(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
セラミック材料が、アルミナ、他の金属イオンをドープしたアルミナ、ジルコニア、アルミノシリケート、イットリア、イットリア安定化ジルコニア、マグネシア安定化ジルコニア、ジルコン、ジルコニア強化アルミナ、シリカ、ムライト、及びそれらの組合せからなる群から選択される金属酸化物である、請求項1に記載の複合材料。
セラミック材料が、セラミック材料が、アルミナ、他の金属イオンをドープしたアルミナ、ジルコニア、アルミノシリケート、イットリア、イットリア安定化ジルコニア、マグネシア安定化ジルコニア、ジルコン、ジルコニア強化アルミナ、シリカ、ムライト、及びそれらの組合せからなる群から選択される金属酸化物である、請求項6に記載の保護複合コーティング。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
連続焼鈍ライン(以後、「CAL」と呼ぶ)は、典型的には鋼帯の熱処理に用いられている。垂直CAL及び連続亜鉛メッキライン(以後、「CGL」と呼ぶ)は、通常は加熱炉、浸漬炉及び冷却炉のそれぞれの区画に分けられている。所定の熱処理サイクルは、炉温度と一般に鋼帯速度と呼ばれる鋼帯がそれぞれの炉区画で費やす時間を制御することによって行われる。熱処理区画は、炉ロールを備えており、連続焼鈍
及び/又は連続亜鉛メッキ工程を可能にする。炉ロールは、垂直熱処理区画の上部及び下部に配置されている転写ロールとして作用し、金属帯板を、これらの炉ロールによって懸垂されて、特異的雰囲気における温度に必要な時間置きながら、通過させる。これらのロールは、典型的には、鉄酸化物を金属鉄に転換する還元性雰囲気中で600℃−1200℃の範囲の温度で作動する。これらのロールは、長期間の連続操作にわたって高温で鋼帯を運搬する能力を保持することができなければならない。しかしながら、例えば、一層速いライン速度、より高温及び先進高強度鋼(以後、「AHSS」と呼ぶ)の処理などの過酷な操作条件の結果として、ロールは、ロール表面の摩損及びロールプロフィールなど幾つかの潜在的問題を受けやすい。更に、酸化物又は鉄粉型粒子状物質のロール表面への付着は、操作中に鋼帯からロールに移ることがある
。粘着材料のロール表面への蓄積は、典型的には「ピックアップ」と呼ばれる。付着した物質のピックアップは、炉ロールが鋼帯表面に品質を損なうキズをつけることなく、鋼帯の運搬及び移動を行うことができない濃度にまで蓄積することがある。従って、炉を操業停止して、ロールの表面を清掃し又は交換できるようにしなければならない。炉の操業停止は、鋼生産に関してかなりの損失をもたらす。その上、炉を修理の目的で開放して冷却させた後、焼鈍温度にまで再加熱する際には、膨大な量のエネルギーが損失する。通常は、ラインを定期保守の目的で1年に1又は2回操業停止するが、不定期の操業停止は、製鉄業者にとってより高いコスト負担の一因となる。
【0003】
ピックアップ現象の開始を遅らせる手段としては、ロールの表面に保護コーティング層を塗布することがよく知られている。例えば、金属合金とのセラミック配合物を用いることができる。炭化物材料は、低温で用いることができる。Cr及び他の合金元素を含むNi基材又はCo基材の合金を金属マトリックスとして用いて、耐熱性鋼ロールベースと純粋なセラミックとの間の熱膨張係数(CTE)のミスマッチにより、コーティング寿命が短くならないようにする(例えば、コーティング寿命は、CTEミスマッチによって形成される応力によるコーティング亀裂や離層によって限定される)。
【0004】
セラミック材料を混合し又は装填したMCrAlY材料(Mは、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)
及び/又は鉄(Fe)を包含することができる金属を表し、Crはクロムを表し、Alはアルミニウムを表し、Yはイットリウムを表す)も、Fe及びFeO転移を阻止する目的で高温炉ロールに塗布されてきた。このような材料は、1970年代後半以来例えば、水平CALなどの熱処理炉に用いられてきている。これらのコーティングは、1980年代初頭以来垂直CAL及びCGLにも組込まれてきた。垂直CAL及びCGLは、今日ではより大型の炉ロールを有しており、より速いラインスピードで作動し、Fe/FeOの転移又はピックアップを阻止するだけでなく、鋼帯からロール表面の摩耗をも阻止するための保護MCrAlYコーティングを必要としている。約10重量%セラミックを装填して含んでいるMCrAlY材料をコーティングした炉ロールは、鋼帯は中又は高強度低合金(mild or high strength low alloy)(以後、「HSLA」と呼ぶ)から作られているので、良好に機能してきている(典型的には、5−10年のコーティング寿命を示す)。このようなコーティングを施されたロールの例は、10重量%セラミックを装填したMCrAlYを開示している米国特許第4,124,737号公報、及び米国特許第4,822,689号公報に包含されている。
【0005】
しかしながら、過去10年間に、先進高強度鋼(以後、「AHSS」と呼ぶ)の出現により、保護MCrAlYコーティングに対するデザイン上の難問が提起されている。AHSSは、中強度鋼(mild strength steel)又はHSLAと比較してかなりより多くの合金元素(例えば、Al、Si、Mn及びTi)を含んでいる。AHSSにおける合金元素の濃度増加に伴い、新世代MCrAlYコーティングが殺到してきた。米国特許第6,572,518号公報に開示されているように、この問題を解決するための従来技術による努力が試みられてきたが、AHSSの有意な増加に関連した難問として更なる改良が求められている。
