(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、
図1〜
図8を参照して本発明の実施形態に係る埋込磁石型同期電動機について説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る埋込磁石型同期電動機の概略構成を示す断面図である。
図1に示す電動機100は、軸線L0を中心に回転する略円筒形状の回転子1と、回転子1の全周を包囲するように、回転子1の周囲に配置された略円筒形状の固定子2(周方向一部の図示を省略)とを有する。固定子2は、電磁鋼板を軸方向に積層してなる固定子コア3を有する。固定子コア3の内周面には、周方向複数のスロット溝3aが径方向外側に向けて形成され、スロット溝3aにコイル4が配置されている。
【0010】
回転子1は、電磁鋼板を軸方向に積層してなり、全周にわたって円筒状の内周面10aと外周面10bとを有する回転子コア10と、回転子コア10に周方向複数個所に開口され、軸線L0に対し平行に延在する複数のスロット孔20と、各スロット孔20に装填された(埋め込まれた)複数の永久磁石30とを有する。磁石30は、周方向に隣り合うスロット孔20に、径方向に向けて互いに異なる磁極が位置するように収容されている。したがって、回転子コア10の外周面10bに沿ってN極とS極とが交互に形成され、図では、極数が12極となっている。回転子1は、コイル4に3相交流を流して回転磁界を発生させることで、回転磁界に同期して回転する。
【0011】
本実施形態に係る電動機100は、例えばビルトインモータとして工作機械の主軸に組み込まれる。すなわち、主軸の外周面に回転子コア10の内周面10aが焼嵌め等により固定される。一般に、工作機械の主軸には、十分な加工精度を確保するために高い剛性が要求される。主軸の剛性を高めるためには、主軸を大径化して、断面二次モーメントを大きくする必要がある。このため、回転子1は主軸の直径に対応した比較的大きい内径を有する。一方、回転子1には主軸を高速回転させる機能が要求され、そのためには遠心力によって作用する回転子1の最大応力を抑える必要がある。
【0012】
図2は、
図1の回転子1の要部構成を拡大して示す図であり、とくにスロット孔20の端部の形状を示している。
図2に示すように、スロット孔20は、磁石30が収容される収容部21と、収容部21に連なり、収容部21の側方に開口された開口部22とを有する。なお、
図1に示すように、スロット孔20および磁石30は周方向対称形状を呈し、開口部22は収容部21の周方向両側に形成されている。このため、
図2に示すように、回転子コア10は、周方向に隣り合う開口部22と開口部22との間に、径方向に延在する歯部23(q軸歯部)を有する。
【0013】
歯部23は、回転子1のリラクタンストルクの発生に寄与するため、リラクタンストルクを大きくするためには、周方向の幅W(q軸歯幅)はできるだけ大きい方が好ましい。一方、q軸歯幅を大きくすると、磁石30の幅が狭くなり、磁束が減少するとともに、インダクタンスが大きくなり、電圧不足に陥るおそれがある。この点を考慮して、q軸歯幅が設定される。すなわち、リラクタンストルクの利用度合いを高める場合には、q軸
歯幅を大きくし、リラクタンストルクの利用度合いを高める必要がない場合には、q軸歯幅を小さくする。
【0014】
開口部22は、磁石30の側方における磁束の短絡を防止するために設けられる。例えば、
図3に示すように磁石30の側方に開口部22がない場合、磁束の一部は固定子2を経由せず、図の矢印に示すように磁石30の対極側に回り込む。すなわち、磁束が短絡(ショートカット)する。このような磁束の短絡はトルクの発生に寄与しないため、磁束の短絡をできるだけ抑える必要がある。そこで、本実施形態では、
図2に示すように磁石30の側方に電磁鋼板(いわゆる鉄心)が存在しない部分(開口部22)を設け、磁束が効率的に固定子2を通過するように構成する。なお、開口部22は単なる空隙でもよく、樹脂等の非磁性体を充填するようにしてもよい。
【0015】
