特許第5722242号(P5722242)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5722242
(24)【登録日】2015年4月3日
(45)【発行日】2015年5月20日
(54)【発明の名称】放射性物質の除染方法及び除染装置
(51)【国際特許分類】
   G21F 9/28 20060101AFI20150430BHJP
   G21F 9/12 20060101ALI20150430BHJP
【FI】
   G21F9/28 531A
   G21F9/12 501F
   G21F9/28 501B
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-6330(P2012-6330)
(22)【出願日】2012年1月16日
(65)【公開番号】特開2013-145203(P2013-145203A)
(43)【公開日】2013年7月25日
【審査請求日】2013年12月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】000233044
【氏名又は名称】株式会社日立パワーソリューションズ
(74)【代理人】
【識別番号】110001829
【氏名又は名称】特許業務法人開知国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100077816
【弁理士】
【氏名又は名称】春日 讓
(74)【代理人】
【識別番号】100156524
【弁理士】
【氏名又は名称】猪野木 雄一
(72)【発明者】
【氏名】登澤 大介
(72)【発明者】
【氏名】水落 晃
【審査官】 藤本 加代子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−172364(JP,A)
【文献】 特開平04−219103(JP,A)
【文献】 特開2000−075095(JP,A)
【文献】 特開平05−087983(JP,A)
【文献】 特開2002−267795(JP,A)
【文献】 特表2011−512531(JP,A)
【文献】 実開昭61−046300(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21F 9/28
G21F 9/12
E04G 23/02
B08B 3/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原子力関連設備の構造物の各室における放射性物質の除染方法において、
ゼオライト粒子と洗浄液とからなるブラスト媒体を圧縮空気によりノズルから前記各室の汚染面に吹き付けて、又は、前記洗浄液と前記圧縮空気とからなる圧縮洗浄液に前記ゼオライト粒子を混合させて生成するブラスト媒体を前記ノズルから前記各室の汚染面に吹き付けて、前記放射性物質を前記ブラスト媒体と共に前記各室の床面に落下させる洗浄手順と、
前記洗浄手順により、前記各室の前記床面に落下した前記ブラスト媒体と前記放射性物質とを一定時間滞留させて、前記洗浄水から前記放射性物質を前記ゼオライト粒子へ付着させる放射性物質移行手順と、
前記放射性物質移行手順により、前記放射性物質を吸着した前記ゼオライト粒子を回収する回収手順とを備え、
前記洗浄手順において、洗浄開始前に前記各室の雰囲気の放射線量を測定し、前記各室の雰囲気の放射線量に応じて洗浄時間を設定する
ことを特徴とする放射性物質の除染方法。
【請求項2】
請求項1に記載の放射性物質の除染方法において、
前記放射性物質移行手順経過後に、前記洗浄水を前記原子力関連設備の廃水ピットへ排出する排出手順をさらに備えた
ことを特徴とする放射性物質の除染方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の放射性物質の除染方法において、
