特許第5722286号(P5722286)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5722286
(24)【登録日】2015年4月3日
(45)【発行日】2015年5月20日
(54)【発明の名称】保湿用水性組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/34 20060101AFI20150430BHJP
   A61K 8/73 20060101ALI20150430BHJP
   A61K 8/365 20060101ALI20150430BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20150430BHJP
【FI】
   A61K8/34
   A61K8/73
   A61K8/365
   A61Q19/00
【請求項の数】3
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2012-179980(P2012-179980)
(22)【出願日】2012年8月15日
(65)【公開番号】特開2014-37363(P2014-37363A)
(43)【公開日】2014年2月27日
【審査請求日】2013年9月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】512162580
【氏名又は名称】有限会社ネオインベント
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100139262
【弁理士】
【氏名又は名称】中嶋 和昭
(74)【代理人】
【識別番号】100109449
【弁理士】
【氏名又は名称】毛受 隆典
(74)【代理人】
【識別番号】100138955
【弁理士】
【氏名又は名称】末次 渉
(72)【発明者】
【氏名】原口 修治
【審査官】 松本 直子
(56)【参考文献】
【文献】 特表2006−509718(JP,A)
【文献】 特開2007−230943(JP,A)
【文献】 特開2010−105980(JP,A)
【文献】 特開2005−053841(JP,A)
【文献】 特開2010−195706(JP,A)
【文献】 登録実用新案第3052982(JP,U)
【文献】 特開2011−093833(JP,A)
【文献】 特開平08−291042(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00− 8/99
A61Q 1/00− 90/00
CAplus(STN)
Mintel GNPD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水100重量部に対し、
50〜200重量部のグリセリンと、
1〜10重量部のカルボキシメチルセルロース塩と、
1〜10重量部の水溶性デンプンまたはその誘導体と、
0.001〜5重量部のクエン酸を含み、
カルボキシメチルセルロース塩および水溶性デンプンまたはその誘導体を混合後グリセリンに加え、40℃以下で加熱処理した後、得られた混合物をクエン酸の水溶液と均一になるまで混合することにより得られることを特徴とする保湿用水性組成物。
【請求項2】
手の保湿用であることを特徴とする請求項1記載の保湿用水性組成物。
【請求項3】
前記水溶性デンプンまたはその誘導体が馬鈴薯デンプンであることを特徴とする請求項1または2記載の保湿用水性組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、手の保湿用等の用途に好適に用いることができる保湿用水性組成物の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚や毛髪に対して保湿効果を期待した保湿化粧料は、数多く市販されている。それらのうち、ハンドクリーム等の多くの製品には各種油脂分が基材として配合されており、水仕事等で失われる皮脂の代わりに皮膚のバリア機能を確保したり、皮膚の表面に油脂による保護被膜を形成したりすることにより皮膚表面からの水分の蒸散を抑制することで、保湿機能を発揮している。しかし、このような油性基材を含む保湿化粧料は、塗布後に食品に触ることができないため、炊事等の水仕事が全て終わってからでないと手入れができない欠点があり、家事を行う者にとって、ひび割れや肌荒れの発生を未然に防ぐために利用できないという欠点があった。
【0003】
油脂を含まないか、油脂の含有量が小さい水性の保湿化粧料も市販されている。このような保湿化粧料の多くには、優れた保水性および吸水性を有する種々の水溶性多価アルコールが配合されている。しかしながら、これらの水溶性多価アルコールを配合した保湿化粧料は、ベタツキのある重い感触のため使用感や感覚面で好ましくなく、保湿効果の持続性も弱いという欠点があった。
