特許第5722458号(P5722458)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5722458試料の混合及び分析を容易にするために抗吸着剤を使用する装置及び方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5722458
(24)【登録日】2015年4月3日
(45)【発行日】2015年5月20日
(54)【発明の名称】試料の混合及び分析を容易にするために抗吸着剤を使用する装置及び方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 35/08 20060101AFI20150430BHJP
   G01N 37/00 20060101ALI20150430BHJP
   G01N 33/48 20060101ALI20150430BHJP
【FI】
   G01N35/08 A
   G01N37/00 101
   G01N33/48 B
【請求項の数】11
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-543348(P2013-543348)
(86)(22)【出願日】2011年12月8日
(65)【公表番号】特表2013-545114(P2013-545114A)
(43)【公表日】2013年12月19日
(86)【国際出願番号】US2011063981
(87)【国際公開番号】WO2012078896
(87)【国際公開日】20120614
【審査請求日】2013年6月25日
(31)【優先権主張番号】61/421,451
(32)【優先日】2010年12月9日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】501354521
【氏名又は名称】アボット ポイント オブ ケア インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100068021
【弁理士】
【氏名又は名称】絹谷 信雄
(72)【発明者】
【氏名】ラルプリア,ニテン・ヴィー
(72)【発明者】
【氏名】ウンフリヒト,ダリン・ダブリュー
(72)【発明者】
【氏名】ニコノロフ,イゴール
(72)【発明者】
【氏名】ポーツ,ベンジャミン
(72)【発明者】
【氏名】オルソン,ダグラス・アール
【審査官】 谷垣 圭二
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2010/111382(WO,A1)
【文献】 国際公開第2009/038628(WO,A1)
【文献】 特開2004−271514(JP,A)
【文献】 特開2006−046984(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48−33/98
G01N 35/00−37/00
G01N 15/00−15/10
G01N 27/00
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体の流体試料のための分析カートリッジにおいて、
流路と分析チャンバとを有するハウジングであって、前記流路は前記分析チャンバと流体連絡し、前記流路は少なくとも1つの疎水性の内壁面を含み、前記分析チャンバは画像分析される流体試料を間に受け取るように構成された少なくとも1つが透明である一組のパネルを含むハウジングと、
前記流体試料が前記ハウジング内に置かれるとき又は引き続き前記ハウジング内を通過する間に、前記流体試料と混合されるように前記ハウジングに提供される少なくとも1つの抗吸着剤であって、前記抗吸着剤は前記流体試料と混合可能であり、前記流路の前記内壁面に前記流体試料が吸着することを阻害するように機能し、前記抗吸着剤は前記分析チャンバ内に受け取られた前記流体試料が前記抗吸着剤と混合されるように前記ハウジング内に置かれる抗吸着剤と、
色素と溶解性添加剤との混合物の沈殿物であって、前記混合物は前記流体試料が前記ハウジング内に置かれるとき及び/又は引き続き前記ハウジング内を通過する間に、前記流体試料と混合されるように前記ハウジング内に置かれ、前記混合物は前記ハウジング内に置かれる前に混合され、前記混合物は前記流体試料と混合可能である沈殿物と、
を含む分析カートリッジ。
【請求項2】
前記溶解性添加剤はトレハロースを含む、請求項1に記載の分析カートリッジ。
【請求項3】
前記混合物は1:2から1:8の範囲の比率のトレハロースとアクリジンオレンジとを含む、請求項に記載の分析カートリッジ。