前記放射性物質移行手順において、前記各室の前記床面に落下した前記ブラスト媒体と前記放射性物質とを滞留させる放射性物質移行時間は、予め実験したゼオライト粒子に移行したセシウムの割合の特性から設定される
ことを特徴とする放射性物質の除染方法。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の放射性物質の除染方法において、
前記洗浄手順において、洗浄開始前に前記各室の雰囲気の放射線量を測定し、前記各室の雰囲気の放射線量に応じて前記ゼオライト粒子と前記洗浄液との量を設定する
ことを特徴とする放射性物質の除染方法。
【請求項5】
原子力関連設備の構造物の各室における放射性物質を除染する除染装置において、
ゼオライト粒子と洗浄液とを混合したブラスト媒体を移送するブラスト媒体供給部と、
前記ブラスト媒体供給部に圧縮空気を供給する加圧空気供給部と、
前記ブラスト媒体供給部からのブラスト媒体を前記原子力関連設備の構造物の各室の雰囲気の放射線量に応じて予め定めた洗浄時間に従って汚染面に向けて吹き付ける噴出ノズルと、
前記噴出ノズルを支持すると共に、前記噴出ノズルの噴出方向を全方位に可変制御する噴出ノズル支持部とを備えた
ことを特徴とする放射性物質の除染装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子力関連設備の構造物における放射性物質の除染方法及び除染装置に関する。
【背景技術】
【0002】
原子力関連設備等で発生する放射性物質付着体の表面の除染を実施する除染方法及び装置として、放射性物質付着表面に対して、ゼオライト粒子と加圧空気との混合流体を吹き付けて放射性物質を研削し、研削した放射性物質をゼオライト粒子に付着させながら回収し、回収したゼオライト粒子を放射性物質の吸着剤として再利用するものがある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平5−87983号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
原子力関連設備の一つである原子力発電設備の構造物は、建設期間短縮のために、モジュール化されている場合が多い。このようにモジュール化された原子力発電設備の構造物内の各室には、配管類や機器等が配置されていて、煩雑な内部空間を形成している。
【0005】
ところで、原子力発電設備においては、何らかの要因により、原子炉格納容器の熱除去機能を喪失した場合、原子炉格納容器の除熱ができないために、原子炉格納容器内の温度と圧力が上昇し、原子炉格納容器が破損することもあり得る。
【0006】
このような原子炉格納容器の破損が生じると、原子力発電設備の構造物内の全体が放射性物質に汚染される。原子力発電設備の復旧のためには、原子力発電設備の構造物内の除染が重要な道標になる。
【0007】
上述した特許文献1に記載された除染方法の場合、洗浄水の使用を省略して、放射性物質付着表面をゼオライト粒子で研削するため、原子力発電設備の構造物内の各室のように広範囲で煩雑な除染対象に対しては、かえって、粉塵態様の放射性物質を拡散させてしまい良好な除染が得られないという憾みがある。
【0008】
本発明は、上述の事柄に基づいてなされたもので、その目的は、原子力関連設備の構造物内の各室のように広範囲で煩雑な内部空間が汚染された場合において、放射性物質を効率良く除染することのできる除染方法及び除染装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、第1の発明は、原子力関連設備の構造物の各室における
放射性物質の除染方法において、ゼオライト粒子と洗浄液とからなるブラスト媒体を圧縮
空気によりノズルから前記各室の汚染面に吹き付けて、又は、前記洗浄液と前記圧縮空気
とからなる圧縮洗浄液に前記ゼオライト粒子を混合させて生成するブラスト媒体を前記ノ
ズルから前記各室の汚染面に吹き付けて、前記放射性物質を前記ブラスト媒体と共に前記
各室の床面に落下させる洗浄手順と、前記洗浄手順により、前記各室の前記床面に落下し
