特許第5722637号(P5722637)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ エア・ウォーター株式会社の特許一覧
特許5722637金属メッシュ織物及びスクリーン印刷用版
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5722637
(24)【登録日】2015年4月3日
(45)【発行日】2015年5月27日
(54)【発明の名称】金属メッシュ織物及びスクリーン印刷用版
(51)【国際特許分類】
   D03D 15/02 20060101AFI20150507BHJP
   B41N 1/24 20060101ALI20150507BHJP
   D03D 15/00 20060101ALI20150507BHJP
   D03D 9/00 20060101ALI20150507BHJP
【FI】
   D03D15/02 A
   B41N1/24
   D03D15/00 B
   D03D9/00
【請求項の数】9
【全頁数】46
(21)【出願番号】特願2011-1255(P2011-1255)
(22)【出願日】2011年1月6日
(65)【公開番号】特開2012-140735(P2012-140735A)
(43)【公開日】2012年7月26日
【審査請求日】2013年12月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000126115
【氏名又は名称】エア・ウォーター株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】592066723
【氏名又は名称】中沼アートスクリーン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108914
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 壯兵衞
(72)【発明者】
【氏名】青木 寛治
(72)【発明者】
【氏名】中尻 英幸
(72)【発明者】
【氏名】吉田 和弘
【審査官】 斎藤 克也
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−089837(JP,A)
【文献】 特開平08−158035(JP,A)
【文献】 特開平09−249959(JP,A)
【文献】 特開2005−200674(JP,A)
【文献】 特開2011−011480(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41N 1/00 − 99/00
D03D 1/00 − 27/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属線材からなる縦糸及び横糸が互いに交差するように製織された構造をなす金属メッシュ織物であって、前記縦糸及び前記横糸のそれぞれが、
オーステナイト系ステンレス鋼からなるコア部と、
該コア部を囲むように設けられ、前記オーステナイト系ステンレス鋼を母材とし、Cr炭化物粒子が実質的に存在しないように、前記母材に炭素が侵入固溶した硬化層と、
該硬化層を囲み、元素A及び元素Aとは異なる元素Bとの組み合わせを、Fe,Cr,Niのいずれかから選択される組み合わせとして、炭化物及び化学式AB24で示される酸化物とを含む黒色クラッド層と
を備えることを特徴とする金属メッシュ織物。
【請求項2】
前記硬化層の厚さの前記金属線材の半径に対する比が、10%〜60%の範囲内の値であることを特徴とする請求項1に記載の金属メッシュ織物。
【請求項3】
前記黒色クラッド層の厚さが0.1μm〜1.1μmの範囲内の値であることを特徴とする請求項1又は2に記載の金属メッシュ織物。
【請求項4】
前記黒色クラッド層の表面が、前記金属線材の長さ方向に沿って、幅0.3〜1.5μm、長さ0.5〜2.5μmの凸部がランダムに連続して配列された凹凸を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の金属メッシュ織物。
【請求項5】
前記縦糸と前記横糸とのそれぞれの交差部において、前記縦糸と前記横糸とが接触した交点部にも前記硬化層、及び前記硬化層を囲む前記黒色クラッド層が形成されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の金属メッシュ織物。
【請求項6】
型枠と、
金属線材からなる縦糸及び横糸が互いに交差するように製織された構造をなし、前記型枠の内部に紗張りされた金属メッシュ織物
とを備え、前記縦糸及び前記横糸のそれぞれが、
オーステナイト系ステンレス鋼からなるコア部と、
該コア部を囲むように設けられ、前記オーステナイト系ステンレス鋼を母材とし、Cr炭化物粒子が実質的に存在しないように、前記母材に炭素が侵入固溶した硬化層と、
該硬化層を囲み、元素A及び元素Aとは異なる元素Bとの組み合わせを、Fe,Cr,Niのいずれかから選択される組み合わせとして、炭化物及び化学式AB24で示される酸化物とを含む黒色クラッド層と
を有することを特徴とするスクリーン印刷用版。
【請求項7】
前記硬化層の厚さの前記金属線材の半径に対する比が、10%〜60%の範囲内の値であることを特徴とする請求項6に記載のスクリーン印刷用版。
【請求項8】
前記黒色クラッド層の厚さが0.1μm〜1.1μmの範囲内の値であることを特徴とする請求項6又は7に記載のスクリーン印刷用版。
【請求項9】
前記黒色クラッド層の表面が、前記金属線材の長さ方向に沿って、幅0.3〜1.5μm、長さ0.5〜2.5μmの凸部がランダムに連続して配列された凹凸を有することを特徴とする請求項6〜8のいずれか1項に記載のスクリーン印刷用版。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スクリーン印刷用の金網に関するものであり、詳しくは、エレクトロニクス関連分野の高精度・高密度なスクリーン印刷が可能となるスクリーン印刷用の金属メッシュ及びこの金属メッシュを利用したスクリーン印刷用版に関するものである。
【背景技術】
【0002】
パソコン、携帯電話、液晶テレビ等の電子機器内には、各種の配線パターンが施されてLSI等の半導体装置が搭載されたプリント配線板が多数使用されている。このようなプリント配線板は、一般に、スクリーン印刷等によって基板に配線パターンを形成することにより製造されている。近年では、電子機器がますます精密化及び高密度化が進み、配線パターン及びそれを印刷するためのスクリーン印刷にも微細化と高密度化が要求され、スクリーン印刷用版としても、微細金属織物によるスクリーン印刷用版が必要になってきている。
【0003】
スクリーン印刷では、スクリーン印刷用版と基板を所定のギャップを隔てて平行に配置し、スキージでインクをスクリーンのメッシュ開口部に充填しながらスクリーンを基板に押し付け、スクリーンのテンションによって基板からスクリーンが離れる「版離れ」の際にインクが基板に転写される。この「版離れ」を良好にしなければ印刷性が著しく低下し、高精度な印刷を実現できない。このとき、ギャップが大きいほど版離れはよくなるが、それだけスキージの際にスクリーンの伸びが大きくなるため、メッシュ開口が大きくなって解像度が低くなる上、スクリーン印刷用版の寿命も低下することとなる。いわば、印刷性とスクリーン印刷用版の寿命とはトレードオフの関係にある。
【0004】
高い寸法精度で印刷を実現して良好な印刷性を保ち、しかもスクリーン印刷用版の寿命を確保するためには、ギャップを限りなく小さくしながら良好に版離れするスクリーン印刷用版が必要となる。そのためには、スクリーン印刷用版の紗張りを極めて高いテンションで行うことが可能な高強度で低伸度のスクリーン用メッシュ材料が要求される。
【0005】
現行のメッシュ材料でスクリーン印刷用版の紗張りを行う際、縦横の2方向からテンションをかける影響から、おおむね破断強度の50%程度のテンションを与えると破断が生じてしまう場合が多い。しかしながら、良好な印刷性を確保するためには、破断強度の30〜50%程度のテンションで紗張りを行うことが求められる。このため、現状のメッシュ材料では、破断寸前のテンションにおける紗張りを余儀なくされており、破損リスクが極めて高い状態である。したがって、メッシュ材料の破断強度が大きくなれば、現在要求されているテンションで紗張りを行っても破断まで余裕があるため、破損リスクが大幅に軽減されるため、メッシュ材料の破断強度の向上が求められている。
【0006】
