(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5722363
(24)【登録日】2015年4月3日
(45)【発行日】2015年5月20日
(54)【発明の名称】軸落下防止機能を有する電磁ブレーキ、電動機および機械
(51)【国際特許分類】
F16D 55/28 20060101AFI20150430BHJP
F16D 65/12 20060101ALI20150430BHJP
【FI】
F16D55/28 B
F16D65/12 Y
【請求項の数】5
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-22597(P2013-22597)
(22)【出願日】2013年2月7日
(65)【公開番号】特開2014-152852(P2014-152852A)
(43)【公開日】2014年8月25日
【審査請求日】2014年3月26日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】390008235
【氏名又は名称】ファナック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100102819
【弁理士】
【氏名又は名称】島田 哲郎
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100112357
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 繁樹
(74)【代理人】
【識別番号】100157211
【弁理士】
【氏名又は名称】前島 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100159684
【弁理士】
【氏名又は名称】田原 正宏
(72)【発明者】
【氏名】安田 龍矢
(72)【発明者】
【氏名】鴻上 弘
【審査官】
莊司 英史
(56)【参考文献】
【文献】
実開昭61−206136(JP,U)
【文献】
国際公開第2007/045418(WO,A1)
【文献】
特開平02−280644(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2004/0154422(US,A1)
【文献】
特開2003−222153(JP,A)
【文献】
特開2008−195310(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 55/28
F16D 65/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸周りに固定配置されたハブと、該ハブにスプライン嵌合して一体的に回転する摩擦板と、該摩擦板の一側に配置されていて固定された端板と、前記摩擦板の他側に配置されたアーマチュアと、該アーマチュアを前記端板に対して付勢する付勢部材と、該付勢部材の付勢力に抗して前記アーマチュアを磁気吸引する電磁コイルを備えたフィールドコアと、を含む電磁ブレーキにおいて、
前記摩擦板の嵌合面と前記ハブの嵌合面との間において前記回転軸の回転中心に対して対称的に配置された複数の弾性部材を具備し、該複数の弾性部材によって前記ハブが付勢される方向が前記回転軸の回転方向と一致するようにした、電磁ブレーキ。
【請求項2】
請求項1に記載の電磁ブレーキを内蔵した電磁ブレーキ付き電動機。
【請求項3】
重力によって落下する落下部位によって前記回転軸が回転する機械において、重力により前記落下部位が落下する際の前記回転軸の回転方向と、前記弾性部材によって前記ハブが付勢される方向とが一致するように、請求項1または2に記載の電磁ブレーキが前記回転軸に配置されている機械。
【請求項4】
前記弾性部材が、板バネである請求項1に記載の電磁ブレーキ。
【請求項5】
前記ハブの一つの凸部の対向する端面には前記板バネの両端部がそれぞれ取付けられており、前記板バネは前記一つの凸部の二つの傾斜面のうちの一方の傾斜面に沿って湾曲している、請求項4に記載の電磁ブレーキ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転軸を拘束して回転軸が落下するのを防止する電磁ブレーキ、電動機および機械に関する。