た前記ブラスト媒体と前記放射性物質とを一定時間滞留させて、前記洗浄水から前記放射
性物質を前記ゼオライト粒子へ付着させる放射性物質移行手順と、前記放射性物質移行手
順により、前記放射性物質を吸着した前記ゼオライト粒子を回収する回収手順とを備え、
前記洗浄手順において、洗浄開始前に前記各室の雰囲気の放射線量を測定し、前記各室の雰囲気の放射線量に応じて洗浄時間を設定するものとする。
【0010】
また、第2の発明は、第1の発明において、前記放射性物質移行手順経過後に、前記洗浄水を前記原子力関連設備の廃水ピットへ排出する排出手順をさらに備えたことを特徴とする。
【0011】
更に、第3の発明は、第1又は第2の発明において、前記放射性物質移行手順において、前記各室の前記床面に落下した前記ブラスト媒体と前記放射性物質とを滞留させる放射性物質移行時間は、予め実験したゼオライト粒子に移行したセシウムの割合の特性から設定されることを特徴とする。
【0012】
また、第4の発明は、第1乃至第3の発明のいずれかにおいて、前記洗浄手順において、洗浄開始前に前記各室の雰囲気の放射線量を測定し、前記各室の雰囲気の放射線量に応じて前記ゼオライト粒子と前記洗浄液との量を設定することを特徴とする。
【0013】
更に、第5の発明は、原子力関連設備の構造物の各室における放射性物質を除染する除
染装置において、ゼオライト粒子と洗浄液とを混合したブラスト媒体を移送するブラスト
媒体供給部と、前記ブラスト媒体供給部に圧縮空気を供給する加圧空気供給部と、前記ブ
ラスト媒体供給部からのブラスト媒体を前記原子力関連設備の構造物の各室の雰囲気の放射線量に応じて予め定めた洗浄時間に従って汚染面に向けて吹き付ける噴出ノズルと、前記噴出ノズルを支持すると共に、前記噴出ノズルの噴出方向を全方位に可変制御する噴出ノズル支持部とを備えたものとする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、放射性物質を吸着する性質を有するゼオライト粒子と洗浄液とでブラスト媒体を形成し、このブラスト媒体によって原子力関連設備の構造物内の各室の汚染面を洗浄し、床部に汚染した洗浄水とゼオライト粒子とを一定時間滞留させて、汚染した洗浄液中の放射性物質をゼオライト粒子に吸着させるので、広範囲で煩雑な内部空間が汚染された場合においても、放射性物質を効率良く除染することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の放射性物質の除染方法及び除染装置の一実施の形態を適用した原子力関連設備の構造物内の各室の一例を示す斜視図である。
図2】本発明の放射性物質の除染方法及び除染装置の一実施の形態において、洗浄終了直後の状態を示す原子力関連設備の構造物内の各室の正面図である。
図3】本発明の放射性物質の除染方法及び除染装置の一実施の形態において、洗浄後であって放射性物質移行時間経過後の状態を示す原子力関連設備の構造物内の各室の正面図である。
図4】本発明の放射性物質の除染方法及び除染装置の一実施の形態において、除染終了後の状態を示す原子力関連設備の構造物内の各室の正面図である。
図5】本発明の放射性物質の除染方法及び除染装置の一実施の形態における除染方法の手順を示すフローチャート図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の放射性物質の除染方法及び除染装置の実施の形態を図面を用いて説明する。図1は本発明の放射性物質の除染方法及び除染装置の一実施の形態を適用した原子力発電設備の構造物内の各室の一例を示す斜視図である。なお、以下では原子力関連設備の一つである原子力発電設備の構造物への適用を例に用いて説明する。
【0018】
図1において、原子力発電設備の構造物内の各室1は、天井部1Aと、床部1Bと、側壁部1Cとを備えている。天井部1Aと床部1Bと側壁部1Cとには、後述する配管類やケーブルコンジットが貫通する孔等が穿設されている。また、床部1Bには、図示しない廃水ピットに連通する排水孔1Baが設けられている。本実施の形態においては、この排水孔1Baを蓋部材Xで塞いでいる。