【0006】
新たにデザインされたMCrAlY配合物及びコーティングにも拘わらず、ピックアップの問題は頻発している。付着した物質は、炉ロールのピックアップが鋼帯に品質を損なうキズをつけ、それによって炉を操業停止してロールの表面を清掃して滑らかにする濃度にまで蓄積し続ける。更に、自動車の打ち抜き加工に用いられる鋼帯は軽量化によって自動車燃料を更に節約できるようにするためにますます薄くなっている。同時に、自動車の顧客は露出したボディパネルに高級感のある仕上がりを要求していることによって、品質上の要求は増してきている。従って、より少なくした濃度のピックアップであっても、より薄い鋼帯にキズやへこみを付けることになり、品質問題、ひいては鋼帯の不合格につながる。
【0007】
製鋼工業における炉ロール上の付着した物質
のピックアップに関連した問題については、耐剥離性と同時に耐酸化及び耐腐食性にし且つまた炉ロール表面でのビルドアップの発生を減らし且つ遅らせることによって、露出したボディパネルについてより高品質の鋼帯と改良された自動車仕上がりを可能にする改良された複合コーティングについての対処されていない要求がある。
【発明を実施するための形態】
【0015】
発明の詳細な説明
本発明の目的及び利点は、関連する好ましい実施態様の下記の詳細な説明から一層よく理解されるであろう。本発明の開示内容は、様々な用途に対する保護コーティングの生産における新規なMCrAlY配合物に関する。本発明の配合物は、炉ロールを包含するが、これに限定されない高温での用途に特に好適である。開示内容は、本明細書では様々な実施態様で及び本発明の様々な側面及び特徴に関して提示される。
【0016】
本発明の様々な要素の関連性及び機能は、下記の詳細な説明によって一層良好に理解される。詳細な説明は、開示内容の範囲内のものとしての様々な入れ替え及び組合せでの特徴、態様及び実施態様を意図するものである。従って、この開示内容は、これらの特定の特徴、態様及び実施態様、又はそれらの選択されたもの又はものなどの組合せ及び入れ替えのいずれかを含む、からなる又は本質的にからなるものと明記することができる。
【0017】
新規なMCrAlY組成物は、著しく改良された性能特性を有することが見出されている。ここで述べるように、本発明のMCrAlY保護コーティングは、通常のMCrAlY材料など他の種類の材料に関して性能を高めることができる。特に断らない限り、総ての組成は、配合物の総重量に基づく重量%(wt%)として表される。
【0018】
好ましい実施態様では、本発明のMCrAlY組成物は、炉ロール上の付着した物質のピックアップに関連した問題を大幅に減らし、炉の寿命を延ばす。本発明のMCrAlY組成物は、通常のMCrAlY材料と比較して実質的な改良を表している。改良配合物は、部分的には、混合酸化物層などの他の酸化物層の形成を最小限に止め
及び/又は除去しながら、アルミニウムを選択的に酸化して以前に可能であったよりも有意に高いセラミックを装填した酸化アルミニウム層又はスケール形成物を形成することに基づいている。ここ及び本明細書中で用いられる「スケール」という用語は、MCrAlYをコートした基材を被覆する不動態化金属酸化物表面の酸化物層の形成を指す。コーティングの持続的保護に有害であると考えられる1種類以上のスケール形成を抑制し、最上限に止め又は実質的に除去しながら所望なスケール形成を制御する能力は、ここ及び本明細書中では「選択的酸化」と呼ばれる。
【0019】
改質MCrAlY配合物は、炉ロールに適用すると、必要とされる化学的不活性及び耐摩耗性を達成することができ、粘着性ピックアップの蓄積を生じない。前記のように、Mは、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)
及び/又は鉄(Fe)から選択することができる金属であり、Alはアルミニウムを表し、Yはイットリウムを表す。好ましくは、Mは、Co、Ni
及び/又はFeの組合せであり、約45−75wt%のCo、約0−12wt%のNi及び約0−12wt%のFeを含む。Crは約15−25wt%の量で含まれている。Yは約.1−1.0重量%の量で含まれ、数ある利点の中でも保護スケールの付着を改良する。Alは約5−10重量%の量で含まれ、Nbは約6−15wt%で組成物に配合されている。更に好ましい実施態様では、配合物は、有効量で約50−65wt%のCo、2−8wt%のNi、0−6wt%のFe、18−22wt%のCr、0.25−0.65wt%のY、6−8wt%のAl及び8−11wt%のNbである。
【0020】
多くの通常のMCrAlYコーティングとは異なり、本明細書に記載の本発明の配合物は、特に通常のMCrAlYコーティングに普通に用いられ、有害な酸化物形成の防止及び高温(1,000−1,500℃)の酸化下での酸化物スケール剥離のような改良された特性の付与を促進するケイ素及びハフニウム添加物を含まない。
【0021】
概して、多量のセラミック材料をMCrAlY材料に配合することは、ある種のコーティング特性を得る上で望ましい。本発明の組成物MCrAlYに追加のセラミック材料を混合又は装填すると、アルミナスケール(厚みが、例えば、2−25μmである)の形成により性能が向上することを見出した。通常のMCrAlY材料がアルミナスケールを形成するには、それらは適正な濃度のCr及びAlを有し、且つ金属酸化物(例えば、アルミナ)のようなセラミック材料を限られた量で含んでいなければならない。(以下に示すように)従来技術による比較例の試験は、約15−45重量%の高濃度のセラミックを装填したときに本発明の組成物だけがアルミナスケールを形成できることを示した。本発明とは異なり、従来技術による組成物は、このような高濃度のセラミック装填量ではクロムスケールを形成した。