【請求項4】
前記溶解性添加剤はEDTA又はデンドリマの少なくとも1つを含む、請求項に記載の分析カートリッジ。
【請求項5】
前記混合物は5:1から15:1の範囲の比率のEDTAとアクリジンオレンジとを含む、請求項4に記載の分析カートリッジ。
【請求項6】
生体の流体試料を分析するための方法において、
流路と分析チャンバとを有する分析カートリッジを提供するステップであって、前記流路は前記分析チャンバと流体連絡し、前記流路は少なくとも1つの疎水性の内壁面を含み、前記分析チャンバは画像分析される流体試料を間に受け取るように構成された少なくとも1つが透明である一組のパネルを含むステップと、
前記分析カートリッジ内に色素と溶解性添加剤との混合物を置くステップであって、前記混合物は前記分析カートリッジ内に置かれる前に混合されるステップと、
1つ以上の抗吸着剤と前記流路内に置かれた前記流体試料とを混合するステップであって、前記抗吸着剤は前記流路の前記内壁面に前記流体試料が吸着することを阻害するように機能するステップと、
前記分析チャンバに前記流体試料を移動させるステップと、
前記分析チャンバに前記流体試料が移動される前に前記混合物と前記流体試料とを更に混合し、及び/又は前記分析チャンバ内で前記混合物と前記流体試料とを更に混合するステップと、
前記混合物と前記流体試料との更なる混合物の1つ以上の画像を生成するために前記分析チャンバ内に存在する更なる混合物を撮像するステップと、
前記1つ以上の画像を使用して前記分析チャンバ内の前記流体試料を分析するステップと、
を含む方法。
【請求項7】
前記流体試料を移動させるステップは、前記流路は1.0mm/秒から5.0mm/秒の範囲の軸流速度で前記流体試料のボーラスを移動させることを含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記溶解性添加剤はトレハロースを含む、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
前記混合物は1:2から1:8の範囲の比率のトレハロースとアクリジンオレンジとを含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記溶解性添加剤はEDTA又はデンドリマの少なくとも1つを含む、請求項6に記載の方法。
【請求項11】
前記混合物は5:1から15:1の範囲の比率のEDTAとアクリジンオレンジとを含む、請求項10に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2010年12月9日に出願された米国仮特許出願第61/421,451号明細書に開示された本質的な主題の利益を得る権利を与えられると共にこれらを参照により組み込む。
【0002】
本発明は、一般に、体液分析のための装置及び方法に係り、同様に、一様な分布の成分及び/又は試薬を生じさせるために混合された生体試料を分析するための装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0003】
歴史的に、全血、尿、脳脊髄液、体腔流体等の体液試料は、スライド上に希釈されていない少量の体液を塗布すると共に顕微鏡でその塗布標本を評価することによって、それらの微粒子又は細胞の含量が評価される。合理的な結果はそのような塗布標本から獲得することができるが、データの細胞統合性、正確性、及び信頼性は主として技術者の経験及び技術に依存する。塗布による分析にも制限があり、全血球算定(CBC)等の分析のために使用することができない。
【0004】
いくつかの事例では、体液試料内の成分はインピーダンス又はオプティカルフロー血球計算法を使用して分析することができる。これらの技術は、インピーダンス測定器又は光学的撮像装置に関連して配置された1つ以上のオリフィスに希釈されたフローを通過させることによって、希釈された流体試料のフローを評価する。これらの技術の欠点は、試料の希釈及び流体フロー操作装置が必要なことを含む。
【0005】
所定の時間以上に静止して保持された全血等の体液試料は、「沈降」を開始することが知られており、この時間内に試料内の成分は収集された試料内に存在する成分分布から外れる;例えば、試料内の成分の一様な分布から外れる。試料が静止して十分に長く保持される場合、試料内の成分は最後まで完全に沈降して層化することができる(例えば、全血の試料では、白血球、赤血球、及び血小板の層を静止した試料内に形成することができる。)。吸着が流体流路内に生じると、試料内の非一様性が更に生じる場合がある。ここで使用される用語「吸着」は、流体流路の表面に付着する流体試料又はその部分の傾向を指す。流体試料(例えば、血小板、RBC、全血の試料内のWBC)内の成分の十分に多くの集団が、収集点と試料が分析されるチャンバとの間の流体流路に付着する場合、分析に利用可能な試料は収集された試料を代表しない。そのような事例では、分析の正確性に否定的な影響が与えられる。