【0019】
蓋部材Xは、後述する洗浄水の排出を防ぐ蓋部Xaと、蓋部Xaを開放した後に洗浄水を廃水ピットへ排出する際に、後述するゼオライト粒子を残留させ洗浄水中の油分と放射性物質を濾過するフィルター部Xbとを備えている。
【0020】
各室1において、左側の側壁部1Cの前方には、床部1Bと天井部1Aとを貫通する原子力発電設備の大口径配管2a,2bが配設されている。また、正面側の側壁部1Cの前方には、左側の側壁部1Cから導入されて、床部1Bから各室1の外側へ導出される原子力発電設備の小口径配管3a〜3dが配設されている。
【0021】
更に、右側の側壁部1Cの前方には、原子力発電設備の制御盤4a〜4cが配設されていて、各制御盤4a〜4cの上部からは、天井部1Aに向けてケーブルコンジットが配設されている。また、左側の側壁部1Cには、電源盤4dが固設されていて、電源盤4dの上部からは、天井部1Aに向けてケーブルコンジットが配設されている。
【0022】
本実施の形態は、このような広範囲で煩雑な各室1の内部における機器類や側壁部1C,天井部1A等が、全面的に汚染された場合に、これらの表面に付着した放射性物質を効率良く除染できる除染方法及びこれに用いる除染装置に関するものである。
【0023】
まず除染装置5について説明する。図1において、除染装置5は、ゼオライト粒子21と洗浄液22とを混合したブラスト媒体20を各室1の汚染面に吹き付け、放射性物質を剥離して洗浄するいわゆるブラスト装置で構成している。除染装置5は、ブラスト媒体供給部5Aと加圧空気供給部5Bと噴出ノズル支持部5Cとを備えている。
【0024】
ブラスト媒体供給部5Aは、タンク6とタンク6の下部に設けたブラスト媒体供給装置7とを備えている。ブラスト媒体供給部5Aは、ブラスト媒体供給装置7の下部に設けた4つの車輪8aにより、移動可能となっている。
【0025】
タンク6には、ブラスト媒体20を構成するゼオライト粒子21と洗浄液22とが貯留されている。ゼオライト粒子21と洗浄水22とは、タンク6の上部から供給し、タンク6内で混合される。タンク6の下部には、ブラスト媒体20をブラスト媒体供給装置7へ移送するホッパ形状の供給口(図示せず)が設けられている。タンク6において、適正なブラスト媒体20を生成するために、ゼオライト粒子21の供給量と洗浄液22の供給量とは、あらかじめ実験等により好適な値を決定し、この値に設定している。
【0026】
ブラスト媒体供給装置7は、加圧空気供給部5Bからの圧縮空気配管30が接続される圧縮空気供給口7aと、ブラスト媒体20を噴出ノズル支持部5Cに供給するホース9が接続されるブラスト媒体噴出口7bと、圧縮空気供給口7aとブラスト媒体噴出口7bとの間に設けられ、ブラスト媒体20を圧送するブラスト媒体圧送部7cとを備えている。
【0027】
ブラスト媒体圧送部7cは、例えば、圧縮空気供給口7aとブラスト媒体噴出口7bとに両端が連通し、中間部において、タンク6からのブラスト媒体20が供給される供給口と連通する管路において、内部にスクリュー部材が設けられているものであっても良い。このスクリュー部材は、加圧空気供給部5Bからの圧縮空気により回転駆動され、供給口から供給されるブラスト媒体20を効果的に混合し、加圧空気供給部5Bからの圧縮空気によりブラスト媒体噴出口7bから噴出ノズル支持部5Cにホース9を介して圧送する。
【0028】
なお、ブラスト媒体供給部5Aにおいて、タンク6を2つに区分し、ゼオライト粒子21と洗浄液22とを独立して貯蔵し、ブラスト媒体圧送部7cで、圧縮空気と洗浄液22とからなる圧縮洗浄液を生成し、この圧縮洗浄液にゼオライト粒子21を混合させてブラスト媒体20を生成しても良い。
【0029】
加圧空気供給部5Bは、例えば、台車に載置されたエアコンプレッサ11であって、台車に設けた4つの車輪8bにより、移動可能となっている。エアコンプレッサ11は、吐出口に圧縮空気配管30が接続されていて、この圧縮空気配管30を介してブラスト媒体供給装置7に圧縮空気を供給する。