【背景技術】
【0002】
機械やロボット等の可動部を駆動するために、ブレーキ付き電動機が使用されている。例えば、そのようなブレーキは、該電動機の回転を停止して電動機への電源の供給が停止される際に、電動機の回転位置を保持する電磁ブレーキである。一般的に、電磁ブレーキは、回転軸周りに固定配置されたハブと、ハブにスプライン嵌合して一体的に回転する摩擦板と、摩擦板の一側に配置されていて固定された端板と、前記摩擦板の他側に配置されたアーマチュアと、アーマチュアを端板に対して付勢するコイルバネとを含んでいる。
【0003】
このような電磁ブレーキでは、ブレーキ解除時に摩擦板がアーマチュアおよび端板に押付けられないようにする必要がある。つまり、ハブと摩擦板との間の嵌合部分に隙間を設け、ブレーキ解除時に摩擦板を軸方向に移動させる必要がある。しかしながら、嵌合部分に隙間を設けた場合には、ブレーキ作動時に嵌合部分の隙間ぶんだけ回転軸が偏倚して、回転軸が微少距離だけ落下する可能性がある。
【0004】
また、特許文献1においては、ハブの嵌合面と摩擦板の嵌合面との間に弾性部材を配置している。つまり、ハブの嵌合面と摩擦板の嵌合面とを弾性部材で押圧することにより、嵌合部分の隙間を無くしている。これにより、回転時に二つの嵌合面が互いに衝突する音が発生するのが防止される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実開昭61-206136号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、単に弾性部材を配置しただけでは、ハブの中心軸と摩擦板の中心軸とが互いにズレる場合がある。このため、ブレーキ作動時に回転軸に重力負荷がかかると、摩擦板の中心軸が元位置まで戻ろうとして微小に移動する。その結果、従来技術の電磁ブレーキではブレーキ作動時に回転軸が微少に落下するのを防止できないという問題がある。
【0007】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、ブレーキ作動時であっても回転軸が微少に落下するのを防止する電磁ブレーキ、ならびにそのような電磁ブレーキを内蔵した電動機および機械を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前述した目的を達成するために1番目の発明によれば、回転軸周りに固定配置されたハブと、該ハブにスプライン嵌合して一体的に回転する摩擦板と、該摩擦板の一側に配置されていて固定された端板と、前記摩擦板の他側に配置されたアーマチュアと、該アーマチュアを前記端板に対して付勢する付勢部材と、該付勢部材の付勢力に抗して前記アーマチュアを磁気吸引する電磁コイルを備えたフィールドコアと、を含む電磁ブレーキにおいて、前記摩擦板の嵌合面と前記ハブの嵌合面との間において前記回転軸の回転中心に対して対称的に配置された複数の弾性部材を具備し、該複数の弾性部材
によって前記ハブが付勢される方向が前記回転軸の回転方向と一致するようにした、電磁ブレーキが提供される。
2番目の発明によれば、1番目の発明の電磁ブレーキを内蔵した電磁ブレーキ付き電動機が提供される。
3番目の発明によれば、重力によって落下する落下部位によって前記回転軸が回転する機械において、重力により前記落下部位が落下する際の前記回転軸の回転方向と、前記弾性部材によって前記ハブが付勢される方向とが一致するように、1番目または2番目の発明の電磁ブレーキが前記回転軸に配置されている機械が提供される。
4番目の発明によれば、1番目の発明において、前記弾性部材が、板バネである。
5番目の発明によれば、4番目の発明において、前記ハブの一つの凸部の対向する端面には前記板バネの両端部がそれぞれ取付けられており、前記板バネは前記一つの凸部の二つの傾斜面のうちの一方の傾斜面に沿って湾曲している。
【発明の効果】
【0009】
本発明においては、付勢方向が同一の回転方向であるように複数の弾性部材が摩擦板の嵌合面とハブの嵌合面との間において前記回転軸の回転中心に対して対称的に配置されている。このため、摩擦板の嵌合面とハブの嵌合面との間の隙間を予め無くすことができる。それゆえ、回転軸に負荷がかかった場合であっても、回転軸は偏倚せず、ブレーキ作動時に回転軸が微少に落下するのを防止することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明に基づく電磁ブレーキの軸方向断面図である。