このような埋込磁石型電動機100において、回転子1が回転した際に回転子コア10に作用する応力が高くなりやすい領域は、開口部22の径方向外側の部分(以下、ブリッジ部24と呼ぶ)と、スロット孔20の内径側の鉄心部分(以下、スロット孔内径部25と呼ぶ)である。このうち、スロット孔20の内径側の部分は、スロット孔内径部25の径方向の厚さ(断面積)が最小となる部分において特に応力が大きくなる。このスロット孔内径部25の最大応力は、回転子1の内径を小さくする等、断面積を適宜変更することで、低減することができる。
【0016】
一方、ブリッジ部24については、回転子1の内径を小さくしても応力低減効果が得られない。その理由は、ブリッジ部24には、磁石30の質量による遠心力と回転子コア10のスロット孔20の径方向外側部分の質量による遠心力とによって、主に周方向の引張応力が作用するからである。とくに、本実施形態では、回転子1が高速回転するため、ブリッジ部近傍に作用する応力が大きくなりやすい。そこで、本実施形態では、ブリッジ部近傍に作用する最大応力を低減するために、以下のように回転子1を構成する。なお、スロット孔内径部25の破損は電動機全体に大きな被害をもたらすため、スロット孔内径部25の最大応力がブリッジ部24の最大応力よりも小さくなるように構成することが好ましい。
【0017】
図2に示すように、スロット孔20の収容部21は、軸線L0を中心とした円の接線方向に延在する外径側収容辺211と、外径側収容辺211よりも内径側において軸線L0を中心とした円の接線方向に延在し、外径側収容辺211に対向する内径側収容辺212とにより形成されている。これら一対の収容辺211,212は、互いに平行かつそれぞれ直線状に延在し、断面矩形状の磁石30が収容部21に装填されている。
【0018】
磁石30は、磁石30のN極およびS極を形成する一対の磁極面301,302の長さが磁極面301,302に交差する一対の側面303よりも長く、断面長方形状を呈する。磁極面301,302の中心を通る中心線L1により磁石30の向きを定義すると、磁石30(中心線L1)は、軸線L0を中心とした円の接線方向に延在している。
【0019】
磁石30は、フェライト磁石よりも磁気エネルギーの大きい磁石、例えば希土類磁石によって構成することが好ましい。希土類磁石としては、例えばネオジム−鉄−ボロン系の希土類磁石を用いることができる。これにより磁石30の厚さを薄くすることができ、回転子1の内径を容易に大きくすることができる。また、磁石30を薄肉化すると、磁石30の質量による遠心力が減少するため、ブリッジ部24に作用する応力を低減することができる。
【0020】
スロット孔20の開口部22は、外径側収容辺211から周方向に延在する外径側開口辺221と、外径側開口辺221に対向し、内径側収容辺212から周方向に延在する内径側開口辺222と、外径側開口辺221と内径側開口辺222とを接続する接続辺223とにより形成される。なお、スロット孔20は軸線L0方向に延在しており、
図2の各辺211,212,221〜223は、それぞれ軸線方向に延在する面を定義する。
【0021】
図中の点線S1は、外径側収容辺211と外径側開口辺221との接続点P1と軸線L0とを結ぶ線であり、点線S2は、歯部23の幅Wが最小となる接続辺223上の点P2と軸線L0とを結ぶ線である。これら点線S1,S2と外径側開口辺221と、回転子コア10の外周面10bとによって囲まれる領域が、ブリッジ部24となる。
【0022】
外径側開口辺221は、径方向外側に凸状の滑らかな曲線(例えば曲率半径がr1の円弧)によって形成され、外径側開口辺221と外径側収容辺211および接続辺223とは滑らかに接続されている。外径側開口辺221の曲率半径r1は、軸線L0から外径側開口辺221までの長さより小さい。したがって、外径側開口辺221から回転子コア10の外周面10bまでの径方向の長さは、ブリッジ部24の周方向両端部241,242から周方向中間部243にかけて徐々に小さくなっている。すなわち、ブリッジ部24の点線S1,S2上の長さΔL1,ΔL2よりも中間部243における径方向長さΔL3の方が小さくなっており、ブリッジ部24は中間部243において最小厚さとなっている。なお、ブリッジ部24の両端部241,242における厚さΔL1,ΔL2は互いにほぼ等しい。
【0023】
