特許第5722290号(P5722290)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5722290軸送り制御方式判別機能を有するワイヤ放電加工機
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5722290
(24)【登録日】2015年4月3日
(45)【発行日】2015年5月20日
(54)【発明の名称】軸送り制御方式判別機能を有するワイヤ放電加工機
(51)【国際特許分類】
   B23H 1/02 20060101AFI20150430BHJP
【FI】
   B23H1/02 F
【請求項の数】9
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2012-207475(P2012-207475)
(22)【出願日】2012年9月20日
(65)【公開番号】特開2014-61564(P2014-61564A)
(43)【公開日】2014年4月10日
【審査請求日】2013年10月9日
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】390008235
【氏名又は名称】ファナック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001151
【氏名又は名称】あいわ特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】古田 友之
(72)【発明者】
【氏名】川原 章義
【審査官】 山崎 孔徳
(56)【参考文献】
【文献】 特開平05−016025(JP,A)
【文献】 特開平08−155744(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23H 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワイヤ電極に対するテーブルの相対位置を移動させながら、前記ワイヤ電極と前記テーブル上に配置されたワークとの間である極間に電圧を印加して放電を発生させ、ワークを加工するワイヤ放電加工機において、
複数の軸送り制御方式で軸送りを実行することが可能な軸送り制御部と、
加工条件を決定するパラメータを入力する加工条件入力部と、
前記加工条件に含まれるパラメータの設定値と制御可能な前記軸送り制御方式とを対応付けて記憶した軸送り制御方式記憶部と、
前記加工条件入力部により入力されたパラメータと、前記軸送り制御方式記憶部との内容から、制御可能な軸送り制御方式を判別する軸送り制御方式判別部と、
を備え
全ての軸送り制御方式に対し、予め優先順位を付けて置き、判別された全ての軸送り制御方式の中から、最も優先順位の高い軸送り制御方式を選択して加工開始することを特徴とするワイヤ放電加工機。
【請求項2】
前記軸送り制御部は、極間電圧に応じて軸送りを行う電圧制御と、常に一定速度で軸送りを行う一定速度制御と、極間電圧が予め設定された電圧値より低い場合には減速し、予め設定された電圧値よりも高い場合には一定速度で軸送りを行う、減速付き一定速度制御のうち、少なくとも1つを含む2つ以上の軸送り制御方式で軸送りを実行可能であることを特徴とする請求項1に記載のワイヤ放電加工機。
【請求項3】
前記軸送り制御方式記憶部に記憶される加工条件のパラメータは、加工電源の電圧設定と、極間に印加する電圧サイクルの周波数設定のうち、何れかを含むことを特徴とする請求項1または2の何れかに記載のワイヤ放電加工機。
【請求項4】
前記パラメータは所定の範囲の数値で設定されるパラメータであって、前記軸送り制御方式記憶部はパラメータの設定値を複数の範囲で分割し、該分割した設定値と制御可能な軸送り制御方式とを対応付けて記憶したことを特徴とする請求項1乃至3の何れか1つに記載のワイヤ放電加工機。
【請求項5】
前記パラメータは複数の値で設定されるパラメータであって、前記軸送り制御方式記憶部は前記複数の値のそれぞれと制御可能な軸送り制御方式とを対応付けて記憶したことを特徴とする請求項1乃至3の何れか1つに記載のワイヤ放電加工機。
【請求項6】