【
図2B】
図2Aの円Aで囲まれた部分を拡大して示す部分拡大図である。
【
図5A】本発明の電磁ブレーキが内蔵された電動機とボールネジ装置とを示す図である。
【
図6】他の電磁ブレーキにおけるハブおよび摩擦板の部分拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態を説明する。以下の図面において同様の部材には同様の参照符号が付けられている。理解を容易にするために、これら図面は縮尺を適宜変更している。
図1は、本発明に基づく電磁ブレーキの軸方向断面図である。
図1に示されるように、電磁ブレーキ10は、回転軸、例えば図示しない電動機の回転軸11の周りに固定配置されたハブ12を含んでいる。図示されるように、回転軸11の周面には段部20が形成されており、ハブ12の一端は段部20に当接している。ハブ12には、スプライン嵌合して一体的に回転する摩擦板13が係合している。
【0012】
図1に示されるように、摩擦板13の一側には、フィールドコア18から離間して配置された端板14がボルト19によりフィールドコア
18に固定されている。そして、フィールドコア18は、摩擦板13の他側に配置されたアーマチュア15と、アーマチュア15を端板に対して付勢する付勢部材17、例えばバネとを備えている。さらに、フィールドコア18は、付勢部材17の付勢力に抗してアーマチュア15を磁気吸引する電磁コイル16を備えている。
【0013】
図2Aはハブおよび摩擦板の頂面図である。理解を容易にするために、
図2A等においては回転軸11の図示を省略している。
図2Aに示されるように、ハブ12の外周面には複数の凸部が形成されており、摩擦板13の内周面には複数の凹部が形成されている。これらハブ12および摩擦板13は互いにスプライン嵌合するよう寸法決めされている。従って、摩擦板13は、ハブ12に対し軸方向に移動することができる。
【0014】
再び
図1を参照すると、電磁ブレーキ10に電力が遮断されているときには、付勢部材17の力によってアーマチュア15が摩擦板13に押付けられる。このため、摩擦板13はアーマチュア15と端板14との間で保持され、摩擦板13は移動できなくなる。従って、電磁ブレーキ10がロック状態になる。
【0015】
そして、電磁ブレーキ10に電力を供給すると、電磁コイル16が駆動され、付勢部材17の付勢力に抗してアーマチュア15をフィールドコア18に吸引する。つまり、アーマチュア15が摩擦板13から離間するので、摩擦板13は端板14およびアーマチュア15から解放される。すなわち、電磁ブレーキ10がロック解除状態になる。
【0016】
ところで、
図2Bは
図2Aの円Aで囲まれた部分を拡大して示す部分拡大図である。
図2Bに示されるように、ハブ12の一つ凸部12aは、二つの傾斜面12b、12cを有する略台形型である。そして、摩擦板13の一つの凹部13aは、二つの傾斜面13b、13cを有していてハブ12の凸部12aに対応した略台形型である。
【0017】
図2Bから分かるように、摩擦板13の一つの凹部13aはハブ12の凸部12aよりも大きい。特に摩擦板13の傾斜面13b、13cの間の距離は、ハブ12の傾斜面12b、12cの間の距離よりも大きい。
図2Bにおいてはハブ12は反時計回りに回転するので、ハブ12の一方の傾斜面12bと摩擦板13の一方の傾斜面13bとが互いに接触している。
【0018】
また、
図2Cはハブの部分斜視図である。
図2Bおよび
図2Cに示されるように、ハブ12の他方の傾斜面12cには、弾性部材としての板バネ
25が配置されている。
図2Cから分かるように、板バネ
25の両端部は凸部12aの対向する端面のそれぞれに取付けられている。そして、板バネ
25の大部分は傾斜面12cに沿って湾曲している。このため、
図2Bにおいては、板バネ
25の取付部分
25aと湾曲部分
25bとを視覚的に区別して示されている。
【0019】
ここで、
図3はハブの拡大図である。
図3に示されるように、板バネ
25は円Aにおける凸部12aと凹部13aとの間だけでなく、
図3に破線で示される二つの円B、C内に位置する凸部と凹部との間にも同様に配置されている。
図3から特に分かるように、円A、B、Cは互いに正三角形をなす位置に配置されており、その結果、三つの板バネ