外径側開口辺221を単一の円弧ではなく、複数の円弧を組み合わせた滑らかな複合曲線により構成してもよい。この場合、最大曲率半径が、軸線L0から外径側開口辺211の最外径部までの長さよりも小さくなるように、換言すると、固定子コア10の外周面10bを最小厚さΔL3分だけ内径側にオフセットした円弧の曲率半径よりも小さくなるようにすればよい。ここで、「滑らか」とは、応力集中を抑えるように外径側開口辺221の曲線を構成することを意味する。例えば、曲率半径の異なる複数の曲線を接続して外径側開口辺221を構成する場合、両者が幾何学的に接する関係、すなわち、複数の曲線の接点において両者が共通の接線を有するように接続することが好ましい。
【0024】
接続辺223は、開口部22の周方向外側に向けて凸状に形成され、外径側開口辺221と内径側開口辺222と磁石30の側面303とによって囲まれた開口部22は、全体が略三角形状を呈する。接続辺223は、単一の円弧からなる曲線または複数の円弧を組み合わせた滑らかな複合曲線により構成することができる。この接続辺223を構成する円弧の曲率半径(複合曲線の場合には曲率半径の最小値)は、開口辺221,222の曲率半径よりも小さい。本実施形態では、内径側開口辺222の端部に凸部22bを設けているが、この凸部22bを無視すると、接続辺223の曲率半径は、開口部22を形成する辺の中で最小である。
【0025】
接続辺223を凸状に形成することで、歯部23にくびれ部(点P2)が形成される。このため、歯部23は周方向の幅が一定の直線部分を有さず、歯部幅W(q軸歯幅)は、くびれ部で最小となる。これに対し、本実施形態の比較例である
図4に示すように、開口部22が外径側および内径側の一対の辺221a,222aと径方向に延在する辺223aとにより構成されると、歯部23は幅Wが一定の直線部分を有することとなる。
【0026】
図2に示すように、内径側開口辺222は、接続
辺223から内径側に斜めに傾斜した直線部22aと、開口辺222と収容辺212の境界部において径方向外側に突出した凸部22bとを有する。内径側開口辺222は、接続辺223から直線部22a、凸部22bおよび内径側収容辺212にかけて滑らかに接続されている。
【0027】
直線部22aを内径側に傾斜して設けることで、開口部22の径方向の最大長さ(
図5のD2)を拡大することができる。凸部22bは、収容部21における磁石30の位置を規制する位置決め部として機能する。外径側開口辺221に比べて応力が小さい内径側開口辺222に凸部22bを設けているので、凸部22bの近傍における応力は、ブリッジ部24に作用する最大応力よりも小さい。
【0028】
以上のように構成された本実施形態に係る電動機100において、回転子1が回転すると、磁石30およびスロット孔20の径方向外側部分の遠心力によりブリッジ部24に応力が作用する。この場合、外径側開口辺221の端部(例えば接続辺223側の端部241)においてブリッジ部24の断面形状が急激に変化するが、開口部22は略三角形状であるため、端部241の径方向厚さΔL1は中間部243の径方向長さΔL3に比べて長い。このため、ブリッジ部24の断面積が最小である中間部243において応力が最大となる。
【0029】
本実施形態では、外径側開口辺221が直線部分を含まない滑らかな曲線により構成されている。このため、中間部243の応力集中が抑えられ、ブリッジ部24の最大応力を低減することができる。すなわち、ブリッジ部24に作用する応力は中間部243を中心として両端部241,242にかけて緩やかに減少し、ブリッジ部24の全域の
広範囲にわたって緩やかに応力が変化する変化域が生じる。これにより、中間部243の最大応力を抑えることができ、回転子1の高回転が可能となる。
【0030】
これに対し、
図4に示すようにブリッジ部24の径方向厚さΔLが周方向にわたって一定となるように外径側の辺221aを構成すると、辺221aの周方向両端部A1,A2においてブリッジ部24の断面形状が急激に変化する。この場合、ブリッジ部24の両端部A1,Aに最大応力が発生する。この最大応力の発生する部位A1,A2の曲率半径は、本実施形態の最大応力が発生する部位(中間部243)の曲率半径よりも小さいため、