【0004】
上記課題の解決策として、水溶性多価アルコールとしてより高分子量のものを用いるものが知られている。例えば、特許文献1には、グリセリンのプロピレンオキサイド付加物を用いる皮膚洗浄料組成物が開示されている。また、特許文献2には、末端水酸基数が4〜12又は水酸基価から算出した平均重合度2〜10のポリグリセリンに、アルキレンオキサイド4〜25モルを付加重合したポリエーテル化合物の1種又は2種以上を、0.1〜30.0重量%含有する保湿化粧料が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−208456号公報
【特許文献2】特開2006−131520号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1記載の皮膚洗浄料組成物は、メーク落とし等を目的とするものであり、保湿を目的とするものではない。また、特許文献2記載の保湿化粧料に含まれるポリエーテル化合物は、経口毒性は低いものの、合成高分子であるため、炊事等の前に肌荒れを予防する目的で使用することについては躊躇われる上、使用者の体質によっては、アレルギーの発症等も懸念される。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、調理等の食品に触れる作業の前にも使用でき、高い安全性と保湿性とを併せ持つ保湿用水性組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、下記の保湿用水性組成物を提供するものである。
[1] 水100重量部に対し、50〜200重量部のグリセリンと、1〜10重量部のカルボキシメチルセルロース塩と、1〜10重量部の水溶性デンプンまたはその誘導体と、0.001〜5重量部のクエン酸を含み、カルボキシメチルセルロース塩および水溶性デンプンまたはその誘導体を混合後グリセリンに加え、40℃以下で加熱処理した後、得られた混合物をクエン酸の水溶液と均一になるまで混合することにより得られる保湿用水性組成物。
[2] 手の保湿用である上記[1]記載の保湿用水性組成物
[3] 前記水溶性デンプンまたはその誘導体が馬鈴薯デンプンである上記[1]または2]記載の保湿用水性組成物
【発明の効果】
【0009】
本発明の保湿用水性組成物は、天然物に由来するカルボキシメチルセルロース塩および水溶性デンプンまたはその誘導体を保湿成分として含み、油脂や合成高分子を含まないため、安全性が高く、食品等に触れる前にも安心して使用できると共に、アレルギーの発症のおそれも低いという利点を有している。
【発明を実施するための形態】
【0010】
続いて、本発明を具体化した実施の形態につき説明し、本発明の理解に供する。
【0011】
本発明の一実施の形態に係る保湿用水性組成物(以下、「組成物」と略称する場合がある。)は、水100重量部に対し、50〜200重量部のグリセリンと、1〜10重量部のカルボキシメチルセルロース塩と、1〜10重量部の水溶性デンプンまたはその誘導体と、0.001〜5重量部のクエン酸を含んでいる。
【0012】
組成物の製造に用いられる水の起源、種類等は、化粧料の製造に使用可能な品質を有する限りにおいて特に制限されないが、蒸留、マイクロフィルターによる滅菌、中空糸膜による精製処理等が行われた精製水が通常用いられる。
【0013】
組成物の製造に用いられるグリセリンは、化粧料の製造に使用可能な品質を有する限りにおいて、任意の製法により製造されたものを特に制限を受けることなく用いることができる。グリセリンの添加量は、水100重量部に対し50〜200重量部、好ましくは70〜150重量部、より好ましくは100〜130重量部である。グリセリンの添加量が少なすぎると保湿性が低下し、逆に多すぎると組成物の使用感が重くなったりべたついたりする。
【0014】
組成物の製造に用いられる水溶性セルロースまたはその誘導体としては、カルボキシメチルセルロースまたはその塩(ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、アンモニウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩等のアルカリ土類金属塩等)、ヒドロキシエチルセルロース、カチオン化セルロース誘導体等が挙げられる。なお、これらの水溶性セルロースまたはその誘導体の分子量について特に制限はない。水溶性セルロースまたはその誘導体の添加量は、水100重量部に対し1〜10重量部、好ましくは3〜7重量部である。好ましい水溶性セルロース誘導体の例としては、カルボキシメチルセルロースナトリウム塩(CMC−Na)が挙げられる。
【0015】