【0022】
例えば、アルミナ、他の金属イオンをドープしたアルミナ、ジルコニア、アルミノシリケート、イットリア、イットリア安定化ジルコニア、マグネシア安定化ジルコニア、ジルコン、ジルコニア強化アルミナ、シリカ、ムライト、及びそれらの組合せのような様々なセラミック材料、特に金属酸化物を、改質MCrAlY組成物に組合せる、装填する又は混合することができる。好ましい実施態様では、セラミック材料は、式Al2O3によって表されるアルミナである。高装填量のアルミナセラミック材料は、生成するコーティングに高温硬度、耐摩耗性、構造及び耐久性及び耐クリープ性といった好ましい特性を付与する。
【0023】
改質MCrAlYコーティング性能の有効性は、コーティングの特性及び持続性能に有害であると考えられる他のスケールド(scaled)酸化物の形成を抑制し、実質的に最小限に止め又は除去しながら、選択的にAlを酸化してアルミナスケールを形成するその能力に少なくとも部分的には依存していることが見出された。具体的には、Cr2O3スケール(「Crリッチスケール」)及び他のスケールのバリヤーは、一般にAHSSの製造に用いられる炉ロール上のAl2O3スケールバリヤーよりも性能において劣る可能性があることは認識されていなかった。Cr2O3バリヤーは、伝統的に中(mild)、HSLA及びAHSSの第一世代用途(還元雰囲気で作業時)については通常の作業条件で許容可能であった。従って、通常のMCrAlYコーティングは、Crリッチスケール形成を好む傾向があった。しかしながら、本発明は、かなり多量のMn、Si、Al、Tiなどの合金元素を特徴とするAHSS第二又は第三世代組成物上で形成する酸化物スケールと接触するときには、Cr2O3バリヤーがピックアップを促進しがちになる可能性があることを認めている。このような合金元素の濃度増加は、熱処理雰囲気中にそれらのそれぞれの酸化物形態から減少しない傾向がある。従って、それらは他の酸化物と組み合って及び炉ロール上でピックアップを促進する有害で複雑な酸化物を形成する目的で利用可能である。
【0024】
本発明は、特定のMCrAlY配合物で形成することができるスケールの種類はMCrAlY中のクロム及びアルミニウムの量によって変化することを認めている。更に、複合材料を形成するためにMCrAlYに加える酸化物などのセラミックは、バリヤーとして作用し及び形成するスケール種類を妨げる(具体的にはアルミナスケールの形成を妨げる)ことがある。任意の特定の理論によって束縛されるものではないが、Alイオンよりイオン半径が小さな一過性のCrイオンは、バリヤーを積載した複合材料中を一層容易に動きやすい。高装填量のセラミック材料、例えば、15−45wt%アルミナでは、従来技術は、クロムイオンはコーティング表面に拡散して、そこでそれらは酸化してCrリッチスケールを形成し、それは式Cr2O3によって一般に表すことができる。
【0025】
通常のMCrAlY組成物を本発明の指定範囲内に入る正確なCr及びAl比で配合したとしても、通常のMCrAlYコーティング内のセラミック材料を多量に装填すると、Al2O3スケールのための拡散バリヤーを生じることによって、改質MCrAlYコーティングのマトリックス内部からコーティング表面へのAlの輸送及び拡散が妨げられることに留意すべきである。結果として、Al2O3スケールの形成は、実質的に妨げられる。Al2O3スケールの代わりに、少なくとも部分的にはクロムのイオン半径がアルミニウムより小さいことによりCrが現れてコーティング表面に拡散する。従って、Crは表面で酸化してCr2O3スケールバリヤーを形成するが、これは本発明の文脈内では粗悪なスケールと考えられている。
【0026】
比較例に示されるように、Crリッチスケールは、問題がある粘着性のピックアップの炉ロール上での形成の前駆体である可能性があり、これが終局的には炉ロールの故障メカニズムへとつながる可能性がある。例えば、Cr2O3は鋼帯からのマンガン酸化物と反応して、経験式MnCr2O4によって表される特定の種類の複合酸化物を形成することができることが見出された。この構造は、一般式(A
+2)
1(B
+3)
2O
4(前記式中、Mnは酸化状態が+2の金属Aであり、Crは酸化状態が+3の金属Bである)によって表される混合酸化物又は複合酸化物配合物であると考えられる。更に、鋼帯内に含まれており且つ炉で還元されない他の合金元素は、Cr2O3と反応して他の複合酸化物を形成することができる。一般的に言えば、複合酸化物の形成が問題なのである。複合酸化物は、ロールと鋼帯又はプレートの間に、鋼帯又はプレートが鋼製品に品質を損なうキズをつけることなく運搬し移動させることができない許容不可能な濃度にまで蓄積する可能性がある粘着材料を形成することがある。有害な複合酸化物がそのような濃度にまで蓄積すると、CAL及びCGLを停止して、炉ロールの表面を清掃することができ又は更に可能性が高いのはロールを交換することによってロール寿命を短縮する結果になる。このような操業停止及び低めの処理能力による運転費用の増加は、検討中の問題である。
【0027】