【0006】
試料と混合するためにカートリッジ内に1つ以上の試薬を置くことが望ましい実施の形態では、試薬は、試料への溶解を阻害する形態(例えば、微粒子形態、結晶形態、低可溶性等)である。一定の大きさ以上の溶解しない粒子は、分析チャンバに入らないが、それらが試料画像内で異物として現われる場合には、他のものは分析チャンバに入る。大きな色素の粒子では、例えば、色素の局所的な高濃度を引き起こし、その濃度が細胞を飽和し、細胞の同定ができなくなる。何れの事例でも、試料内の試薬の濃度及び均一性に否定的な影響を与える。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
試料の均一性及び/又は試料内の試薬の均一性を容易にする体液試料を分析する装置及び方法が必要となる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の態様によれば、体液試料の分析カートリッジは、ハウジング及び少なくとも1つの抗吸着剤を含むと規定される。ハウジングは流路及び分析チャンバを含む。流路は分析チャンバと流体連絡し、また流路は1つ以上の疎水性の内壁面を含む。抗吸着剤は、試料がハウジング内に置かれるとき又は続いてハウジング内を通過する間に、それと流体試料とが混合されるようにハウジングに提供される。抗吸着剤は、流体試料と混合可能に機能し、流路の内壁面に試料が吸着することを阻害するように機能する。
【0009】
本発明の別の態様では、体液試料を分析する方法が提供される。この方法は以下のステップを含む:a)流路と分析チャンバとを有する分析カートリッジを提供するステップであって、流路は、分析チャンバと流体連絡し、少なくとも1つの疎水性の内壁面を含むステップ;b)流路内に配置された流体試料と1つ以上の抗吸着剤とを混合するステップであって、抗吸着剤は、流路の壁面に流体試料が吸着することを阻害するように機能するステップ;c)分析チャンバに流体試料を移動させるステップ;d)分析チャンバ内の試料を分析するステップ。
【0010】
本発明の別の態様では、体液試料のための分析カートリッジが提供される。カートリッジはハウジング及び少なくとも1つの溶解添加剤を含む。ハウジングは流路及び分析チャンバを有する。流路は分析チャンバと流体連絡する。流路は少なくとも1つの疎水性の壁面を含む。抗吸着剤は、試料がハウジング内に置かれるとき又は続いてハウジング内を通過する間に、それと流体試料とが混合されるようにハウジングに提供される。溶解添加剤は、流体試料と混合可能であり、流体試料への少なくとも1つの試薬の溶解を容易にするように機能する。
【0011】
本発明の特徴及び利点は、以下に提供される発明の詳細な説明を考慮し、また添付した図面で明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】体液分析装置を図示する。
図2】カートリッジの実施の形態の概略平面図である。
図3】カートリッジの実施の形態の概略断面図である。
図4】本カートリッジのインターフェース及びカートリッジの実施の形態の概略断面図である。
図5】本発明の分析システムの概略図である。
図6】ピエゾディスク型のバイラテラルアクチュエータの系統図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1図5を参照すると、本発明の分析システム20は体液試料カートリッジ22及び全血等の体液試料を分析するための自動分析法装置24を含む。自動分析法装置24は、試料の処理、画像化、及び分析を制御する画像化ハードウェア26、試料混合システム28、及びプログラム可能アナライザ30を含む。試料混合システム28は、試料の分析に先立って、少なくとも実質的に試料内に一様に試料内の成分を分散させるように流体試料を操作するように機能する。試料分析カートリッジ22は本発明の有用性を示すために図解的に説明される。本システム20は如何なる特定のカートリッジ22の実施の形態にも制限されない。好ましいカートリッジ22の例は、米国特許出願第12/971,860号明細書;米国特許出願第61/470,142号明細書;及び米国特許出願第61/527,114号明細書に説明されており、それらの全体が参照によって本発明に組み込まれる。しかしながら、本発明は任意の特定のカートリッジ22と共に使用することに制限されない。
