち1又は複数は下記の式(2)で表されるホスフィンオキシド基(1又は複数のいずれであってもよい。)を有している。
【0123】
【化34】
【0124】
式(2)においてAr及びArは、それぞれ独立して1又は複数の置換基を有していてもよいアリール基を表し、Ar及びArが結合することによりリン原子を含むヘテロ環を形成していてもよい。
【0125】
また、式(4)〜(15)において、R及びRのいずれか一方は上記の式(2)で表されるホスフィンオキシド基を表し、R及びRの他方、X及びXは、それぞれ独立して、水素原子及びフッ素原子からなる群より選択され、qは1、2及び3のいずれかの自然数を表し、R及びRは、それぞれ独立して、炭素数1以上12以下の直鎖又は分岐鎖アルキル基、直鎖又は分岐鎖フルオロアルキル基、アリール基及びヘテロアリール基からなる群より選択される官能基であり、Zは直接結合又は炭素数1以上12以下の直鎖アルキレン基である。
【0126】
これらのうち、特に好ましいのは、下記の式(4)’で表される構造(式(4)において、Rが2−ピリジル基のp−位に存在するジアリールホスフィンオキシド基であり、R、X及びXが水素原子であるものに相当する。)を有するイリジウム錯体である。
【0127】
【化35】
【0128】
また、式(4)’において、R、R及びRは、水素原子及び上記の式(2)で表されるホスフィンオキシド基のいずれかを表し、かつR、R及びRのうち少なくとも1つは上記の式(2)で表されるホスフィンオキシド基である。
【0129】
式(4)〜(15)で表されるイリジウム錯体中の、2−フェニルピリジン骨格又は1−フェニルイソキノリン骨格を有する配位子は、例えば、下記のスキーム1及びスキーム2のいずれかにしたがって合成できる。なお、スキーム1及び2では、2−フェニルピリジン骨格を有するものについて説明しているが、2−ブロモピリジンの代わりに1−クロロイソキノリンを用いることにより、1−フェニルイソキノリン骨格を有する配位子も合成できる。また、スキーム1において、ジフェニルホスフィン酸クロリドの代わりにジフェニルクロロホスフィンを用い、得られるホスフィン誘導体を過酸化水素等で酸化してホスフィンオキシド誘導体に変換してもよい。
【0130】
スキーム1
【0131】
【化36】
【0132】
スキーム2
【0133】
【化37】
【0134】
このようにして得られた配位子をIrCl・3HOと反応させると、塩素架橋型二核錯体が得られる。これを更に配位子と反応させると、目的のイリジウム錯体が得られる(スキーム3参照)。
【0135】
スキーム3
【0136】
【化38】
【0137】
或いは、塩素架橋型二核錯体を銀塩の存在下アセトニトリルと反応後、更に配位子と反応させてもよい(スキーム4参照)。
【0138】
スキーム4
【0139】
【化39】
【0140】
このようにして得られるイリジウム錯体には、下式に示すように、配位子の配座による2種類の異性体(メリディオナル体(mer−体)及フェイシャル体(fac−体))が存在する。これらの異性体の存在比は反応条件等に依存する。いずれの異性体もリン光発光を示すが、一般にfac−体の方が、発光寿命が長く量子収率も高い。そこで、両異性体の混合物が得られる場合に、紫外光照射等によりmer−体をfac−体に異性化させてもよい。
【0141】
【化40】
【0142】
式(8)で表されるイリジウム錯体の配位子である3−(ジフェニルホスホリル)イミダゾ[1,2−f]フェナントリジンは、スキーム5に示す方法で合成できる。上記スキーム3と同様の方法を用いて、この配位子からイリジウム錯体を合成することができるが、アセトニトリルの代わりにアセチルアセトン等のβ−ジケトンを用いてもよい。
【0143】
スキーム5
【0144】
【化41】
【0145】
式(10)で表されるイリジウム錯体の配位子であるヨウ化1−(3−(ジフェニルホスホリル)フェニル)−3−メチル−イミダゾリウムは、スキーム6に示す方法で合成できる。この配位子とIrClとを反応させることにより、目的のイリジウム錯体を合成できる(スキーム7参照)。
【0146】
スキーム6
【0147】
【化42】
【0148】
スキーム7
【0149】
【化43】
【0150】
式(12)、(14)、(15)で表されるイリジウム錯体は、スキーム3の前半で示した方法に従い合成される塩素架橋型二核錯体を、上記の一般式(19)で表されるβ−ジケトンと反応させることにより合成できる(スキーム8参照)。式(13)で表されるイリジウム錯体は、β−ジケトンの代わりにピコリン酸を用いる以外は同様の方法を用いて合成できる。
【0151】
スキーム8
【0152】
【化44】
【実施例】
【0153】
以下、本発明の効果を確認するために行った実施例について説明する。
ホスト材料の合成
使用したホスト材料(ホスフィンオキシド誘導体:上記の式A〜Qで表されるもの)のうち国際公開第2005/104628号パンフレットに記載のものは、同パンフレットに記載の方法にしたがい合成した。
【0154】
ゲスト材料の合成
[I][ビス(2−フェニルピリジナト−N,C2’)−モノ(2−(4−ジフェニルホスホリルフェニル)ピリジナト−N,C2’)]イリジウム(III)(Ir(ppy)2(pdppy))の合成
【0155】
(I−1)4−ブロモフェニルジフェニルホスフィンオキシド(pBrdppo)の合成
【0156】
【化45】
【0157】
マグネシウム2.16g(88.9mmol)にTHF 5mLを加え、0℃で1,4−ジブロモベンゼン22g(93.2mmol)のTHF溶液を滴下した。マグネシウムがなくなるまで撹拌し、THF40mLを加えさらに1時間撹拌した。0℃に冷却し、ジフェニルホスフィン酸クロリド15.7mL(84.5mmol)を滴下した。室温で一晩撹拌した。反応終了後、1N塩酸で加水分解した。ジクロロメタンで抽出し、有機層を硫酸マグネシウムで乾燥させた。有機層を濃縮し、充填剤シリカゲルのカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:ジクロロメタン/エタノール〉により精製した。この溶液を濃縮し、シクロヘキサンで再結晶した。FAB−MSによりm/z=357({M])を確認した。
収量:13.4g、収率:44.2%
【0158】
(I−2)2−[(4−ジフェニルホスホリル)フェニル]ピリジン(pdppy)の合成
【0159】
【化46】
【0160】
室温でpBrdppo(上記I−1で合成)4.28g(12mmol)のTHF(12mL)溶液にイソプロピルマグネシウムクロライド(iPrMgCl)(2Mジエチルエーテル溶液)7mL(14mmol)を滴下して、2時間撹拌した。[1,3−ビス(ジフェニルホスフィノ)プロパン]ジクロロニッケル(II)(Ni(dppp)Cl2)0.22g(0.4mmol)、2−ブロモピリジン1.55mL(16mmol)を加え、48時間環流した。反応終了後、飽和塩化アンモニウム水溶液を加え反応溶液をクエンチした。ジクロロメタンで2回抽出し、有機層に6N塩酸を加え、2回抽出した。水層を中和し、ジクロロメタンで抽出した。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥させた。溶液を濃縮し、充填剤シリカゲルのカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:ジクロロメタン/エタノール)により分離した。この溶液をエバボレーターにより濃縮し、シクロヘキサンで再結晶した。FAB−MSによりm/z=356([M+1])を確認した。
