(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明者らは、前記課題を解決するため鋭意研究を重ねた。まず、In、ZnおよびSnの3元素を少なくとも含む酸化物からなる酸化物半導体層と、該酸化物半導体層と直接接触している保護膜(該保護膜には、絶縁膜として機能する膜も含まれる。以下同じ)とを有するTFTにおいて、上記酸化物半導体層と保護膜の界面状態が、ソース電極からドレイン電極への電子の流れに影響しているようであることに着目し、上記界面状態と上記電子の流れの関係について検討した。
【0017】
上述の通り、酸化物半導体層の直上に保護膜を形成時、保護膜と直接接触する酸化物半導体層の表面には突起が少なからず生じる。本発明者らは、この突起が、上記ソース電極からドレイン電極への電子の流れに影響しているのではないかと考えた。具体的には、この突起が形成されることによって、キャリアトラップとなる準位が形成され、その結果、ストレス耐性が低下するのではないかと考えた。そこで本発明者らは、突起の形態がストレス耐性に及ぼす影響を調べた。
【0018】
その結果、ストレス耐性を高めるには、まず突起の最大高さを制御する必要があり、好ましくは更に突起の成分組成を制御するのがよいこと、またそのためには、保護膜の成膜条件を制御するのが好ましいことを見出し、本発明を完成した。
【0019】
以下、本発明について順次説明する。まず、突起の最大高さについて説明する。本発明において所望のストレス耐性を得るには、後述する実施例に記載の方法で測定される突起の最大高さを5nm未満とするのがよいことを見出した。突起の最大高さが大きいと、キャリアトラップとなる準位が形成されやすく、その結果、ストレス耐性が劣化しやすいと考えられる。上記突起の最大高さは、好ましくは4nm以下、より好ましくは3nm以下である。
【0020】
また前記突起は、酸化物半導体層の表面に形成されるものであるが、その組成は、酸化物半導体層の成分組成と異なりやすい。この様に突起と酸化物半導体層で成分組成が異なる理由は、上記反応(界面反応)が、酸化物半導体層と保護膜に含まれる元素の酸化力や原子拡散のバランスにより生じることにある。
【0021】
前記突起の成分組成が、酸化物半導体層の成分組成と大きく異なる場合も、キャリアトラップ準位が形成されやすく、その結果、ストレス耐性の劣化を招くと考えられる。よって、前記突起の成分組成は、酸化物半導体層の成分組成に極力近いことが好ましい。本発明者らが検討したところ、前記突起中の金属元素の濃度(原子%)の、前記酸化物半導体層中の対応する金属元素の濃度(原子%)に対する比率、即ち、[突起中の金属元素の濃度(原子%)]/[酸化物半導体層中の金属元素の濃度(原子%)]で表される濃度比率Xが、突起と酸化物半導体層に含まれる全ての金属元素で、0.5以上(より好ましくは0.6以上、更に好ましくは0.8以上)であることが好ましく、2以下(より好ましくは1.8以下、更に好ましくは1.5以下)であることが好ましいことがわかった。
【0022】
例えば、含まれる金属元素がIn、ZnおよびSnである酸化物半導体層の場合、後述する実施例に記載の方法で求められる、
濃度比率X
In=[突起中のInの濃度(原子%)]/[酸化物半導体層中のInの濃度(原子%)]、
濃度比率X
Zn=[突起中のZnの濃度(原子%)]/[酸化物半導体層中のZnの濃度(原子%)]、および
濃度比率X
Sn=[突起中のSnの濃度(原子%)]/[酸化物半導体層中のSnの濃度(原子%)]の全てが、0.5以上2以下であることが好ましい。
【0023】
また、金属元素としてIn、ZnおよびSn以外の元素(追加元素、例えばGa)を更に含む場合、[突起の追加元素の濃度(原子%)]/[酸化物半導体層の追加元素の濃度(原子%)]で表される濃度比率も、上記範囲内(0.5以上2以下)であることが好ましい。
【0024】
保護膜(膜厚は、おおよそ20〜200nm)として、シリコン酸化膜(SiO
2膜)、シリコン窒化膜(SiN膜)、シリコン酸窒化膜(SiON膜)、またはそれらの積層膜等を形成する場合がある。このうち、保護膜としてシリコン酸化膜(SiO