【0014】
本装置及び本方法の説明を容易にするためにここで使用されるカートリッジの一例であり、米国特許出願第12/971,860号明細書に記載されたカートリッジ22は、流体試料収集ポート32、バルブ34、第1の流路36、第2の流路38、流動性ドライバポート40、及び分析チャンバ42を含む。収集ポート32は流体試料を収集するように構成される(例えば、指突き刺し、針への付着等によって)。第1の流路36は、収集ポート32と流体連絡し、収集ポート32内に置かれた試料が毛細管力によって第1の流路36に引き寄せられる大きさにされる。バルブ34は、第1の流路36に配置されるか、又は第1の流路36と連絡し、第1の流路36の端部近傍が収集ポート32に結合される(カートリッジの別の実施の形態では、バルブは必要ではない)。第2の流路38は、第1の流路36の下流で第1の流路36と流体連絡する。第1の流路36と第2の流路38との間の交差の結合構造によって、第1の流路36内に存在する流体試料が第2の流路38に毛細管力によって引き寄せられることはない。第2の流路38は、分析チャンバ42と直接又は間接的に流体連絡する。分析チャンバ42は、ある距離だけ離れる一組のパネル(そのうちの少なくとも1つは透明である)を含み、その間に画像分析される流体試料を受け取るように構成される。第2の流路38と分析チャンバ42との間の流体連絡を提供する構造は、様々な異なる形式を想定することができる。1つの実施の形態では、測定流路は、第2の流路38と分析チャンバ42との間に伸び、測定流路は毛細管作用によって第2の流路38から流体を引き寄せる大きさにされる。別の実施の形態では、副チャンバ46は、第2の流路38と分析チャンバ42の縁との間に配置され(例えば、図3を参照)、両方に流体連絡する。第2の流路38内の流体試料は、例えば、試料混合システム28からの又は重力等による圧力によって副チャンバ46へ移動される。前述のカートリッジの実施の形態は、本カートリッジの有用性及び範囲を説明するために提示される。本カートリッジ及び方法はこれらの実施の形態に制限されない。
【0015】
本発明によれば、1つ以上の試薬(例えば、ヘパリン、EDTA、アクリジンオレンジ等の色素)が、1つ以上の領域(例えば、流体試料収集ポート32、第1の流路36、第2の流路38、分析チャンバ42等)のカートリッジ内に置かれる。例えば、抗凝血剤は、血液試料の凝固を阻害するために収集ポート32内に配置される。この開示の目的のために、用語「試薬」は、試料と相互作用する物質及び検知可能な着色を試料に与える色素を含むものとして定義される。試料流体が第1の流路36に、及びその流路を通じて引き寄せられるとき、試料は、収集ポート32に最初に配置された試薬と少なくとも部分的に混合する。
【0016】
1つを超える試薬が試料に加えられることになっている場合、本カートリッジのいくつかの実施の形態では、カートリッジを通じて移動する試料が試薬に遭遇する順序は、特に選択される。例えば、試料を試薬「B」と混合する前に試薬「A」と混合させることが必要か又は望ましいこれらの分析では、適切な量の試薬「A」(例えば、抗凝血剤−EDTA)は、適切な量の試薬「B」(例えば、第2の流路38に配置された色素)の上流に(例えば、第1の流路34に)配置することができる。試薬「A」と試薬「B」との間の距離は、試薬「B」の導入に先立って試薬「A」が試料と混合するために十分である。また、以下に述べられるように、試料ボーラスは、ボーラスを試薬「B」の位置へ移動させる前に試薬「A」の位置で循環させることができる。試料ボーラスの循環は、以下に述べられるように、ボーラスを前後に推進する双方向アクチュエータを使用して遂行することができる。前述の例は、任意の方法に制限するようには意図されない。例えば、カートリッジの流体路内の試薬の位置決めは選択される:a)試薬の前処理が後の相互作用の前に遂行されることを保証し;b)細胞間相互作用のために特定の試薬の競合を最小限に抑制するか回避し;及び/又はc)試薬の特性が、試薬が他の試薬に関連する追加の試料相互作用時間を必要とする場合のために。
【0017】