【0030】
噴出ノズル支持部5Cは、ブラスト媒体供給部5Aから供給されたブラスト媒体20を各室1の汚染面に吹き付ける噴出ノズル10と、噴出ノズル10を支持する伸縮可能な棒状の支持部材12と、支持部材12の軸方向長さを可変する支持部材伸縮制御手段13と、支持部材12の先端側に回動可能に設けられ、支持部材12の軸方向に対して噴出ノズル10の噴出方向の水平/垂直角度を可変する噴出ノズル噴出角制御手段14と、支持部材12の基端側に回動可能に設けられ、各室1の床面1Bに対する支持部材12の俯仰角度を可変する支持部材俯仰角制御手段15と、台車の上部に設けられ、支持部材俯仰角制御手段15が載置される旋回部材16と、旋回部材16を旋回させることで、噴出ノズル10の噴出方向を水平の全方位に可変する旋回角制御手段17とを備えている。噴出ノズル支持部5Cは、台車に設けた4つの車輪8cにより、移動可能となっている。
【0031】
次に、本実施の形態における除染装置5を使用した除染方法の概略を説明する。
除染装置5は、図1に示すように、各室1の略中央に配置された後、タンク6でゼオライト粒子21と洗浄液22とを混合してブラスト媒体20を生成し、ブラスト媒体20を圧縮空気でホース9中を輸送させ、噴出ノズル10から各室1に配置される機器と各室1の全汚染面に吹き付ける。したがって、ブラスト媒体20は、高速でこれらの放射性物質付着面に投射されることで洗浄を行う。
【0032】
また、汚染装置5は、噴出ノズル支持部5Cの支持部材伸縮制御手段13と噴出ノズル噴出角制御手段14と支持部材俯仰角制御手段15と旋回角制御手段17とを備えているので、噴出ノズル10の噴出方向を全方位に可変制御して、各室1の全汚染面を洗浄できる。さらに、ブラスト媒体20は、ゼオライト粒子21と洗浄液22とからなるので、汚染面の研削による粉塵の発生を抑制すると共に、放射性物質を研削して剥離することで洗浄できる。
【0033】
なお、洗浄開始前には、各室1の雰囲気の放射線量を測定器で測定し、この雰囲気の放射線量を基に予め実験等により定めた洗浄時間に従って、洗浄を実施する。また、洗浄の終了は、各室1に配置される機器と各室1の全汚染面から放射性物質が床部1Bに剥離落下したことにより終了する。具体的には、各室1に配置される機器と各室1の全汚染面の汚染度を例えばカメラ等によって確認すること、または洗浄後の雰囲気の放射線量を計測することで、判断しても良い。
【0034】
各室1に配置される機器と各室1の全汚染面への除染装置5によるブラスト媒体20の洗浄終了後の除染方法について図面を用いて説明する。図2は本発明の放射性物質の除染方法及び除染装置の一実施の形態において、洗浄終了直後の状態を示す原子力関連設備の構造物内の各室の正面図、図3は本発明の放射性物質の除染方法及び除染装置の一実施の形態において、洗浄後であって放射性物質移行時間経過後の状態を示す原子力関連設備の構造物内の各室の正面図、図4は本発明の放射性物質の除染方法及び除染装置の一実施の形態において、除染終了後の状態を示す原子力関連設備の構造物内の各室の正面図である。図2乃至図4において、図1に示す符号と同符号のものは同一部分であるので、その詳細な説明は省略する。
【0035】
除染装置5による汚染面の洗浄終了直後には、図2に示すように、床部1Bにゼオライト粒子21と汚染した洗浄液22aとゼオライト粒子21により研削された研磨かす23とが滞留する。この汚染した洗浄液22aには、多くの放射性物質が含まれている。
【0036】
本実施の形態においては、このような汚染した洗浄液22aとゼオライト粒子21とを一定時間滞留させる放射性物質移行時間を設けることで、ゼオライト粒子21が汚染した洗浄液22a中の放射性物質を吸着することを特徴とする。
【0037】