図4の構成では最大応力が大きくなりやすい。その結果、A1,A2の2箇所を起点としてブリッジ部24が破断し、破断部分が径方向に飛散して、電動機100が大きく損傷するおそれがある。
【0031】
なお、
図4の開口部22の辺221aを、例えば軸線L0を中心とした円の接線方向に沿って直線状に形成した場合には、ブリッジ部24の両端部の断面積が最小となる。このため、A1、A2における最大応力が一層増大し、ブリッジ部24はA1,A2を起点としてより破断しやすくなる。
【0032】
本実施形態の回転子1において、開口部22の周方向および径方向の長さは以下のように構成することが好ましい。
図5は、開口部22の周方向および径方向の長さの設定を説明する図である。
図5に示すように、歯部23の幅が最小となる接続辺
223上の点P
2から磁石30の側面303までの最短距離をD1、開口部22の径方向長さの最大値をD2、磁石の厚さ(磁極面間の距離)をD3とする。
【0033】
このとき、D1はD2よりも長く、D2はD3よりも長い。例えばD1はD3の1.5倍以上であり、開口部22は周方向および径方向に十分な長さを有する。このため、図示のように回転子1に減磁方向の磁界が作用すると、減磁界は開口部22よりも磁気抵抗の小さいブリッジ部24を通過するようになり、磁石30が減磁されにくい。
【0034】
これに対し、
図4に示すように開口部22の周方向および径方向の長さが磁石30の厚さよりも短い場合、開口部22の磁気抵抗が十分に大きくならず、減磁界が図の矢印のように開口部22を通過する。その結果、磁石30の角部が減磁されるおそれがある。
【0035】
本実施形態によれば以下のような作用効果を奏することができる。
(1)回転子1のスロット孔20に、磁石30が収容される収容部21と、収容部21の周方向両側に開口された開口部22とを設けた。すなわち、互いに対向して周方向に延在する外径側収容辺211および内径側収容辺212により収容部21を形成するとともに、外径側収容辺211から周方向に延在する外径側開口辺221と、内径側収容辺212から周方向に延在する内径側開口辺222と、これら開口辺221,222を接続する接続辺223とにより開口部22を形成した。そして、外径側開口辺221から回転子コア10の外周面10bまでの径方向の長さが、その周方向両端部241,242から周方向中間部243にかけて徐々に小さくなるように外径側開口辺221を曲面状に形成した。すなわち、外径側開口辺221を径方向外側に向けて凸状に形成し、中間部243にブリッジ部24の径方向厚さの極小値が生じるようにした。
【0036】
これにより、ブリッジ部24は中間部243で径方向の断面積が最小となって、断面形状が緩やかに変化する中間部243において最大応力が作用するようになる。その結果、ブリッジ部24に作用する最大応力を低減することができ、回転子1を高速回転させることができる。最大応力はブリッジ部24の複数個所ではなく1箇所(中間部243)に作用するため、仮にその部位が破断しても、ブリッジ部24が固定子2側に飛散することを防止できる。
【0037】
(2)接続辺223を、開口部22の周方向外側に向けて凸状をなす曲面状に構成するので、ブリッジ部24の周方向端部241の断面積を容易に増大させることができ、周方向端部241の応力を低減することができる。また、開口部22が略三角形状となり、開口部22の外径側開口辺221および内径側開口辺222に沿って磁束を効率よく通過させることができる。
【0038】
(3)スロット孔20の収容部21をなす外径側収容辺211および内径側収容辺212を、それぞれ平坦かつ互いに平行に形成するようにしたので、収容部21には凹凸がなく、収容部21の応力集中を抑えることができる。また、収容部21の形状に対応して長方形断面の磁石30を用いることができ、磁石30の構成も容易である。
【0039】
(4)回転子コア10が凹凸のない円弧状の外周面10bを全周にわたって有するようにしたので、ブリッジ部24の径方向の厚さが滑らかに変化するようになり、応力集中を軽減することができる。また、外周面10bにおける形状的な応力集中も防ぐことができる。
【0040】
(5)フェライト磁石よりも磁気エネルギーの高い希土類磁石により磁石30を構成すれば、少ない磁石で必要な磁束を得ることができ、必要トルクを得るための磁石30の体積を抑えることができる。その結果、磁石30の質量により作用する遠心力が減少し、回転子1の高速化が可能となる。