収量:2.04g、収率:47.9%
【0161】
(I−3)テトラキス(2−フェニルピリジナト−N,C2’)(μ−ジクロロ)ジイリジウム(III)([Ir(ppy)2Cl]2)の合成
【0162】
【化47】
【0163】
2−フェニルピリジン0.25g(1.6mmol)、塩化イリジウム0.23g(0.66mmol)に2−エトキシエタノール(10mL)、水3mLを加え、一晩環流させた。反応終了後、室温まで冷却し、水を加え生成物を沈殿させた。沈殿物をろ過した。FAB−MSによりm/z=536([M/2])、499([(M−Cl)/2−1])を確認した。
収量:0.32g、収率:90.1%
【0164】
(I−4)[ビス(2−フェニルピリジナト−N,C2’)−モノ(2−(4−ジフェニルホスホリルフェニル)ピリジナト−N,C2’)]イリジウム(III)(Ir(ppy)2(pdppy))の合成
【0165】
【化48】
【0166】
[Ir(ppy)2Cl]2(上記I−3で合成)0.54g(0.5mmol)、pdppy(上記I−2で合成)0.5g(1.4mmol)、炭酸カリウム0.34g(2,5mmol)、トリフルオロメタンスルホン酸銀0.32g(1.23mmol)にエチレングリコール13mLを加え一晩環流した。反応終了後、ジクロロメタンを加え、セライトを用いてろ過し、不純物を除いた。ろ液を濃縮し、充填剤シリカゲルのカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:ジクロロメタン/エタノール)で精製した。FAB−MSによりm/z=855([M])を確認した。
粗収量:0.27g、粗収率:31.8%
【0167】
[II][モノ(2−フェニルピリジナト−N,C2’)−ビス(2−(4−ジフェニルホスホリルフェニル)ピリジナト−N,C2’)]イリジウム(III)(Ir(ppy)(pdppy)2)の合成
【0168】
(II−1)テトラキス(2−(4−ジフェニルホスホリルフェニル)ピリジナト−N,C2’)(μ−ジクロロ)ジイリジウム(III)([Ir(pdppy)2Cl]2)の合成
【0169】
【化49】
【0170】
pdppy(上記I−2で合成)0.29g(0.82mmol)、塩化イリジウム0.12g(0.33mmol)に2−エトキシエタノール(5mL)、水1.5mLを加え、一晩環流させた。反応終了後、室温まで冷却し、水を加え生成物を沈殿させた。沈殿物をろ過した。FAB−MSによりm/z=937([M/2])、901([(M−Cl)/2])を確認した。
収量:0.28g、収率:90.6%
【0171】
(II−2)[モノ(2−フェニノレピリジナト−N,C2’)−ビス(2−(4−ジフェニルホスホリルフェニル)ピリジナト−N,C2’)]イリジウム(III)(Ir(ppy)(pdppy)2)の合成
【0172】
【化50】
【0173】
[Ir(pdppy)2Cl]2(上記II−1で合成)0.19g(0.1mmol)、2−フェニルピリジン0.04mL(0.28mmol)、炭酸力リウム0.076g(0.51mmol)トリフルオロメタンスルホン酸銀0.063g(0.25mmol)にエチレングリコール2.6mLを加え、一晩環流させた。反応終了後、冷却しクロロホルムを加え、セライトを用いてろ過し不純物を除いた。溶液を濃縮し、充填剤シリカゲルのカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:ジクロロメタン/エタノール)で目的物を分離した。FAB−MSにより1054([M−1])、1056([M+1])を確認した。
粗収量:0.13g、粗収率:61.9%
【0174】
[III][トリス(2−(4−ジフェニルホスホリルフェニル)ピリジナト−N,C2’)]イリジウム(III)(Ir(pdppy)3)の合成
【0175】
【化51】
【0176】
[Ir(pdppy)2Cl]2(上記II−1で合成)0.76g(0.406mmol)、pdppy(上記I−2で合成)0.41g(0.15mmol)、炭酸カリウム0.29g(2.09mmol)にエチレングリコール11mL加え、200℃で32時間撹拌した。反応終了後、ジクロロメタンを加え、セライトでろ過した。ろ液をエバボレーターにより濃縮し、充填剤シリカゲルのカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:ジクロロメタン/エタノール)により分離した。FAB−MSにより1257([M+2])を確認した。
粗収量:0.3g、粗収率:30%
【0177】
[IV][ビス(2−フェニルピリジナト−N,C2’)−モノ(2−(3−ジフェニルホスホリルフェニル)ピリジナト−N,C2’)]イリジウム(III)(Ir(ppy)2(mdppy)の合成
(IV−1)mdppyの合成(ジフェニルホスフィン酸クロリドを使った合成方法)
【0178】
(IV−1−1)3−ブロモジフェニルホスフィンオキシド(mBrdppo)の合成
【0179】
【化52】
【0180】
マグネシウム0.24g(10mmol)にTHF 0.6mLを加え、0℃で1,3−ジブロモベンゼン2.45g(10.4mmol)のTHF溶液を滴下した。マグネシウムがなくなるまで撹搾し、THF 4mLを加えさらに1時間撹拌した。0℃に冷却し、ジフェニルホスフィン酸クロリド1.83mL(9.5mmol)を滴下した。室混で一晩撹拌した。反応終了後、10%塩酸で加水分解した。ジクロロメタンで抽出し、有機層を硫酸マグネシウムで乾燥させた。溶液を濃縮し、充填剤シリカゲルのカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:ジクロロメタン/エタノール)により精製した。この溶液を濃縮し、シクロヘキサンで再結晶した。FAB−MSによりm/z=357([M])を確認した。
収量:0.82g、収率:23.0%
【0181】
(IV−1−2)2−[(3−ジフェニルホスホリル)フェニル]ピリジン(mdppy)の合成
【0182】
【化53】
【0183】
室温でmBrdppo(上記IV−1−1で合成)3.21g(9mmol)のTHF(9mL)溶液にiPrMgCl(2M ジエチルエーテル溶液)5.25mL(14mmol)を滴下して、2時間撹拌した。Ni(dppp)Cl2 0.16g(0.3mmol)、2−ブロモピリジン1.16mL(12mmol)を加え、48時間環流した。反応終了後、飽和塩化アンモニウム水溶液を加え、反応をクエンチした。ジクロロメタンで2回抽出し、有機層を6N塩酸で2回抽出した。水層を中和し、ジクロロメタンで抽出した。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥させた。エバポレーターで濃縮し、充填剤シリカゲルのカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:ジクロロメタン/エタノール)により精製した。この溶液をエバボレーターにより濃縮し、シクロヘキサンで再結晶した。FAB−MSによりm/z=356([M+1])を確認した。