カートリッジ内に置かれたときに試料と混合するために、カートリッジ22内に1つ以上の試薬を置くことが望ましい実施の形態では、試料内のその試薬の溶解を容易にするために、1つ以上の添加剤が試薬に加えられる。例えば、色素(例えば、アクリジンオレンジ−「AcO」又はベーシックオレンジ15とも呼ばれる;アストラゾンオレンジ−「AzO」又はベーシックオレンジ21とも呼ばれる)が試料に加えられ、試料の分析を容易にするのが一般的である。先に示されるように、析出過程中に、そのような色素が試料と溶解することを阻害し、従って、試料内の色素の濃度及び均一性に否定的な影響を及ぼすということが我々の経験である。これらの問題を回避するために、溶解添加剤は、カートリッジ内に色素を置く前に色素(又は他の試薬)と混合される。好ましい溶解添加剤の一例はトレハロースである。続いてそれらを乾燥させる場合には、色素とトレハロースは溶液中で混合され、カートリッジ内に置かれる。トレハロースの分子構造が一様な色素粒度を促進し、大きな粒子形成を回避することが理解される;例えば、トレハロースの分子構造はより小さな染料粒子がトレハロースマトリックス内に分布し、従って、より一様な色素粒子分布を容易にし、大きな色素粒子の形成を阻害する。一例として、全血の分析では、好ましい量のAcO色素(例えば、1.8μg)が、全血(即ち、90ng/μLの色素濃度)の20μLの試験試料に加えられる。20μLの全血試料内の好ましい色素溶解は、カートリッジ流路内の色素1.8μgとトレハロースの0.9μgを超える混合物とを最初に置くことにより達成することができる;例えば、染色すべきトレハロースと色素の1:2より大きな比率。新しいデータは、色素とレハロースの比率は好ましい結果で8:1と同じくらい高くなり得ることを示唆する。また、同じサイズの全血試料(20μL)のために、好ましい色素溶解はEDTA(例えば、約10〜30μgの範囲の)を色素1.8μgと混合することにより達成することができる。好ましい溶解添加剤の別の例はデンドリマからなる物質である。
【0018】
本発明のいくつかの実施の形態では、カートリッジ22(例えば、流路壁)内の表面に試料が吸着することを妨げる試薬が含まれる。カートリッジ22内の流体流路はプラスチック又はグラス等の材料から形成することができる。典型的に使用されるプラスチックは本来疎水性である;例えば、ポリカーボネート(「PC」)、ポリテトラフルオロエチレン(「PTFE」)、シリコーン、Tygon(登録商標)、ポリプロピレン、フッ化エチレンポリピレン(「FEP」)、パーフルオロアルキオキシ共重合体(「PFA」)、環式オレフィン共重合体(「COC」)、エチレンテトラフロオルエチレン(ETFE)、フッ化ポリビニリデン等。いくつかの応用では、流体流路を被覆してそれらの疎水性を増加させる。被膜として適用することのできる疎水性材料の例は、アメリカ合衆国、メリーランド州、ベルツビルのサイトニックス株式会社から入手可能なFluoroPel(登録商標)高分子溶液である。水のような物質が疎水性材料で形成された(又は覆われた)流路を通過するとき、水は疎水性の流路の表面に吸着しない。しかしながら、タンパク質を含む全血及び他の体液(以下、説明の軽減のためにまとめて「血液」と呼ぶ)は、純水とは異なって作用し、疎水性の通路壁に吸着する。血液がアルブミン、免疫グロブリン、及びフィブリノーゲン等の両親媒性のタンパク質を含むので、吸着が少なくとも一部分生じると考えられる。これらのタンパク質は、それらに疎水性領域と親水性領域があるので「両親媒性」である。疎水性領域は、容易に疎水性の表面へ吸着することができ、その際に親水性領域が露出される(例えば、外側へ露出される)。その結果、一度だけ疎水性の表面は実質的に親水性表面になる。引き続き血流が親水性表面を流れると、層が表面に吸着される。
【0019】
不適当な吸着を解消するために、本発明の実施の形態は「抗吸着」試薬を含み、試料と混合されたとき、通路壁上の試料の吸着を減少させる。全血試料分析の場合には、通路壁に付着する試料内のタンパク質の性能を阻害する試薬を使用することができる。界面活性剤及び/又は疎水性の表面に対して両親媒性のタンパク質を「それほど活発でなく」する(即ち、より流路表面へ引きつけられない)他の試薬が望ましい抗吸着試薬である。なぜならそれらがタンパク質の表面に付着する傾向を減少させるからである。界面活性剤は両親媒性のタンパク質を覆い、そのためにタンパク質をそれほど活発でなくすると考えられる。大部分の全血分析については、界面活性剤は、非溶血性で及び/又は試料と混合されたとき、非溶血性の濃度で使用されるタイプであろう。実際、界面活性剤は、RBC溶解を生じない濃度で有効にそれらを使用することができるので、全血分析には望ましい。溶解が問題でない場合、それらの試料分析については、溶血性試薬を使用することができる。
【0020】