この点については、本発明の改質MCrAlYコーティングは、特にクロミアスケールなどの他の種類のスケールを最小限に止め又は実質的に除去しながらアルミナスケール形成物を選択的に酸化するために配合される。被覆アルミナスケールは、コーティングに対する保護表面酸化物として作用し、以前に見られたよりもかなり多量のMn、Si、Al、Tiの合金元素、及びそれらの対応する酸化物形態を含む材料と接触している基材表面を適正に保護することができる。下になっている炉ロール表面の所望な耐酸化性は、コーティング上面に沿った保護アルミナ表面酸化物の形成によって変化する。改質MCrAlYに形成したアルミナスケールは、高温の腐食性環境における腐食
及び/又は更なる酸化に対する物理的及び比較的不活性なバリヤーとして作用する。驚くべきことには、改質MCrAlYに有意なNbを添加したコーティング上に形成した連続アルミナスケールは、複合酸化物形成及びコーティング表面でのピックアップの生成により大きな耐性を示す。高装填量のセラミックを含み且つ連続アルミナ層を形成することができる改質MCrAlYコーティングは、例えば、タービンエンジン部品など幾つかの高温用途のための好適な保護コーティングと考えられている。
【0028】
アルミナスケールを選択的に酸化する能力は、少なくとも部分的には本発明のMCrAlY組成物中のAl対Crの相対量によって与えることができる。下記の述べるMCrAlY配合物の広汎なスクリーニングに基づいて、AlとCrの相対量を調節することによって、高セラミック装填量のコーティングに沿って生じる保護酸化物スケールの性質を表すことができることを見出した。Al及びCrが本発明の配合量を下回る場合には、酸化性又は腐食性環境では保護しない弱い金属酸化物(Ni、Co又はFeをベースとした)スケールが生じることが観察された。一方、十分な量のCrと本発明の配合を下回る低添加量のAlを用いると、クロム酸化物(すなわち、Cr2O3)スケールが生じることが観察された。上記のように、クロム酸化物スケールは幾つかの腐食性環境について保護に役立つが、それは酸化アルミニウム(Al2O3)スケールほどの保護を示すものとは思われない。十分な量のCr及びAlであって、それらのそれぞれが本発明の改質MCrAlY配合物の範囲内にあるときには、保護酸化アルミニウムスケールが生じることが観察された。本明細書に開示した本発明のMCrAlYの特定の配合物では、選択的に酸化することが可能であり、アルミナスケールが形成され、クロミアスケール及びコーティング特性にとって不利と考えられる他のスケールは最小限に止められている。
【0029】
アルミナスケールの選択的酸化に加えて、本発明は、MCrAlY材料からのアルミニウムが選択的に酸化し、アルミナスケールを形成することもできると同時に、MCrAlYコーティング中の例えば、アルミナのようなセラミック材料の装填量を最大にする能力を有する点においても独特である。一実施態様では、驚くべきことには、Alを選択的に酸化し、改質MCrAlYコーティング表面に沿ってアルミナスケールを形成する能力を保持したまま、改質MCrAlY配合物に、約15−45wt%、又は好ましくは18−32wt%、又は更に好ましくは20−30wt%のセラミック(例えば、アルミナ、他の金属イオンをドープしたアルミナ、ジルコニア、アルミノシリケート、イットリア、イットリア安定化ジルコニア、マグネシア安定化ジルコニア、ジルコン、ジルコニア強化アルミナ、シリカ、ムライト、及びそれらの組合せ)を装填することができることを見出した。好ましい実施態様では、MCrAlYに装填されるセラミックはアルミナである。高装填量のアルミナセラミックは、十分な耐クリープ性、高い摩耗硬度及び高温硬度を特徴とするセラミック酸化物分散強度によって構造安定性を有するMCrAlYコーティングを提供する。構造安定性のこれらの属性は、1000℃以上の高温における被覆アルミナスケールについて適切な支持を提供する。
【0030】
従って、本発明は、15wt%以上の高セラミック装填量でアルミナスケールを形成させる目的で選択した元素の組合せを含む。Al及びCrの濃度を本発明の必要な範囲内に保持することに加えて、ニオブ(Nb)が約6−15wt%の有効量で含まれている。如何なる理論によっても束縛されるものではないが、Nbは、より高いアルミナ装填量の条件下であっても、改質MCrAlYコーティング内にコーティング表面に沿って連続アルミナスケールの層の形成を促進する条件の作製を促進することができると考えられる。Nbの有効量の操作は、コーティングの表面に沿って保護アルミナスケール形成させながら、MCrAlYコーティングに装填することができる最大セラミック材料の増加の原因と思われる。Nbは、未知の機構により、クロミア形成及びその表面上に複合酸化物を生じる能力を同時に抑制しながら、改質MCrAlYコーティング表面上のアルミナスケール形成を優先的に援助し
及び/又は安定化することができる。従って、Nbは、コーティング表面に形成した複合酸化物の発生(onset)を遅らせ且つ総量を減少させる好ましい機構に含まれていると思われる。例えば、実施例に記載されているように、20−30wt%のアルミナセラミックを改質MCrAlY配合物に配合することによって、Al2O3スケールの層がコーティングの保護スケールド表面として生成することができ、Crリッチスケールは検出されない。
【0031】
これに反して、約20−30wt%のセラミック材料装填量を有する通常のMCrAlYコーティングは、表面にアルミナスケールを形成することができたことはない。むしろ、通常のMCrAlYコーティングは、典型的には、15wt%セラミック材料の装填量を超過することができず、以下の比較例に示されるように、なお連続アルミナスケールを形成している。前記で述べたように、10重量%を上回る量を装填した高濃度のセラミック材料(例えば、アルミナ)は、MCrAlYコーティング表面へのアルミニウム拡散の傷害として作用することができる集合体径及び容積を有する。これらの条件下では、クロムは表面まで拡散して中位保護Crリッチスケールを形成することができ、これは、ピックアップと関連した混合酸化物又は複合酸化物の形成のための潜在的供給源であることが見いだされた。