収量:0.36g、収率:11.5%
【0184】
(IV−1’)mdppyの合成(クロロジフェニルホスフィンを使った合成方法)
(IV−1’−1)3−ブロモジフェニルホスフィンオキシド(mBrdppo)の合成
【0185】
【化54】
【0186】
マグネシウム2.16g(88.9mmol)にTHF 5mLを加え、0℃で1,3−ジブロモベンゼン17.5g(74.1mmol)のTHF溶液を滴下した。マグネシウムがなくなるまで撹拌し、THF40mLを加えさらに1時間撹拌した。0℃に冷却し、クロロジフェニルホスフィン15.7mL(84.5mmol)を滴下した、室温で一晩撹拌した。反応終了後、1N塩酸で加水分解した。ジクロロメタンで抽出し、有機層を硫酸マグネシウムで乾燥させた。エバボレーターで濃縮後、クロロホルム(アミレン添加品)に溶解させ、冷却しながら、30%過酸化水素水をゆっくり滴下し、一晩撹拌した。水で洗浄後、飽和亜硫酸水素ナトリウム水溶液で洗浄し、ジクロロメタンで抽出した。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥させ、溶液を濃縮した。充填剤シリカゲルのカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:ジクロロメタン/エタノール)により分離した。この溶液を濃縮し、シクロヘキサンで再結晶した。FAB−MSによりm/z=357([M])を確認した。
収量:4.84g、収率:18.3%
【0187】
(IV−1’−2)2−[(3−ジフェニルホスホリル)フェニル]ピリジン(mdppy)の合成
(IV−1−2)と同様の反応で合成した。
【0188】
(IV−1”)mdppyの合成(suzuikiカップリングによる合成方法)
(IV−1”−1)2−(3−ブロモフェニル)ピリジン(2(3BrPh)py)の合成
【0189】
【化55】
【0190】
2−ブロモピリジン1,82g(11.5mmol)、3−ブロモフェニルボロン酸1.54g(7.68mmol)、酢酸パラジウム(Pd(OAc)2)0.043g(0.19mmol)、炭酸カリウム2.93g(21.2mmol)、トリフェニルホスフィン0.20g(0.78mmol)に1,2−ジメトキシエタン16mL、水9.6mLを加え、一晩反応させた。反応終了後、ジクロロメタンで2回抽出し、次いで有機層に6N塩酸を加え2回抽出した。水層を中和して、ジクロロメタンで3回抽出した。エバポレーターで濃縮した。充填剤シリカゲルのカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:ジクロロメタン〉により精製した。溶液を濃縮した。FAB−MSによりm/z=235([M+1])を確認した。溶媒等含んでいると考えられるが、次の反応に使用した。
粗収量:1.88g、粗収率:104%
【0191】
(IV−1”−2)2−(3−ジフェニルホスホリル)ピリジン(mdppy)の合成
【0192】
【化56】
【0193】
2(3BrPh)Py(上記IV−1”−1で合成)1.8g(7.68mmol)、ジフェニルホスフィンオキシド1.86g(9.2mmol)、Pd(OAc)2 0.12g(0.54mmol)、1,3−ジフェニルホスフィノプロパン(DPPP)0.32g(0.77mmol)DMSO 19mLを加えて撹拌した。さらにN−エチルジイソプロピルアミン(DIEA)7.29mL(42.6mmol)を加えて、100℃で一晩反応させた。反応終了後、ジクロロメタンで有機層を抽出した。有機層に6N塩酸を加え2回抽出し、抽出した水層を中和して、ジクロロメタンで3回抽出した。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥させた。溶液を濃縮し、充填剤シリカゲルのカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:ジクロロメタン/エタノール)で分離し、シクロヘキサンで再結晶した。FAB−MSによりm/z=356([M+1])を確認した。
収量:0.77g、収率:28.3%
【0194】
(IV−2)[ビス(2−フェニルピリジナト−N,C2’)−モノ(2−(3−ジフェニルホスホリルフェニル)ピリジナト−N,C2’)]イリジウム(III)(Ir(ppy)2(mdppy))の合成
【0195】
【化57】
【0196】
[Ir(ppy)2Cl]2(上記I−3で合成)0.43g(0.4mmol)、mdppy(上記IV−1で合成)0.4g(1.1mmol)、炭酸カリウム0.29g(2.1mmol)にエチレングリコール1mLを加え一晩環流した。反応終了後、ジクロロメタンを加え、セライトを用いてろ過し、不純物を除いた。ろ液を濃縮し、充填剤シリカゲルのカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:ジクロロメタン/エタノール)で分離した。FAB−MSによりm/z=855([M])を確認した。
粗収量=0.33g、粗収率:48.5%
【0197】
[V]トリス[(1−(4−ジフェニルホスホリル)イソキノリナト−N,C2’)]イリジウム(III)(Ir(pdpiq)3)の合成
【0198】
(V−1)1−(4−ジフェニルホスフィンオキシド)イソキノリン(pdpiq)の合成
【0199】
【化58】
【0200】
室温で4−ブロモフェニルジフェニルホスフィンオキシド10.7g(30mmol)のTHF(30mL)溶液にiPrMgCl(2M ジエチルエーテル溶液)17mL(34mmol)滴下した。2時間撹拌した。1−クロロイソキノリン5.89g(36mmol)、Ni(dppp)Cl2 0.54g(1mmol)を加え、48h環流させた。反応終了後、飽和塩化アンモニウム水溶液で反応をクエンチした。ジクロロメタンで抽出し、有機層に6N塩酸を加え2回抽出した。水層を中和し、ジクロロメタンで抽出した。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥させ、濃縮した。充填剤シリカゲルのカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:ジクロロメタン/エタノール)にて精製した。FAB−MSによりm/z=406([M]+を確認した。シクロヘキサンで再結晶した。
収量:2.30g、収率:18.8%
【0201】
(V−2)テトラキス(1−(4−ジフェニルホスホリル)イソキノリナト−N,C2’)(μ−ジクロロ)ジイリジウム(III)([Ir(pdpiq)2Cl]2)の合成
【0202】
【化59】
【0203】