上記メッシュ材料から形成されるスクリーンには、紗張りテンションに加え、上述したスキージによる印刷テンションが更にかかるが、上述したように、破断寸前の紗張りを行ったスクリーン印刷用版では、印刷テンションによって破損リスクが更に高くなる。又、破損はしなくとも、印刷テンションでメッシュ材料の弾性限度を超える荷重がかけられると、永久ひずみが残留してしまい寸法変化を起こしてしまう。上述したような電子産業向けのスクリーン印刷等では、寸法変化による印刷精度の低下は、致命的な印刷欠陥となりうるため、このような事態は避けなければならない。したがって、メッシュ材料の弾性限度が大きくなれば、印刷負荷も弾性限度内に収まるので、永久ひずみを生じることなく高精度の印刷が実現できるため、メッシュ材料の弾性限度の向上が求められている。
【0007】
一方、上記のようなスクリーン印刷用版は、スクリーンのメッシュ開口の寸法によって配線幅の最小値が決定されるため、近年の微細化・高密度化の要求により、使用される線材も細線化されている上、印刷配線幅も10〜20μm程度まで狭いものが求められてきている。このような微細織物では、織物自体の強度や剛性が低下し、上述した高テンションでの紗張りに耐えられなかったり、配線パターンの印刷時にメッシュが変形して印刷精度が低下したりしやすくなるという問題がある。
【0008】
このように、スクリーン印刷用版には、細線化及びメッシュ開口の微細化を満足しながら、しかも、高テンションでの紗張り及び印刷ストレスによるメッシュ変形を生じないという、極めて厳しい特性の高強度・高剛性なスクリーンの開発が要求されている。
【0009】
このように、高精度・高密度でのスクリーン印刷を実現するためには、(1)高強度且つ低伸度で、高テンションでの紗張りが可能であること、(2)寸法精度に優れ、印刷ストレスが加わっても寸法変化が小さく安定していること、(3)弾性回復力が大きく耐久性に優れていること、(4)線径が細く高密度メッシュであること、等の諸特性が要求される。
【0010】
このような高精度・高密度な印刷を可能とするスクリーンとして、ナイロン・ポリエステル等の合成繊維では、強度や弾性率が低すぎて全く使用できず、軟質のステンレス線によるメッシュ織物であっても、強度、弾性回復率及び低伸度特性が十分ではない。
【0011】
そこで、高強度・高剛性なスクリーンとして、次のものが開示されている。
【0012】
(1)オーステナイト系ステンレス鋼線材を使用し、結晶粒度を小さくしたり、成分バランスを改善したり、或いは非金属介在物を小さくする等、金属組織学的に高強度化したステンレス線材をメッシュに織物加工すること(例えば下記の特許文献1、2)。
【0013】
(2)金属製のメッシュ織物に対してニッケルめっきを施したもの(例えば下記の特許文献3、4)。
【0014】
(3)金属繊維の織物部材にイオン注入した後にDLC(ダイヤモンド・ライク・カーボン)膜を形成することにより物性を改善したもの(例えば下記の特許文献5)。
【0015】
(4)オーステナイト系ステンレス鋼線材を織物にした後、真空浸炭により生地中に炭化物を分散させて強化したもの(例えば下記の特許文献6、7)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特開平11−006037号公報
【特許文献2】特開2003−253399号公報
【特許文献3】特開2005−131851号公報
【特許文献4】特開2003−175684号公報
【特許文献5】特開2008−174790号公報
【特許文献6】特開2006−089836号公報
【特許文献7】特開2006−089837号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
しかしながら、上記特許文献1記載のものは、結晶粒度を小さくして伸び率を10〜40%にしているが、抗張力が1400MPa程度で強度的には十分なものではない。又、上記特許文献2記載のものは、抗張力は高いものの、伸びが5%未満と小さいために紗張り工程で破断してしまうおそれがある。このように、オーステナイト系ステンレス鋼線材を使用して金属組織学的に高強度化した従来のものは、抗張力を高くすると伸びが減少し、伸び率を確保しようとすると抗張力が低下するという欠点があった。
【0018】
又、上記のような塑性領域の狭い低伸度金属線材で製織するのは極めて困難である。即ち、スクリーン印刷用のメッシュ材料は、上述したように高強度且つ低伸度であることが求められるところ、低伸度金属線材自体の特性として上述したような狭い塑性領域としてしまうと、高密度メッシュのように網目の間隔を狭くしようとしても、低伸度金属線材自体の剛性によるスプリングバック作用によって直線性が維持され、織物とするための波付け変形を低伸度金属線材に生じさせにくくなる上、低伸度金属線材同士の間隔も広くなってしまい、高密度メッシュの織物を得ることが困難となるものである。
【0019】
このように、オーステナイト系ステンレス鋼の線材は、伸線加工は容易であるものの、抗張力を高くすると高い伸度(伸び率)を確保できず、伸び率を確保すると抗張力が低くなるという問題がある。即ち、高い伸び率を確保すると、製織時の断線、線径の細り、硬度アップによる素材特性の不均一等は抑えられるが、抗張力が下がるのでメッシュ織物としての寿命が短くなるという問題がある。反対に、抗張力を確保すると伸び率が下がるので、紗張りテンションによる破損リスクが高くなって加工性や歩留まりが悪くなる上、印刷ストレスでの破損リスクも高くなって短寿命化するという問題がある。
【0020】
上記特許文献3、4に記載のように金属製のメッシュ織物にニッケルめっきを施したものや、上記特許文献5に記載のように金属織物にDLC膜のコーティングを施したものは、母材金属に対して異質な硬質材料をコーティングしたものであり、弾性特性を母材であるステンレス鋼によって担っているため、ニッケルめっき層やDLCコーティング膜によって補助的に強度向上を図ることができたとしても、継続的な使用によりスクリーンに伸びが生じてしまうことが避けられない。又、縦横の繊維の交点をめっき等で補強するのであるが、印刷ストレスが繰り返しかかることにより交点のめっき被膜にクラックや剥離等の欠陥が生じやすく、強度寿命がそれほど長くないという問題もある。又、従来のめっき法やPVD法等による硬質皮膜コーティングなどの手法によっては、縦糸と横糸との交差部において、縦糸と横糸とが接触する交点部には皮膜が形成できないという本質的な弱点があるので、縦糸と横糸との交差部の強化は望めない。よって、従来のめっき法やPVD法等による硬質皮膜コーティングなどの手法によっては、縦糸と横糸とが接触する交点部が最弱部となり、メッシュ織物としての強度向上をさまたげている可能性がある。
【0021】
上記特許文献6、7に記載のものは、オーステナイト系ステンレス鋼線材に対し真空浸炭を行うことにより生地中に炭化物を分散し強化したものであるが、850〜1050℃という高温での浸炭処理であるために多量の炭化物が析出してしまい、諸条件のばらつきの影響で粗大炭化物粒子が現出して破断の起点になるおそれがある。又、高温処理のため、織物自体に歪が発生してメッシュが変形するおそれもある。又、これらの高温浸炭によるメッシュでは、伸び率は比較的高いものが得られるが、抗張力は1200MPa程度にとどまっており、強度的にはまだ十分なものではない。
【0022】
しかも、織物をロール・トゥ・ロールで繰り出しと巻取りを行いながら浸炭処理を行うとされているが、これらの動作を真空中で行わねばならず、設備コストや処理コストが極めて高くなり、工業的に実現するのは極めて困難である。更に、高温の真空浸炭で炭化物を形成させることから、ステンレスの持つ耐蝕性は大幅に低下せざるを得ず、印刷に用いる液の機能や特性によっては使用できなくなり、用途が限定されてしまうという問題もある。
【0023】
本発明は、このような事情に鑑みなされたもので、エレクトロニクス関連分野の高精度・高密度なスクリーン印刷に用いることが可能で、継続使用によってメッシュの伸びが生じにくく、印刷精度を長期間維持でき、且つ安価で製造可能な金属メッシュ織物、この及び金属メッシュ織物を利用したスクリーン印刷用版を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0024】