【0032】
特定の百分率範囲内のNbが含まれていること及び特定範囲内のAlとCrの比は相乗的関係を生じ、高セラミック装填量を、コーティング表面でのAlからアルミナスケールへの選択的酸化を損なうことなく改質MCrAlYコーティングに配合することができる。Nbは、混合酸化物構造の形成を阻害すると思われる(例えば、Cr2O3スケール
及び/又は酸素が存在するときには、MnAl2O4形成が可能であることに加えてMnCr2O4が一般的である可能性がある)。従って、Nbの一つの考えられる利点は、Cr及びMnの拡散及び相互作用の制限である。相乗作用は、酸化性環境において配合物を適用する能力も提供する。比較してみると、通常のMCrAlYコーティングを低酸素環境で基材に適用して、表面に沿って酸化物スケールが次の熱処理工程で形成されるようにすることが必要である。コーティング内に含まれる高濃度の酸素は、表面に沿ってアルミナスケール形成を妨げる可能性がある拡散バリヤーとして作用することができる有害な内部酸化物を形成する。結果として、通常のMCrAlYコーティングを適用するための熱スプレー法は、典型的には、酸素を低濃度に保持してコーティングの表面に沿って制御された酸化物スケールを形成できるようにする必要がある。このために、電子ビーム物理蒸発(EBPVD)、低圧プラズマスプレー(LPPS)、又は不活性ガス遮蔽物を用いて工程中の酸素エントレインメントを最小限に止めるシュラウド付きプラズマスプレーのような比較的複雑で高価な表面増大法が、生成コーティングにおける低酸素含量を保持するのに必要である。
【0033】
改質MCrAlYは、EBPVD、LPPS又はシュラウド付きプラズマスプレー法と比較して単純化したスプレー法と考えられるエアプラズマスプレー法を用いる独特の能力を提供することができる。本発明のコーティングを基材上にエアプラズマスプレーすると、高濃度の酸素(例えば、1−4wt%)がコーティング中に蓄積する可能性があるが、適用したコーティングの表面に所望なアルミナスケールを形成することができる。従って、通常のMCrAlYコーティングとは異なり、本発明のコーティング内の酸素の蓄積及びその中での対応する内部酸化は、コーティング表面上のアルミナスケールの形成のバリヤーとして機能することができない。本発明の新規なMCrAlYコーティングは、真空を必要としない低価格のエアプラズマスプレー代替品を考慮している。低価格のエアプラズマスプレー法は、通常のMCrAlYコーティングではできなかったことである。このような低価格のエアプラズマスプレーの多数の応用が、好適であることがある。本発明の改質MCrAlYコーティング配合物は、低圧プラズマスプレー(LPPS)、エアプラズマスプレー(APS)、シュラウド付きAPS、高速度酸素燃料(HVOF)、又は高速度デトネーションガン(Dガン又はスーパーDガンなど様々なスプレー法によって適用することができる。一実施態様では、米国特許第5,741,556号公報、第2,714,563号公報、第2,972,550号公報及び第4,902,539号公報に記載されているように、デトネーションガンスプレー法を用いることができ、前記特許公報の開示内容は、そのまま参考として本明細書に引用されている。一般的に言えば、デトネーションガン法は、デトネーション波を生成するための酸素−炭化水素燃料混合物の添加を含んでいる。デトネーション波は、胴部へと伝わった後、コーティング材料を胴部からコーティングを行う製品まで加熱して、加速する(これによって、材料内の温度及び速度を負わせる)。酸素の存在下にて本発明の配合物を適用する能力によって、低濃度の酸素を必要とする従来のスプレー法と比較して余り複雑でなく且つ低価格の手法が可能となる。更に、スプレー工程中にアルミナスケールの形成を選択的に酸化する本発明の能力は、選択的酸化物スケールの形成のための次の熱処理工程を省いて、それによってコーティングを適用する方法を更に合理化することができるので好都合である。
【0034】
従って、本発明の組成物は、通常のMCrAlY材料と比較してコーティング中に多量の酸素を含むことができ、且つコーティング表面上に保護アルミナスケールを形成するため選択的酸化を行う能力を保持したままである。更に、多量のセラミック、特に金属酸化物(例えば、アルミナ)を、コーティングに装填することができる。更に多量の酸化物及びアルミナがコーティング中にあっても、驚くべきことにはコーティング表面にアルミナスケール形成のためのバリヤーは作製されない。換言すれば、MCrAlYコーティング内部からのアルミニウムは、コーティング中のその集合体径により酸素輸送のバリヤーとして作用すると予想されているセラミックの装填量が高めであってもアルミナスケールを形成することができる。Nbと組合せた改質MCrAlY配合物は、(特に、AHSSで見られる未還元酸化物に暴露されているときには)コーティングの挙動を変更して、コーティング表面での複合酸化物形成を妨げ又は阻害すると思われる。
【0035】