前記軸送り制御方式記憶部は、前記加工条件に含まれる少なくとも1つのパラメータの設定値、または複数のパラメータの設定値の組み合わせと、制御可能な前記軸送り制御方式とを対応付けて記憶したことを特徴とする請求項1乃至5の何れか1つに記載のワイヤ放電加工機。
【請求項7】
前記加工条件は前記軸送り制御方式を決定するパラメータを含み、前記加工条件のパラメータによって決められる軸送り制御方式が、軸送り制御方式記憶部に含まれていれば、その軸送り制御方式を用いて加工開始し、含まれていなければ、軸送りを行わないことを特徴とする請求項1乃至6の何れか1つに記載のワイヤ放電加工機。
【請求項8】
前記加工条件は前記軸送り制御方式を決定するパラメータを含み、前記加工条件のパラメータによって決められる軸送り制御方式が、軸送り制御方式記憶部に含まれていない場合、前記加工条件によって決められた軸送り制御方式を実行するために変更が必要なパラメータ名を、数値制御装置の表示器に表示することを特徴とする請求項1乃至6の何れか1つに記載のワイヤ放電加工機。
【請求項9】
数値制御装置の表示器に、前記判別した軸送り制御方式を表示することを特徴とする請求項1乃至8の何れか1つに記載のワイヤ放電加工機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワイヤ放電加工機に関し、特に、ワイヤ放電加工機の軸送り制御方式の判別方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ワイヤ放電加工機の、加工時の軸送り制御方式としては、測定した極間電圧に応じて軸送りを行う、いわゆる電圧サーボ送りや、常に加工条件で設定された速度で送る、一定速度送りを用いるのが一般的である。その他、特許文献1に開示され公知となっている、放電パルスに応じて軸送りを行う方式などもある。このように、ワイヤ放電加工機の軸送り制御方式として、複数の公知の制御方式がある。
【0003】
ワイヤ放電加工機の加工は、ワイヤ径やワーク材質に応じて、軸送り制御方式や加工電圧、加工周波数、ワイヤ送り速度、ワイヤ張力、加工液量など、安定加工に必要な要素を決める加工条件を設定する必要がある。加工条件は、主にワイヤ材質、ワイヤ径、ワーク材質、ワーク板厚に応じて、ワイヤ放電加工機の製造メーカから提供されており、オペレータが加工条件表から選んで機械の数値制御装置に入力、あるいは、機械の数値制御装置上で選択することで決定される。
【0004】
しかし、加工対象となるワークが、製造メーカが加工条件を提供していない材質や板厚の場合には、製造メーカから提供された材質や板厚の加工条件を参考にして、オペレータが自分で加工条件を調整して加工する必要がある。
【0005】
このような場合、加工中の軸送り制御方式は参考としたメーカ加工条件によって決められており、オペレータが選択することは出来ないのが一般的であるが、加工条件の中に、送り制御方式を決める専用の加工条件を設けて、ユーザーが選択できるように構成されている場合もある。このような加工条件を調整する場合、オペレータは複数の軸送り制御方式から適切と思われる方式を選択している。オペレータは、このようにして仮決定した加工条件を用いて本加工の前にテスト加工を行い、最後まで安定して行えるかどうかを確認する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3795799号公報
【特許文献2】特開昭63−207513号公報
【特許文献3】特開2012−45662号公報
【特許文献4】特許第2745675号公報
【特許文献5】特許第3808444号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
加工条件が決まれば極間電圧波形が決まる。極間電圧波形が決まれば、その極間電圧波形に適する軸送り制御方式が決まる。ワイヤ放電加工機を製造するメーカが提供する加工条件には、それぞれの加工条件についてその加工条件に適する軸送り制御方式も併せて設定されているので、製造メーカが提供する加工条件を使えば問題なく加工できる。
しかし、製造メーカは全てのワーク材質や全ての板厚について加工条件を提供しているわけではないので、製造メーカが加工条件を提供していないワーク材質や板厚を加工する場合が出てくる。
【0008】