pdpiq(上記V−1で合成)1.3g(3.2mmol)、塩化イリジウム0.42g(1.2mmol)に2−エトキシエタノール20mL、水6mLを加え、撹拌しながら一晩環流させた。反応終了後、室温まで冷却し水を加え生成物を沈殿させた。沈殿物をろ取し、水で洗浄し、乾燥させた。
収量:1.24g、収率:100%
【0204】
(V−3)ビス(アセトニトリル)ビス[(1−(4−ジフェニルホスホリル)イソキノリナト−N,C2’)]イリジウム(III)テトラフルオロボレート(Ir(dppiq)2(CH3CN)2BF4)の合成
【0205】
【化60】
【0206】
[Ir(dpiq)2Cl]2(上記V−2で合成)1.24g(0.60mmol)、テトラフルオロホウ酸銀0.26g(1.35mmol)にアセトニトリル34mLを加えて6時間環流させた。反応終了後、ろ過により白色沈殿物を取り除き、溶液をエバボレーターで濃縮した。
収量:1.37g、収率=98.6%
【0207】
(V−4)トリス[(1−(4−ジフェニルホスホリル)イソキノリナト−N,C2’)]イリジウム(III)(Ir(pdpiq)3)の合成
【0208】
【化61】
【0209】
[Ir(piq)2(CH3CN)2]BF4(上記V−3で合成)1.33g(1.14mmol)、pdpiq(上記V−1で合成)1.38g(3,4mmol)にプロピレングリコール40mLを加え160℃で反応させた。反応終了後、ジクロロメタンで抽出し、有機層を硫酸マグネシウムで乾燥させた。溶液をエバボレーターで濃縮し、充填剤シリカゲルのカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:ジクロロメタン/エタノール)で精製した。FAB−MSによりm/z=1408([M+3])を確認した。
粗収量:1.25g、粗収率:78.1%
【0210】
[VI]トリス[(1−(3−ジフェニルホスホリル)イソキノリナト−N,C2’)]イリジウム(III)(Ir(mdpiq)3)の合成
【0211】
(VI−1)1−(3−ブロモフェニル)イソキノリン(mBrpiq)の合成
【0212】
【化62】
【0213】
3−ブロモフェニルボロン酸1.83g(15mmol)、1−クロロイソキノリン3.69g(22.5mmol)にトルエン15mL、エタノール75mLおよび2M炭酸ナトリウム水溶液15mLを加えアルゴン雰囲気下で撹拌した。Pd(PPh3)4 0.63g(0.55mmol)を加え、一晩環流撹拌した。反応終了後、室温まで冷却し、水、トルエンを加えて抽出した。有機層を食塩水で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥させた。充填剤シリカゲルのカラムクロマトグラフィー(展開溶媒;ジクロロメタン)で精製した。FAB−MSによりm/z=206([M])を確認した。
粗収量:3.04g、粗収率:71.4%
【0214】
(VI−2)1−(3−ジフェニルホスホリルフェニル)イソキノリン(mdpiq)の合成
【0215】
【化63】
【0216】
mBrpiq(上記VI−1で合成)0.85g(3mmol)、DPPO 1g(4.9mmol)、Pd(OAc)2 0.054g(0.24mmol)、DPPP 0.16g(0.39mmol)にDMSO 9mLを加えて撹拌した。さらにDIEA 2.24mL(13.1mmol)を入れて一晩環流させた。反応終了後、ジクロロメタンで抽出した。有機層に6N塩酸を加え、2回抽出した。水層を中和し、ジクロロメタンで抽出し、有機層を硫酸マグネシウムで乾燥させ、エバボレーターで濃縮した。FAB−MSよりm/z=406([M])を確認した。
粗収量::1.11g、粗収率:91.0%
【0217】
(VI−3)テトラキス(1−(3−ジフェニルホスホリル)イソキノリナト−N,C2’)(μ−ジクロロ)ジイリジウム(III)([Ir(mdpiq)2Cl]2)の合成
【0218】
【化64】
【0219】
mdpiq(上記VI−2で合成)0.75g(1.85mmol)、塩化イリジウム0.21g(0.6mmol)に2−エトキシエタノール10mL、水3mLを加えて一晩環流させた。反応終了後、水を加え沈殿物を生成させた。沈殿物をろ取した。FAB−MSより目的物の生成を確認した(m/z=1001([(M−Cl)/2]))。
収量:0.56g、収率:90.8%
【0220】
(VI−4)ビス(アセトニトリル)ビス「(2−(3−ジフェニルホスフィノフェニル)イソキノリナト−N,C2’)」イリジウム(III)テトラブルオロボレート(Ir(mdpiq)2(CH3CN)2BF4)の合成
【0221】
【化65】
【0222】
[Ir(mdpiq)2Cl]2(上記VI−3で合成)0.56g(0.27mmol)、テトラフルオロホウ酸銀0.12g(0.62mmol)にアセトニトリル15mLを加えて4時間環流した。冷却後、ろ過により溶けない白色沈殿物を除去した。ろ液をエバボレーターで濃縮した。
溶媒を含んだ状態であり、収率は100%を超えたが、収率100%と仮定して次の反応に使用した。
【0223】
(VI−5)トリス[(1−(3−ジフェニルホスホリル)イソキノリナト−N,C2’)]イリジウム(III)(Ir(mdpiq)3)の合成
【0224】
【化66】
【0225】
Ir(mdpiq)2(CH3CN)2BF4(上記VI−4で合成)0.63g(0.54mmol)、mdpiq(上記VI−2で合成)0.64g(1.6mmol)にプロピレングリコール17mLを加え5時間環流させた。反応終了後、ジクロロメタンで抽出した。エバボレーターで濃縮し、充填剤シリカゲルのカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:ジクロロメタン/エタノール)で精製した。FAB−MSによりm/z=1409([M+4])を確認した。
粗収量:0.65g、粗収率:85.6%
【0226】
[VII][(ビス(2−(4−ジフェニルホスフィノフェニル)ピリジナトN,C2’)−モノ(1−フェニルイソキノリナトN,C2’))イリジウム(Ir(pdppy)2(piq))の合成
【0227】
(VII−1)1−フェニルイソキノリンの合成
【0228】
【化67】
【0229】
フェニルボロン酸1.83g(15mmol)、1−クロロイソキノリン2.44g(15mmol)にトルエン15mL、エタノール7.5mLおよび2M NaCO水溶液15mLを加えアルゴン雰囲気下で撹拌した。Pd(PPh3)4 0.59g(0.51mmol)を加え、一晩環流撹拌した、反応終了後、室温まで冷却し、水、トルエンを加えて抽出した。有機層を食塩水で洗浄し、有機層を硫酸マグネシウムで乾燥させた。充填剤シリカゲルのカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:ジクロロメタン)で精製した。FAB−MSにより
m/z=206([M])を確認した。
収量:2.59g、収率:84.1%
【0230】
(VII−2)テトラキス(2−(4−ジフェニルホスホリルフェニル)ピリジナト−N,C2’)(μ−ジクロロ)ジイリジウム(III)([Ir(pdppy)2Cl]2)の合成
【0231】
【化68】