【0041】
(6)回転子コア10の歯部23の幅Wが最小となる接続辺223上の点P2から磁石30の側面303までの開口部22の長さD1を、磁石30の径方向の厚さD3よりも長くした。これにより、開口部22における磁気抵抗が大きくなり、減磁方向の磁界が作用した際に、磁石30の角部および開口部22を通って歯部23へと抜ける減磁界を低減することができる。
【0042】
(7)開口部22の径方向における最大長さD2を、磁石30の径方向の厚さD3よりも長くしたので、開口部22における磁気抵抗が径方向においても大きくなり、磁石30の角部の減磁作用を抑えることができる。
【0043】
(8)開口部22の内径側開口辺222に、径方向外側に向けて突出した凸部22bを設けるようにしたので、凸部22bにより磁石30を収容部21に容易に位置決めすることができる。この場合、開口部22の内径側は外径側に比べて径方向の厚さが厚く、発生する応力は小さいので、凸部22b近傍の応力は過大とならずに済む。
【0044】
(9)内径側開口辺222に、周方向に直線状に延在する直線部22aを設けるようにしたので、内径側磁極面302へスムーズに磁束を通すことができる。すなわち、磁束が余計な弧を描かずに最短距離で通るようになり、効率的である。
【0045】
なお、上記実施形態では、回転子1の極数を12極としたが、極数はこれより多くても少なくてもよい。例えば、4極、6極、8極等、極数が少ない場合、周方向の磁石30の幅が長くなり、磁石30の質量が増大して、ブリッジ部24に作用する応力も増加する。この場合には、スロット孔20と磁石30をそれぞれ周方向で2分割し、分割された一対のスロット孔20,20の間に回転子コア10が介在することで、ブリッジ部24に作用する応力を軽減することができる。以下、この点について説明する。
【0046】
図6は、スロット孔20と磁石30を周方向で2分割した回転子1の一例を示す図である。
図6に示すように、各スロット孔20は、その周方向中間部である回転子コア10の分断部26を介して2分割され、軸線L0を中心とした円の接線方向に沿って一対のスロット孔201,202(第1スロット孔201、第2スロット孔202)が並設されている。第1スロット孔201および第2スロット孔202には、径方向に互いに同一の磁極が位置するようにそれぞれ磁石31,32が収容されている。
【0047】
このように回転子コア10に分断部26を設けてスロット穴20を第1スロット孔201と第2スロット孔202とに周方向に分断することで、分断部26で遠心力を受け持つことができる。その結果、ブリッジ部24に負荷される荷重が軽減され、ブリッジ部24の最大応力を低減することができる。
【0048】
また、第1スロット孔201と第2スロット孔202は、軸線L0を中心とした円の接線方向に沿って直線状に並設されているので、分断部26が回転子コア10の外径寄りに位置し、回転子コア10の大内径化を容易に実現できるとともに、回転子コア10の内径部における過大な応力の発生を防止することができる。すなわち、例えば
図7に示すように一対のスロット孔201a,202aをV字状に配置すると、スロット孔20の周方向端部Aにおける回転子コア10の肉厚ΔLが極小となり、端部Aに過大な応力が作用する。これを避けるためには、回転子コア10の内径を小さくして肉厚ΔLを増加させる必要があり、回転子コア10の大内経化を阻害する。
【0049】
なお、上記実施形態(
図2)では、外径側収容辺211(第1外径面)と内径側収容辺212(第1内径面)をそれぞれ直線状に形成したが、互いに対向して周方向に延在するのであれば、第1外径面と第1内径面の構成、すなわち収容部21の構成は上述したものに限らない。また、外径側収容辺211から周方向に延在する外径側開口辺221(第2外径面)と、内径側収容辺212から周方向に延在する内径側開口辺222(第2内径面)と、これら開口辺221,222を接続する接続辺223(接続面)とにより開口部21を形成したが、これら第2外径面、第2内径面および接続面の構成、すなわち開口部の構成も上述したものに限らない。