製造メーカが加工条件を提供していないワーク材質や板厚を加工するに当たって、製造メーカが提供した加工条件を元に、オペレータが加工条件を調整して加工する場合がある。このような場合、オペレータが調整した加工条件から極間電圧波形が決まることとなるが、その極間電圧波形と軸送り制御方式が適合しなくなる可能性がある。
【0009】
極間電圧波形と軸送り制御方式が適合しない状態で加工を行うと、例えば、加工経路の多くの箇所で短絡状態が発生して放電が一旦停止し、筋状の傷を作ってしまったり、最悪、短絡状態から復帰出来ずに加工継続不能に陥ったりしてしまうことが考えられる。また、オペレータが加工条件を変更する際、誤った操作で、意図しない加工条件を設定してしまう可能性があり、この場合も、極間電圧波形と軸送り制御方式が適合しなくなる可能性があり、上記のような加工不良が発生してしまう。
【0010】
加工内容によっては、加工時間が10時間以上に及ぶ場合や、ワーク自体が非常に高価な場合が少なくない。テスト加工のために、機械やオペレータが長時間占有されることや、高価なワークを消費することは、加工を請け負った会社にとって大きな損失であるし、一度のテスト加工でうまくいかず、結果的に数回のテスト加工が必要になる場合には、損失は数倍に膨れ上がる。また、金型の修正加工といった、既存の部品への追加加工の場合には、そもそも部品が1個しか供給されないため、失敗が許されない。
【0011】
従来技術として、例えば特許文献2に開示されるように、加工速度と目標加工電圧値を、加工状態に応じて適宜変更、または固定し、加工の安定化を実現しようとしたものなどがあるが、いずれも加工中に変更を行うものであって、加工前に、予め設定された加工条件に対して、軸送り可能な制御方式を判定するものではない。
【0012】
そこで、本発明は、ワイヤ放電加工機の製造メーカが提供する加工条件を調整して加工する場合、設定した加工条件に応じて加工可能な軸送り制御を加工開始前に判別することで、事前に加工継続不能に陥ることや加工後の精度不良を防止することが可能な軸送り制御方式判別機能を有するワイヤ放電加工機を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本願の請求項1に係る発明は、ワイヤ電極に対するテーブルの相対位置を移動させながら、前記ワイヤ電極と前記テーブル上に配置されたワークとの間である極間に電圧を印加して放電を発生させ、ワークを加工するワイヤ放電加工機において、複数の軸送り制御方式で軸送りを実行することが可能な軸送り制御部と、加工条件を決定するパラメータを入力する加工条件入力部と、前記加工条件に含まれるパラメータの設定値と制御可能な前記軸送り制御方式とを対応付けて記憶した軸送り制御方式記憶部と、前記加工条件入力部により入力されたパラメータと、前記軸送り制御方式記憶部との内容から、制御可能な軸送り制御方式を判別する軸送り制御方式判別部と、を備え、全ての軸送り制御方式に対し、予め優先順位を付けて置き、判別された全ての軸送り制御方式の中から、最も優先順位の高い軸送り制御方式を選択して加工開始することを特徴とするワイヤ放電加工機である。
請求項2に係る発明は、前記軸送り制御部は、極間電圧に応じて軸送りを行う電圧制御と、常に一定速度で軸送りを行う一定速度制御と、極間電圧が予め設定された電圧値より低い場合には減速し、予め設定された電圧値よりも高い場合には一定速度で軸送りを行う、減速付き一定速度制御のうち、少なくとも1つを含む2つ以上の軸送り制御方式で軸送りを実行可能であることを特徴とする請求項1に記載のワイヤ放電加工機である。
請求項3に係る発明は、前記軸送り制御方式記憶部に記憶される加工条件のパラメータは、加工電源の電圧設定と、極間に印加する電圧サイクルの周波数設定のうち、何れかを含むことを特徴とする請求項1または2の何れかに記載のワイヤ放電加工機である。
請求項4に係る発明は、前記パラメータは所定の範囲の数値で設定されるパラメータであって、前記軸送り制御方式記憶部はパラメータの設定値を複数の範囲で分割し、該分割した設定値と制御可能な軸送り制御方式とを対応付けて記憶したことを特徴とする請求項1乃至3の何れか1つに記載のワイヤ放電加工機である。
【0014】
請求項5に係る発明は、前記パラメータは複数の値で設定されるパラメータであって、前記軸送り制御方式記憶部は前記複数の値のそれぞれと制御可能な軸送り制御方式とを対応付けて記憶したことを特徴とする請求項1乃至3の何れか1つに記載のワイヤ放電加工機である。