【0232】
pdppy(上記I−2で合成)0.4g(1,13mmol)、塩化イリジウム水和物0.16g(0.46mmol)に2−エトキシエタノール6.8mL、水2mLを加え、一晩撹拌しながら環流して反応させた。反応終了後、水を加え生成した沈殿物をろ取し、水で洗浄した。
FAB−MSにより目的物の生成を確認した(m/z=901([(M−Cl)/2])、937([M/2]))。
収量:0.42g、収率:98.5%
【0233】
(VII−3)ビス(アセトニトリル)ビス[(2−(4−ジフェニルホスフィノフェニル)ピリジナト−N,C2’)]イリジウム(III)テトラフルオロボレート(Ir(pdppy)2(CH3CN)2BF4)の合成
【0234】
【化69】
【0235】
[Ir(pdppy)2Cl]2(上記VII−2で合成)0.21g(0.12mmol)、テトラフルオロホウ酸銀0.05g(0.26mmol)にアセトニトリル7mLを加えて4時間環流した。冷却後、溶けない白色沈殿物をろ過により除去した。ろ液をエバポレーターで濃縮した,FAB−MSによりm/z=901([M−BF−2CHCN])、942([M−BF−CHCN])を確認した。
【0236】
(VII−4)[(ビス(2−(4−ジフェニルホスフィノフェニル)ピリジナトN,C2’)−モノ(1−フェニルイソキノリナトN,C2’))イリジウム(Ir(pdppy)2(piq))の合成
【0237】
【化70】
【0238】
Ir(pdppy)2(CH3CN)2BF4(上記VII−3で合成)0.16g(0.15mmol)、1−フェニルイソキノリン(上記VII−1で合成)0.09g(0,43mmol)にプロピレングリコール5mLを加えて160℃で反応させた。反応終了後、ジクロロメタンで抽出し、有機層を硫酸マグネシウムで乾燥させた。溶液を濃縮し、充填剤シリカゲルのカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:ジクロロメタン/エタノール)で精製した。FAB−MSによりm/z=1105(「M])を確認した。
粗収量:60mg、粗収率=24.0%
【0239】
(3)fac−体への異性化条件の検討
上記の(2)の[I]において合成したIr(ppy)2(pdppy)を用いて、紫外光照射によるmer−体のfac−体への異性化の条件について検討した。逆相HPLC(YMC−Pack ODS−AQ:φ50×500mm、HO:MeOH=20:80)により異性化前のfac−:mer−比を求めたところ、45:55であった。これを種々の溶媒に溶解し、高圧水銀灯(オーク製作所 HANDY UV 500:500W)で照射したところ、溶媒としてTHFを用い(57.2mg/40mL)、3時間照射したところ、完全にfac−体に異性化したことが逆相HPLC分析により確認された。
【0240】
[VIII][ビス(2−(4−ジフェニルホスホリルフェニル)ピリジナト−N,C2’)(アセチルアセトナト)]イリジウム(III)(Ir(pdppy)2(acac))の合成
【0241】
【化71】
【0242】
[Ir(pdppy)2Cl]2(上記II−1で合成)1.05g(1.13mmol)、アセチルアセトン1.8mL(18mmol)、炭酸ナトリウム0.72g(6.8mmol)に2−エトキシエタノール18mLを加え、80℃で1.5時間加熱撹拌した。反応終了後、ジクロロメタンで抽出し、さらに水層をジクロロメタンで抽出した。有機層をあわせて硫酸マグネシウムで乾燥させた。濃縮後、シリカゲルのカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:ジクロロメタン/エタノール)で精製した。トルエン/エタノールで再結晶した。収量:0.178g、収率:26.6%
【0243】
[IX][ビス(1−(4−(ジフェニルホスホリル)フェニル)イソキノリナト−N,C2’)(アセチルアセトナト)]イリジウム(III)(Ir(pdpiq)2(acac))の合成
【0244】
【化72】
【0245】
[Ir(pdpiq)2Cl]2(上記V−2で合成)0.3g(0.15mmol)、アセチルアセトン 0.08mL(0.8mmol)、炭酸ナトリウム0.32g(3.0mmol)を入れ、さらに2−エトキシエタノール8mLを加え、一時間室温でかくはんし一晩加熱反応させた。反応終了後、室温まで冷却しジクロロメタンで抽出した。さらに水層をジクロロメタンで抽出し、有機層をあわせて飽和塩化ナトリウム水溶液で洗浄した。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥させ、エバポレーターで濃縮した。シリカゲルのカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:ジクロロメタン/エタノール)で精製した。FAB−MSよりm/z=1101([M+1])を確認した。粗収量:0.15g、粗収率:45.5%
【0246】
[X][ビス(1−(4−(ジフェニルホスホリル)フェニル)イソキノリナト−N,C2’)(2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオナト)]イリジウム(III)(Ir(pdpiq)2(TMHD))の合成
【0247】
【化73】
【0248】
[Ir(pdpiq)2Cl]2(上記V−2で合成)0.3g(0.15mmol)、2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオン0.16mL(0.8mmol)、炭酸ナトリウム 0.32g(3.0mmol)を入れ、さらに2−エトキシエタノール8mLを加え、一時間室温でかくはんし、一晩加熱反応させた。反応終了後、室温まで冷却しジクロロメタンで抽出した。さらに水層をジクロロメタンで抽出し、有機層をあわせて飽和塩化ナトリウム水溶液で洗浄した。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥させ、エバポレーターで濃縮した。シリカゲルのカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:ジクロロメタン/エタノール)で精製した。FAB−MSによりm/z=1184([M])を確認した。粗収量:0.39g、粗収率:109%
【0249】
[XI][ビス(1−(4−(ジフェニルホスホリル)フェニル)イソキノリナト−N,C2’)(1,3−ジフェニル−1,3−プロパンジオナト)]イリジウム(III)(Ir(pdpiq)2(DBM))の合成
【0250】
【化74】
【0251】
[Ir(pdpiq)2Cl]2(上記V−2で合成)0.3g(0.15mmol)、1,3−ジフェニル−1,3−プロパンジオン0.18g(0.8mmol)、炭酸ナトリウム0.32g(3.0mmol)を入れ、さらに2−エトキシエタノール8mLを加え、一時間室温でかくはんし、一晩加熱反応させた。反応終了後、室温まで冷却しジクロロメタンで抽出した。さらに水層をジクロロメタンで抽出し、有機層をあわせて飽和塩化ナトリウム水溶液で洗浄した。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥させ、エバポレーターで濃縮した。シリカゲルのカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:ジクロロメタン/エタノール)で精製した。FAB−MSによりm/z=1225([M+1])を確認した。粗収量:0.24g、粗収率:65.4%