【0050】
接続辺223を周方向外側に向けて凸状に形成し、開口部22を略三角形状としたが、外径側開口辺222から回転子コア10の外周面10bまでの径方向の距離(ブリッジ部24の径方向長さ)が、その周方向両端部241,242から周方向中間部243にかけて徐々に小さくなるように、外径側開口辺221が曲面状に形成されるのであれば、開口部22の形状は上述したものに限らず、例えば略四角形状でもよい。したがって、周方向に隣り合う一対の開口部22の間の歯部23(非スロット孔部)の形状も上述したものに限らない。歯部23に直線部がある場合であっても、その歯部23の幅Wが最小となる接続辺223上の点から磁石30の側面303までの開口部22の長さD1は、磁石30の径方向の厚さD3よりも長いことが好ましい。
【0051】
内径側開口辺22に直線部22aと位置決め用の凸部22bとを設けたが、内径側開口辺22の形状には種々のもの考えられる。例えば、
図8に示すように、直線部22aの代わりに、径方向内側に凸状をなす曲線部22cを設けるようにしてもよい。これによっても、内径側磁極面302へスムーズに磁束が通り、効率的な磁束の流れが可能である。内径側開口辺22が、直線部22aと曲線部22cの両方を有するものとしてもよい。上記実施形態では、回転子コア10の外周面10bを、全周にわたって凹凸のない円弧状に形成したが、外周面10bのうち、少なくともブリッジ部24の外周面を凹凸のない円弧状に形成するのであれば、他の部位に凹凸があってもよい。例えば、応力状態に与える影響が小さい歯部23の外周面に凹部を設けてもよい。
【0052】
なお、回転子コア10は、複数の電磁鋼板を軸方向に積層して一体に形成されるが、複数の電磁鋼板は、接着剤によって接合される接着鋼板として構成することが好ましい。例えば、電磁鋼板の表面(スロット孔20を除く全面)に熱可塑性の接着剤を塗布して複数の電磁鋼板を積層し、この積層された電磁鋼板に、治具等を用いて軸方向に所定の圧縮力を負荷する。さらに、圧縮力を負荷した電磁鋼板を電気炉に入れて、接着剤が溶融する温度まで加熱した後に冷却し、電気炉から取り出す。これにより接着剤を介して複数の電磁鋼板が一体に接合される。このように接着剤を用いて回転子コア10を形成すると、複数の電磁鋼板を結合するための構造的な結合部を設ける必要がなく、新たな応力集中の発生を抑えることができる。
【0053】
電磁鋼板を結合する他の方法として、例えばカシメによる結合と、ボルト(タイボルト)による結合が考えられる。カシメにより電磁鋼板を結合する場合、まず、各電磁鋼板の一部分(例えば内周縁部)を金型によってせん断し、せん断箇所を軸方向に折り曲げて塑性変形させ、突き出し部を形成するとともに電磁鋼板の内周縁部に凹部を形成する。この突き出し部を、隣接する電磁鋼板の凹部に押し込み、電磁鋼板同士を結合する。この場合、突き出し部と凹部がカシメ部となり、カシメ部が周方向複数個所に存在する。カシメ部には応力集中が発生するため、カシメによる結合は、高速回転する回転子コア10に適用するには不向きである。
【0054】
また、タイボルトにより電磁鋼板を結合する場合、各電磁鋼板に貫通孔を穿設し、積層した電磁鋼板の貫通孔に軸方向全長にわたりタイボルトを挿入し、タイボルトの端部にナットを締結する。このように複数の電磁鋼板をタイボルトを介して締結すると、貫通孔が新たな応力集中箇所となるため、この場合も、高速回転する回転子コア10に適用するには不向きである。
【0055】
回転子1の周囲に固定子2を配置して埋込磁石型同期電動機100を構成するのであれば、電動機100の構成は
図1に示したものに限らない。上記実施形態では、埋込磁石型同期電動機100を工作機械の主軸駆動用として用いるようにしたが、他の機械にも同様に適用することができる。
【0056】
以上の説明はあくまで一例であり、本発明の特徴を損なわない限り、上述した実施形態および変形例により本発明が限定されるものではない。上記実施形態および変形例の構成要素には、発明の同一性を維持しつつ置換可能かつ置換自明なものが含まれる。すなわち、本発明の技術的思想の範囲内で考えられる他の形態についても、本発明の範囲内に含まれる。また、上記実施形態と変形例の1つまたは複数を任意に組み合わせることも可能である。