2膜)を形成する場合、前記突起の最大高さを所定以下とする(前記突起を所望の形態とする)には、下記の方法で形成することが推奨される。即ち、SiO
2膜は一般にCVD法により形成される。詳細には例えば、反応ガスとしてSiH
4およびN
2Oを成膜チャンバー内に流入し、プラズマを用いて励起・反応させてSiO
2膜を、酸化物半導体層の直上(酸化物半導体層の基板側とは反対側の面)に形成することが挙げられる。この成膜時に用いるSiH
4とN
2Oのガス流量比を変化させることによって、SiとOの反応量が変化し、またHの混入やOの欠損が生じるため、膜質の異なるSiO
2膜が形成される。
【0025】
本発明者らは、保護膜として上記の方法でSiO
2膜を形成する場合、前記突起を所望の形態とするには、この保護膜の成膜条件を制御するのがよいことに着目し、更に検討した。その結果、まず上記突起の最大高さを抑えるには、N
2Oに対してSiH
4を少なくすればよい、つまり、SiH
4/N
2Oで表される流量比を一定以下とすればよいことを見出した。該流量比が高い場合、反応可能なSiに対してOが少なくなるため、SiO
2中に未結合手が残存して下部酸化物(酸化物半導体層を構成する酸化物等)との反応が発生し、突起(界面凹凸)が生じやすくなると考えられる。詳細には、本発明者らは、前記突起の最大高さを5nm未満に抑えるには、SiH
4/N
2O流量比を0.04以下とすればよいことを見出した。SiH
4/N
2O流量比は、好ましくは0.03以下、より好ましくは0.02以下である。一方、突起の最大高さを抑える観点からは、SiH
4/N
2O流量比は小さい方がよいが、SiH
4/N
2O流量比が小さすぎると、SiO
2が形成され難くなるため、SiO
2膜の成膜速度が遅くなる。よって生産性の観点からは、SiH
4/N
2O流量比を0.001以上とすることが好ましい。
【0026】
尚、上記SiO
2膜の代わりに、シリコン窒化膜(SiN膜)、シリコン酸窒化膜(SiON膜)、または、前記SiO
2膜、SiN膜およびSiON膜のうちの2以上を積層する場合も、上記SiO
2膜の形成時と同様の突起が生じうる。保護膜としてSiN膜を形成する場合、突起の最大高さを抑制するには、例えば成膜時に用いるSiH
4と、N
2+NH
3との流量比を変化させることが挙げられる。
【0027】
また保護膜の成膜温度は、おおよそ150〜250℃の範囲とすることが挙げられる。
【0028】
尚、前記突起の成分組成も、前記突起の形態と同様に、SiH
4/N
2O流量比の影響を受けると考えられる。上述の通り突起と酸化物半導体層の各金属元素の比率を所定の範囲内とするのも、SiH
4/N
2O流量比を0.04以下とするのが好ましいと思われる。
【0029】
保護膜のその他の成膜条件については、特に限定されず、一般的に行われている条件を採用することができる。例えば、ガス圧:50〜300Pa、成膜パワー:100〜300Wとすることが挙げられる。
【0030】
酸化物半導体層は、金属元素としてIn、ZnおよびSnの3元素を少なくとも含む酸化物であればよい。更に金属元素としてGaを含んでいてもよい。各金属元素(In、Zn、Sn、必要に応じて更にGa)間の比率は、これら金属を含む酸化物がアモルファス相を有し、且つ、半導体特性を示す範囲であれば特に限定されない。
【0031】
例えばZnについて、全金属(In、ZnおよびSn、必要に応じて更に含まれるGa)に占めるZnの比率を、30原子%以上で85原子%以下とすることが挙げられる。
【0032】
Zn以外の上記金属(In、Sn、必要に応じて更に含まれるGa)は、Znが上記範囲内に制御され、且つ、各金属元素の比率(原子比)が後記範囲を満足するように適宜制御すれば良い。具体的には、全金属(In、ZnおよびSn、必要に応じて更に含まれるGa)に占めるInの好ましい比率は、おおむね5原子%以上70原子%以下であり、更に好ましくは30原子%以下である。また、全金属(In、ZnおよびSn、必要に応じて更に含まれるGa)に占めるSnの好ましい比率は50原子%以下である。更に、Gaを含有させる場合、全金属(In、Zn、SnおよびGa)に占めるGaの好ましい比率は10〜40原子%である。
【0033】