本発明の改質MCrAlY配合物は、炉ロールの他に様々な用途に好適である。例えば、セラミック装填量が高く20−30wt%である改質MCrAlY配合物は、航空機産業又は電力産業におけるタービンブレードの高温部品におけるような高温耐酸化性、高温耐腐食性及び高温耐摩耗性を必要とする用途に対してコーティングすることができる。航空機産業に関しては、アルミナをブレンドした改質MCrAlYをコーティングした部品、アルミナスケールは、マンガン、チタン及びケイ素の酸化物に対する化学的に不活性な有効拡散バリヤーとして作用することができる。改質MCrAlY配合物を炉ロール上の前記混合酸化物のような好ましくない酸化物の形成に対する有効拡散バリヤーとして作用するようにする同じ特性によって、改質MCrAlY配合物が航空部品の表面を保護することが可能になる。
【0036】
更に他の用途では、改質MCrAlY配合物を、熱バリヤーコーティングを被覆するボンディングコートとして用いることができる。アルミナスケールの選択的酸化は、ボンディングコート及び被覆用熱バリヤーコーティングの界面における熱成長した酸化物(TGO)の成長を弱めるための有効拡散バリヤーとして作用する。アルミナスケールは、Crリッチスケールのような他のスケールと比較してボンディングコートへの及びからの酸素の更に良好な拡散バリヤーとして作用する。アルミナスケールは、Crリッチスケールのような他のスケールと比較してより大きな不活性も有する。結果として、アルミナスケールは、好ましくは2−25ミクロン、又は更に好ましくは2−5ミクロンのようなたった数ミクロンの厚みを有することができる。更に、MCrAlYボンディングコートへのセラミック、特に金属酸化物(例えば、アルミナ)の装填量を増加させると、基材とセラミックの間の熱膨張係数のミスマッチの結果としてボンディングコートの残留応力を小さくする。このように、被覆熱バリヤーコーティングは一層柔軟であり、剥落したり亀裂が入り難くなるので、熱バリヤーコーティングの運転寿命が長くなる。従って、改質MCrAlY配合物は、ガスタービン及び航空宇宙タービン部品などの様々な高温用途についてイン・シテューでのTGO成長を制限することによって他の通常のボンディングコートに比較して一層良好なボンディングコートとして機能することができる。
【0037】
改質MCrAlY配合物の変動を利用することができることを理解すべきである。例えば、本発明の改質MCrAlY配合物は、セラミック材料を実質的に装填することなく高濃度のセラミックの装填が必要でない用途に用いることができる。一実施態様では、セラミックの装填は、約15wt%以下の範囲で起こることがある。更に他の用途では、改質配合物はセラミックを全く装填しないことがあり、セラミックの装填が全く必要でないか又は十分な金属酸化物が複合蒸着時に含まれている酸素から形成される用途には十分であることがある。
【0038】
下記の実施例に示され及び検討されるように、幾つかの実験を行って、本発明の配合物を他の材料と比較した。好結果が得られる配合物の基準は、所望な保護スケールを選択的に酸化する能力を保持しながら、配合物中に多量のセラミックを混合する能力によって変化する。
【0039】
実験は、CAL及びCGLの炉条件をシミュレートした。一般的に、自動車用途の先進高強度鋼を運ぶCAL及びCGLの炉雰囲気は、還元性雰囲気の結果として低濃度の酸素を標的としている。これに関して、自動車用途のAHSS鋼帯を運ぶCAL及びCGLは、典型的には、高い負の露点を生じる(すなわち、低酸素含量)窒素−水素混合物を供給することによって生じる還元性雰囲気を用いている。これらの大型炉は、典型的には、めったに気密性ではない。従って、炉は、炉雰囲気中に高濃度(百万分率の範囲、ppm)の酸素を含むことができる。
【0040】
実験炉試験を用いて、CAL及びCGLで見られたピックアップを再現した。用いた試験方法は、実施例のそれぞれについて同じであった。1インチ直径の試験ボタンを304型ステンレス鋼(Fe−Cr−Ni合金)から作製し、炉ロールベース又は基材として用いた耐熱性鋼鋳造をシミュレートする目的で用いた(典型的な鋳物としては、302型鍛造品に類似のHF型Fe−Cr−Ni合金及び309型鍛造品に類似のHH型が挙げられる)。ステンレス鋼試験ボタンを、様々な量のセラミックを分散させたMCrAlY配合物でコーティングした。それぞれの試験に用いた実験炉は、流動ガス中900℃で作動することができる型の石英管を包含した。流動ガスは、AHSSを運ぶCAL及びCGLで見られる低濃度の酸素(例えば、10−100ppm)をシミュレートするためのアルゴンArであることができる。
【0041】
本発明の改質MCrAlY配合物を他の材料と適当に比較するために、実験室試験を具体的にデザインして、ピックアップの促進をシミュレートした。試験試料を実際のCAL及びCGLで用いたコーティングの試料と比較したとき、2−4週間の実験室試験が、コーティングの表面に付着したピックアップに関してコーティングを施した炉ロール寿命2−3年をシミュレートすることが判明した。これに関して、アルゴンを流動ガスとして(5CFH、立方フィート/時の流量で)供給し、アルゴンの供給を2.25インチ(5.7cm)の直径の石英管の閉端に入るような方法で設定した。絶縁を用いて半閉鎖末端を形成し、炉に若干の陽圧を生じさせて、Arが漏れ出し、最小限の酸素(すなわち、10−100ppm)が炉雰囲気中に入るようにした。コーティングを施したコート試料を炉に入れ、Fe/FeO及びMn/MnO粉末をコーティングを施した試料の表面に振りかけ、典型的にはAHSS鋼及び鋼帯上に生じる対応する酸化物に見出される高濃度のMn/MnOを再現した。コーティングを施した表面の上面に形成されたスケールの性質を、エネルギー分散分光法(EDS)を用いる走査型電子顕微鏡法(SEM)によって測定し、元素ドットマップの形態で分析を行った。着色した元素ドットマップを顕微鏡写真にかぶせて、元素が存在する場所を明示し、存在する相及び化合物の型を示す。