請求項6に係る発明は、前記軸送り制御方式記憶部は、前記加工条件に含まれる少なくとも1つのパラメータの設定値、または複数のパラメータの設定値の組み合わせと、制御可能な前記軸送り制御方式とを対応付けて記憶したことを特徴とする請求項1乃至5の何れか1つに記載のワイヤ放電加工機である。
請求項7に係る発明は、前記加工条件は前記軸送り制御方式を決定するパラメータを含み、前記加工条件のパラメータによって決められる軸送り制御方式が、軸送り制御方式記憶部に含まれていれば、その軸送り制御方式を用いて加工開始し、含まれていなければ、軸送りを行わないことを特徴とする請求項1乃至6の何れか1つに記載のワイヤ放電加工機である。
【0015】
請求項8に係る発明は、前記加工条件は前記軸送り制御方式を決定するパラメータを含み、前記加工条件のパラメータによって決められる軸送り制御方式が、軸送り制御方式記憶部に含まれていない場合、前記加工条件によって決められた軸送り制御方式を実行するために変更が必要なパラメータ名を、数値制御装置の表示器に表示することを特徴とする請求項1乃至6の何れか1つに記載のワイヤ放電加工機である。
請求項9に係る発明は数値制御装置の表示器に、前記判別した軸送り制御方式を表示することを特徴とする請求項1乃至の何れか1つに記載のワイヤ放電加工機である。
【発明の効果】
【0016】
本発明により、ワイヤ放電加工機の製造メーカが提供する加工条件を調整して加工する場合、設定した加工条件に応じて加工可能な軸送り制御を加工開始前に判別することで、事前に加工継続不能に陥ることや加工後の精度不良を防止することが可能な軸送り制御方式判別機能を有するワイヤ放電加工機を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明に係るワイヤ放電加工機の要部構成図である。
図2】本発明に係る軸送り可能な制御方式を判別する処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態を図面と共に説明する。
極間電圧波形と軸送り制御方式との不適合による加工不良を防ぐため、本発明では、加工開始時、極間に電圧を印加する前に、設定された加工条件から、軸送り可能な制御方式を判別する。例えば、加工条件のうち、加工電源の電圧設定や、極間に印加する電圧サイクルの周波数設定に関わる加工条件から、軸送り可能な制御方式を判別する。その結果を数値制御装置の画面に表示させてオペレータが選択してから加工を開始するようにしたり、予め全ての軸送り制御方式に優先順位を付けておき、軸送り可能な制御方式から、優先順位が最も高い制御方式を選択して、自動的に加工を開始する。
【0019】
これにより、加工不能に陥るような加工条件で加工開始することを事前に防止することができるので、無駄なテスト加工がなくなり、テスト加工に必要な、機械やオペレータの占有時間が短縮でき、且つ、無駄にするワークを減らせるので、テスト加工に必要な費用を抑えることができる。
【0020】
図1は本発明に係るワイヤ放電加工機の要部構成図である。ワイヤ放電加工機は、数値制御装置1と加工機2とを備え、数値制御装置1は、ワイヤ放電加工機全体を制御する。数値制御装置1は、バス17を介して接続される、プロセッサ(CPU)10、入力装置11、メモリ12、表示装置18を備えている。メモリ12はROMおよびRAMから構成されており、プロセッサ(CPU)10は、該ROMに格納されたシステムソフトウェアによってワイヤ放電加工機全体を制御する。
【0021】
入力装置11はキーボードなどから構成されており、本発明を実行するために必要な加工条件のパラメータを入力することができる。オペレータは該入力装置11を用いて加工条件、たとえば、加工電圧の目標値、放電周期、放電電流値、ワイヤ送り速度、所定サンプリング周期などの各種パラメータを入力することができる。
【0022】
加工条件のパラメータとは、加工電源電圧設定・加工周波数設定・ワイヤ送り速度・加工液量・ワーク材質や板厚・ワイヤ材質や線径といった、一般的にワイヤ放電加工機に添付される「加工条件表」に含まれるパラメータだけでなく、例えば加工液タンクの加工液の温度制御方法(加工液が設定温度に一致するように制御する「定温制御」か、測定した周囲温度から設定値分だけオフセットした温度になるように制御する「差温制御」など)を表すパラメータなど、加工電圧・加工電流・加工速度・加工面粗さ・加工精度の少なくとも1つに影響する、予め設定可能な全てのパラメータを意味する。