上記金属(In、ZnおよびSn)を含む酸化物半導体として、例えば原子比がIn:Zn:Sn=1:2:1であるIn−Zn−Sn−Oが挙げられる。
【0034】
前記酸化物半導体層の膜厚は、おおよそ30nm以上(好ましくは35nm以上)、200nm以下(好ましくは150nm以下、より好ましくは80nm以下)であることが挙げられる。
【0035】
前記酸化物半導体層の成膜方法は特に問わず、例えばスパッタリング法にてスパッタリングターゲットを用いて成膜することが挙げられる。スパッタリング法によれば、成分や膜厚の膜面内均一性に優れた薄膜を容易に形成することができる。
【0036】
また本発明のTFTは、前記酸化物半導体層と、該酸化物半導体層と直接接触する保護膜とを有し、かつ前記酸化物半導体層と前記保護膜の界面に形成される突起を上記の通り制御した点に特徴を有する。よって、TFTにおけるその他の構成(基板、ゲート電極、ゲート絶縁膜、ソース・ドレイン電極、ソース・ドレイン電極上に形成される表面保護膜、透明導電膜など)については特に問わず、通常用いられる構成であればよい。
【0037】
以下、
図1を参照しながら、上記TFTの製造方法の実施形態を説明する。
図1および以下の製造方法は、本発明の好ましい実施形態の一例を示すものであり、これに限定する趣旨ではない。例えば
図1には、ボトムゲート型構造のTFTを示しているが、本発明の実施形態はこれに限定されない。本発明は、酸化物半導体層の上にゲート絶縁膜とゲート電極を順に備えるトップゲート型のTFTにも適用できる。詳細には、該トップゲート型のTFTにおける、上記酸化物半導体層とこれに直接接触する保護膜[シリコン酸化膜(SiO
2膜)、シリコン窒化膜(SiN膜)、シリコン酸窒化膜(SiON膜)、またはこれらの積層膜]との界面に形成されうる突起を、本発明の通り制御することが挙げられる。
【0038】
図1に示すように、基板1上にゲート電極2およびゲート絶縁膜3が形成され、その上に酸化物半導体層4が形成されている。酸化物半導体層4上には保護膜[絶縁膜でもある。例えばシリコン酸化膜(SiO
2膜)等]5が形成され、その上にソース・ドレイン電極6が形成され、更にその上に表面保護膜7が形成され、最表面には透明導電膜8が形成され、該透明導電膜8は、ソース・ドレイン電極6に電気的に接続されている。
【0039】
基板1上にゲート電極2およびゲート絶縁膜3を形成する方法は特に限定されず、通常用いられる方法を採用することができる。また、ゲート電極2およびゲート絶縁膜3の種類も特に限定されず、汎用されているものを用いることができる。例えばゲート電極2として、AlやCuの金属薄膜、これらの合金薄膜、または後述する実施例で用いているMo薄膜等が挙げられる。また、ゲート絶縁膜3としては、シリコン酸化膜(SiO
2膜)、シリコン窒化膜(SiN膜)、シリコン酸窒化膜(SiON膜)などが代表的に例示される。
【0040】
次いで酸化物半導体層4を形成する。酸化物半導体層4は、上述の通りスパッタリング法により成膜することが挙げられる。好ましくは酸化物半導体層4と同組成のスパッタリングターゲットを用いて、DCスパッタリング法またはRFスパッタリング法により成膜することが挙げられる。あるいは、コスパッタ法により成膜しても良い。
【0041】
酸化物半導体層4に対し、フォトリソグラフィ及びウェットエッチングによりパターニングを行う。パターニングの直後に、酸化物半導体層4の膜質改善のために、例えば、加熱温度:250〜350℃(好ましくは300〜350℃)、加熱時間:15〜120分(好ましくは60〜120分)の条件で熱処理(プレアニール)を行ってもよい。これにより、トランジスタ特性のオン電流および電界効果移動度が上昇し、トランジスタ性能が向上する。
【0042】
前記プレアニールの後、酸化物半導体層4の表面を保護するため、保護膜5として例えばシリコン酸化膜(SiO
2膜)を、上述の方法で形成することが挙げられる。
【0043】
次いで、酸化物半導体層4と、次に形成するソース・ドレイン電極6とのコンタクトを取るため、フォトリソグラフィおよびドライエッチングを施してパターニングを行う。
【0044】