【実施例】
【0042】
比較例1
通常のMCrAlY配合物(本明細書では比較例1と呼ばれ、米国特許第4,124,737号公報に開示されている)を用いて、米国特許第5,741,556号公報に記載の方法を用いてコーティングを製造し、前記特許公報の開示内容は、そのまま参考として本明細書に引用されている。MCrAlYの組成は、54wt%Co、25wt%Cr、7.5wt%Al、10wt%Ta、及びY、Si及びCのそれぞれについて1%未満であった。MCrAlYを10wt%のAl2O3セラミックと混合して、90wt%のMCrAlYと10wt%のAl2O3の複合混合物を製造し、これは75容積%のMCrAlY及び25容積%のAl2O3と同等であった。前記で説明したように、コーティングをオーステナイト系ステンレス鋼基材に適用した。生成するコーティング組成は、51wt%Co、22.5wt%Cr、12wt%Al、9wt%Ta、5wt%O、及びY、Si及びCのそれぞれについて1%未満であった。炉条件は、CAL及びCGLにおけるコーティングを施した炉ロールで見られるピックアップを促進しシミュレートするようにデザインした。
【0043】
2週間後に、アルミナスケールがコーティング表面に生じ、(10wt%のアルミナを装填した)コーティング中からのアルミニウムはコーティング表面へ拡散して酸化物スケールを形成することができることを示していた。しかしながら、通常のMCrAlY配合物上に生じたアルミナスケールは、有害な混合酸化物形成に対するバリヤーとして作用しなかった。元素ドットマップは、Fe/FeO及びMn/MnOはAl2O3スケールと反応して混合酸化物形成物を形成し、AHSSを運ぶCAL又はCGLにおけるピックアップを生じることを示していた。
【0044】
比較例2
通常のMCrAlY配合物(本明細書では比較例2と呼ばれ、米国特許第4,822,689号公報に開示されている)を用いて、米国特許第5,741,556号公報に記載の方法を用いてコーティングを製造した。MCrAlYの組成は、54wt%Co、25wt%Cr、7.5wt%Al、10重量%Ta、及びY、Si及びCのそれぞれについて1%未満であった。MCrAlYを30wt%のAl2O3セラミックと混合し、70wt%のMCrAlY及び30wt%のAl2O3の複合混合物を製造し、これは50容積%のMCrAlY及び50容積%のAl2O3と同等であった。コーティングを、オーステナイト系ステンレス鋼基材に適用した。生成するコーティング組成は、40wt%Co、17.5wt%Cr、21wt%Al、7wt%Ta、14wt%O、及びY、Si及びCのそれぞれについて1%未満であった。炉条件は、比較例1と同様に、CAL及びCGLにおけるコーティングを施した炉ロールで見られるピックアップを促進しシミュレートするようにデザインした。
【0045】
Al2O3スケールの代わりに、Cr2O3スケールがコーティングの表面に生じ、これは、アルミニウムがコーティング表面に拡散して酸化物スケールを形成することができないことを示していた。複合体における高容積分率のAl2O3(30重量%)は、バリヤーとして作用した。通常のMCrAlY配合物に生じたクロミアスケールは、有害な混合酸化物形成を防止しなかった。元素ドットマップは、Mn/MnOはCr2O3スケールと反応して、混合酸化物形成、例えば、MnCr2O4(AHSS製造に関連したピックアップの普通の成分)を形成することを示した。
【0046】
比較例3
もう一つの通常のMCrAlY配合物(本明細書では比較例3と呼ばれ、米国特許第6,572,518号公報の誘導体として開示されている)を用いて、米国特許第5,741,556号公報に記載の方法を用いてコーティングを製造した。MCrAlYの組成は、75wt%Ni、16wt%Cr、5wt%Al、3wt%Fe及び0.5wt%Yであった。MCrAlYを30wt%セラミックと混合して、70wt%MCrAlY及び30wt%セラミックの複合混合物を製造し、これは50容積%MCrAlY及び50容積%セラミックと同等であった。このセラミックは、Y2O3とCr3C2の混合物であった。Y2O3は、79wt%Y及び21wt%Oの配合を有し(総複合体の20wt%であった)。Cr3C2は、87wt%Cr及び13wt%Cの配合を有し(総複合体の10wt%であった)。コーティングを、オーステナイト系ステンレス鋼基材に適用した。生成するコーティング組成は、53wt%Ni、20wt%Cr、3.5wt%Al、16wt%Y、4wt%O、2.6wt%C及び2wt%Feであった。炉条件は、比較例1と同様に、CAL及びCGLにおけるコーティングを施した炉ロールで見られるピックアップを促進しシミュレートするようにデザインした。
【0047】
Cr2O3スケールがコーティングの表面に生じ、これは、アルミニウムがコーティング表面に拡散して酸化物スケールを形成することができないことを示していた。複合体における高容積分率のセラミック材料(すなわち20wt%Y2O3及び10wt%Cr3C2)は、バリヤーとして作用した。通常のMCrAlY配合物に生じたクロミアスケールは、有害な混合酸化物形成を防止しなかった。元素ドットマップは、Mn/MnOはCr2O3スケールと反応して、式MnCr2O4を有する混合酸化物形成(AHSS製造に関連したピックアップの普通の成分)を形成することを示した。
【0048】
比較例4