【0023】
また、プロセッサ(CPU)10は、メモリ12のRAM内に記憶された加工プログラムに従ってX軸用軸制御回路13,Y軸用軸制御回路15に加工条件に応じた移動指令を出力し、X,Y軸の各軸用軸制御回路13,15は、X軸,Y軸の各軸用サーボアンプ14,16に各軸用サーボモータ20,22を駆動するための駆動指令を出力する。本発明の実施形態であるワイヤ放電加工機は、プロセッサ(CPU)10の指令によって、公知の複数の軸送り制御方式の何れかで軸送りを実行することが可能である。
【0024】
加工機2は、数値制御装置1で指定された加工条件に基づいて被加工物であるワーク25を加工する構成である。具体的には、加工機2は、X軸用サーボモータ20、Y軸用サーボモータ22を備えている。また、加工機2は、ワイヤ電極24とワーク25の間に放電エネルギーを供給する直流電源28と、直流電源28から出力する電流を制限する電流制限抵抗器26、スイッチング素子27、スイッチング素子27をオン・オフ制御するスイッチング駆動回路29を備えている。ワイヤ電極24、ワーク25、電流制限抵抗器26、スイッチング素子27および、直流電源28からなる回路は、ワイヤ電極24とワーク25との間の極間にパルス電圧、電流を加えるワイヤ放電加工用電源回路を構成している。
【0025】
極間に加えられる極間電圧を検出する検出部は、ワイヤ電極24とワーク25の間の極間電圧を検出する。極間電圧は、増幅器30により増幅され、A/D変換器31において所定周期毎にデジタル値に変換され、数値制御装置1に出力される。
【0026】
数値制御装置1は、表1に示される軸送り制御方式を選択して加工機2を駆動制御する。例えば、数値制御装置1は、電圧制御(荒加工・仕上げ加工兼用)Maの方式として、数値制御装置1に入力した極間電圧(デジタル値)をもとに極間の平均極間電圧値を求める。数値制御装置1は極間の平均極間電圧に従った加工速度でワーク25を加工するように加工機2を駆動制御する。あるいは、平均極間電圧と目標電圧との差である電圧偏差に従った加工速度でワーク25を加工するように加工機2を駆動制御する。
【0027】
また、X軸用サーボモータ20およびY軸用サーボモータ22にはそれぞれ、X軸用エンコーダ21およびY軸用エンコーダ23を配設しており、各軸用エンコーダ21,23で検出した量をベクトル合計することによって、実加工速度が得られる。
【0028】
なお、ワイヤ電極24は、所定の間隔で配置された1組のワイヤガイド(図示せず)により所定の張力で張設されている。また、ワイヤ電極24は、図示しない供給装置により所定の速度で供給されるように構成されている。
【0029】
本発明の実施形態では、ワイヤ放電加工機の数値制御装置1のメモリ12には、ワイヤ放電加工機において軸送り制御方式判別機能を実現するため、軸送り制御方式判別部において参照される。後述する表2〜9に示されるテーブルの少なくとも一つが記憶されている。
【0030】
なお、ワイヤ放電加工機の数値制御装置1には通常、ワイヤ放電加工機の製造メーカが提供するワークの加工に使用するワイヤ電極24の径のデータ、加工しようとしているワークの材質のデータおよび、ワーク板厚のデータがパラメータとして取り込まれており、これらのパラメータのデータを本発明の実施形態においても用いてもよい。あるいは、パラメータのデータを入力装置11からオペレータが数値制御装置1に入力するようにしてもよい。
【0031】
以下、本発明の各実施形態について説明する。
<実施形態1>
図2図1を参照しながら説明する。ワイヤ放電加工機により加工プログラムに従って加工を行う場合、キーボードなどの入力装置11あるいはメモリ12である加工条件入力部から、加工条件が軸送り制御方式判別部に送られる。軸送り制御方式判別部は、送られてきた加工条件と、軸送り制御方式記憶部に記憶された対応関係とを比較することで、軸送り可能な制御方式を自動的に判別する。
【0032】