上記目的を達成するため、本発明の第1の態様は、金属線材からなる縦糸及び横糸が互いに交差するように製織された構造をなす金属メッシュ織物であって、縦糸及び横糸のそれぞれが、(a)オーステナイト系ステンレス鋼からなるコア部と、(b)このコア部を囲むように設けられ、オーステナイト系ステンレス鋼を母材とし、この母材に炭素が拡散浸透した硬化層と、(c)この硬化層を囲み、炭化物及び化学式AB2で示されるスピネル型などの酸化物とを含む黒色クラッド層とを備える金属メッシュ織物であることを要旨とする。ここで、化学式AB2を構成する元素A及び元素Bとの組み合わせ(元素Bは元素Aとは異なる元素である)は、鉄(Fe),クロム(Cr),ニッケル(Ni)のいずれかから選択される組み合わせであり、例えば、NiFe24型のスピネル型酸化物が代表例である。
【0025】
本発明の第2の態様は、(a)型枠と、(b)金属線材からなる縦糸及び横糸が互いに交差するように製織された構造をなし、型枠の内部に紗張りされた金属メッシュ織物とを備えるスクリーン印刷用版に関する。即ち、本発明の第2の態様に係るスクリーン印刷用版では、金属メッシュ織物を構成している縦糸及び横糸のそれぞれが、オーステナイト系ステンレス鋼からなるコア部と、このコア部を囲むように設けられ、オーステナイト系ステンレス鋼を母材とし、この母材に炭素が拡散浸透した硬化層と、この硬化層を囲み、炭化物及び化学式AB2で示される酸化物とを含む黒色クラッド層とを有することを特徴とする。本発明の第1の態様と同様に、化学式AB2で示される酸化物にはスピネル型などの酸化物が含まれ、化学式AB2を構成する元素A及び元素Aとは異なる元素Bとの組み合わせは、Fe,Cr,Niのいずれかから選択される組み合わせである。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、高精度・高密度なスクリーン印刷に用いることが可能で、継続使用によってメッシュの伸びが生じにくく、印刷精度を長期間維持でき、且つ安価で製造可能な金属メッシュ織物、この及び金属メッシュ織物を利用したスクリーン印刷用版を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本発明の実施の形態に係る500メッシュの低伸度メッシュ織物の一部を示すSEM表面写真である。
図2】本発明の実施の形態に係る400メッシュの低伸度メッシュ織物の一部を示すSEM表面写真である。
図3】本発明の実施の形態に係る低伸度メッシュ織物を構成する低伸度金属線材の断面構造をモデル的に説明する模式図である。
図4】本発明の実施の形態に係る500メッシュの低伸度メッシュ織物を構成する低伸度金属線材の断面構造を示すSEM写真である。
図5】本発明の実施の形態に係る400メッシュの低伸度メッシュ織物を構成する低伸度金属線材の断面構造を示すSEM写真である。
図6】本発明の実施の形態に係る400メッシュの低伸度メッシュ織物を構成する低伸度金属線材の断面構造を示す光学顕微鏡写真である。
図7】本発明の実施の形態に係る低伸度メッシュ織物を構成する低伸度金属線材の黒色クラッド層の表面モホロジーを説明するための模式図である。
図8】本発明の実施の形態に係る低伸度メッシュ織物を製造するための熱処理炉の一例を示す図である。
図9】本発明の実施の形態に係る低伸度メッシュ織物の引っ張り試験における応力−歪(伸び)曲線の一例を示す図である。
図10】縦方向の低伸度メッシュ織物の引っ張り試験結果を示す図である。
図11】横方向の低伸度メッシュ織物の引っ張り試験結果を示す図である。
図12図12(a)は、比較例に係る軟質の金属メッシュ織物を用いたスクリーン印刷用版による印刷試験について9点の印刷座標をプロットした図で、図12(b)は、実施例に係る低伸度メッシュ織物を用いたスクリーン印刷用版による印刷試験について9点の印刷座標をプロットした図である。
図13図13(a)は、比較例に係る軟質の金属メッシュ織物の経時変化を折れ線グラフにした図であり、図13(b)は、実施例に係る低伸度メッシュ織物の経時変化を折れ線グラフにした図である。
図14】本発明の実施の形態に係る400メッシュの低伸度メッシュ織物の負荷荷重−押込み深さ曲線を示す図である。
図15】本発明の実施の形態に係る500メッシュの低伸度メッシュ織物の負荷荷重−押込み深さ曲線を示す図である。
図16】本発明の実施の形態に係る400メッシュの低伸度メッシュ織物の紗張りエアー圧とテンションとの関係を、従来の軟質の金属メッシュ織物の紗張りエアー圧とテンションとの関係と比較しながら示す図である。
図17】本発明の実施の形態に係る400メッシュの低伸度メッシュ織物を用いたスクリーン印刷用版により、100ショットから順に13000ショットまで、印刷ショットを増やした場合のテンションの変化を、従来の軟質の金属メッシュ織物のテンションの低下と比較しながら示す図である。
図18】本発明の実施の形態に係る400メッシュの低伸度メッシュ織物の波長200nm〜800nmの範囲における反射率を、従来の軟質の金属メッシュ織物の反射率と比較して示す図である。
図19】本発明の実施の形態に係る500メッシュの低伸度メッシュ織物のAES分析結果を示す図である。
図20】本発明の実施の形態に係る400メッシュの低伸度メッシュ織物のAES分析結果を示す図である。
図21】本発明の実施の形態に係る400メッシュの低伸度メッシュ織物の横糸と縦糸の交差部における低伸度金属線材の光学顕微鏡の断面写真を示す図である。
図22】本発明の実施の形態に係る低伸度メッシュ織物の縦糸について、浸炭率と破断強度の関係を示す図である。
図23】本発明の実施の形態に係る低伸度メッシュ織物の横糸について、浸炭率と破断強度の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
次に、図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。以下の図面の記載において、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号を付している。ただし、図面は模式的なものであり、厚みと平面寸法との関係、各層の厚みの比率等は現実のものとは異なることに留意すべきである。したがって、具体的な厚みや寸法は以下の説明を参酌して判断すべきものである。又、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることは勿論である。
【0029】
又、以下に示す本発明の実施の形態は、本発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、本発明の技術的思想は、構成部品の材質、形状、構造、配置等を下記のものに特定するものでない。本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
【0030】
(低伸度メッシュ織物の構造)
本発明の実施の形態に係るスクリーン印刷用版は、図示を省略した型枠と、この型枠の内部に紗張りされた低伸度メッシュ織物からなる金属製スクリーンとを備える。本発明の実施の形態に係るスクリーン印刷用版に用いられる型枠としては、強度並びに耐蝕性の観点から、一般にアルミニウム製のパイプ接合タイプやダイキャストタイプ、或いは、ステンレス製の型枠を挙げることができる。「発明が解決しようとする課題」の欄で述べた通り、塑性領域の狭い低伸度金属線材をメッシュ織物状に織製することは極めて困難であるが、本発明の実施の形態に係るスクリーン印刷用版に用いる低伸度メッシュ織物においては、この型枠に、直張り方式、コンビネーション方式等の軟質の金属メッシュ織物を紗張りする手法として公知の方法を用いて、図1(a)及び図1(b)に示したように、直径が、例えば、10〜160μmで、母材としてのオーステナイト系ステンレス鋼からなる低伸度金属線材が、平織、綾織等のメッシュ織物状に織製され、紗張りされた状態が容易に実現されている。
【0031】
図1(a)に500メッシュの場合、図1(b)に400メッシュの場合のSEM写真を示すが、本発明の実施の形態に係るスクリーン印刷用版に用いる低伸度メッシュ織物は、母材としてのオーステナイト系ステンレス鋼からなる低伸度金属線材を要素とする構造でありながら、例えば、40〜900メッシュ程度に織製されたトポロジーが実現されている。
【0032】
図3(a)にモデル化して示すように、本発明の実施の形態に係るスクリーン印刷用版の低伸度メッシュ織物を実現している低伸度金属線材は、中央部に、母材としてのオーステナイト系ステンレス鋼が未処理領域として残留したコア部51と、このコア部51の表層側に設けられ、母材としてのオーステナイト系ステンレス鋼に炭素が拡散浸透した硬化層52と、硬化層52の表面に設けられた黒色クラッド層53とからなる3層構造をなす。
【0033】