100%アルミナ(Al2O3)を用いて、米国特許第5,741,556号公報に記載の方法を用いて上塗り層(約50μmの厚みを有する)を製造した。900℃におけるアルミナ層とオーステナイト系ステンレス鋼の間のCTEミスマッチにより、ボンディングコート層(比較例1の50μm)を用いてCTEグラディエントを形成し、アルミナオーステナイト系ステンレス鋼基材間のCTEミスマッチ応力を減少させた。炉条件は、比較例1と同様に、CAL及びCGLにおけるコーティングを施した炉ロールで見られるピックアップを促進しシミュレートするようにデザインした。アルミナ層は、有害な混合酸化物形成に対するバリヤーとして作用しなかった。元素ドットマップは、Fe/FeO及びMn/MnOはAl2O3スケールと反応して混合酸化物形成物を形成することを示していた。
【0049】
これらの結果は、ロール表面のAl2O3形成は保護層として作用することが予想されたが、アルミナは、CAL及びCGLでピックアップを生じる可能性がある混合酸化物形成を防止するためのバリヤーを形成しないことを示唆していた。
【0050】
例1
本発明による改質MCrAlY配合物(本発明では例1と呼ばれる)を用いて、米国特許第5,741,556号公報に記載の方法を用いて熱溶射皮膜を製造した。改質MCrAlYの組成は、57wt%Co、20wt%Cr、7.5wt%Al、10wt%Nb、5wt%Ni及び0.5wt%Yであった。改質MCrAlYは、いずれのセラミックとも混合しなかった。従って、生成するコーティング組成物は、蒸着工程中に幾らかの内部酸化物の形成の結果として1−2wt%の酸素の添加を除き、改質MCrAlYと同じ組成であった。炉条件は、比較例1と同様に、CAL及びCGLにおけるコーティングを施した炉ロールで見られるピックアップを促進しシミュレートするようにデザインした。
【0051】
Al2O3スケールは、例1のコーティングの表面に生じた。元素ドットマップは、Mn/MnO及びアルミナスケールと反応しないことを示したが、幾らかのFe/FeOをアルミナスケール層付近に見出した。このアルミナ層は、例1のコーティングが高温で耐酸化性及び耐腐食性を提供することを示す。例1の改質MCrAlY配合物を、高温で酸化及び腐食防止の目的で用いることができ、幾つかの複合酸化物形成に対する耐性を提供する。
【0052】
例2
改質MCrAlY配合物を用いて、米国特許第5,741,556号公報に記載の方法を用いてコーティングを製造した。改質MCrAlYの組成は、57wt%Co、20wt%Cr、7.5wt%Al、10wt%Nb、5wt%Ni及び0.5wt%Yであった。改質MCrAlYを20wt%Al2O3セラミックと混合して、80wt%MCrAlY及び20wt%Al2O3の複合混合物を製造し、これは60容積%MCrAlY及び40容積%Al2O3と同等であった。コーティングを、オーステナイト系ステンレス鋼基材に適用した。生成するコーティング組成は、46wt%Co、16wt%Cr、17wt%Al、8wt%Nb、4wt%Ni、9wt%O及び1wt%未満のYであった。炉条件は、比較例1と同様に、CAL及びCGLにおけるコーティングを施した炉ロールで見られるピックアップを促進しシミュレートするようにデザインした。
【0053】
アルミナスケールがコーティング表面に生じ、改質コーティング中からのアルミニウムはコーティング表面へ拡散して、アルミナスケールを形成することができたが、20wt%アルミナセラミックは改質MCrAlYコーティングマトリックス中で分散した。エネルギー分散分光法(EDS)を用いる走査型電子顕微鏡法(SEM)によって分析したとき、アルミナを多量に装填した改質MCrAlY組成物は、アルミナスケールを形成し、有害な混合酸化物(すなわち、AHSSを運ぶ際のピックアップと関連したものに類似している)の形成を防止することができた。
【0054】
例3
改質MCrAlY配合物を用いて、米国特許第5,741,556号公報に記載の方法を用いてコーティングを製造した。改質MCrAlYの組成は、57wt%Co、20wt%Cr、7.5wt%Al、10wt%Nb、5wt%Ni及び0.5wt%Yであった。改質MCrAlYを30wt%Al2O3セラミックと混合して、70wt%MCrAlY及び30wt%Al2O3の複合混合物を製造し、これは50容積%MCrAlY及び50容積%Al2O3と同等であった。コーティングを、オーステナイト系ステンレス鋼基材に適用した。生成するコーティング組成は、40wt%Co、14wt%Cr、21wt%Al、7wt%Nb、3.5wt%Ni、14wt%O及び1wt%未満のYであった。炉条件は、比較例1と同様に、CAL及びCGLにおけるコーティングを施した炉ロールで見られるピックアップを促進しシミュレートするようにデザインした。
【0055】
アルミナスケールがコーティング表面に生じ、改質コーティング中からのアルミニウムはコーティング表面へ拡散して、アルミナスケールを形成することができたが、30wt%アルミナセラミックは改質MCrAlYコーティングマトリックス中で分散した。SEM/EDSによって分析したとき、アルミナを多量に装填した改質MCrAlY組成物は、アルミナスケールを形成し、有害な混合酸化物(すなわち、AHSSを運ぶ際のピックアップと関連したものに類似している)の形成を防止することができた。
【0056】
本発明のある実施態様であると考えられるものを示して、説明してきたが、形態又は詳細における様々な改質及び変化は、本発明の精神及び範囲から離反することなく容易に行うことができることは当然理解される。従って、本発明は、本明細書に示され且つ説明されている正確な形態及び詳細に限定されず、本明細書に開示されており以後に特許請求される発明の全体より少ないものにも限定されないと解釈される。