それからソース・ドレイン電極6を形成する。ソース・ドレイン電極6の種類は特に限定されず、汎用されているものを用いることができる。例えば前記ゲート電極2と同様に、AlやCuなどの金属または合金を用いても良いし、後記する実施例のようにMo薄膜を用いても良い。
【0045】
ソース・ドレイン電極6の形成方法として、例えばマグネトロンスパッタリング法により金属薄膜を成膜した後、リフトオフ法で形成することが挙げられる。
【0046】
次に、ソース・ドレイン電極6の上に表面保護膜(絶縁膜)7を形成する。該表面保護膜7は、例えばCVD法で成膜することが挙げられる。前記表面保護膜7としては、シリコン酸化膜(SiO
2膜)、シリコン窒化膜(SiN膜)、シリコン酸窒化膜(SiON膜)、またはこれらの積層膜が挙げられる。
【0047】
次に、フォトリソグラフィ、およびドライエッチングにより、前記表面保護膜7にコンタクトホールを形成した後、透明導電膜8を形成する。該透明導電膜8の種類は特に限定されず、通常用いられるものを使用することができる。
【実施例】
【0048】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0049】
まず、ガラス基板(コーニング社製イーグルXG、直径100mm×厚さ0.7mm)上に、ゲート電極用薄膜としてMo薄膜(膜厚100nm)を成膜し、公知の方法でパターニングしてゲート電極を得た。前記Mo薄膜は、純Moスパッタリングターゲットを使用し、DCスパッタリング法により、成膜温度:室温、成膜パワー:300W、キャリアガス:Ar、ガス圧:2mTorrの条件で成膜した。
【0050】
次に、ゲート絶縁膜としてSiO
2膜(200nm)を成膜した。該ゲート絶縁膜の成膜は、プラズマCVD法を用い、キャリアガス:SiH
4とN
2Oの混合ガス、成膜パワー:100W、成膜温度:300℃の条件で成膜した。
【0051】
次いで、酸化物半導体層(膜厚:40nm)としてIZTO薄膜(組成は、In:Zn:Sn=20:53:27)を、下記の成膜条件で、IZTOスパッタリングターゲットを用いてスパッタリング法により成膜した。
(IZTO薄膜の成膜条件)
スパッタリング装置:(株)アルバック製「CS−200」
基板温度:室温
ガス圧:1mTorr
酸素分圧:[O
2/(Ar+O
2)]×100=4%
【0052】
上記のようにして酸化物半導体層を成膜した後、フォトリソグラフィおよびウェットエッチングによりパターニングを行った。ウェットエッチャント液としては、関東科学製「ITO−07N」(シュウ酸と水の混合液)を使用し、液温を40℃とした。
【0053】
上記のようにして酸化物半導体層をパターニングした後、酸化物半導体層の膜質を向上させるため、プレアニール処理を行った。プレアニール処理は、水蒸気中、大気圧下にて、350℃で1時間行った。
【0054】
次に、上記IZTO薄膜(酸化物半導体層)の表面を保護するため、保護膜としてSiO
2膜(膜厚100nm)を形成した。このSiO
2膜の形成には、サムコ製「PD−220NL」を用い、プラズマCVD法を用いて行った。本実施例では、N
2OおよびSiH
4の混合ガスを用い、下記および表3に示す条件で成膜した。
(保護膜の成膜条件)
成膜温度:150℃、200℃
ガス圧:133Pa
成膜パワー:100W
SiH
4/N
2O流量比:0.003、0.04、0.06
【0055】
前記保護膜に対し、酸化物半導体層とソース・ドレイン電極とのコンタクトを取るため、フォトリソグラフィおよびドライエッチングを施してパターニングを行った。
【0056】
次に、リフトオフ法によりソース・ドレイン電極を形成した。具体的にはフォトレジストを用いてパターニングを行った後、Mo薄膜をDCスパッタリング法により成膜(膜厚は100nm)した。ソース・ドレイン電極用Mo薄膜の成膜方法は、前述したゲート電極の場合と同じである。次いで、アセトン液中で超音波洗浄器にかけて不要なフォトレジストを除去し、TFTのチャネル長を10μm、チャネル幅を200μmとした。
【0057】
前記ソース・ドレイン電極を形成した後、表面保護膜を形成した。該表面保護膜として、SiO
2膜(膜厚100nm)とSiN膜(膜厚150nm)の積層膜(合計膜厚250nm)を形成した。前記SiO