図3は、放射性物質移行時間経過後の状態を示している。ゼオライト粒子21は、放射性セシウムを吸着するセシウム吸着性を有しているため、汚染した洗浄液22a中の放射性セシウムは、ゼオライト粒子21に移行している。移行後のゼオライト粒子を21aで、放射性セシウムが除去された汚染した洗浄液を22bでそれぞれ示している。ここで、放射性物質移行時間は、例えば、ゼオライト粒子21と汚染した洗浄液22aの滞留時間と、ゼオライト粒子21に移行した放射性セシウムの割合とを予めセシウムの安定同位体を用いた実験で得られた結果等により把握することで、設定される。
【0038】
放射性物質移行時間経過後、ゼオライト粒子21a等の回収を行う。具体的には、床部1Bの排水孔1Baを塞いでいる蓋部材Xの蓋部Xaを取り除く。このことにより、洗浄液22bは、蓋部材Xのフィルター部Xbと排水孔1Baとを介して廃水ピット等へ排出される。蓋部材Xのフィルター部Xbは、洗浄液22b中の油分と放射性物質を濾過し、ゼオライト粒子21aを残留させる。
【0039】
洗浄液22bの排出後に、床部1Bに残留しているゼオライト粒子21aや研磨かす23等を例えば真空掃除機等で回収して、各室1の外に搬出する。この結果、各室1の雰囲気線量も低下する。除染作業終了後の各室1の状態を図4に示す。
【0040】
次に、上述した本発明の放射性物質の除染方法及び除染装置の一実施の形態による除染方法を図5を用いて説明する。図5は、本発明の放射性物質の除染方法及び除染装置の一実施の形態における除染方法の手順を示すフローチャート図である。図5において、図1乃至図4に示す符号と同符号のものは同一部分であるので、その詳細な説明は省略する。
【0041】
まず、図5に示すように、ステップ(S1)では、除染装置5を各室1に配置する。具体的には、図1に示すように、各室1の略中央に除染装置5の噴出ノズル支持部5Cを配置すると共に、床部1Bの排水孔1Baを蓋部材Xで塞ぐ。
【0042】
ステップ(S2)では、各室1の雰囲気の線量を測定する。この各室1の雰囲気の線量を基に、除染装置5の洗浄時間を設定する。具体的には、各室1の汚染面の表面積が例えば設計図からわかるので、各室1の雰囲気の線量から単位表面積あたりの洗浄時間と全汚染面を洗浄する洗浄時間とが決定できる。また、予め実験等により、時間あたりのブラスト媒体20の噴射量とブラスト媒体20を構成するゼオライト粒子21と洗浄液22との混合比率とを設定しておく。このことにより、各室1の雰囲気の線量と除染したい汚染面の表面積とがわかれば、除染装置5のタンク6に供給するゼオライト粒子20と洗浄水22の量とが決定できる。
【0043】
ステップ(S3)において、除染装置5による洗浄を開始する。除染装置5は、噴出ノズル10の噴出方向を全方位に可変制御して、ブラスト媒体20を吹き付け各室1の全汚染面を洗浄する。除染装置5による汚染面の洗浄終了直後には、図2に示すように、床部1Bにゼオライト粒子21と汚染した洗浄液22aとゼオライト粒子21により研削された研磨かす23とが滞留する。この汚染した洗浄液22aには、多くの放射性物質が含まれている。
【0044】
ステップ(S4)において、除染装置5は、洗浄経過時間が設定時間以上か否かの判断を行う。洗浄経過時間が設定時間未満の場合には、ステップ(S4)に戻り、洗浄経過時間が設定時間以上であれば、ステップ(S5)へ進む。
【0045】
ステップ(S5)において、除染装置5は、設定時間経過後洗浄を停止する。この後、全汚染面からの放射性物質の剥離落下を確認するために、汚染面の放射線量として各室1の雰囲気の放射線量を測定器で測定する。
【0046】
ステップ(S6)において、除染装置5は、汚染面の放射線量としての各室1の雰囲気の放射線量が設定値以下か否かの判断を行う。汚染面の放射線量が設定値超過の場合には、ステップ(S3)に戻り、汚染面の放射線量が設定値以下の場合には、ステップ(S7)へ進む。
【0047】
ステップ(S7)において、除染装置5は、洗浄を終了とする。除染装置5は、洗浄終了と共に、汚染された洗浄水22aからゼオライト粒子21への放射性セシウムの移行時間の計測を開始する。
【0048】