図2は本発明に係る軸送り可能な制御方式を判別する処理を示すフローチャートである。このフローチャートの処理は、数値制御装置1のプロセッサ(CPU)10において実行される。まず、オペレータにより入力された加工条件のパラメータあるいはメモリ12などに記憶された加工条件のパラメータを取得し(ステップSA01)、取得したパラメータと、軸送り制御方式記憶部に記憶された内容とから、制御可能な軸送り制御方式を判別する(ステップSA02)。ステップSA02は特許請求の範囲の記載の「軸送り制御方式判別部」に対応する。
【0033】
加工条件のパラメータは、オペレータがキーボード(入力装置11)を使って手動で入力する、あるいは、数値制御装置1内あるいは外部の記憶装置に、予め加工条件の各パラメータの設定値が記録されたファイルを読み込む、等の方法により設定される。
前述したように、加工条件のパラメータとは、加工電源電圧設定・加工周波数設定・ワイヤ送り速度・加工液量・ワーク材質や板厚・ワイヤ材質や線径といった、一般的にワイヤ放電加工機に添付される「加工条件表」に含まれるパラメータだけでなく、例えば加工液タンクの加工液の温度制御方法を表すパラメータなど、加工電圧・加工電流・加工速度・加工面粗さ・加工精度の少なくとも1つに影響する、予め設定可能な全てのパラメータを意味する。
【0034】
これらのパラメータに対して、制御可能な軸送り制御方式との対応を、例えばメモリ12のメモリ領域に形成される予め軸送り制御方式記憶部にて記憶しておく(表3参照)。
【0035】
本実施形態における、軸送りが実行可能な制御方式を表1に示す。表1の通り、本実施形態では、制御可能な軸送り制御方式として、下記の符号Ma,Mb,Mc,Mdで示される4つの制御方式を挙げている。
Ma:電圧制御(荒加工・仕上げ加工兼用)
Mb:放電パルス制御(荒加工用)
Mc:状態判別制御(仕上げ加工用)
Md:一定速度制御(荒加工・仕上げ加工兼用)
【0036】
【表1】
【0037】
軸送り制御方式記憶部の内容を表2,3に示す。
表2の通り、本実施形態では加工条件内にPa〜Peの5種類のパラメータがある。パラメータPa,Pc,Pdでは、表2のように範囲が2つ以上に分割されている。パラメータPaは設定範囲Pa1,Pa2に分割され、Pcでは設定範囲Pc1〜Pc3の3つに分割され、パラメータPdはPd1,Pd2の2つに分割されている。また、パラメータPeでは、範囲を分割するのではなく、3つの設定値(設定値Pe1〜Pe3)に分かれている。
【0038】
なお、パラメータPa〜Peの具体的なものは、加工電源電圧設定・加工周波数設定・ワイヤ送り速度・加工液量・ワーク材質や板厚・ワイヤ材質や線径といった、一般的にワイヤ放電加工機に添付される「加工条件表」に含まれるパラメータだけでなく、例えば加工液タンクの加工液の温度制御方法を表すパラメータなど、加工電圧・加工電流・加工速度・加工面粗さ・加工精度の少なくとも1つに影響する、予め設定可能な全てのパラメータのいずれかである。
【0039】
【表2】
【0040】
表3の通り、予め、加工条件の各パラメータの種類と設定値に対応する、実行可能な軸送り制御方式を、軸送り制御方式記憶部に保存しておく。表3において加工条件であるパラメータについて設定範囲群がNo.1〜No.36に区分され、パラメータPaは、No.1〜No.18が設定範囲Pa1、No.19〜No.36が設定範囲Pa2として設定されている。他のパラメータPb〜Peについてもそれぞれ設定されている。そして、例えば、設定範囲群No.1において、電圧制御(荒加工・仕上げ加工兼用)Maおよび一定速度制御(荒加工・仕上げ加工兼用)Mdが設定されているように、それぞれの設定範囲群について設定範囲群に対応する軸送り制御方式が設定されている。
【0041】
【表3】
【0042】
以上により、加工開始前に加工条件を軸送り制御方式判別部に送ることで、軸送り可能な制御方式を判別することができる。
<実施形態2>
実施形態2は、軸送り制御部にて制御可能な軸送り制御方式には、極間電圧に応じて軸送りを行う電圧制御(荒加工・仕上げ加工兼用)Maと、常に一定速度で軸送りを行う一定速度制御(荒加工・仕上げ加工兼用)Mdと、極間電圧が予め決められた電圧値より低い場合には減速し、予め決められた電圧値よりも高い場合には一定速度で送りを行う、減速付き一定速度制御の軸送り制御方式のうち1つを含むようにしたものである。
【0043】