2膜およびSiN膜の形成は、サムコ製「PD−220NL」を用い、プラズマCVD法を用いて行った。本実施例では、SiO
2膜、SiN膜の順に形成した。前記SiO
2膜の形成にはN
2OおよびSiH
4の混合ガスを用い、前記SiN膜の形成にはSiH
4、N
2、NH
3の混合ガスを用いた。いずれの場合も成膜パワーを100W、成膜温度を150℃とした。
【0058】
次に、フォトリソグラフィおよびドライエッチングにより、表面保護膜にトランジスタ特性評価用プロービングのためのコンタクトホールを形成した。
【0059】
このようにして得られた各TFT素子を用い、以下の通り、突起の評価およびトランジスタ(TFT)特性の評価を行った。
(1)突起の評価
(1−1)突起の最大高さ
TFT素子の酸化物半導体層とこの酸化物半導体層に直接接触する保護膜との界面を含む、膜厚方向の断面を観察できるように、TFT素子に加工を施した。該加工は、FIB(Focused Ion Beam,集束イオンビーム)、詳細にはGaイオンビームを用いて行った。
【0060】
そして、前記加工領域が界面方向長さで1〜2μm程度の観察用試料を、TEMにて、まず低倍率(150,000倍)でおおまかに観察し、界面が粗く見える部分を、更に高倍率(1,500,000倍)で観察して突起の有無や突起のサイズを確認した。詳細には、観察像(TEM像)において、酸化物半導体層の接する下地(ゲート絶縁膜等)のうねりを反映せずに、凸部が形成されている部分を「突起」と判定し、この凸部の最大点と、視野内の前記酸化物半導体層と前記保護膜の界面(ライン)の最低点との差を「突起の最大高さ」とした(凸部の形成されている酸化物半導体層の下地にうねりがある場合は、うねりの高低を差し引いてから最低点を求めた)。
【0061】
上記方法により、突起の最大高さを求め、下記判定基準により評価した。本実施例では○および△の場合を、酸化物半導体層と保護膜の界面状態が良好であると評価した。
(判定基準)
○・・・突起の最大高さが2nm未満
△・・・突起の最大高さが2nm以上5nm未満
×・・・突起の最大高さが5nm以上
【0062】
(1−2)突起の成分組成
前記断面における酸化物半導体層の膜厚中心部および突起の、In、Sn、Znの各含有量を、EDX(エネルギー分散型X線分光法)により測定した。そして、各金属元素の濃度(全金属元素に占める割合)を、下記式(1)〜(3)を用いて算出した。
Inの濃度(原子%)=[In/(In+Sn+Zn)]×100・・・(1)
Snの濃度(原子%)=[Sn/(In+Sn+Zn)]×100・・・(2)
Znの濃度(原子%)=[Zn/(In+Sn+Zn)]×100・・・(3)
[上記式(1)〜(3)の右辺において、In、Sn、Znは、酸化物半導体層の膜厚中心部または突起の、In、Sn、Znの各含有量(原子%)を示す]
【0063】
そして、濃度比率X
In[=(突起中のInの濃度)/(酸化物半導体層中のInの濃度)]、濃度比率X
Zn[=(突起中のZnの濃度)/(酸化物半導体層中のZnの濃度)]、および濃度比率X
Sn[=(突起中のSnの濃度)/(酸化物半導体層中のSnの濃度)]を求め、下記判定基準で突起の成分組成の評価を行った。本実施例では○の場合を合格と評価した。
(判定基準)
○・・・濃度比率X
In、濃度比率X
Zn、および濃度比率X
Snのいずれもが0.5以上2以下
×・・・濃度比率X
In、濃度比率X
Zn、濃度比率X
Snの少なくともいずれかが0.5未満または2超
【0064】
参考までに、後述する表3のNo.3、No.4の測定結果を、それぞれ
図2、
図3に示す。
図2は、No.3の金属元素の濃度の分析位置を示すTEM観察写真であり、該写真中、〇が突起、△が酸化物半導体層の膜厚中心部の分析位置を示す。各分析位置の成分組成を測定した結果を表1に示す。
【0065】
【表1】
【0066】
この表1より、濃度比率X
In、濃度比率X
Snはいずれも1.7であり、所望の比率(0.5以上2以下)の範囲内にある。しかし、濃度比率X
Znは0.2であり、所望の比率の範囲を下回っている。よって、後記の表3において「濃度比率Xの判定」は×である。
【0067】
また