組成物の製造に用いられる水溶性デンプンまたはその誘導体としては、小麦デンプン、米デンプン、馬鈴薯デンプン、甘藷デンプン、片栗粉、タピオカデンプン等の天然物に由来するデンプン、α化デンプン、化工デンプン、カルボキシメチルデンプン、ヒドロキシアルキルデンプン、カチオン化デンプン、リン酸デンプン等のデンプン誘導体が挙げられる。なお、これらの水溶性デンプンまたはその誘導体の分子量について特に制限はない。水溶性デンプンまたはその誘導体の添加量は、水100重量部に対し1〜10重量部、好ましくは1〜5重量部である。好ましい水溶性デンプンまたはその誘導体の例としては、馬鈴薯デンプンが挙げられる。
【0016】
組成物の製造に用いられる多価カルボン酸としては、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、フマル酸、マレイン酸、酒石酸、リンゴ酸、クエン酸、イソクエン酸等が挙げられる。多価カルボン酸の添加量は、水100重量部に対し0.001〜5重量部、好ましくは0.7〜3重量部である。好ましい多価カルボン酸の例としてはクエン酸が挙げられる。
【0017】
保湿用水性組成物は、効果を損なわない範囲で、化粧料に通常使用される任意の公知の添加剤を含んでいてもよい。添加剤の具体例としては、ビタミン、アミノ酸、植物エキス、油脂類、消炎剤、細胞賦活剤、色素、顔料、増粘剤、消泡剤、界面活性剤、紫外線吸収剤、防腐剤、保存料、抗酸化剤、香料等が挙げられる。
【0018】
組成物カルボキシメチルセルロース塩および水溶性デンプンまたはその誘導体を混合後グリセリンに加え、40℃以下で加熱処理した後、得られた混合物をクエン酸の水溶液と均一になるまで混合し、室温で冷却する方法により製造される。なお、加熱処理の温度は、好ましくは30〜0℃、より好ましくは33〜40℃である。
【0019】
このようにして得られる保湿用水性組成物は、人体に対する安全性の高い成分のみから構成されているため、全身の保湿用途に用いることができる。特に、食品に触れる家事作業前の手の保湿や肌荒れの防止に好適である。また、超音波美顔器使用時の皮膚の保護剤としても好適である。この場合、カルボキシメチルセルロース塩および水溶性デンプンまたはその誘導体を混合後グリセリンに加えて混合する際に加熱処理を行うことにより、室温で混合する場合に比べ、肌触りを改善することができる。
【実施例】
【0020】
次に、本発明の作用効果を確認するために行った実施例について説明する。
実施例1:保湿用水性組成物の製造(1)
グリセリン97mL、精製水96.5mL、カルボキシメチルセルロースナトリウム塩(CMC−Na)4.5g、馬鈴薯デンプン1g、クエン酸1gを計量した。CMC−Naと馬鈴薯デンプンを混合し、これにグリセリンを加えてよく撹拌し、加熱処理した。これにクエン酸および水を加え(予めクエン酸を水に溶解させてもよい)、よく混合後、室温で約2時間冷却した。このようにして、透明で粘稠なジェル状の保湿用水性組成物約200mLを得た。
【0021】
実施例2:保湿用水性組成物の製造(2)
加熱処理を省略した以外は実施例1と同様の方法を用いても、実施例1で得られるものと同様の保湿用水性組成物を製造できた。
【0022】
実施例3:モニターテスト
30〜60台の男性1名、女性9名に化粧品用容器(吐出量0.22mL)に充填した保湿用水性組成物を提供し、使用感および使用前後の皮膚状態等について聞き取り調査を行った。数日間継続使用して貰ったが、吐出量の変化、使用感の悪化等に関する報告はなかった。
【0023】
<1>60代女性の例(1)
手荒れに悩んでいた。手芸教室の師範をしているため、布と糸に水分が奪われやすい状況で、常に手元に視線が集まる事もあり、手指の角質化や荒れを気にしていた。保湿用水性組成物を試用してもらっていたところ、指先の角化の緩和、手荒れの消失が見られたとのことであった。
【0024】
<2>60代女性の例(2)
皮膚科に通いながらもなかなか指関節部分のひび割れが治らない状況であった。また、関節部分以外にも湿疹があり、薬剤塗布でも悪化する場合があった。手に保湿用水性組成物の塗布をすすめたところ、最初の一週間ほどでひび割れの頻度が減少し、湿疹の症状もおだやかではあるが改善したとのことであった。
【0025】
<3>30代女性の例
デイサービスセンター勤務。入浴介助があるため常に手が荒れる状況で、特に冬になるとあかぎれが発生し生活にも支障が出ていた。保湿用水性組成物の塗布をしてもらってしばらくすると、まずあかぎれの症状が改善できたとのことであった。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明の保湿用水性組成物は、皮膚に対しベタツキの無い軽い感触の仕上がり感と、しっとりした心地よい感触が持続する、優れた保湿効果を有する極めて実用価値の高い保湿用水性組成物である。したがって、本発明の保湿用水性組成物は、スキンクリーム、化粧水、美容液、美顔器用商材としての活用等、スキンケアに特化した化粧料に幅広く応用できるものである。