【0252】
[XII][ビス(1−(4−(ジフェニルホスホリル)フェニル)イソキノリナト−N,C2’)(1,3−ジフェニル−1,3−プロパンジオナト)]イリジウム(III)(Ir(pdpiq)2(TFA))の合成
【0253】
【化75】
【0254】
[Ir(pdpiq)2Cl]2(上記V−2で合成)0.3g(0.15mmol)、トリフルオロアセチルアセトン0.096mL(0.8mmol)、炭酸ナトリウム0.32g(3.0mmol)を入れ、2−エトキシエタノール8mLを加え、一時間室温でかくはんし、一晩加熱反応させた。反応終了後、室温まで冷却しジクロロメタンで抽出した。さらに水層をジクロロメタンで抽出し、有機層をあわせて飽和塩化ナトリウム水溶液で洗浄した。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥させ、エバポレーターで濃縮した。シリカゲルのカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:ジクロロメタン/エタノール)で精製した。FAB−MSによりm/z=1155([M+1])を確認した。粗収量:0.23g、粗収率:66.5%
【0255】
[XIII][トリス(3−ジフェニルホスホリルフェニルイミダゾ[1,2−f]フェナントリジナト−N,C2’)]イリジウム(III)Ir(3dpoipt)3の合成
【0256】
[XIII-1]フェナントリジン−6−アミンの合成
【0257】
【化76】
【0258】
2−ヨードアニリン3.42g(15.6mmol)、2−シアノフェニルボロン酸ピナコールエステル431g(18.8mmol)、ジクロロビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム0.56g(0.8mmol)、リン酸三カリウム一水和物7.39g(32mmol)にトルエン65mLを加えて4時間還流させた。室温に冷却すると沈殿が生成したのでろ別した。沈殿物をトルエン、水で洗浄した。FAB−MSよりm/z=195([M+1])を確認した。粗収量:2.21g、粗収率:73%
【0259】
[XII−2]イミダゾ[1,2−f]フェナントリジンの合成
【0260】
【化77】
【0261】
フェナントリジン−6−アミン(上記XIII−1で合成)2.2g(11.3mmol)、クロロアセトアルデヒド1.96g(10mmol)、炭酸ナトリウム1.76g(16.6mol)に2−プロパノール33mLを加えて80℃で2時間攪拌した。反応終了後溶媒をエバポレーターにより取り除き、残渣をジクロロメタンで抽出した。充填剤シリカゲルのカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:ジクロロメタン/エタノール)で精製した。FAB−MSよりm/z=219([M+1])を確認した。
粗収量:1.29g、粗収率:52.4%
【0262】
[XIII−3]3−(ジフェニルホスホリル)フェニルイミダゾ[1,2−f]フェナントリジン(3dpoipt)の合成
【0263】
【化78】
【0264】
−80℃以下、アルゴン雰囲気下でイミダゾ[1,2−f]イミダゾフェナントリジン2.09g(9.6mmol)(上記XIII−2で合成)にTHF20mLを入れた。n−ブチルリチウム(1.6Mヘキサン溶液)14.5mL(23.2mmol)をゆっくり滴下して3時間かくはんした。ジフェニルホスフィン酸クロリド5.68g (24mmol)を滴下して1時間かくはんした。ゆっくりと室温に戻し、一晩かくはんした。反応終了後、飽和塩化アンモニウム水溶液を加えた。ジクロロメタンで抽出し、有機層を硫酸マグネシウムで乾燥させ、エバポレーターで濃縮した。FAB−MSによりm/z=419([M+1])を確認した。充填剤シリカゲルのカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:ジクロロメタン/エタノール)で精製した。少量のジクロロメタンで洗浄した。収量:3.18g、収率:79.1%
【0265】
[XIII−4][テトラキス(3−(ジフェニルホスホリル)フェニルイミダゾ[1,2−f]フェナントリジナト−N,C2’)](m−ジクロロ)ジイリジウム(III)([Ir(3dpoipt)2Cl]2)
【0266】
【化79】
【0267】
3dpoipt(上記XIII−3で合成)1.67g(4mmol)、塩化イリジウム水和物 0.53g(1.5mmol)に2−エトキシエタノール25mL、水7.5mLを加えて一晩還流させた。反応終了後、室温まで冷却し、生成した沈殿物をろ取し、水で洗浄した。FAB−MSによりm/z=1027([(M−Cl)/2])、1062([M/2−1])を確認した。粗収量:1.18g、粗収率:37%
【0268】
[XIII−5]ビス[(3−(ジフェニルホスホリル)フェニルイミダゾ[1,2−f]フェナントリジナト−N,C2’)](アセチルアセトナト)イリジウム(III)(Ir(3dpoipt)2(acac))の合成
【0269】
【化80】
【0270】
[Ir(3dpoipt)2Cl]2(上記XIII−4で合成)0.79g(0.33mmol)、アセチルアセトン0.18mL(1.8mmol)、炭酸ナトリウム0.73g(6.8mmol)に2−エトキシエタノール18mLを入れて80℃で1.5h加熱かくはんした。反応終了後、メタノールを加えて生成した沈殿をろ別し(ろ液1)、この沈殿をさらに水で洗浄した(沈殿)。FAB−MSにより、ろ液1および沈殿に目的物が含まれることを確認した(m/z=1127([M+1]))。ろ液と沈殿をあわせて、充填剤シリカゲルのカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:ジクロロメタン/エタノール)により精製した。収量:0.56g、収率:76%
【0271】
[XIII−6][トリス(3−ジフェニルホスホリルフェニルイミダゾ[1,2−f]フェナントリジナト−N,C2’)]イリジウム(III)(Ir(3dpoipt)3の合成)
【0272】
【化81】
【0273】
Ir(3dpoipt)2(acac) (上記XIII−5で合成)0.56g(0.50mmol)、3dpoipt 0.69g(1.65mmol)にエチレングリコール40mLを加え、150℃で1時間、さらに170℃で2.5時間加熱かくはんした。反応終了後、ジクロロメタン/水で抽出し、有機層を硫酸マグネシウムで乾燥させた。有機層をエバポレーターで濃縮し、FAB−MSによりm/z=1446([M+2])、1447([M+3])を確認した。充填剤シリカゲルのカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:ジクロロメタン/エタノール)で精製した。粗収量:0.69g、粗収率:96%