1つ以上のタイプの界面活性剤を抗吸着試薬として使用することができる。例えば、非イオン系の界面活性剤(例えば、ダウケミカル社からのトリトンX−305、ディクシケミカル社からの界面活性剤10G、BASF社からのPluronicなF−108、及びドイツ、マンハイムのロッシュ診断法のトゥイーン−20、トゥイーン−60、及び/又はトゥイーン80)は、様々な異なる通過面タイプ(例えば、PC、FEP、PFA、ETFE、又はポリフッ化ビニリデン基板上のFluoroPel(登録商標)被膜)で非常に順調に作動する。全血試料内で0.1ng/μL以上の濃度のトリトン−305又は界面活性剤10G(登録商標)は、FluoroPel(登録商標)被膜で覆われたポリカーボネート流路内に好ましい吸着を示す。同様に、全血試料内で0.5ng/μL以上の濃度のトゥイーン−20(登録商標)、トゥイーン−60(登録商標)、及びトゥイーン80(登録商標)は、FluoroPel(登録商標)被膜で覆われたポリカーボネート流路内に好ましい吸着を示す。全血試料と混合されたとき、好ましい吸着を産生する他の非イオン系界面活性剤は、トリトンX−100及びトリトンX−705を含む。
【0021】
両性イオンの界面活性剤(3−ジメチル(methacryloyloxyethyl)アンモニア塩基プロパンスルホン酸塩(DMAPS)、及び3−[(3−cholamidopropyl)ジメチルアンモニオ]−1−プロパンスルフォナート(CHAPS)も抗吸着剤として使用することができる。全血試料内で0.05ng/μL以上の濃度のDMAPS又はCHAPSは、FluoroPel(登録商標)被膜で覆われたポリカーボネート流路内に好ましい吸着を示す。
【0022】
陽イオン界面活性剤(例えば、HDTAB)及び陰イオン界面活性剤(例えば、ナトリウムコラート水酸化物、デオキシコール酸ナトリウム)も、抗吸着剤として使用することができる。全血試料内で0.05ng/μL以上の濃度のHDTAB、ナトリウムコラート水酸化物、又はデオキシコール酸ナトリウムは、FluoroPel(登録商標)被膜で覆われたポリカーボネート流路内に好ましい吸着を示す。
【0023】
下流の流路(例えば、第2の流路)ではなく上流の流路(例えば、第1の流路内)に適正量の抗吸着試薬を配置させるのは有利であるが、本カートリッジの操作性に必要ではない。テストは、上流の流路(例えば、ボウル、流路、第1の流路等)の抗吸着試薬の配置が毛細管作用による又はそうでなければ様々な流路を通る試料の移動を容易にすることを示す。更に、他の試薬(例えば、EDTA)が溶解し試料がある溶解液に入り込むのを支援するように見える。
【0024】
図4を参照すると、流体のドライバポート40は、試料混合システム28に結合するように構成され、また加圧流体(例えば、正及び/又は負圧の空気)が、カートリッジ22にアクセスし、カートリッジ22内の流体試料の移動を引き起こす。流体のドライバポート40は、バルブ34の下流の位置50の流路41経由で第1の流路36と流体連絡する。位置50では、バルブ34は液性のドライバポート40から収集ポート32を閉じることができる。液性のドライバポート40の一例は、試料混合システム28のプローブ70によって貫通され破裂させることができる薄膜を含むキャップ52によってカバーされたカートリッジ22内の空間である。ポート40にかみあうプローブ70は、試料混合システム28とカートリッジ22内の流路との間に流体連絡を引き起こす。先に示されるように、本発明は本発明の説明を容易にするために本明細書に記述された典型的なカートリッジと共に使用するということに制限されない;例えば、本発明は、バルブ34又はドライバポート40を含んでいないカートリッジ、又は異なるバルブ及び/又はドライバポート配置を含む他のものと共に使用しても良い。
【0025】
本発明カートリッジと共に使用することができる分析装置24の一例は、図5で概略的に示され、画像化ハードウェア26、試料混合システム28、カートリッジ保持及び操作装置54、試料対物レンズ56、複数の試料照明器58、及び解像管60が描かれる。対物レンズ56及びカートリッジ保持装置54の1つ又は両方は移動可能で互いに遠ざかったり近づいたり相対的な焦点位置を変える。試料照明器58は、所定波長に沿った光を使用して試料を照射する。試料を透過した光又は試料から発した蛍光は、解像管60で捕らえられ、及び光信号の標本はプログラム可能アナライザ30に送られ、そこでイメージ処理される。米国特許第6,866,823号明細書及び米国特許出願第13/204,415号明細書(その各々の全体は参照により本明細書に組み込まれる)に述べられる画像化ハードウェア26は、現在の分析装置24のための好ましいタイプの画像化ハードウェア26である。しかしながら、本発明は前述の画像化ハードウェア26と共に使用することに制限されない。