オーステナイト系ステンレス鋼としては、例えば、鉄(Fe)分を50質量%以上含有し、クロム(Cr)分を12質量%以上含有するとともにニッケル(Ni)を含有するオーステナイト系ステンレス鋼が好適である。具体的には、SUS304、SUS316、SUS303S等の18−8系ステンレス鋼材や、Crを25質量%、Niを20質量%含有するオーステナイト系ステンレス鋼であるSUS310Sや309、更に、Cr含有量が23質量%、モリブデン(Mo)を2質量%含むオーステナイト−フェライト2相系ステンレス鋼材等が採用可能である。又、Niを19〜22質量%、Crを20〜27質量%、炭素(C)を0.25〜0.45質量%含むSCH21やSCH22等の耐熱鋼鋳鋼も本発明の実施の形態に係るオーステナイト系ステンレス鋼として好適に用いられる。更に、Crを20〜22質量%、Niを3.25〜4.5質量%、マンガン(Mn)を8〜10質量%、炭素を0.48〜0.58質量%含むSUH35や、Crを13.5〜16質量%、Niを24〜27質量%、Moを1〜1.5質量%含むSUH660等の耐熱鋼も本発明の実施の形態に係るオーステナイト系ステンレス鋼として好適に用いることができる。
【0034】
本発明の実施の形態に係るスクリーン印刷用版に用いるオーステナイト系ステンレス鋼は、上記の10〜160μmの径を代表的な値として、所定の太さに伸線加工を行った線材を母材として用いることが可能であり、10μm以下、160μm以上程度に設定することも可能である。
【0035】
図3に示した硬化層52は、基相(母材)であるオーステナイト相中に、多量のC原子が侵入固溶して格子拡張を起こした状態となっており、母材に比べて著しく硬度の向上を実現している。しかも、C原子は、母材中のCrとCrやCr23等の炭化物を殆ど形成することなく結晶格子中に侵入固溶していることから、硬化層52中にCr炭化物粒子が実質的に存在せず、母材に固溶するCr量を減少させることもないことから、母材と同程度の耐蝕性を維持できる。
【0036】
黒色クラッド層53は、図19及び図20に示すオージェ電子分光法(AES)の分析結果に示すように、化学式AB2で示される酸化物と炭化物(Cr、FeC)の存在が推測できる、黒色を呈する薄い層である。ここで、化学式AB2を構成する元素Bは元素Aとは異なる元素として、元素Aと元素Bとの組み合わせは、Fe,Cr,Niのいずれかから選択される組み合わせである。化学式AB2で示される酸化物には、スピネル型などの酸化物が含まれ、NiFe24型のスピネル型酸化物が代表例である。図19は、500メッシュの本発明の実施の形態に係る低伸度メッシュ織物を構成する低伸度金属線材のAES分析結果を示し、図20は、400メッシュの本発明の実施の形態に係る低伸度メッシュ織物を構成する低伸度金属線材のAES分析結果を示す。AES分析は、ULVAC社のPHI SAM680を用い、加速電圧10kVで、ビーム電流10nAで測定した。この際、表面クリーニングのためのArスパッタエッチングを3分間行っている。
図19に示すAES分析データにおいて図19から、500メッシュの低伸度メッシュ織物においては、低伸度メッシュ織物を構成する低伸度金属線材の黒色クラッド層53の厚さ0.8μm程度と読め、(ただし分解能0.2μm)るが、この値は図4に示したSEM断面観察による値(=約0.3〜0.8μm)と、ほぼ良く対応している。図19から黒色クラッド層53の炭素濃度は、約5質量%であり、黒色クラッド層53の酸素濃度は30〜45at%と読める。そして、図19の黒色クラッド層53の酸素とFe、Niの量比から、化学式AB2で示される酸化物の存在が推測できる(上述した通り、化学式AB2の元素Aと元素Bとの組み合わせは、Fe,Cr,Niのいずれかから選択される組み合わせである。)。又、炭素はFe3CやCr73の炭化物として存在すると思われるが、金属原子との量比からみると金属原子の数が少ないのでグラファイトが存在する可能性も否定できない。表1に、500メッシュの本発明の実施の形態に係る低伸度メッシュ織物について、AES分析、燃焼法、SEM断面観察、光学顕微鏡断面観察により求めた黒色クラッド層53の炭素濃度Cks(質量%)、硬化層52の表面の炭素濃度CS(質量%)、黒色クラッド層53の厚さK(μm)、硬化層52の厚さD(μm)及び、これらの測定値から合理的に推定される黒色クラッド層53の炭素濃度Cks(質量%)、硬化層52の表面の炭素濃度CS(質量%)、黒色クラッド層53の厚さK(μm)、硬化層52の厚さD(μm)を示した。表1に示す燃焼法よる分析は、JIS G 1211に従うものであり、本発明の実施の形態に係る500メッシュの低伸度メッシュ織物をサンプル重量1gに対し分析したが、分析精度は0.0002%、分析範囲は0.6ppm〜6.0質量%Cである。
【表1】
【0037】
一方、図20に示すAES分析データにおいて、図20から、400メッシュの低伸度メッシュ織物においては、低伸度メッシュ織物を構成する低伸度金属線材の黒色クラッド層53の厚さは、約1.1μmと読めるが(ただし分解能0.2μm)、この値は、分解能を考慮すれば、図5に示したSEM断面観察による値(=約0.1〜0.9μm)とほぼ良く対応している。黒色クラッド層53の炭素濃度は14.3at%(3.5質量%)となり、黒色クラッド層53の酸素濃度は30〜40at%であると判断できる。図20に示したAES分析データの黒色クラッド層53の酸素とFe、Niの量比から、黒色クラッド層53として化学式AB2で示される酸化物、特に、NiFe24型のスピネル型酸化物の存在が推測できる。又、炭素はFe3CやCr73の炭化物として存在すると思われるが、金属原子との量比からみると金属原子の数が少ないのでグラファイトが存在する可能性も否定できない。図19に示した500メッシュの低伸度メッシュ織物と異なり、400メッシュの低伸度メッシュ織物の場合は、黒色クラッド層53中のCr濃度のドロップはなかった。400メッシュの低伸度メッシュ織物は硬化層52が、500メッシュの低伸度メッシュ織物よりも厚く発達しているため、CrやFeの炭化物が成長したためと解釈され、首肯できるAES分析結果である。表2に、400メッシュの本発明の実施の形態に係る低伸度メッシュ織物について、AES分析、燃焼法、SEM断面観察、光学顕微鏡断面観察により求めた黒色クラッド層53の炭素濃度Cks(質量%)、硬化層52の表面の炭素濃度CS(質量%)、黒色クラッド層53の厚さK(μm)、硬化層52の厚さD(μm)及び、これらの測定値から合理的に推定される黒色クラッド層53の炭素濃度Cks(質量%)、硬化層52の表面の炭素濃度CS(質量%)、黒色クラッド層53の厚さK(μm)、硬化層52の厚さD(μm)を示した。表1と同様、表2に示す燃焼法よる分析は、JIS G 1211に従うものである。本発明の実施の形態に係る400メッシュの低伸度メッシュ織物をサンプル重量1gに対し分析した。
【表2】
【0038】
黒色クラッド層53は、下地である硬化層52に対して連続性があって強固に密着しているため、以下に説明するような、スーチング除去のためのブラッシングや洗浄等によっても剥離することがないし、浸炭処理後の低伸度メッシュ織物の紗張りを行ってスクリーン印刷用版に形成する作業等によっても剥離しない層である。
【0039】
図4図5図6及び図21の断面は、本発明の実施の形態に係る低伸度メッシュ織物をはさみで切断し、切断した低伸度メッシュ織物を銅板に挟み、埋め込み樹脂にこめた後、低伸度メッシュ織物を構成する低伸度金属線材の断面が表出するように埋め込み樹脂を研磨し、更に表出した低伸度金属線材の断面を最終バフ研磨した後の断面を示す。図6及び図21の光学顕微鏡写真は、最終バフ研磨した断面の表面を、更に、マーブル試薬(CuSO4(4g)+HCl(20cm3)+H2O(20cm3))でエッチングし、エッチングされた断面の表面を600倍相当で観察した結果である。マーブル試薬によりコア部51のみが選択的にエッチングされ、硬化層52がエッチングされないエッチングの選択比を利用した結果、光学顕微鏡の断面写真において、硬化層52が白く現出している。特に、図21は、横糸と縦糸の交差部における低伸度金属線材の光学顕微鏡の断面写真を示すが、横糸と縦糸の交差部においても、硬化層52がほぼ一様にコア部51の周りに形成され、硬化層52のつき回り性は良好であることが分かる。図21に示す通り、本発明の実施の形態に係る低伸度メッシュ織物は、横糸と縦糸の交差部をコーティングで補強するのではなく、低伸度金属線材自体に炭素固溶による硬化層52を形成するものであるため、従来のような交差部の被膜にクラックや剥離等の欠陥が生じることが殆どなく、強度寿命も大幅に延長される。又、従来のめっき法やPVD法等による硬質皮膜コーティングなどの手法によっては、縦糸と横糸との交差部において、縦糸と横糸とが接触する交点部には皮膜が形成できない。したがって、交差部の剛性は線材自体の剛性向上以上の効果はないのに対して、本発明の実施の形態に係る低伸度メッシュ織物では交差部の縦糸と横糸の接触した交点部にも硬化層52と、硬化層52の表面側の黒色クラッド層53とが形成されるため、縦糸と横糸の強度向上の相乗効果により、線材自体の剛性以上に交差部の剛性が大きくなり、メッシュ織物としての強度が著しく高くなる。