図3は、No.4の金属元素の濃度の分析位置を示すTEM観察写真であり、該写真中、〇が突起、△が酸化物半導体層の膜厚中心部の分析位置を示す。尚、No.4では、
図3に示す通り目立った突起がほとんどないため、前記酸化物半導体層の、前記保護膜と直接接触する面(界面)を分析した。各分析位置の成分組成を測定した結果を表2に示す。
【0068】
【表2】
【0069】
この表2より、濃度比率X
In、濃度比率X
Znおよび濃度比率X
Snはいずれも、所望の比率(0.5以上2以下)の範囲内にある。よって、後記の表3において「濃度比率Xの判定」は〇である。
【0070】
表3におけるその他の例も、上記No.3やNo.4と同様にして各濃度比率X(濃度比率X
In、濃度比率X
Zn、濃度比率X
Sn)を求め、判定を行った。その結果を表3に示す。
【0071】
(2)TFT特性の評価
次に、以下のようにして、トランジスタ特性(ドレイン電流−ゲート電圧特性、I
d−V
g特性)、しきい値電圧、電界効果移動度、ストレス耐性を調べた。
【0072】
(2−1)トランジスタ特性の測定
トランジスタ特性(TFT特性)の測定は、Agilent Technology社製「4156C」の半導体パラメータアナライザーを使用した。また測定は、試料のコンタクトホールへプローブをあてるようにして行った。詳細な測定条件は以下のとおりである。
ソース電圧:0V
ドレイン電圧:10V
ゲート電圧:−30〜30V(測定間隔:0.25V)
基板温度:室温
【0073】
(2−2)しきい値電圧(V
th)
しきい値電圧とは、おおまかにいえば、トランジスタがオフ状態(ドレイン電流の低い状態)からオン状態(ドレイン電流の高い状態)に移行する際のゲート電圧の値である。本実施例では、ドレイン電流が、オン電流とオフ電流の間の1nA付近であるときの電圧をしきい値電圧と定義し、各TFTのしきい値電圧を測定した。本実施例では、V
th(絶対値)が5V以下のものを合格とした。これらの結果を表3に示す。
【0074】
(2−3)電界効果移動度μ
FE
電界効果移動度μ
FEは、TFT特性からV
d>V
g−V
thである飽和領域にて導出した。飽和領域ではV
g、V
thをそれぞれゲート電圧、しきい値電圧、I
dをドレイン電流、L、WをそれぞれTFT素子のチャネル長、チャネル幅、C
iをゲート絶縁膜の静電容量、μ
FEを電界効果移動度とし、μ
FEを下記式(4)から導出した。本実施例では、飽和領域を満たすゲート電圧付近におけるドレイン電流−ゲート電圧特性(I
d−V
g特性)から電界効果移動度μ
FEを導出した。そして移動度が10cm
2/Vs以上の場合を合格とした。その結果を表3に示す。
【0075】
【数1】
【0076】
(2−4)ストレス耐性の評価(ストレスとして光照射+負バイアスを印加)
本実施例では、実際のパネル駆動時の環境(ストレス)を模擬して、ゲート電極に負バイアスを印加しながら光を照射するストレス印加試験を行った。ストレス印加条件は以下のとおりである。光の波長としては、酸化物半導体のバンドギャップに近く、トランジスタ特性が変動し易い400nm程度を選択した。
(試験条件)
ゲート電圧:−20V
基板温度:60℃
光ストレス条件
波長:400nm
照度(TFTに照射される光の強度):0.1μW/cm
2
光源:OPTOSUPPLY社製LED(NDフィルターによって光量を調整)
ストレス印加時間:2時間
【0077】
ストレス印加前後のしきい値電圧(V
th)を上記の方法で測定し、その差(ΔV
th)を測定した。このようにして算出されたΔV
thについて、下記判定基準で評価した。そして本実施例では○の場合をストレス耐性に優れると評価した。その結果を表3に示す。
(判定基準)
○・・・ΔV
th(絶対値)が15V未満
×・・・ΔV
th(絶対値)が15V以上
【0078】
【表3】
【0079】
表3より次の様に考察できる。No.1、2および4と、No.3との対比から、ストレスを与えない状態では特性(V
th、移動度)に違いはみられなかったが、ストレスを印加すると、突起の最大高さ等を制御したNo.1、2および4の方が、No.3よりもΔV
thが小さく、ストレス耐性に優れていることがわかる。