【0274】
[XIV][トリス(1−(3−ジフェニルホスホリル)−3−メチル−ベンズイミダゾレン−C,C2’)]イリジウム(III)(Ir(mdpopmbiz)3)の合成
【0275】
[XIV−1]3−ジフェニルホスホリルフルオロベンゼン(mFDPPOPh)の合成
【0276】
【化82】
【0277】
Mg 1.10g(45.3mmol)にTHF20mL加え、0℃に冷却して3−ブロモフルオロベンゼン5.1mL(46.6mmol)のTHF(20mL)溶液を滴下した。Mgがほとんどなくなったところで、1時間室温でかくはんした。0℃に冷却してジフェニルホスフィン酸クロライド7.58mL(42.3mmol)を滴下した。その後、室温で一晩かくはんした。反応終了後、1N HClで加水分解した。ジクロロメタンで抽出し、有機層を硫酸マグネシウムで乾燥させた。エバポレーターで濃縮した。生成物をクロロホルム(アミレン添加品)40mLに溶解させ、冷却しながら30%過酸化水素4.5mL(45mmol)を加えて、室温で3時間かくはんした。反応終了後、水で洗浄し、さらに飽和亜硫酸ナトリウム水溶液で洗浄した。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥させ、エバポレーターで濃縮した。シクロヘキサン/メタノールで再結晶した。FAB−MSによりm/z=297([M+1])を確認した。
収量:9.8g、収率:78.4%
【0278】
[XIV−2]1−(3−(ジフェニルホスフィノ)フェニル)−ベンズイミダゾール(mdpophbiz)の合成
【0279】
【化83】
【0280】
アルゴン雰囲気下、ベンズイミダゾール2.37g(20.1mmol)、水素化ナトリウム(55%パラフィン)1.06g(24.3mmol)、DMF100mLを加え、10分かくはんした。さらに、mFDPPOPh(上記XIV−1で合成)5.93g(20.0mmol)を加え、100℃で18.5時間加熱かくはんした。その後、水素化ナトリウム 0.48g(11.0mmol)加え、130℃で一晩反応させた。反応終了後、室温に冷却し氷に投入した。ジクロロメタンで抽出し、有機層に飽和塩化アンモニウム水溶液を加え、ジクロロメタンで2回抽出した。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥させ、エバポレーターで濃縮した。シリカゲルのカラムクロマトグラフィーで精製した(展開溶媒:ジクロロメタン/エタノール)。FAB−MSよりm/z=395([M−1])を確認した。シクロヘキサン、エタノールで再結晶した。収量:2.82g、収率:35.6%
【0281】
[XIV−3]ヨウ化1−(3−(ジフェニルホスホリル)フェニル)−3−メチル−ベンズイミダゾリウム(mdpophbiz-I)の合成
【0282】
【化84】
【0283】
mdpophbiz(上記XIV−2で合成)2.82g(7.11mmol)にTHF40mL加え、60℃に加熱し溶解させた。ヨウ化メチル2.29mL(2.29mL)加え室温で一晩かくはんした。エバポレーターで濃縮し、シリカゲルのカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:ジクロロメタン/エタノール/メタノール)で精製した。FAB−MSよりm/z=409([M−I−1])を確認した。粗収量:1.36g、粗収率:35.7%
【0284】
[XIV−4][トリス(1−(3−(ジフェニルホスホリル)フェニル)−3−メチル−ベンズイミダゾレン−C,C2’)]イリジウム(Ir(mdpophbiz)3)の合成
【0285】
【化85】
【0286】
Mdpophbiz-I(上記XIV−3で合成)2.15g(4.00mmol)、塩化イリジウム0.33g(1.1mmol)、酸化銀0.93g(3.98mmol)に2−エトキシエタノール84mLを加え、アルミホイルで遮光し120℃で24時間反応させた。反応終了後、エバポレーターで溶媒を乾固させ、ジクロロメタンを加えた。セライトで不溶物をろ別し、ろ液をエバポレーターで濃縮した。充填剤シリカゲルのカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:ジクロロメタン/エタノール)により精製した。FAB−MSによりm/z=1416([M+2])を確認した。粗収量:0.22g、粗収率:14.2%
【0287】
[XV][トリス(1−(3−(ジフェニルホスホリル)フェニル)−3−メチル−イミダゾレン−C,C2’)]イリジウム(III) Ir(mdpopmiz)3の合成
【0288】
[XV−1]3−ジフェニルホスホリルフルオロベンゼン(mFDPPOPh)の合成
【0289】
【化86】
【0290】
Mg 1.10g(45.3mmol)にTHF20mL加え、0℃に冷却して3−ブロモフルオロベンゼン5.1mL(46.6mmol)のTHF(20mL)溶液を滴下した。Mgがほとんどなくなったところで、1時間室温でかくはんした。0℃に冷却してジフェニルホスフィンクロライド7.58mL(42.3mmol)を滴下した。その後、室温で一晩かくはんした。反応終了後、1N HClで加水分解した。ジクロロメタンで抽出し、有機層を硫酸マグネシウムで乾燥させた。エバポレーターで濃縮した。生成物をクロロホルム(アミレン添加品)40mLに溶解させ、冷却しながら30%過酸化水素4.5mL(45mmol)を加えて、室温で3時間かくはんした。反応終了後、水で洗浄し、さらに飽和亜硫酸ナトリウム水溶液で洗浄した。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥させ、エバポレーターで濃縮した。シクロヘキサン/メタノールで再結晶した。FAB−MSによりm/z=297([M+1])を確認した。収量:9.8g、収率:78.4%
【0291】
[XV−2]1−(3−(ジフェニルホスホリル)フェニル)−イミダゾールの合成
【0292】
【化87】
【0293】
アルゴン雰囲気下、イミダゾール0.13g(2.00mmol)のDMF(10mL)溶液に水素化ナトリウム(60%パラフィン)0.097g(2.42mmol)を加え、10分かくはんした。さらに、mFDPPOPh(上記XV−1で合成)0.60g(2.02mmol)を加え、120℃で5時間加熱かくはんした。反応終了後、水を加えジクロロメタンで抽出した。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥させ、濃縮した。ASAP−TOF−MSによりm/z=345([M+1])を確認した。シリカゲルのカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:ジクロロメタン/エタノール)で精製した。粗収量:0.53g、粗収率:51.5%
【0294】
[XV−3]ヨウ化1−(3−(ジフェニルホスホリル)フェニル)−3−メチル−イミダゾリウムの合成