【0040】
図1(b),図1(c),図2(b)及び図2(c)のSEM表面写真に示した通り、本発明の実施の形態に係る低伸度メッシュ織物を構成する低伸度金属線材の最表面に形成された黒色クラッド層53の表面モホロジーにはミクロな凹凸がある。この凹凸は、その下地層となっている硬化層52のミクロな凹凸を反映していると推定される。図1(b),図1(c),図2(b)及び図2(c)のSEM表面写真に示された黒色クラッド層53の表面モホロジーを模式化して示したのが、図7であるが、500メッシュ及び400メッシュのいずれの場合も、凸部幅W1は、中心値0.9μmとして、0.3〜1.5μmの範囲の値であり、凸部長Rは、中心値1.5μmとして、0.5〜2.5μmの範囲の値である。図7に模式的に示した溝幅W2は1.5μm以下の値となっており、母材としてのオーステナイト系ステンレス鋼の結晶粒界の幅に相当すると推定される。オーステナイト系ステンレス鋼の線引き加工では、一方向の大きな塑性変形により長さ方向に結晶粒が引き伸ばされた加工組織が著しく発達し、この表面に成長する酸化物、Cr、Fe炭化物結晶はその基材組織の形態を残した形態に成長して、硬化層52及び黒色クラッド層53の表面にそれぞれミクロな凹凸を形成していると考えられる。JIS B 0601−1994に規定された表面粗さRaについては、測定の不十分な面もあるが、SEM断面観察及び原子間力顕微鏡(AFM)の測定により、現在得られているデータの範囲では、表面粗さRa=5nm〜20nm程度と推定される。よって、図3(a)のモデル図に、黒色クラッド層53の表面のミクロな凹凸を誇張して示されてはいるが、便宜上の表現であり、現実の表面モホロジーを忠実に反映した図ではないことに留意されたい。
【0041】
図1(b)−(c)と、図2(b)−(c)とを比較して明らかなように、400メッシュの硬化層52の表面モホロジーは、500メッシュの硬化層52の表面モホロジーとほぼ類似しているが、5000倍で観察したSEM観察像の長辺25μmX短辺20μmの範囲の写真画像の視野において、400メッシュの場合は、少なくとも45個の凸部領域が確認されたのに対し、500メッシュの場合は少なくとも80個の凸部領域が確認され、400メッシュの硬化層52の方が、500メッシュの硬化層52の表面よりも凸部領域の数が少なく、凸部長Rも小さい傾向である。ただし、線の長さ方向の溝幅W2は、400メッシュと500メッシュの硬化層52の表面モホロジーとは、ほぼ同じ形態である。
【0042】
本発明の実施の形態に係る低伸度メッシュ織物を構成する低伸度金属線材は、硬化層52の表面にミクロな凹凸が存在するものの、膨れによる線材の寸法変化や磁性を生じない。
【0043】
又、低伸度メッシュ織物を構成する横糸と縦糸の交差部においても、硬化層52及び黒色クラッド層53をコア部51の周りに、ほぼ均一に形成することが可能であり、メッシュ織物としての均一性にも優れている。したがって、低伸度メッシュ織物の面粗度低下や寸法変化も少なく、比較的精度よく、低伸度メッシュ織物の表面が、横糸と縦糸の交差部を含めて、均一に改質されていると判断できる。又、オーステナイト系ステンレス鋼の中でも、Niを多量に含む安定型オーステナイト系ステンレス鋼や、Moを含有する安定型オーステナイト系ステンレス鋼では、硬化層52の耐蝕性がより良好である。
【0044】
本発明の実施の形態に係る低伸度メッシュ織物を構成する低伸度金属線材の黒色クラッド層53の表面にはミクロな凹凸があるので、従来技術に係る軟質の金属メッシュ織物における水の接触角が約110°であるのに対し、本発明の実施の形態に係る低伸度メッシュ織物における水の接触角が約93°と、濡れ性が向上している。ここで水の接触角は、水を、従来技術に係る軟質の金属メッシュ織物及び本発明の実施の形態に係る低伸度メッシュ織物の上に、それぞれ0.02cm3ずつ滴下し、20秒後の液滴の様子を撮影し、撮影した像の液滴の直径とその高さより、接触角を算出した。
【0045】
よって、本発明の実施の形態に係る低伸度メッシュ織物をスクリーン印刷用版に用いた場合には、インクの透過性能が向上する。インクの透過性能が向上することにより、640メッシュのスクリーン印刷用版を用いてライン・アンド・スペースL/S=50/50μm及びライン・アンド・スペースL/S=30/30μmの印刷試験において、従来技術に係る軟質の金属メッシュ織物をスクリーン印刷用版に用いた場合には断線が生じたが、本発明の実施の形態に係る低伸度メッシュ織物をスクリーン印刷用版に用いた場合には、断線が生じることはなかった。
【0046】
(低伸度メッシュ織物の製造方法)
(イ)本発明の実施の形態に係る低伸度メッシュ織物は、先ず、製織前の線材の材料物性として軟質とし、軟質の線材を用いて、メッシュ織物に製織することが行われる。即ち、製織前の線材は、例えば、伸線後の仕上げ処理として固溶化処理を行う調質区分「軟質1号(W1)」の状態とするか、伸線後の仕上げ処理として固溶化処理を行ったのち軽度の伸線処理を行う調質区分「軟質2号(W2)」の状態とすることが行われる。「軟質1号(W1)」及び「軟質2号(W2)」における材料物性値は、それぞれ、例えば下記の表3及び表4に示す値に相当するものとされるが、線径10〜50μmの場合、引っ張り強度は600〜1300N/mm程度、伸びは8〜25%程度に設定される。
【表3】
【表4】
【0047】
なお、伸線後の調質処理は、上述した例に限定するものではなく、固溶化処理に代えて軟化焼鈍を行うこともできるし、これらを組み合わせることも可能である。このように、線材が軟質な状態でメッシュ織物に製織することにより、縦繊維及び横繊維の波付け変形が容易となり、メッシュ織物のメッシュ密度を高く、メッシュ開口を小さくすることができ、例えば400メッシュ以上のような高密度金属メッシュとすることができる。このような高密度メッシュとすることにより、印刷の解像度を向上させることができる。又、高密度メッシュとした際にも、線材自体に欠陥が生じにくく、破損リスクを高くすることなくメッシュ織物の強度を高くできる。なお、製織の方法は、従来公知の各種の方法を採用することができる。
【0048】
(ロ)次に、軟質のオーステナイト系ステンレス鋼線を製織して得られた軟質の金属メッシュ織物に対し、図8に例示するようなマッフル炉1等の雰囲気加熱炉を用いて、フッ化処理をする(マッフル炉1の詳細は後述する。)。フッ化処理に用いられるフッ素系ガスとしては、NF,BF,CF,HF,SF,C,WF,CHF,SiF,ClF等からなるフッ素化合物ガスが採用可能である。これらは、単独でもしくは2種以上併せて使用される。又、これらのガス以外にも、分子内にフッ素(F)を含むフッ素系ガスも本発明の実施の形態に係るフッ素系ガスとして用いることができる。又、このようなフッ素化合物ガスを熱分解装置で熱分解させて生成させたFガスや、あらかじめ作られたFガスもフッ素系ガスとして用いることができる。このようなフッ素化合物ガスとFガスとは、場合によって混合使用することができる。これらの中でも、本発明の実施の形態に係る低伸度メッシュ織物の製造方法に用いるフッ素系ガスとして、最も実用性を備えているのはNFである。NFは、常温においてガス状を呈し、化学的安定性が高く、取扱いが容易だからである。このようなNFガスは、通常、後述するように、Nガスと組み合わせて、所定の濃度範囲内で希釈して用いられる。各種のフッ素系ガスは、それのみで用いることもできるが、通常はN2ガス等の不活性ガスで希釈されて使用される。このような希釈されたガスにおけるフッ素系ガス自身の濃度は、例えば、容量基準で10000〜100000ppmであり、好ましくは20000〜70000ppm、より好ましくは、30000〜50000ppmである。具体的には、マッフル炉1の炉内に未処理の軟質の金属メッシュ織物を装入し、上記のような所定の濃度のフッ素系ガス雰囲気下において加熱状態で保持することにより行われる。フッ化処理時の、加熱保持は、軟質の金属メッシュ織物自体を、例えば、180〜400℃、好適には200〜350℃、更に好ましくは220〜300℃の温度に保持することによって行われる。フッ素系ガス雰囲気中での軟質の金属メッシュ織物の保持時間は、通常は、10数分〜数時間に設定され、例えば15分〜3時間程度に設定される。図1図4及び表1に示した500メッシュの低伸度メッシュ織物、及び図2図5及び表2に示した500メッシュの低伸度メッシュ織物は、共に、NFガス5容量%、Nガス95容量%の雰囲気において、280℃で1.5時間の加熱保持をしてフッ化処理を行っている。軟質の金属メッシュ織物をこのようなフッ素系ガス雰囲気下で加熱処理することにより、軟質の金属メッシュ織物を構成する軟質の線材の表面に形成されたCrを含む不働態皮膜に比べ、浸炭に用いるC原子の浸透を容易にし、軟質の線材の表面は、フッ化処理によってC原子の浸透の容易な表面状態になるものと考えられる。