ステップ(S8)において、除染装置5は、放射性物質移行経過時間が設定時間以上か否かの判断を行う。放射性物質移行経過時間が設定時間未満の場合には、ステップ(S8)に戻り、放射性物質移行経過時間が設定時間以上であれば、ステップ(S9)へ進む。このように、汚染した洗浄液22aとゼオライト粒子21とを一定時間滞留させる放射性物質移行時間を設けることで、ゼオライト粒子21が汚染した洗浄液22a中の放射性物質を吸着する。
【0049】
ステップ(S9)において、床部1Bに滞留した汚染された洗浄水22bの排出を行う。具体的には、図4に示すように、床部1Bの排水孔1Baを塞いでいる蓋部材Xの蓋部Xaを取り除く。このことにより、洗浄液22bは、蓋部材Xのフィルター部Xbにより液中の油分と放射性物質が濾過され、排水孔1Baを介して廃水ピット等へ排出される。また、ゼオライト粒子21aは、床部1Bに残留する。
【0050】
ステップ(S10)において、ゼオライト粒子21a等を回収する。具体的には、洗浄液22bの排出後に、床部1Bに残留しているゼオライト粒子21aや研磨かす23等を例えば真空掃除機等で回収して、各室1の外に搬出する。
【0051】
ステップ(S11)において、除染装置5を各室1の外に搬出する。
【0052】
上述した本発明の放射性物質の除染方法及び除染装置の一実施の形態によれば、放射性物質を吸着する性質を有するゼオライト粒子21と洗浄液22とでブラスト媒体20を形成し、原子力発電設備の構造物内の各室1の汚染面を洗浄し、床部1Bに汚染した洗浄水22aとゼオライト粒子21とを一定時間滞留させて、汚染した洗浄液中22aの放射性物質をゼオライト粒子21に吸着させるので、広範囲で煩雑な内部空間が汚染された場合においても、放射性物質を効率良く除染することができる。
【0053】
また、上述した本発明の放射性物質の除染方法及び除染装置の一実施の形態によれば、ゼオライト粒子21を研削材と吸着剤として用いているので、汚染面の研削性と放射性物質の吸着性の両面において、優れた性能を確保できる。この結果、効率良く除染することができる。また、吸着剤としてのゼオライト粒子21は、粒状部材であるため、放射性物質移行時間経過後におけるゼオライト粒子21の回収効率を高めることができる。
【0054】
なお、本実施の形態においては、洗浄終了して放射性物質移行時間経過後に汚染した洗浄水22bを廃水ピットへ排出する場合を例に説明したが、これに限るものではない。例えば、放射性物質移行時間経過後に汚染した洗浄水22bを回収し、他の汚染水除染装置でさらに除染しても良い。
【0055】
また、本実施の形態においては、洗浄終了後に汚染した洗浄水22bの排出が必要となる程度の割合で、ゼオライト粒子21と洗浄水22とを混合してブラスト媒体20を生成しているが、これに限るものではない。例えば、ゼオライト粒子21が十分に湿潤する程度に洗浄水22を混合しても良い。この場合、除染方法において、汚染した洗浄水22bの排出が不要となり、廃棄物(汚染した洗浄水)の取り扱いが簡易になる。
【0056】
さらに、本実施の形態においては、除染装置5を各室1の略中央に1台配置する場合を例に説明したが、これに限るものではない。例えば、複数台の除染装置5を配置しても良いし、除染装置5に自走機能を設け、遠隔操作することで、各室1の各汚染面に近接可能としても良い。
【符号の説明】
【0057】
1 原子力関連設備の構造物内の各室
1A 天井部
1B 床部
1Ba 排水孔
1C 側壁部
2A 大口径配管
2B 大口径配管
3a 小口径配管
4a 制御盤
4d 電源盤
5 除染装置
5A ブラスト媒体供給部
5B 加圧空気供給部
5C 噴出ノズル支持部
6 タンク
7 ブラスト媒体供給装置
9 ホース
10 噴出ノズル
11 エアコンプレッサ
12 支持部材
13 支持部材伸縮制御手段
14 噴出ノズル噴出角制御手段
15 支持部材俯仰角制御手段
16 旋回部材
17 旋回角制御手段
20 ブラスト媒体
21 ゼオライト粒子
22 洗浄液
X 蓋部材
図1
図2
図3
図4
図5