25は、
図3には示さない回転軸11に対して点対称に配置されている。つまり、三つの板バネ
25の付勢方向は、図示しない回転軸11の回転方向に概ね等しい。
【0020】
図3から分かるように、三つの板バネ
25のそれぞれの付勢力は、半径方向の力と周方向の力とに分けられる。そして、これら半径方向の力は互いに打ち消し合う。このため、周方向の力のみが残ることになる。
【0021】
図2Bを再び参照して分かるように、これら周方向の力によって、板バネ
25の湾曲部分
25bが摩擦板13の凹部13aの他方の傾斜面
13cを押圧する。その結果、ハブ12の凸部12aの一方の傾斜面12bが、凹部13aの一方の傾斜面13bを押圧する。従って、本発明においては、ハブ12の凸部12aの一方の傾斜面12bと摩擦板13の凹部13aの一方の傾斜面13bとの間に隙間(バックラッシ)は発生していない。
【0022】
さらに、本発明においては、三つの板バネ
25は回転軸11回りに互いに点対称に配置されている。このため、これら板バネ
25が対応する凹部を押圧したとしても、それら押圧力が互いにバランスし、ハブ12および摩擦板13が回転軸11からズレることはない。また、板バネ
25はその湾曲部分
25bのみが対応する凹部に接触しているのみであるので、摩擦板13が軸方向に移動するのを妨げることもない。
【0023】
これに対し、ハブの他の拡大図である
図4においては、一つの板バネ
25のみがハブ12に取付けられている。つまり、板バネ
25は回転軸11回りに点対称に配置されていない。このため、
図4の円Eで示される部分ではハブ12の凸部の先端と摩擦板13の凹部の底面との間に隙間が生じ、円Dで示される部分ではハブ12の凸部の先端と摩擦板13の凹部の底面との間に隙間が生じていない。つまり、
図4においては、ハブ12が回転軸11からズレていることになる。
【0024】
図5Aは本発明の電磁ブレーキが内蔵された電動機Mとボールネジ装置とを示す図である。
図5Aにおいては、電動機M内に電磁ブレーキ10が内蔵されているものとする。さらに、電動機Mの出力軸は、ボールネジ装置のネジ軸31に連結されている。この場合には、電磁ブレーキ10の回転軸11とネジ軸31とが同一であってもよい。ボールネジ装置は工作機械の一部分を構成するものとする。さらに、
図5Bはハブおよび摩擦板の斜視図である。
図5Aおよび
図5Bに示されるように、回転軸11を用いてハブ12を反時計回りに回転させると、ボールネジ装置のナット32は下降する。
【0025】
図5Bに示される三つの円A、B、Cには前述した板バネ
25が配置されている。前述したように、これら板バネ
25によって、ハブ12の凸部12aの一方の傾斜面12bは、摩擦板13の凹部13aの一方の傾斜面13bに押付けられる。従って、板バネ
25がハブ12を付勢する方向と、ナット32を下降させるハブ12の回転方向とは等しい。このような構成であるので、回転軸に負荷がかかった場合であっても、回転軸11は偏倚せず、ネジ軸31が重力により微少に落下するのを防止することができる。
【0026】
ところで、
図6は他の電磁ブレーキにおけるハブおよび摩擦板の部分拡大図である。
図6においては、板バネ
25が摩擦板13の凹部13aの他方の傾斜面13cに取付けられており、ハブ12の凸部12aには取付けられていない。
図6から分かるように、板バネ
25の両端は、傾斜面13cに軸方向に形成された段部に当接している。つまり、
図6に示される板バネ
25の向きは、
図2Cに示される板バネ
25の向きから90°だけズレている。
【0027】
このような場合には、板バネ
25の先端が凸部12aの他方の傾斜面12cを押圧する。従って、凸部12aの一方の傾斜面12bと凹部13aの一方の傾斜面13bとの間には隙間が生じないようになる。それゆえ、
図6に示される他の電磁ブレーキであっても、前述したのと同様な効果が得られるのが分かるであろう。
【符号の説明】
【0028】
10 電磁ブレーキ
11 回転軸
12 ハブ
12a 凸部
12b、12c 傾斜面
13 摩擦板
13a 凹部
13b、13c 傾斜面
15 アーマチュア
16 電磁コイル
17 付勢部材
18 フィールドコア
19 ボルト
25 板バネ(弾性部材)
25a 取付部分
25b 湾曲部分
31 ネジ軸
32 ナット
M 電動機