【0049】
(ハ)次に、図8に例示するようなマッフル炉1等の雰囲気加熱炉を用いて、フッ化処理と同時期及び/又はその後に、軟質の金属メッシュ織物に対して浸炭処理を行う。浸炭処理は軟質の金属メッシュ織物自体を550℃以下、好ましくは360〜450℃の浸炭処理温度に加熱し、CO+Hからなる浸炭用ガス、又は、RXガス〔CO23容量%,CO1容量%,H31容量%,HO1容量%、残部N〕+COからなる浸炭用ガス等を用い、炉内を浸炭用ガス雰囲気にして行われる。この浸炭用ガス雰囲気に、必要に応じてプロパンガス等の炭素源ガスをエンリッチすることもできる。例えば、CO+H生成方法では、LPガス変成だけでなく、メタノール、イソプロパノール、などの液状炭化水素もH2濃度が高いため、浸炭ガス変成材として有用である。このように、本発明の実施の形態に係る低伸度メッシュ織物の製造方法では、浸炭処理を従来公知の浸炭処理に比べて極めて低い温度領域で行うのである。この場合、CO+Hの比率は、CO2〜50質量%、H30〜90容量%が好ましく、RX+COは、RXが80〜90容量%、COが0〜7容量%の割合が好ましい。又、浸炭に用いるガスは、CO+CO+Hも用いられる。この場合、それぞれの比率は、CO5〜55容量%、CO0〜3容量%、H50〜95容量%の割合が採用可能である。浸炭処理の際の加熱温度即ち浸炭処理温度としては、550℃以下即ち360〜550℃の温度が採用可能である。浸炭処理温度が550℃を超えると、炭素の拡散が早くなり、極短時間で硬化層52が発達し、過剰浸炭を引き起こすからである。特に線径の小さいメッシュの場合、硬化層52の厚さが短時間で厚くなる条件では、硬化層52の厚さのバランス制御が困難となるからである。又、浸炭されたC原子が母材に固溶したCrと結合してCr炭化物を生じたりし、母材自体に含まれるCr量を減少させて表層部の耐蝕性が大幅に低下したり線材の強度低下をまねいたりする上、浸炭層に侵入固溶した状態で存在する炭素量が減少し、母材の強度や耐蝕性が低下するとともに、磁性を帯びることとなるからである。同様の理由により、浸炭処理温度としてより好適なのは360〜550℃の温度範囲であり、更に好適なのは380〜490℃、もっと好適なのは400〜450℃の温度範囲である。図1図4及び表1に示した500メッシュの低伸度メッシュ織物は、CO10容量%、H90容量%の雰囲気下で、400℃において、2時間の浸炭処理を行い、図2図5及び表2に示した400メッシュの低伸度メッシュ織物、CO10容量%、H90容量%の雰囲気下で、450℃において、2時間の浸炭処理を行っている。本発明の実施の形態に係る低伸度メッシュ織物の製造方法においては、フッ化処理を行うことにより、このような極めて低温における浸炭処理が可能となり、浸炭処理中にCr炭化物粒子を殆ど生成させずに母材中に炭素を侵入固溶させ、格子サイズを増大させて表層部に硬化層52を形成するのである。浸炭処理の処理時間は、通常は、10数分〜10数時間に設定され、例えば15分〜8時間程度に設定される。
【0050】
(ニ)本発明の実施の形態に係る低伸度メッシュ織物は、浸炭処理の直後は、スーチングによって表面に炭素質が主体の煤が付着しているため、必要に応じてブラッシングや洗浄で除去することが行われる。
【0051】
以上のように、本発明の実施の形態に係る低伸度メッシュ織物の製造方法によれば、軟質のオーステナイト系ステンレス鋼線を製織して得られた軟質の金属メッシュ織物に対し、フッ化処理を行っているので、軟質の金属メッシュ織物を、360℃以上490℃以下の低温に加熱保持して浸炭処理することが可能になり、浸炭処理により、低伸度金属線材の中央部に、母材が未処理領域として残留したコア部51を残し、このコア部51を囲む低伸度金属線材の表層部側に、母材のオーステナイト相に炭素を固溶させた硬化層52と、硬化層52の更に表層部側に黒色クラッド層53を形成することができる。特に、図21に示した通り、本発明の実施の形態に係る低伸度メッシュ織物の製造方法によれば、メッシュをなす横糸と縦糸の交差部においても、硬化層52をほぼ一様にコア部51の周りに形成することが可能である。
【0052】
本発明の実施の形態に係る低伸度メッシュ織物の製造方法によれば、低伸度メッシュ織物を構成する低伸度金属線材が、横糸と縦糸の交差部を含めて、メッシュ全体に、図3に模式的に示したようなコア部51、硬化層52及び黒色クラッド層53の同心の3層構造を有するようにほぼ均一に形成されるが、浸炭処理によって形成される硬化層52の、特に表面近傍の炭素濃度が十分に高くなり、格子拡張によって十分に強度が向上して優れた表面硬度が付与されて低伸度金属線材となる。又、浸炭処理あがりの中間製品を抜き取り検査することにより、製品の表面硬度を計測できるため、中間製品の品質特性の基準を作り、それに満たないものについては再度フッ化処理と浸炭処理を行うことができ、最終製品の不良率を減少して歩留まりを向上させることができる。特に、低伸度金属線材の硬化層52の硬度として、母材の表面から測定したマイクロビッカース硬度やヌープ硬度を基準とすることにより、非破壊で製品の検査をできて歩留まり低下を減少できる。
【0053】
本発明の実施の形態に係る低伸度メッシュ織物の製造方法は、特許文献6、7に記載された従来技術のように、オーステナイト系ステンレス鋼線材に対し真空浸炭で炭化物を分散させる手法ではないので、550℃以下、特に、360℃〜490℃程度の低温での浸炭処理が可能であり、このため、特許文献6、7に記載された従来技術のように、多量の炭化物が析出してしまい、諸条件のばらつきの影響で粗大炭化物粒子が現出し、粗大炭化物粒子が破断の起点になる問題もない。又、550℃以下の低温処理のため、織物自体に歪が発生してメッシュが変形する問題もないので、スクリーン印刷用版に用いた場合には、スクリーン印刷用版の強度寿命が大幅に延長され、印刷精度も長期間維持できる。
【0054】
しかも、本発明の実施の形態に係る低伸度メッシュ織物の製造方法は、特許文献6、7に記載された従来技術のように、織物を真空中で、ロール・トゥ・ロールで繰り出しと巻取りを行いながら浸炭処理を行う必要もなく、設備コストや処理コストを低くすることができ、工業的に極めて有用である。更に、550℃以下の低温での処理であるので、ステンレスの持つ耐蝕性の低下もなく、印刷に用いる液の機能や特性によって用途が限定されてしまうという問題も回避可能である。
【0055】
(マッフル炉の構造)
図8に示すように、本発明の実施の形態に係る低伸度メッシュ織物の製造方法に用いるに好適なマッフル炉1は、外殻2と、内部が処理室に形成された内容器4と、内容器4と外殻2の間に設けられたヒータ3とを備えている。内容器4内には、ガス導入管5及び排気管6が連通している。ガス導入管5には、浸炭ガスであるH,COが充填されたボンベ15、及びフッ化処理ガスであるN+NF,COが充填されたボンベ16が連通している。17は流量計、18はバルブである。排気管6には、排ガス処理装置14及び真空ポンプ13が接続され、内容器4内の処理室内に処理ガスを導入して排出するようになっている。処理室内には処理ガスを攪拌するモーター7付きのファン8が設けられている。ワークである軟質のオーステナイト系ステンレス鋼からなる軟質の金属メッシュ織物11は、緩めた状態のコイル、即ちルーズコイル状で内容器4内に装入して熱処理することができる。
【0056】
内容器4内に、軟質の金属メッシュ織物11を入れた後、ボンベ16を流路に接続しNF等のフッ素系ガスをマッフル炉1内に導入して加熱しながらフッ化処理をし、次に排気管6からそのガスを真空ポンプ13の作用で引き出し、排ガス処理装置14内で無毒化して外部に放出する。
【0057】
次に、ボンベ15を流路に接続しマッフル炉1内に先に述べた浸炭用ガスを導入して、軟質の金属メッシュ織物11に対し浸炭処理を行い、その後、排気管6、排ガス処理装置14を経由してガスを外部に排出する。この一連の作業によりフッ化処理と浸炭処理を行うことにより、低伸度金属線材の中央部には、母材が未処理領域として残留したコア部51が残り、このコア部51を囲む低伸度金属線材の表層部側に、母材のオーステナイト相に炭素を固溶させた硬化層52が形成され、硬化層52の更に表層部側に黒色クラッド層53が形成される。