【0026】
プログラム可能アナライザ30は、中央処理装置(CPU)を含み、装置54の保持及び操作カートリッジ、試料照明器58、解像管60、及び試料混合システム28と連絡する。CPUは、信号を受け取り、かつ装置54を保持及び操作するカートリッジ、試料照明器58、解像管60、及び試料混合システム28を操作するために必要な機能を選択的に実行するのに適する(例えば、プログラム化)。プログラム可能アナライザ30の機能をハードウェア、ソフトウェア、ファームウェア、又はその組み合わせを使用して実装できることに注目されたい。当業者は、過度の実験作業なしに本明細書に記述された機能を実行するユニットをプログラムできるだろう。
【0027】
図4図6を参照すると、試料混合システム28は、双方向アクチュエータ48及びカートリッジインターフェース62を含む。双方向アクチュエータ48(図6に概略的に示される)は、独立して1つ以上の周波数で正及び負の流体変位の両方を生むように操作でき、この変位によってカートリッジ内の試料を動かすことができる。好ましい双方向アクチュエータ48の一例はピエゾディスク型アクチュエータであり、アクチュエータ48の制御するドライバ64と一緒に利用される。ピエゾディスク型アクチュエータは典型的には比較的高速な応答時間、低ヒステリシス、低振動、高リニアリティー、及び高い信頼度がある。図6に示される実施の形態では、ピエゾディスク型アクチュエータは、ハウジング68に配置された、二層圧電性の屈曲盤66を含む。二層圧電性の屈曲盤66は2つの対抗する方向(例えば、−y、+y)に屈曲偏差を引き起こすように構成される。二層圧電性の屈曲盤66の例は、アメリカ合衆国、マサチューセッツ州、ケンブリッジのピエゾシステムズ社によって提示されたT216−A4NOシリーズで見つけることができる。本発明はピエゾディスク型アクチュエータ一般に制限されなく、従って、二層圧電性屈曲盤のこれらの特定タイプに制限されない。本発明は更に、双方向に作動する単一の流体アクチュエータに制限されるわけではない;例えば、本発明は複数の単一の指向性のアクチュエータ、又は単一及び双方向アクチュエータの組み合わせを利用するシステムと共に使用できるだろう。
【0028】
ドライバ64は、双方向アクチュエータ48と連絡し、アクチュエータ48を制御するように操作できる。ドライバ64の機能をハードウェア、ソフトウェア、ファームウェア、又はそれらの組み合わせを使用して実装できる。ドライバ64は、プログラム可能アナライザ30に組み入れても良いし、又はプログラム可能アナライザ30と連絡する個別のユニットであっても良い。
【0029】
図3図4を参照すると、試料カートリッジインターフェース62は、カートリッジ22の流体ドライバポート40に結合するように操作できる双方向アクチュエータ48及びプローブ70の間の流体路を含む。インターフェース62は、双方向アクチュエータ48とカートリッジ22の流体のドライバポート40との間の流体連絡を作りだす。流体のドライバポート40に破裂させることができる薄膜があるキャップ52がある場合、プローブ70は薄膜を破裂させて、従って、双方向アクチュエータ48とカートリッジ流体ドライバポート40との間の流体連絡が作られる。薄膜(それはプローブ70によって貫通される)、プローブ70のまわりを密閉して流体経路を気密にする。図4は、図式で模型の中で示されるプローブ70の実施の形態を例証する。本発明は、薄膜/プローブ配置に制限されない。これは説明をする目的のために提供される。
【0030】
本システム20のオペレーションにおいて、体液(例えば、全血)の試料はカートリッジ22の収集ポート32内に沈殿する。そして引き続き毛細管作用によってカートリッジ22の第1の流路36に引き寄せられ、そこである期間(例えば、被験者収集と試料分析との間の時間)留まる。ボーラス試料のリーディングエッジが第2の流路38の入口に到着するまで、ボーラス試料は毛細管力によって第1の流路36に引き寄せられる。本カートリッジ22のある実施の形態では、1つ以上の試薬72が、第1の流路36内に、及び/又は収集ポート32に配置される。これらの実施の形態では、試料がカートリッジ22に沈殿し、第1の流路36内を移動すると共に、試薬72は試料と混合される。試料収集直後に試料の分析が行なわれない事例では、特殊試薬(例えば、全血分析でのヘパリン又はEDTA等の抗凝血剤)は、試料と混合することができて、分析に好ましい状態(例えば、凝固しない)で試料を維持する。