なお、実施形態1では、制御可能な軸送り制御方式として、電圧制御(荒加工・仕上げ加工兼用)Maと、一定速度制御(荒加工・仕上げ加工兼用)Mdが含まれている。
【0044】
<実施形態3>
実施形態3は、軸送り制御方式判別部にて判別に用いる加工条件のパラメータとして、加工電源の電圧設定と、極間に印加する電圧サイクルの周波数設定のうち、少なくともどちらか一方を用いるようにしたものである(表4,表5を参照)。
【0045】
<実施形態4>
実施形態4は、加工条件のパラメータを所定の範囲の数値で設定されるパラメータとして、軸送り制御方式記憶部において、パラメータの設定値を複数の範囲で分割し、該分割した値と制御可能な軸送り制御方式を対応付けて記憶するようにしたものである(表2参照)。
【0046】
<実施形態5>
実施形態5は、加工条件のパラメータを複数の値で設定されるパラメータとして、軸送り制御方式記憶部において、パラメータの設定値と制御可能な軸送り制御方式を対応付けて記憶するようにしたものである(表3参照)。
【0047】
<実施形態6>
実施形態6は、軸送り制御方式記憶部において、実施形態4または5で指定される加工条件のパラメータのうち、少なくとも1つのパラメータの設定値、または複数のパラメータの設定値の組み合わせと、制御可能な軸送り制御方式とを対応付けて記憶するようにしたものである。実施形態1の表3の通り、各パラメータから、分割された範囲または設定値を1つずつ選択して組み合わせることで1つの設定範囲群とし、パラメータ毎に分割された全ての設定範囲の組み合わせに対して設定範囲群を設定する。各パラメータは、実施形態4のような分割された範囲(表3のパラメータPa,Pc,Pd)でもよいし、実施形態5のような設定値(表3のパラメータPe)であっても良い。
【0048】
予め、これらに設定範囲群に対して、表1の制御可能な軸送り制御方式の中から、実行可能な軸送り制御方式を割り当てておく。表2に示した設定範囲と設定値の組み合わせから、表3の通り、設定範囲群は合計36通りになる。実際の加工では、加工条件のパラメータの種類と設定値によって、軸送り可能な制御方式が限られる場合がある。このため、パラメータの種類と設定値に応じて、実行可能な軸送り制御方式を対応させる。対応する軸送り制御方式は、設定範囲群No.31〜33のように1つだけでも良いし、複数でも良い。また、設定範囲群No.34〜36のように対応する軸送り制御方式が無い、というようにしてもよい。
【0049】
ここで、実施形態3における、加工電源の電圧設定と、極間に印加する電圧サイクルの周波数設定を、軸送り制御判別部にて判別に用いる加工条件のパラメータとして用いる例について、具体的に述べる。
【0050】
軸送りが実行可能な制御方式は、実施形態1と同様、以下のようにする。
Ma:電圧制御(荒加工・仕上げ加工兼用)
Mb:放電パルス制御(荒加工用)
Mc:状態判別制御(仕上げ加工用)
Md:一定速度制御(荒加工・仕上げ加工兼用)
これらの軸送り制御は、極間電圧波形の電圧の大きさと、電圧印加周波数によって、適さない場合がある。つまり、加工条件によって規定される加工電源の電圧設定と、電圧印加周波数設定によって、軸送り可能かどうかを判別できる。
【0051】
電圧制御(荒加工・仕上げ加工兼用)Maは、極間電圧波形を整流して平均電圧値を求め、加工条件によって決まる基準電圧値とゲインから軸送り速度を求める方式である。周波数設定値が高くなるにつれて過渡領域の割合が大きくなり、平均電圧値の精度が悪くなってくるので、周波数が高くなるにつれて平均電圧制御は適さなくなってくる。
【0052】
放電パルス制御(荒加工用)Mbは、例えば特許文献1により公知となっている、カウントした放電パルス数に応じて軸送り速度を求める方式である。電源電圧が低くなるにつれて、放電判定が難しくなるので、電源電圧が低くなるにつれて、荒加工用放電パルス制御は適さなくなってくる。
【0053】
状態判別制御(仕上げ加工用)Mcは、例えば特許文献3により公知となっている、高周波電圧の開放パルス数に応じて軸送り速度を求める方式ある。電源電圧が低くなるにつれて、開放判定が難しくなるので、状態判別制御は適さなくなってくる。
一定速度制御(荒加工・仕上げ加工兼用)Mdは、常に設定された速度で送る方式である。
【0054】