【0058】
(低伸度メッシュ織物の力学的特性)
図3に模式的に示した通り、本発明の実施の形態に係る低伸度メッシュ織物は、軟質のオーステナイト系ステンレス鋼線を製織して得られた軟質の金属メッシュ織物に対し、浸炭処理を施し、母材が未処理領域として残留したコア部51が低伸度金属線材の中央部に位置し、このコア部51を囲む低伸度金属線材の表層部側に母材のオーステナイト相に炭素を固溶させた硬化層52が位置し、硬化層52の更に表層部側に、硬化層52を囲むように黒色クラッド層53が位置している。
【0059】
このようなコア部51、硬化層52及び黒色クラッド層53の同心の3層構造においては、浸炭処理によって形成される硬化層52の、特に表面近傍の炭素濃度が十分に高くなり、格子拡張によって十分に強度が向上して優れた表面硬度が付与され、処理前の軟質の金属メッシュ織物に対し、1%耐力を1.1〜3倍とすることができる。又、線材の表層部に硬化層52を形成する処理を行うことにより、処理前の軟質の金属メッシュ織物に対し、弾性係数を1.1〜2.5倍とすることができる。更に、コア部51、硬化層52及び黒色クラッド層53の同心の3層構造を形成する処理を行うことにより、処理前の軟質の金属メッシュ織物に対し、弾性限度を1.1〜3.5倍とすることができる。
【0060】
その結果、低伸度メッシュ織物としての力学的強度特性を下記の(a)〜(d)のようにすることができる:
(a)縦方向における低伸度メッシュ織物としての破断強度が1000MPa以上2600MPa以下、破断伸びが1%以上8%以下、1%耐力が900MPa以上2400MPa以下であり、横方向における低伸度メッシュ織物としての破断強度が1200MPa以上3400MPa以下、破断伸びが0.8%以上6%以下、1%耐力が900MPa以上2800MPa以下である;
(b)縦方向における低伸度メッシュ織物としての弾性限度が500MPa以上1800MPa以下であり、横方向における低伸度メッシュ織物としての弾性限度が600MPa以上2400MPa以下である;
(c)縦方向における低伸度メッシュ織物としての弾性係数が40GPa以上120GPa以下であり、横方向における低伸度メッシュ織物としての弾性係数が80GPa以上240GPa以下である;
(d)縦方向における低伸度メッシュ織物としての弾性伸びが0.8%以上3%以下であり、横方向における低伸度メッシュ織物としての弾性伸びが0.6%以上1.8%以下である。
【0061】
図9は、低伸度メッシュ織物を引っ張り試験した際の応力−歪(伸び)曲線の一例を示す。図9に示す曲線において、破断したときの応力Cyが破断強度(MPa)であり、破断したときの永久歪(伸び)Cxが破断伸び(%)である。又、永久歪(伸び)が1%となるときの応力Byが1%耐力(MPa)である。更に、図9の曲線において、永久歪(伸び)が残らないで弾性回復しうる最大限度の応力Ayが弾性限度(MPa)、永久歪(伸び)が残らないで弾性回復しうる最大限度の歪(伸び)が弾性歪(伸び)(%)である。又、弾性限度までの弾性変形領域での傾きEが弾性係数(GPa)である。なお、応力−歪(伸び)曲線の測定は、一般織物試験方法JIS L 1096に従い、次のようにして行った。
【0062】
金属メッシュ織物の寸法を幅25mm×長さ150mmとし、チャック間距離を100mmとした。試験機は、この例では島津製作所AGS−J1000を用い、引っ張り速度を50mm/分とした。そして、メッシュ数(M)から、織物幅25mmあたりの線材の本数(N=M/25.4×25本)を求める一方、線径(2r)から線材の断面積(S=πr×N/1000000)を算出し、試験片の断面積(N×S)とし、測定値(P)を断面積(N×S)で除してみかけの応力とした。
【0063】
図22は、本発明の実施の形態に係る低伸度メッシュ織物の縦糸について、浸炭率D/r(%)と破断強度の関係を示す図である。ここで浸炭率D/rは、表1及び表2に示した硬化層52の厚さDと低伸度メッシュ織物を構成する低伸度金属線材の半径rの比で定義される量である。図22において○印は640メッシュの場合で、◆印は500メッシュの場合であるが、640メッシュ及び500メッシュのいずれも、縦の破線両側を挟んだ浸炭率D/r=10%〜60%の範囲で、破断強度が向上することが分かる。
【0064】
同様に、 図23は、本発明の実施の形態に係る低伸度メッシュ織物の横糸について、浸炭率D/r(%)と破断強度の関係を示す図である。図23において○印は640メッシュの場合で、◆印は500メッシュの場合であることは、図22と同様であるが、640メッシュ及び500メッシュのいずれも、縦の破線両側を挟んだ浸炭率D/r=10%〜60%の範囲で、破断強度が向上することが分かる。
【0065】
(実施例)
下記の表5に示す条件により実施例1〜5の低伸度メッシュ織物を得た。なお、フッ化処理の雰囲気は、フッ素系ガスの濃度30000ppm(残りNガス)、浸炭処理の雰囲気は、10容量%CO+90容量%Hで行った。
【表5】
【0066】
〔引っ張り試験結果〕
図10及び図11は、250メッシュ、400メッシュ、640メッシュの低伸度メッシュ織物の引っ張り試験結果を示す。本発明の実施の形態に係る実施例に対し、比較例としてフッ化処理及び浸炭処理を行っていない未処理の軟質の金属メッシュ織物の引っ張り試験結果を同時に示す。図10の縦方向の測定結果、図11の横方向の測定結果に示すように、処理前の軟質の金属メッシュ織物に対し、1%耐力は、下記の表6に示す通り、250メッシュもので1.6〜1.7倍、400メッシュのもので1.7〜1.9倍、640メッシュのもので1.9〜2.0倍となっている。又、弾性係数は、250メッシュのもので1.2〜1.5倍、400メッシュのもので1.1〜1.2倍、640メッシュのもので1.3〜1.4倍となっている。又、弾性限度は、250メッシュのもので1.3〜1.6倍、400メッシュのもので1.5〜1.9倍、640メッシュのもので1.9〜2.0倍となっている。
【表6】
【0067】
〔印刷精度評価結果〕
実施例と比較例の金属メッシュ織物について、同じ仕様のスクリーン印刷用版とし、印刷精度の経時変化を評価した。
【0068】
試験方法は、以下に示す通りである。
【0069】
○使用メッシュ
比較例(未処理) SUS304製500メッシュ、φ16μm、カレンダー加工
実施例 金属メッシュ織物にフッ化処理及び浸炭処理
フッ化処理条件 3容量%NF+残部N雰囲気、240℃×90分
浸炭処理条件 10容量%CO+残部H雰囲気、420℃×2時間
○スクリーンサイズ: 320mm×320mm
○感光乳剤膜厚:15μm
○印刷機:LS−150
印刷速度:60mm/sec
○評価方法
規定のショット数のときに、ガラス基板に印刷を行い、印刷物の所定の9点の座標を測定し、1ショット目の印刷物とのずれ(方向、距離)を測定してプロットした。
【0070】
図12及び図13は比較例に係る軟質の金属メッシュ織物を用いたスクリーン印刷用版と実施例に係る低伸度メッシュ織物を用いたスクリーン印刷用版の印刷精度評価結果を示す図である。即ち、図12(a)は、比較例に係る軟質の金属メッシュ織物を用いたスクリーン印刷用版による印刷試験について9点の印刷座標をプロットした図で、図12(b)は、実施例に係る低伸度メッシュ織物を用いたスクリーン印刷用版による印刷試験について9点の印刷座標をプロットした図である。又、図13(a)は比較例に係る軟質の金属メッシュ織物の経時変化を折れ線グラフにした線図、図13(b)は実施例に係る低伸度メッシュ織物の経時変化を折れ線グラフにした線図である。図12の結果から分かるように、実施例に係る低伸度メッシュ織物の方が比較例に係る軟質の金属メッシュ織物よりも印刷寸法精度が高いことが分かる。特に、5000ショット以後では比較例に係る軟質の金属メッシュ織物の精度低下が激しくなるのに対し、実施例に係る低伸度メッシュ織物では精度低下が低く抑えられていることが分かる。
【0071】
(硬化層の強度物性)
超微小硬度測定装置((株)エリオニクス製 型式ENT−1100a)を用い、電磁アクチュエータを荷重負荷装置として微小荷重の制御をして、三角錐(バーコビッチ型)の圧子を試料へ押し込んだときの圧子への負荷荷重と押込み深さを、静電容量変位計を圧子変位測定装置として、負荷時、除荷時にわたり連続的に測定することにより、図14及び15に示すような負荷荷重−押込み深さ曲線が得られる。図14及び15に示した負荷荷重−押込み深さ曲線は、共に、負荷荷重を5mNとし、分割数を500、ステップインターバルを20msecとして、保持時間1000msecで測定した結果である。