【0295】
【化88】
【0296】
アルゴン雰囲気下、THF(4mL)中の1−(3−ジフェニルホスホリル)−ベンズイミダゾール(上記XV−2で合成)0.5g(1.26mmol)にヨードメタン0.36mL(5.9mmol)を加え、室温で16時間かくはんした。反応終了後、溶媒を濃縮し、シリカゲルのカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:ジクロロメタン/エタノール/メタノール)で精製した。粗収量:0.67g、粗収率:95.7%
【0297】
[XV−4][トリス(1−(3−(ジフェニルホスホリル)フェニル)−3−メチル−イミダゾレン−C,C2’)]イリジウム(Ir(mdpophbiz)3)の合成
【0298】
【化89】
【0299】
ヨウ化1−(3−(ジフェニルホスホリル)フェニル)−3−メチル−イミダゾリウム(上記XV−3で合成)0.67g、塩化イリジウム0.12g(0.38mmol)、酸化銀(I)0.33g(1.38mmol)に2−エトキシエタノール(29mL)をいれ、遮光して120℃で22時間かくはんした。反応終了後、室温に戻してジクロロメタンを加え、セライトでろ過した。ろ液を濃縮し、シリカゲルのカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:ジクロロメタン/エタノール)で精製した。FAB−MSにより目的物の生成を確認した(m/z=1265([M−4])、907([M−ligand]))。
【0300】
(4)積層型有機EL素子(有機電界発光素子)の製造
ITO基板は、三容真空製のもの(膜厚80nm)を使用した。基板洗浄に用いる2−プロパノールは関東化学製の電子工業用を用い、電子輸送層の成膜に用いるアルコール類は関東化学製、発光層の成膜に用いるトルエンは関東化学製の電子工業用を用いた。正孔注入材料としては、PEDOT−PSS(H.C.Starck製の、AI4083)を原液のまま用いた。正孔輸送材料としては、ポリ(N−ビニルカルバゾール)(PVK、Aldrich社製)をトルエン溶液(5g/L又は10g/L)として用いた。発光層に用いるホスト材料としては、上記の式Fで表されるホスフィンオキシド誘導体を用い、ゲスト材料としては、上記の(2)で合成した各種イリジウム錯体を用いた。ゲスト材料はホスト材料の8.7重量%添加し、総濃度が10g/L又は15g/Lの2−プロパノール溶液を作製した。
【0301】
ITO基板の前処理として、2−プロパノール中で5分間煮沸洗浄し、その後すぐにUV/O処理装置に入れ、15分間UV光照射によりO処理を行った。PEDOT−PSS及びPVK及び発光層は酸素濃度が1〜3ppmのN雰囲気下(グローブボックス内)でMIKASA製のスピンコーターを用いて形成後、N雰囲気下又は真空中で乾燥した。
【0302】
陰極(Al、純度99.999%)及び電子輸送層(LiF)の蒸着には、チャンバー圧8×10−4Paの高真空蒸着装置を用いた。蒸着速度は、LiFについては0.1Å/s、Alについては10Å/sとした。全ての素子においてN雰囲気下で封止を行った。陰極の成膜が完了後、素子を窒素置換したグローブボックス(九州計測器製、露点−60〜−70℃、酸素濃度5ppm以下)内に直ちに移動し、乾燥剤Oledry(14μL)を塗布したガラスキャップで素子を封止した。
【0303】
素子構造は、陰極と発光層の間に電子輸送層を設けたこと以外は全て図1に示すものとした。各層の膜厚は下記のとおりである。
陽極:ITO(80nm)
正孔注入層:PEDOT−PSS(50nm)
正孔輸送層:PVK(15nm又は30nm)
発光層:(40nm又は70nm)
電子輸送層:LiF(0.2nm)
陰極:Al(100nm)
【0304】
(5)素子及び材料特性の評価
各ゲスト材料の発光特性(量子収率)については、相対蛍光量子収率は、溶液中での紫外可視吸収スペクトルおよび蛍光スペクトルを測定し、Φp=1とされる9,10−ジフェニルアントラセンを標準に用いて相対蛍光量子収率(Φp)を見積もった。なお、リン光は、酸素により消光するため、酸素を脱気するために、5分間アルゴンでバブリング後、スペクトルを測定した。
作製したEL素子の電圧−電流−輝度特性はADVANTEST製DC電圧電流電源・モニター(TR6143)を用いて0Vから20Vまで電圧を印加して0.2Vステップ毎電流値を測定した。ELスペクトルは浜松ホトニクス製マルチチャンネル分光測定器(C7473)の分光検出器を用いて測定した。
【0305】
電流効率η[cd/A]の測定には、有機EL発光効率測定装置を使用した。
500cd/m換算寿命の測定にはアペックス製の装置を使用し、50mA/mの定電流連続駆動により測定した。全て1.5乗則(下式参照)を用い500cd/mに換算した駆動時間により、初期輝度の1/2に達した半減時間により比較した。
【0306】
1.5乗則:T=(L/L)1.5×T
(式中、L:初期輝度[cd/m]、L:換算輝度[cd/m]、T:輝度半減時の実測時間、T:半減時間である。)
【0307】
9,10−ジフェニルアントラセンに対する相対量子収率は、Ir(ppy)2(pdppy)、Ir(ppy)(pdppy)2、Ir(pdppy)3についてそれぞれ0.35、0.44、0.47であった。ホスフィンオキシド基を有しないIr(ppy)3についても同様に相対量子収率を見積もったところ0.40という値が得られた。嵩高いホスフィンオキシド基の数が増加するにつれ、分子の会合が抑制されることに伴い、相対量子収率が増大していることが確認された。
【0308】
下記の実施例1〜13(使用したホスト化合物、ゲスト化合物、金属化合物及びそれらの濃度は以下に示すとおりである。)についての電流効率η、500cd/m換算寿命(ホスフィンオキシド基を含まないIr(ppy)3をゲスト化合物として使用した実施例11に対する相対寿命)及び発光色の測定結果は、下記の表1に示すとおりであった。なお、実施例13において使用したゲスト化合物C545Tの構造式は下記に示すとおりである。
【0309】
【化90】
【0310】
【表1】
【0311】
イリジウム錯体以外のもの(実施例8、13)やホスフィンオキシド基を有しないもの(実施例11〜13)を含む全てのゲスト材料を用いた有機EL素子について、リン光性色素として有機EL素子に用いられているIr(ppy)3(実施例11)を用いた有機EL素子と同等以上の電流効率及び寿命が観測された。特に、ゲスト材料としてIr(ppy)2(pdppy)を用いた有機EL素子(実施例1)について電流効率ηを測定したところ、最大で67cd/Aという値が得られた。これは、ゲスト材料の会合が抑制され、発光層の内部でもゲスト材料の分散性が高く、濃度消光の抑制やキャリア輸送効率が向上していることに起因すると考えられる。
また、発光層にLi(acac)、Ba(acac)2等の金属化合物を添加すると、耐久性が向上することが確認された(実施例1、2及び3、4参照。)。
【符号の説明】
【0312】
1 有機電界発光素子
2 基板
3 陽極
4 正孔注入層
5 正孔輸送層
6 発光層
7 陰極
8 封止部材
図1