【0031】
試料の分析に先立って、カートリッジ22は試料分析用の分析装置24に挿入され、試料カートリッジインターフェースプローブ70はカートリッジ22の流体のドライバポート40に結合し、更にカートリッジ22は試料収集ポート32経由でカートリッジ22からの流体流動を防ぐように構成される;例えば、バルブを作動させて閉じることによって。これらの出来事の特定順位は、手元の分析に適合するように配列できる。
【0032】
収集されるが、直ちに分析されなかった全血試料の場合には、血液試料内の成分、RBC、WBC、血小板、及びプラズマは、時間と共にカートリッジ22内で沈降し階層化する。そのような場合、分析に先立って試料を操作するのはかなりの利点があり、成分は少なくとも実質的に一様な状態で再懸濁されるようになる。更に、多くの応用では、試料を試薬と一様に混合することはかなりの利点がある。試料内の成分及び/又は試薬に一様分布を引き起こすために、分析装置24は、双方向アクチュエータ48に信号を供給して、アクチュエータ48及び連続するカートリッジ流路内の流体(例えば、空気)に正及び/又は負の変位を与え、第1の流路36内でボーラス試料を前後させる(例えば、振動させる)。双方向アクチュエータ48のピエゾディスクの実施の形態に関して、分析装置24はドライバ64に信号を供給する。ドライバは次に高電圧信号をアクチュエータ48に送って盤66を歪めさせる。所要のアクションによって、二層盤66を操作して空気をそらすか又は正の値だけ変位させ、従って、ボーラス試料を前進させる(即ち、分析チャンバ42の方向に)又は負の値だけ空気を移させ、従って、ボーラス試料を後方に(即ち、方角に分析チャンバ42から遠ざかる方向に)引かせる、又は特定の位置に対してボーラス試料を前後に振動させるか又は循環させる。
【0033】
ボーラス試料が双方向アクチュエータ48を使用してカートリッジ22内で操作される方法は、手元の分析に適応するように選択できる。一例として全血試料分析を使用して、第1の流路36(既にある程度、抗凝血剤と混合された)内に存在する試料は、恐らく沈降しているだろう。また成分は分析に先立ってある程度層化しているだろう。最初に、双方向アクチュエータ48はフィードバック制御76を使用して、試料の位置を確認する位置間をボーラス試料が通り抜けるように操作できる。一旦試料の位置が確認されれば、試料は比較的短い長さの間前後に循環させられて、試料内の成分を一様に再懸濁できる(及び/又は一様に試薬を混合させる)。試料が循環する周波数及び試料の移動の「振幅」は手元の応用に適応して異なる。周波数と振幅は、双方向アクチュエータ及びドライバ特性の選択によって制御できる。この時点で、操作の量は、試料が第2の流路38へ更に押し出されるときには、まさに取るに足らない(もしあれば)量のボーラス試料だけが、第1の流路36に残留することを保証できるように選択する。一旦双方向アクチュエータ48を作動させて第2の流路38へボーラス試料を移動させれば、試料はより活発に循環させられて試料内の成分は所望の一様分布になる。その後、ボーラス試料は第2の流路38内の別の位置に追い込まれ、別の試薬(例えば、色素74)を試料と混合する位置で、前後に循環させられる。
【0034】
試料が流路内の軸方向に移動する速度は、試料の壁に生じる吸着量に効果がある。1.0mmから4.0mmの範囲の流体力学的径の流路内で、吸着に制限が生じるので、約20.0mm/秒以下の流体試料速度が好ましいというのが我々の研究結果である。より少ない吸着が生じるので、約10.0mm/秒を超えない流体試料の速度が好まれる。1.0mm/秒及び5.0mm/秒の間の範囲の流体試料の速度は、それが典型的には瑣末な吸着量を生じるので、最も好まれる。
【0035】
一旦再浮流及び/又は試薬混合が完了すれば、双方向アクチュエータ48を作動させて、分析チャンバ42と流体連絡する第2の流路38の部分にボーラス試料を移動させる。この位置では、ボーラス試料の量は第2の流路38から引き出され、そこから分析チャンバ42に引き寄せられるか強制的に入れられる。
【0036】
発明は例示的な実施の形態を参照して記述されているが、様々な変更が行なわれても良いことは当業者によって理解されるだろう。また、等価物を発明の範囲から外れずにその要素の代わりに用いても良い。更に、多くの修正をその本質的な範囲から外れずに、発明の教示に特定の状況か内容を適応させるようにしても良い。従って、発明が本明細書に開示した特定の実施の形態が本発明を実施するのに熟考された最良のモードとして限定されるものではないことを意図している。
図1
図2
図3
図4
図5
図6