【0072】
図14は、400メッシュ、線径23μmの場合、図15は、500メッシュ、線径16μmの場合の測定結果である。図14及び15に示した負荷荷重−押込み深さ曲線から、表7に示すような、硬さ・弾性率等のデータを得ることができ、図示を省略しているが、未処理の軟質の金属メッシュ織物についても、同様に、400メッシュ、線径23μmの場合、及び500メッシュ、線径16μmの場合について、負荷荷重−押込み深さ曲線を得て、硬さ・弾性率等のデータを求めて、実施例に係る低伸度メッシュ織物と比較すると以下の表7のようになる。
【表7】
【0073】
表7から、(イ)マルテンス硬さHMが、浸炭処理により、未処理の軟質の金属メッシュ織物に比して、2倍程度(1.8及び2.25倍)大きくなり、(ロ)試験片のヤング率に相当する押込み弾性率は、未処理の軟質の金属メッシュ織物に比して大きくなったが、400と500メッシュで増加の度合いが大きく異なる傾向である。(ハ)押込み深さh2(除荷開始時の変位)は、未処理の軟質の金属メッシュ織物に比して、約30%(29%と36%)小さくなったことが分かる。
【0074】
(紗張りテンション)
図16は、400メッシュの場合の紗張りエアー圧(MPa)とテンション(mm)との関係を、従来のフッ化処理/浸炭処理していない軟質の金属メッシュ織物の紗張りエアー圧(MPa)とテンション(mm)との関係と比較しながら示す図である。本発明の実施の形態に係る低伸度メッシュ織物は、高強度で低伸度であるので、図16に示したように、スクリーン印刷用版の紗張りを、0.65mm以下の沈み込み距離となる極めて高いテンションで行うことが可能となる。
【0075】
図16のテンションは、スクリーン業界で標準的に用いられているテンションゲージSTG−75B(プロテック製)を用い、沈み込む距離(mm)をダイアルゲージでアナログ的に測定したものである。
【0076】
図16の○印は本発明の実施の形態に係る低伸度メッシュ織物の縦糸のテンションを示し、□印は本発明の実施の形態に係る低伸度メッシュ織物の横糸のテンションを示す。又、図16の△印は従来の軟質の金属メッシュ織物の縦糸のテンションを示し、▽印は従来の軟質の金属メッシュ織物の横糸のテンションを示す。図16に示すように、紗張りエアー圧が次第に増加し、紗張りエアー圧が1000MPaを越えるあたりから、本発明の実施の形態に係る低伸度メッシュ織物の、従来のフッ化処理/浸炭処理していない軟質の金属メッシュ織物に対する優位性が現れ、従来の軟質の金属メッシュ織物では、紗張りエアー圧を1400MP程度にまで増大しても、0.65mm以下の沈み込み距離となるテンションを実現できないことが分かる。
【0077】
図16に示したように、スクリーン印刷用版の紗張りを、0.65mm以下の沈み込み距離となる極めて高いテンションで行うことが可能となることにより、ギャップを限りなく小さくしながら良好に版離れするスクリーン印刷用版を実現できるので、高い寸法精度で印刷を実現して良好な印刷性を保ち、しかもスクリーン印刷用版の寿命を確保することが可能になる。
【0078】
図17は、400メッシュの低伸度メッシュ織物を用いたスクリーン印刷用版の場合について、100ショット、500ショット、1000ショット、2000ショット、3000ショット、3500ショット、4000ショット、5000ショット、6000ショット、7000ショット、7500ショット、8000ショット、9000ショット、10000ショット、11000ショット、12000ショット、13000ショットと順に印刷ショットを増やした場合、及びエージングによるテンションの低下の様子を、従来のフッ化処理/浸炭処理していない軟質の金属メッシュ織物の、印刷及びエージングによるテンションの低下と比較しながら示す図である。図17の○印は本発明の実施の形態に係る低伸度メッシュ織物の縦糸のテンションの変化を示し、□印は本発明の実施の形態に係る低伸度メッシュ織物の横糸のテンションの変化を示す。又、図17の△印は従来の軟質の金属メッシュ織物の縦糸のテンションの変化を示し、▽印は従来の軟質の金属メッシュ織物の横糸のテンションの変化を示す。図17に示す通り、従来の軟質の金属メッシュ織物の場合は、エージング直後の印刷直前の段階で既にテンションの低下が認められ、100ショット、500ショット、1000ショット、2000ショット、3000ショット、3001ショット、3500ショット、4000ショットの印刷が進むにつれ、ますます、テンションの低下が進行することが分かる。一方、本発明の実施の形態に係る低伸度メッシュ織物の場合は、縦糸及び横糸のいずれも、100ショットから10000ショット程度まで、ほぼ一定のテンションが維持できていることが認められ、印刷寸法の公差10μm以内の高い寸法精度で、10000ショット程度まで印刷を継続できるので、良好な印刷性を長く保ち、しかもスクリーン印刷用版の寿命を確保することが可能になることが分かる。
【0079】
(低伸度メッシュ織物の光学的特性)
既に、図1(b),図1(c),図2(b)及び図2(c)のSEM表面写真に示した通り、本発明の実施の形態に係る低伸度メッシュ織物を構成する低伸度金属線材の最表面に位置する黒色クラッド層53の表面にはミクロな凹凸があるので、図18に示す通り、低伸度メッシュ織物をスクリーン印刷用版に用いた場合には、従来の軟質の金属メッシュ織物を用いたスクリーン印刷用版に比し、反射率を低くすることができ、感光樹脂の解像度を向上させることができる。
【0080】
図18は、400メッシュの場合の波長200nm〜800nmの範囲における反射率を示すが、従来の軟質の金属メッシュ織物の反射率が27%〜45%であり、長波長になるほど増大する特性であるのに対し、本発明の実施の形態に係る低伸度メッシュ織物の反射率は、15%〜13%の低い値であり、波長依存性も殆ど認められない程度の一定値を維持できることが分かる。
【0081】
このように、本発明の実施の形態に係る低伸度メッシュ織物は、低伸度メッシュ織物を構成する低伸度金属線材の最表面に黒色クラッド層53を、横糸と縦糸の交差部を含めて、メッシュ全体に均一に有することにより、スクリーン印刷用版として使用する際に、パターン露光の際に線材からの反射や光沢によって解像度が低下することがなく、解像度が向上する効果が得られる。このため、従来、スクリーン印刷用版に対して行っていた黒染め等の黒色化処理の工程を省略できる。なお、上述したように黒色クラッド層53の密着性が強固であるので、黒色クラッド層53の剥離によって部分的に解像度が低下することもない。
【0082】
(その他の実施の形態)
以上のように、本発明は上記の実施の形態によって記載したが、この開示の一部をなす論述及び図面は本発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施の形態、実施例及び運用技術が明らかとなろう。
【0083】
既に述べた本発明の実施の形態の説明においては、スクリーン印刷用版に用いる低伸度メッシュ織物の母材として、オーステナイト系ステンレス鋼を例示的に説明したが、オーステナイト系ステンレス鋼の代わりに、マルテンサイト系ステンレス鋼やタングステンを低伸度メッシュ織物の母材として用いて、低伸度金属線材を形成してもよい。
【0084】
又、既に述べた本発明の実施の形態の説明においては、平織の低伸度メッシュ織物について例示的に説明したが、平織の低伸度メッシュ織物の代わりに、綾織の低伸度メッシュ織物としてもよい。更には、縦糸と横糸との交点部を潰したカレンダーメッシュ、3Dメッシュ(例えば、特許第3710428号公報等参照。)、ソリッドメッシュ(例えば、特許第4143681号公報等参照。)、ワンサイドカレンダーメッシュ(例えば、特開2009−090519号公報等参照。)等の他の織り方を、低伸度メッシュ織物の織り方として採用してもよい。
【0085】
このように、本発明はここでは記載していない様々な実施の形態等を含むことは勿論である。したがって、本発明の技術的範囲は、上記の実施の形態の説明から妥当な特許請求の範囲に係る発明特定事項によってのみ定められるものである。
【符号の説明】
【0086】
1…マッフル炉
2…外殻
3…ヒータ
4…内容器
5…ガス導入管
6…排気管
7…モーター
8…ファン
11…金属メッシュ織物
13…真空ポンプ
14…排ガス処理装置
15、16…ボンベ
17…流量計
18…バルブ
51…コア部
52…硬化層
53…黒色クラッド層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23