また、放電パルス制御(荒加工用)Mbと状態判別制御(仕上げ加工用)Mcのように、加工が、荒加工か仕上げ加工かによって、実行可能な軸送り制御方式が限られる場合がある。このことから、電源電圧設定と電圧印加周波数設定と加工回数を、それぞれ、予め実験によって定めたしきい値と比較することによって、その軸送り制御が可能かどうかを判別することができる。
【0055】
電源電圧設定のしきい値を20[V]、電圧印加周波数のしきい値を500[kHz]とした場合、軸送り制御可能な制御方式は、表4(荒加工の場合)や表5(仕上げ加工の場合)のように纏めることができる。
【0056】
【表4】
【0057】
【表5】
【0058】
表4,5に示されるパラメータ(パラメータPaは電源電圧設定、パラメータPbは電圧印加周波数設定)に、パラメータPcとして加工回数を加え、このしきい値を1[回]として、実施形態1で示した軸送り制御方式記憶部の例(表2,表3を参照)のように纏めると、表6,表7のようになる。
【0059】
【表6】
【0060】
【表7】
【0061】
このようにして、加工開始前に、予め設定された加工条件から、軸送り可能な制御方式を判別することができる。なお、上記Ma〜Mdの軸送り制御方式以外にも、例えば、特許文献4や特許文献5などがあり、これらを選択可能な軸送り制御方式に加えても良い。
【0062】
<実施形態7>
また、実施形態7のように、判別の結果、現在の加工条件で決まる軸送り制御方式が軸送り可能であれば加工を開始し、現在の加工条件が軸送り不可能であれば、軸送り制御を中止するようにすることで、加工不能に陥るような加工条件で加工開始することを事前に防止することができる。
【0063】
表8に、加工条件により指定された軸送り制御方式と判別結果の比較を示す。設定範囲群No1,2,5,6の場合、加工条件で指定されている軸送り制御方式である電圧制御(荒加工・仕上げ加工兼用)Maが判別結果に含まれているので、加工開始するが、設定範囲群No3,4,7,8の場合、判別結果に含まれないため、軸送り制御を中止する。
【0064】
【表8】
【0065】
<実施形態8>
現在の加工条件から決まる軸送り制御方式について、軸送り可能かどうかを判別し、軸送り不可能であれば、変更が必要なパラメータ名(電源電圧設定、電圧印加周波数設定、加工回数のいずれかのパラメータ名)を、数値制御装置1の表示装置18の画面に表示し、オペレータに変更を促すようにしても良い。
【0066】
表8において、例えば、加工条件が設定範囲群No.7の場合、加工条件で指定されている軸送り制御方式Maが判別結果に含まれておらず、パラメータPbをPb2からPb1の設定範囲に変更すれば、設定範囲群No.5となり、軸送り制御方式Maで加工できるようになるので、パラメータPbをPb1の範囲に設定するよう画面に表示をして、オペレータに変更を促すことができる。
【0067】
<実施形態9>
符号Ma〜Mdの軸送り制御方式に対して優先順位を付けておき、軸送り可能な制御方式の中から、最も優先順位の高い制御方式を設定し、加工を開始するようにしても良い。表9に、各軸送り制御方式に優性順位を付加した例を示す。数字が小さいほど、優先順位が高いことを表す。
表7において、加工条件が設定範囲群No.5の場合、軸送り制御方式Ma,Mb,Mdが判別結果から選ばれるが、表9により、軸送り制御方式Mbが最も優先順位が高いため、軸送り制御方式Mbにて加工を開始することができる。
【0068】
【表9】
【0069】
<実施形態10>
数値制御装置1の表示装置18に、判別した軸送り制御方式を表示するようにしてもよい。軸送り可能な制御方法を数値制御装置の画面に表示して、オペレータに軸送り可能な制御方式から選ばせることで、加工不能に陥るはずの加工を、事前に加工できる様に軸送り制御方式を変更できる。
【符号の説明】
【0070】
1 数値制御装置
10 プロセッサ(CPU)
11 入力装置
12 メモリ
13 X軸用軸制御回路
14 X軸用サーボアンプ
15 Y軸用軸制御回路
16 Y軸用サーボアンプ
17 バス
18 表示装置

2 加工機
20 X軸用サーボモータ
21 X軸用エンコーダ
22 Y軸用サーボモータ
23 Y軸用エンコーダ
24 ワイヤ電極
25 ワーク
26 電流制限抵抗器
27 スイッチング素子
28 直流電源
29 スイッチング駆動回路
図1
図2